冬木町お子様事件簿〜年がら年中童心でGo!





「……………」
 腕を組んで、空を見上げて。
 何か深刻に考え事をしているように見える青い髪の少年が、教会からの坂道を下る。
「さて、どうしたもんだか………」

 少年の外見は二桁の年月にようやく達した程度といったところ。なのにどこか立派なオヤジ臭さを漂わせたセリフを口にしている。その口調と、少々高めの声のアンバランスさはどこか可愛らしいくらいだ。
 けれど、彼は時にならない時を経ている「英霊」と呼ばれる存在。
 その真名をクーフーリンという槍のサーヴァント、ランサーである。


 が、


 あまりの女グセの悪さ―――といっても、せいぜい巷の妙齢の女性に声をかける程度のものだ―――に危機感を抱いた主によって若返りの薬を一服盛られ、その外見は10歳前後の子供のものへと変化してしまっていた。

 本来ならランサーという抗魔力の高いクラスということだけでなく、彼自身ケルトの主神の血を分けられているということもあって、魔力を込めた薬の類は効かないものなのだ。しかし、飲まされたのが、この世の全ての財を集めきったと言われている英雄王・ギルガメッシュの所持する薬、というところでは話は別だ。原初の英雄王自身、メソポタミアの神の血を分け与えられているのにも関わらず、この若返りの薬を用いて子供の姿へと変化している。


 もっとも、子供の姿になった英雄王は英雄王で、それなりにこの世の春を謳歌している。
 そんな同居人の姿を思い浮かべると、小さなランサーは一つ大きく頷いた。


「ま、別に問題はないわな………困るこたあねえし」


 そう結論付けると、てってけてーと坂道を駆け出した。
 故郷の野を疾駆するかのように。


 ☆☆☆


 そうして少年がたどり着いたのは海浜公園。
 陽の当たるベンチに腰掛けて読書をしている若い女性の背後へ足音を立てずに近づくと、彼女が手にしている冊子へと目をやった。

「・・・オマエ、もう仕事決まったんじゃねーの?」
「ええ。でも丁度よい機会なので、世間ではどんな職種があって給金はどれくらいの相場なのか調べるのも面白いと思いまして」
 ページを繰る指は白いままに、顎に当てている指は手袋をしているために黒い。まあ、義手を着用しているのだし、義手には珍妙な模様までついているのだから致し方ないだろう。
 そんな彼女は、後ろを振り返ることなく淡々と言葉を続ける。背後に誰がいるのかわかっている様子で。
「確かに、一仕事終えたらジュラルミンケース、なんてのは異常だよな。あ、これいいぜー。時給も高いし、賄いアリだってよ」
 求人欄の一つを目ざとく見つけた少年は、女性の右後方から身を乗り出すようにして紙面の端を指差した。
「え、どれです?」
「これこれ。ファミレスとかじゃなくて、個人経営の店だから賄いも美味いだろしよー」
「……………………」
「しかも、ランチタイムとディナータイムが別々だから、休憩時間だってしっかり取れるよな」
「……………………」



          by 『まなびや』まなぶくん



 反応がない。
 不思議に思ったちっこいランサーが女性の顔を覗き込もうとした途端、彼女の方がぐるんと少年の方を振り向いた。

「・・・・・・ランサー、ですよね………?」
「よ」

 紙面を指していた手を上げて、気軽に挨拶をする少年。
 その少年の顔と手と身体をまじまじと見つめた女性………バゼットは表情を表さないまま、
「こちらに来て座りなさい。私には話を聞く権利があると思うのですが。貴方の本来のマスターとして」
 そう続ける。
 融通のきかない上、誤魔化しのきかなさそうなかつてのマスターに「別に大したことじゃないと思うんだけどよー」とか何とかぼやきながら、それでもちっこいランサーは彼女の隣に腰を下ろそうと勢いよく呼び乗る―――本当の子供のように。



「・・・なるほど、詳細はわかりました」
 バゼットは一つ頷くと、膝の上に広げていた求人情報誌をぱたんと閉じる。そして険呑な笑みを浮かべると、その形のよい口唇から宝具級の一言を吐き出す。

「自業自得、ですね」
「うわ……言い切りやがった」

 わざとらしく顔をしかめる少年ランサーに、バゼットは耐え切れないというようにぷっと吹き出すと、くつくつと笑い続ける。
「カレンも不安でしょう。その上、教会を出たっきり帰りもしなければ、首輪くらいつけたくなるなるのは仕方のないことかと」
「オレは犬か!」
「確かに、『クランの猛犬』―――けど、今の貴方はクーフーリンというよりも………」
 一回言葉を切ると、バゼットは自分より低い位置にあるランサーの顔を見つめる。じっと見つけられて、思わず心の中で半歩程後退したランサーは、
「・・・いうよりも、何だよ」
 続きを促す。すると、柔らかい笑みを浮かべながらバゼットは口を開いた。
「ええ・・・セタンタという感じでしょうか」
「………また、随分と懐かしい名だ。けど、アンタにまで子ども扱いされるとはね」
 はにかむように自分の昔の名を呼んだ女に、どこかくすぐったい気持ちにさせられる。それがどこか恥ずかしくて、そっぽを向いた小さな大英雄だったが、その視線の先にある光景を目にしてそちらを注視する。つられるように、バゼットもそちらへ視線を移した。


「ママ〜〜〜〜〜アイスかってえーーーーー!!」
「いけません!! お腹こわすでしょっっ!!」


 泣きながら母親を引っ張る子供と、そんな子供を引きずるように海浜公園の出口を目指す母親。その賑やかな親子連れを2人して見送る形になったワケだが、消えたあとを指差しながら、
「貴方もああいう風に駄々をこねるのでしょうか。それはそれで、少し見てみたい気もします」
「おい・・・そこまで子ども扱いかよ……」
 またもや楽しげに笑い始めたバゼットに、少しばかりむっとしたランサーは勢いよくベンチから飛び降りると、腹を抱えて本格的に笑い出しそうな男装の麗人の前に仁王立ちになる。

「・・・?」

 そんなランサーの突然の行動に、何をするのか想像もつかないらしいバゼットは、少年の一挙手一投足を注意深く見守っている。が、


「・・・美人のおねーさん、オレにアイス奢る気………ない?」
 バゼットの顔を上から覗き込むようにして、彼女の耳元に囁きかけるように誘いの言葉をかけるランサー。耳の前方にかかる紅い髪を梳くように後ろと掛け、そのまま耳の後ろをなぞるかのようにして触れる。そして、その指はそのまま顔のラインをなぞり、顎までたどりつくとバゼットのシャープな形のそれを持ち上げる。
 女たらしの手練手管を遺憾なく発揮する小さなランサーだったが、そんなランサーににっこりと微笑むと、バゼットは、


「ありません」


 とキッパリサッパリ言い切ると、悪戯の仕返しとばかりに反対にランサーの耳をぎゅーーーーと引っ張った。
 ルーン石のピアスごと。


「うごごご………み、耳、耳、千切れ……っ……!!」
「子供の悪戯にしては度が過ぎてますよ、セタンタ」


 あっさりと返り討ち。
 やはり、子供では分が悪いらしい。そう悟らざるを得ない小ランサー………セタンタだった。



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