冬木町お子様事件簿〜紅い疑惑! 島のケルトはおおわらわ
「ヒドイ目にあった・・・」
まだひりひりと痛む両の耳を撫でながら、子ランサーはてくてくと公園内を歩く。
少しばかり不貞腐れたかのような、そんな足取りはまるで家出少年。
確かに、それは間違いではない。
若返りの薬を飲まされて、フットワークが軽いのをよいことに、ついでに令呪の縛りが薄いのをよいことにぷらぷらと冬木の町を歩いていたのだから。
だが―――少年の足取りがむくれているのはそのせいではない。
「アイツ、子供相手にも容赦ねえ・・・」
はたとある事に思い至って、少年は足を止める。
もし、大人の自分が同じように彼女に口説いていたらどうなっていただろうか……?
―――想像する絵図は一つ。
"斬り抉る戦神の剣(フラガラック)"。
しかも股間に。
………やっぱり子供でよかった。
しみじみとそして深々と、そのちっこい頭を上下させては青ざめる。
同時に揺れる青い髪は、大人の時とは違って束ねるほど長くはない。けれど、少し癖のあるその髪は、まるで小さい獣の体毛のようでもある。
犬か狼か。
どちらにしても、成長すれば俊敏で獰猛な獣。神の血を引く、最も勇敢で高貴な獣。
けれど、
「おーい、そのボールこっちに蹴ってーーー!!」
足下に伝わる感触に体はすぐに反応する。白と黒の合皮のボールに、思わず血が騒ぐ。
足を振り上げ、声のする方向へと乾坤一擲、とばかりに蹴り放つ。
やっぱり犬。
やっぱり『クランのわんこ』。
☆☆☆
5対5でミニゲームをしている同世代の少年たちを、ランサーはその紅い瞳を左右に忙しく動かして観戦している。白と黒の斑になっているボールは少年たちの爪先であっちに蹴られ、こっちに蹴られ、そしてその度ごとに少年たちもまたボールに戯れる仔犬のようにせわしなく―――楽しげにくるくると動き回っている。
うずうず。
ぴょこぴょこ。
同年代の子供たちがはしゃぐ様を見続けて、子ランサーの足も一緒に、まるでその場でステップを踏むように動き始める。もし、髪を束ねていたならば、その髪もまた尻尾のようにぱたぱたと動いていたかもしれない。
「ああもう! ガマンできねえー!!」
子ランサーが仲間に加わろうと、少年たちの輪の中に飛び込もうとした瞬間、
「おー……………」
「お仲間に入れてください〜〜〜!」
彼の背後から少年たちの集団に向かって声をかけた人物がいた。その声に反応したのか、少年たちは一斉に声のする方向に視線を向ける。
「あ」
「イギリスの」
「ぼーるくらっしゃーのねーちゃんだ」
・・・イギリス? ボールクラッシャー?
「………ねーちゃん………?」
どこか奇妙な予感に囚われて、背後を振り返った子ランサーが目にしたのは、
「むむっ、二度とあのような失態は繰り返しません!」
と、自信満々ヤル気マンマンの金髪の少女―――
「・・・セイバー・・・?」
「はい?」
思わず呟くように口にした子ランサーの声を聞きつけたのか、セイバーと呼ばれた少女は下方へと視線を落とす。そして、彼女の澄み切った碧の瞳は一人の少年の姿を捉えた。
「ええと・・・」
自分より小さなその外見に見覚えはあるものの、ついでに闘争心らしきものがわいてくるのもわかるのだが、普段の「彼」は決して自分が見下ろすことなどできなかったはずだ―――そんな思いが少女の頭の中で交錯しているらしい。
それでも、意を決したように少女は口を開く。
「ランサー・・・?」
「…………おう」
ジーンズの両ポケットに手をつっこんで、やっぱり不貞腐れた表情のまま、驚愕しきったセイバーの問いに答える子ランサー。
短い時間とはいえ、2人して固まってしまっている外国人大小の組み合わせに、サッカーをしていた少年たちがわらわらと集まってきた。
「どーした、姉ちゃん」
「ん? そいつ誰?」
「あ、ねーちゃんとお揃いのカッコー!」
「わかった! 姉ちゃんの弟だろ!」
「うひょー、ねーちゃん弟に見つかってやんのー」
などなど、次々と好き勝手なことを言い出す少年たちに、正気にかえったセイバーがわたわたと言い訳を始める。
「ち、違います!! 彼と私は姉弟などではなく! 共に聖杯を巡って争った間柄であって……」
「・・・・・・」
けれど、セイバーのそんな弁解も、子ランサーの頷きも少年たちには通用せず。
「ねーちゃん、弟に譲ってやれよなー」
「大人げねーぞ」
「ってか、セイハイってそんな美味いのか?」
「どんなんだよ、オレ一度も食ったことないー」
「あ、オレもー。なー、姉ちゃん、どんな味? やっぱ美味い?」
「美味いから弟と喧嘩するんだろ」
いつの間にかセイバーが"弟の分のおやつを取り上げる、困った大食らいお姉さん"とイコールで結ばれるという図式が出来上がってしまっていた。
まあ……"大食らいお姉さん"は間違ってはいない。
けれど、
「ちげーだろ。全然似てないじゃん」
と、誰もがすぐに気づきそうで気づいていなかったコトに的確なツッコミを入れる人間が現れた。
「あ、」
「そういえば」
「全然似てない」
その声に、セイバーと子ランサーの周りに集っていた少年たちは改めて2人をまじまじと見つめると、水を打ったように静まり返る。
「トリスタン………」
「だから!!」
結果的に救いの手を差し延べることになった少年に、感謝の眼差しを向けるセイバー。
反対にトリスタン少年はセイバーのすぐ脇にいるもう一人の当事者に視線を向けていた。
「………さっきボール蹴ったの、オマエだろ?」
「ああ」
子ランサーの明快な返事に、トリスタン少年は少しだけむっつりとした様子で、それでも、
「………一緒にやるか? そこのねーちゃんもいるけど」
と、誘いをかけてきた。
子ランサーにとって、拒否する理由は毛頭ない。
結果―――外国人混成の少年たちのミニサッカーは、陽が傾くまで続けられたのだった。
>続く
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