4. 「…………………」 一瞬の後に表情を凍らせたランサーだったが、ギルガメッシュはそんなランサーの様子なぞ意に介さず身体を起こす。それでも反応しないランサーに苛立つかのように、 「いい加減に退かぬか、狗。我の魔力をあれだけ喰らってまだ足りぬか……? それとも……」 と、引き裂かれたままのランサーの衣から手を忍ばせ、知り尽くしている箇所に進ませる。胸元近くの傷はとうに痕すら残してはいなかったが、ギルガメッシュの指は傷があったであろう場所を一撫ですると衣の中をまさぐりはじめた。 「な……っ!」 「ふん……いつまでも無礼な真似をしておるからだ、たわけが」 遠慮会釈無くランサーの身体を這う指は、張り詰めた胸筋の線をなぞりながら突起へとたどり着く。 「ちょ、ちょっと待て……やめ、っ………!」 その手を振り払おうと身体を動かすランサーだったが、鎖でつながれていないというのに逃れることができない。どれだけの魔力を喪ったのかと思うと、慄然とする。 「………ほう、随分と弱っているようではないか。我が魔力を与えてやらなんだら、貴様今ごろは……」 英霊の座へ引き戻されていたであろうよ、皆まで言うことなく言葉を切ったギルガメッシュをキッと睨みつけるランサー。 「這いつくばって感謝しろ、ってか?」 力が完全ではなかろうと気概の衰えることはないランサーは、腰に回された手や胸元を這う手を努めて意識しない素振りで憎まれ口を叩く。 「………………フ」 ランサーの科白が虚勢だということくらいわからないギルガメッシュではない。答えるのも愚かしいとばかりに鼻先でせせら笑う。 「…………………」 ランサーの方も、現在の自分に何の力もないのは充分に理解している。ついでに、まだ魔力を身体が欲しているのも感じていた。 「さて……どうするか、クーフーリン? このまま退かぬとあらば、我とて容赦はせぬが……」 腰から背中に動くギルガメッシュの手。いつの間にか、その手の中には硬質の物体が握られていた。衣越しに伝わるその感触が何か察したランサーは、 「テメェ、何すっ……!」 「知れたこと。あまり吠えるな、狗」 衣に合わされた鍵状の刃。必死にギルガメッシュの手を自らの身体から離そうと動くランサーだったが、あえなく彼の手は空を切る。それどころか、そんな彼の反抗に対する見せしめのようにしてギルガメッシュは刃を軽く滑らせた。 「…………っっ!」 「愚かよな、ランサー。貴様が動かずば、傷つくこともなかろうに」 衣だけでなく、傷が癒えたばかりのランサーの皮膚も切り裂く門の鍵剣。刃が皮膚を裂く瞬間の熱さがランサーの身体を稲妻のごとく走る。 「どうせ魔力が足りぬのだろう? このまま抱いてやる」 「だ、誰が頼んだよ! 十二分にテメエからはいただいたさ…! 後は……」 「後は? 雑種を手当たり次第喰らうか? それとも地下の生霊どもを喰らうか? ……ああ、言峰と目合うという方法もあったか。そう言えば言っておった『光の御子が自らの腕の中で堕ちていく様はいい退屈しのぎだ』と……全てに退屈しきったあの男にそれを言わしめる貴様も中々のものだ、クーフーリン」 「……っ…………!」 どれもこれもランサーが受け入れられないのを承知でギルガメッシュは挑発する。それに対し、歯を噛み締め口唇を噛み締め、崖の淵まで追い詰められた高貴な獣はそれでも金色の王の言に従うことを拒もうとする。 「どうせ…テメェの魔力だって、言峰やあのいけ好かねぇ部屋から吸い取ったものだろうが!」 「ああそうだ。そして、それを貴様は何より美味そうに貪ったぞ。他でもない我の口からな」 魔力供給のラインを断たれたランサーにとって、結局のところ外部から魔力を得ることしか道は残されていない。 王はじわりじわりと獣を囲い込む。 「……………くっ……!」 「さて、どうしたものか……。『天の鎖』でがんじがらめにされるがよいか? ……それが否であるというなら、自ら尻尾を振ってみせよ」 ギルガメッシュの言葉の意味するところを理解したランサーだったが、どちらにしても彼にとっては屈辱以外の何物でもない。 「………………」 死の棘―――魔槍ゲイボルクの視線を、今にも解放しようかとでもいうように一際強い視線でギルガメッシュの両眼を射抜くランサー。同じ色の瞳であるのに、氷のような炎を浮かべる英雄王のそれとは対照的ですらあった。 「さて、アルスターの猛犬……その身体に教えてやろうか」 >続く >戻る >裏・小説部屋へ戻る >小説部屋へ戻る |