5.

 月の光が白い背中を滑り落ちていく。
 自らの足の間に顔をうずめ、必死に舌先を動かす獣を、英雄王は何も表情を浮かべずに見下ろしている。
 息を継ぐ合間に微かに漏れるぴちゃり、という水音がひどく空虚に響いていた。
「……………んっ……」
 慣れない行為はそれだけで疲労を伴う。身体が完全ではないランサーにとっては尚更のことだった。
次第に呼吸の間隔が短くなっていくだけでなく、同時に吐き出される意味を持たない音は喘ぎのように繰り返される。
「どうした? 中に欲しくば、これでは足りんぞ。それとも貴様、痛みに快感を覚える性質(たち)か?」
 いつもであれば、行為の最中のギルガメッシュの口調は侮蔑に近いからかいを帯びているものだ。けれど、この時は違っていた。そこにあったのは、どこか突き放すような、距離を置くかのような冷たさだった。
 が、ランサーにそれを聞き取る余裕なぞあるわけがない。つとめてギルガメッシュの声を耳に入れずに済ませようとしていることもあっただろうが。
 しかし次の瞬間、
「……………!」
 ランサーは、自分の顔の輪郭をなぞるようにして触れるギルガメッシュの指が、意識を沈めていたときに遠くで感じた懐かしい記憶と重なったように感じた。
 指は相変わらず冷たかったが。
「……もう、よいのか? ならば顔をあげよ」
 舌の動きが止まったランサーの顎に手を掛けると、それを上向かせる。その拍子にこぼれ落ちた液体は唾液か先走りの露か、ランサーの口唇の端を伝うと顎へと流れをつくる。ランサーの顎に手をかけたままそれを掬い取ったギルガメッシュは、そのままランサーの口唇に触れさせた。触れられるまま軽く動かした口唇の中に、そのまま指を捻じ込む。舌先が軽く指先に絡んで、すぐに離れる。
 いつもであればそのまま口腔を嬲るだろう冷たい指は、ちゅぷと小さく音を立てるとランサーの口から出ていった。
「…………………」
「…何を呆けている。さっさと起きて動け」
 普段とどこか違う。
 不遜な態度や口調はいつものままだが、何かが違う。そう思ったランサーはまじまじとギルガメッシュの顔を見つめるが、出てくる言葉はいつもと同じ。そして、動こうとしないランサーに痺れを切らしたギルガメッシュの行為もまたいつもと変わらなかった。
「……ま、待てよ! テメェ、問答無用か!」
「当たり前だ、このうつけ! 我に余計な魔力を使わせおって!」
 何処から伸びているのか、ランサーの身体にかかった銀の閃光はじゃらり、という一声の後に姿を現す。
「クソっ…! 離せこの変態! 」
「ほう……。ならば貴様、自らの手で我を内部(なか)へと導くか?」
 瞬時にして天の鎖は退いていく。ギルガメッシュのの身体に跨るような姿勢のままのランサーをそのまま置いていくようにして。
「自分で……って、正気か、テメエ! 誰、が、そんな……っ!」
「別に我はかまわぬのだぞ、ランサー。貴様に魔力を与えてやる義理なぞないのだからな」
 壁に上体を凭せ掛けていたギルガメッシュは、身体を起こすとランサーの首根に縋るようにしながら、睦言を囁くようにして耳元に口唇を寄せる。



「…………………」



 それは、たったの一言。
 けれど、その一言でランサーは自分に纏わりつくギルガメッシュの手ばかりでなく、壁に押し付けるようにしてその均整のとれた白い身体を振り払う。
「………………っ!」
 そのまま、何も言わずにギルガメッシュのモノに手を添えると、その先端を自らの秘部へと導いた。導く、と言っても見えない位置にあるソレに照準を定めるのは難しい。身体を半分捻るようにして位置を探り、僅かに濡れた先端で抉じ開けるように触れさせてみるが、慣らしていない自らの秘部がそれを受け入れない。受け入れるどころか空滑りしてしまう有様だった。
「……………未だできぬのか」
 幾度となく同じような動作を繰り返すランサーに、飽きた、とばかりにギルガメッシュが声をかける。すると、
「…るせっ……黙って、待ってろ、よ……っ……!」
 何回目かの挿入にも失敗したランサーが、負け惜しみとばかりにギルガメッシュをねめつける。既にランサーの全身からは月の光にもきらめくほどの汗が浮かび、血の気が戻った身体は程よく赤みを帯びている。荒く繰り返される呼吸も、挿れようとするたびに固く閉じる瞼が震える様も、がくがくと震える腰も大腿も、まるで全身でギルガメッシュを誘っているような風情だった。
「あ………く…うっ………」
 俯いて身体を強張らせていれば、入るものも入らない。
 具(つぶさ)に見ているギルガメッシュにはわかっていたが、もちろんそんな助言めいたことを言うつもりは更々なかった。むしろ、艶めいた動作を続けるランサーを観察することに一種愉しみを見出していた。
「テメ、ェ……いつ、までも……見て、んなよ……っっ!」
 いつからこんな風に見られていたのだろうか、まるで、視線で犯されているかのようだ。
 気付いたランサーが喘ぎめいてきた呼吸の下から抗議の声を上げるのを鼻で笑って無視するギルガメッシュ。
「嫌…だ……見、るな……!!」
「ならば、早く我を呑みこんでしまえ」
 ギルガメッシュは僅かに身体を起こして、震える大腿を軽く撫でる。その拍子に、秘部に向かっていた先端がずれる。
「クソ…っ……邪魔すんな……!」
「………あまりに退屈なのだ。仕方なかろう?」
 秘部に触れるたび、先端からの先走りが少しずつ湿していく。けれど、身体の意思なのか、拒むその箇所はただいたずらに湿りを含んでいくだけだった。
「ふあ……ん…………っ!」
 正確な数など2人とも知る由も無かった。が、数を重ねていく度に上擦っていったランサーの声は、すでに喘ぎとしかとらえようのないほどの色を帯びていた。


>続く
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