7. あくまでこの孤高の獣は一時の慰み。 銀の騎士を手に入れるまでの間の、ただの一瞬の戯れ。 ギルガメッシュからしてみれば、ランサーは持て余した時間を潰すための都合のいい道具のようなものだった。性交という名の魔力補給で現世にしがみ付く様は見ていて滑稽ですらあったし、その合間に見せる愉悦の表情は充分に鑑識(めがね)にかなった。英雄としての有り方と雄という性の二律背反に責めたてられる心を暴くことも一時凌ぎとしては上等。身体を触れ合わせればただの条件反射として身体も反応した。けれど、 この粟立つような感覚は何だ……!? そそられた、そんな一言ですませられるようものではなかったことは確かだった。 己の髪をぎゅうと握り締める指。その指を介して伝わる官能は身体だけでなく精神までも悦びを感じさせるようなものだった。 否、そんなことはない。そんなことはあってはならない。 打ち捨てられた狗の分際で………!! 「エンキドゥ……!」 その真名は主たるギルガメッシュ以外に誰一人として知る物はいない。 神の血を有するものを無限の剛力を持って律する…いや縛る『天の鎖』。その呼び声に応じて顕現した銀色の閃光は、意思持つ者のように神の獣を見事に縛り上げた。 「なっ……! こ…のヤロウ……放せ……放せえぇぇ!!」 獣の咆哮に眉一つ動かさずに忠実な宝具に命じるギルガメッシュは、強張るランサーの身体に手をかけた。途端に、強張った身体は巌のように固まるがそれも一瞬。すぐにその身体には力が漲り、内側から鎖に抵抗し始める。 「くっ……!」 「………………」 鎖から逃れようともがくランサーだったが、動こうとしても鎖は音一つたてない。つまり、微塵たりともも、彼の抵抗は意味をなしていなかった。 「何だ、よっ……! 鎖は使わねえんじゃ、ねえのか…よ、っ……!」 「五月蝿い」 噛み付くように抗議の声を上げるランサーをまともに取り合おうとしないギルガメッシュは、ただ一言の後に尚も聞くに堪えない罵倒を続けるランサーを己の口唇をもって封じた。 「…………………」 「…………………」 ランサーの後頭部を自分の方に押し付けるようにして、巧妙に舌を侵入させていくギルガメッシュ。懸命に、それこそ歯を立てるような勢いで抗うランサーだったが、後頭部に回されたギルガメッシュの指がかちりという音をさせるのに気を取られてしまった。 ばさ、と軽い音がして束ねられたランサーの蒼の髪が白い背にはらりと舞う。それに続くようにして、かちん、と軽やかな金属音が喘ぎや水音に支配された部屋に一際高く響いた。 「……っ……はっ………」 深く差し込まれる舌の間をぬって空気を取り込むランサー。けれど、項に回されたギルガメッシュの手が指が、髪を梳くようにして絡まってくる。項から首筋にかけての敏感な部分を髪と共に愛撫され、ランサーはあやうく絶頂が見えるところまで連れて行かれてしまっていた。 「……愚かな。一度達しておけば、我を受け入れることも容易かろうに」 端から銀色の糸を引きながら、口唇という一つの縛めを解いたギルガメッシュだったが、気概の衰えることの無いランサーは瞳に不敵な色を残して、 「だれ、が……誰が、これくらいでイッちまうかよ…っ!!」 と、その負けん気の強さを捨てようとしない。もっともランサーにしても、易々とギルガメッシュの手で高みに上らされること以外に大きな問題があった。白濁の精は紅の血液同様魔力を含んだもの。それを吐き出してしまうということは、せっかくふさがった傷を再び開いて魔力を喪失するようなものなのだ。 「………そうか。なら、苦痛をも快楽に変えることだな」 ギルガメッシュはランサーの魔力事情なぞ、疾うに理解している。 だから、この生き延びることに特化した英霊は、ギルガメッシュの想像通りの答えを返してくるのだろうということも同様だった。もっとも、それがギルガメッシュの誘導であることを知らないのか、それとも知った上であえて挑発してくるのか―――どちらにしても、英雄王の知ったところではない。 自分に肉の悦楽だけでなく、奇妙な―――かつて一度たりとも味わったことのない―――精神の充足感を与えた天の獣。 それが王に対して礼を失した行為だということに気付かせなければならない。 英雄王ギルガメッシュの脳裏にあったのは、ただその一点のみであった。 >続く >戻る >裏・小説部屋へ戻る >小説部屋へ戻る |