TOP   1   2   3 

 


みにくいケモノの子
 

 窓から見える夜空に散らばる満天の星に明日の天気を何となく予想し、サイドテーブルの上にあるデジタル時計を見遣ればもうすぐ午後十時であると教えてくれる。一人で眠るには巨大すぎるベッドに横たわったままチラチラと所在なさげに目を動かして、初めて来た部屋の中を見回す風薙豹の背後では、三十を少し越えた位だろうか、容姿も体躯も何もかもが“平均的”以外の形容詞が浮かばない男が風薙と同じく横臥の姿勢をとって風薙のへその辺りに両腕を絡め、先程から繋がっている腰を小刻みに揺すって情けない声を出す。
「あ、あぁああ……豹君の穴、凄く締まってる……!」
 そりゃどうも。頭の中では無表情でぞんざいな返事をするが、あくまで相手は出会い系サイトと言う小遣い稼ぎの場で知り合ったお客様なので、表面上は薄紅色の唇を開いて熱い息を零す。
「あ、あんっ い、いい……
 それは喉に絡むような甘ったるい声だったが、視線の先の全面鏡張りの壁に映る彼の顔は何ともふざけていた。器用に片方の眉のみ上げ、黒目を顔の中央に寄せ、鼻の穴を開き、唇を限界まで横に拡げ、顎をしゃくれさせる。いわゆる変顔と言うものだ。相手が自分の背中に顔を埋めてふぅふぅ間抜けな呼吸をしながら一心不乱に肉体を貪って、その表情に気付かぬのを良い事に、よくこうして鏡の中の自分自身と睨めっこしたり、意味なくあっかんべーと舌を出したり、写真撮影でもするかのようにピースをして満面の笑みを浮かべたりして暇を潰していた。そんな彼の一人遊びの事実など知らぬ哀れな男は、相手の少年が声そのままの蕩け顔になっているのであろうと勝手に想像し、勝手に興奮し、ほんのり赤いその耳に唇を当てる。
「豹君のおしりまんこ、とっても気持ちイイよ……」
 風薙の腹にぐるりと巻き付く腕に力を込めて、意外と卑猥な言葉を口にする男の単調な前後運動が急激に速くなり始める。捻りも何もない、彼の特徴そのものの凡庸な吐精直前の動きに、風薙は甘美な吐息に見せかけた嘆息を零し、相手に合わせて自分もサッサと愛息を撫で擦って達してしまおうかと言う一瞬浮かんだ案も「何だか面倒臭くなった」を理由にバッサリと却下する。そうこう考えている間に後ろから男の悲鳴のような裏返った叫びが聞こえ、あっと思った時にはぬるぬるとした熱が腰の辺りに広がるのを感じた。鏡に映る己の崩れ顔が、すうっと冷めた無表情へと変わるが、相手の頭が動き出すのを見るや、慌てて情無き顔に甘さを加える。
「あぁ……
 金の為とは言え、軽く握った両の拳を重ねて、柔らかく喘ぐ薔薇の唇に寄せ、形の良い眉を八の字にしながら睫の長い瞳を薄く閉じ、すべらかな頬を軽くわななかせて、いかにも感じているような素振りを演じる風薙の耳に絶頂の余韻に揺れる男の声が入る。
「はぁ、はぁ……豹君、イケなかったのかな? 僕ばっかり気持ち良く射精してゴメンね。豹君のおまんこがエッチだから悪いんだよ?」
「……」
 平々凡々な見かけと性交技術の割には気持ちの悪い台詞を口にする相手に、まともに返事をするのも億劫に感じた風薙は、ただ曖昧に微笑んだ。
 ――さて、後は彼から料金を戴いて帰るだけだ。半身を起こし、最初に提示した値段分の金を請求する為に手の平を伸ばそうとした風薙だったが、相手の男が自分に向けている好奇心と劣情が混じった眼を見るや訝しげに首を傾げ、思わず伸ばしかけた手を引っ込めた。その表情と反応から、彼の心中に芽生えた疑問を心得た男は唾液に濡れた唇とギラギラ光る眼を笑みの形に捻じ曲げて、彼の身体を貪っていた時から密かに抱いていた願いを口にする。
「豹君。豹君みたいな可愛い子がオシッコしてる所を見てみたいな」
「!」
 思いがけぬ言葉に風薙は目を見張ったが、数度の瞬きと共にその瞳は落ち着いた光を取り戻した。
 成る程、追加オプションって事ですか。冴えない見かけによらず結構な変態さんだなぁ、この人。……ま、いっか。こう言うのが出来た方が客も増えるし、追加料金も貰えるだろうから、ちょっと練習がてらやってみるか。
 頭の中の彼は至って淡々と考えるが、表面上は信じられないと言った感じに顔を強張らせてみせた。そして、脅えの色が微かに浮かぶ上目で相手を見ながらおずおずと口を開く。そうする事で相手の優越感を高めて機嫌を良くし、報酬に色がつくと素早く計算した結果による行動だった。
「と、トイレでする所を見せれば良いわけ?」
 承諾の意も含まれた風薙の問いに男は唇の歪みを深くし、いかにも調子に乗った態で自分達が乗っている皺だらけのシーツを指差した。
「いや、このベッドの上でいやらしくおもらしする所を見たいんだ」
「そ、そんな、恥ずかしいよ……どうしても、ここでして欲しい?」
 恥じらいながらも、焦らし含みの台詞を口にする美少年に相手の男はブンブンと風を切る音が聞こえて来そうな勢いで首を何度も上下させる。あーあ、がっついちゃって。心の中の風薙が肺一杯の長大息を吐く中で、表面上の風薙は相手にばれないほどの苦々しい薄笑いを零すと、ベッドの上で両膝を突いた。
「……んっ」
 腰を上げ、膝立ちになって鼠蹊部に手を添える。男と交わっていた割にはさして硬度が増していない柔らかな肉茎が、相手の熱視線と間接照明の光を浴びてプルプルと小さく振れた。元々、少し前から尿意を覚え始めていたのもあって、身体の方は準備万端整っていたのだが、ここは今後の稼ぎを良くする為にも演技の練習をしてみるかと唇をそっと舌で濡らす。
「あ、あぁぁ……やっぱり、恥ずかしいよぉ……」
 我ながら情けない震え声に呆れつつも、その演技力に少し感心してしまう。相手の方もすっかり自分の演技に騙されているらしく、上ずった声で「恥ずかしくないよ」だの「出してしまえば楽になるから」だの必死に言い募っている。風薙は気恥ずかしい振りをして頭を落とし、ベッドシーツに向かって引き攣れた苦笑いを見せた。何か、もう、馬鹿馬鹿しいからサッサと終わらせちゃうか。そう思うと同時に、自然と尿意も急激に強くなり、この益体もない時間を一刻も早く終わらせたいと言わんばかりに熱が膀胱を飛び出し、尿道を駆けた。
「んっ、んぅうう!! ……で、出るっ、ベッドの上で、オシッコしちゃうぅうう!!あ、あぁああああ!!」
 下げていた顎を上向けて叫ぶと同時に肉筒の先端から黄水が数滴零れ、それを皮切りに鉛筆ほどの太さの水流が水鉄砲で撃ったかのように飛び出して、敷布の上に未知なる世界の地図を描き始めた。男が感激と興奮に呑んだ息が鼻の変な所で引っ掛かったのか、フゴッと豚の鳴くような声が聞こえた時、風薙はほんの一瞬ながら露骨に眉を顰めて嫌悪感を露わにした。
「あ、あんっ……や、やっちゃった……おもらし、しちゃった……」
 以前観たアダルトビデオの中で自分と同じようにしどけなく失禁してしまった女優の台詞を揺れる声で真似をしながら、彼女もこんな気分でカメラやスタッフさん達の前でオシッコしたのかなぁ等と頭の何処かでボンヤリと考え、本名も素性も知らぬ女性に何となく同情してしまう。そんな事を考えている間も衰えぬ勢いで噴き出し続ける小水は、シーツの吸水機能の許容範囲をあっさりと超えて、薄黄色の地図の上に温かな溜まりが出来ていった。
 やがて、尿溜まりに注がれる温かな排泄液の量も目に見えて減り始めたかと思うと、あれほど威勢の良かった水流は呆気なく途切れ、名残惜しげに数滴分の残り汁をちょぴ、ちょぴと湯気立つ地図の上に落とし、終末の雫を一滴ずつ零す。二、三滴の後にそれも止まり、数分にわたる淫猥なショーは終演した。
「あ、あぁ、良かった……凄く、いやらしかったよ」
 熱を帯びた溜め息を漏らしながらシーツの上に両手の平を突いて、風薙の描いた温もる新世界の地図をうっとりと眺める男の視界に、広げられた手の平が唐突に飛び込んで来た。思わず顔を上げると、さっきまでの恥じらいは何処へやら、少年はにこやかな表情でハキハキと言った。
「はい、じゃあ、お小遣いください♪ 追加料金もお願いしますね!」
「……君、意外と現金だね」
 相手の豹変ぶりに気圧された男は、微かに上がった口角の先に苦笑の小皺を作りながら、ボード上の財布に手を伸ばした。

 熱いシャワーの雨の中で相手に注がれた汚らしい白液を念入りに穿り出し、薄い蒸気を裸体から立ちのぼらせて部屋に戻ると、先にシャワーと勘定を済ませた平凡男は既におらず、自分の服や荷物、そしてサイドボードの上に置かれた数枚の紙幣のみが残されていた。
「……」
 今になって金のためとは言え、男に好きなようにされた事に言い知れぬ屈辱を覚えて頭がカッと熱くなり、男と共に時を過ごした部屋の空気を吸うのさえ耐え難くなった風薙は、出来る限りの速度で衣服を纏い、金を鷲掴みにして部屋を飛び出し、荒々しい足取りでホテルの門から脱出すると、フンと鋭い息を鼻で飛ばした。それでも苛立ちは収まらず、横断歩道など無視して車道をズカズカと横切り、道を隔てた向かいに存在するコンビニエンスストアへとそのまま突っ込むように入った彼は、裸銭のまま尻ポケットに捻じ込んでいた今しがたの稼ぎを店内の隅に鎮座するATMにぶち込み、たまたま目に入った手の平サイズの小さな缶ビールを引っ掴んでレジカウンターに叩き付けるように置き、義理にまみれた挨拶を背に浴びながら店を出ると、手の中のそれを思い切り煽った。
「……けぷっ」
 小さなゲップを吐き、顎に零れた酒の雫を手の甲で拭う風薙を心地良い夜風が優しく冷やし、頭を渦巻く苛立ちも風に流されたように少しずつ収まっていく。星が散る黒空を無意識に仰いだ風薙は、胃の中の空気を再度げぷっと漏らした。
 心に残る苛々の最後の欠片を手の中の空き缶に移して全力で握り潰すと、寸胴だった小さな缶は不恰好なくびれを手に入れる。風薙はひしゃげた缶を手の中で数度跳ねさせた後、店の出入り口脇に置かれたゴミ箱の丸い穴に差し入れた。あの人だったら、数メートル先からでも投げ入れたり出来るのかもな、と思いながら。
 そうだ、あの人は今どうしてるんだろう。今日の野球部の練習後に交わした会話から察するに、彼も自分と同じ“小遣い稼ぎ”を今頃している筈なのだが。
 ポケットから取り出した携帯電話の画面を数度叩いて耳に当てる。数度のコールの後、おう、と無愛想な応答が聞こえた。
「あ、暮羽さん。ちょっと聞いてくれます?」
 この手の愚痴が言えるのは野球部の先輩で、電話の相手である暮羽鋭次のみなので、彼の声が聞こえるや否や風薙は早速、先程の相手への文句と悪口を言い始めた。
「さっき、例の出会い系絡みでリーマン相手にヤッたんですけどね、そいつが結構な変態でベッドの上で小便しろとか言ってきやがったんですよ」
『へー』
 返って来たのは淡泊な相槌だったが、風薙は意に介さず早口で続ける。
「もう、俺ドン引きしちゃって。まぁ、追加料金はしっかり貰いましたけどね。……暮羽さんも、そう言うのあったりします?」
『ん? まァ、な。ンな感じのスカトロ好きの変態って結構いるぜ? 何せ俺の今の相手なンか……』
 沈黙。彼にしては珍しい歯切れの悪さに首を傾ける風薙の電話口から「あー……」だの「どうすッかなァ」等と何やら迷っているような声がボソボソと聞こえる。改めて怪訝そうに眉根を寄せた風薙だったが、電話ではその表情は伝わらないので、抱いた感情を素直に声に乗せて彼を呼ぶ。
「暮羽さん?」
 風薙の声に暮羽が唇を開いたのか、小さく空気が弾けた音が聞こえ、さっきと同じ無愛想な応答が続き、再度無言の時が流れる。何とも不審な様子の彼を再度呼んでやらねばならぬかと風薙が唇を舌で湿しかけた時、ポツリと低く呟く声が聞こえた。
『……俺はさっき、一線を越えた』
「えっ?」
 相手の想定外の告白に息を呑む。自分が愚痴ったのは相手にベッド上での小水の排泄を強いられた事。それをきっかけに彼が呟いた“一線を越えた”と言う言葉。それは、つまり、まさか、そんな。
「マジで!?」
 思わず彼との関係を忘れたタメ口で叫ぶ風薙であったが、敬語を忘れた後輩を咎めるでもなく暮羽は少し開き直った様子で敢えて淡々と話を続けた。
『それで、相手の奴が興奮しちまってさ。何か目ェ血走らせて腸内洗浄もしてみたいとか言い出して、フロントに道具ねェか今聞きに行ってンだ。順番逆だよなァ?』
「……」
 どう答えて良いか分からず、だが話の内容には正直興味はあって無意識に鼻息をやや荒くする風薙の耳に自嘲混じりの笑い声が入る。
『まァ、お前と同じように俺も追加料金ガッツリ戴くって約束はしたンだけどな……ッと、戻って来たみたいだから切るわ。じゃあな』
 つーつーつー。返事も待たずに一方的に切られた電話を風薙は未だ耳に当てたまま暫し立ち尽くし、やがて握りっ放しだった電話をゆっくりと下ろすと共に呆けた頬を攣らせた。俺は今日初めて人前でオシッコしたってのに暮羽さんってば……。
 コンビニエンスストアの外壁に背を預け、変わらぬ夜空を眺めて思い出すのは、今利用している出会い系サイトの存在を教えてくれた暮羽との会話。自分は純粋な小遣い稼ぎの為に件のサイトを利用しているのに対し、彼はその言葉通りに身を売って得た金を、病魔に侵された母親の手術費の貯蓄に充てているらしい。暮羽さん自身は「気持ち良い上に金も入るから一石二鳥だ」と笑っていたけれど、そんなやり方で稼いだお金で手術を受けて助かってもお母さんは喜ぶのかな? とちょっと真面目に考えたりする。その疑問を彼にぶつけると言う残酷な行いは決してしないが。
「気持ち良い、か」
 俺は余り気持ち良くならないんだけどなぁ。独り言の続きを心の中で呟いて、短い息をそっと吐く。
 何で自分は彼と違って性的快楽を余り得られないのか。原因は何となく分かる。性交の主導権が相手にあるからだ。“出会い”とは言っても、実際は相手の男が金を出して自分との性交渉権を買っているのであって、その人物はお客様。言わばビジネスなのだから、基本的に相手の望む性的行為をしなければならない。性器を舐めろと言われれば舐め、さっきのように排泄が見たいと頼まれれば排泄をして――
 そして、そのように他人に色々と命令されるのを非常に不愉快に感じる性格である事は自分自身もよく分かっている。
 頭の中で何かが合わさり、一つのパズルが完成した。
 そうだ、たまには俺主体で抱かれたいんだ。俺が邪欲のままに起き上がった相手の醜い男根を踏みつけ、許してくれ抱かせてくれと弱々しく懇願する相手にどうしよっかな、なんて言ってじっくりと焦らし、最終的に俺はみっともない姿を晒す男を侮蔑の瞳で見下ろすと、ニコッと笑って言うのだ。「ヤらせてください。お願いします」と土下座をするなら良いよ、と。……あぁ、何だそれゾクゾクする! ヤッてみたい!
 胸の中で燃え始めた疼きを押し殺しつつ、再度、携帯電話の液晶を数度叩いて、最前の電話の相手を呼び出す。やはり、これを試す手近な相手と言えば彼だろう。お互いに(少なくとも自分は彼に僅かな興味はあれど)恋愛感情は抱いていないが、数ヶ月前に若い色欲に促されるままに部室で彼を押し倒して(そして、その時には既に例の小遣い稼ぎをしていて百戦錬磨の域に達していた彼は抗う様子も見せず、ニッと笑みさえ浮かべながら脚を広げて受け容れて)まぐわった時に互いの肉体が中々の好相性であると気付いて以降、自分も彼もその肉の味が忘れられず、今も週に数度、ただ身体を交えるだけの怠惰な関係をダラダラと続けている彼。暮羽鋭次。
 三コール目辺りで風薙はある事を思い出して目を微かにすがめた。……あー、でも、いつも俺が入れる側で、彼も抱かれる方が好きだから「俺が掘られる方がいい」とか言って、逆レイプ同然で彼が俺の腰の上にのしかかって無理矢理俺のを飲み込んでしまうかもしれないな。何故なら、彼は。特に、夜の彼は。
『んく……んっ、んぁ……あ、あんッ……な、何だよ、ンな、時にィ……』
 五度目のコール音を打ち切って耳に飛び込んだのは、いつものちょっと尖った低い声ではなく、すっかり甘くふやけた雌の喘ぎ。聞いているだけで身体の中心がキュッと熱く窄まりそうな乱れた声色に肌を打ち付ける音が遠く重なる。
『お、お前、交尾中に、電話すンなって……』
 交尾などと言う露骨な表現を聞くに、既に彼は完全に出来上がっているらしい。
「あ、お楽しみ中でしたか。いや、あの、それ終わった後、空いてるかなーって」
『はっ、はぁっ……悪ィ、この後にもう一人、予約入れッ……あ、あぁあああん!! ご、ゴメンなさい!!」
 突如鼓膜に刺さった裏声の謝罪に、何事かと目を瞬かせていると、どうやら彼は相手に対する謝罪の言葉を叫んだらしい。昼間の彼――名門壱琉大学野球部の不動のエース・暮羽鋭次しか知らぬ者が聞けば、目を擦り、耳を穿り、口をあんぐり開けて引っくり返るであろう淫らな台詞が見えぬ手となって風薙の燻る猛りを優しく包み、激しく撫で擦る。
『んうっ うっ ほ、他の奴にも抱かれる、尻軽で、ゴメンなさい で、で、でも、ご主人様のちんぽが一番好きです この後の粗チン野郎なンてッ、話にならないです あんっ あんっ で、です、から、もっと奥まで突いて、俺の男好きアナルを罰してください
「……」
 多分、次の相手と身体を重ねる時は、今彼を貪っている“ご主人様”を粗チン野郎って呼ぶんだろうな。風薙は冷静に推察し、彼もまた自分と同じように相手優先の行為を強いられているのだな、と同時に思った。恐らく彼を抱いている男は、見るからに生意気で言う事を聞きそうにない暮羽に“ご主人様”などと陳腐な呼び方をさせて屈服させ、肉奴隷として扱うと言う、男なら誰でも一度は試してみたい戯れに燃えるタイプなのだろう。確かに普段は余り耳にしない暮羽の敬語に自分も少なからず昂ぶりを覚えている。今度彼を抱く際に、敬語で喘いでと頼んでみるか。
 頭の中では色々考えつつも口は無言を貫いたまま電話を握る手に力を込め、耳に次々流れこむ実況に聞き入る風薙の電話口に、「ほえ?」と言う暮羽の間の抜けた声が届いた。
『で、電話? は、はいっ、き、切ります! ご主人様のペニスに集中しますッ で、ですから、ご主人様に空っぽにして頂いたエロい直腸にお慈悲をいっぱい注いでください あ、あ、あひぁあああん!! ご主人様、の、ちんぽ汁、ケツから飲まされりゅうゥううう!!』
 ブツッ。つーつーつー……
 電話を切ったのが暮羽なのか彼の相手なのかは分からないが、淫楽の生放送が打ち切られた風薙は心底ガッカリし、無意識に舌を打った。あーあ、良い所だったのに。
 電話をポケットに突っ込み、耳に残る暮羽の淫声を頭の中で正確に反復させて今し方の生中継の余韻に浸る風薙だったが、ふとある一言を思い出した瞬間に、いつの間にか閉じていた目を大きく開いた。ご主人様に空っぽにして頂いたエロい直腸にお慈悲を。……空っぽにして頂いた? そう言えば、一回目の電話の時に腸内洗浄がどうのとか言ってた気がする。と、言う事は……。其処まで考えた所で風薙の心臓が大きく跳ねた。その後も全身に震動が響くまでに高鳴り続ける胸に、緩く握った拳を添える風薙の紅潮した顔には薄い笑みが浮かんでいた。
 暮羽が期待の顔で掲げた淫穴に男が洗浄液を注ぐ様を頭に描いた瞬間に、熱は全身を駆け回り、最終的には腰の辺りに集結する。あの男がシャワールームで暮羽さんのお尻の中にシャワーの水を思い切り叩き付けたのかな。それとも、ベッドの上で暮羽さんが両脚を抱えて拡げ、そのヒクヒクと誘う尻穴に液体が入った注射器やポンプを挿し入れたのかな。
「あぁ……」
 人知れず震える息が熱く零れ、胸に当てていた筈の手が淫熱の集合場所である両足の間に触れていた事にハッと気が付いて慌てて引き離す風薙だったが、全身を焦がすような情炎は燃え盛る一方だった。あぁ、ドキドキする。この興奮のまま、さっき考えてた俺主導のセックスが出来たらどんなに気持ちが良いだろう! 心も身体もきっと満たされるに違いない!!
 風薙は滾りに震えそうな己の身体を慰めるようにギュッと強く抱き締めると、自分のいびつな欲望を満たす為に浮付いた足取りで何処かへと歩き出した。

 今考えてみれば、彼はその時、少し酒に酔っていたのかも知れない。