TOP   1   2   3 

 

 
 

 町外れにあるその公園は自治体の手が余り届いていないのか至る所に雑草が生い茂り、何とも陰湿な雰囲気に人も余り近付かない為、夜は居住地を持たぬ男達の溜まり場になっていた。
 人を拒む気味の悪い園内にポツポツと置かれた古ぼけたベンチの上で新聞紙を布団にして横たわり、ボンヤリと黒い空を眺める一人の男の鼻が何処からともなく漂って来た食べ物の匂いを鋭敏に捉えた。最近、まともに口にしていない温かな食事からの挑発に、眠っていた筈の腹の虫が目覚めて喚きだす。匂いが、足音が近付く。こんな寂れた場所で食事を取ろうとする変わり者か。それとも、自分のような社会に爪弾きにされた人間に施しを与える慈善団体か。望みが薄いながらも後者である事を祈る彼の視界に突如、整った顔がぬっと滑り込んだ。公園灯の逆光によって陰る中性的な面立ち。闇夜の中に滲む灯りの幽光と同じ白に浮かぶ肌の色。当初、彼は女が覗き込んで来たのかと思ったが、直後に聞こえた声で相手が男であると悟った。
「今晩は、おじさん」
 青い髪のその少年は無邪気に笑いかけた。

 風薙豹は屈託のない笑顔を浮かべつつも、その黒目は訝しげな顔で身を起こした男の頭の天辺から足の先まで幾度も往復していた。みすぼらしい服に包まれた全身は埃を被ったように小汚いが、草臥れたシャツから伸びた腕には中々良い筋肉が付いている。普段は日雇いの肉体労働などで食い繋いでいるのだろう。少しこけた頬から下顎にかけて伸びている無精髭と薄汚れた顔から勝手に年齢を推測して、おじさんなどと呼んではみたが、案外自分が思っているよりも若いのかもしれない。
 うん、この人で良いや。一向に治まらぬ情欲を満たす為の贄を決めた風薙は、笑みを嫣然としたそれに変えて、首を小さく傾けて言った。
「おじさん、俺とイイ事しない? 俺を抱いてくれたらコレあげる」
「はぁ?」
 妙な誘いを鼻声でしながら手の中のハンバーガーショップの袋を振ってニヤニヤ笑う少年に男は暫し目を瞬かせたが、紙袋から溢れる肉の匂いと微かに酒臭い少年の吐息が混じった瞬間に、あぁ、と一人納得したように微かに呟き頷いた。酒に酔った勢いでヤりたくなったガキか。男の無精髭まみれの頬がいやらしく歪み、同じくいびつな弧を描く眼が少年の顔を舐める。これほどまでの上玉と交われる上に、食い物にありつける。断る理由など何処にあるだろう。男の無骨な手が少年の肩の上に乗り、おあつらえ向きと言わんばかりに背後で待ち受ける鬱然とした茂みへと押し進める。あっさり誘いに乗ってくれた相手に風薙は口をニッと横に広げ、か細いしゃっくりを一つ零した。

 荒れ果てた公園の死角となり得る茂みに足を踏み入れた途端に声量が大きくなった気がする虫の声(それは突然の闖入者である人間への抗議のようだった)を適当に聞き流し、自分の背後でカチャカチャとベルトを外している男をどう蹂躙するか考える風薙の唇が自然と笑みの形を作った。これから始まる、施しと引き換えの俺主体の性行為。俺は、この垢じみた男を踏み躙り、無様に這い蹲らせ、揺れる声で哀願をする彼を見下してひたすら焦らし、改めて土下座で懇願させ、最終的には俺が望むタイミングでこの男の醜くそびえ立つ肉を飲み込……
「おい」
 背中からの声と肩を掴む手に反射的に振り向いた風薙は、瞬く間に視界を埋め尽くした男の下卑た破顔に思わず息を呑み
「あ、あうっ……ぅうう……!!」
 直後に押し当てられた唇の感触に、呻きに近い悲鳴を零した。唇のみが触れ合ったのはほんの数秒で、分厚い舌が不躾に風薙の口内に割り込んで来る。風薙の逃げ惑う舌に纏わり付き、歯の裏を撫でて来る感覚に硬く目を閉じた少年は怖気立つ全身を棒のように強張らせ、山なりになった肩をガタガタと震わせた。
「うぇあっ……や、やめろ……!」
 何とか顔を離して、拒みの言葉をぶつけるが、男は表情一つ変えずに風薙の両肩を痛いほどに鷲掴みにし、髭に囲まれた唇を濡れた口辺に改めて押し付ける。くぐもった悲声が耳朶に触れた。
「い、いやっ、嫌だ……ん、んい、んううぅう!!」
 相手の舌がまた己の舌に絡まる前に歯を思い切り食い縛って侵入を防ぐが、男はそれならばと言わんばかりに風薙の綺麗に並んだ皓歯の関門を、湿った唇もろともベロベロと人懐こい犬のように執拗に舐め始めた。唇歯と歯茎を這い回る温かな肉の薄気味悪い柔らかさと隙間から入り込む男の唾の味と臭いが容赦なく吐き気を誘い、風薙の目尻に涙を滲ませた。
「うぐっ、うっ、ぅえっ! げっほ、げほげほ……うぇ!!」
 青褪めた顔が再度引き離され、地面に四肢を突いて男のそれと混ざり合った涎を空えずきと共に吐き出す少年の大きく起伏する背中を男はニヤケ面で眺めた後、静かに手を伸ばす。不意に頭上に降りて来た何かの気配を感じ取った風薙が唾液が流れる顎を上げた瞬間、硬そうな手の平が艶やかな青髪を荒々しく引っ掴んだ。
「い、痛い!」
 毛を毟られるような激痛に悲鳴を飛ばす為に開いた口に、一気に何かが、雄肉が、埋め込まれる。少年の潤んだ瞳が一瞬で裏返り、端整な顔が無惨に崩れた。
「一週間ぐらい風呂入ってないからよ。お前のその可愛いお口で綺麗にしてくれや」
「んぐぶっ、んぐっ! や、ぃやだっ……汚いし、く、臭い!!」
 首を振り、身を捩って抗う風薙の頭をガクガクと揺さぶりながら、鬼畜の如き男はどら声を張り上げた。
「だから、お前の舌で汚れやカスを舐め取るんだよ!」
「お、おごっ、おぶぇ……!!」
 相手の雁首に散りばめられた垢が、たまたま当たった風薙の歯にこそぎ取られて舌の上に落ちた瞬間、味音痴の自分でも捉えられる塩味とも酸味とも付かぬ不気味な味が口内に広がり、小水と腐った発酵食品のようなすえた臭いが混ざり合った悪臭が鼻腔を満たす。味覚と嗅覚を襲う耐え難い不快感がむかつきを覚える胃を焦がした。
「う、うぐ、ぅぶっ……」 
 奉仕行為はこれが初めてと言うわけではない。自分は今まで幾度も男の一物を口に含んだ事はある。だが、常にそれは無味無臭であった。汚臭を放つ不味い肉根を青いベソかき顔で咥えたまま、その理由を考えた風薙は、何かに気が付いた様子で切なげに眉根を寄せた。今までの相手とは全てホテルで身体を重ねた。そして、彼らは自分に口淫を頼む時は一度シャワールームに消え、丹念にそれを清めてから実践させた。
 ……あぁ。目を閉じる風薙の頬を一筋の涙が滑る。彼らは自分を気遣ってくれた紳士だったのだ。風薙は今更ながら彼らを密かに見下していた事を少し反省し、己の傲慢を微かに恥じたが、その自責の念は呼吸と共に、鼻に例の臭いが改めて入り込むと共に敢え無く消えた。ざらつくような笑い声がすっかり乱れた髪に降り注ぐ。
「結構溜まってるからよ。早くて悪いが、イカせて貰うぜ。いやー、こんな女みてぇなガキの口に出せるとかツイてるなぁ。はははは!!」
「んぶ!? ぐ、うっ……ぷはっ、や、やめ、うぶぅう!」
 必死に口を外して懇願しかけるが、相手は折角の機会を逃すまいと強靭な力で風薙の頭を腰に押し付ける。鼻を擦る脂ぎった縮れの触感が風薙の顔から血色を奪った。相手の男の呼吸が乱れだし、少し上ずった気持ち悪い喘ぎが耳に触れ、口の中で醜悪な雄が豪快に暴れる。拒絶の叫声を篭らせる風薙の落ち着かなく揺れる頭に男の伸びた爪が食い込み、鋭い痛みが突き刺さった。
「お、おらっ、出すぞ! 溜まってて濃いザーメンだ! 有難く飲め!」
「ぐっ! ぐ、ぐぶっ、んぐぎゅうぅううぅうううう!!!」
 口中で男の先端が破裂すると同時に舌根に叩き付けられた苦味。鼻にこびり付く腐臭に加わる青草の臭い。喉彦にべっとり絡む生温かな粘り。全てに於いて凶悪な濃い種液は風薙の荒れ狂う胃を濡れ雑巾のように強く絞り、その中身を喉元へと押し上げた。
「ふ、ふぅぐ……うぷっ」
 唾液の糸を引きながら男の肉茎から離した白い唇を手の平で覆って俯くが、件の汚臭が鼻を打った瞬間に白黒していた目が固まると共に全身が一度大きく上下した。男の悪趣味な期待の視線を感じつつ風薙が震える身体を後ろへ少しずらした瞬間、その動きに触発されたように逆流物が喉を駆け上がり、悲惨な状態の口内に溢れ返った。
「う、うぐぇっ……!」
 濁った声にびちゃっと液体が爆ぜる音が重なったそばから、少年の長い指の隙間から半固形状の物体がドロドロと零れ、口に当てていた手の平から漏れ出たそれが頬を汚く濡らし、鼻溝に入り込む。自分自身が口から出した物の臭いに嘔気を助長された風薙は胃液に塗れた両手を草むらに置いて、歪んだ唇から、はっはっと何処か不穏な雰囲気の短い息を刻んだ。細切れの呼吸を幾度か繰り返した後、一度ヒュウと音が鳴るほど大きく空気を吸い込んだ風薙が、そのまま開きっ放しの口から激しい勢いで出したのは
「げっ……ぅげぇえええぇえっ! ご、ごほっ、ごほっ……う、うぇ、ええぇ、おっ、おっ、おえぇえ゛えええ!!」
 微かなアルコール臭が混じった反吐が地面に砕け散り、風薙が体を波打たせる度にその口から噴き出す吐液が地面に拡がる吐瀉物の溜りとぶつかり、跳ね返った細かな雫が風薙の青白い顔にピチャピチャとかかった。見開いたままの目に涙を滲ませてげぇげぇと嘔吐を繰り返す少年を見下しながら、男は高らかに嘲笑った。
「あっははははは!! コイツ吐いた! ゲロ吐きやがった! 自分からエロい事しようって誘っといて何やってんだよ!! ぎゃははははは!!」
「う、うぉえっ……げほ、げほっ……ごぼッ……!」
 男の哄笑を背に浴びつつ、ブルブル揺れる手の甲で胃液に塗れた顎を拭った風薙は、苦しげに咳き込んで喉奥に残っていた吐物の欠片を地に零した。

 薄汚いその男は、背中をそびやかして汚液を吐き散らす少年を下目で見ながら、一度吐精したとは思えぬ屹立を維持する愚息を手で包んだ。目の前の少年の醜態を見ている内に感じた邪熱のままに、肉搭を掴む手を昇降させる。
 最初は女と見紛った程の見目好い顔立ちの少年が醜く顔を歪め、白目を剥いた大きな眼から涙を零し、筋の通った鼻から粘糸を垂らし、少し前まで薔薇色だった口から濁った咆哮と臭い立つ汚物を大量に撒き散らす。美と醜。清浄と汚穢。その隔たり。その落差。
 あまりに強い興奮にいかがわしい熱は心地良い寒気に変わって、肉竿を扱き続ける男をブルッと震わせた。男は唇の端を大きく吊り上げ、少し落ち着いたらしく地面を凝視したまま息衝く少年にゆっくりと近付き、その足音に少年が様々な体液で濡れた顔をハッと上げる。
「ほら、続きするぞ。サッサと服脱げや」
「はぁ、はぁ……う、うるさい……!」
 どう見ても今の状況を愉しんでいる男の図々しい声に風薙は精一杯の怒気を含んだ声を引き絞り、声と同じ気を込めた瞳で睨み付けるが、相手は別段気圧される様子もなく、片眉の尻を上げて面白そうにニヤニヤと笑うのみ。男の反応にクッ、と微かに唸りつつも風薙は自分を奮い立たせて声を張り上げた。
「お、お前は、俺から施しを受けるんだから、俺の言う事を聞けばいいんだ! 俺の命令を聞いて、俺の望む通りに俺を抱い」
 どごっ。衝撃が半面を襲うと同時に頭が嫌な感じにぐらついて、不自然に左右の黒目がばらつく瞳の奥で小さな蛍がチカチカと飛び交い、身体が円を描くように大きく揺らいだかと思うと、白いもやがうっすらかかった視界に映る景色が九十度に傾いていた。一体、自分の身に何が起きたのか。回らぬ頭で考える中、左の頬が熱く痛み始め、不快感に満ちた口の中に真っ赤な鉄がジワジワと広がり溢れて唇から零れ出るのを感じた時、風薙は自分は殴り飛ばされたのだと漸く理解した。
「う、うぐ、ぅ……」
 みるみる腫れる頬を押さえて身を起こすより先に男の手が風薙の胸倉を掴んで無理矢理引っ張り上げる。その乱暴な扱いに首振り人形のようにグラグラと頭を揺らす少年の鮮血の玉がポツポツ散るシャツのボタンが幾つか千切れ飛んだ。
「施し? 言う事を聞け? 大人をナメてんじゃねぇぞガキが」
 鼻先がくっ付くほどに顔を近付けて凄む男の地に響く声に風薙の血の気がない顔が強張った。不意打ちで顔を思い切り撲たれたのが余程応えたのか、すっかり威勢も何もなくなった少年の広い額に己の額をゴリゴリと押し付け、男は低い声に微かな温情を加えて続けた。
「ま、その舐め腐った根性を叩き直してやるのも大人の役割だからな。今から一杯可愛がってやるよ」
「っ! そ、そんなの、嫌に決まってるだろ!!」
 何とか拒絶の言葉を叫ぶや否や男の腕を振り払って逃げようとした風薙だったが、立ち上がろうとした瞬間に、殴られた後遺症からか何かに引っ張られるようなめまいを覚え、身体がよろめきつんのめる。四つん這いの体勢になった風薙の腰の辺りに男の指が食い込んだと思うと、下半身に嫌な寒気が走った。その時点で自分の身に何が起こったのかは概ね理解したのだが、それでも風薙は涼しくなった部位に恐る恐る目をやり、同時に裏返った声を短く飛ばした。視線の先にあったのは仄暗い闇に浮かぶ己の白い尻。性の割には滑らかな曲線を描く其処を男のゴツゴツした手の平がさわさわと擽るように愛撫し、その感触に粟肌が立つ。
「へへっ、エロいケツしやがって」
 少年の肌触りの良い尻肉を一頻り堪能した男の手が臀部を掴み、両の親指で柔らかな小山を割りひらくと、楚々とした蕾が薄闇の中に晒された。風薙の潤んだ呻きと男の卑俗な笑いが重なり合う。
「こんなに可愛い穴から汚ぇクソひりだしてるんだろ? そう思うとすっげぇやらしいよな」
「!! う、ぅっ……」
 男が突付き拡げて弄ぶその器官の本来の用途を明け透けに言ったに過ぎないのだが、言われた方は顔を真っ赤に燃やして茂みに顔を埋めた。地面から聞こえる揺れ声を心地良く耳に入れながら、男は後穴を指でこすって問う。
「くくっ……今日はここから出したのかな?」
「…………」
 少年は答えない。ただ、大地に繁る雑草に囲まれた頭をいやいやと小さく振るだけだ。その反応に男の顔から笑顔が消え、すっと細くなった瞳の奥に激昂の火が点いた。
「言えよオラッ!!」
 男の大きな手が白い柔尻に思い切り平手打ちをくれてやると、少年はギャンッと蹴られた犬のような叫び声を上げ、反射的に顔を上向かせた。天を仰いだまま涙をポロポロと流してしゃくり上げ、カタカタ鳴る歯の隙間から徐々に高くなっていく呻吟を震わせる風薙だったが、背後で男が手を振り上げる気配を察するや細かな震えが止まらぬ口唇を大きく開き、自暴自棄を起こしたように喚いていた。
「ひっく、だ、出した……朝、一回、した!!」
 言うだけ言って、忙しく地面に突っ伏して涙声を震わせる風薙の頭をすっかり機嫌を取り戻した男の声が撫でる。
「よしよし、健康健康! 毎日のお通じは大事だからな♪」
 男の不愉快な笑い声に憎悪の念さえ抱いた風薙は、熱い顔が小刻みに戦慄くほどに歯を噛み締め、地に生える名も知らぬ草の一つを力の限りに握り締めた。

 顫動が止まらぬ背中に頑強な身体が覆い被さり、晒されたままの陰穴に膨張した陽物が触れると、風薙はヒッと短く叫んで、何とか男から逃がれようともがいたが、太い両腕が風薙の胸元に伸び絡まって、風薙の背と男の腹を固く縛り付ける。やめてやめろと首を振って怒鳴る少年の声を聞き流した男が腰を突き出すと、少し前まで別の男を咥えていた其処は思っていた以上に解れていて、特に苦労する事もなくすんなりと肉刀を飲み込んでいった。
「ひっ、ひぃ! いやっ、嫌だ、あ、あぁあああぁあああ!!!」
 高らかな叫呼が張り詰めた喉から搾り出され、声と一緒に舌も飛び出した。抱かれるのではなく犯される。その痛み。その屈辱。その恐怖。男の方も背徳的行為に興奮を隠せぬ様子で、片方の手で円い双丘を鷲掴みにし、垢が溜まった爪を弾力のある肉に食い込ませ、腰を欲望のままに前後左右に荒々しく蠢かせる。
「あ、あうっ、ぐっ……!! かはっ! ……そ、その、角度は、痛い、から、やめろ!! こ、こ、この下手糞っ!!」
 男の律動に合わせた喘ぎを漏らし、内蔵を破って来そうな肉槌の衝撃に咽ながら男の方を振り返ってうそぶくが、視線が合ったその男はニタッと畜生の笑みを浮かべただけだった。彼の瞳の奥に渦巻く濁った嗜虐の光が網膜に刺さった瞬間、風薙は己の失言に気が付いて顔を顰めた。こんな事を言えば、余計に、俺を、痛い目に、遭わせるに決まって……
「ひ、ぎっ、ぃぎああぁあ!!」
 本能任せの激しい突き上げの繰り返しが風薙の思考を中断させた。とりあえず、自分の危惧した通りの展開になってしまった訳なのだが、それを省みる余裕など微塵もない。ただ、瞬きの回数が極端に少なくなった双眸から涙を流し、髪を振り乱して喚くのが精一杯だった。
「へっ、抱いてくれって頼んで来たのはそっちのクセに嫌がって泣いてんじゃねぇ!」
 完全に高揚している男は狂ったように笑い叫び、そのまま紅葉が貼りついた少年の片尻を思い切り抓ると、その身体がビクンッと跳ねた。
「!! ……あ、あっ、あぁ、だ、駄目……」
 今までの大声とは打って変わってか細い震え声が、下向いた少年の喉の奥から零れ、両腿の内側がプルプルと小さく痙攣する。その異変の正体を何となく察した男は顔全体が捻じ曲がるほどに笑い、大きく右手を振り上げた。少し前に押印した己の赤い手形に上書きするように同じ場所めがけて手を振り下ろす。肉を鋭く打つ音が夜の茂みに響き、少年の奇声に近い絶叫が直後に轟いた。
「ふ、ふぎぃいいいいい!!」
 身体を微かに弓なりにして嘶く風薙の縮こまった先端から放たれた温かな黄水が地面の草に飛び散り、土を湿らせていく。小水はシャワシャワと音を立てて大地に溜まりを作り、少年の広がったまま小刻みに揺れる両足の下で、その温もりを象徴する湯気を立てた。相手の痴態の一部始終を見届けた男は途絶えぬ笑みを黒くした。
「ヘッ、ゲロの次はションベンかよ。本当に汚いガキだな」
「くっ……お前に汚いとか言われたくな……っ!!」
 言うつもりだった抵抗の台詞が打ち切られたのは、風薙の腹部に纏わり付いていた男の腕が妙な動きを見せたから。広がったままの片手が拳を作って鳩尾の辺りに当てられ、その拳にもう一方の手の平が重なる。自分と相手のこの体勢は何かで見た事がある。昨年末のニュースだったか、「お年寄りがお餅などを喉に詰まらせたら、こうしましょう」とか言いながら、マネキンを相手に司会のアナウンサーがやたら張り切って実践してたような……
「うぐっ!」
 胸の中央を突き上げるような圧迫感に我に返り、暫し忘れていた嘔気が蘇る。風薙は男の腕に弱々しく爪を立て、振り解こうと足掻いたが、男が拳を押し上げる度に身体が、胃袋が大きく跳ねる。あの言い様の無い不快感が戻ってくる。咽頭の辺りにまた熱が込み上げる。口を開けば、それが一気に飛び出してしまいそうだ。
「あ、あぐ! や、やめろ、また、吐くっ……!」
「あぁ、いいぜ。思いっきりぶちまけてくれよ。お前みたいな綺麗なガキが汚いゲロやらションベンするってのは中々そそるって気付いたんだよなぁ」
「!! この、変た……うえっ!」
 常軌を逸した告白をする男に浴びせようとした罵言も男の容赦の無い攻めによって途切れた。すぐ其処まで来ている熱した泥のような胃液。鼻腔に漂い始める酸っぱい臭い。口の中に広がる不味くて粘つく唾液。眉を何とも複雑な形に顰め、端整ながらも血色が無い顔をクシャクシャにし、落ち着かぬ上下運動を繰り返す喉仏の奥でぐぷけぷと小さいが不穏なゲップを繰り返して呻く風薙の反応に嗤笑した男は、ありったけの力を拳に込めて相手のはらわたを潰さんばかりに圧した。少年の大きな瞳が飛び出んばかりに見開き、涙の線が走る頬が醜く膨らむ。
「ぐっ……! ごぼっ!!」
 男の腕の中でのめった少年の口から溢れ出た反吐が音を立てて地面にぶつかり飛び散る様に、男は本当に捻れた性的快楽を得たらしい。風薙の中で肉砲が震え、膨張し、そのまま激しい勢いで精弾を乱射した。
「あ! あっ!! うわぁあああ!! な、なに勝手に中に出してるんだ!!」
 放たれた熱を敏感に感じ取って金切り声で抗議するも、男の拳が腹を抉るとその口からは汚液が噴き出してしまい、ビチャビチャと地面の草達にとって栄養になるのか毒になるのか分からぬ酸液を撒き続けてしまう。
「お、おぼっ、うえっ! ぉげえぇえっ! ぐ、ぐる、じ……う゛ぉえぇええ゛えぇえ!!」
 強制的な嘔吐の繰り返しは風薙の呼吸を妨害し、新鮮な空気が足りぬ脳は痺れ、視界も少しずつ霞む。苦しい。恥ずかしい、このままでは、死んでしまう。
 突如、猛攻を続けていた男の拳が止まり、巻きつかれていた両腕も解かれる。耳元で何やら言っているみたいだが、まともに聞き取り理解するほどのゆとりはない。何だか胃液がどうとか言っているようだ。視線を落とすと、大地に広がる吐瀉物の上にドリンク剤のような黄色い液が重なっているのがボンヤリと見える。胃液しか出なくなったからつまらなくなったと言う事だろうか。そうこう考える間も与えてくれない鬼畜男は改めて腰を突き出し、身体を揺さぶり、まともに働かない頭も合わせて揺れる。
 苦しい。くるしい。苦しくて、死んでしまいそう。……なのに、何でだろう。頭が、ぼーっとして、苦しいのが、痛いのが、痺れになってきて……な、なに。なにこれ。頭が、しびれて、あつ、くて、きもち、い、い……?
「あっ、あっ……」
 異常な行為の繰り返しが甘美な熱となって風薙の奥に潜む歪んだ情欲を刺激したのか、それとも風薙の中の何かが現実逃避でも起こしたのかは彼自身にも分からないが、その口から漏れる声には今までにはない甘さが混じっていた。その声を耳ざとく捉えた男は少年の急な変化に微かに驚くも、その劣情に促されるままに腰をうねらせ持ち上げる。
「あうっ……!」
 ピンッ。大分前から外れて少しずつずり落ち、今や所有者の震動に合わせてその髪先でブラブラと揺れるだけでまるっきり役目を果たしていなかった銀の髪留めがついに少年の髪から離れ、遠心力に任せて宙を待った。闇の中で少年の艶のある髪が青い炎となって逆巻き、翻った。それが合図であるかのように、風薙は種種雑多な汁に塗れた頬に幾筋かの細い青毛の束を貼り付かせたまま、振り向き様に相手を見据え、吐液に塗れた唇をそっと開いて縋り付くように呟いた。
「おじさん……俺も気持ち良くなりたいから、真正面から、俺を犯してくれない……?」