グラマン F6F 「ヘルキャット」

           グラマンF6F 「ヘルキャット」

 

 

 第二次大戦中、アメリカ海軍の主力艦上戦闘機として勇名を轟かした戦闘機がこのヘルキャットです。
このF6Fの開発目的はズバリ「打倒!零戦!」でした。1943年初頭まではアメリカ海軍機で唯一零戦と互角な戦いを繰り広げられたのはヘルキャットの前機種F4F「ワイルドキャット」ただ1機種のみでした。

 「ワイルドキャット」が苦戦したのは零戦の軽快な運動性によるもので格闘戦(ドッグファイト)に持ち込まれれば最後、運動性ではまず勝ち目は無かったのです。アメリカにとって日本は仮想敵国であったとはいえ、零戦21型がここまで高性能であるとは夢にも思っていなかった結果でした。

 そこで前線では零戦との1対1の空中戦を禁じてチームで戦うことを徹底させました。この戦術は効果があり、一方的な戦いではなくなったのです。


 しかし、機体の性能差が簡単に埋まるわけではなく前線では新型機の到来を望む声が高くなりました。この新型機開発に向けて、アメリカ海軍は最終的に2社に開発指示を出していました。

 一つはまださして戦闘機開発においてメジャーではなかったヴォート社、そしてもう一つが軍用機の名門グラマン社でした。ヴォート社の画期的すぎる新型機(後のF4U コルセア)は開発失敗の可能性もあったため、保険の意味合いでグラマン社にも新型機開発を発注していたのです。

 グラマン社ではF4Fを全般的にパワーアップした後継機の開発に乗り出していました。しかし、少々のパワーアップ程度では零戦21型と戦えないため、エンジンはF4Fの倍は出せる強力なものを採用しスピードと重武装という点の強化を図りました。この設計には鹵獲(ろかく)されたライバル機「零戦」の分析データ、先行投入されたF4Fの運用データもあり、比較的設計チームは気楽に仕事が出来たといわれています。


 設計チームはこのパワーアップに必要なエンジンに新型の2000馬力級エンジン「プラット・アンド・ホイットニー・ダブルワスプXR-2800」を選択しました。このエンジンはアメリカを代表する高性能・高出力エンジンで信頼性においても定評があり、各航空機メーカーはこのエンジンを競って採用しました。
 
 これに匹敵できた日本のエンジンは「誉」型程度ですが、信頼性が全く比べ物になりませんでした。「誉」は限界ギリギリの設計であったのに対し、こちらは非常に余裕を持たせた造りになっていたのです。


 さらにコクピット周りの防弾鋼板をはじめとする防弾装備が強化されました。もちろん、F4Fにも防弾装備はありましたが、エンジン強化に伴い、さらに防御力を高めることができたためです。(コクピットの防弾鋼板は零戦21型の標準武装の一つであった7.7mm機銃を全く通さなかった)
 この結果パイロットの生還率も高く、その防御力の高さから当時のパイロットたちは「グラマン鉄工社製」などとあだ名をつけていたというエピソードがあります。

 F4Fの単なるパワーアップ版という声も多いのですが、第二次大戦中に撃墜された9000機中5000機以上の日本機はこのヘルキャットの犠牲となったという記録があります。この事実を見るとF4F系統の基礎設計がいかに堅実に行われたかが伺えます。

 日本で「グラマン」と言うと、ヘルキャットを指す場合が多く、お年寄りに戦争中の体験を聞くと機銃掃射をしてくる艦載機として登場します。




 性能諸元(ヘルキャット)

 全長; 10.23m
 全幅;  13.06m
 全高; 3.52m
 正規全備重量; 4128kg
 エンジン; P&W R−2800−10(離昇出力:2000馬力)
 最大速度; 603km/h 
  武装;  12.7o機銃×6      
       爆弾:454kg×2
 


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