三式指揮連絡機
          
       
       
        三式指揮連絡機
 

  
 第二次世界大戦に突入する直前、日本陸軍は地上部隊と現地の航空部隊の連絡を密にするため、新たに「指揮連絡機」という機種を創設しました。この当時の陸軍の戦場は中国大陸であり、広大な戦場で効率よく作戦を遂行するためにはリアルタイムでの情報は何物にも変えがたいものでした。

 この指揮連絡機が開発される以前に「直接協同偵察機」という飛行場以外の不整地での離着陸ができ、偵察以外にも地上目標への小規模な攻撃もこなせる使い勝手のよい偵察機が存在していました。性能は文句なしに優れていましたが、自重や主翼の都合上離着陸にはある程度の距離を必要とするため陸軍はさらに使い勝手のよい偵察機を要求しました。

 戦闘機と異なり、この新型機に求められたのは何といっても離着陸距離が短くてすむ事でした。さらに前機種よりも視界が良いことやどんな不整地でも運用できることも求められました。21世紀の現代でも、離着陸距離が短い軍用機のカテゴリーは存在しており、専門用語でSTOL機(Short Take Off and Landing/短距離離着陸機)と呼ばれ、スウェーデンの軍用機はそれに特化していると言われています(地学上、有事の際に高速道路を滑走路として使用するため)。

 昭和15年夏、陸軍から開発指示を受けた日本国際航空工業は新型機の開発をスタートしました。軽くて、離着陸距離が短くて、地上攻撃も可能な使い勝手のよい偵察機とくれば、開発は難航すると思われましたが、何と翌年の昭和16年5月には試作機が完成し、初飛行も難なくこなしました。

 この新型機には既に堂々たるライバルがいました。陸軍はドイツ陸軍が運用している「シュトルヒ」という同じようなモーターグライダーのような偵察機の日本での導入も検討に入れていたため、日本国際航空工業が開発していた新型機はある意味、競合するための試作・開発でもありました。翌月の昭和16年6月にドイツから「シュトルヒ」が到着し、日独での性能審査が行われました。審査の結果、一番の目玉であった離着陸距離は日本側の試作機がそれを上回っており、陸軍は日本機を三式指揮連絡機として制式採用しました。

 制式採用された後、各種試験や様々な改修を受けた結果、時速5キロ程度の向かい風があれば、30メートル程度で離着陸できるという素晴らしい機体に完成しました。しかしこの仕上げにはやや時間がかかり過ぎ、運用が始まったのは日本が守勢に立たされ始めた昭和18年の頃でした。三式指揮連絡機は地上の偵察や離着陸を重視されたため、スピードにおいては時速200キロに届かない低速のため、制空権のない戦場での運用は不可能という状況に追い込まれる事態に追い込まれていきました。

 本来ならば、ここで三式指揮連絡機の歴史は幕を下ろすはずでしたが、この当時、陸軍は輸送船の護衛に特設空母の運用を検討していました。現代から見れば、輸送船団の護衛はどう考えても、海軍が担うべき仕事のはずでしたが、日本の陸軍と海軍の不仲は有名な上に、日本海軍は「連合艦隊は敵艦隊を撃滅するためのもの」という考えを捨てることができず、ガダルカナルを始めとする南方への補給途絶→玉砕を間接的に手助けするという最悪の結果を招いていました。

 この背景から陸軍は自前で輸送船団の護衛手段を講じる必要ができ、上陸舟艇母艦として運用していた「あきつ丸」という揚陸艦を改修し、新たに飛行甲板を設置して護衛空母としました。しかし、空母といっても、海軍で使うような軽空母とは異なり、着艦用の制動装置はなく、速力もはるかに低速でした。
 どちらかといえば離陸スペースを付けた特殊船としての性格が強く、構想段階では97式戦闘機を複数積み、空母を発進した後は、近場の友軍基地に着陸するか機体を捨ててパイロットだけを回収するという運用が考えられていました。あきつ丸には実用化されたばかりの三式指揮連絡機が配備され、船団に近寄る米潜水艦への対潜哨戒任務が与えられました。低速で下方視界が抜群に良いこの機にはうってつけの任務でしたが輸送船への攻撃は潜水艦だけでなく、高い空戦能力を持つ艦載機による空襲も多くどれほどの戦果を挙げたかは記録ははっきりとしていません。

 悪化する戦局の中、母艦であったあきつ丸が撃沈された後は九州を拠点とした東シナ海や朝鮮半島近海の米潜水艦相手の哨戒任務に付きますが、低速であったため、制空権を失ったあとの損失は想像に難くありません。大戦後半、疾風紫電改といったメジャーな機体の前にあまり存在感はあるとはいえませんが、連絡機としての使い勝手の良さはよく、内地での連絡任務など本来の目的は十分に果たしたと思われます。



性能諸元   

 全長;  9.56m
 全幅;  15.00m
 全高;  3.30m
 正規全備重量; 1540kg
 エンジン;
日立航空機 ハ42乙 空冷星型9気筒(離昇出力280馬力)×1基
 最大速度; 178km/h 
  武装;  7.7mm機銃×1
  爆装; 200kgまで
  
              
    


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