■□ norn □■   ルーファス×アリーシャ(ヴァルキリープロファイル2)
1    2(成人向)    3(成人向)

 「あの日」以来、またひとつなにかを抱え込んでしまった。
…あの日、あの濃密な時間のことを思い出すだけで、アリーシャは顔から火が出て燃え尽きそうなほどに強い羞恥心とその中に潜み蠢く感情が表に出そうで困ってしまう。だけどもうひとりの当事者のはずの緑の髪の半妖精、粗野なふりしたもうひとりの「抗いしもの」…ルーファスは普段とまったく変わりない。
アリーシャはその端正な横顔すら見上げられなくなってしまったのに、彼は当たり前の声で、顔で、以前と同じに何かといっては話を振ってくるから困ってしまう。
 まるで自分という個が一度徹底的に破壊され再び組み直されたかのような違和感。
見た目は以前と変わりなくても、中がどこか歪になってしまった。
これが女になる、ということなのだろうか? 愛する男に抱かれ花開く、などという書物の中の他愛ない恋愛小説のような世界はアリーシャには存在しないはずだった。けれどそれは不意に与えられ、目の前で実の父の首を刎ねられた不幸を目の当たりにしその記憶も癒えていないと言うのに、頭の中はそれをひとまず棚に上げてしまわないことには身動きひとつ取れなくなるようなことがひしめいている。
 それなのに、考えなければならない問題は相変わらず山積しているのに、あの日あの時間がアリーシャを支配し侵食し続けているから、物事に猶予はないのになかなか前に進めずにいる。
…愛しているけど、渾身の力を込めて殴りたいほど憎い男。女の許しも得ずに生娘を拘束し弄んだ挙句に力ずくでその体を抉じ開けた。自我が壊れそうな快楽と引き裂かれ汚される心身双方に与えられる苦痛を短い時間にアリーシャに叩きつけた男。
その横顔は繊細ですらあり、風に踊る長い髪は彼が人間ではないことを如実に物語っている。
人間の男がどんなに繊細な面差しを持っていても、妖精族のそれに及ぶものではない。
アリーシャがほのかな思いを抱いた相手は、人間と妖精族の血を半分ずつ持ち合わせる神の依り代。凛々しい青年の姿をした美丈夫。
そんな彼の手でアリーシャが無理に女にされたのは数日前の話。
記憶が褪めるにはあまりにも時間が足りなさすぎる。


「………………はぁ。」


 アリーシャは簡素なつくりのベッドの上で寝返りを打ち天井を見上げてため息を漏らした。
またいつの間にか眠っていたらしく、記憶はいきなり飛んでいる。寝汗もかなりひどい。
つい先日、今のようにいつ寝たかすら覚えがない状況でひどい目にあったというのに、どうやら自分は学習しないらしい――――そう自虐的に頭の中で思っただけのため息、部屋の中は薄暗く、窓の向こうは夜の帳が降りていた。
ほのかに明るいのは表の家々と彼女がいる宿の他の部屋の明かりが差し込んでいるからで、夜ではあるが時間はそう遅くはなかったらしく、また部屋の中に彼女以外の気配も感じない。
アリーシャはいつまで経っても苛烈な戦いの日々に慣れ切れずに、町の宿屋に入るとたいてい泥のように眠ってしまう。それも仕方がない、かつては人の少ない古城に幽閉同然に無為な時をすごしていた。なのに突然放り込まれた激動の日々、彼女を取り巻く状況は瞬間ごとに変化する。
 天井に届くはずもないのに手を伸ばしてみる。
アリーシャの意識を瞬時に引くのは、左手の薬指に深く輝く約束の赤い石。それは彼女を守るという約束の証でもある。
目指す先が同じだった見目麗しく強い青年に幾度か力強い言葉をかけられて、アリーシャはいつしか彼への同調が恋心に変わった。けれど彼女はあまりにも世間を知らなさすぎてあどけなくて、憧れだけではなににもならぬことを同じ男から思い知らされた。
元は彼の所持品だった赤い石の指輪は、今では束縛の呪具に等しい。蹂躙され従属させられたのは目をそらせない現実なのに、彼が突き立てたあの楔の熱がいつまで経ってもアリーシャのそこから消えないままでいる。
ふとした瞬間、一瞬だけ微笑む形を見せる彼の唇に、考えるより先に舞い上がりそうな自分が嫌になる。
 ただ、今日は、今夜は違うのは、アリーシャが先に目を覚ましたことと、着の身着のままという無防備極まりない様子ではなく寝間着を着てきちんとベッドに横たわっていたこと。
食事もそこそこに埃だけを熱めの湯で流して、そこまでは覚えている。人の肉体を捨てても人だった頃にありがたかったものは何もかも変わらずにありがたくて、瑞々しい肌を思い出させた熱い湯も今彼女を抱き包み込んでいるあたたかいベッドも、人だった頃と同じに心地よかった。
 時間が早いということは、おそらく男たちは町の酒場に繰り出しているのだろう。アリーシャが人だった頃に好きだったものを変わらずに好きでいるのと同じ、彼らもそれぞれに人の肉体を捨てざるを得なくなろうと、嗜好が劇的に変化することはない。大柄な重戦士のアリューゼなどは、その豪快な性格から簡単に想像がつくように酒好きで、町に逗留するたびに酒場で気がすむまで飲み明かす。
それが彼の気晴らしで、旅暮らしが長いルーファスも半妖精という繊細だろう種族の割にがさつで荒っぽい面も持ち、酒も飲めない口ではない。アリューゼにつきあいいつ宿に戻ったのか、とアリーシャに思わせるようなこともたびたびあった。
 …何か思うごとに、ルーファスにつながってしまう。
それは前も変わらずそうだったけれど、前は思い出すだけで、想像に遊ぶだけでアリーシャはなんとも言いようのない満たされる感覚でいっぱいになった。でも今は違う、あんな男、と思うのと同時に、以前よりも強く自分が満たされてそれだけでは何か足りないような、真逆に何かがあふれて破裂しそうな、言葉にしづらい感情で小さな体があふれそうになる。
おそらく多くの少女は多くの人間と関わることで当たり前に今のアリーシャの境遇をあっけなく通り過ぎるのだろうけど、彼女は違う。閉じた時間軸、小さな箱庭とわずかの世話人そして生まれた時から彼女の中にいた戦乙女、それが少し前まで彼女の世界のすべてだった。
そこから飛び出してまもなく憎くて愛しい彼との邂逅を向かえたのだけれど、それもこれもアリーシャは消化しきれないまま存在するより他はない。
当たり前だけど時間は彼女の都合で流れてはいない。こんなどろどろした感情や蠢き続けるそれらと折り合う術をアリーシャは知らないまま人ではなくなった。
 こんなとき、普通の少女ならどうするのだろう? 彼にどんな顔で、なにを言うのだろう?
自分の中で蠢く熱をもてあますから、アリーシャは必要以上に消耗してばかりいる。
あの男に憎まれ口のひとつどころか山ほど叩きつけてやりたいけれど、見上げるととたんに言葉が姿を失って何も言えなくなってしまう。緑の瞳を、唇を、そして目をそらすと指先ばかりを見てしまう。
その唇に指に何をされたかばかりを思い出して自分の中の蠢く熱を膨れ上がらせてばかりいる。
アリーシャはまた自分をもてあましながら勢いよくうつぶせになり枕に顔をうずめた。
 思い出したくないのに、ことあるごとに思い出す。ひとりになるとなんだか肌寒くて、彼が目の前にいればそれはもう、直接的に。
ひとりでいた乙女に人の肌、他人の体温は心安らぐものだった。ひとりではない心強さ、といえば適切だろうか。それはある時までは男女関係なく頼もしく、安らぐもので、心強いという言葉の意味を知った。
手をつなぐだけで救われたなんて、おそらく自分以外のものには理解しがたいものだろうと思う。アリーシャは当たり前に与えられるものを与えられぬまま成長したから、ただ無防備に無邪気にふれあいを喜んでいた。
だけど彼は違ったらしい。

 ルーファスは更なるつながりを求めアリーシャを力ずくで我が物にした。

 どくん、と自分の鼓動がひときわ高く聞こえる気がする。その感覚はまだ記憶に生々しい、ルーファスに触れられた余韻がまだ残っている。ことあるごとに鮮明に蘇る。
痛みの記憶は無理にでも薄れさせて自分を保ち続けていた、アリーシャはさまざまな痛みという感覚を、自分の感覚を麻痺させることでごまかししのいでいた。けれどどうしても、どうやっても彼から叩きつけられた感覚だけがやり過ごせない。
彼にどうにかしてと乞おうものなら、またあの行為を受け入れなければならないことぐらい、いくらあどけない世間知らずのお姫様でもわかっている。
けれどアリーシャはまだその覚悟が備わっていないから、夜毎身悶えてばかりいる。
 もぞりと身じろいだだけで自分の体の変化に気づく、押し潰されるほどもない胸の頂、あの時ルーファスの指に弄ばれた小さな蕾が固く尖っている。あの時はコルセットで隠していたのを暴かれてまさぐられた、けれど今夜は何も包むものもなく寝床にわずかに擦られただけなのにあの時の記憶も感覚も感触も鮮明に思い出して、アリーシャは唇を噛むことしかできない。
唇を噛んでも痛いだけで堪えきれないからと爪を噛んでみるけれど、それでも堪えられるものではない。

 ああでも。このまま堪えたら壊れてしまいそう。おかしくなってしまいそう。
なんてこと、ルーファスの体が恋しい。抱いて欲しいなんて、そんな汚らわしい。
はしたない。

 頭は、感情では力に物を言わせたルーファスを許せない。何も知らない自分をひたすらに怯えさせそれでも本懐を遂げた彼だけど、アリーシャには消えてしまいたいほどの恥ずかしさと体を引き裂かれる痛みそして踏みにじられた屈辱が鮮明に残された。その時は許せたつもりでいたけれど、やっぱり許せなくて、彼があれ以来求めてこないのをいいことに自分からは一言もそれに触れずにいた。
 でも。一度目覚めさせられた乙女の体はまるで別の意思を持っているみたいにアリーシャの意に反し男を欲しがり疼く。確かに彼を受け入れさせられた瞬間の痛みを思えば彼女は萎縮し己の感情までも拒否するけれど、その前、彼を知る前に施されたあの愛撫に感じなかったと言えばそれは嘘になる。
熱い唇とぬめる舌、細い指で与えられた最初の絶頂に陥落させられた瞬間のことは忘れられない。アリーシャの知らないルーファスの顔、声、吐息――――その艶かしさにたじろぎ先に終わらせられたあの感覚は焼印のように刻まれた。
 たとえば。ルーファスが優しく触れてくれたなら。
そんなことを思いながら、アリーシャの手が己のふくらみをそっと包み込む。当然その感触は彼の手のひらに包まれたあれとは違うんだけど、アリーシャは思い出したくないはずの記憶を思い出しながらふくらみをおずおずと、彼の手つきを真似て自分の胸を揉みしだく。固い蕾が手のひらですれるたびにあの感覚が体を駆け抜け、それだけで手が止まらなくなる。
先を求めてしまう。
 ルーファスは舌まで絡むキスをしながら指先でアリーシャの胸の蕾を弄んだ。今夜はそれを思い出しながら、アリーシャは己の手で己の体を慰める。唇を噛み声を押し殺して蕾の先を指でそっと撫でるだけで体が跳ねてそれ以上の快楽を欲しがって…悔しいけれど、見抜かれるよりはまし。
あの嗜虐的な、歪んだ笑顔で見下ろされるよりははるかにまし。
「ルー…ファ、ス……っ…」
 彼の名を口にしただけで、体の奥で蠢いていた熱が膨れ上がる。ここにいるはずのない幻影に犯されるみたい。
アリーシャの手は自分の胸に食い込む勢いで撫で揉みまわし尖った乳首を指先で弄ぶ。彼女に覆いかぶさるルーファスの幻影は彼女の勝手な妄想が生み出したから、彼女に都合よく優しくて、彼女の欲求に的確に応える。アリーシャの右手が躊躇なく下着に滑り込むとそこはもう蕩けるみたいに熱くて蜜があふれていて、肉欲に呑まれたアリーシャはあの時ルーファスがそうしたのを無意識に真似ながら、たった一度だけ男を受け入れた入り口を探りかき回す。
「痛っ」
 加減を知らない指が彼を真似て動いても真似できるはずはない。力ずくでアリーシャを抱いた彼だけど、女を多少なりとも知っている男は、彼女に与えるのは喪失の痛みだけ、とそれに至るまでの愛撫は嗜虐的で淫蕩な反面優しく繊細だった。
そこには確かにアリーシャを大事に思う彼が存在していた。
それでも、彼の抱える葛藤に思いが及ぶことなく真似事すらできなくても、アリーシャの指も自分の入り口を探り当て、とめどなく蜜をあふれさせているそこにルーファスがしたのと同じに指をうずめてゆく。
「あ、あぁぁ……!!」
 そう。この指は細く長い男の指。ルーファスの体。
アリーシャの意識は完璧に摩り替えられ、今彼女に触れているのは彼女自身ではなく幻想とはいえルーファスその人。
あの時とは違い、素直に快楽に身を任せられればこんなにも甘美だったなんて思ってもみなかった。
アリーシャは這いつくばるみたいにうつぶせのまま腰だけを浮かせ蜜壷に指を挿入し、ぎこちなく抜き差しを始めた。ルーファスはもっと別のことをしたのだけれどそんなことは消し飛んでいて、少々嗜虐的ではあったけれど丁寧にほぐされてからの指の挿入とは違いやはりわずかな違和感がはっきりした痛みとして彼女に訴えたから
「ルーファス…ルーファスぅ……」
 彼が与えた快楽とは明らかに違う。彼の指だと思いながらの自慰行為だけど明らかに別物になってしまった。
無意識のうちに何度も愛しい男の名を繰り返しても彼はここにはいなくて、じれったいそれにアリーシャの腰は頼りなく淫らに誘う動きを見せながら揺れてばかりいる。
「ルーファスぅ…抱いて…あんなじゃなく…もっと優しく……」
 自慰行為の中淫らな呼吸を浅く速く繰り返す唇からこぼれてしまったその言葉が彼女の本音。彼女の同意を得つつ丁寧に、優しく行為に及んだのなら、アリーシャももう少し違った態度を取ったのだろうが、すべては事後で判断されて彼女は愛しい男を同時に憎むようになった。
それでも熟れ始めた女の性は男の味を覚えてしまうくらいの快楽を最初に与えた男をまた欲しがる。しかし最初が間違った男を、体裁も何もかもをかなぐり捨てすがるには、アリーシャは気位が高かった。
己の体の中でもっとも丈夫で繊細な場所を乱暴にかき回しながら、アリーシャはいつの間にかすすり泣いていた。

「…悪かったな、無理やりで。」

 吐き捨てるみたい、唐突に聞こえた押さえたその声に、聞こえるはずのない声に、アリーシャが固まった。
「これでも悪かったって思ってるから我慢してたんだぜ。」
「あ、あ、あぁっ……!?」
「でもま、して欲しくてひとりでするぐらいなら、喜んでお相手しましょうか。
 とりあえず一回終わろうか?」
 いるはずのない男。一番こんな姿を見せたくなかった男。一瞬で現実に引き戻されたアリーシャは慌てて毛布で自分を包むけど、強い男の腕がそれを引き剥がし彼女を引っ張り出した。覆いかぶさられる圧迫感と確かにそこに存在する別の人間の体温と――――アリーシャの小さな手の甲に、長い緑の髪の毛先がさらりと触れて、これは現実なのだとあの時と同じに思い知らされる。
「そのまま、そのまま。一ッ風呂浴びたいところだけど待てないだろ?
 汗くさかったらごめんな。」
「い、や…嫌、やめてっ!!」
「嫌、って…俺のこと呼んでたじゃないか。
 寝間着で肝心なとこ見えてなくても、俺の名前呼んでひとりでしてる様子なんて見せられて黙ってられると思うのか?
 大丈夫だよ、この前みたいに痛くはしないしあれは最初だけだから。」

「嫌!!」

 しばしの間覆いかぶさりながら戯れるみたいな物言いで楽しんでいたルーファスが、アリーシャの短く強い拒否で手を止めた。しばしの沈黙、しかしそれはごく短くて彼の返答は――――
「あぁっ!?」
 あの強引で容赦のない手が、アリーシャの寝間着の裾を風に煽られた時のように逆らえない強さでたくし上げ、下着を身につけたままの丸い尻を露にした。言葉を仕舞い抵抗も拒否も無視して彼女の下着をあっさりと剥ぎ取り、アリーシャの腰を都合のいいように上げさせさらに奥も露出させる。
少し冷たい夜の空気をそこに感じたアリーシャは、あの時と同じに恐怖に支配されていた。
「…へったくそ。」
 けれど、あの痛みは襲いこなくて、ルーファスは呆れたみたいな短い言葉を口にすると、あの繊細な指先でアリーシャの花びらを掻き分けて核心に触れた。
それだけでもうだめ、アリーシャは堪え切れない。小さな体がびくんと跳ねてシーツに爪を立て、彼にそこを差し出すみたいな体勢を自らとってしまっていることを、彼女は知らない。
「爪で引っ掛けたんじゃないのか? 真っ赤になってるぜ。
 慣れないことするから…大事な場所なんだから、扱いには気をつけないと。」
 ルーファスはそう言いながら再びアリーシャの上に覆いかぶさった。言葉の通り彼女のそこは痛々しいほど真っ赤に腫れたみたいな様相を見せていて、細い指先は痛みを与えないようにと配慮しているのか彼女の最初だったこの前よりも繊細な動きを見せる。
へたくそと言われれば普段のアリーシャなら反論せずともたじろいだりむっとしたぐらいの表情は見せるのに、乱暴で心無い言葉とは正反対に彼の指は繊細ですらあるから、触れられたら逆らうことすらままならなくなる。
彼の場合、女慣れしているというわけではなさそうで、繊細さは彼の種族の特性だろう。妖精族の血を半分持つ男は、その容姿や細かな動作などにそれが如実に現れることをアリーシャは知っている。
がさつさや荒事慣れしているのは人間のそれで、…だから、ずるい。
彼自身は蔑まれ続けたと人間にも妖精族にも恨み言を口にする生を送ってきたらしいけど、アリーシャは双方の種族の特性が絡み合い混ざって生まれる独特の存在感から目をそらせずにいる。
今もそうで、繊細な指がアリーシャが傷つけそうだった蜜壷ではなくそれを包み隠している花びらやひくついている入り口、そして少し離れた場所でふるえている女のもっとも繊細な場所を撫でさすりじんわりとかき回す。
その指遣いは、アリーシャのそれとは別物だった。
同時に耳朶も甘噛みされて舌先でつつかれ舐られて、もう抗うことあたわぬほどに彼のことで頭がいっぱい。その先に何があるのかなんて、あの痛みの記憶なんて消し飛んでしまった。
「よし、こんなもんだろ。
 二度目なのにこんなになるなんて、お前って可愛いな。」
 それが合図。進入してきた熱の塊に、ゆっくりと蜜壷に挿入されたもうひとりのルーファスの感触に、それだけでアリーシャは簡単に最なる高みへと舞い上げられた。
「二度目なのに入れられた瞬間にイキましたってか…まさか俺を壊すつもりじゃないだろうな。」
 若い娘の感触に加速度的にその気にさせられたルーファスはあの嗜虐性を現しながら、繊細な愛撫とは正反対ですらある荒々しい律動をアリーシャに叩きつける。しかしそれは待ち焦がれていた彼女には快楽につながる動作でしかなくて、あまりのよさに声すら挙げられず唇からあごにかけて涎なんて滴らせながら身悶えるばかり。ルーファスが腰を突き出すたびにふたつの体がぶつかり合う音がしてそれの間隔はごくごく短く速く、彼が与える快楽にようやく素直に身をゆだねたアリーシャはまだなにやら欲しがり腰を自らぎこちなくくねらせる。
しかし思うように動かせないルーファスの手が彼女の尻に細い指を食い込ませ捕らえると、さらに奥、アリーシャの最奥を抉じ開けるかのごとく深く、深く己を突き刺し続けた。
 やめて。痛い。壊れる。
喪失の痛みほどではなくても、本来抉じ開けられることはない場所への激しい責めにアリーシャは拒否の言葉を口にしたいのだけど、最初と同じに声が封じられたみたいに言葉にできない。拒否の言葉を封じられてしまえば男はそこの反応ですべてを判断する、アリーシャのそこはきつくきつくルーファスをくわえ込んで慣れないなりに蠢き喜んでいて、それは男からすれば「応」の反応でしかなかった。
「男どころかこれを知るのも遅かっただけあるな…ちょっと教えればすぐ喜んで覚えて欲しがるなんて、ホントお前っていやらしいなぁ。
 よかったら素直にいいって言っていいんだぜ。はしたないとか何とかそんなの忘れちまえよ。
 俺とお前しかいないんだからさ。」
 そんな台詞を愛する男の声で言われれば、女は屈辱と恍惚を同時に感じてしまう。いいように屈服させられ支配され彼女の自尊心をないがしろにされる屈辱と、愛する男をがんじがらめに己の存在に束縛する充足感と――――アリーシャだって例外ではなく女には違いなくて、清楚で臆病な乙女との違和感がルーファスを混乱させ困惑させそして陥落させた。
彼女は己が力で支配され汚されたと男の都合に振り回されたように錯覚しているけれど現実は違う。
ルーファスも彼女の持つ魔性にとらわれ引きずられそして膝を折り跪かせられた。
恋だの愛だのは一人で成り立つものではないことを、アリーシャはまだ知らないまま男を先に教えられてしまった。
 すべてが蕩けてもう何も考えられないアリーシャとは違い、経験と生きている年数分耐性が備わったルーファスにも、当然終わりはやってくる。背中から這い上がるみたいな感覚を感じルーファスは己をアリーシャから離そうとしたけれど、急に引き抜かれるそれが彼女の快楽に変わり彼を強く引きとめ、一瞬の躊躇の直後、先にルーファスが、直後後追いするようにアリーシャの体が跳ねた。
 己の胎に男の白濁が迸り満たされる感覚。それは最初の行為とは違っていて、アリーシャはそこですべての理性という理性を手放した。
抑圧され声すら出せなかった彼女の口から初めて漏れた嬌声らしい声に、今度はたった今果てたルーファスの背中に、射精感とは別の何かが這い上がってくる。
彼が気づいた頃には、すでにもうひとりの自分が彼女の中で復活していた。アリーシャも放心しながら、そこはまだ充分応えられそうなほどの感触を残している。

「…もう一戦いこうぜ。」

 男の声で甘く淫らに囁かれ、アリーシャは考えるよりも先にうなずいていた。



「…どうしてそんなに離れているの?」
 あれからさらに二回絡み合い求め合い貪り合ってようやく若い男と女は満足し離れてそれぞれのペースに戻った。二度目ですべて脱がされたアリーシャも寝間着を着て襟元を調えて、ベッドの縁に腰を下ろし背中を向けたままでいるルーファスに素直な問いを投げかける。
最初が間違ってしまったけれど、彼なりの配慮をようやく理解したアリーシャにはもうあれほどに大きなわだかまりはなくて、もし彼が罪悪感を覚えて離れてしまったというのであれば「怒ってないから」の意思表示はしたい。
「許してあげる」ではないあたり自分も頑固だ、なんてアリーシャは思っているけれど、自分で自分を静めようとしてようやく彼の不器用な優しさを理解できたからもう怒ってはいない。
「ルーファス?」
「…いや…やっぱちょいと失礼だったなーって……」
「なにが?」
「いやほら、アリーシャは風呂あがりだったのにまた汗かかせちまったし俺なんて飲むのが先で風呂は戻ってからとか思ってたところのこれだし」
「???」
「…ごめん。次からはしないようにする。」
 どうやらなにか後ろめたくて離れてしまったみたいな口ぶりなのだけれど、アリーシャは咄嗟にはぴんとこない。確かに最中はかなり嗜虐的な物言いをする彼だけど半面行為そのものは荒々しくも繊細ですらあって不満らしい不満はないし、こちらを見てくれないほど後ろめたいことをされた覚えはない。
「…ごめんなさい、どうしてそんなに謝っているのか、わからないわ。」
「…………え?」
 素直じゃない男と違って、アリーシャは比較的素直に物事を捉えて問い返す。実際に彼が言っていることを、謝りながら背中を向けるほど気に病まれるような口ぶりも態度も見せたつもりも出したつもりすらない。
なにより、最初とは違い満たされはしても不愉快とか意に反してという印象は今はもうない。
彼はアリーシャを丁寧に、大事に扱ってくれたことを痛いくらいに理解させられた。
「そんなに何度も謝られるほど嫌でもなかったし、確かに疲れたけど痛くなかったわ。
 …ううん、ルーファス……ごめんなさい、私も今思ってること、どう言えばいいかわからないの。」
「いやそうじゃなくて」
「じゃあ、なに?」
 やっと振り向いたかと思ったら、ルーファスはまた言葉に詰まる。アリーシャには理解できないだろうがそれも仕方がなくて、ほんのさっきまで激しく抱いていた人形のような美しい乙女にあどけなく罪作りに見上げられたら、多くの男は言葉をなくしてしまうのは仕方のないこと。
王侯貴族特有の物言いは確かにアリーシャの中にあり、そう簡単に抜けないとは思うんだけれど…ルーファスもどう言えばいいのか、と途方に暮れた様子を見せながらため息をつき頭を軽くかいた。
「どう言やいいのかわからないのはお互い様か。
 とりあえず次からはなるべく体洗ってから事に及ぶようにするわ。」
「……そう?」
 結局アリーシャは彼が何を後ろめたく思い謝ったのかわからなかったけれど、うまく言い表せないのをあえて追求しない彼がありがたいから彼女も追及しなかった。
「ま、でも…………」
 いつの間にか距離を詰め間近でルーファスを見上げていたアリーシャのあごに、さっきまで彼女を愛でていた繊細な指先が触れて彼女を上向かせる。唇が触れそうな近さでルーファスは独特の妖しげな笑みを浮かべて、まるで囁くみたい、仕切りなおし仕掛けるかのように甘い声をアリーシャに投げかける。
「お前も気をつけろよ。
 これからは誘われたって思ったら遠慮なく仕掛けさせてもらうからな。そんなつもりじゃなかったなんて言われても聞く耳持たねえぞ、俺は。」
 その言葉も理解できないほどアリーシャも子供ではなくなった。妖しげな笑みと甘い声と露骨で荒っぽい誘い文句に、アリーシャは瞬時に耳まで真っ赤になる勢いで頬を染めた。そんな彼女に次することといったら、男ならば決まっているようなもので――――ルーファスは笑みを消しアリーシャのあごに手をかけたまま顔を寄せてゆく。
「っと、さっき言った舌の根も乾かねえウチからやらかすわけにはいかねえな。
 汗くさいだけじゃなく酒くさいまんまで事に及んだんだから、少しは自重しないと。」
 しかしそれ以上には進まなくて、彼の言うとおりアリーシャはかすかな酒のにおいを感じルーファスを見上げた。赤い顔は行為の余韻か単純に酔っただけか?
ルーファスは穏やかに笑っている。
アリーシャは彼の言葉にどう返せばいいのか、いまだに知らないままでいる。
自分の中に生まれた熱の扱い方すらよくわからない彼女に駆け引きなど持ちかけても仕方がないということを、ルーファスは多分気づいているのだろう。
だから、彼女の意向を伺わずに強引に話を進めて事に及ぶ。
 おそらく、彼もそうすることで均衡を崩してしまい存在することで精いっぱいの精神をつなぎとめ保っている。簡単すぎてそれに逃げ込むことが浅はかだと承知の上で、大事なアリーシャとの情事に溺れる自分のずるさを、彼は気づいている。
けれどアリーシャは気づかない。すべてがはじけ飛ぶ瞬間の開放感に、それを与えるルーファスに、目に見える形で依存してしまった。

 けれど、そうしなければお互いに壊れてしまうからそうするより他にはない。


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