■□ 降臨祭 □■
×ロクス、アイリーン他 EDより1年後 ロクス既婚設定
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3 成人向け
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あれから、一年が過ぎた。私は今聖都アララスの仮設の聖堂の中にいる。
『Credo in unum Deum.
Patrem omnipotentem, factorem caeli et terrae, visibilium omnium, et invisibilium.』
信仰宣言――――聖句の一部を読み上げている銀髪の若い男の横顔には覚えがある。
…シルマリル、何してるかしら? 今頃もう別の世界の守護についてる頃かな?
ぼややんとした見かけだったけど仕事はできるし頭もものすごく良かったし、天界に戻ったんだったら位も上がったのかな? 今聖句を穏やかな声で読み上げている彼も私も、同じ天使を戴いてこの世界を守った。
天使シルマリル。位も何も持たなかった最下級の幼い天使。金色の髪の少女の姿をした天使。
私たち…私を含めて7人の選ばれた人間たちが、幼い彼女の代わりに堕天使なんて伝承の中の存在と戦った。そんな大それた仕事は本来四大守護天使が下りてくるらしいんだけど、天界もかなり忙しいとかで人手がまるで足りなくて、戦う力を持たないシルマリルみたいなおっとりした天使まで人界に下りて働いていた。
シルマリルは本当なら書庫の番人とか、そんな戦いとは縁のない仕事をするはずだった、って彼女から聞いたことがある。
『Credo in unum Deum.
Patrem omnipotentem, factorem caeli et terrae, visibilium omnium, et invisibilium.』
私はシルマリルを、2度死んだ姉さんと重ねていた。あの時そのまま天に召されるはずだった優しい姉さん、でも姉さんを心から愛していた義兄のフェインが…道を外してしまった。
…そして姉さんは2度死ぬことになる。
そんなこと、そのままだったら私もフェインもとても耐えられなかった。けれど私が耐えられたのは、シルマリルが現れたから。
彼女はとても優しくて、私のことすべて…怒りっぽい私はもちろんお姉ちゃんのことで押しつぶされそうだった弱い私も、…フェインのことを好きだった私まで、全部、そう全部受け入れてくれて、一緒に泣いてくれた。
…けど、フェインも私も、姉さんの不幸を終らせる資格をたったふたりだけ持っていたって思っていた私たちはどっちも姉さんの最期に立ち会えなかった。立ち会った勇者は――――今、聖句を読み上げている。
ロクス=ラス=フロレス。次の教皇。ううん、もう実質的な教皇。
少しの間行方がわからなかったって言うことだったけど、半年ぐらいして見つかったとかで戻ってきて、もうすぐ教皇になるって話。私と同じシルマリルの勇者だったんだけど、面識もあるんだけど、すごく柄も性格も悪い男だった。普通は成人すれば教皇候補は一人しかいなかったら選出されるはずなんだけど、彼はシルマリルと出会った時数えで23歳、…相当素行は悪かったみたい。
けれど、宗旨替えしたのか、教皇になれるみたい。もっとも癒しの手の持ち主があの人一人しかいない以上、いつかは教皇になるしかないんだけど。
教皇庁ってそんな感じ。魔道士ギルドもいろいろあれだけど、それ以上にひどいって話。
シルマリルは私にもフェインにも声をかけずに、姉さんとの戦いの代行者として彼を指名して一緒に戦ったらしい。あの優しいシルマリルだから、姉妹や夫婦で殺し合いをさせたくなかったんだと思う。
でも…でも………
『Et unam sanctam catholicam et apostolicam Ecclesiam.
Confiteor unum baptisma in remissionem peccatorum.』
今さら何を言っても仕方がない。それはわかってる。
けれどシルマリルは優しすぎて私のことをかばいすぎたままいなくなった。せめてどうして私たちじゃなかったのか、どうしてあの人だったのか、それを訊きたかったけど訊けないままさよならさえ言えなかった。
そのうち忘れるって思ったけど、彼女がいなくなって1年も経つのにまだこうして考えることがあるから、私は自分の気持ちを整理したくてここに来た。
シルマリルにもう訊けないんだったら、あの人に訊く。姉さんの最期に立ち会ったただ一人の人間だから、遺族の私には訊く権利がある…って思ってもいいよね、シルマリル?
だってあなたは何も言わずにいなくなっちゃったんだから。
『Et exspecto resurrectionem mortuorum.
Et vitam venturi saeculi.
――――Amen.』
ねえシルマリル…あなたは今幸せなのかな?
「…久しぶり。まさか訪ねてくるとは思わなかった。」
一年以上ぶりの彼の最初の言葉はそれ。初対面の時はものすごい紳士だって思ったけどそれは誤解、ううんこの男が猫をかぶってただけ。いつついたのか知らないけど右目の所に傷がついてて性格の悪さが表に出たみたいな顔してるけど、こんなでも次の教皇になれるんだから不思議でしょうがない。
「見ての通り来月に降臨祭が行われるんで僕らはてんてこ舞いだ。
それでも訪ねて来たってのはそれなりの用事があるんだよな、元天使に仕えていらした偉大なる魔女様?」
「…悪かったって思ってるわよ。だって降臨祭なんて新しい祭をするなんて知らなかったんだもん。」
「想像しろ。
天使様がご降臨なされてこの大地をお救い召された記念すべき日だ、普通なら祭があって当然だろうが。」
う……相ッ変わらず嫌な男…。確かに私の都合で祭の準備で忙しい最中に教皇に面会の申し込みなんて空気読めてないと後から思ったけど、知らなかったんだから仕方ないじゃないの。
ロクスは不機嫌そうな顔で私を指差して、いきなり小ばかにしたみたいな台詞を吐いた。
「だってそんなのシルマリルが望むわけないじゃない!」
でも私だってやられっぱなしなんて嫌。それにシルマリルはそんな遊び好きな天使じゃない。
私はホントの用件も思わず一瞬忘れてロクスに噛みついた。
「彼女の許可は取りつけてる。」
「………………え?」
私は耳を疑った。ロクスの言葉を丸ごと信じれば、彼はあのあとシルマリルに会った、ってことになる。
シルマリルが天界に戻れば、もう下界の人間の私たちとは交流なんてできないはず、なのに…どうして?
「祭を行うのに名目が必要ならご自由にどうぞ、ってことだ。
シルマリルはお前と違って広い胸の持ち主だからな。」
「…それを言うなら広い心、でしょ。
でも、いつシルマリルとそんな話したの? やっぱり神の代行者は扱いが特別とか?」
「…ロクス様、次のご予定が……。」
「あ、ああ。そうか。
…このままだと僕の短い休憩が君の質問でつぶされそうだ。悪いが今日中に使いを出すから今のところは出直してくれ。」
「あ、待って!」
シルマリルの名前を聞いても彼は顔色ひとつ変えなかった。それが教皇って立場なの?
あなたが望めば会えるものなの? ロクスの口からは何も聞けないまま、私はその場に取り残された。
そう…よね、相手は教皇…エクレシア教国の象徴、だもの。国王に等しい立場、聖職者の総帥…本当なら、面会するだけで大変…よね。
彼はあとひと月でこの国を背負うことになる。すべての罪は天使を戴きこの大地を救ったことで相殺されて、彼は教皇の椅子に縛りつけられる。今はその準備でとにかく忙しい。
…わかってたことなのに。
私は彼の態度にばかり怒っていたけど、彼は私を軽んじていなかったことをいなくなったあとに思い知らされて泣き出したくなってしまった。
こういうのが大人ってものなのかな? シルマリル、あなただったらどう思うのかな?
シルマリル…会いたいよ………。
「シルマリル、夕方抜け出すからそのつもりでいろ。」
「…どうして窓からなんですか、ロクス?」
「急ぎだから。」
「ドアって何のためにあるか知ってます?」
「真正面からぶち当たっても追い払われるから、僕にとってはここがドアだ。そっちは飾り。」
「まったくもう…で、夕方がどうしました?」
「珍しい客が来たんだ。で、夕方に約束をした。」
「夕方、って…あなた寝る暇も惜しんでコンクラーヴェの準備をしていたのでは」
「どう考えても優先すべきは人間だろ?
一日遅れたぐらいで台無しになる教皇選挙なんて何の意味もない。」
「あなたらしいと言えばあなたらしいですけど…。」
「それでだ。報告ついでに聖女様の祝福を受けに来た。」
「はい?」
「…キスしてくれ。」
「いやです。早く戻ってください、困ってる人がきっといるんですから。」
「してくれたら走って戻る。もたついてるとそれだけ遅くなるぞ?」
「そんな子どもみたいなわがまま……私にどうしろと」
「だからキスしてくれ。――――さ。」
「しょうがないんだから…。」
「ロクス、戯れはそのくらいにしておけ。」
荘厳なるその声に、俺は思わず固まっちまった。せっかくキスしてくれそうだったシルマリルも耳まで真っ赤になって口元を隠しちまった…相変わらずの野暮ぶりだ、このおっさんは…。
「も、申し訳ありません副教皇。あの…そのっ……」
「聖女シルマリル。」
「え!?」
「聖女として崇め奉られているあなたが、たとえ事実上の夫になる男だろうとやすやすと唇を許すなど…。」
このおっさんは俺がなかなか話を聞かないことをよーく知ってるから、耳を貸さない俺なんてほったらかして、俺たちに関わるお小言はいっつも分別のあるシルマリルにぶつけやがる。
それがさっきの拒否の理由だと俺は踏んでる、…以前の彼女なら俺の顔見ながら紅くなりながらでも素直に応じていた…と思う。
「俺からねだりました。…彼女は悪くない、説教は俺だけにしてもらえるとありがたいが。」
「…ロクス。たとえ教皇だろうとかつて天使だった聖女をただのご婦人と同じに扱うなど、いったい何を学んできたのだ。下僕たる我々には相応の振る舞いと言うものがあるだろう。」
「振る舞い、ね…俺と彼女が男と女でも表向きは装ってろ、そういうことですか?」
「ろ、ロクス!」
「そういうことだ。あとひと月辛抱すれば、お前は何もはばかることなく妻帯したままで教皇位に昇るのだから少しは辛抱しろ。お前は昔から辛抱ができなくて…」
「彼女のことは2年近く辛抱しました。俺としちゃたいしたもんだと思うけど。」
「それは聖女が天使だったからであろう。天使の翼を汚した男など何があろうと教皇には迎えられぬどころか教皇庁のすべてを投じて抹殺せねばならぬ、…お前に分別があって助かった。」
「…かなり無分別だったけどやっちゃまずいことだけはわかってたもんな。」
教皇庁ってヤツは複雑怪奇で面倒なことだらけなんだけど、親元じゃなくここで大きくなった以上俺に自由はもとより選択肢なんてない。シルマリルの勇者として目的を遂げたあと、俺を選んだ彼女を連れて駆け落ち同然に逃げまくったこともあったけど結局捕まっちまって今の状態、…ただ、副教皇が…聖都が落ちた時、俺たちが逃げた先、川向こうのレーンディアの教会で偶然シルマリルを見かけたらしくて、彼女の手を離さずに聖都に連れ戻された俺と連れて来た女の顔を見て…フン、俺にかける首輪としてはうってつけだったってことだろう、特例と言うことで妻帯者が教皇位に昇ることになった。
普段は白い手袋をしてるから表には出ないが、俺は左手の薬指に銀の指輪をしている。シルマリルも同じ指輪を、同じ位置にしている。
聖職者の中にも、地方の教会などには妻帯者がいることもある。しかしさすがに教皇位という最高峰の立場には穢れなき身が求められるが――――そんなもの俺に求めるんだったら無駄でしかない。俺はすでに女を、それも複数知っている。両手両足でも足りない。
しかし「癒しの手」が必須条件だからつべこべ御託並べても俺以外に資格はなくて、だが空席のままでは差しさわりがあることはこないだの戦乱で見事に露呈してみせた。理由はあとからどうとでも付け足せ、がこの世界のやり方で、とにもかくにも俺はシルマリルと引き離されるぐらいならまた逃げてやると開き直ってようやく覚悟の程が伝わったらしい。…一月後には教皇選挙――――コンクラーヴェが行われ、そこで俺は教皇の座に昇ることになった。
選挙だからと対抗勢力が必要とは限らなくて、一人しかいない場合その資質や資格を問われる。俺は一度、成人してからのコンクラーヴェを見事にしくじってるからこれで二度目だったりする。
そりゃそうだ、酒と女と博打に明け暮れる教皇がどこにいる? 資質以前の話だ。その頃から比べれば相当ましになってるだろうとは思うし、酒はともかくとして博打はシルマリルの謀略で見事に封じられたしあの野郎とのこともあるからもうやろうとは思わない。女に関しては…恥ずかしいことに、シルマリルにベタ惚れ。とにかく彼女が可愛くて仕方がなくて、他の女性の事を考える余裕を失った。
俺はすでに妻帯者として扱われている。筋書きとしては聖都から追い出されたあとに聖女様と出会い数々の奇跡を目にして俺が彼女に惹かれて結ばれて…そして、あの戦いに赴いた。そういうことになっている。
シルマリルの奇跡の認定は、聖都陥落のあの時にレーンディアの教会で祈りを捧げたシルマリルのそれに応えて天使がご降臨なされた…そういうことになったらしい。奇跡の立会人が副教皇自身と言うこと、あと教国のそこここで俺と彼女が一緒にいたことなどが踏まえられて、誰も異存を唱えなかったらしい。
副教皇自身が目にした奇跡、目撃者が彼だけでも誰も疑うことなんてないというか言い返せるだけのヤツはいなくて、シルマリルはあっさりと聖女として暫定的に教皇庁に認定された。
当たり前だ、聖女も何も、祈るだけで奇跡を起こす天使だったんだから。ただ今の彼女は人間の女性で、神の威光などはすべて天界に返すこと、己のかつての偉業はすべて封じること、それが俺を選ぶ時の条件だということでありのままを奇跡として申請するわけには行かなくて、副教皇と、少しだけ俺が噛んで筋書きを書いた。
「…聖女シルマリル。」
「はい?」
「このような物言いをするが、根は悪い男ではない…ということはあなたがおそらく一番ご存知かとは思うが、何しろ無鉄砲が服を着ているような男でな。しっかりと手綱を握っていていただきたい。」
「それはもう。彼の無茶にはずいぶん泣かされました。
副教皇のご心労は察するに余りあるものがございます。」
「こらお前、戦う力もないくせに大それた仕事まかされてべそかいて俺に頼み込んできたあの日のこと、俺は一度も忘れたことないぞ。」
「天使である私が一緒なら心強い、そう聞いた覚えはありますけど?」
「もう尻にしかれておるのか、お前?
まあ世の男はそれが夫婦円満の秘訣だとも言うからいいのかも知れぬが。」
「…頭が上がらないだけだよ。」
こんな言い方をされると、さすがの俺も居場所がない。こいつらはそれを見越してお互いに言い合っていると思う、…とっとと仕事に戻れ、って暗に圧迫してきやがる。後見人みたいな副教皇はもう長いつきあいだけどたった3年ぐらいでここまでシルマリルにも手綱を握られて、俺は尻にしかれちまうのか?
…冗談じゃない。
俺はこんな話の中へらへら笑っていられるほど図太くなくて、思わずふたりに背を向けて壁に背中を預けてそっぽを向いた。どんな顔をしていようとこいつらなら容赦なくつっこんできやがる。…どっちも性格悪いんだ、俺なんか可愛いもんだ。
「じゃあ俺は役目に戻りますから後は当人のいない所で思う存分悪口大会を開いてください。
…シルマリル、覚えてろよ。」
「ロクス、選出前に吉報をもたらすでないぞ。」
「さぁて、ね…コウノトリにでも相談しておいてくれ。」
「いいかげんになさい。」
「って!!」
こきゃ、と首が嫌な音をたてる。シルマリルのヤツ…俺の頭のてっぺんと顎に手を掛けて2時間分ばかり時計回りに回しやがった! こいつはこうやって平和に暴力的に訴えやがる…そして思い出すのはこいつの決め台詞
『今日こそはキャンと言わせる!!』
…いつでも言ってやるって何度も言ったけど言いたいはずもない俺がそれを言ったことはないが、思わず言わされそうな場面は何度もあった。けど今回も咄嗟に声を飲み込んで言わずに男のプライドだけは守り通す。
「副教皇、今はまだ兆候はありませんので…私もコンクラーヴェの前にそういうことが発覚するのはあまりにもあまりだと思っています、今は寝床はもちろん私室も別にしていますからこのくらいで許してあげてください。」
「おいあっさりと赤裸々に語るなよ。恥ずかしくないのかお前?」
「恥ずかしいも何も、懐妊は夫のいる女性なら珍しくない話題だと思いますよ。
副教皇はあなたの後見人と言うよりも、聖職者のあなたのお父上のような方だと思ってますから。」
「俺は恥ずかしいんだ! …ったくそういうことだったのか……」
そう、俺はここひと月近く…いやそれ以上彼女に触れてない。それが積もってのさっきのキスの誘いだったんだけど、こいつ…そういうことだったとは。
まあ人間なら当たり前の話なんだけど、…俺が父親? 冗談よしてくれ、まだそんな歳じゃない。
俺以上に16、7にしか見えないシルマリルが二十歳前に母親になるなんてもっと考えられない。
俺の二十歳前頃はー…やめた。思い出したくない。
そこでハッと気がついた、俺はまだ覚悟が甘いってこと。
ただシルマリルが好きで手放したくなくて必死のあまりに駆け落ちごっこまでやらかしたけど、そう…男と女なら、めぐりあわせ次第でシルマリルは懐妊する。それは考えるまでもなく俺の子だ。
でも俺は…この通り、自分が父親になる姿を想像することさえ拒むくらい。しかしシルマリルは当たり前のことのように身篭る可能性を考えて振舞っている。…どっちが子どもなんだか。
俺はいつもこうだ。大人になったのは見かけだけ、中身はちっとも伴っちゃいない。
それを思い知らされて反発ばかりして今のこれで、周りの手を煩わせて結局何一つ出来てやしない。
今だってそうで、俺のツケは全部シルマリルに回してる…見かけを裏切る有能な天使様、最下位にありながら世界を救うほどの知略を内包する天使様の振る舞いに隙などあるはずがない。
「ロクス?」
「あ? ああ…戻るよ。」
「ごめんなさい、さっきのあれ、痛かったですか?」
「いや、肩こりがひどかったからすっきりしたぐらいだ。気にするな。」
いつもこう、不意に自分のことを思い知らされて俺は途方にくれる。以前なら反発もできたけど自分の本音に気がついちまった以上それもさすがにできっこない。いろんなことをさらけ出して、そう、醜態までさらけ出して押すも引くもできなくなってようやく素直に謝る気になって――――醜態をさらけ出す頃にはさすがに自分が何を思ってるかに気がつく、俺はこんななりしてシルマリルに甘ったれてただけだ。
親よりもつきあいが長い副教皇でさえ俺を見限っても、彼女は俺を信じて…俺が押し倒したあの夜のことだって、彼女は逃げずに押し倒されながら俺を見上げてた。
『何を私に望んでいるのですか?』
何を望むの?と問われてつい口を滑らせそうになった…お前だ、って。
「――――じゃ、またあとで。」
「え…ええ。いってらっしゃい、ロクス。」
すべてを手に入れても俺はこの通りわがままですぐ次を見つけちまう。シルマリルがほどほどに手綱を取ってバランスも取っている。もう、この手は解けない。
俺はずっとこの小さな手に依存してすがり続けている。…これも、愛といえるのだろうか?
俺はいつも自分すらもわからなくなる。
「いってらっしゃい」――――帰る場所は彼女の元、望むとおりになった今でもまだこんなに迷ってる。
「…またふてくされたままで行ったな。あれはいつまでたっても子どものままだ。
見掛けが美しく大人びているから誰もが騙されるが…私のように幼い頃からのつきあいの者や、聖女のように真実を射抜く者の前で丸裸にされて途方にくれる。懐かしいほどに変わっておらぬ。」
「ええ…私もこの通りの幼い見かけのために最初はずいぶんとからかわれましたが、あのひとは大きな子ども…子どもが当たり前に受ける愛を受けずに育って、自我の枠が整わないままにまわりが彼のことを決め続けてしまってその差を埋められなくなって。
大きな爆発、何度目なんでしょうね。最後のそれにちょうど私が居合わせて、彼は私の何が気に入ったのか今こうして彼の数少ない理解者としてここにいる…」
「さすがは聖女、矮小なる人間のことなどお見通しか。」
「いいえ副教皇、先にあのひとを好きになったの、私なんです。
いろんなことを、私の無自覚さをとにかく心配してくれていろんなことを教えてくれて、男性として守ってくれました。ここだけの話、私あのひとの寝込みを襲って唇を奪ったこともあるんですよ。」
「なんと…!?」
「命がけで守ってくれたことが嬉しくて、つい。
多分あのひとは知らないと思いますけど、しばらくの間ばれやしないかなんてどきどきしてました。」
「これでは男はたまらぬな、特にロクスのような不実な振る舞いの男ならなおのこと。
聖女のような清楚な美女がひたすらに信じてくれているのだから…。」
「あの人が自分の顔を利用したのと同じに、私も自分の女性を武器にしました。
結局似たもの同士なのかもしれません。」
「お互いに不器用極まりないところが特にな。」
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2008/05/05 暫定的に完成 / 05/11 サイトにて公開
途中「物置」にて途中まで公開。
ロクスに首輪をかける話です。友好度の高い際の通常EDでは大陸を放浪する彼ですが、あの無鉄砲な男なので
一 度 駆 け 落 ち カ マ し て く れ 。
…ということで「聖職者の葛藤」「ささやかな悩み」と相成りました。
けどベストEDとはかけ離れていることだし収拾もつけてみたいしアイリーン可愛いよアイリーンと言うことでこの話を書き始めました。
この話、特に最初ではむしろロクスはいじられる役でアイリーンのための話かもしれません。
もうひとり誰か勇者を絡めてみたいけど誰にしよう。
そんなことを思いつつ。