■□ 降臨祭 □■
×ロクス、アイリーン他 EDより1年後 ロクス既婚設定 成人向け
        

「…また窓から来た。あなたのドアはそこなんですか?」
 夜もとっぷりふけた頃、自室で寝ようとしていたシルマリルが開口一番辛辣な台詞をロクスにぶつける。
彼女の言葉どおり、女性の部屋の大きな窓をあけて堂々と侵入しようとしていた不審者――――いきなり先手を打たれたロクスも鼻白むことなくあの柔和そうな人の悪そうな笑顔を消さずに窓の桟に足を掛けたままシルマリルを見ている。
「昼間の副教皇の態度でよーくわかったからな、それにこうして忍び込むってのもなかなかいいシチュエーションだ。」
「納得したらさっさと入ってください。
 僧兵の皆さんから不審者扱いされて捕まえてみたらあら教皇様、なんて笑い話にできません。」
「そりゃそうだ。失礼。」
 あの振り回されてばかりの幼いシルマリルがずいぶんと言うようになった、彼女の指摘はもっともで、ロクスは慌てて窓から部屋の中へと滑り込む。それだけではなくシルマリルは翼を返し失ったけれど、彼女を見初めた男の立場ゆえにそれは大事に教皇庁により保護されていて、それだけではなく奇跡の行使者、聖女様として修道女たちとは違う扱いを受けている。
…彼女と次の教皇を引き離そうとしては、この男が何をしでかすかわからない。ようやく教皇になるだけの覚悟もできて選出の儀式の準備も進んでいる中刺激してまた逃げられてはもう捕まえるだけの余力もないし何より選出の儀を失敗する、多くの高位の聖職者たちはまるで腫れ物を扱うかのように教皇とこの出自のわからない小娘を扱っているのだけれど、彼らに都合のいいことにこの小娘はその見かけどおりに従順で扱いやすかった。
「ふーん…さすが教皇庁、聖女様のご降臨ってことで気合入ってるなぁ。」
「え?」
「内装に金かけてるなってことだよ。一度駆け落ちした教皇の女に対する扱いじゃない。」
「またそんなひねくれた物言いをする…。」
「まあ天界で美しい内装に囲まれていただろう君にはピンと来ないだろうが、聖女様とはそれだけ重要な位置にあるってことだ。なんたって奇跡を起こす女性だからな、それも教皇庁により認定されないことには背教者扱いされかねない。
 それなのに突然現れて満場一致ですんなり認定、副教皇のお墨付き。
 …僕のシルマリルまで利用しようなどとはつくづく嫌になる。」
 ロクスは深夜の入口と言うことで法衣は纏っていなくてまるでその辺で遊び歩いている青年のようで、しかし中身はもちろん彼だから、高位の僧侶たちのどす黒い腹の中まで見抜いてしまい彼女のための椅子に腰を下ろしながら己と彼女の扱われ方に思わず毒を吐いた。
「…ってこの椅子低いな。
 ああ、君に合わせてるのか。道理で小さいと思った。」
「…見ての通りですから。
 それと、副教皇のことをそんなに悪く言うのは…厳しいけれどいい方じゃないですか。」
「素直な君ならそういう見方もするだろうけど、あいにくと教皇庁ってヤツは君たちが思うほど善なる城じゃないんでね。…俺が要らなくなればいつでも切り捨てるだろうな、教国を守るために。」
「ロクス……。」
「まあ君はその素直さを喜ばれるし、事実奇跡の行使者として副教皇もその目で見てるんだから僕みたいに見限られることはない。その点この手のひらには感謝してる、僕がいなくなろうと君を守ることはできるんだから。」
「…そんなこと言わないでください。私はあなたに何があろうと、その行く先についてゆくだけです。」
「……ああ、すまない。僕としたことが…少し神経質になっているみたいだ。」
 いつもと同じにシルマリルにたしなめられて、ロクスがようやく少しだけ素直になる。裸の彼と少しだけ装った彼――――「俺」と「僕」の混在の比率が増えていることに気づかないシルマリルではなくて、だから窓から不躾に来た闖入者を無碍に追い払わずにちくりとやっただけで招き入れた。
それにしても何を思って法衣を着ていないのだろう? シルマリルはそれをいぶかしく思っている。
確かに法衣そのものは街中でなら目立つけれど、ここは「聖都」アララスで、しかも教皇庁の敷地内。
…法衣の方が目立たないというか、十字を身につけていないとそれだけで悪目立ちする。それがわからない彼ではないだろうに…ただ、いつも身につけているクロスだけは首に下げている。
 いつも法衣で身を包みそれを引きずり歩いているようなロクスが、首まで隠れる薄手の黒いシャツとすらりとした黒いズボン、足元だけは普段使いの短靴。それはもうすぐ教皇の座に上る男のいでたちには見えないけれど、このまま街に出ればどうなるか…シルマリルはよく知っている。
男性として壁を作る法衣を着ていても女性に囲まれる彼がこんなすらりとした立ち姿を見せていたら、女性の方が放っておかないのは目に見えている。
けれどロクスは美しい花の誘いに乗る蝶ではなくなった。結局本質がそう簡単に変わらない、変われない教皇庁をまざまざと見せつけられて苛立ちを感じているロクスだけど、シルマリルの存在に納得してようやく「戻れ」との説得に首を縦に振った。
彼がここにいる理由を担わされている中核として、シルマリルは天界にいる頃となんら変わりない生活を送っている。存在意義が地上の番人から教皇に対する楔になっただけ。
彼女は天使だった自分がやすやすと人間の女性の幸福を得られるとは思っていない。
 そんなシルマリルを、副教皇はロクスと同じに、いやそれ以上、娘を扱うように接し続けている。
ロクスはいずれ教皇になる存在だからと身構えて養育していた節があるがシルマリルは違う、彼女の運命はロクスが握ったまま離さない。彼女もそれを望んでいる。穏やかで素直な少女はロクスが最も苦手としていた性質の女性像で、しかし結局そんな彼女に引きずられた男のわがままを聞いて、彼女は教皇庁の用意した籠の中に自ら進んで閉じ込められた。
この豪華な個室も上等な服も、かつて天使だった彼女に対する敬意と、束縛に対しての謝罪にも似た代償で――――それでもこの男がここから出ると決めたなら、彼女は迷わず彼についてゆくだろう。
副教皇はそこまで見越しておきながらも、芯の強い聖女を聖女ではなくひとりの女性として扱っている。
…息子に近いロクスが見初めた娘として。
「…まあ、副教皇が他の連中とは違う、ってあたりは君と同じことを考えてるけど。」
「…ええ。厳しいけれど、お優しい方です。――――って!?」
 ロクスは副教皇の思惑や本心に気づくにはまだ中身が幼くて、すぐそばで物憂げな顔を見せたシルマリルを、椅子に座ったままで捕らえ抱きすくめた。
「おいで、シルマリル。君は僕の妻だ。」
「おいでって、捕まえておきながら何を言ってるんですか! 椅子が壊れるっ」
 シルマリルの言うとおり、彼女のためにあつらえられた椅子は当然ひとりしか座らないことを前提と言うか当たり前に作られていて、小柄なシルマリルだけじゃなく相応の体格のロクスまで一緒だから激しくきしんでいる。
「じゃあベッドに行こうか。今夜は寝かさないからなー。」
「やめてくださいっあなたひと月後には教皇選挙が待ってるんじゃないですかこんなことしていいとでも」
「はいはい暴れない。…人が来るぞ?」
 貞操観念の強いシルマリルには、そのひと言で充分。じたばたと暴れていたのがぴたりとおとなしくなり、ロクスは昼間遂げられなかった「あれ」を遂げるべく細い男の手で頼りない日差し色の髪を抱き唇を寄せて……

「聖女シルマリル、物音がしましたが何事ですか?」

 水を差すノックと男の声に、シルマリルはもちろんロクスまでびくりと大きく驚いて固まった。
「い、いいえ。虫が入ってしまったので外へと出そうとしていただけです。
 驚かせてごめんなさい。」
「そうですか。失礼しました。」
 分厚いドアは多少の話し声は遮るけどそれにだって限界がある、奇跡の行使者である聖女の部屋には当然のごとく門番よろしく僧兵がつけられていることはロクスだって知っていたけど、さすがというか彼らはすわ一大事!といきなりドアを開けるような真似はしない。部屋の主の聖女様にまず声をかけてお返事を待ち、彼女がなんでもないと返せばドアを開けることもなく仕事に戻る。
「…仕事熱心なことで。
 君も君だ、痴漢が侵入しました、って言ってもよかったんだぞ?」
「……………ん」
 意地悪に低く囁いて、ロクスがようやくシルマリルの唇をいただく。彼女が翼を返し手をとり逃げ出して、しばらく後に彼女を女にしたあとは毎晩と言うペースで溺れたこともあるが、聖都に戻ってからはいろいろと忙しいしそれぞれの思惑で引き離されてシルマリルもさりげなく彼を遠ざけ拒んでいて、この感触が久しぶりになるロクスは触れるだけでは足りなくて唇を押しつけて彼女のそれをこじ開けて、さらに、もっと深く求め貪る。
シルマリルは数少ない思い通りになる存在、もちろん彼女の意思もあるけどやり取りが楽しいから、いつからだろうかロクスは彼女自身の意思ならば何があろうと許せるようになった。先ほど自虐的に「自分がいなくなっても」なんて言ったけど、そういうことすら考えたくなかった時期を過ぎて、ずいぶん冷静になれている…と思う。
「…痴漢じゃないから…っ……」
 シルマリルもこの意地悪で甘さと毒を含めた舌に、巧みな唇にずいぶんと慣らされた。彼の膝に座るみたいに抱えられて下から唇を求められ舌まで絡めあい貪られて力が抜けて、無意識に彼の頬にそっと触れる。
ロクスはその小さな手を取り頬から外し己の首に回させしがみつかせて、空いている手で彼女の豊満な胸をそっと、やわらかく触れてじんわりと揉み始めた。
「これだけのふくらみにしっかり中身があるんだもんな…やせようとか思うなよ、僕は君のこの感触を気に入ってるんだから。」
「…ん、もう……。」
「ははは、豊満な女性が好きな僕の趣味は変わらないみたいだ。」
「いやらしいこといわないでください…」
「ベッドに行こうか。
 声に気をつけろよ、さっきみたいに問いかけられても応えられなかったら困るだろ?」
 意地悪な男。性質の悪い男。聖職者なのに知ってる女は両手両足全部の指を使ってもおそらく足りない。
対するシルマリルはこの男しか知らなくて、生まれた本来の立場や彼女の性格からたったひとりしか知らぬまま老いそしてかつていた場所――――天に還る。
そのことを考えるとシルマリルも迷うのだけれど、
「あ」
 この男はそのことも含めたすべてを忘れさせる指を、唇を、体を持っている。誘いに答えを返さなかったシルマリルだけど、ロクスは気に留めた様子もなく大事に抱えると、立ち上がる前に白い首筋に唇で触れた。
「――――っと、痕は残しちゃまずいな。あのおっさんにまた何言われるか…。」
「…こんな風に気にしてばかりでなにがおもしろいのか……」
「ばれるかもって緊張感がたまんないに決まってるだろ。君だって何度かあったろ?
 緊張して体がぎこちなくなる分いつもより締まりが」
「…もういいです。いやらしい。」
「そのいやらしいこと今からするんだぞ? 同罪だな、僕らは。」
「いやだって言っても押さえつけてでもするんでしょ、あなたなら…。」
「本気で嫌がるならしない。でも今の君はほら…」
 彼はそのまま彼女のベッドまでたどり着きシルマリルを下ろして、背中から小さな体を抱き淫らに戯れながらひとしきり言葉遊びの応酬を繰り広げたあと
「っ!?」
「次僕が何をするか期待してる。手のひらに当たってるこれが証拠だ。」
 小柄な体に見合わない豊満な胸を下から支えながらたゆたゆと揺らして弄ぶ。やわらかくしかししっかりとわしづかみくぐもった笑い声を抑えきれずこぼしながら、ロクスの男性なのに艶かしい唇は少女の丸い耳朶に、そして片手を胸から外して聖女様の長いスカートをじんわりとたくし上げ始めた。
「こうするのも久しぶりだからな…君も壊れて泣き叫ばせるかもしれない。
 その時はふたり一緒にお目玉喰らおうか、昼間みたいに僕が全部罪はかぶろう。」
「あ…でも……っ」
「男は勝手に自分で燃え上がるけど、女は火種がないと火なんてつかない。
 僕が君に火を入れるんだからそれは僕の罪だろう? ………って!?」
「きゃ!? な、なんですかロクス…スカート、スカート!」
「なんだこれは…おいシルマリル、これはどういうつもりだぁ?」
 罪な掌が女の脚を愛でつつスカートを手繰りたくし上げて、唐突にロクスが素っ頓狂な調子で後ろからスカートの裾を思い切りめくり上げる。そんな彼に驚いたシルマリルが前を押さえるんだけど無駄な抵抗にもなってなくて、それでも構わないといわんばかりに彼女はきゅっと脚を閉じた。
 貞淑な長いスカートの中身は当然下着で包まれている。シルマリルは白と言う色を好むから下着も白、しかし女慣れしすぎた男を驚かせたのは――――
「…白は白でも、こんなやり口とはね。
 君はさぞ今夜徹夜したいんだろう、ご期待に応えないことには僕の男が廃るってものだ。」
「っ、違っ」
「何が違うんだ?」
 嬉しそうな、楽しげなロクスの艶と毒に満ちた笑い、彼はスカートから手を離しそれが降りてしまわないうちにシルマリルの下着に無遠慮にも指を差し入れた。
「美しいレースにこんな使い道があったなんて思いもよらなかったよ。貞淑な貴婦人のささやかな挑戦、ってところか…確かに薄絹のご婦人にはこういう下着は似合わないし身につけづらくもあるな。」
 白い下着のはずなのにシルマリルの肌の色だけでなく、ロクスが差し込んでいる指までくっきりと見えている。ロクスの言葉の通りそれは美しいレース編みで編み上げられていて、身につけているシルマリルの肌を透かし見せていた。
「じゃあまずは久しぶりに僕が入っているところから見てもらおうかな…その後はおいおい考えよう、いい夜になりそうだ。」
「だから…ごか、い…あっ!」
「ほらほら、声。しっかり我慢するんだぞ。ああスカートの裾、ちゃんと持って。」
「…………はい…。」
 終わりの方は、可愛らしい従順な声。ロクスの求めに応じ、シルマリルは己の寝間着の裾をつまみふるりとふるえながらも抵抗する素振りを見せなくなった。この男が夜毎溺れた時期があるということは、それだけ彼に仕込まれたということ。
人間の女ならば数人の男を経て覚えるようなことを、この男は手を変え品を変えあどけない少女に試し続けた。確かに不実な男がひとりの女に決めたんだけど中身が劇的に変わるはずはなくて、その罪な指先はまだ少女の域にいるシルマリルの肌をひたすらに味わっている。
「あ…っ…でも、ロクス…っ」
「ん?」
「少し待って…もうすぐ、シスターがお茶を持って…来る、から……っ」

「なんだってぇ!? それもっと早く言え!!」

 …今度は外からの問いかけはなし。人の声は意外に漏れないらしい。
しかしロクスはそのことすら失念するほどらしく、
「おいカーテン、天蓋下ろせ!」
「ほら腰砕けになってるぞお前。しっかり立てよ。」
「左手で天蓋引いて。これで俺は隠れられるから。」
 見つかる懸念が現実になったとたん彼は顔色を変えた。あたふたとひとしきり慌てあがいている最中に
「聖女シルマリル、お茶をお持ちしました。」
 彼女の言葉の通りに、静かな女の声が彼女の名を呼んだ。当然ロクスはベッドに乗って彼女が片手で引いている天蓋に身を隠す。
「部屋に虫が入ったそうですね、刺されませんでした?」
 茶を持ってきたシスターは声の調子としてはロクスより年長のようで、彼女は穏やかにシルマリルにそう問いかけた。
「え、ええ。…何とか。」
「これからは虫が元気になりますものね、聖女もお気をつけあそばせ。」
 そのやり取りに、誰にも見られていないのにロクスの表情が引きつった。今まさに「刺そうとしていた」のだから疚しさでいっぱいで、言葉がロクスにぐさぐさと勢いよく突き刺さっている。
「シスターも…。」
「お気遣い、ありがとう。
 教皇がお忙しくておさびしいでしょう? 司祭たちは厳しく言うのがお仕事ですけど、たまには押しかけてさしあげなさいな。
 聖女はおとなしいから彼らの言いなりになっていないかと心配ですのよ。」
「だ、大丈夫です。副教皇とか優しい方もいますし、ロク…教皇もよく顔を見に来てくれます。」
「それにしても、教皇猊下は花の顔に傷が入って…若い修道女たちがそれは嘆いておりますの。
 もっとも、お戻りになられた時には聖女と共にでしたし、その時すでに聖女を伴侶と決めていらしたから彼女たちの嘆きが私どもにはなんだかおかしいやら可哀相やらで…。」

 えぇい、つまらん話をするな。俺は必死で我慢してるんだぞ。

「でも、あとひと月ほどの辛抱ですからね。コンクラーヴェが終ればおそらく新しい教皇として選ばれるでしょうし、妻帯されていることも了承の上での選出ですから。
 残念なのは聖女が花嫁衣裳に袖を通せないことですけど、許して差し上げてね?」
「それは…わかっていて彼を選びましたから。」
「そうね、こんなおばさんが心配しなくても聖女は教皇猊下よりずっと大人ですし。」

 なにィ!?

 女は三人寄ればかしましいというけれど、ふたりでも充分にかしましくて、ロクスはここにいないとばかり思われて聞かされる女たちの内情にいらいらしてばかり。
なかなか部屋を出ようとしない修道女のおしゃべりにも当然いらついている。
そして聞かされた彼に対する評価、笑うばかりで反論しないシルマリル、それでロクスが爆発する。
「――――――――!??」
 ぎこちなくも談笑していたシルマリルの頬が一瞬で薄紅に染まった。中身ろくでなしが何を思ったのかシルマリルの寝間着をたくし上げてその中に手を入れて、じんわりと丸い尻を撫でている。
「あら、聖女、どうなされたの? 顔が赤いようですよ?」
「い…いえ……」
 嘘をつくことに慣れていない彼女が咄嗟の嘘をつけるはずもなく、正面では聖女として修道女と話しているが、その影、後ろからロクスに責められて弄ばれている。
「お疲れなのかしら?
 そうですわね、若い女性は虫が苦手な方も多いし、外にまで聞こえるほどならたいそう熾烈な戦いを繰り広げたのでしょうし。
 でももういない様子ですし、今夜はゆっくりおやすみなさいね。それでは失礼します。」
「おやすみ…なさい…………あっ!」
 修道女がようやく部屋をあとにし、シルマリルの挨拶さえすまないうちにロクスは彼女の手から天蓋を奪って開け放ち、彼女を両腕で抱きすくめそのまま白いレース編みの下着に手を突っ込んだ。
「誰が誰よりずっと大人だって? これを教えたのは誰だと思ってるんだ。」
 この男はプライドが高くその振る舞いなどからあまりよくない意味で大人だとずっと見られてきたこともあり、このあどけない少女と比べられることをあまり好まない。今も「手玉に取り続けてきた」つもりの女性と言う存在から子ども扱いされシルマリルも反論せずに笑って流そうとしたことが気に入らなかったらしい、ふたりきりになった部屋の中で、その女を操る指でシルマリルの潤った谷間を乱暴に弄って――――
「あ…あっ、ロク…ス、だめ、だめ…っ!!」
 乱暴なのだけどこの男の加減は絶妙で、快楽と疼痛感の狭間を攻めてくるから小娘のシルマリルに抗えるはずなどない。つかまる物もなくてロクスの腕に爪を立てて自分を支えるけど、この男は優男なんだけど腕力は見掛け以上にあるからシルマリルぐらい支えて己のいいように弄び続ける。
「ん?いくのか? もうちょっと我慢できるだろう?
 ほら裾上げてろ。せっかくの下着だ、どんなになってるか見せてくれよ。」
「いや、見ないでっ!」
「こらこら、この期に及んで何激しく抵抗してるんだ。
 悪かったよ、でも君が素直じゃないからついいじめたくなってな。…少し脚、開いて。」
 喧嘩のような戯れのようなやり取りを繰り広げ、ロクスが嗜虐的な声をやわらげ甘く囁きシルマリルの抵抗を封じる。
「何度も待ったかけられて僕も限界だ…いいだろ? なあ……。」
「…………はい…あ、下着は…」
「汚さない。脱ぐか?…僕としてはもったいないが。」
 傲慢さを隠そうともしないんだけど、シルマリルがどうしようもなく困るようならその辺の分別はつけている。女性と言うこともあり下着を残滓で汚されるとさすがに困るシルマリルの顔が思い浮かんだロクスがわかりにくい配慮を見せる。
「あ…あなたが、いい…って思うんだったら…私、は……。」
 それに対するシルマリルの返答は彼にとって意外だったらしく、ロクスは間抜けに少し驚いて思わず責める手を止めて彼女の恥らう横顔を見た。
「…下着なんて身につけるもの…他の人に洗わせたりしません。
 あなたのですから…汚くありませんし……。」
 夫である性質の悪い男に弄ばれ責められながらも、薄紅色の唇を微笑みの形に見せて快楽に堪えているシルマリルの言葉に、ロクスは生唾を飲み襲いかかった。そう逞しく見えないけれど膂力は相応に備わっている腕にシルマリルをしがみつかせたまま下着を少しだけずり下ろし、もつれる指先で己を手早く露出して…
「…………ん」
 後ろから己の胎内に荒々しく入ってきた男の感触にシルマリルが唇を噛みこみ上げる嬌声を堪えるんだけど、そんな様子を、喉の奥から聞こえる甘えた声を聞くと今度はロクスが理性すべてを瓦解させて乱れさせたくなり律動を激しくする。いつもより少しせっかちにつながったロクスの感触が生々しくて、ロクスもいつもより早くつながった分シルマリルのそこがぎこちなくて、攻め手のロクスが配慮も容赦もなく妻の蜜壷を激しく突き責める。
女の蜜と男の先走りの精がつながった場所から滴り美しいレースの上にぱたぱたと散り、快楽に耐えるシルマリルの爪がロクスの薄い服越しに彼の腕に食い込むんだけど、ロクスはそんなこと意にも介さずにただひたすらに、まるで少年のそれのように女の中で暴れ続ける。
「うっ…ロクス…ロク…ス…っ…」
「いいだろ? たまってるからな…覚悟しておけ。今夜は寝かさない。」
「…あ……ロクス……キスして……キスして、ください…っ」
 珍しくシルマリルから行為を求められ、ロクスは言葉では答えずに唇で応える。肉欲を満たすと同時に空になりかけた器が満たされるみたい、乱暴だったロクスの動きが緩くなり彼女に男を教えたそれに変わり始めて、すでにシルマリルは理性まで粉々に、裸にされていた。
「きゃ!……あ…あぁっ……すごい…いっぱい……」
 びくんと胎内で大きくふるえた感触、そして女の器に満たされる男の雫――――かつて天使だった少女の口から淫らな言葉が堪えきれずにあふれ出した。ロクスは久しぶりの放出にふるえながらも愛しい肌の感触を愛でることも忘れずに細い髪に、丸い耳朶に、白いうなじに数え切れないキスを落とす。
下腹部の別の生き物はシルマリルの内側の感触に、搾り出すような強い収縮に抗おうと再び鎌首をもたげつつあるんだけどそこはそれ、男は心と体が別に動ける不思議な生き物。ことロクスは自身の意思で別に動かすことができる。
「…まだ欲しいだろ? ほら…僕はもっとしたがってるのわかるか?」
「んふっ!」
「いいよな?」
「は…い……あなたが、望むのなら……」
「違う。君が望んでるんだ。僕をくわえ込んで離そうとしない君のここが…僕を欲しがってる。」
 一度果てたのにまたゆるゆると腰を使い始めたロクスの言葉とその動きにシルマリルが翻弄される。
彼が動くたびに収縮する蜜壷からぼたぼたと幾分薄められた白濁液が滴るけどお互いにそれすら快楽の感覚に変わり、ロクスの言葉に誘導されてシルマリルの体も錯覚してしまう。
「何もかもを僕のせいにするんじゃない。
 言っただろう、僕らは同罪だ。君をかばえるのなら僕はいくらでも罪をかぶれるが、それは共犯の意識が僕にとって甘美だからだ。…君も変わったんだよ、僕の腕の中では淫らになれるように。」
 ロクスが律動を再び強めながら囁くその言葉に、どれだけ嘘が、どれだけ本当が、どれだけ本心が隠れているのだろう? 彼は一度己を抜いてやっとシルマリルを彼女のベッドに仰向けに横たえ、脚を抱えて一度男が果てた谷間を露にさせて抜いた自分をそこに押し当てた。そして頭だけ飲み込ませる。
「いい姿だ…かつて天使だった君を女として教皇になる僕が抱く。
 この様子を教皇庁のお歴々が見たらどう思うんだろうね? ただの男と女として絡み合う僕らを…」
「…………?」
 一度果てたことでまたよけいなことを考え始めたどこか壊れた男、かつてその乖離しかかった性格でシルマリルに無体な真似を働き、人知れず泣かせたこともある。また同じことを繰り返そうとしている彼はまわりの評価の方が正しくて、見かけと中身に少々ずれがある。
「女遊びとやってることは大差ないのに、君だけと決めてしまえば多少のことは許される。
 …やってることは大差ないどころか僕はよけいなことを覚えて聖女様をこうして汚し続けているのに……っ!?」
 情事の最中なのにまたぐずぐずとひとりで勝手な解釈をして、シルマリルに甘えていた頃と同じに彼女に鬱屈した勝手な持論をぶつけようとしたけれど――――シルマリルが自ら身を起こしまたロクスの唇を求め奪って、女性の反撃に慣れていても彼女の従順さしか頭にないロクスが一瞬固まった。
「そんなことどうでもいいから…ロクス、お願い…続けて。」
「あ、ああ。」
「無茶苦茶にしてくださいロクス…!」
 欲しがられる引力は男にとって抗いがたいものなのだけど、ロクスにとってシルマリルのそれは想像を絶する強さを持つ。つながったまま唇を奪われて男がよけいなことを忘れてしまい求められるがままに溺れてゆく。
本気で夜を徹して求め合うつもりなのだろうか? ロクスはその流した浮名の通りに好き者だしシルマリルは瑞々しい少女の体をもらい受けて1年ほどしか経ってない。もうじき教皇になる男が女の部屋に忍び込んでまで欲しがった若い女のそれだから、抗うことはシリマリルにとって苦痛でもある。
 ロクスがシルマリルと重なったまま彼女の声を外に漏らすまい、野暮な連中が水を差しに来ないようにと唇を己の唇でふさいでさらに激しく絡み合い、二度目を手繰り寄せようとする今――――まだ日付が変わる前。
夜はまだ長い。


「…教皇猊下、やっぱり副教皇の読みどおりに来たな。」
「ああ。あれだけ大声挙げりゃ中にいるのが誰かなんてわかるのが当たり前だって言うのに…。」
「…どうする?ずいぶん静かだけど」
「聖女様はおとなしい方だからな、声は聞こえないが最中だろうからやめておこう。」
「…そうだな。
 教皇猊下に恨まれるぐらいですめばいいが、あの方は根に持つ上に頭に血が上りやすくもあるしなぁ。」
「しかし教皇庁の敷地内で、教皇自身が何をやっているのか…」
「それで一度コンクラーヴェが失敗しているんだからどうしようもないんだろ。
 ある意味病気だよ。」
「これで顔が十人並みなら多少はとめられたろうけど、何しろ花の顔とか女性にもてはやされるぐらいだし。」
「聖女様の降臨に枢機卿たちは胸をなでおろしてるって話だ。」
「歳の割に分別はあるみたいだからな。
 でもまああの方にかかれば小娘でしかないだろう。事実そのようだし。」
「凡人ならあの愛らしい女性を妻にしただけでもうらやましいというところなのだが…。」
「シッ! 誰かに聞かれたらどうするんだ。」


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2008/05/06 暫定版完成 5/25 小説ページに追加
途中物置にて公開していました。

バレバレです。
夜這い+淑女にレースのおぱんつ+本懐を遂げる+おかわり!というある意味男の夢コンボ。
ズンドコとロクスがスケベオヤジ化していってます。汗。