その他のご紹介

獣たちの日々の生活には、まだまだ紹介しきれない、たくさんのできごとがあります。
【 過程と段階 】
里に来た人間が段々と獣になっていくように、里に移住した獣も、段々と本来の動物の姿から、人間に近い姿に変身出来るようになっていきます。
長老のように「普通の亀→甲羅を変化させたコタツ亀」という特殊な例もあるように、変身の内容は様々ですが、もっともポピュラーなのは、

本来の姿:普通に四つ足で歩く動物
第一段階:後ろ足で立ち上がって二足歩行する動物
第二段階:人間がリアルな着ぐるみを着たような姿
第三段階:人間が耳や尻尾の飾りをつけたような姿


この三段階を踏むケースです。勿論、個獣の資質によっては第一段階~第二段階で変化が止まったり、第三段階を超えて完全に人間の姿を取れるようになる獣もいます。
(一度進化が落ち着くと、元の姿から最終形態までの間で、自分の意志でその時々に都合のいい姿を取れるようになります)
人間が獣になる場合は、この逆の順序を辿りますが、その場合完全に動物になることは何故かなく、ほとんどが第二段階で止まり、ごく希にしかない第一段階が最終形態であるようです。その仕組みの謎は、未だ解かれておりません。
【 呼 称 】
変身における最終段階は、著しく大型化し、特異な能力を身につけた「怪獣」と言われておりますが、それは今のところ伝説であり、実際には確認されておりません。
ただ、「本来の種族的にはあり得ない程度の大型化(イエネコ種が体長2メートルに進化)」や「特異な能力・身体形状の変化(長老の甲羅→コタツ変化等)」は稀少でない程度には確認されており、そういう獣が「怪獣ではないか」と噂される元になっています。
同様に、里に来たばかりでまだ変身が進んでおらず、風習に馴染んでいない獣(及び人間)は便宜上「保護獣」と呼ばれますが、それもあくまで通称です。気の荒い獣が種族にかかわらず「猛獣」と呼ばれるようなものですね。
【 種族と外観 】
元々の動物の場合、里に定住してもその種族が変わることはありません。しかし人間の場合は、獣になるにあたってほぼ全員が、何らかの種族の動物的外観(第二段階~第三段階のもの)に変化します。その変化も、何になるかをコントロールしたり、本人の意志で段階を止めたりすることは出来ず、どのような種族の獣になるかの予想も不可能です。
(獣になるべく生まれつき、里に呼ばれた一部の人間に限っては、何になるかを長老が見抜く場合もありますが、それはごく一部の稀なケースです)
にもかかわらず、数年前には「これであなたも象になれる!~象養成講座~」という怪文書とも言える広告が出回り、大騒動になったことがありました。が、勿論その広告はたちの悪いいたずらで、実際に効果のあるものではありませんでした。
その出来事以降、里では「人間が変身後の種族を選んだり、コントロールすることは不可能である」という情報の周知が改めて徹底されました。とはいえ、今でも時々いたずら好きな獣や子獣を中心に、怪しげな噂が囁かれることがあり、長老や行政はデマの根絶に頭を痛めています。
※お知らせとお願い‥‥くだんの「象養成講座」の怪文書を、当時の役場は保存しておりませんでした。もし実物をお持ちの方がいらしたら、本ページに虚偽広告の実例として掲載したいので、是非レッドイグアナまでご一報下さい。宛先のメールアドレスはサイトマップ下部をご参照下さい。よろしくお願いいたします。
【 外観の謎 】
獣姿の時は、毛並みの美しさのためのお手入れがメインで、猛暑対策とファッション目的以外での脱毛・剃髪は滅多にしません。そんな獣も人姿になると、オスは髭を剃るか整えるかし、メスは人間の女性と同じくむだ毛のお手入れをします。
(主に毛深い種族の間に「進化とは毛が少なくなることだ」という観念があるのが原因のようです※)
しかしある時、人姿時にどれだけ髭を剃り、髪を切り、むだ毛を脱毛しても、獣姿になった時にどこかの毛が薄くなっていたり、短くなっている訳ではない、と気付いた時、「我々は一体何を処理しているのだ?」という疑問と「結局それは何のためなのか」という論争が巻き起こりました。
獣姿時と人姿時における毛の関係の謎は、結局解き明かされなかったものの、慣習については長い議論の末、「進化の止まってしまった人類にとっては、さらなる進化への渇望が『残った毛をさらに薄くする』という行為につながっているのだろう」ということに落ち着きました。そのため獣達も、人類の悲願を尊重する形で、髭やむだ毛は適度に処理する、という習慣を受け継ぐことになったのでした。
(※‥‥そのせいもあって「人間の女性の毛深さこそを愛好する」という趣旨のサイトを見つけた時は、獣達の間に計り知れない衝撃が走りました)
【 遺伝の謎 】
里には様々な獣の種族と、元人間の獣が暮らしています。そうなると、元獣同志のカップル・元人間同士のカップルだけでなく、元獣と元人間、種族の違う元獣同士、というカップルも普通に誕生します。その場合パターンは4つですが、

a.父・元人間×母・元人間=人間の子供(のちに獣化)
b.父・元獣(犬)×母・元獣(猫)=猫の子供(のちに人化)
c.父・元獣(猫)×母・元人間=人間の子供(のちに獣化)
d.父・元人間×母・元獣(犬)=犬の子供(のちに人化)


というように、生まれる子供は基本的に母親の種族を継ぐようです。
また、ケースaやcのように人間の母から生まれた子が獣化する場合、両親とは全く違う種類の獣に進化する場合も多く、それらの原理は未だ解明されておりません。どんな種族の獣になるかも現在のところ予想不可能であり、さらなる研究が待たれています。
【 ヒト化の基準の謎 】
ヒト化する生き物としない生き物の違いは、未だはっきり解明されてはおりません。
例えば里は「脱・肉食」がポリシーですが、魚類(魚介類)・甲殻類などはヒト化しない生き物であるため、食用として流通し、皆の食卓に上ります。なので里の「脱・肉食」は、厳密には菜食主義とは異なるものであり、「ヒト化する生き物は同族である」という感覚からくる「共食いの回避」にあたります。
そうなると「ではなぜ魚類はヒト化しないのか(=ヒト化は脊椎動物というくくりではない)」という疑問が生まれますが、そもそもヒト化自体が未だ解明されていない謎であるため、研究者は頭を抱えています。
なお、以前長老が語ったところによると、「あれら(魚介類及び甲殻類・昆虫など)はヒト化するに足る魂の量を持ってないから出来ん」「寿命がことさら長い大型の魚の中には、稀に魂の密度を上げてヒト化するやつもおるが、ごく一部じゃな」 とのことですが、その原理や実際にヒト化した魚類の実例を見たものは誰も無いため、真偽の程は未だ定かではありません。
【 人姿反対派 】
上記のように、里に来た獣は程度の違いこそあれ、皆ヒトに近い姿に変化していきます。しかし中には、頑なにヒト姿への変化を拒み、獣姿のまま、獣としての生活を遵守する方々もいます。
ヒト姿反対を唱えるのは、牛や馬、鹿等の山野で生活する草食獣に多く、

1.自生する植物を食料とする限り、食料購入のための貨幣経済・社会参画を必要としない。
2.娯楽や衣料、農工業他の文化的・社会的活動は、本来獣には存在しないものである。
3.そもそもたまたま里で生まれただけであって、里的文化を求めて移住してきた訳ではない。


等の理由により、職業や人口建築物である居住用の家を持たず、公に利用が認められた自由地で、獣本来の生活を続けています。
(人間の方は、アメリカ映画などに出てくるキリスト教の一派・アーミッシュをイメージすると近いかと思われます)
里においては、そのような生活の自由も認められており、特に差別や不利益を被ることはありません。しかし、夏の水不足や暖冬他の異常気象により、山野の草木・果実が不作の年は、ヒト姿反対派といえども市場やコンビニでの食料購入や、物々交換での経済活動を余儀なくされることがあり、その時は「ヒト姿反対派なのにコンビニ使ってるよ‥‥」という目で見られ、ちょっと恥ずかしい思いをするようです。
【 獣姿満喫派 】
人姿反対派とはまた違うスタンスで、人間の文化を獣姿のまま楽しもうとする方々の通称です。
里の施設や住宅などは、基本的に人間のサイズに合わせて作られています。例えばネズミと牛・馬では、身体のサイズがあまりにも違いすぎ、同じ設備を利用するには不都合がありますが、人間(人姿)であれば、どんなに大柄でも身長が250cmを越えることはまずないからです。
しかしたまには本来の獣姿で人間文化を楽しもうではないか、という風潮がまず大型獣の中で広まり始め、今ではほとんどの種族が、本来の獣姿で利用出来るサイズで作った「獣姿専門店」というべき施設を抱えています。
【 味覚の変化の謎 】
人里では季節の味として重宝されていますが、獣の里では山菜は、個獣の進化段階によって評価が分かれる食べ物です。
まだヒト化していない、もしくはヒト化して間もない獣にとって、山菜はその苦みやアクのため、例え草食種族であってもあまり美味しい食べ物ではありません。しかし何故か、ヒト化してある程度経つと「あのほろ苦さが何だか美味しい」と大体の獣が思うようになります。
そんな訳で、山菜を食べられるかどうかは、里においては秘かな進化のバロメーターとなっています。
しかし一方で山菜問題には、意外な深淵が潜んでいます。何やら人間の方にとっては、あの苦みやアクが解毒的な作用を及ぼすのだそうで、つまりまだ毒が溜まっていない子供には美味しくないけども、大人になって身体に毒が溜まってくると、デトックスを欲するがために山菜を食べたくなるのだとか‥‥
つまり獣がヒト化すると毒が溜まるのか?という疑問が、たまに獣達の頭をよぎりますが、「そうに決まってるじゃん。だって獣姿の時はコーヒー飲まないしカップ麺食べないし調味料使わないし」「あー‥‥」「でもヒト化するとそういうものが美味しいから食べちゃうよねえ」という会話で終わります。進化の二律背反ですね。
【 記憶喪失にまつわる問題 】
人も獣も、事故などで頭部を強打したり、一時的な酸欠状態にさらされた際、記憶喪失を引き起こすことがあります。その際、

1.元獣の住人が、第二段階以降の人化状態で記憶喪失状態になった場合。
2.元人間の住人が、第三段階以前の獣姿で記憶喪失状態になった場合。

主にこの二種類のケースで、問題は起こります。
普通は記憶喪失と言っても、自分に関する周辺記憶だけを失っている場合がほとんどで、例えば「箸の使い方が思い出せない」「白いごはんが食べ物だと解らない」「自分の人種・性別に疑問を持つ」というようなケースはあまりありません。
しかし里における記憶喪失は、「自分が何者か思い出せない」どころか「(人だったはずなのに)何故か犬になっている」とか、「(犬なのに)何故か人姿で二足歩行している」という混乱が加わります。そうなると正に人化・獣化後に獲得した後天的な習俗をも喪失した状態になるので、人里の記憶喪失より事態は深刻です。
(「犬なのにドッグフードが食べられない」「ヒト姿なのに活きのいい金魚を躍り食いしたくなる」「爪の出し入れ・しっぽの動きを制御出来ない」等のケースが報告されています)
そうした際のメンタルケアにおける手引きは、症例の少なさから未だ確立されておらず、里の獣医師・人医師を苦悩させています。
なお、大概の記憶喪失は一時的なもので、人獣共にやがて記憶を取り戻し、元の生活に戻ることがほとんどですが、ごくたまに記憶が戻らないまま、変身した姿に違和感を覚えながら生活する羽目になる者もおり、さらなる医学の発展が待たれています。
【 隠れ肉食者 】
里ではこの言葉は、二つの意味で使われています。
「食糧事情」にあるように、里では「脱・肉食」が基本的な姿勢です。肉食種族の方であっても、里移住に伴う進化後には、徐々に捕食本能は薄れていき、人造蛋白で満足できるようになっていきます。
しかし、食欲から来る動物的本能というよりは、殺獣衝動とでも言うべき「楽しみのための狩猟」に取り憑かれ、隠れて捕食を繰り返す者が、ごくごく稀(百年に一度ほど)に現れることがあります。その場合この言葉は、人里で言うところの「殺人者」と同じく、たいへん忌まわしい存在として、否定的な意味で囁かれます。

一方、進化して人間の文化に馴染んだがゆえに湧き上がる「ガーリックを利かせたステーキが食べたい」とか「オムライスの具はやはり鶏肉でないと‥‥」という感覚からの「ハレの日の料理」としてのごくたまの肉食は、あまりおおっぴらではありませんが許容される傾向にあります。
その場合、公営精肉店で購入した、人里からの輸入肉を料理し、身内だけでこっそり食べながら「牛(もしくは鳥・豚・羊他)の友達には言えないよね‥‥」「いま俺達、隠れ肉食者だよな‥‥」等という会話を交わす時に自虐的に使われます。
前者と違い、こちらは誰が責める訳でもありませんが、やはりその後何日かは、美食の思い出と罪悪感の入り交じった複雑な気持ちに囚われてしまい、居心地の悪い思いをすることになるようです。
【 隠れ肉食者狩り 】
近頃明らかになった問題です。
先日、人里のニュースを見ていたレッドイグアナが「鹿の角切り(つのきり)」というテロップを「角切り(かくぎり)」と読み間違えてしまった時、

友A「何そのサイコロステーキ感Σ(◎O◎;)」
友B「鹿の角切りステーキ‥‥鹿は赤身だから牛肉っぽいって、元人間のヒトから聞いたことあるけど‥‥」
友C「やめろよ! うっかりそんな話なんかしてたら、隠れ肉食者狩りに遭っちゃうかも知れないだろー!!」
レッド「ちょっと待って何その大事件?!」


‥‥というやりとりが起きたことから、水面下で囁かれていた事件が表面化しました。
情報によると狙われるのは、現状では存在が確認されていない、真の殺獣者の方ではなく、上記項目の下部にある、 里でもおおむね黙認されている「人里文化としての肉食」を許容・実食する住人の方だとか。自宅でひっそりと行われることの多い肉食を、犯人/犯獣がどうやって特定するのかは、まだ明らかになっておりません。
ともあれ被害者によると、こっそり肉食したその日、または翌日、突然背後から殴り倒されて昏倒し、目を覚ました時(もしくは他獣に発見された時)には「この者、隠れ肉食者」という張り紙をされているのだとか。
当初は犬団による嗅覚追跡で、犯人/犯獣は早期に発見されるものと思われていましたが、「熊と猪の匂いがする‥‥犬も。猫も。牛も馬も兎も猿も――」という状態で、犯人/犯獣は周到に対策を講じていたことが判明し、未だ特定には至っておりません。
そのような状態ですので、たまに人里的肉食を行う方は、後日の安全には十分お気を付け下さい。オムライス好きを公表しているレッドイグアナも、この事件を知った今は、いつ自分が狙われるかと恐々としています‥‥
【 肉食ノイローゼ 】
鶏や豚、牛などの、人里では食肉として扱われる種族に発症しがちな精神疾患の一種です。
上記の「隠れ肉食者」二つ目の意味でもあるように、人里における美食としての肉食が里でも秘かに許容されているがゆえに、疑心暗鬼から「さてはお前も俺の肉食いたいと思ってるんだろ!」と周囲の獣を不信に満ちた目で見てしまうのが主な症状です。
治療方法と言えるものは特になく、何らかのきっかけで他種族の肉を食し「お互い様だよな‥‥」と諦観するか、完全な草食者とだけ交流するようになるか、というパターンが多いようです。
なお、レッドイグアナが以前ノイローゼの方に「大丈夫、南米じゃイグアナも食べられる側だから‥‥」と言って慰めてみたことがあるのですが、「それグリーンイグアナの話だろ! お前ガラパゴスイグアナだろ! 安全圏じゃねーか!」とキレられてしまい、不成功に終わりました。これは予想以上に難しくデリケートな問題なので、あえてそこには触れずにそっとしておくのが一番いいのかも知れません。
【 クリスマス鬱 】
人里の方が想像しがちな「リア充爆発しろ」的なものでは別になく、上記「肉食ノイローゼ」のバリエーションのひとつで、主に鳥団の鶏班・七面鳥班の方に発症します。
人里におけるクリスマスでは、欧米においては七面鳥、日本では鶏が、イブの御馳走として供されます。そのためクリスマスが近付くにつれ、該当種族の方が「今年もまた世界中で大量の仲間が食べられて‥‥」と鬱を発症するのです。しかし、それが昂じて、

七面鳥「お前らはいいよなあ‥‥クリスマスチキンが鶏なのって日本だけじゃん。俺ら世界中で食われてるんだぜ‥‥」
鶏「その日本で鶏に生まれた俺達の気持ちが七面鳥に解るとでも言うのか! 安全圏に住んでるくせに文句言うな!」


という抗争が、鶏と七面鳥の間に生じることがままあります。
クリスマス鬱そのものは、当日を過ぎて新年を迎える頃には落ち着くことがほとんどですが、鶏と七面鳥の不仲は簡単に解消するものではないようで、毎年他の獣達を困惑させています。
【 猫ハラ/犬ハラ 】
猫や犬の、ぷっくりぽわぽわした魅惑のおなか、のことではありません。むしろ、里に来て獣になりたての頃、元人間の方がそれにつられてやってしまいがちな失敗のひとつです。
里で獣になってしばらくすると、第一段階~それ以前の完全獣姿であっても、相手が男性なのか女性なのか、若いのかはたまたお年寄りであるのかが、一目で解るようになってきます。しかしまだ人間の感覚が抜けきらないうちはそんな区別はつかず、日向でくつろいでいる猫団や犬団の方を見て、つい人里感覚で「可愛いーv」と撫でてしまう元人間の方が後を絶ちません。
とはいえ慣れた目で見ると、相手は立派なお年寄りや、貫禄のある中年のおじさんだったりする訳で、元人間の方は後で大変気まずい思いをすることになります。また、相手が年配者の場合は「若い娘っ子に撫でられると寿命が延びていい」などと笑い飛ばしてもらえますが、撫でられる側が若いお嬢さんだったりすると、セクハラ問題に発展しかねません。
本来の「○○ハラスメント」の意味的には、これを「人里ハラスメント」と称するのが正しいのではないかというご意見もありますが、人里的慣習で撫でられやすいのか、この問題は犬・猫の二種族に限って多発するため、通常は猫ハラ・犬ハラと称されています。まだ獣感覚が身に付いていない元人間の方々は、くれぐれもお気をつけ下さい。
【 昆虫食論争 】
哺乳類・爬虫類を問わず、獣姿時には昆虫を食糧とする種族は少なくありません。しかし、里で文明化し、人姿になった際は、それでも昆虫食を続けていいのか、はたまたやめるべきなのか?という問題が、長く獣達を悩ませています。
人間、ことに里が存在する日本においては、昆虫食はあまり一般的ではないためか、現状では「人姿になると自然と食べたくなくなる」派が大勢を占めています。とはいえ、日本国内であっても信州などの一部地域では、蜂の子などを食す文化があるため、議論が尽きることはありません。

「人間は虫食わないだろ普通」
「お前信州でもそれ言えんの」
「長野だって若い人はもう虫食わないんじゃないの」
「俺、岩手県出身のクマ友達からお歳暮にスズメ蜂ウォーターってのもらったことある‥‥蜂が瓶の底に沈んでてビビった」
「九州の方にもスズメバチドリンクあるっぽいよ」
「信州だけじゃないのかよ!」
「‥‥なあ、それって実は全部、人里に出張したクマ団のヒトが作ってるんじゃねーの?‥‥(※注・スズメバチの天敵はクマ)」


などという会話が思い出したように白熱し、また、獣の里内部のみで構築されるインターネットの掲示板においては「人化したのに虫を食う奴はオカルト ○匹目」などというスレッドが十年以上立ち続け、日夜激論が交わされています。
(もっとも、その論争に答えが出る日は、恐らく永遠に来ないものと思われますが)
【 不眠症と三猿睡眠法 】
獣姿のみで過ごしているうちはいいのですが、ヒト化して活動するようになると、何故か不眠症になる方がぐっと増えます。人間特有の食べ物のせいであるとか、あるいは昼夜を問わず電気照明を浴びるせいだとか、様々な仮説が唱えられていますが、中でもネカフェを経営するイグアナ団は、職業上PCモニタの明るい光を見続けるためか、ことさら不眠に悩まされる方が多く、皆が対策に困っていました。
そんな折、レッドイグアナが始めたのが「三猿睡眠法」です。やり方は簡単で、

1.見ざる(アイマスク)
2.言わざる(口マスク)
3.聞かざる(耳栓)


という三点セットを使用し、音・光を遮断しながら、ついでに咽喉の乾燥を防いで中途覚醒を防止するというものです。この方法はてきめんに効果を上げ、あっという間にイグアナ団全体に広がりました。
ただし、見た目がかなり奇妙なのと、「これはもう全顔をお面等で覆った方が早いのではないか」という意見もあり、今のところ他種族の方にまでは広まっておりません。
【 多種族集団冬眠事件 】
数年に一度くらい起こる、里では定番の事件です。
里でヒト化すると、種族的慣習が徐々に不必要になっていく傾向があります。 具体的には、熊の方は食い溜めと冬眠をしなくなり、一部の種族の鳥は南方への渡りを行わなくなります。里生活では衣食住に不自由しないため、気候の変化に対応して生活スタイルを変える必要がなくなるからですが、時にそれが予期せぬ事件をもたらします。
イグアナや蛇・トカゲといった爬虫類種族は、急激な冷えにより低体温症に陥り、次々と昏倒してしまうことがよくあります。それを救助するのは主に犬団と熊団の救助隊なのですが、急激な厳冬の際にはさすがの熊団も本能に逆らえず、次々と冬眠状態に陥ってしまうことが‥‥
ただでさえ昏倒する爬虫類種族が多数の折、貴重な獣手(人手)である熊団が集団でダウンしてしまうと、「熊不足の折、誰が遭難者を救助して運ぶのか」「そもそも倒れた熊はその重さゆえ救助が困難」という二重の問題で里は一気に大混乱します。
この問題は予防が困難な、本能に由来する事態のため、なかなか解決の糸口が見いだせず、獣達は毎年対応に苦慮しています。
(なお、どうにか救助された昏倒者たちは、有志の手によって手近な温泉に運ばれて湯に浸けられ、無事息を吹き返すのも毎年定番の結末です。爬虫類種族であるレッドイグアナも、ご想像通り救助されて温泉に浸かりながら、借りたモバイル機器でこの項目を更新しています‥‥)
【 インフルエンザ判別法 】
ここ数年で明らかになった問題で、「普通の風邪では何の影響もないが、毒性の強いインフルエンザに感染した場合、何故か人化/獣化が阻害される」という現象です。
里では元々、病気や怪我といった状況になった場合、元人間の獣は人姿で、元獣であれば獣姿で療養する、という風習がありました。それは別に大した意味はなく、病むことによって獣パワーが減少するので、消耗を抑えるために本能的にそうしたくなるのだろう、と皆が何となく思っていました。
しかし近年、インフルエンザに感染した場合のみ、回復までは本来の姿から人化・獣化したくとも出来なくなる、という現象が相次いで報告され、「変身の原理とは一体‥‥」と物議を醸すことになりました。
インフルエンザで人化・獣化に支障を来す原理自体は未だ判明しておりません。ですが「人化・獣化出来ない=ただの風邪ではなくインフルエンザである」というシンプルな判別法が確立したことだけは確かであり、「何故」という疑問はさておいて、とりあえずは「検査不要で便利な感染判別法」として重宝されています。
【 アレルギーの謎 】
人間と同様に、獣達にもアレルギー体質の方は多くいます。とはいえ里では古来、元人間ならば獣化し、元獣ならヒト化すると症状が治まることが知られており、「それぞれの種族的生活要因が変わることによってアレルゲンの摂取・接触が減り、症状が抑えられるのだろう」と考えられてきました。
(例えば原因が食べ物の場合、人間の時に好きな食べ物も、獣化するとさほど食べたくなくなるとか、草にアレルギーを持つ犬が、ヒト化するとあえて道無き草むらを突っ切って走ったりはしなくなるのでアレルギーが軽減する、といったケース)
ところが昨今、ヒト化・獣化をまたいでもアレルギー症状を持ち越すケースや、今まで持っていなかったアレルギーが、ヒト化・獣化で新たに発症するケースが増えており、里の医師達を悩ませています。
それはヒト化と獣化の境目に何らかの変化が生じてきたのか、あるいは単にヒトと獣で生活習慣を分けない獣民が増えてきたためかは解っておらず、さらなる研究が待たれています。
他種族の獣、あるいは人里出身の方にはあまり知られることのない、それぞれの種族固有の慣習を紹介いたします。
【 農産業における種族別結婚問題 】
「脱・肉食」がポリシーの里では、牛乳や山羊乳・鶏班による無精卵が、殺生を伴わない貴重な動物性蛋白として重用されています。それらの安定的生産のため、それぞれの団体には内部的なルールが定められています。

「牛団の場合」
牛団の女性は、おおむね種族経営の団体で乳業に従事します。 そのため、適齢期になったらなるべく早く結婚して子牛を産み、高品質の牛乳を安定生産することが推奨されています。結婚イコール就業の準備段階とされる、里でも割合珍しい例です。
なお、そうして牛乳を生産する若い奥様方は、朝一で搾乳をこなした後、また別の仕事に出ることも認められているため、いくつかの副業を持っている方も多くいます。そのため牛団女性は働き者、かつ高収入の方も多く、奥様達の牛乳を加工・販売する作業がメインの男性陣は、皆女性に頭が上がらないのだとか。

「鶏班の場合」
多品種を誇る鳥団鶏班の中でも、主に白色レグホンや黒色ミノルカ、烏骨鶏といった種族の方が、食用無精卵の生産に従事しています。
こちらは無精卵であることが必要条件のため、牛団とは逆にまだ若い未婚のうちに就業し、結婚と同時に引退することが求められています。そのためあまり早い結婚は推奨されておらず、出来婚などはもってのほか(※)。男女交際は班を上げての厳重な監視の下での許可制なのだとか。
(うっかり有精卵を生産してしまう可能性があるため)
そのため、以前は不祥事を起こしたカップルに対し、両家の父鳥達が「お前達は揃って肉屋で逢い引き(合挽き)だ!」と言う脅し文句があったとかなかったとか‥‥(流石に今はそこまで厳しいことは言わないそうですが)
【 種族による体型認識の違い 】
上記結婚問題について取材した際、ある牛団の女性が「結婚以前の問題として、この種族の女が貧乳に生まれつくと辛い。牛なのに‥‥ってがっかりされるし、乳業に就くって言うと親戚のオッサンとかに『そんな胸で大丈夫か』とか悪気なく言われる」と鬱々と語っておられました。その時は「た、大変ですね‥‥」としか言えなかったのですが、のちの取材で意外なことが判明。
Gカップ以上が当たり前の牛団の中では貧乳扱いされる女性も、実は余裕でD~Eカップくらいあることがほとんどで、牛団標準の爆乳に臆する他種族男性にはむしろ「ちょうどいいレベルのグラマーさん」として秘かに人気を博しているケースも多いのだとか。
そんな訳なので、牛の中では貧乳扱いされている女性は、あまりそのことを気にしなくてもいいようですよ。そして他種族の男性は、もうちょっと積極的にそのことを告げてあげるべきだと思われます。
【 獣交響楽団 】
色んな楽器を引きこなす幸猫氏が、有志を募って組織した楽団です。
里の行事の折々には、華麗な演奏を披露しますが、いかんせん獣パワーにはまだ個人差があり、直立二足歩行での楽器演奏や、人間の姿をとったりすることが不慣れな獣も多くいます。
そうした獣は、演奏中は頑張って立っているのですが、曲が終わると拍手喝采の中で、次々ばたばたと倒れこんでしまいます。しかし、救助班に回収される彼らには、努力を讃える観客より、さらなる拍手が送られるのです。
【 コモドマスク 】
コモドドラゴン団から始まった近年の流行で、主に花柄やパステルカラーといった、可愛い柄のマスクの総称です。
コモド団の方々は、その口内に腐食毒を持つという言い伝え(※)のため、花粉症やインフルエンザの流行に関係なく、唾液飛散防止のためのマスクを着用する風習がありました。しかし、コモドドラゴンは生来大柄でいかつい風貌の方が多く、その強面な雰囲気を和らげるために、マスクを可愛い柄にしたのが発祥と言われています。
恐そうな風貌に可愛いマスク、というギャップ萌えは獣達の心を掴み、最初は種族的流行だったコモドマスクは、やがて里の定番となりました。
(なお、通常の獣用マスクについては「名産品」の「物産いろいろ」コーナーをご覧下さい)
※‥‥現在では、コモドドラゴンの毒は腐食毒ではなく、 血液凝固を妨げることによって血圧低下によるショック死や失血死を引き起こすものである、 という研究報告が成されています(まあ毒があるという事実には何の変わりもありませんが)。
【 アンカスーツ 】
寒がりの獣や、毛皮を持たない爬虫類の種族には欠かせない、冬の暖房着の必需品です。
本体の外観は「着ぐるみ電気毛布」的な全身スーツで、縫い込んである発熱線が獣達を寒さから守ります。
外出用は電池式で、背中にパックを背負うので少々重量があるのと、電池切れの心配があるのが難点ですが、その分、可動範囲を気にせずどこまでも行けます。一方、室内用は延長コンセントがしっぽの先から出ており、電池切れの心配はありませんが、その分可動範囲が限られます。
なお、アンカスーツ本体は下着やパジャマに近いものとされているので、通常は衣服っぽい体裁を整えたカバーを上に着用します。普通のファッションを模したものの他にも、秋は紅葉模様、冬は雪の結晶模様、春先には梅の花など、季節に合わせたデザインのカバーが出回り、周囲の目を楽しませます。
余談ですが、先年、端午の節句に合わせて粋でいなせな鯉のぼり柄のカバーが発売されたことがありました。しかし、いくら寒冷地の里でも五月はもうアンカスーツを着用する寒さではなかったので、その売れ行きはいまひとつだったとか‥‥
【 葡萄染め 】
ジュースやジャムに利用されることの多い野ぶどうですが、里ではその鮮やかな紫色を生かして、毛並みを紫に染めるおしゃれにも利用されます。
季節によって着用する色柄が決まっている人里の和服のように、葡萄染めの毛並みは秋の定番です。耳や尾などの一部分を染め分けたり、広い面積に意匠を凝らした模様を描いたりと、葡萄が実ってから雪が降るまでの間に、獣それぞれの腕とセンスを競います。
なお、短毛種や、色味の濃い毛皮で染めにくい、また爬虫類のように無毛の種族の場合は、代わりに葡萄染めの小物を身につけます。
(余談ですが、腹の毛並みを紫に染めて「紫のハラの人!」と言う一発ギャグは、定番すぎて笑いが取れないことを、新しく獣になった方々にお知らせしておきます)
【 赤い実染め 】
元来、里では秋になると、紫色の汁を利用した葡萄染めが流行するのが常でした。しかし先年は、「葡萄染めはもう飽きた!」という獣達により、赤い染め物を身に着けたり、毛並みを赤く染め分けたりするのが新たな流行となりました。
とはいえ、人姿で赤い小物を身に着けている分にはいいのですが、獣姿で毛並みを赤く染めていると「ちょっとそれ怪我してない?! 大丈夫??」と驚かれたり「怪我獣発見!」と問答無用で通報され、救急隊に搬送されてしまうという事例が頻発しており、最先端のお洒落を追求する獣達を困らせています。
【 しっぽガード 】
イグアナは事故などで断尾した場合、肉質部分の再生はするものの骨は元に戻らず、長さも元の半分ほど止まりで、美しい模様も失われてしまいます。
しっぽガードは、それを恐れるレッドイグアナが始めた近年の風習で、主に第二~第三段階の人姿時に着用します。
簡易な室内着用には、人間の女性用のパンティストッキングを使い、片足分にしっぽを入れ、もう片足分を胴に回し、一周させて後ろで結びます。
外出時には、衣服とコーディネートしたスカーフなどの布を巻いたり、やはり人間の女性用ガーターストッキングの片足分を使い、専用のしっぽガーターで吊り支えます。
正装の際は、木や金属を柔らかい布素材で裏貼りした、好みの素材のしっぽキャップを先端につけ、それぞれのセンスであつらえた専用のガードを正装仕様のしっぽガーターで吊るのが主流になっています。
当初はイグアナ団だけの流行でしたが、最近は他の爬虫類のみならず、断尾の心配のない短尾種・哺乳類にもおしゃれとして広まりつつあり、厳冬の昨年はニット製のカバーが流行しました。
(余談ですが、たまにレッドイグアナが使用する網タイツは、夏涼しくていいのですが、何故か今ひとつ評判がよろしくありません‥‥)
【 黒毛和牛絶滅のお知らせ 】
字面通りの深刻な事態ではなく、近頃流行の種族を上げてのイメージチェンジにまつわる冗談です。
元々は、牛団黒毛和牛班のイケメン青年がある時突然茶髪にしてきて「俺もう黒毛和牛じゃないから!茶髪和牛だからwww」と言い出したのが発端でした。彼の茶髪があまりに似合っていたため、他の若い和牛達も次々と茶髪(あるいは金髪)にするという大流行が起こり、気付けば和牛班の若者に黒髪のままの者が一人もいない!という事態に。
それで面白がった彼らが里の掲示板に「黒毛和牛絶滅のお知らせ」という冗談告知をしたため、そういった「種族ぐるみでのカラーチェンジ」が一気に里で流行しました。
例えばウサギ団で最も獣口の多い白ウサギ班の方は、ヒト化すると銀髪になることが多いのですが、それを皆が一斉に黒髪に染めて「白ウサギ班はウサギの暗黒面に落ちました」などと告知したり、本来茶色いキタキツネ班が一斉に銀髪にして「偽装銀ギツネ班」を名乗ったりと、種族を上げてのカラーチェンジネタ大喜利に発展しました。
(なお、ヒト化すると何故か赤毛になるレッドイグアナも「レッドイグアナを黒く塗れ!」などと訳の解らないことを言われて黒染めを勧められたりするのですが、 これは獣姿時の体色が反映されたものであり、恐らく毛染めでは変えられない類いのものなので、出来れば放っておいて下さい‥‥)

※追記‥‥白ウサギ班の黒ウサギ化ネタは、案の定「ウサギの暗黒面って何なんだよ!www」と獣達から総ツッコミを食らい、多方面で物議を醸すことに。このネタはその後、黒ウサギ班が全員銀髪にして「ふははは白ウサギ班は俺達が乗っ取ったー!」「な、何だとー!」という遊びに発展し、元々白黒二色であるパンダウサギ班を巻き込んで今だ拡大中のようです。