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幸 猫(ゆきねこ)

 薄茶の縞模様の、しっぽの長い長毛種。
 激しくふかふかなので一見解りにくいが、実は小さくてとても痩せた猫。 しかしその小さい身体には、誰よりも激しい獣パワーが秘められており、獣の里の筆頭ケモノである。
 肉球饅頭を作って人里に売りに行ったり、アンカスーツを開発したり、長老のお告げで新参の獣を働かせたりと、 多方面に才を発揮する。
 収穫の儀式の際は太鼓を受け持っており、他にも三味線など色んな楽器を操るために日々の練習を欠かさない。
 心の成長を感じた時に記す『悟りの書』や、里の様子を描いた絵日記など、執筆活動も盛ん。
 元々は人間であり、人間時の最終年齢は17歳。

◇ 幸猫物語 ◇

(作・幸乃雪様)
 まだ人だった頃は、つまらなさと楽しさがゴチャゴチャになっていたような気がする。だが今ではそれもハッキリと思い出せない。
火花と爆音と熱風、そして浮遊感を最後に<人>の記憶は、夢のようにあやふやなものになってしまった。

*****

 全身の痛みで目が覚めた。妙に古さを感じさせる天井が見える。
「気が付いたね」
横から、ぬう、と赤い大きな何かが出てきた。
「沼から足が出てたから、ビックリしたよー」
 人の言葉を喋ったのは、大きな赤トカゲ……それは着ぐるみか?
 聞きたかったが声が出ない。器用に正座しているトカゲを見ていると視線に気付いたのか、ふいとこちらを振り向いた。
「君、どこから来た猫又なの?毛が長いから洋猫又なのかい?」

 猫!?俺は人間だぞ!何を言い出すんだ、このトカゲ!!

 飛び掛って着ぐるみを剥ぎ取ってやろうと体を動かすと、何やら色々違和感を感じた。特に尻の辺りがモゾモゾ。
 そして見てしまった。目の前に動物の足が…恐る恐る布団をめくると更に動物足…だけじゃなかった。 胸にも腹にもフワフワと茶色の毛が生えている。

 猫になっとるんか、俺―――っ!??

 あまりのショックで毛を逆立て震えている俺の横で、赤トカゲは呑気に茶を注いで俺に差し出した。
「寒い時は、イグアナ茶で暖まるといいよ」

 寒いんじゃないわ、ショックを受けとるんじゃ。

「僕、レッドイグアナ。よろしくね」


 この後「なんでこんなにぬるい茶なんだ」と怒る俺に、レッドイグアナは仰天した。
「猫舌じゃないのー?すごいよ猫又!!」
 目を輝かせるレッドイグアナに目眩しつつ、「猫又じゃなくて人間だ」と更に怒鳴りつけてやった。
「俺は事故でバイクごと崖から落ちたんだ。猫じゃない!」
「でも沼から引っこ抜いた時は猫だったよ」
――ダメだ…コイツとこれ以上話しても埒明かねえ…
 ヘロヘロと崩れ落ちた俺を不思議そうに見つめ、何か思いついたようにパカー、と口を開けた。
「長老に聞いてみたら、何か分かるかも」
「長老…?」
「この獣の里には長老が祭壇の上に寝てるんだよ」
 さあ行こう、と腕を引かれて外に出た。
 ぐいぐいと引っ張られて歩いていると、どうも視線を感じる。
(お前ら、みんな動物じゃねえか。猫姿の俺なんか珍しくもないだろう…)
 周りの奴らを睨みつけている俺に気付いたのか、レッドイグアナがそっと耳打ちした。
「猫又、珍しいんだよ。君以外にはまだ居ないんだ」
 でも僕も珍しいんだよ、と付け加えたので改めて周りを見回してみた。確かに赤トカゲはこいつ以外に居なかった。

「さ、着いたよ」
 大きなお堂のような建物に着いた。ガラリと戸を開けると広い室内の奥に、高い祭壇と――…コタツがあった。
「ここじゃあコタツを祭ってんのか?」
「あれが長老。コタツ亀なんだよ」
 祭壇を上がり、よく見てみる。古めかしさ爆発といった感じのコタツにしか見えないこの物体が、本当に長老で亀なんだろうか。
 コタツ布団を捲ろうと近づくと、もそりと頭が出てきた。
「な〜〜んじゃ、お前は〜〜〜?」
 皺くちゃ顔の亀が間延びした口調で喋った。髭がちゃんと生えているのにも驚いたが、コタツに亀という組み合わせにも驚いた。
「長老、彼が沼にはまってた猫だよ。でも本当は人間だって言ってるんだ」
レッドイグアナの言葉を聞き俺の方を向き直った亀は、じっと俺の顔を見つめた。
 そしてもごもごと口を開き、
「お前…人だった頃が間違いだったんじゃの〜〜〜。魂が猫の形なんじゃ。生まれる場所を間違っとったんじゃ〜〜〜〜」
 猫のくせに人として生まれて、人のくせに猫の徳を積んでいたから、この獣の里に呼ばれたんじゃな〜〜〜。 などと言い放ち、亀はまたコタツに潜ってしまった 。
「…はあ…?」
 頭の中を疑問符で埋め尽くし、呆然としているところにレッドイグアナの、
「やっぱり猫だったんだね」
 この一言がトドメになり、俺は祭壇の階段を頭から転がり落ちてしまったのだった。

*****

 <俺様絵日記>1号の1回目を読み返し、そういやこんなことがあったと懐かしくなった。 あの後に里の猫どもに絡まれて、ボコボコの返り討ちにして樽に詰め込み、山の斜面から転がしてやったこともあったなあ。
 自分の名前も<幸>という一字しか思い出せず、レッドに<幸猫>と名付けてもらったのも、今では良い思い出だ。

(※物語の執筆は、幸猫氏本猫によるものです)
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