いろんなプラッサくん物語
その二 冒険プラッサくん、勇者になる
吉井さんちのプラッサくんは、一年ほど前に大冒険をしました。流されて川を下り、下水道の中を放浪したのです。
その時の体験が絵本になり、プラッサくん達の間で一躍有名になりました(もちろん、普通の人たちの間でも有名ですが)。
でも、だからと言って、プラッサくんと和哉くんの友情には、何のかわりもありません。相変わらず、二人で遊びに行ったり、友達を呼んだり、おうちで何かして遊んだりと、楽しい毎日が続いています。
今日も和哉くんとプラッサくんは、二人でテレビの前に陣取って、RPGのゲームをしていました。
最近のRPGは、登場人物の名前が最初から決まっているものが多いので、プラッサくんはちょっと不満顔です。
「プラッサも冒険にトウジョウしたかったです」
「そうだね、二人の名前でやりたかったね」
和哉くんもちょっと残念そうでした。ゲームをしながら、ふと思いついてプラッサくんに聞きます。
「何でRPGって、必ず主人公が男で、もう一人が女の子で魔法使いなんだろうね」
「プラッサわかりません。オトコノコふたりでもいいと思うです」
「だよねえ。女の子二人とか、おじいちゃんとおばあちゃんとか」
プラッサくんはぱかりと口を開けました。
「オトシヨリでは冒険はたいへんです」
「そうかなあ」
なんて話しながらも、序盤のRPGはさくさく進んでいきました。
三度目くらいのモンスターとの戦闘が終わると、威勢のいい音楽が鳴り響きました。
「あ、レベル上がった」
言って、和哉くんがポイントを『つよさ』とか『はやさ』とかに振り分けます。
プラッサくんが、大きな画面をじっと見て言いました。
「レベル4ですか」
「うん」
「まだよわいです。けいけんちがたりません」
「まだ始めたばっかだりだしね」
すると、プラッサくんは、えっへんと胸を張りました。
「プラッサはもうレベル21です」
「えっ?!」
和哉くんはびっくりしました。ゲームそっちのけで聞き返します。
「レベルって、なんの?」
「プラッサのレベルです。新品のプラッサはけいけんちが足りないので、レベルが低いです」
「そんなのあったの?」
「にんげんにもモンスターにもアクマにもあります。だからプラッサにもあると思うです」
どうやらそれは、製品としての仕様にあることではなく、このプラッサくんが適当に決めたことのようです。ちょっとの間ぽかんとしたあと、和哉くんは面白がって聞きました。
「じゃあプラッサくん、魔法は使えるの?」
「プラッサはユウシャです。魔法はつかえません」
「勇者だったの?!」
「そうです」
プラッサくんはそう言うと、もういちど胸をはりました。
和哉くんはうーん、と首を傾げました。『勇者』なんて言葉を、どこから覚えてきたのか、見当もつきません。なぜって和哉くんは、『勇者』の出てくるRPGをしたことがなかったからです。でもまあ、そんなことはささいなことです。
和哉くんはふと思いつきました。
「あ、じゃあもしかして、この前の冒険の時に、レベルがたくさん上がったんだ?」
「そうです。プラッサはこのうちの子になって一年と一ヶ月たちました。それでレベル11になりましたが、大冒険をしたのでボーナスポイントをもらって、レベルが10上がりました。だから今はレベル21です」
やけに理論的で解りやすい根拠です。
『ボーナスポイント10点』のうちわけがちょっと気になりはしたのですが、和哉くんはただただ感心して頷きました。
それから何カ月かたったころのことです。
ある朝、街は真っ白い綿帽子に包まれまていました。何年ぶりかの、大雪が降ったのです。
プラッサくんはびっくりして和哉くんを起こしました。
「ご主人ご主人、すごいユキです、まっしろです」
「あー‥‥ほんとだ‥‥学校行くの大変そうだなあ」
ねぼけまなこで起き出すと、それでも和哉くんはもそもそと支度を始めました。
「学校にはやっぱり行くですか」
「行かなきゃ怒られちゃうよ」
「帰ってきたら、プラッサとお外で遊ぶです」
「うん、約束」
そうして和哉くんは出掛けていきました。
でも、プラッサくんは、和哉くんが帰ってくるまで待ちきれません。お母さんに頼んで、焦げ茶色のコートと、赤い長靴と、白い毛糸の帽子を出してもらうと、プラッサくんは、お庭のふかふかの雪の上に降り立ちました。
初めて見る雪は、白くて冷たくて、さくさくしています。ひとしきりさくさくを楽しんだあと、肉球を差し出してじっとしていると、雪の結晶がふわりと落ちて、桃色の肉球の上でとけていきました。
それをつぶさに観察して、プラッサくんはうんうんと頷きました。
「雪印のマークは、だから雪印です」
なんだかよく解りませんが、プラッサくんにとっては大事な発見だったようです。レベルが上がりそうな予感に、プラッサくんは深く感動していました。
と、その時です。
雪の上に、ふっと何かの影が落ちました。気づいたプラッサくんが上を見ようとしましたが、それより早く、何かがプラッサくんの肩をわっしと掴み、ばさりと音をたてて飛び上がりました!
「わひゃー!!」
地面がぐんぐん遠ざかっていきます。プラッサくんはびっくりして叫びました。分厚いコートの肩と背中に、鋭い鈎爪が食い込んでいるのが見えます。
なんと、プラッサくんは大きなトンビに捕まえられて、宙ぶらりんに空を飛んでいたのでした!
何とか鳥の爪から逃れようと、プラッサくんは空中でジタバタともがきました。少しあと、ハッとして一旦もがくのを止め、毛糸の帽子をていねいにコートの中へしまいます。編み目にボタンを引っかけてとめれば、どんなに暴れても大丈夫です。
お母さんが編んでくれた、大事な帽子を落っことす心配がなくなったプラッサくんは、またジタバタともがきはじめました。
そうなると困ったのはトンビの方です。雪の中でごそごそ動いていた茶色いコートを、大きなねずみと見間違えて捕まえたのはいいのですが、三十センチのプラッサくんは、大きなねずみよりもっと大きくて重いのです。
どうやらこれはねずみではないらしいと気付いたのか、トンビは暴れるプラッサくんを、不意にぱっと手放しました。
プラッサくんは一瞬ほっとしました。でも次の瞬間、地面に向かってまっすぐ落ちていくことに気付いて、二度びっくりして叫びました。
「わひゃ―――!!!!」
悲鳴が尾を引いて遠ざかり、プラッサくんはぎゅっと目をつぶりました。
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