いろんなプラッサくん物語

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  その四 101体プラッサくん大行進  

 ある冬の日、全国のプラッサくんと、そのご主人達は、たぶん一斉に同じテレビ番組を見ていました。
 陸くんが開発した新しいプラッサくんが、このたび発売されることになり、そのPRもかねて、『TVスペシャル・101体プラッサくん大行進!』という番組が放送されたのです。
 その番組で初めて紹介された、四十センチのプラッサくんはなんと、『介護用プラッサくん』なのでした!
 介護用と言うだけあって、このプラッサくん達はとても力持ちです。大人の人もひょいと持ち上げてしまいますし、卓抜したジャンプ力を備えていて、高いところのものを取ったりするのもお手のものです。性格も、お友達プラッサくんより、ちょっぴり大人に設定してあるので、日常のお仕事も十分こなせるのです。
 高性能な介護用プラッサくんは、当然、お友達版よりもはるかに高価です。
 でも、ほしいけど高い、と思った人も大丈夫! と、レポーターのお姉さんは、笑ってフリップを出しました。
 そこには、介護における医療費控除がうんぬん、と書かれてあり、購入、あるいはレンタルの費用は、保険の支給と税額控除の対象になる、と云うことが、とてもわかりやすく説明されました。
 陸くんとテレビを見ていたお父さんは、感心して溜息をつきました。
「よくそこまで考えて作ったね、お前」
「いやあ、来たるべき高齢化社会に備えてみようかと思って」
「ほんとかなあ」
 ‥‥テレビのなかでは、介護用プラッサくんは、同時に海外進出もする、ということが紹介されました。
 外国のプラッサくんは、日本よりずっと、誘拐や破壊の危険性が高くなります。それに備えて、セキュリティを強化して作ってあり、日本のものよりずっと丈夫で、放電もかなり強力だということでした。
 そうしていよいよ、『海外版の介護用プラッサくん』の実物が紹介されると、スタジオの方からどよどよっ!とざわめきが上がりました。
 英語圏のプラッサくんと、北京語、広東語圏のプラッサくんは、見た目には日本の介護用プラッサくんと変わりません。
 でもその中に一体だけ、明らかに他のプラッサくんと違うものがいました。そのプラッサくんはなんと、目にもあざやかな真っ黄色だったのです!
「わひゃー!」
 スタジオと各家庭のプラッサくんが、同時にびっくりしてそう言いました。
『たぶん今頃、これを見てるプラッサくんは、みんなびっくりしてるでしょうねえ』
 レポーターのお姉さんは笑ってそう言うと、黄色いプラッサくんに話しかけました。するとなぜか、そのとなりで、また別のお姉さんが何やらプラッサくんに話しかけます。
 うなづいて話しだしたプラッサくんの口から出たのは、なんと流暢なヒンズー語でした!
 そう、この黄色いプラッサくんは、インドのプラッサくんだったのです。
 通訳のお姉さんとの会話によると、インドでは日常的に色んなカレーを食べますし、その時スプーンなんかは使いません。白いプラッサくんでは、毛並みがスパイス色に着色してしまいます。その汚れがまだらにつくのを防くために、最初から黄色くしてあるのだということを、インドのプラッサくんはヒンズー語で語ったようでした。
 それを見ていた生プラッサくんは、びっくりして口を開けたまま、しばらくキョロキョロしていました。そしていきなり、お父さんに向かって肉球をあわせて、
「ナマステ」
 と言ったので、お父さんと陸くんは思わずひっくり返ってしまいました。
「ど、どこでそんな言葉覚えたんだい?」
「あい、これです」
 お父さんに聞かれた生プラッサくんは、さっきまで食べていたお菓子の袋を差し出しました。‥‥そこには、『世界のことばでこんにちわ』と書かれてあり、お菓子の袋一個一個に、『ハロー(アメリカ・イギリス)』とか、『ナマスカール(パキスタン)』などと、色んな国のあいさつの言葉がずらりと並んでいたのでした。
「プラッサはおやつを食べているときもべんきょうしています」
 そう言って胸を張ったプラッサくんに、お父さんと陸くんは思わず笑ってしまいました。
 そうこうしているうちにCMをはさんで、『プラッサくん誕生の場所・国立○×研究所 第五開発部に突撃!』と云う企画が始まりました。
「あれ、お前も出たの? これ」
「まさか」
 陸くんはぷるぷる頭を振りました。
「顔が知られたら誘拐されちゃうからね。ほら、俺、まだいたいけな中学生だし」
「‥‥‥‥‥いたいけ」

 いたいけ【幼気】=幼くてかわいらしい。弱くていじらしい。

「『イタイケ』とはなんですか?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「お父さん、何でそこで黙るかな」
「ナゼ黙るです。教えてほしいです」
 三人のそんな会話をよそに、レポーターのお姉さんはカメラを振り返りつつ、ずんずん奥へと進んでいきます。
『それでは第五部の部長さんにお話をうかがってみましょう! どーも、よろしくお願いします!』
『‥‥どうも』
「あ、部長、めずらしくネクタイしてるよ」
「まあまあ」
 そうしてひとしきり色んな話をしたあと、お姉さんは突然、
『そう言えば部長! ロボットのプラッサくんにも実は、男の子と女の子の区別がある、と言う噂を聞いたんですけど、その辺りはいかがなんでしょうか?』
 と質問しました。
『ええ、ロボットなので、構造上の区別はないんですが、プラッサくんの情緒回路には、ちゃんと認識があるんですよ』
『ええっ! それはどうやって見分けられるんでしょうか?』
 すると部長さんは、向こうにいたらしい部署の人に指示して、三体のプラッサくんを連れてこさせました。
『こっちのプラッサくんから聞いてみてください』
『はい。‥‥えーと、じゃあ右側のプラッサくんからいってみましょう。プラッサくん』
『あい』
『君は男の子かな、女の子かな?』
『プラッサはりっぱなオトコノコです』
『じゃあ、まんなかのプラッサくんは?』
『オンナノコです』
『ええっ、どこがどう違うのかな?』
 すると、「女の子」の方のプラッサくんが、片手を差し出して肉球を見せました。
『プラッサは、こんなふうにブチが入っているとオンナノコです』
『ええっ!』
 お姉さんが驚いて、カメラの方に向き直ると、画面の下に、『ブチ=女の子?!』と云うテロップが出ました。
「そうだったの?」
 お父さんも、びっくりして陸くんに聞きました。
「まあ、あまり意味はないんだけどね。面白いでしょ? みんな一緒じゃない方が」
「そりゃあねえ‥‥」
 画面の中では、さらに事態が進行しています。
『ソメヤさん、このプラッサくんにも聞いてみて下さい』
 部長さんに言われて、お姉さんは三体目のプラッサくんに聞きました。
『えーと、プラッサくんにはブチはあるのかな?』
『ありません』
『じゃあ男の子なの?』
『女の子です』
『えっ、どうして?』
 そのプラッサくんは、えいっと胸をはりました。
『ニューハーフです』
 スタジオから、『ええーっ?!』というどよめきが上がりました。
 画面の下のテロップが、すかさず『※冗談です!!』と文字を点滅させて強調します。
『いや、開発責任者の趣味でして‥‥はっきり自己認識のあるプラッサくんと、面白がって冗談を言うプラッサくんがいるんですよ』
 部長は苦笑して言いました。
 お父さんは変な顔をして陸くんを見ていました。生プラッサくんもまねをして、
「じーっ」
 と、口で言いながら陸くんを見ます。
「なんだよー、二人して」
「‥‥やっぱり変だわ、お前」
「言っとくけど、俺、お父さん似だからね」
「生プラッサもお父さんに似てますか、ヘンですか?」
 お父さんと陸くんは、まるでプラッサくんみたいに、ぱかりと口を開けました。
「生プラッサくんは今まで、お父さんは変だと思っていたのか!」
「俺も?!」
 生プラッサくんはうーん、と腕組みし、難しい顔で言いました。
「それはむつかしいモンダイです」
「‥‥お父さん、ちょっとショック」
「‥‥俺も」
 などなど、このTV番組は、たぶんあちこちのおうちに、複雑な騒動を巻き起こして終わったのでした。
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