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愛情の証明<5> −その後の東くんと高橋くん−

 

 大輔は自宅近くの外科病院に入院していた。
 救急車で大きな総合病院に運ばれた後、その後の便利を考えて家の近くで入院施設のある外科病院に移ったのだと、大輔のお母さんが教えてくれた。
 見舞いに行きたいと言ったら、ヒマにしてるから喜ぶわと、病室の場所を教えてくれた。
 明るい大輔のお母さんの声を聞いてたら、やるせなくなってきた。
 自分の息子がその友人になにをしたのか、知ったら、おばさんはなんて言うだろう?
 大輔。
 君のしたことは、ぼくだけじゃない、君のお母さんに対しても、裏切りだったんじゃないか?
 胸の中でぼくは問いかけた。
 東と会って話した二日後の午後、ぼくは大輔の入院先を訪れた。
 教えられた病室に近づくにつれて、ぼくの心臓は、早く大きく、鳴り出した。
 手の平に汗がべとりとにじむ。
 怖かった。いやだった。
 今、世の中で一番会いたくない相手で、でも、今一番会わなきゃいけない相手を、訪ねる緊張。
 やっぱり東についてきてもらえばよかったと思い、そんな情けないことでどうするとも思った。決めたんだろ。ぼくは自分を叱る。自分でケリをつけるって。
 大輔の名前がプレートに付いている部屋まで来た。その部屋は二人部屋らしくて、プレートにはもうひとつ、見慣れない名前が並んでいた。
 いよいよだ。ぼくは大きく深呼吸して、一歩踏み込む。思い切ってドアをノックした。
「はい」
 短い返事。
 心臓がドキドキ言い過ぎで、頭の中にまで鼓動が反響しているみたいに感じながら、ドアを押し開く。
 大輔はベッドの傍らで車椅子に座り、隣のベッドの高校生らしい子と話していた。
 振り返った大輔の瞳が大きく見開く。
「……やあ」
 強張って固まってしまったみたいな喉から声を押し出した。
「話があって、来た」





 大輔と一緒に屋上に出た。
 グリーンがセンスよく配置された屋上には他にも散策してる人影があったけれど、ぼくたちはその一隅に引っ込んだ。
「……ケガ、どうなの?」
 とりあえずケガの様子を聞いたぼくに、大輔は苦笑した。
「骨折なんだけど、転んだ拍子に腱も痛めたらしくて、しばらくは車椅子らしい」
 そして、大輔は、
「天罰だと思ってる」
 ぽつりと低く付け足した。
 東と同じことを言う、思いながら、なんの天罰? 聞き返す。
「おまえに……ひどいことをした」
 大輔は一回しっかりと顔を上げると、ぼくに向かって深く頭を下げた。
「すまなかった」
「…………」
 大輔に会ったらなにをどう話そうって、頭の中でシミュレーションしてなかったわけじゃないけど。今までごくごく平穏無事に過ごしてきたぼくは、いわゆる被害者の立場になったこともなければ、加害者と呼ばれる人間と付き合ったこともなくて。シミュレーションはいつも、あやふやなところで立ち消えてしまっていて。こんなふうに正面きって謝られた時の対応なんて、ぼくは考えてなかった。
 一般的な反応として、「謝ってすむと思ってるのか」っていうのがあるけど……。
「謝ってすむとは思ってない」
 先に言われてしまった。
「許してもらえなくても仕方ない」
 そうまで言われてしまった。
「本当に、すまなかった」
 もう一度、深々と頭を下げられてもしまって。
 あー……普通ならここは、「頭をお上げ下さい」か、「わかりました」になると思うんだけど……。でも、ぼくはそのどちらも口にしたくないことに、その時、気づいた。
「……友達だと思ってたんだ」
 なじる口調になるのは、どうしようもなかった。
「あれはひどいよ」
 大輔はうなだれて、小さく、「すまなかった」と繰り返し……けど、と顔を上げた。
「俺はおまえのことを友達だとは思ってなかった。俺はずっとおまえを……恋愛対象として見てた」
 大輔のまっすぐな視線にひるんで、ぼくは思わず一歩後ずさる。
「中学の時からだ。おまえが野球部の川添を好きだった時も、本当につらかった」
 硬直した。
 誰にも気づかれていないと思ってた、片思いだけで、見るだけで終わった初恋。その相手の名前を、なにも話した覚えのない大輔に口にされて、思考も呼吸も、一瞬止まってしまった。
「高校が同じになって嬉しかった。でもおまえはまだ川添のことを忘れられないのかと思っていたから……待つつもりだった、おまえが俺を受け入れる気持ちになってくれるまで」
 いつの間にそんな話になってたんだ!?
「おまえが、男同士は気楽につきあえる友人同士なのが一番いい関係だとか言うたびに、俺は……」
 その台詞は、確かに口にした覚えがあった。それも何度か。その言葉は、ぼくにとって、性懲りもなく同性にばかり目が行ってしまう自分を戒めるための言葉で……それを大輔は、自分に対する牽制だと思っていた?
「待ってたんだ」
 大輔は繰り返した。
「なのに、おまえは東と……」
 ぼくは力なく視線を落とす。ぼくこそ、ずっと、ずっと、自分一人、異常じゃないかと悶々と悩んでたんだ。まさか、誰かに片思いされてるなんて、思いもしなかった。
 『おまえの鈍さは致命的だ』東の声が耳の奥によみがえる。――ぼくが、自分がゲイだと悩んでいた間、ずっと大輔はぼくのことを見ていてくれたのか……?
「だが、」
 大輔の口調が強くなった。
「ふられた恨みがあったにしろ、俺は最低なことをした。あの日はどうかしていたんだと言えればいいが、同じ状況になったら、きっと俺はまた同じことを繰り返す。悪いと思っても、同じことをしてしまう。だから、あれはあの時の勢いだけだった、許してくれ、と言うことはできない」
 ぎょっとしてぼくは顔を上げた。繰り返すって……堂々と言うか!
 大輔は真顔で続ける。
「誤解しないでくれ。俺は、あれが一時の気の迷いだったとおまえに謝ることはできないと言いたいだけだ。
 俺は二度と、人気のないところで、おまえと二人きりになるような状況は作らない。同じ状況で同じことを繰り返すなら、二度と同じ状況を作らない。
 俺がしたのは最低なことだった。おまえには何度でも詫びる。すまなかった」
 もう一度、ぐっと頭を下げられて。
 もういいよって、その肩に手をかけたくなった。ずっと好きでいてくれたのに、気づけずにいた、そのことを謝りたいと思った。もっと早くに大輔の気持ちに気づけていたら……ぼくたちの関係は『友人』で終わらなかったかもしれない、そんなことまで、ぼくは口にしてしまいそうだった。
 東の言ってた『ほだされる』とはちがうと思うんだけど。大輔の顔をのぞきこんで、なにか優しい言葉を返してしまいたくなって……。まずい。ぼくは小さく首を横に振った。
 大輔がゆっくりと顔を上げた。
「……もし、おまえの気が済まないなら……」
 ギプスのはまった脚を、大輔は示した。
「ここを思い切り蹴るなり、重いもので殴るなりしてくれ。きれいな傷じゃないって話だったから、衝撃を与えたら後遺症ぐらい残るかもしれない」
「そん……!」
 絶句した。
「しないよ! そんなこと!」
 焦りながらぼくは言葉を継ぐ。
「おまえ、最低だけど……許せないと思うけど……でも、だからって、そんな……大輔を傷つけたいとか、それは思わない。思わないよ!」
 そうか。大輔はひとつ、大きく息をついた。
「一度、きちんとおまえに謝りたいと思っていた。おまえのほうからこうして来てくれて、本当によかった」
 ぼくはそれを口にしようかどうか、一瞬、迷ってから、
「東も、一度きちんと会ったほうがいいって言ってくれたから」
 思い切ってそう言った。
 大輔の口元が歪んで、でも、なんとか笑みの形になった。
「……くやしがるのが、いけないんだけどな……」
 呟いて。
「ひとつ、教えてもらえないか」
 切り出した。
「おまえたちは、いつから付き合ってたんだ? おまえはいつから東のことが好きだったんだ? どうしておまえたちは、付き合うことになったんだ?」
 思わず吹き出した。
「それ、全然、ひとつじゃないじゃん」
 そうだなって、大輔も小さく笑った。
 ――付き合うきっかけになったのは……。
 東がぼくに、『本当に男の好きなゲイなら、それを証明してみろ』って言ってきて。ぼくたちはいきなり、お互いのペニスを口にしたりして。キスより早く、ぼくは東の口の中に出しちゃったりしてて。好きかどうかなんて確かめもしないで、ただそれが気持ちいいから、セックスを続けて……。
 でも、東はぼくのことが気になってて、わざとそうやって仕掛けたんだって言う。セックスしてたのも、ぼくが好きだったからだって。でも、ぼくはね、ぼくは……。
 気が付いたら、好きになっていた?
 自問して、ぼくははっとした。
 今まで、ゆっくり考えたことがなかったけれど。
 ぼくは東と躯を使って遊んでるあいだに、東のことを好きになっていったんだろうか。そうなんだろうか。
「……付き合いだしたのは……高3の7月頃で……」
 キスした、たくさん、エッチした。それが気持ちよかったから、だから、ぼくは東を好きになったんだろうか?
「東からアプローチしてくれて……」
 大輔にキスされたときも、抱きしめられたときも、その感触が気持ち悪くて不愉快で、仕方なかった。それは……東に慣れてしまっていたから? それだけで……?
「ぼくは……」
 一番最初に、東と抱き合ったときのことを思い出した。すごくドキドキして、ぞくぞくして……興奮した。東に触れているのも、触れられるのも、気持ちよくて……うれしくて。そうだ、ぼくはうれしかった。東と、抱き合って。
 きちんと大輔の目に視線を当てた。
「東からアプローチしてくれて、ぼくは、東のことが好きだったから、うれしかった」
 言えた……。ぼくの真実(ほんとう)。
 大輔は黙ってうなだれた。





 いや。
 ほめてもらえるとは思ってなかったけど。
「はあ?」
 聞き返して来た声はしっかり尖り、眉間にはくっきり不機嫌のしわが刻まれて。
「だから……」
 ぼくの声は尻すぼみになる。
 東の家に大輔の病院から直行して、いろいろ報告していた時だった。
「初めて抱き合ってから、一年近くもたって! 山岡に聞かれて! 『あーそーいえば全然気持ち悪くなかったっけー、なあんだ、ボク、その前から東のことが好きだったのかー』って、そういうことか!」
 東の裏声での当てこすりに、さすがにカチンと来た。
「そこまで、バカっぽくないよ!」
 抗議したけど、実態はまさにその通りで。
「…と、思う…」
 気弱く付け足してしまう。
 高く舌打ちの音が響く。
「ムカついた。ケツ出せ。ほってやる」





 なんて。
 けっこうキツイ目をしてそう言われたから、東が掛けていたソファから立ち上がったとき、床に座ったままだったぼくはビクリとしたんだけど。
 東は『おまえはそういうヤツだよ』、ぼやきながらキッチンに引っ込んで。
「なんか飲むか? コーラ? コーヒー?」って。
 なんだか一人取り残されたような気分で、ぼくはうつむいた。
 決してケツを掘られたいわけじゃなかったけど。
 今までの東だったら、過激な冗談は冗談として、それをきっかけにして仕掛けてきてた。それがないのは……やっぱり、ぼくを思いやってくれてるんだろうと思うんだけど……。
 差し出されたコーラのグラスを無視して、ぼくは東を見上げた。
「コーラより、キスがいい」
 ぼくとしてはかなり思い切ったセリフだったんだけど。
 東はグラスを持ったまま固まった。
「……そう単刀直入に来られるとは、思ってなかった」
「東は?」
 かまわずぼくは東に尋ねる。
「東はもう、ぼくみたいな面倒くさいのはいや? もしかしたら、ぼく、また、東を突き飛ばすかもしれない。だったら……いや?」
 グラスをテーブルに置いて、東はぼくの隣に膝をついた。目線が同じ高さになった。
「……突き飛ばされるのは、イヤじゃないけど……その後、笑えって言われたら、かなりキツイ」
 そうだよね……。ぼくにもわかる気がした、拒否されるつらさは。でもぼくは、東とキスしたかった。突き飛ばさない自信はなかったけど、でも、キスしたかった。
 東を見つめた。
「笑ったり、しなくていいよ。代わりに、怒ってよ。ぼくが、東を突き飛ばしちゃったら、おまえが好きなのは俺だろうって、怒ってよ」
「…………」
 東は黙って……ゆっくり膝に体重を乗せて、顔を近寄せてきた。ハニーブラウンの瞳が、近々とぼくの瞳を捉える。
 すっと、その瞳が、長い睫毛に隠される。
 ぼくも目を伏せながら、近づいてくる唇を、少し仰向いて待つ。
 今更だけど……まるで初めてキスする前みたいに緊張した。
 きっと、東もそうだ。
 唇にかかった吐息が震えていた。
 そっと。
 唇にあたたかくて柔らかいものが触れた。
 じんわりと伝わってくるのは、東の体温。
 ぼくたちはそのまま、ただ唇を重ねていた。互いのあたたかさが溶け合って、どちらがどれほどあたたかいのか、わからなくなるまで。





 ゆっくりと唇が離れた。
 東の手が、やっぱりゆっくり、ぼくの頬に触れた。東の掌。ほっぺたを摺り寄せた。
「……平気?」
 心配げに問いかけられて、うん、うなずいた。
「平気」
 東の顔から憂いが消えて、代わりにすごく綺麗な笑みが浮かんだ。瞳が輝いて。唇がほころんで。思わず見とれていたら、
「来い」
 東が床にぺったり座り込んで、両手を広げた。
 ぼくに向かって、ぼくを受け止めようと、開いた両手。
「……うん!」
 ぼくはその両手の間に、飛び込んだ。東の胸を目掛けて。





 ぼくを受け止めて、東が後ろに倒れこむ。
 ぼくはもう、そんなこと、かまっていられなくて。
 自分から東の唇といわず頬といわず、顔中にキスを浴びせた。
 そしたら、東の手に後頭部をつかまれて、唇より先に舌が触れるようなディープな口付けをされた。
 夢中で、ぼくはそれに応える。
 ぼくの口の中で踊る東の舌に舌を絡ませ、そのすきに、東の口の中を探ろうと舌先を伸ばした。
 激しいキスになった。
 東が東の口の中に伸ばしたぼくの舌を噛み、すするように吸い上げる。
 ぼくはぼくの口の中に引き込んだ東の舌に自分の舌をぞろりと絡め合わせた。
「……ん……っふ……ん……っ!」
 キスだけで、もうジーンズの中の自分自身がきつくなってくる。
「は、あ……あ……」
 喘ぎと乱れた吐息がキスの合間にこぼれた。
 東が頬を摺り寄せて来て、耳元でささやく。
「声、あげんなよ」って。
「え」
 戸惑って聞き返したら。
「煽られすぎる。俺、たまってるもん」
 なんて。
 マズイって。
 それだけで、ほら、余計に、きつくなっちゃったじゃん。





 東、あずまぁ……どうしよ、ぼく、もうキツイ……
 俺も……ほら、ぱんぱん……





 吹き出しながら、服を脱いだ。脱がせた。
 裸になって、ぼくたちは互いの躯をものすごい熱心さでまさぐり合った。
 キスした。舐めた。噛んだ。撫でた。……摘まんだ……しごいた……。その合間にも、唾液のしたたるようなキスを
何度も交わした。
「は、あ……あ、ん、あ、あ、あ、あ……アアッ…!」
 声を上げるな、なんて、全然、無理で。
 ぼくは立て続けに、頭が冷えてるときだったら赤面して逃げ出したにちがいないような甘い声を立て続けに上げた。東の短く、乱れた息が、ぼくの喘ぎに交ざる。
 東の肩口に汗ばんだ額を押し付けて、ぼくは股間を弄る東の愛撫に耐えた。ぼくのソコはもうたらたらと雫をこぼして、東の下腹を濡らしていた。
「……やあらしぃ」
 にっと東が笑う。
「これ、おまえのだぜ?」
 自分の茂みを探った東の指先が濡れている。
「や…! 東、いやらしすぎ!」
 抗議したら、
「そうかなあ」
 東がふわりと笑った。
「おまえのその顔のほうが、いやらしいと思うけど。…鏡、見るか? めろめろな顔。すんげえ可愛い」
 そう言って、ぼくの鼻先をぺろんと舐めて。
 ――ああ、そうだね、ぼく、きっと、すごくいやらしい顔してるね。でも、それは東も同じだよ? 東の唇も、舌も、指も、アソコも……すごくすごくいやらしい。……すごく、いやらしくて……だけど、ぼくはそれが嬉しくて……こんなふうに、東とドロドロになっていられるのが、すごく気持ちよくて……。
「東と…!」
 絶対、絶対、言うつもりなんかなかったことが、ぼくの口からあふれようとしていた。
「東と、初めてがよかった……!」
 言うつもりなんか、なかった!
 勝手に口が動いた。
 初めての時は、東と、迎えたかった。東を、迎えたかった。
 言うつもりのなかったその言葉があふれた瞬間、どっと涙が溢れ出した。
 一度に視界が歪んだ。ぽたぽたと涙がこぼれていく。
 だけど。
 だけど、東は。
「ばーか」
 笑ってぼくの頭を小突いた。
 そして。





「忘れたのかよ、3センチ」って――





 さっきあふれだした涙なんか、小雨に思えるほどに。
 ぼくの涙腺は壊れたみたいに大量の涙を溢れさせた。
 喉が、きゅんと痛くなって。





「わああああああっ」





 ぼくは子どもみたいに大声を上げて泣き出した。
 東にすがりついて。
 東に抱きしめられて。
 ぼくは大声上げて、泣き続けた。





 電話が鳴った時、ぼくはまだ東の胸の上ですすり泣いていた。
 もうほとんど泣きの発作はおさまっていたけど。
 東に髪を撫でられながら泣いているのが気持ちよくて。止められなかったんだ。
 リビングの電話が鳴り出して、東は、
「誰だよ、いいところに」
 って、あからさまに不機嫌になった。
「いいよ…大事な電話かもよ?」
 ぼくが躯を起こすと、東も不承不承に立ち上がって、テーブルの上に手を伸ばした。
「はい。……ああ? いらねーよ、勝手なこと言ってんじゃねーよ。…あ? 友達来てんだよ、いらねっつって……おい、おい?! 聞けよ、バカ親父っ! …………」
 通話の終わったらしい子機を手に、東が振り返った。
「……親父。予定より早く仕事片付いて、今、駅だって。弁当買って帰ってくるって」
 ええっと。
 ぼくは周りを見回した。
「じゃあ……とりあえず、服は着とかないと、マズくない?」





 今度は東が、怒りながら、泣き出した。





「なあ」
 ベルトを締めてるぼくにかかった声は、やっぱり泣き声に聞こえた。
「俺の愛情、いつになったら証明できんの?」
 ぼくは極上の笑みを浮かべて振り返った。
「大丈夫だよ、それはもう証明済みだから」
 君がぼくに見せてくれた、優しさと、我慢と、弱さと。
 全部、ぜんぶ。
 君から、ぼくへの、愛情の証明――




                                        
お、終わったよ…… 











東視線の葛藤と、東の素敵なご両親のお話はこちらから
その後の東と高橋のお話はこちらから

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