アマゾネス1−1


 「…あれ?」階段を上ると、そこは暖かな青空の広がる空間だった。目の前に広がっている光景は、これまでの迷宮とは打って変わって、南国の海だ。大海原は周囲を埋め尽くし、どこを見渡しても水平線が見える。

 さすがに異世界だけあって、塔の中にこんな空間も作れるわけだな。いまさらそんなことでは驚かないが…それにしても絶景だ。

 周囲は見渡すかぎりの海。後ろには今自分が上ってきた階段があり、足元は半径2メートル程度の小さな砂の島。僕はその島の上に立っているわけだ。ときおり波が大きくなって、足元を濡らしている。

 さらに横には立て札があり、すぐそばには人一人が乗れるくらいのオールのないボートが浮かべられていた。

 「この舟で海を渡れ。渡った先にある絶海の孤島の謎を解き、脱出すればクリアとする。」と、書かれてある。ってことは、どこかこの海の中に島があって…目では見えないから相当遠くにあるのか、あるいは小さな島なのか…その島のどこかにある脱出口にたどり着ければステージクリア、次の階に行かれるというわけか。

 さらに小さい字で何か書いてあるな。「なお、島の中での戦闘はバージョン無関係となる。脱出だけが目的と心得よ。」…。どういうことだ? よくわからないな…。戦闘とあるから、たぶん島には女たちがいるのだろう。こんな世界だから、淫欲にまみれていることは間違いない。どんな敵がいるかは分からないが、これまでのようにまずは一人倒し、先に進めば3人倒し、最後の階段前には10人の敵が待ち構えているはずだが…。

 とにかく、進んでみないことには状況は分からない。この舟でいけば島にたどり着き、その島のどこかに出口があるということだ。まずは島に行かなければな。

 って、オールもない一人乗りの小さな舟で、どうやって島に行くんだよ! たとえオールがあってもそのまま進んだら遭難は確実だぞ。望遠鏡もコンパスも海図もなしに肉眼で見えない島なんか探せるか!

 いったいどうしたものか…。僕はどこかにオールや地図なんかがないかどうか探してみた。が、周囲には何もない。多分そういう大事な道具を置き忘れたんだろう。完全に足止めだ。参ったなあ。

 僕は舟に乗ってみた。木でできた小さな舟だ。湖なんかでデートに使う標準サイズのおよそ3分の1しかない。自分が乗ったらそれでいっぱいだ。少し強い波がきたらひっくり返りそう。嵐などとても耐えられない。これで海を渡るのはあまりに無謀だな。たとえ今、凪が穏やかだったとしても。

 ぐぐぐ…「!!?」舟がひとりでに動き出した。まっすぐ海に乗って、音もなくぐんぐん進んでいく。オールもエンジンもなく、静かに海上を一直線に漂っていった。これは…何か闇の力みたいなものが勝手に船を動かし、僕をどこかに連れて行くしくみなのかな。僕は体育座りで舟に身を任せた。このまま進めばその島にたどり着くはず。

 数分後、島の影が見えてきた。思ったよりも小さそうだ。海岸が見え、そのうえにはそびえ立つ岩肌があり、岩の上にはたくさんの木々が生い茂っている。ごく普通の島だ。舟はまっすぐ、のんびりしたスピードで進んでいく。

 やがて船が止まった。島の海岸にたどり着いたのだった。暖かい南国の環境。今のところ人影が見当たらず、植物以外の生き物の姿もない。そのままなら小さな無人島といった感じの寂しいところだった。

 僕は海岸に降り立った。この島の中に脱出口がある。それを探せばクリアとなるんだ。あとはどんな敵が襲い掛かってくるのか、それだけに注意すればいい。慣れてくれば3人10人となっても倒せるレベルになるはずだ。気を抜かずに戦い進めれば、これまでと同じように上に行かれるんだ。がんばろう。

 「…さっそくおでましか…」砂浜を一人の女性が歩いてくる。ビキニタイプの鎧に身を包んだ、浅黒い肌の金髪美人のようだった。遠くからでも体が大きいのが分かる。今度は戦士タイプの女性が相手というわけか。彼女は遠くの岩陰から僕の姿を見つけ、砂浜向かって歩いてきたんだ。こうやって敵を倒しつつ、島のどこかにある出口を探すステージだ。まずはコイツを倒してしまって、敵がどんな女なのかを探るとするか。

 「えっ…!!?」右のほうから別の女性が歩いてきていた。さらに左を見ると、二人の戦士が遠くから走ってきている。こ、これは…!?

 この海岸は意外に小さく、すぐ前はがけのように切り立っている。正面からひとり、僕を見つけて歩いてきていて、右の岩陰から別の女性も出てきた。さらに遠く左のほうからは2人の美女が走ってきている。これはいったい…どういうことなのだ?

 視線を上に向け、僕は絶句してしまった。絶壁のあちこちに開いた隙間から、さらに丘の上の森林から、左奥の海岸の向こうにある上り坂から、数多くの美女たちが顔を覗かせ、次々とこちらに向けて歩いてきている。中には早くこちらにたどり着くべく走っている女性までいる。

 これは…罠なのか。だって、いつもならまずはひとりが出現して、1対1の戦いになるはず。それが、まだ戦っていない相手なのに、3人10人どころか、いきなり2,30人の美女たちが、いっせいに僕めがけて近づいてきているのだ。

 彼女たちはだんだん急ぎ足になり、いっせいに僕に襲いかかろうと走り始めている。その姿が徐々に鮮明になるにしたがって、腰が引き締まり、ふとももが筋肉質に膨らんでいる屈強な肢体がはっきりと見て取れるようになった。彼女たちは女丈夫、勇猛果敢な戦士の「アマゾネス」だ。

 「なお、島の中での戦闘はバージョン無関係となる。脱出だけが目的と心得よ。」あの言葉の意味がなんとなく分かった気がする。ここは他のステージと違って、1人バージョンとか3人バージョンとかいっさい関係ないんだ。島の中には大勢のアマゾネスたちがたむろしており、僕を見つけ次第一斉に襲い掛かってくるしくみだ。未知の敵だから、ひとり相手でも相当苦労しそうなのに、いきなり何十人もいっせいに相手するなんて…。絶対勝てないぞ。

 つまりこのステージの特殊性は、その人数から、通常の戦闘ゲームではなく、どちらかというと避けゲーに近いわけだな。敵に捕まらず、戦わず。逃げて出口を探す。多分出口も簡単には見つからないだろう。謎を解かなければ。そのくせ僕のほうは敵に簡単に見つかりそうだ。いままでにない攻略が必要になるな。

 考えている暇はない。まずはいまの危機的状況を打破しなければ。ここで砂浜に突っ立っていたら、いっせいに周りを大勢のアマゾネスに取り囲まれて、集団逆レイプに倒されてしまうことになる。何とかこの場をしのぎ、できるだけ戦わないようにして、捕まるなどもってのほかで、この島の謎を解いて出口を見出さなければ。

 前方は崖、後方は海。左右の海岸は案外狭く、歩きやすさからか大勢のビキニ金髪たちが押し寄せている。前の崖も、アマゾネスたちがどんどん岩伝いに降りてきているな。つまり三方向から次々と女たちが僕ひとりめがけて大勢で襲い掛かってきているんだ。逃げるのは簡単じゃないぞ。

 時間がない。すぐに次の行動を決定しないと。唯一敵の姿が見えない海に引き返して対策を立て直すか、崖の岩肌めがけて走り抜けるか、砂浜を全力疾走してアマゾネスたちを跳ね除けるか、…どれも望みが薄いな。が、手をこまねいているのが最悪の選択肢、ここは賭けてみるしかなさそうだ。 

 ―選択肢―
アマゾネス1−2 海に引き返す

アマゾネス1−3 前方に走り抜ける

アマゾネス1−4 砂浜を走り抜ける
 


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