ドール２−３
今はまだ全体回復魔法を放つのに十分な魔力が溜まってない。出せない事もないだろうけど成功する確率は３０％位だ。失敗したら魔力だけ消費して何の効果もない事になる。この状態で失敗したら命取りになるだろう。次に魔力を溜めるまでの間には抜かれてしまうからだ。
それよりも今溜まっている魔力を確実に有効活用した方がいい。これだけの魔力なら簡単なバリアを貼る事ができる。快感バリアはできないけど敵が魔法をかけて来た時にその効果をブロックできるんだ。
一回魔法をブロックするとバリアは切れてしまうけど、バリアは何度でも簡単に貼れる。それに一度ブロックすれば相手がもう一度魔法を唱える為に必要な魔力を浪費させる事もできる。もしかしたらそうやって相手の魔力をジワジワ削る手も有効じゃないかな。
とにかくバリアを貼って様子を見よう。僕は透明のバリアを全身に張り巡らせた。目に見えない膜が全身の皮膚にピッタリ張り付く。これで敵がどんな魔法をかけて来ても大丈夫だ。こっちの魔力が尽きるまで破られても何度でも貼り直す！
「明らかにバカにされてるですぅ。」ロリっぽいしゃべり方をする清純なドールがふてくされてみる。かわいいけどここで心を奪われてはいけない。「私達を一体ドールと一緒になさっているのね。」「言って置くけど、昔の攻略法は捨てた方がいいわ。回復魔法も通用しない。」「！？」
「回復魔法ごときで自分の魔力を削り取られてしまうのは”バグ”でしかありませんわ。そんな欠陥品は入り口付近で十分。」「もちろん私達はそんな欠陥なんて持っていない。すべての魔力を吸収して自分のものにできないなら魔法媒体の資格はないのよ。」
くっそ、そう言う事だったか。今までの敵は回復魔法をかけると魔力同士が反発しあって結果ドールの魔力が削れてしまうけれども途中まで来ると強化され弱点も克服されてるんだ。彼女達に回復魔法は効かない。それ所か僕の魔法を魔力エネルギーに変えて吸収し、自分の力に変えてしまうんだ。
という事は僕には彼女達の魔力を削る手立てがないって事か！？このままでは相手に一切ダメージを与えられないままこちらが果ててしまう！一体どうしたら…
「それに…回復魔法だけがドールの魔力を削る唯一の欠陥だったけど、それが克服されているという事はもう私達に魔法系の攻撃は一切通用しないという事。」「そう、こんなバリアもね。」「うぐっ！」
メイドドールが僕のお腹に手を触れるとパリッと軽い音を立ててバリアが砕け散ってしまった。呪文詠唱も何もしていないのに彼女達の魔力だけで僕のバリアを打ち破ってしまったというのか！？ドールに触れられただけでバリアが崩れてしまうという事は魔法防御がまったくできないって事だ。
「魔法媒体に魔法で挑む無謀さ、ご主人様らしいですわ。」「あたし達の魔のパワーを見せ付けてあげます！」「うぐっ！？」「ふふふ…この感覚に覚えがありますわね？」
全身が熱っぽくなる。体表面は熱いのに感覚は寒い。風邪を引いた時のようなだるい状態が軽く全身を包み込む。すこしずつ天井が高くなり、視界が広くなる。周りの空間が歪んでどんどん広がっているような視界…実際には僕の方が縮んでいるんだ。そう、一度だけ覚えがある！この感覚は…僕が人形になって行く感覚だ！
まずい、人形にされてしまう！人形になったら攻撃力も防御力も１０分の１になる。しかも相手は三体いて色々強化されてもいる。ここで人形になってしまったらまず勝ち目はない。でも一体どうしたらいいんだろう…魔法に魔法で対抗して人形かから逃れようったって敵の魔力の方がはるかに巨大なんだ。魔法で突破する事はできない。その上魔法以外でこの人形化を止める手立ては何もなかった。
僕は戦慄した。このまま絶体絶命のピンチを手をこまねいて見ているだけなのか！？ドール達の体がどんどん大きく見えて来る。何か…何か突破口がある筈だ！
人形になってしまうと言う事は…身動きが取れなくなってしまうんだ。座った体勢か仰向けの体勢で、ドールにいいようにいたぶられる。相手は自在に動けるのに。ドールのお許しが出ない限り僕は糸の切れたマリオネットのように脱力してしまう。人形化だけは避けたかったけどもうどうする事もできないみたいだ。力が抜けて行く…
いや、まだ希望を捨てちゃだめだ！こうなったら人形になっても戦い続けるしかない。人形の僕がドール達に勝つしか道は残されていないんだ。人間だった時でさえあのオンナの感触には身震いした。今度のはそれよりもはるかに強化されているとか。その上で僕の力が１０分の１に弱体化した状態で、それでも勝たないといけない。無茶だ。無茶だけど、やるしかない。
正攻法ではなく、機転を利かせて倒すんだ。身動きが取れないまま彼女達を受け入れるか、それとも自在に動けるようにしてヒットアンドアウェイで応戦するか。人形に完全になる前に最後の抵抗だ。
−選択肢−
ドール２−６ 体を硬くして待つ
ドール２−７ 可動式にして身軽になる