ドッペルゲンガー2−1


 鏡が左右に続く道が、しばらく続く。おどろおどろしい生物の青い壁ではなく、このステージは両側が鏡になっている迷路だ。もちろん両側に僕の全裸が映されている。あまり気持ちのいいものではない。

 ここの敵はドッペルゲンガーだ。左右の鏡のなかから「もう一人の僕」が飛び出す。そいつは僕を女にしたような敵で、どこからどうみても普通の人間と変わらない姿だ…それほど美人でもないし、外見だけならどこにでもいそうなただの女である。

 しかし、ドッペルゲンガーは性別以外すべて僕のコピーだ。性格も、思考パターンも、精力値も、攻撃力も、使ってくるテクニックも、何から何まで自分と同じなのだ。ということは、自分とまったく同じ実力の敵と戦うことになる。どれほどこちらが強くなっても相手も強化され、自分自身を乗り越え続けなければならないのである。

 お互いに”手の内”を知っている互角の戦闘。だからこそ厄介なのだ。何度戦っても慣れることがない。ヘタに実力ずくで倒してしまおうと思っても、次の手を読まれ、簡単に返り討ちにあってしまう。

 ドッペルゲンガーに対抗するには、戦闘時における大切な思考法を堅持することが最低限求められる。もしも自分が敵だったら、と、相手の立場に身をおくのだ。ドッペルはつねにそういう思考で応戦してくる。だから小ざかしい作戦などあっさり見破られてしまう。自分が相手なのだから当然だ。

 そして、心の底から相手を愛で、ギリギリのところでおのれを超えるということ。克己心を持って絶えず全力で取り組まなければ勝てない相手だ。ある意味ではラスボスよりも手ごわいといえる。

 ドッペルゲンガーを倒しながら先へ進むと、鏡でできた扉に突き当たった。側面に看板があり、「ぶつからないように注意。気をつけて進みましょう。」と書いてある。僕はおそるおそる扉を開いてみた。

 「うわ…」目の前に広がっていたのは、遊園地などでよく設置されている、前後左右鏡張りの通路だった。これ苦手なんだよな…。あっという間に自分の位置を見失うし、目の前が壁なのか道なのか分からず、あせると鼻っ柱をすぐにぶつける。何とか壁に手をつきながらゆっくり歩くが、それでも自分の姿が遠くまで無限に映っているとだんだん目が回り、頭が痛くなってくるんだ。

 天上も床も鏡で埋め尽くされている。それでいてどこからか光がさしてきて全体が明るい。一歩足を踏み入れると、とたんに全面に無数の自分が映る。ああ…ここを進まなければいけないのはいやだなあ。

 でも、ステージの状態が変わったということは、中盤まで進んだということでもある。ここを何とか頑張って乗り越えれば、厄介な鏡ステージともドッペルゲンガーともオサラバできる。人生やらなければならないことだってあるッ! 僕は勇気を振り絞ってゆっくり進み始めた。

 あちこちでゴチゴチ頭をぶつける。ほんっっっとに進みづらい。頭が痛くなってきたのはぶつけたせいだけではなかった。壁鏡に手をつき、もう片方の手で手探りしながら一歩一歩進んでいった。通路はそれほど狭くはなく、僕が壁伝いに歩く横のスペースはけっこう空いている。本当に上下左右前後鏡張りだと、まるで位置がつかめない。

 「!」ふと周囲に違和感を感じた。僕は足を止めて周りを見渡す。周囲には自分の姿が数え切れないほど映っている。遠くにいけば小さくかすんでいる自分がいて、近くにも無数の自分がいた。360度上下まで自分が映っていて、どこもかしこも丸見えになってしまっていた。

 さっき感じた違和感、人の気配が”自分のなかに”感じるような、自分が自分でないような、奇妙な感覚は、たしかにドッペルがあらわれる前兆だった。かすかな感覚ではあるが、とくに精神を研ぎ澄ましているときには敏感に察知できる。この新しい場面でのエンカウントはどうなるのだろう。僕は注意深く周りを見つめた。

 「!?」遠くにある小さな自分がかすかに動いた。と、”彼女”はくるりとこちらを向いた。胸が突き出ている。無数に映る自分の誰もが、ドッペルゲンガーに突然変異する可能性がある、というのがこの鏡張りの通路の特徴というわけか。

 ドッペルが遠くから歩いてくる。だんだん大きくなり、ついには鏡から飛び出してきた。レベルを上げてここまできた僕と同じ実力のはずだから、侮れないぞ。

 そこへ突然、背中に柔らかい感触が走った。「なっ…!?」おどろいて振り返ると、僕の背中にドッペルゲンガーの乳房が押しつけられていた。彼女は上半身を鏡から乗り出し、僕に抱きついたのだった。そのまま外に出てくる。

 場面が変われば当然敵も変わる。いままでどおりの一対一の戦いではないのは想定内だが…自分と同じ実力の相手が二人か。戦慄が走る。でも待てよ。普通はステージを進むと3人バージョンになるはずだが…僕は周囲を見回す。もう一人がどこかに潜んでいるのではないか。見えるかぎり、大きいのから小さいのまでくまなく目を凝らして、ドッペルがいないか探した。しかし見つからない。

 「…ここだよ。」「はっ! どこだ!」「クスクス…ここだってば。」「くっ…」声はすれどもまったく姿が見えない。

 がしっ! 「うわっ!」突然足首をつかまれた。下を見ると、僕の真下にドッペルゲンガーが不敵な笑いを浮かべ、床から手を伸ばして足首を掴んだのだった。僕と足の裏を合わせて、オンナまで丸見えになっている。床も鏡になっていて、当然そこに映る自分はドッペルになりうる。なかなか気付かないところに潜むとは…やっぱり僕だ。

 僕は背中から羽交い絞めにされ、足首もつかまれ、いきなり拘束された。そして目の前にもドッペルがいる。合計3人。一人相手でも自分と同じ実力なのに、それが3人、3倍以上の力の差がある。

 とにかくこの拘束を解かなければ。僕は足を上げて足首の拘束を解くと、真中に移動した。ここで3人を迎え撃つしかない。逃げたとしてもどこへ行っても自分が映るのだから逃れられない。エンカウントしたら克己するしかない。

 ヘタな作戦や戦略は無用だ。精力の続くかぎり戦うしかない。

−選択肢−
ドッペルゲンガー2−2 全員まとめて倒す
ドッペルゲンガー2−3 背側位で応戦
ドッペルゲンガー2−4 正常位で応戦
ドッペルゲンガー2−5 バックで応戦


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