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掃除娘♪ 第5回

 
 女敵を倒しながら進む。目指すはフロアの上り階段。快楽に耐え、逆に快感ダメージを与えて美女たちを乗り越えていく。甘い魅力に抗うことの厳しさを知っているから、いつも気を抜くことがない。気を抜けば抜かれることも分かっている。心してかからねば。

 ずり。ずり。

 そう、この先どんな敵があらわれようとも、決して注意を怠らず、突然襲われても大丈夫なようにいつでも戦闘できるように体勢だけは調えておかねばならぬのだ。

 ずり。ずり。

 たとえ、どんなに弱い敵であっても、油断大敵、ウサギを全力で倒す獅子の如く、気を張って進まなければならないのである。

 ずり。ずり。

 …。

 ずり。ずり。

 「…またか…。」僕は立ち止まった。さっきから、僕の後ろをぴったり、奇妙な岩がついてきているのだ。前にも似たようなことがあったな。あの時はダンボールだったが、今度は岩のはりぼてかよ。隠れながら進むって、そんな目立つはりぼてで僕の真後ろをついてきたらバレバレだっつーの。

 ダンボールなら殴ったり蹴ったりもできるが、今度のは少し固そうだ。裸足で蹴るには痛い素材である。掃除娘のヤツも前回の失敗はちゃんと生かして次に臨むからなあ。学習能力はある。その分少しずつ成長して挑んでくるから、実はけっこう侮れなかったりする。バカだけどな。

 「もういいよ。ばれてるから。」「…。」「何とか言えよ!」どかっ! 僕は足の裏で踏みつけるようにして岩のはりぼてを強く蹴った。これならそんなに痛くない。

 「私は岩…返事しない…」「しとるやん」「あっ…な、なんでもない。私は岩…。」「もう出て来いよ。今度は何を企んどるんだ??」「…。」「何もないならついてくんな。」アホに付き合っている暇はない。僕は掃除娘@岩はりぼてを無視して先へ進むことにした。少し急ぎ足で。

 「あっ!」掃除娘のくぐもった声が岩から聞こえ、岩が必死で僕の後ろを追いかけ始める。ずりりりっ、ずりりりっ。僕が早足になったので、多分四つんばいで這ってはりぼてごと移動している掃除娘は、かなりたいへんな思いをしてついてきているに違いない。音がかなり必死である。それでも気にせず小走りに近い状態で通路を行く。これなら掃除娘を引き離せるだろう。

 たったったったっ…

 「あっ、てめえ!」掃除娘は両手ではりぼてを持ち上げ、両足で走ってきた。追いつけないから岩ネタはやめたのか。ねずみ色のワンピース姿で木靴を鳴らしながら走って僕に追いついてしまった。コイツはメイド服の時もあれば灰色ワンピース姿の時もある。今日は初期に出会ったころの服装ということか。

 「あれ…?」掃除娘は僕を完全無視し、僕の横を走り去っていってしまった。「…なんなんだ…!?」はりぼてを持ち上げながら走る小娘は途中で右に曲がり、姿が見えなくなった。何しに来たんだあいつ…。

 まあいいや。僕は気にするのをやめ、先を急いだ。もうすぐ掃除娘が曲がっていったトの字型の分かれ道がある。掃除娘はここを右に曲がって行ったんだよな。

 「わっ!」右に曲がろうとすると、目の前にさっきの岩のはりぼてがデンッと道を塞いでいて、通れなくなっていた。「てめえ…何してんだ。」「…。」「何とかいえよ。」「私は岩…だから通せんぼする。私は岩…何もいわない…。」「喋りまくってるじゃんか。どけよ。」「…。」こ、このやろう…

 分かったぞ。掃除娘は僕にまっすぐ進んで欲しいんだ。岩になったのは僕の行き先を支配して思い通りに進ませるためだ。通せんぼできるもんな。僕に右に曲がってもらっては困るんだ。ふふん。バカなりに考えておるな。当然、まっすぐ進めば、掃除娘があらかじめ仕掛けておいたトラップに引っかかったりするわけだな。そのくらいは予想がつく。

 それなら、何が何でも右に進まねばなるまい。みすみすコイツの単純な仕掛けにはまってやるわけには行かない。トラップは気づかれたらなんにもならんのだよ掃除娘クン。

 僕は岩はりぼてをよじ登り、なんとしても右に進もうとした。「あっこら、乗るな! つぶれたらどうすんだ!」「おまえ岩なんだろ? 黙ってろよ。」「や、やめ…そっちに行ったら…」掃除娘ははりぼての中で狼狽している。やっぱりまっすぐ行ったところに何か仕掛けておいたんだな。どうせくだらない仕掛けだろうがな。その手には乗るかっての。僕はかまわずにはりぼてを乗り越え、さっさと進んでいった。

 カチッ。びよよ〜ん! 「うわあっ!」突然床が数センチ下がり、そこでスイッチの入る音がする。次の瞬間、床下のバネが思いっきり飛び上がり、僕の体はもんどりうって前方に投げ出された。

 べちゃっ! 「ぐええ!」僕は前方の床に仰向けに倒れる。一体何が起こったんだ!?

 「あっ…これは…!!?」僕の首から下、背中からお尻、足首にいたるまで、粘着質の床にぴったりくっついてしまっていた。トリモチのようににちゃにちゃと粘着質の液体が僕の後ろ側にぴったり張り付き、僕は仰向けのまま起き上がることができなくなってしまっていた。しまった、トラップだ! しかもこんな仕掛けは初めてだぞ。これは一体…ま、まさか…!?

 「やったー! 大成功!」掃除娘の声が響き渡る。まちがいない、このトラップは彼女が仕掛けたんだ。でもコイツの通せんぼを避けて通ったのになぜ?

 「ふっふっふ…まんまとかかったな。男ホイホイの威力はどうよ。もう逃げられないわよん。じっくりいたぶってあげる。今までのお返しよ!」幸い頭部は張り付いていなかったので、僕は頭を持ち上げ、器用に後方を向いて掃除娘を見やった。ねずみ色のワンピース、丸っこい木靴、いつにもまして丸顔の掃除娘が得意げに見下ろしていた。ホイホイのなかで戦うことを想定してか、髪の毛はヘアキャップでしっかり覆われている。

 「あ…また太った?」「誰のせいだと思ってんだ!」「自分が悪いんだろ。食べたのは自分じゃん。」「くっ…。お、お前があの時高カロリー食品発生装置で強制的に飯を食わせてから、大食癖がついて、からだが丸くなっちまったんだよ!」「そりゃあ…その前に一日一食とかやっちゃったから、太りやすい体質になったんだろ。やっぱり自分のせいじゃねーか。」「だまらっしゃい! お前のせいでビキニが二度と着れなくなっちったじゃないか! 責任取れ!」「何でビキニが着れないの? 着ればいいじゃん。」「…ハラが…」「ぶははは!」「笑うなー!!!」

 掃除娘は怒り心頭だ。この世界は性本位社会。次の展開は容易に予想できた。「この恨み、お前の精で晴らさせてもらうぞ。くっくっく…男ホイホイで動くことができないからな。じっくり絞ってやる…。」「あ、そうだ、なんで通せんぼした先にトラップがあったの? ふつう何もない方をふさいで誘導するじゃんか。」「ふん。アンタと何度も戦ってきて行動パターンは読めている。もし通せんぼしたらそこを避けず、ムリにでもふさいだほうに行こうとするのがあんたの行動パターンさ。まんまとかかったということね。」「…。それなりに考えてるんだな。」「おのれ…バカにするのもこれが最後だと思え。目にもの見せてやるぅ!」

 カチッ。びよよ〜ん! 「に゛ゃああああっ!!」べちゃっ!「ぐええ!」カエルが潰れたような声が自動的に彼女から絞り出され、掃除娘は僕の隣に仰向けに落ちてきた。

 「うぐぐ…うっかりスイッチを踏んじゃった…」「こいつ…」「なっ…バカじゃない! バカじゃないぞぉ!」泣きそうな声が聞こえてくるが、ここからは掃除娘の姿は見えない。しかし、僕も彼女もこの4畳半程度の巨大ホイホイに仰向けに引っかかっているという状況は分かる。

 もともとはホイホイで動けなくなっている僕に覆い被さり、一方的に責めて射精に至らしむ大作戦だったらしい。掃除娘がドジでバカでなかったらと思うと、たしかにゾッとする作戦だ。事実彼女は僕の思考の裏をかいて、ホイホイに見事誘い込んだのだった。

 しかし、僕も掃除娘もホイホイに引っかかり、彼女の作戦は見事に潰えてしまった。力任せに起き上がろうとしても、粘着力が強くてなかなか起き上がれない。粘着液体が体にひっつき、起き上がってもスジになって体を下方に引っ張ってしまう。そのうち疲れてしまってふたたびホイホイに張り付いてしまう仕組みだ。男の力でも容易には抜けられない強力ホイホイ、掃除娘はなおさら脱出困難だろう。

 「…で。どうすんだよ? ふたりともトラップに引っかかったら誰も抜けらんないだろ。」「はうう〜…私の一張羅が…(泣)」「聞いてねーし。」ねずみ色のかわいらしいワンピースにべったり粘着液がついてしまって台無しである。一張羅なのかどうかは知らんけど。

 「ふっふっふ…こうなったら服は忘れるわ。てか服の恨みを体で払ってもらう。」「いや…僕のせいじゃ…」「慎重に服を脱げば体は無事だもんね! アンタは裸だけど私は服のまま貼りついたから簡単に脱出できる!」「し、しまっ…」「ふはははっ、勝負あった! 長年の恨み一気に晴らすぞ!」

 衣擦れの音がわずかに響いた。掃除娘が服を脱いでいる…というより床に貼りついた服から体を剥がしている音だった。上を向いている僕の視界に裸の掃除娘が入ってくる。僕のすぐそばに立って妖しく見下ろしている。こっちはまったく抜け出せていない。まずい、大ピンチだ。一方的に責められてしまうぞ。僕は彼女の動向に注意しながら、必死でなんとか脱出しようともがき続けた。

 「むむっ…足の裏にも引っ付いて歩きにく…いっ!!?」視界からヘアキャップのドジ娘がふたたび消えた。どうやら力ずくで右足の裏の粘着液を引き剥がしたところで、つまり片足立ちになり、そこでバランスを崩したらしい。またもやべちゃっと音がした。

 こいつがバカで助かった。これで僕たちは裸で仰向けに倒れたことになる。先に脱出できたほうが勝つことになるだろう。

 「お、おのれー、こうなったら奥の手だ。万一の事態を考えて、服にリムーバースプレーがあるんだ。これさえ使えばこの粘着液は簡単に剥がれ落ちる優れものさ。何とかこれを取れれば…うぬ〜っっ…」掃除娘が手を伸ばして、床に貼りついたワンピースのポケットにでも入っているスプレーを取ろうとしているみたいだ。もちろん腕も引っ付いているのでなかなか取れないようだが。少なくともそのスプレーを使えば簡単に剥がれるってことか。

 「なるほど。リムーバースプレーか。教えてくれてありがとう。」「なっ…!」僕も掃除娘のワンピースに手を伸ばし始めた。見えないから手探りで服を探さなければならないし、粘着液の抵抗が大きいが、掃除娘より先にこのスプレーを手に入れてしまえば勝てることがはっきりした。このスプレーがどんななものかが分かれば、自分のイメージで無から取り出すこともできるが、メカニズムなどが明らかでない以上、彼女の持っている現物を奪うほかはないのだ。

 セックスバトルのはずが、お互いに手の届く掃除娘のワンピースにどちらが早く手を伸ばせるかの勝負になってしまった。が、脱出されたら一方的に責められてしまう。負けるわけにはいかないんだ。力ずくで手を伸ばすか、それとも何か工夫をしてドジッ娘を出しぬくか…。
 

―選択肢―
力ずくで手を伸ばす
魔法を試してみる

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