千里くんの話は、何もかもが想像を超えていて、彼が話し終わっても暫く身動きもとれなかった。
あの時、私が普通に暮らしてる間も千里くんはもの凄く大変なことになってて・・・
でも、それを私に言うわけにはいかなくて・・・
あの時の私が彼のやっていることを知ったら、きっと拒絶して、非難して、お互い沢山傷ついたと思う。
今聞いても、やっぱり、かなりショックで複雑な気持ちだ。
だけど、自分が千里くんの立場だったらどうするのか、それは想像も出来ないことだけど、もしも彼と同じ道を辿ってしまったら、絶対に誰にも言えない。
一人で苦しんで、きっと自分を責め続けると思う。
怜二がやったことが正解だとは思わない。
だって、私はずっと引きずって何年も過ごしてしまった。
千里くんの言ったとおり、
怜二は、ばかだよ。
でも、今の私はそれを聞いて、胸が締め付けられるくらい苦しくなる。
「ところでさ、お前らなんでこんな公園にいたんだ?」
ふいに洋介がそんなことを聞いてきた。
「え? アイツがふらふら歩いてくから心配でついて来たらここだったんだよ。ほら、あのブランコにずっと乗って、ボーっとしてた」
公園。
そういえば、怜二は私と初めて会ったのは公園だって言ってた。
ここから私の家まで割と近いから、小さいときはここで遊んだりもした。
でも、会ったのは私が15歳のときでしょう?
その年で公園には行かないわ。
・・・・・・あ、ある。
あおいだ。
あおいがここで遊んでて、迎えに行くことはあった。
だけど・・・・・・
やっぱり思い出せない・・・
怜二。
私、あなたに聞かなきゃならないことまだまだあるよ?
たくさん謝らなきゃならないし。
たくさん好きって言って。
あなたを抱きしめたい。
「・・・私、行かなくちゃ」
「まりえ」
振り返ると、スッキリしたような千里の顔。
「ちゃんと言えてよかった・・・幸せになれよ」
それを聞いて、大きく頷いてから、私は公園を後にした。
『いつか、まりえとケッコン、できたらな』
あの日の彼が、遠くなっていく。
それで、本当に千里くんとのことが思い出になったって、やっと思えた・・・
▽ ▽ ▽ ▽
「なぁ、洋介、お前もまりえのこと好きだったんだろ? 俺の目は誤魔化せないぞ?」
千里はにやりと笑って洋介を見た。
「まぁ、な・・・けどフラれた。お前と同じ、飯島怜二にしてやられたよ」
「そうかぁ、やるなぁアイツ・・・・・・なぁ」
「ん?」
「あのまま家が何でもなかったら笑ってたのは俺だったかな・・・」
洋介は少し黙っていたがそれを認めるのは千里があまりに哀れだと思った。
「イヤ、やっぱりアイツが現れて、まりえをかっさらっちまうんじゃねーの?」
もしかしたらとか、あの時こうだったらってものは存在しない。
だったら前向きに考えたい。
「・・・・・・お前なぁ、ちょっとは慰めてくれよ」
「充分慰めてるつもりなんだけどなぁ、ま、しょうがないじゃん?」
「・・・しょうがない、か・・・」
「そーゆーこと」
千里は苦笑して、空を見上げる。
今日は星が綺麗だ、と、とりとめもなくそんなことを思う。
「洋介、俺さ、明日にはアメリカに帰らなきゃならない。・・・・・・そんで・・・多分もう、帰ってこない」
「・・・そっかー・・・じゃあ、俺から遊びに行ってやるよ」
「嬉しくねー」
第12話へ続く
Copyright 2003 桜井さくや. All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.