○第7話○ 葛藤の夜(後編)


◇あおい視点◇




 ま、まりえがオレの部屋にやってくる・・・・・・・・・

 一緒に寝ようって、言った


 マジで????
 いや、嬉しいんだけどさ

 なんとなく部屋を見渡してみる。
 今更見渡してみたって変わったコトなんて無いんだけど、なにせ落ち着かない。
 これから起こることに多大な期待をしても意味がないことは分かってる、そりゃそうだ。
 だけど・・・・・・


 その時。

 カチャリ、とドアが開いて、まりえがひょっこりと顔を覗かせる。


「あおい、入るよ〜」
「お、おう」


 今夜のオレの課題は一つ。

 この浅ましい欲望(ああ、何てイヤらしい響きだ)を絶対に悟られてはいけない

 だってそうだろ?

 そりゃあ、男として見て欲しいって気持ちが無いとは言えない。
 けど、手を出したら拒絶された上、ヘタしたら一生口聞いてもらえないかもしれないからな、それだけは絶対イヤだ。
 弟だって事を全面にアピールしていちゃつく、それが専ら今のオレのやり方だ。

 ふ・・・・・笑いたければ笑うがいいさ


「あおいの部屋って何もないよね〜」
「そうかな」
「あっ、鉄アレイ、これ何kg!?」

 机の下に置いてあったのをめざとく見つけ一つを持ち上げている。

「3kg、2つで6kgだよ」

 へぇ、やっぱり力無いんだな、片腕じゃ苦しそうだ。
 奮闘しているまりえの腕はプルプルと震えている。

「あぁ〜〜もぅダメ、これ以上やったら明日筋肉痛になるっっ!」

 悔しそうにしながら床に置いて諦めたようだ。

 まったく・・・カワイイなぁ

「まりえはそんなの出来なくていいの ムキムキのまりえなんてオレ嫌だよ」
「・・・ムキムキは確かにイヤかも・・・」

 まりえは考え込んでいたが、やがて自分のムキムキ姿を想像したのか楽しそうに笑っている。

「でも、私男だったら絶対オロナミンCみたいな筋肉つけるのになぁ」

 なんだそれ?

「・・・・・・ってどんな?」

「あのCMにでてる人たちってカッコイイ筋肉だと思わない? 私としてはね、多少は細くても良いからしっかりしててしなやかで柔らかい筋肉が欲しいの。・・・あ、やだ変な目で見ないでよ〜、男だったらの話よ? でも、実はあおいの筋肉とかいいなぁって密かに思ってたりして」

「オレ?」

 ホントかよ、密かにそんな事思ってたんだ?

「あおいバスケしてるからかなぁ、細身だけどカッコイイ筋肉してるんだよねぇ」

 まりえって・・・実は筋肉フェチなのか?
 男のそう言うのを見ていたなんてとっても意外だ。


 するとそこで、あふっと小さなあくび・・・

 眠そうだなぁ、やっぱりちょっと疲れてんのかな・・・


「もう、寝ようか」

 まりえはニコッと笑って頷き、そのままコロンとベッドの中へ潜り込んでいった。
 オレのベッドセミダブルだから、2人で入ってもそんなに狭くないだろう。
 ホントは狭いくらいの方がくっつけて嬉しいんだけど。

 続いてオレもベッドに入り込むと、まりえはオレの方へ体の向きを変えて抱きついてきた。

 オレの胸に顔を埋めて・・・
 オレの心が読めるのかっ!?

「あおいとこうやって寝るのっていつ以来かな?」

 え? う〜ん・・・
 最後にまりえと一緒に寝たのは・・・・・・

「中学の時だよ、多分」
「そっかぁ、たった数年で変わるものねぇ・・・前は私の方が大きかったのに、今は逆転しちゃった」

 そうだ、前は確かにオレがまりえの胸に顔を埋めて寝てた。
 考えてみると、そっちの方がずっと羨ましいぞ?
 数年前のオレはそれを普通にやってのけていたのかっ!!

「あおい、大好き」

 ズキューン
 もうこうなったら、オレだってまりえを抱きしめてやる、お互い様さ。

「オレも」

 うわ、やわらか・・・
 そう言えばさっきも抱きしめたけどそんなん味わってる余裕無かったしなぁ

 やわらかくて、フワフワで、いい匂いだなぁ・・・






 その感触に浸ることどれくらいの時間が流れたのか、気がつくとまりえは無防備な顔で気持ちよさそうに寝ていた。

 ちょっとだけ抱きしめる腕に力が入る。






 い、いいよな? キスくらい

 昔はしょっちゅうまりえにされてたし・・・
 オレからしたって全然不自然じゃない、いや不自然か?
 いやいやそんなことはないぞ!


 これは、純粋な気持ちからくるものだからして。

 まぁ、アレだ、不純ではないと言うことだ。
 たぶん。


 でも、純粋だからって何でも許されるわけじゃない・・・



 ええと、・・・う〜ん。





 ・・・・・・・・・・・・






 ええいっ
 もう知るか!


 迷うなオレ!
 いくぞっ

 せ〜の





 ・・・・・・・・・・・・・・・










 ・・・うぅ、ダメだ

 あと、数センチなのに・・・



 それは多分、オレが後ろめたいって思ってるからで



 こんなにも目の前にいて、ちょっとでも動けばくっついちゃうくらいなのにな。



 ・・・あぁ、まりえカワイイなぁ・・・・・・



 ・・・・・・・・・・・・・・・




 やめよう。

 こんな事を考えるなんて、オレって最低だ。




「・・・んふぅ・・・・・」



 ・・・えっ



「・・・・・・っ!?」












 ウソーーーーーーーッ!!!!!



 信じられないことに、まりえが頭をちょっと動かしたら、逆にまりえの口が・・・

 いわゆる『ほっぺにチュウ』してるッッッ!!!!

 『ほっぺにチュウ』を馬鹿にするなよ!?
 オレにとっては、これだって一大事件だ!!


 心臓が体中にあるみたいにドクドクいって・・・オレがちょっと動けば口にだって・・・



 ちょっとだけで・・・












「・・・・・・・・・れい、・・・じぃ・・・・・・」
















 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 ・・・・・・っ・・・・・・






 その夜、あおいが激しい自己嫌悪に陥り、心の中で自分を罵ること数時間。

 同時に、怜二に対しての敵対意識が倍増したのは言うまでもない。


 彼がようやく寝つくことが出来たのは、鳥の鳴き声が聞こえ始めた頃だった・・・





第8話へ続く


Copyright 2003 桜井さくや. All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.