「今日はなんだか面白かったなぁ」
湯船に浸かりながら、今日の学校での出来事を思い出す。
あおいったら、私の悪ふざけにつき合ってくれちゃって。
可笑しかったなぁ
怜二まで参加してくるし・・・
あ、怜二の制服姿初めて見たんだ。
初めて年の差を実感してしまった・・・ちゃんと高校生してたんだ。
まさか、あおいと同じ高校だったなんてビックリしたけど、考えてみればあの学校に怜二がいたって不思議じゃない。むしろいて当然というか。
あそこって、金持ちの子が集まるトコだし・・・
それにしても、いつもわざわざ着替えてから会いに来てたんだ・・・
気を遣ってなのか、単に年下って事を気にしてただけなのか分からないけど、何となく嬉しい。
はぁ〜、今日はかなり、幸せな日だったかも・・・
まりえは顔を綻ばせるが、あることを思いだし、一気に表情を曇らせる。
・・・ああ、そうだ。
明日も社長とは顔をあわせなきゃならないんだわ。
やっぱちょっと憂鬱・・・
それに。
洋介の問題が残ってる。
私にとっては、社長に怜二とのことを知られるより、よっぽど重要な問題。
洋介は、前の彼がいなくなってしまったときも、いつも側にいてくれた。何をするでもなかったけれど、側にいてくれる存在がいるというだけで、随分救われていた・・・
それに、彼はそれだけの存在じゃない。
幼い頃からずっと一緒で、良いことも悪いこともちゃんと知っている。
そんな人は他にいないと思う。
だから、逃げないでちゃんとしなければいけない。
たとえ、それで許してもらえないとしても───
▽ ▽ ▽ ▽
「まりえ、何か元気ないな どうかしたの?」
お風呂から上がって水を飲んでいると、あおいがやってきて心配そうに声をかけた。
「・・・うぅん・・・ちょっと考え事してただけ ゴメンね心配かけちゃって」
あおいは軽く息を吐いたあと、私の肩に掛けてあったバスタオルを取って、まだ濡れている私の髪を拭いてくれる。
ふわり、とあおいの匂いがした。
「何かあるならオレに相談してよ、それともオレじゃ頼りにならない?」
顔を見ると、寂しそうに瞳を曇らせているあおいがいた。
「ありがとう、嬉しい」
この子はいつも私を癒してくれる。
そういう存在がいてくれるというだけで、私はとても幸せなんだと思う。
「私、あおいの匂い好きだな・・・何でこんなに落ち着くんだろう」
「・・・そう、か? 自分ではわかんないよ? オレにはまりえの方がずっといい匂いがすると思うけど」
私の匂い?
そう言えばそうね、自分の匂いなんて自分ではわかんないわ。
それにしても・・・
あおいは幼いときから、優しいところも素直なところもちっとも変わらないで私の側にいてくれる。
普通高校生になった男の子だったら、こういうの疎ましいと思って避けたりしてもおかしくないのに・・・
その事が嬉しくて、あおいの胸に頭を押しつけてみる。
「ど、どうした? まりえ」
「久々に一緒に寝ようか?」
そう言うと暫くあおいは黙っていたけれど、突然ギュッと抱きしめてきた。
その力が思ったよりも強い事に感心してしまう。
成長しているんだなぁ・・・
「いいの?」
良いもなにも私が言い出したことなのに、変な子ね
「私、ドライヤーでちゃんと乾かしてくる」
「あ、ああ」
可愛いあおい。
あおいが私の弟でいてくれて良かった。
後編へ続く
Copyright 2003 桜井さくや. All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.