「くっ……ううっ……」
石造りの薄暗い部屋に、若い女の呻き声が響いていた。
二十畳ほどの広いその部屋は埃っぽく、壁は城壁の石垣のような剥き出しの石積みだ。
照明は部屋の四隅に燭台があるだけで、ロウソクの灯りがぼんやりと点っていた。
室内には、所狭しとばかりに様々な奇怪な道具が無造作に置かれていた。
木製の手枷、首枷、それに足枷。
厚い石板が何枚も重なって放置してある。
天井にはいくつもの滑車があり、そこに縄が掛かっている。
寝台は、太い丸太を縦半分に叩き割って、それをそのまま流用していた。
両手と両脚を置く部分は付け足してあり、つまりは「大」の字になるようになっている。
しかも手足の部分は可動になっていて、開かせたり閉じたり出来るようだ。
寝台のすぐ横には、なにやら不気味な形状をした置物もある。
これも太い丸太を切り出したもののようだが、違っているのはそれを三角形に尖らせている点だ。
その胴体部分から、木製の脚が生えていた。
棚にも、何に使うのかわからない道具がごちゃごちゃと詰まっている。
壁には、鞭や棍棒、板のようなものが掛けられたり、立てかけられたりしていた。
拷問部屋である。
呻いているのはトモエであった。
ヒノモトを代表する武者巫女の彼女は、無惨な責めを仕掛けられている。
トモエの細い両手首と両足首はそれぞれが縛り合わされており、それが背中側でひとまとめにされていた。
トモエの肢体は弓なりに反り返らされている。
つまり逆エビの状態にされているのだ。
その格好のまま、ひとまとめにされた手首足首が天井から吊されている。
「苦しいか、トモエ」
「ぐ……ぐぐ……」
「『スルガ問い』とかいう縛り方らしいな。我が国や大陸にはない責め方で興味深い」
「んっ……くううっ……」
「その様子だと、だいぶ効くようだな。まだ言う気にはならぬか?」
「わ、私は……ぜ、絶対に……」
「そうか。では、また回してやろう」
「や、やめて! うぐああっ……!」
つり下げられたトモエの脚を掴み、アルドラが軽く彼女を回転させる。
回されている時の苦痛もさることながら、何回転もさせられた挙げ句、捻られた縄が一気に戻る逆回転がきつかった。
反動で戻るだけだから勢いよく回転してしまう。
右に回れば右巻きになって縄がねじれ、それがまた反動で左回転する。
今度は左巻きになった反動で右回転が始まる。
結局、ねじりが解けるまで右に左に回転し続けてしまうのだ。
くるくると右に回る武者巫女。
「うあああっっ……!」
右にねじれたものが、今度は左に回り出す。
「んひぃっ……!」
また右に回っていく。
「ぐぐっ……うあっ……!」
そこでアルドラがトモエの肩を掴み、回転を止めた。
ホッとしたようにトモエが熱い息を吐いた。
「ああ……」
「苦しそうだな。どうだ、喋る気になったか?」
「……」
「帝はどこだ? おまえの上官である局長とやらはどこだ? ご神体とかいう神具はどこにあるのだ?」
トモエは、想像以上の苦しさを耐え、目を閉じ、顔を背けて口を閉ざした。
その表情からは「決して喋らぬ」という意志の強さが感じられる。
「言わぬか」
そう言うと、アルドラはまたトモエを回転させた。
激痛が手首足首に走る。
「んぐうっ……んくうっ!」
トモエは決して悲鳴は上げなかった。
命乞いもしなかったし、苦痛の声すら上げない。
気丈とか男勝りとか言うよりは、強情と言った方がいいほどの気の強さだ。
タマキすら感服している精神力の強さには、異国の女王も呆れるほどだ。
「言え。帝も神具も、東にあるカントウ地方のカマクラという旧都に逃れたらしいことはわかっている。だが、そのどこにいるのかがわからぬ」
「……」
「キョウのような失態を再び犯すわけにはいかぬ。今度こそ捕らえるのだ」
「しっ……知りません」
「武者巫女を率いるおまえが知らぬはずはない」」
「知っていても、言うと思うのですか! わ、私はマサカドさまと帝に忠誠を誓った巫女です! 大神と帝を裏切るわけがありません!」
「……」
トモエの顔を覗き込むように屈んでいたアルドラが腰を伸ばした。
少し呆れた風に軽く首を振った。
「……わからぬ。何がおまえをそんなに強情にさせるのだ。帝や神は、それほどに忠義を尽くすべきものなのか?
自分の命がそんなものと引き替えになるのか?」
「あ、あなたにわかってもらおうとは思わない。何事かを信じるのは尊いことです。そうしたことは何らかの規範となり
原動力となる。皆をひとつにまとめる力があるのです」
「……そのようなものは余にはいらぬ。余には妹さえいればよい」
「では試みに問います。女王は……あなたは妹と引き替えに命を差し出せと言われたらどうするのです! そう考えれば
わかるはず」
「きさまは、きさまの国の薄汚れた神と余の妹と同視するか!」
一瞬で激怒したアルドラは、強くトモエの身体を回した。
また激痛が全身に走る。
「んぐあああっ……!!」
縄で縛られている手首、足首も痛いが、それ以上に背中が痛い。
逆エビにされているからだ。
同時に腹はあばらも激痛がする。
背中が曲げられて苦しいため、無意識のうちに腹の部分が持ち上がり、腹筋や肋骨にも影響が出るからである。
「うっ、うんっ……くくっ……!」
手足を後ろに思い切り引っ張られ、頭がのけぞる形で同じように後ろに引かれてしまう。
首の筋肉もかなり痛い。
呼吸ができない。
首が折れそうに痛い。
手首と足首の縄目が激しい苦痛を呼ぶ。胸が思い切り突き出され、肺が潰れそうになる。
無理に曲げられた腰が今にもゴキッと音を立てて砕けてしまいそうだ。
だが、手首が痛いとか腰が折れそうだとか、そんな部分部分の苦痛を感じるのも最初のうちだけだ。
そのうち、どこがどう痛いのか、胸が苦しいのか腹がきついのか、自分でもわからなくなってしまう。
とにかく身体中に激痛が走るのだ。
「うっ、うあっ……んきぃぃっ……!」
トモエには呻くことしか出来なかった。
責めるアルドラは少女であり、同性愛的あるいはサディスティックな要素はなかったようで、トモエを素っ裸に剥いて
責めたりはしなかった。
だからトモエは巫女の白装束のまま責め苦を受けているのだ。
脚を縛る手前、緋袴だけは脱がされたが、下半身の下着は着けたままである。
足には白足袋が履かされたままである。
だが、それだけにかえってエロティックに見えたりもする。
白衣の前を大きくはだけさせ、吊られた全身を回されるたびに、大きめの乳房が顔を出し、揺れ動いていた。
10分も責められると、たちまちトモエの全身に汗が浮き、白衣に染みていく。
今では、白い和服はトモエの肌にべったりと張り付き、汗で下が透けて見えるほどだった。
「頑固だな。いいのか、このまま責めても。この国の拷問吏に聞いたところによると、全身から脂汗が絞り出されるばかりでなく、
しまいには鼻や口から血が噴き出るそうだぞ」
「ど……どう責められようと同じです……くっ……」
「ふん」
アルドラは、彼女の身長より長そうなデーモンズ・ブレイドを手に取ると、無造作にトモエの縄を斬った。
手足をまとめた縄を切断され、トモエは腹から石畳にドッと落下した。
「ぐうっ!」
その衝撃で一瞬、トモエの呼吸が止まる。
縄は切れて手足が自由になったものの、ほとんど動かせなかった。
まだ痺れが残り、ほとんど神経が行き渡っていない。
動かせないどころか、今なら腕や脚を切ってもさほど痛みすら感じないのではないかと思えるほどだ。
トモエは苦悶しながらも、気の強そうな顔で少女を見上げた。
その瞳には、まだ意志の強さを示す色が浮かんでいた。
────────────────
数時間休息を取らせた後、またトモエが責められている。
休息と回復のための間隔を置いたのは、トモエを責め殺すのが本意ではないからだ。
あくまでトモエから情報を聞き出すこと、そして最終的にはアルドラの陣営に引き込むためだったからだ。
そうでなければ、アルドラは偏執的にトモエを責め殺してしまったかも知れない。
妹以外の人間、いや生物などは、彼女にとって虫けら以下だ。
「ひっ……!」
過酷なスルガ問いの責めを耐え抜いたトモエも、今度ばかりは悲鳴を上げた。
トモエは再び宙に吊られている。
今度は、手首を後ろでに縛られているだけだ。
但し、その縄尻から吊られているのだから、全体重が手首にかかる。
手首の苦痛はさっきの比ではない。
その上、足首には重しとして鉄球がぶら下がっている。
この重みも手首にかかるのだ。
だが、トモエの悲鳴はその苦痛から来ているのではない。
これからの責め苦に脅えたのだ。
「やっ、やめて! アルドラ、やめて、やめなさいっ!」
「まだ自分の立場がわかっておらぬようだな。それが女王に対する口の利きようか?」
アルドラはそう言うと、壁から突き出ているレバーを下に引いた。
するとトモエの身体がぐぐっと降下してくる。
その真下には、背中を三角に尖らせた丸太材があった。
木馬責めされようとしているのだった。
「ヒノモトでは「木馬責め」というそうだな。大陸にも同じような拷問がある。「ロバ」というのだがな。やることは同じだ。
背中を尖らせた木材に跨らせるだけのシンプルなものだ。だが、これが効く」
「やめて!」
ずりずりとトモエの身体が下がってくる。
さっきと同じく、白の上っ張りだけだ。
袴はつけていないが、足袋と股間を守る下着は履いている。
とはいえ、下に履いているものの布地は極めて小さい。
辛うじて膣と肛門を隠しているだけで、あとは紐である。
この国の男性用下着である褌の女性バージョンのようだ。
小さな布で股間を覆うだけなので、後ろから見れば、トモエのむちっとした見事な臀部が丸見えだ。
Tバックのようなものである。
しかし、そんなもので苦痛が和らぐわけもなかった。
不気味な器具は45度ほどの角度がついた木材に、四本の脚が生えている。
これが馬に似ているところから木馬責めとなっているわけだ。
「ひっ!」
脚が木馬の背に触れた。
閉じ合わせて股間を守ろうとするものの、足首に重りがついていて閉じることが出来なかった。
「くく……」
トモエが渾身の力を込めて脚を持ち上げる。
重しにぶるぶると震えるふくらはぎや太腿が痛々しかった。
跨りかけたところで、膝と足首で木馬の背を抱き込むことに成功した。
ここで支えていれば、跨らされることはないだろう。
しかしいつまで保つものか。
脚の重しもあるし、いつしか手首から吊られた縄が弛んでいる。
それまでは、苦痛ではあっても手首で吊られることで落下を免れていたのだが、もうトモエの脚力だけでその身体を支える
しかないということだ。
腹筋はもちろんのこと、鍛え上げられた太腿、そして臀部の筋肉が浮き出てくる。
ふくらはぎにも美しい筋肉の筋が浮いてきた。
すぐに額から汗が滲んでくる。
「うっ……く……」
「ほう、頑張るものだな。女とは思えん」
「あ、あなたこそ……女とは思えません。こ、こんな責めを女にするなんて……うくっ……」
「口が減らんな。ではこちらも容赦はせん」
「何を……?」
アルドラは、何やら手に小さな壺を持っている。
それを軽く傾けると、つうっと粘りのある液体が零れ出てきた。
「大したことはない。ただの油だ。これをな……」
「あっ!」
少女は、壺をトモエに近づける。
そして、身体を支えている膝と木馬の接点に油を垂らしていった。
武者巫女が驚いたように叫んだ。
「や、やめて! そんなことされたらっ……!」
「どうなるかな? 膝が滑って、必死に支えている身体が木馬に落ちよう」
「やっ……!」
「遠慮するな。どれ、足首にも垂らしてやろう」
トモエは悲鳴を上げて、一段と脚に力を込めた。
が、当然ながら滑る、ぬめる。
そうでなくとも脂汗のせいで摩擦係数が減ってきていたというのに、油など差されたらたちまち落ちてしまいそうだ。
足首の方は、足袋が油を吸ってくれていたが、それも飽和状態になった。
そうなってしまったら、逆にたっぷりと油を吸った足袋が滑りを促進してしまう。
「くっ……す、滑る……ああ、もう……」
「今にも落ちそうだぞ。そこに跨ったらどうなるか、考えんでもわかるはずだ」
「……く」
「言うのだ、トモエ。帝と神具の場所をな。そして余に従え、悪いようにはせぬ」
「な、何度言われても同じです……、わ、私は屈しません……あっ……」
「では仕方ないな。そら」
「ああっ!」
右膝がぬるっと来た。
慌てて挟もうとしたものの、右足の滑りは止まらない。
バランスを崩し、左の膝と足首まで滑った。
これが悪かった。
覚悟を決めて、少しずつゆっくりと跨ったのならともかく、不意打ちの形で落下したため、その衝撃は半端じゃなかった。
「ぐぅああっ!」
トモエらしからぬ絶叫が部屋に木霊する。
あまりの激痛に身を捩っても、かえって股間に苦痛が走る。
その痛みたるや苦痛などという言葉で収まるものではなかった。
身体の芯に太い杭を打ち込まれ、それを延々と突き通されるような猛烈なものだ。
特に陰部と肛門が酷かった。
柔らかく敏感な神経が集積した箇所であり、普段は厚い肉に囲まれて隠されているのだから無理もなかった。
あっという間に全身が脂汗まみれとなる。
「ぐっ、ぐうっ……いああっ……!」
「どうだ、痛いか。痛いと言って泣き叫ぶがいい。そして余に忠誠を尽くせ」
「だっ、誰が……こんな酷いことをする人には従えな……んひぃっ!」
膝も脚も萎えてしまった。
とうとう完全に跨ったのだ。
はだけた胸元から熱気が立ち上る。
股間や内腿も、脂汗でじっとりと濡れていた。
もう油も必要ないだろう。
「ぐぐ……うっ……ああっ……」
トモエは必死に意識を他に逸らそうとする。
師に授けられた、苦痛を堪える手立てだ。
かつて負傷した時にも、敵に対する怒りと勝利する方策を考えることで乗り切ることができた。
痛みは、痛いということをことを思わなければいいのだ。
そうは言っても、ずきずきと痛み、じんじんと疼く傷口を無視することは難しい。
それに今回の苦痛はそんなレベルを遥かに超えていた。
それでも身体の姿勢を変えたり、力をかける箇所を工夫して、何とかやり過ごそうとする。
頭を少し傾け、左肩に預けた。
それだけのことだが、ほんのわずかに楽になった。
さらに上半身を少しだけ反らせると股間の苦痛が和らいだ。
重心が女陰から後ろにずれたからだ。
しかし今度は肛門付近がきつくなる。
そうすると、逆に頭を前に傾けて前屈みになる。
少しだけ肛門の負担が軽くなった。
アルドラは、そんなトモエを半ば感心して見ていた。
「……なかなかやるな。どうやら本気でこの責め苦を乗り越えようとしているのか」
「……」
歯を食いしばって激痛を堪え忍んでいるトモエの美貌が、一種凄絶なものとなっている。
腰や脚が痙攣してきている。
それを嘲笑うように少女が言った。
「甘いな。こんなもので済むと思うのか」
「うぐあああっっっ!」
トモエは絶叫した。
残酷にもアルドラは、トモエが跨った木馬をガタガタと揺すりだしたのだ。
汗をたっぷりと吸って重くなった長い黒髪を振り乱しながら、トモエが悲痛な声を上げている。
「いひあっ……やめてっ! くうああっ……!」
それでも決して「痛い」とは言わなかった。
こうなると、もう根性とか気迫とかではなく、「痛い」という言葉を知らぬのではないかと思えるほどだ。
いつの間にか涙まで流していた。
顔が激しく振りたくられ、汗と涙が飛び散った。
大きく開いた胸元からは豊満なバストが零れ出て、千切れそうなほどに激しく揺れ動いていた。
もう我慢するとかしないとか、そういう痛みではなくなっている。
これ以上責めたらトモエが失神するという、その瞬間にアルドラは木馬を揺するのをやめた。
「ああ……、あぐうっ!」
ホッとしたトモエが、つい脚の力を緩めた途端、名状しがたい激痛が股間を襲ってきた。
慌てて脚で木馬を挟もうするのだが、もう脚は完全に萎えてしまい、痙攣が止まらない。
普通、ここまで痛めつけられるとその苦痛にも慣れてくるとか、脳からエンドルフィンが分泌されて楽になるはずなの
だが、この責めだけはそんなことは無関係らしい。
突き抜けるような激痛が、股間から身体の中心まで達してくる。
今ではもう痛みだけでなく、痺れまで来ていた。
あまりにも激しい責めではあるが、これでもまだアルドラは加減しているつもりである。
木馬の中には、先端を切れるほどに尖らせたものもあるが、トモエに使われているのは角にRが入っていて、多少痛みを
和らげている。
他にも、跨る箇所──つまり股間に当たるところに淫らな棒杭を生やして、それを肛門と膣に挿入させながら責める、
というものまであるのだ。
それでも、このような責めは初めてなだけに、トモエにとって死に勝るほどの苦痛であることに変わりはない。
「むひぃっ……!」
僅かの休息を許されたと思った直後、今度は背中に凄まじい衝撃が来た。
アルドラが鞭を振るったのだった。
鞭といっても、西洋のもののような革製の一本鞭ではない。
竹だ。
竹竿の先の方を細かく裂いたものだ。
「割れ竹」とか「ささら竹」と呼ばれるもので、その細かく裂かれた部分で女体を鞭打っているのである。
背中を打たれ、その瞬間呼吸が止まる。
その直後に凄まじい痛みが背中に走った。
白い肌に赤い筋が幾つも浮き出た。
「言え!」
「ぐひぃっ!」
「言わぬか!」
「んぐわああ!」
「余に従え!」
「うぐううっ!」
悪魔のような女王は、遠慮なく若い女体を打った。
服の上からとはいえ、その威力は言語に絶する。
背中、腿、そして胸にまで竹鞭が弾けた。
あっという間に、膨れあがった赤い筋がトモエの真っ白い肌に刻まれていく。
「いぎゃあっ!」
鞭の激痛に身を躍らせ、身体を捩れば、そのまま股間への激痛となって返ってくる。
動けば動くだけ、股間の膣や肛門が引き裂かれるような猛烈な痛みとなった。
トモエはどんなに鞭が痛くとも動けない。
動けば女陰と肛門に恐ろしいほどの苦痛が突き抜けるのだ。
とてもトモエとは思えぬ、いや人間離れした絶叫と悲鳴がその朱唇から迸る。
『アルドラ』
「……なんだ。出ろと言った時以外は出てくるなと言ったはずだ」
突然にかかったデルモアの声に、女王は不機嫌に応じた。
トモエの方は、責めの苦痛でアルドラの変化に気づく余裕はないようだ。
『もうこの責めはこの辺にしようよ』
「なぜだ。まだ喋っておらん。それにこの責めは見た目より効きそうだ。そのうち音を上げるだろう」
『その前に死んじゃうよ。壊れちゃうかも知れない。狂っちゃったら意味ないだろう?』
「ふん」
女王は、面白くもなさげにトモエを木馬から突き落とした。
「あぐうっ!!」
その衝撃というより、激痛でトモエが叫んだ。
豊満な臀部から落ちたのだから、普通なら大したダメージは受けまいが、木馬で散々股間を責められた後である。
ちょっとした刺激でも、全身を震わせるほどの痛みが走った。
トモエは呻きながら股間を両手で押さえている。
それでも直接そこには触れず、股間を隠すようにするが精一杯だ。
角に直接当たっていた媚肉や肛門、蟻の戸渡りなどにはとても触れられるものではない。
ちょんと指が当たっただけで、飛び跳ねるほどの痛みが来るのだ。
股間はジンジンと疼くように痛み、脚は痺れ切って感覚がなく、自分のものではないかのようだ。
それでも、悶絶寸前ながらもこの娘は、悪辣な拷問にまたしても耐えきったのだった。
女王は吐き捨てるように言った。
「……最後の手段を執るしかないか。バカだな、きさまも。さっさと吐けばいいものを。余計な苦痛を抱え込むことになるぞ」
凄惨な責めを耐え抜いた武者巫女に、アルドラをにらみ返す余裕はなかった。
────────────────
「やっ、やめて! やめなさい、そんなことっ!」
トモエの声が上擦っていた。
それまで、スルガ問い、三角木馬責めという過酷な責めを耐え抜き、アルドラを呆れさせた気丈な娘とは思えぬ声だ。
トモエも若い女性なのだから、それも無理はなかった。
アルドラは、トモエを浣腸責めにかけようとしていたのだ。
浣腸の歴史は古く、医療という思想が発生した頃にはすでに存在したらしい。
それまで、病の手当としては、痛む箇所などを擦るという、文字通りの「手当」しかなかったのだが、医療は別の発想を持ってきた。
病になるのは、体内に悪いものがあるからだと考えたのである。
そこで治療される人間は、血を抜かれたり、胃の中のものを吐き出されたり、排便を強要されたしたわけだ。
吐瀉するにも、当初は喉に手を入れて吐かせていたのだが、後にはさほど苦しまずに済む薬が植物から開発されている。
瀉血と排便のために注射器が発明され、特に排便時には肛門から薬を入れる──つまり浣腸が一般的となっていた。
効果がまったくないわけではないが、その多くは眉唾物である。
しかし、高価な魔術師や僧侶に頼ったり、怪しげな祈?師に依頼するのを躊躇した庶民は、安価なこれらの手段を施していた。
その中で浣腸は、その生理的な苦痛から拷問の一種としても取り入れられた。
特に女性を責める際には、苦悶する女の表情を楽しむなど、責める側の性的喜悦という側面もあった。
トモエは、アルドラからその責めを受けようとしていたのである。
トモエは必死になって叫んだ。
「やめて! ああ、アルドラそんなことしないで!」
身動きできない身体を懸命にもがかせているのが哀れだった。
トモエは腰ほどの高さの丸太机に上半身をもたせかけていた。
うつぶせになり、両手は背中に回されて縛られ、それが天井で吊られているあまり激しく動けば、肩が抜けそうに痛む。
両脚も机の脚に足首で縛られてあった。
白い巫女服は着せられていたものの、緋袴は当然脱がされている。
小さめの褌のような下着は剥ぎ取られていた。
ぷるんとした真っ白い臀部が揺さぶられている。
「活きが良いな、トモエ。そんなに浣腸がイヤか」
「あ、当たり前ですっ! あなたも人間なら、こんな酷いことは……」
「人間なら、か……」
「え……?」
「いや、何でもない。あまり動くな、隠しておきたいところが丸見えになっているぞ」
「そっ、そんなこと……ああっ!」
振り返ったトモエの目に、浣腸器を持った少女が映る。
トモエに見せびらかすように浣腸器をかざし、軽くピストンを押して薬液を噴き出させた。
何者も恐れぬはずの武者巫女の美貌に恐怖の色が走る。
血の気が引いて青白くなった唇をわなわなと震わせていた。
アルドラが笑う。
「くく、天下の武者巫女がそのように脅えるとはな。怖いか?」
「……」
「それほどにイヤなら止めてやらぬこともない。条件はわかっておるだろう」
「な、何と……」
「なに?」
真っ青になってガタガタと震えているのに、トモエは気丈に言ってのけた。
「何と言われようとも、私は大神や帝は裏切りません……」
「……。では浣腸してやる。それでいいのだな?」
「い、いやっ!」
「いやなら言え。そして余に従え」
「……」
「強情だな。そこまで頑固だと可愛げがない」
「い、いやっ! か、浣腸なんていや!」
アルドラが浣腸器を構える。
ノズルからはぼたぼたと薬液が漏れていた。
普通の浣腸器よりもノズルが太い。
しかも悪趣味なことに、ノズルは男性器を模している。
トモエが必死に腰を振り、もがくが、その細腰はしっかりと丸太に縛り付けられている。
どうにもならなかった。
「ひっ!?」
肛門にノズルの先端が触れると、トモエは息を飲んで喉を鳴らした。
びくっと肢体が硬直する。アルドラが焦らすように、あるいは脅えさせるようにノズルを蠢かしている。
そのたびにトモエの肛門がヒクヒクと蠢き、きゅっと口を窄めた。
「そんなに尻の穴を締めても無駄だ。これなら楽に入る」
「や、やめて!!」
トモエが舌をもつれさせながら叫ぶ。
しかし、肛門をこねくり回していたノズルが、ゆっくりと突き刺さってきた。
「んひっ! あ、ああっ!!」
太めのノズルが、トモエの柔らかい、それでいてよく締まった肛門に沈んでいく。
神経の集まった敏感な粘膜を擦られ、ビクンとトモエの身体が跳ねた。
「や、やああっ!」
アルドラがシリンダーを押していった。
浣腸器の筒の中の溶液が不気味にどろりと蠢いて、トモエの肛門から注入されていく。
見た目でもわかるが、かなり濃いめの薬液らしく、トモエは注入されるや否や、身体が内部から破裂するかのような猛烈な
圧迫感を感じていた。
「あっ……ああっ……い、いやああっ……!」
何とか流入を防ごうと、トモエは懸命になって括約筋を締め付ける。
もちろんそんなことでは押しとどめようもなく、ドクドクと浣腸液が入ってきた。
その異様な感覚に、トモエは上半身を反り返らせて呻いた。
「んぐうっ……!」
生ぬるいドロドロとした粘液が流入してくる感覚に、トモエは汚辱感に染まり、頭の中が暗くなってくる。
食い締める歯がカチカチと鳴っていた。
「あ、あむむ……んむう……」
肛門だけでなく、全身で息んでいる。
細い首筋がぶるぶると痙攣していた。
シリンダーを押しながらアルドラが聞く。
「どうだ、トモエ。これは余に逆らった罰も含まれておる。よく反省するがいい」
「あ、あうむ……やめ、て……こ、こんな酷いこと……ああ……」
「余の言うことを聞けばすぐにでも止めてやろう」
「で、出来ません……出来ない、それだけは……あぐ……」
「では浣腸を続けるまでだ。最後までな」
「くっ……、い、いや!」
トモエは、込み上げてくる吐き気と涙を必死に堪えながら身を震わせていた。
1/3も注入されると、もうとてもじっとしていられなくなる。
身体中に冷たい汗が浮いてきた。
アルドラは、トモエの様子を見ながらゆっくりと注入を続けた。
「いや……あ、もう……う、うんっ……」
トモエは、浣腸のおぞましさを必死に耐えていた。
こんなことをされているという屈辱感と、恥ずかしい姿にされているという羞恥心、そして身体の中に怪しげな薬を入れられる
という汚辱感に身を灼いている。
液体というよりも、ぬめぬめとした軟体生物でも入れられているような気色悪さだった。
半分も入れられると、今度はぞくぞくっとするような便意が込み上げてくる。
お腹もググッ、ゴロゴロと鳴き始めていた。
「そ、そんな……」
便意を意識したトモエが狼狽した。
されたことはないが、浣腸されれば排便するらしいことは知っている。
だが、それがこれほどに生理的に強制されるものだとは思わなかった。
その苦しさに身を僅かに捩っても、溶液は確実に注入されてくる。
腹部がグルグルと鳴って、便意は膨れあがる一方である。
「あ……やめて、もう……こ、これ以上は……うくっ……」
もう耐えきれない。
声が震えてきた。
ここでやめてもらえればまだ間に合う。
トイレに行ける。
「あむむ……い、入れないで、もう……ああ……」
「漏れそうなのか? 何度も言うが、余に従えばすぐに止めてやろう。トイレにも行かせる」
「く……」
「……本当にこの女は」
「うくっ! いやあ!」
まだ屈しないトモエに業を煮やしたのか、アルドラは強めにシリンダーを押し込んだ。
注入されるたびに、トモエの大きな臀部がぶるるっと震える。
その便意が次第に高まっていくのが、責めているアルドラにもわかった。
もうトモエは痙攣が止まらず、片時もじっとしていられないようだ。
呻き声が、今にも失神しそうに聞こえる。
「や……めて……うむっ……」
「まだまだ。この大きな尻だ、いくらでも入りそうだぞ」
「いや……ああ、もう無理っ……!」
「これで仕舞いだ」
「ひうっ!」
シリンダーを底まで押し込み、溶液を一滴残らず注入し終えると、トモエはぶるるっと大きく震えた。
ようやく男根型のノズルが引き抜かれても、トモエは脂汗を滲ませてわなわなと痙攣するだけだ。
もう息をするでも苦しいらしく、呼吸が不定期になっている。
わななく唇を噛みしめ、眦が引き攣っていた。
腸の奥から襲いかかってくる激しい便意のせいで、汗の滲み出た肌が総毛立っている。
「くっ……苦しい……」
声を出しても漏れそうになる。
トモエはキュッと肛門を引き締めて、腰を振っていた。
「あ……、ほ、解いてください……」
アルドラは無視している。
「解いて……あ、うむ……もう……」
「縄を解いて欲しいのか? 解いてやったらどうする気だ」
「ああ……」
トモエは、浣腸責めが内臓への拷問だけでなく、恥辱責めになっていることにも気づいた。
便意を我慢させ、その姿を晒し、しかも屈辱的な言葉を吐かせようとしているのだ。
「あ、あう……苦しい……お腹が苦しい……ど、どうにかして……」
「ふふ……」
「ああっ!」
トモエは戦慄した。
こともあろうにアルドラは、トモエの臀部を左右に割り開いたのである。
便意で熱された肛門に涼しい外気が触れる。
今のトモエには、それすら便意を促す刺激となった。
その肛門は今にも破裂しそうにひくついている。
耐えきれずにぐぐっとふくらみかけ、慌ててきゅうっと窄まる動きを繰り返していた。
「だ、だめ……本当にもうだめです……あ、あ……出てしまう……」
「ふふ、そうか。何が出るのか言ってみよ」
「そ、そんな……ああ、早く解いて……もう本当に出ちゃいますっ……」
脂汗を流し、屈辱を噛みしめながら、生理的苦痛と便意からの解放を求め、トモエはアルドラに哀願している。
腸内で便意が荒れ狂っている。
もうどうにもなりそうにない。
「も、もう我慢できないっ……」
「だめだ。我慢しろ」
「そんな、無理っ……お、お腹が裂けそうですっ……苦しいっ……」
「そうか。ならば、ここでしてもよい」
「そんなっ!」
トモエは目を剥いた。
動物じゃあるまいし、トイレ以外でそんなことが出来るはずがない。
そう思って武者巫女はハッとした。
この少女は、排泄する自分を見る気なのだ。
そうすることで、トモエにこの上ない恥辱と羞恥を味わわせようとしているに違いない。
トモエは気死しそうな精神を必死に奮い立たせ、歯を食いしばって耐えた。
ここで屈服するわけにはいかない。
だが、生理の苦痛はとても我慢できるようなものではなかった。
それを強靱な精神力が押さえ込んでいる。そのせめぎ合いの中、トモエの意識はすうっと暗くなっていった。
────────────────
もう拷問部屋にはアルドラの姿はなかった。
男の兵たちが三名ほど、失神したトモエを介抱していた。
ひとりがぼやく。
「やれやれ、クソッ。女王のやつ、俺たちにこんなことまでさせやがって」
「おい、聞こえるぞ。女王さまは地獄耳でいらっしゃるらしいぜ」
「聞こえたってかまいやしねえよ。クソの始末なんぞ、そこらの女にでもやらせりゃいいじゃねえか。なんで俺たちが……」
この兵たちは、浣腸され、失神したトモエがその間に排泄したものを始末させられているのだった。
文句のひとつも出ようと言うものだ。
トモエの肌を絞った手拭いで清めている兵が、ぼやき続ける男を宥めるように言った。
「まあ、そう言うなって。よく見てみなよ、この女をよ」
「あ?」
「見れば見るほどいい女じゃねえか。我が軍の装甲兵を叩きのめしたとはとても思えねえ美人だぜ」
「そう言えばそうだな」
途端に兵たちの視線がいやらしいものとなる。
トモエは相変わらず上半身だけ着衣で、下半身は露出しているのだった。
清楚な美人が多いと評されるヒノモトの女──ヤマトナデシコと呼ぶらしい──の中でも、このトモエは群を抜いているではないか。
剥き出しになっている豊満そのものの真っ白な尻は見事としか言いようがない。
大きいだけでなく形状が素晴らしかった。
思わず手が伸びる。
「おおっ、こりゃあ何てすべすべな肌なんだよ」
「本当だ。すげえな、手にしっとりと吸い付くみてえだ」
「お、おい、俺にも触らせろって!」
兵たちは先を競ってトモエの身体をまさぐった。
尻を撫でる者、太腿を舐める者、そして和服を大きくはだけさせて乳房を剥き出させ、それを揉んでいる者。
各々、自在に異国の美女の身体を愉しみ始めた。
「ん……」
身体中をいじくられるトモエが、眉間に皺を寄せて呻いた。
まだ気がつくというほどではないが、意識が戻りつつあるようだ。
一瞬、兵たちはおののいた。
相手は勇名を轟かせる稀代の武者巫女さまである。
だが、相手は縄で縛られている。
恐れることはなかった。
また三人の男たちの手が白い肉体に伸びる。
「ん……んん……」
トモエが呻く。
尻を揉まれ、胸をまさぐられ、首筋にも舌が這わされた。
その気色悪さに、さすがに意識が戻ってきた。
「あ……」
「ん? 気づいたようだぜ」
「そうか。ま、いいさ」
「いったい何が……」
トモエにはまだ状況がわからない。
アルドラに浣腸責めされ、その羞恥と屈辱に身を灼きながらも、その責めに耐え抜いた。
そこまでは憶えている。
その後、意識がなくなったのだが、それからどうなったのだろう。
そこでトモエの顔がハッとしたように真っ赤に染まった。
そして次の瞬間、ざあっと青ざめていた。
その様子を面白そうに兵が見ていた。
「あんた……、確かトモエとか言うんだよな」
「……あ、あなたたち……」
「へへ、気がついたかね? そうさ、俺たちがあんたの後始末をしてやったのさ」
「……!!」
「そうだよ。あんたが漏らしたウンコの始末をね。大変だったぜ」
「っ……!」
あまりのことに、トモエは舌を噛みたくなる。
こんな野卑な男たちに「後始末」され、その身体を観察され、触られていたらしい。
もしかしたら、最悪の屈辱シーンである排泄したところまで見られたのだろうか。
そうなら今すぐにでも消えてなくなりたい。
トモエの気持ちを知ってか知らずか、兵たちは嘯いた。
「クソ漏らすとこはアルドラ女王に見られてよ、始末は俺たちがしてやったのよ。どっちにしてもいい恥さらしだよな、お嬢ちゃん」
「……」
兵たちには排泄は見せなかったようだが、アルドラには見られたらしい。
その時に意識を失っていたのは幸運だったのか不幸だったのか、トモエにはわからなかった
「さ、触らないで」
「そんなこと言うなよ、姉ちゃん。俺たちが清めてやったんだからな」
「そうよ。その褒美くらい受け取ってもいいだろうよ」
「おい、やめとけよ」
もうすっかりトモエを犯す気でいるらしいふたりを、もうひとりが止めた。
「なんでだよ」
「バカ、当たり前だろう! そんなこと勝手に俺たち雑兵がやっていいと思ってんのか?」
兵は激しい口調で言った。
「こんなこと女王が死ったらタダじゃ済まないぜ」
「そうかな」
ひとりが反論を唱えた。
「アルドラさまが男王ならそれもわかるぜ。これだけの美人、まずは自分からと思うだろうし、もしかしたら側女にするかも知れないしな」
「だろ?」
「でもアルドラさまは女王だよ。関係ないだろう」
「で、でもよ」
「それともあれか? 女王さまには女同士とか変わった趣味でもお持ちなのか?」
「バカ! 不敬だぞ!」
「まあまあ」
ふたりを宥めながら男が言った。
「平気だよ、少しくらいつまみ食いしても。こいつの言う通り、アルドラさまは女だしな、あんまりそうしたことは気に
しないだろうよ」
泣きたくなるほどの楽観論で刹那的だが、死と隣り合わせの戦場を往来する兵などというのもはそんなものだ。
いつ死ぬかわからないのだ。
「目の前のご馳走は食え!」が合い言葉だ。
おいしいものは後に、などと悠長なことを言っていては食べ損なってしまう。
反対していた兵も納得した。
「それもそうか」
「だろ? じゃ、そういうことで、へへ……」
「おやめなさい!」
男達の会話や、その目を見て、トモエは何をされようとしているのか察した。
浣腸され、排泄を見られ、その後始末までされた上に、今また女として最悪の展開を迎えようとしているのに、なぜかトモエは
落ち着きを取り戻している。
トモエを殺そうと言うのではなく、相手がそういう気であるのなら対処法もあるのだ。
巫女はきっぱりと言った。
「穢らわしい! 私に触れてはなりません」
兵たちは一瞬きょとんしてから、ニタニタ笑い出した。
余裕の表情だ。
いかに相手が古今無双の強者とはいえ、緊縛してあるのだ。
いかに雑兵とはいえ、トモエの縄をヘタに解かぬ限り、負けようもない。
「いやー、いいおっぱいだ。この柔らかさ、手が蕩けそうだ」
「尻もだ。つるっつるの肌だよ、おい」
「触るなと言っています」
トモエは、男たちの手が這い回るおぞましさに耐えながら、声を落ち着けて言い続けた。
「うるせえな、おらマンコ見せてみろ!」
「くっ……!」
思わず「きゃあっ!」と悲鳴を上げてしまうところを何とかトモエは堪えた。
それでも、大股開きにさせられ、女の秘密を野蛮な男どもに見物されていることは変わらない。
「具合の良さそうな道具だ。毛並みもいいや」
「んなこといいから、さっさとやろうぜ」
「おし、ジャンケンだ!」
トモエが目を閉じ、顔を背けている間に勝負がついたようだ。
さっきからトモエの尻ばかり撫でていた男が勝ったらしい。
知性のなさそうな脂ぎった顔の男がトモエにのしかかる。
トモエの両腿を抱え、その股間に割り入った。
「……」
「黙り込んじまったな、武者巫女さんよ。「きゃあ」とか「いやー」とか泣き叫んでくれていいんだぜ」
トモエは静かに口を開いた。
「……最後の警告です。おやめなさい。私はあなたたちのために言っているのです」
「は! 俺たちのためだと!? ふざけんなよ!」
短気な兵が怒声を張り上げ、トモエの頬を張った。
ぱぁんと肌を打つ乾いた音が響いた。
「立場わかってんのか、おまえ!? 犯されんだぞ、あんたは! それを、言うに事欠いて「あなたたちのため」だと?」
「……」
「もう許さねえ。遠慮なくやってやるぜ」
「おいおい、あんま無茶すんなよ。ヒノモトの巫女ってのはみんな処女だとか言ってたぜ」
「んなこと知るかよ! 初めてなら余計にオッケーってもんだ。股ぐらが血まみれになるまでやってやるぜ!」
「愚かな……」
トモエはそう呟いて身体の力を抜いた。
犯そうとしていた兵は、それまで身を捩って避けようとしていたトモエの動きが止まり、少し不審を抱いたものの、構わず覆い被さった。
「……っ!」
男根の切っ先が、トモエのまだ濡れていない媚肉にあてがわれた。
そのおぞましさ、気持ち悪さに鳥肌が立つ。
「へへ、力を抜けよ。さもねえととんでもなく痛いらしいぜ」
「……」
「クソッ、お高くとまりやがってよ! 武者巫女がどれほどのもんだってんだ! やっちまえばタダの女だぜ!」
「さっさとやれよ!」
「わかってるって。んじゃまあ……」
男が腰を送る。
トモエが呻いた。
「くっ……」
熱い肉棒が媚肉を割る。
狭い膣口をこじ開け、男根が挿入されていく。
絶叫が迸った。
────────────────
私室でアルドラがデルモアに説得されていた。
トモエの処置についてである。
ここまで肉体的及び精神的拷問に耐え抜いたトモエに、正直に言って女王も手を焼いていた。
ここまで強情だとは思わなかったのである。
些か気短なところもある彼女は、もうトモエは殺してしまえと言い放ったのだ。
デルモアは、アルドラを宥め、激発させぬように言った。
『殺してしまうのは簡単さ。でもきみ自身言っていたじゃないか。トモエを殺してしまったら、治まるものも治まらなくなるよ』
「……」
『それよりはあの女をこっちにつけることさ。その方が侵攻も、征服した後の支配もうまくいく』
「それはわかってる」
だが、トモエをいくら責めても屈しないではないか。
挙げ句、気絶するほどの苦痛と恥辱を受けても、首を縦に振らなかった。
もう手立てはない。
「……ではどうするというのだ」
『僕に考えがある。任せてくれないかな』
「何を考えておるのだ。……その時、余はいない方がいいのか?」
『ま、そんなところかな』
「……」
アルドラが浮かべた不機嫌な表情に、デルモアが笑った。
『そんな顔しないで。もしかして妬いてるのかな?』
「何を馬鹿な」
『じゃあ任せてもらおうかな』
「……いいだろう。その代わり……」
『わかってる。必ずあの女を従わせるさ』
「ふん」
その時だった。
拷問部屋から空気を引き裂くような悲鳴が轟いた。
部屋で寛いでいても、女王は決して油断はしていなかった。
神経をトモエの部屋に向けているのだ。
「何事だ!」
思わず立ち上がるとすぐにデルモアと合体し、私室を駆け出ていった。
そして拷問部屋に入るなり絶句した。
「これは……」
そこには、後ろ手縛りのまま仰向けに転がされたトモエがいた。
そして彼女を洗浄し、介抱していたはずの兵たちは動揺している。
トモエは上着を乱され、豊かな乳房をはみ出させている。
下履きを履いていない下半身は剥き出しになっていた。
兵のうちひとりはズボンを脱ぎ、下半身を露出させている。
その兵が股間を押さえてのたうち回っているのだ。
残りの兵たちは何とかしようとしていたらしいが、苦しむ兵があまりに暴れるので手をつけられない状態らしい。
「どうした。何があった?」
「ひっ……!」
「ア、アルドラさまっ……」
女王の、いつもの冷静な──一種酷薄な冷たい声を聞き、兵たちは慌てた。
その様子やトモエの状態から、アルドラは大体の状況を察した。
「……これはどういうことだ?」
「い、いや、その……」
「余は確か、そこの女を洗浄し、手当をしておけと言ったはずだ」
「……」
「このザマはなんだ? おまえたち、その女を凌辱しようとでもしたのか」
「……」
答えられない兵たちを、アルドラは表情のない瞳で見ている。
声のオクターブが一段低くなり、室温まで低下したような気がした。
「余の命令に背いたか」
「アッ、アルドラさま! その、も、申し訳……」
アルドラが音もなくデーモンズブレイドを抜くと、兵どもは悲鳴にならぬ声を上げ、背を向けて逃げ出した。
股間の激痛など忘れたかのように、転げていた兵まで逃走していく。
風のように駆けた女王は、無造作に大振りの剣を横に薙いだ。
最後尾にいた兵の首が宙を飛ぶ。
それを見たふたりは絶叫を上げて振り返り、恐怖におののいた顔のまま立ち止まった。
部屋の隅に追い込まれ、もう逃げようもない。
前からは血の滴るブレイドを持った残酷な少女がじわじわと近づいてくる。
「アルドラさまっ、お許しを……!」
壁に背を押しつけたまま懸命に謝罪するものの、アルドラの静かで冷たい怒りを宥められるものではなかった。
さらに二度ほど剣を振るうと、兵ふたりの首が胴から放たれた。
トモエはその惨劇を声もなく見ていた。
普段の彼女なら声を涸らして止めたろうが、レイプされかけたショックと、アルドラのあまりの早業に制止するヒマもなかった。
「あ、あなたは……」
「……」
「あなたは味方の兵まで手に掛けるのですか……」
トモエの声を聞いて、アルドラの眉が少し動いた。
「……余の命令に背いたのだから当然の報いだ」
「な、何も殺すことはないでしょう」
「……おかしなことを言うやつだな」
女王は、まだ仰向けで緊縛されたままの巫女の顔を覗き込んでいる。
「おまえはこやつらに犯されかかったのだろう。なのになぜ、そんな連中を庇うようなことを言う」
「殺すことはありません。しかもご自分の兵でしょう」
「だからこそだ。余の兵のくせに余の命を聞かぬというのでは意味がない」
「……」
そこまで話すと、女王はカツカツと高い靴音をさせながら、首のない兵の死体の側まで行った。
最初にトモエを犯そうとした兵の死体を観察している。
露出された股間に目が行く。
萎えかけていた男性器が爛れていた。
特に先の亀頭部分は酷い火傷のような状態になっている。
爛れているのはその部分だけで、肉竿はほとんど無事である。
「……どういうことだ? おまえ、こやつらに何をした?」
「……」
しばらく口をつぐんでいたトモエがゆっくりと言った。
「……天罰です」
「天罰?」
「私は……、私はマサカド大神に仕える巫女です。その操は大神か、夫になる者に捧げられるのです。純潔を失えば巫女の資格はなくなります。その操を奪おうとした者には、相応の報いが与えられるのです」
「……」
デルモアの声がアルドラの頭に響いてきた。
『アルドラ、ちょっとトモエのお腹に手を当ててくれないか?』
「腹?」
『下腹部かな』
「何のつもりだ」
『すぐわかるさ。さ、早く』
「……」
トモエは不思議そうな顔で女王を見ている。
デルモアの声が届かない彼女にとっては、アルドラの一人芝居のように見えるのだ。
アルドラはトモエの前にしゃがむと、右手を伸ばして軽くその腹に手のひらをあてがう。
真っ白ですべすべした陶器のような素肌だった。
アルドラの手が、ヘソ付近から恥毛の生え際あたりを何度か往復する。
何をされているのかわからないトモエは、その様子を見つめるだけだった。
「何かわかったか?」
『……わかったよ。さすがに巫女だね、彼女、胎内に結界を張ってるよ』
「……何だと?」
『正確に言うとね、膣から少しのところ、つまり処女膜の手前に護符がある』
「ふうむ。ヒノモトで言うところの「神札」とか「御札」とかいうあれか」
武者巫女たちが、戦闘中に自身の防御用として使っている護符である。
霊能力者である彼女たちは、霊力を使って護符を飛ばし、敵の攻撃を防ぎ、あるいは飛び道具の一種として攻撃にも用いる。
基本的には霊的に防護するものだが、ある程度は物理的な攻撃への対応も出来るらしい。
大陸での護符と異なるのは、神札の力は使役する者の霊力の強さによる、という点だろう。
神札自体は別に特別なものではなく、神社で普通に配られたり、販売されている。
これは、その神社の巫女が、己の霊力を付加して和紙に呪文を書き記したものである。
従って、能力のない一般人でも、所持するだけで魔除けや開運に繋がるのだ。
一般人の場合はその程度だが、これを霊能力の強い者が持って使えば、自分の力と相まって絶大な効果を得ることになる。
「……なるほど、護符で処女を護っているということか」
『そうらしいね。ちょっと試していいかな?』
「何をだ? まさかおまえがトモエを……?」
『早合点しないで。ミニオンにやらせてみる』
デルモアがそう言うと、アルドラの背後からミニオンと呼ばれる下級魔がフッと現れた。
形状はヒノモトの霊現象である「ヒトダマ」によく似ている。
実際、同じような役割や能力なので、もとは同じ種族なのかも知れない。
違うのは、ヒトダマは火の玉という別名通り、丸いものを芯にして炎がゆらゆらと漂う感じなのだが、ミニオンはもっと動きが
素早いせいか、揺れ動く火の玉というよりは水中を泳ぐオタマジャクシのように見える。
そしてその芯の部分は大きな目玉となっていた。
冥界から呼ばれてポンと出てきたミニオンは、しばらくアルドラの周囲を巡っていたかと思うと、すうっとトモエのもとへ飛んで行く。
「な、なに……? ヒトダマ?」
「ミニオンと言う。余の使い魔だ」
「使い魔……? あっ、なにを!」
トモエが焦った。
そのヒトダマもどきは、こともあろうにトモエの股間を狙ってきたのである。
ミニオンはトモエの股間の前まで飛来し、そこでしばらく漂っていた。
大きな目玉で媚肉を凝視されているかのようで、トモエは羞恥で顔を真っ赤にしている。
するとミニオンは、トモエの恐れた通り、その膣を目がけて飛んできた。
「ひっ! いや!」
得体の知れぬ物の怪に入り込まれる。
脅えたトモエは思わず声を上げたが、ミニオンは食いつくようにトモエの媚肉にその顔を当てていた。
その圧迫感を感じる間もなく、下級魔はぐぐっと中に入ろうとする。
「くうっ!」
狭い穴へ強引に割り入られるきつさにトモエが呻くと同時に、ミニオンの動きが止まった。
顔を半分だけトモエの膣に埋め込んでいたミニオンは、驚いたようにバタバタと全身を振りたくっている。
その動きが激しくなったかと思うと、今度はぐったりと動かなくなる。
最後に、断末魔のようにぶるっと尾を振ると、白い煙を上げながらしゅううっと音を立てて消滅した。
「……ほう」
『なるほど。多少なりとも魔力を持った者に対しての方が効果があるみたいだね。ただの人間だったあの兵隊はペニスが焦げた
だけだったけど、ミニオンはこのザマだ』
「そのようだな。これでもおまえはこの女を……」
『……ちょっと怖い気もしてきたけど、やってみるさ。僕がダメだったら、その時はきみの好きにするがいいよ』
「……任せると決めたのだから、任せる」
『けっこう』
アルドラはトモエをそのまま放置したまま、また部屋を後にした。
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