すっかり迷ってしまった。
どこがどこだかわからない。
蘭も圭太も途方にくれてしまった。
確かに来た方向へと戻っていったつもりだったのに、暗かったせいもあって、どう
も脇道にでも入ってしまったらしい。
都内の平地に戻っていくつもりなのに、いつの間にか登りになっていった時は「お
かしい」と思ったのだが、もしかしたら上り下りがあったのかも知れない。
何しろ、車中では半分意識を失ったような状態でぼんやりしていたから、道中のこと
はほとんど憶えていない。
圭太も怖さが先だって、ろくに車窓など見なかったらしい。
今では、クルマが通るのは無理ではないかというくらいの山道をとぼとぼと歩いて
いる。
周囲は大きな樹木ばかり──つまり森の中であり、視界もろくに効かなくなってきた。

「……」

蘭は小さく震えていた。
震えていたというよりは、おどおど、びくびくしていた。
深夜になって、少し冷えてきたこともあって、寒くて震えていたということもある。
手を繋いでいる圭太もそう思っていた。
蘭の手が柔らかいのは変わらなかったが、ちょっと冷たくなってきている。
女性は冷え性が多いから気にすることもないのだろうが、さっきまでは暖かかった
のだ。
それがしばらく前から、特に指先が冷たくなってきていた。

「寒い? 蘭お姉ちゃん」
「え、あ、うん、少し冷えてきたね。圭太くんは平気?」
「うん、僕は大丈夫」

少年はそう言って頬を赤らめた。
蘭と手を繋いで歩けるのであれば、どんなところだって行ける気がしている。
なのに蘭と来たら、何が不安なのか、それとも少年との道行きに気が進まぬのか、
さっきから口数も減っている。
さっきまでは蘭の方から積極的に話しかけてきてくれたのだが、やはり少し疲れて
いるのかも知れない。

「……!」
「わ!」

突如、蘭が彼の手を強く握り、びくっと振り返ったので圭太の方が驚いた。

「ど、どうしたの?」
「あ、ごめん……、何でもない」

ちっとも「何でもない」表情ではない。
寒いというよりは脅えているという印象だ。
強気で鳴る美少女ぶりがウソのようだ。
辺りは真っ暗である。
別荘邸でもろくに街灯がなかったのだから、この山の中に灯りなどあろうはずも
なかった。
別荘を出る時分には優しい月明かりもあったのだが、その月も今はすっかり雲の中に
隠れてしまっている。
それでも目が夜に馴れ、弱々しいながらも星光もあったから、ここまで何とか歩いて
くることが出来た。
しかし、その半端な状態が、かえってよくなかったのかも知れなかった。
逆に、真の闇で周囲がまったく見えなければ、歩くことを断念して夜明けまで休息を
取ったろうし、余計なものも見えずに済んだからだ。
フクロウでも鳴いていればその雰囲気はさらに高まったろうが、フクロウの代わりに
山鳥が不気味な声で鳴いていた。
少し風が出てきたのか、がさがさっと木の葉が揺れ、音を立てた。

「ひ……!」

少女はその音にも過敏に反応した。

「蘭お姉ちゃん……」

年上の少女の脅え振りに、小学生の方も不安さが募ってくる。
蘭にもそれはわかるのだが、こればかりはどうしようもなかった。

毛利蘭という少女は、およそ現世には怖いものがなさそうな強気で勝ち気な娘だ。
相手が凶器を持っていようとも、身につけた格闘技の技で大抵は撃退できると思って
いる。
仮に拳銃を持った敵がいたとして、もちろんそれに向かっていくような無謀な行為は
しないだろうが、相手を睨み殺すくらいの気概はある。
先日も、こともあろうに拓馬の父親に直接苦言を呈したほどだ。
暴力団の組長を相手にしても物怖じしなかった。
しかして、その少女にとってほとんど唯一といっていい弱みがある。
「お化け」一般である。
幽霊話とか心霊現象、怪談がそれだ。
一時期、流行っていた都市伝説の怖い話も一切ダメである。
その蘭が青ざめた顔で叫んだ。

「あっ、あそこ! 何かいるっ!」
「どこ?」
「あそこだってば! ほらまた!」

蘭はそう言ってしゃがみ込み、耳を塞いだ。
両目も強く瞑っている。
少年は少し驚いた表情で蘭を見ていたが、すぐに物音の方に目をやった。
何もない。
動く気配とてなかった。
風の悪戯であろう。
そう言うと、蘭はようやくおずおずと立ち上がった。

「ほ、本当に?」

震えている。
勝ち気な娘が怖がっていた。
あの優しく、頼もしかった蘭とは思えない激しい動揺振りである。

「きゃああっ!」

今度はばさばさっと何かが飛んできた。
とはいえ、10メートルほども離れた繁みの中である。
蘭は心臓が止まるかと思うほどにビックリしたのだが、圭太の方は落ち着き払って
そこを観察している。
震えてまたしゃがみ込んだ少女の肩に手を置き、そして言った。

「……大丈夫、お姉ちゃん。鳥が何かが飛んだだけだよ」
「鳥……?」
「多分ね。だって今、何かが空を飛んでったもの。僕たちが近づいたんで驚いたん
だよ、きっと」
「本当に?」

蘭はまだ不安そうに少年を見上げていた。
唇が心なしか青ざめ、震えているように見える。
悪いかと思ったのだが、圭太は思い切って尋ねてみた。

「……蘭お姉ちゃん、もしかして」
「……」
「その、お化けとか……」
「……!」

また蘭が軽く悲鳴を上げ、両手で耳を塞いでいた。

「蘭お姉ちゃん……」
「こ、怖いの……」
「……」
「あたしね、そういうの全然だめ……」

まだ付き合いの浅いこの少年に、なぜそんなことを告白する気になったのか、蘭は
よくわからなかった。
外見的な魅力だけでなく、世話好きで気立てが良く、空手から料理まで何でもこなす
万能美少女が、お化けの類が苦手だとは思わなかった。
何だか圭太は微笑ましくなっていた。

「く、暗いの苦手だし、どこかにお化けとか隠れてるんじゃないかって……」
「大丈夫だよ、蘭お姉ちゃん」

少年の声に少し張りが出てきた感じがする。

「この世にお化けなんかいないよ」
「……」
「あんなの何かの見間違いか嘘っぱちなんだから」

圭太はそうした超常現象に少なからず関心があり、テレビや雑誌、ネットなどで調べ
たものだった。
まだ研究と呼べるようなものではなかったが、ささやかな調査と思考の結果、そう
いった現象のほとんどが眉唾だという結論に到達したのである。
圭太自身は、UFOだの心霊だの超能力だのといったモノにとてつもない興味を持っ
てはいるが、それだけに見方が厳しい。
信じるに値する情報でなければ信じないし、最終的には自分で見るか経験しなければ
信用しないのだ。
その言葉は知らなかったが、彼はいわゆる懐疑派なのだ。
少年の言葉を受けても、蘭はまだしゃがみ、脅えている。

「そ、それはそうかも知れないけど、でも怖いんだもん」

こういった蘭の考え方もまた一面の真理だろう。
こうしたものは理屈で割り切れるようなものではないのだ。
真っ昼間であれば、強がりでなくそんな話は笑い飛ばす人であっても、真夜中にひとり
で墓場へ行くのは怖いに決まっている。
暗闇という視界を奪う恐怖に加え、潜在的な霊現象への敬虔さ、畏れというものもある。
誰だって怖いのだ。
ただ蘭の場合、それが多少、常軌を逸している。
親しい園子が呆れるほどだから、よっぽどだ。

「平気だよ、僕もいるし」
「え……」
「蘭お姉ちゃんはお化けが怖いかも知れないけど、僕はそんなもの全然怖くないんだ。
だから平気」
「圭太くん……」
「だから立って。ね?」
「……うん」

こんな子供に励まされてるなんて情けない。
そう思った蘭は強がって、そして少しだけ気が楽になって頷いた。

「そうだね。いつまでもここにいたら、それこそお化けに襲われちゃうかも」
「ははは」

蘭の言葉に笑った圭太は、彼女に手を差し出して立ち上がらせた。
ついさっきまでとは全く立場が逆転している。
圭太の手を握った手は、まだ少し震えている。
それでも何とか歩き出すことが出来た。
確かにこの場にとどまっていては、お化けはともかく身体が冷えてまいってしまう
可能性もある。
だが、その決意は次の瞬間、実にあっさりと覆されてしまった。

「きゃああっっ! 痛っ!!」」

ふたりの足下を、何か素早いものがざざざっと駆け抜けていったのである。
当然、狸だか鼬に決まっているのだが、今の蘭にはそう思えない。
さっき圭太に冷静な判断をされたばかりだというのに、そんなものは一瞬で消し飛ん
でいる。
代わりに襲ってきたのがそこはかとない恐怖だ。
もう押さえようもない脅えが少女を包み、喉から悲鳴が吹き上がっていた。
それでも圭太を庇うかのように彼の手を引き、後ろに持っていったのは目上としての
責任感だったかも知れない。
だが、それでいて彼女はまたしゃがみ込んで、縋るように圭太に抱きついてきたのだ。

「お、お姉ちゃん……」

圭太は蘭の絶叫に驚いた。咄嗟に取った蘭の行動にも度肝を抜かれた。
憧れの少女に抱きつかれ、顔にさっと赤みが差した。
そんな場合ではないと思うのだが、何だか嬉しく、そして誇らしい気持ちにもなった。
圭太は蘭の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめている。
蘭の清楚な美貌が本当にすぐ間近にある。
脅えた顔なのが玉に瑕だが、それはそれで美しかった。
そして抱きしめた両手のひらから伝わってくる蘭のナマの体温。
蘭の髪や首もとから匂ってくる、得も知れぬ甘美な香り。
少年は天にも昇るような快感だった。
その気持ちを振り切り、圭太はさっきの蘭の言葉が引っかかっていた。

「……それより、蘭お姉ちゃん、大丈夫?」

彼女は「痛っ!」と叫んでいた。
怪我でもしたのだろうか。
少年は気遣わしそうに蘭を見やった。

蘭は左足を挫いていた。
小動物に脅え、思わず圭太を庇ってから抱きついた時、足下がよろけてしまったのだ。
冷静でなかったという証拠だろう。
ローファーの下に小石か何かを踏み込んだのかも知れない。
身体のバランスを崩し、左足首がガクッとなってしまった。
「しまった」と思った時はもう遅く、ズキッとした激痛が走った。
悪いことに、足首を捻っただけでなく、足の裏も打ち身になったようだ。
やはり何か硬いものを踏み込んでしまったらしい。
蘭は無理に微笑んで少年を安心させようとする。

「だ、大丈夫。平気よ。びっくりして足を捻っちゃっただけ」
「え、じゃあ痛いんじゃないの?」
「少しね。でも平気、歩けるわ。早く行きましょ」

「大したことはない」と蘭は言っていたが、やはり歩くと辛そうだった。
左足を少し引きずりながら歩き始めたのだが、5分もしないうちに、辛そうに顔を
歪め、歩が止まってしまう。
圭太も少しペースを落として歩いてくれていることを知り、蘭も頑張って進もうと
するのだが、やはり精神力だけで肉体的苦痛に打ち勝つことは無理だ。
そうでなくとも疲労しており、暗闇での精神的不安や恐怖もあって、平常心とは
とても言えないのだ。

見かねた少年は蘭をその場に休ませ、杖に使えそうな木ぎれを拾って彼女に渡した。
そして蘭の身体を支えながら歩き出したのだ。
蘭は「年上なのに情けない」と思いつつも、少年の肩を借りた。
圭太は、そうすることによって少しだけ誇らしげな表情になったからだ。
こんな子供でも誰かを助ける──女性を助けるということに誇りと喜びを感じている
のだと思うと微笑ましくなる。
このことで、圭太が抱いている蘭への罪悪感が少しでも薄れるのならと思い、蘭は
甘えることにした。

「蘭お姉ちゃん、辛かったら言って。休みながら行けばいいんだから」
「大丈夫よ、まだね」
「……」
「そんな顔しないで。お姉さんも頑張るから」

そう言いながらも、蘭はたまに顔をしかめている。
小学生の圭太に弱音は吐けないと我慢しているのだろうが、やはり痛むのだ。
湿布でもしてやりたいが、そんな気の利いたものはない。
蘭が無理をしていることは圭太にもわかる。
徐々に蘭が汗をかいてきていたのだ。
子供の方が新陳代謝は多いから、圭太の方が汗をかきやすいはずなのに、少年はほと
んど汗はかいていない。
なのに蘭は、額に浮くほどに汗が滲んでいた。
疲れの度合いは圭太とは比較にならないほどに輪姦され続けた蘭の方が多い。
加えて捻挫の痛みを我慢している脂汗あるいは冷や汗もあるのだろう。
蘭の身体を支えながら、圭太は敏感に彼女の汗の匂いを嗅ぎ取っていたのだ。

そんな場合ではないと思いつつも、少年は美少女の香しい汗の香りを愉しんでいた。
ちっとも汗臭くはない。
それどころか薄甘いような甘酸っぱいような、何とも言えない良い香りだ。
右腕を蘭の背中に回しているから、制服の上からとはえ、彼女の身体に触れることが
出来る。
暖かかった。
さすがに服の上からブラの感触があると、恥ずかしげにそこからは手をずらした。
右肩を蘭の左腋に入れるような形で支えているため、時折、少女の膨らんだ胸が顔の
あたりに触れることもあった。
また少し股間に芯が入るのがわかる。
圭太は顔を赤らめて、ズボンの上からそこを押さえた。

「あそこで少し休めないですか」

30分ほどふらふらと二人が歩いていくと、圭太はそう言って前を指差した。
この目聡い少年は、何やら小屋らしいものを見つけたようだ。

「山小屋……?」
「誰かいるでしょうか」

小さな小屋だが、割りと綺麗な建物である。
よく見ると、その周囲にテーブルとベンチもある。
山登りの客が休んだりするのだろうか。
ただ、中には誰もいないようで、窓から明かりが洩れるもともなく、真っ暗である。
ということは当然、施錠もしてあるだろう。
蘭は少しがっかりしていた。
少年に気遣われるほどに、疲労が蓄積している。
休みたいが、その場所がないから、という理由で何とか頑張ってきた。
そこに休めそうな小屋があるのに、鍵が掛かって入れないというのはショックが大き
かった。

それでもふたりは、よろよろと扉まで行ってみる。
見たところ鍵らしいものはなかった。
思い切って開けてみると、あっさりとその扉は開いた。
蘭たちは知らなかったが、こういった無人の山小屋は「避難小屋」と呼ばれ、登山の
盛んな山などには割と配置されている。
この時の蘭たちのように、道に迷った挙げ句、日も暮れたような場合、野宿を覚悟
しなければならない。
しかし山は夏でも凍死することがある。
地べたに直接寝るようなことをすれば、たちまち地面が体温を奪うのだ。
そうした登山客のために、こうした山小屋があるのだ。
有人で宿泊させるちゃんとした山小屋もあるが、こうした緊急避難的な小屋も存在
する。

蘭と圭太は顔を見合わせてホッとした。
誰もいなくとも、入れれば休める。
いや、この場合、誰もいなかったのが幸いだったかも知れない。
小学生と制服姿の女子高生が、深夜に山の中を彷徨っていたのだ。
まさか事実を言うわけにもいかず、何と事情を説明していいのか、わからない。

少し冷えてきていたが、ドアを閉めると外気が遮断され、少しはマシになった。
蘭はくたりと囲炉裏端に腰を下ろした。
小屋の中心に囲炉裏があって、そこは掘り炬燵式に腰掛けられるようになっていた。
その周囲に座ったり、シュラフで寝たりするスペースがある。
囲炉裏には灰と木の燃えかすが残っていたが、火の気はなかった。

蘭は腰を下ろして休んでいたが、圭太は精力的に室内を見て回っている。
何か使えるものはないか、灯りはないかと思っているのだろう。
そう言えばコナンもこういうところがある。
やけに大人びているなと思ったものだが、圭太も同じように行動している。
少年とはいえ、やはり男の子はこういう時には頼りになるものだと蘭は思った。
圭太が戻ってきた。

「蘭お姉ちゃん、寒いでしょう? ごめんなさい、毛布みたいなのは見つからなか
った」
「うん、平気よ。それにきみが謝ることじゃないわ。この小屋があっただけでも
ラッキーだったじゃない」
「はい。でも、これがありました」
「あ、マッチ?」

珍しい、と蘭は思った。
ここ最近、マッチなんて見たことがない。
父親の小五郎はタバコを吸うが、当然のようにライターである。
マッチなんて、蘭は小学生の頃に見たくらいで、ここ何年も見ていない気がした。
囲炉裏に火を起こすために置いてあったらしい。
それが残っていたのは幸運だった。

「じゃあ焚き火が出来るね。木とかある?」
「ありました。薪が少し残ってた」

圭太はそう言って、一抱えほどの薪を持ってきた。
これで全部だそうだが、それでも数時間は保つだろう。
火付けに使う紙がなくて苦労したが、これも圭太が外で細い枯れ枝をたくさん拾って
事なきを得た。
枯れ枝に着いた火がだんだんと大きくなり、徐々に太い薪に燃え移っていくのを、
少年と美少女は声もなく見つめていた。
炎がふたりの顔を赤く照らしていく。

「その……圭太くん」
「あ、はい」

突然に話しかけられて、圭太は少しびっくりしたように返事をした。
次の蘭の言葉は、少年を戸惑わせるに充分だった。

「あのさ……、きみ、あたしのこと……好き?」
「は、はいっ……!」

背筋をピンと伸ばして生真面目に答えた少年を見て、蘭はつい吹きだしそうになった。
確かに、こういうことを本人に聞かれればびっくりはするだろう。
しかし、取り繕ったり誤魔化したりすることなく素直に認めたことで、蘭はこの少年
に一層の好感を持った。
そして、もっとも聞きづらいことを尋ねる。

「もうひとつ、いい?」
「は、はい」
「あの時……、あの子たちが言ってたよね」
「……?」
「圭太くん……、その、聞きにくいんだけど、あの、あたしを想像して、その……、
してたっていうのは本当?」
「……」

少年の顔が羞恥でカッと真っ赤に染まる。
もっとも聞かれたくないことだったのだ。
それは蘭にしても同じで、聞きにくいことだったろう。
でも、なぜ聞かれたのかわからない。
圭太は誤魔化すことも出来ず、黙って頷き肯定した。

「そう……なんだ……」

やはりと思いながらも、蘭は少し失望した。
いや失望した、というのとは違う。
がっかりした、というのでもない。

蘭とて処女ではないし、魅力的な女性を見て、男が何を思うか、どう想像するか、
というのも大体のところはわかる。
その先にあるものもわかる。
以前、園子にもからかわれたことがあるのだ。
蘭は空手の雑誌やその方面の取材で、マスコミに出ることはあった。
テレビなどはないが、雑誌、新聞媒体ではそこそこにある。
女子空手の都大会優勝者なのだから当然だ。

しかし、それ以外の取材──興味本位の取材は一切断っている。
小五郎や英理もそうだし、学校サイドも拒否していた。
何よりも蘭自身がイヤである。
だから、おかしな雑誌のグラビアを飾ることはないのだが、一度だけ写真週刊誌に
隠し撮りされたことがあった。
それも水着姿である。
どうも蘭のことは知らず、ただ「美少女」ということで撮ったらしい。
それを見つけたクラスメイトが蘭に知らせて事情がわかったのである。
園子はその記事と写真を見て「これ見た男どもが何するか、あんたわかってる?」と
からかったのである。

全部が全部とは言わないが、自慰とか、それに近いことをするのだろう。
それが男性本能として致し方ないことだというのは、理屈ではわかっている。
だからアダルトビデオなりヌード・グラビアなりを見て、男性がオナニーするのは
当然と言えば当然だ。
だが、その対象が自分であるということには我慢できなかった。
怒りを感じるというよりは気色悪いのである。
何だか無性に穢されたような気がしたし、こう言って良ければレイプされているよう
なものだとも思ったのだ。

だから、それと同じことを圭太がしているとわかって、蘭は複雑だった。
だが、同時に別のことにも気づいた。
圭太が自分に妄想し、自慰しているとわかっても、他の男たちほどの嫌悪感がない
のだ。
光栄とまでは言わないが、むしろ嬉しいようなくすぐったいような感じすらした。
多分、新一が蘭をオカズにオナニーしていると知ったなら、同じ気持ちになったか
も知れない。
もしそんなことを新一本人から言われれば、表向きは激怒して見せただろうが。

コナンはどうかな、とも考えた。
しかしこれは取り越し苦労で、さすがに小1ではそこまでのことはないだろう。
蘭が好きだとしても、ほのかな憧れレベルに違いない。
蘭は不思議な気分になっていた。
この少年が自分をオナペットにしていたのがわかっても、怒りは湧かない。
かえって、自分なんかでいいのだろうか、とすら思ってきている。
そのことがつい口に出た。

「でも……でもね、圭太くん」
「……はい」
「お姉さん……ああいう女なのよ」
「え?」

焚き火を見ながら呟くように話しかける蘭に対し、少年はその顔を見つめてきた。
蘭はその視線に耐えられず、ついそっぽを向いてしまう。

「わかるでしょう? あたし……処女じゃなかった……わかるかな?」
「……」
「ああいうことをするの、初めてじゃなかったの」

少年も蘭から視線を外し、囲炉裏の火を見つめていた。

「それにね、好きな人もいるの」
「……!」

蘭の脳裏には新一の姿が浮かんだ。
彼は今、どこで何をしているのだろうか。
一方、圭太はかなりショックを受けたようである。
好きな女に「他に恋人がいる」と言われたのである。
それも無理はなかった。

「わかる……? お姉さん、好きな人もいるし……、汚い、汚れた女なの。きみの
好意を受ける資格なんか……」
「き、汚くなんかないです!」
「……」

圭太は、蘭がびっくりするくらいの強い調子で否定した。

「蘭お姉ちゃんはすごく綺麗ですっ。汚れてなんかいない。だって……」

そこで圭太は少し顔を伏せた。

「か、勝村さんたちにされたあんなことは……お姉ちゃんがしたくてしたことじゃ
ないじゃないですか」
「……」
「あんな無理矢理に……ひどいです。だからそんなの関係ない。蘭お姉ちゃんは綺麗
です。ぼ、僕、大好きです!」
「圭太くん……」

蘭は何とも言えない潤んだ瞳で少年を見つめていた。
圭太も見つめ返していたが、また視線を外した。

「でも……」
「でも?」
「でも、僕も……蘭お姉ちゃんにひどいことをしちゃった……」

拓馬に脅されて蘭を犯したことを言っているのだろう。
確かにあの時の圭太は、裸の蘭を、犯されている蘭を見て興奮し、勃起していたの
だから、言い訳はできない。
挙げ句、脅迫されてとはいえ、無抵抗の少女──それも大好きな蘭を凌辱してしまっ
たのだ。

自分の方こそ、蘭を好きでいる資格などないと少年は思っていた。
結果として、圭太も拓馬たちと同じなのだ。
違うのは、拓馬たちはさらに蘭を弄ぼうとしていたのに対し、圭太は後悔している
という点だ。
後悔というより、ひどく傷ついているように蘭には見えた。
あの事件は、少年の心にも癒しがたいトラウマとなっているはずだ。
蘭は、自分がいちばんの被害者であるのに、圭太に対して申し訳ないような気持ち
にすらなっていた。
何とか彼を慰められないか、立ち直らせることは出来ないか、それを考えていた。

「圭太くん、もう一回聞いていい?」
「なにを……ですか」
「……それでも」
「?」
「それでも圭太くん、あたしが好き……?」

恋人もいる。
処女ではなく、男性経験もある。
さっきまで、犯されて喘いでいる姿をいやというほどに見られた。
そんな女でも好きなのか、という意味だ。
圭太は蘭を見据え、きっぱりと答えた。

「好きです。大好き」
「……」
「だって蘭お姉ちゃん、綺麗だし、優しいし……。それに、そんなこと、全然関係
ないです」

「そんなこと」とは、蘭の男経験や思い人、そしてさきほど犯されて絶頂してしま
ったことなど、すべてを含んでいる。

「そんなの関係ない。蘭お姉ちゃんとは関係ないです。そんなの、人間的な魅力とは
関係ないじゃないですか!」
「……」

小学生とは思えぬ言い回しで言葉を返され、蘭は少し圧倒された。
知っている限りの言葉を駆使し、どうやって蘭への思いを告げようか、そしてどう
やって蘭を傷つけまいとしているのか、それが痛いほどに伝わってくる。
蘭は、自分の心の片隅にあったもやもやがすっと晴れていくのを感じていた。

(この子……本当にあたしのことが……)

少女の頬に涙が伝う。

「ど、どうしたの!?」

今度は圭太が焦った。
やはり何歳であっても、女性の涙というものは男性を動揺させるものらしい。
蘭は人差し指で美しい水玉を目から払うと、にっこりと微笑んだ。

「……何でもない。嬉しかったの」
「蘭お姉ちゃん……」
「圭太くん、こっちに来て」
「?」

合い向かいで座っていた少年を、蘭は呼び寄せた。
訳もわからず、圭太は蘭の隣に腰を下ろした。

「……目、閉じてくれる?」
「な、なに?」
「いいから。目をつむって」
「……うん」

圭太が言われた通りに目をつむると、その唇にふわっと何か柔らかくて暖かいもの
が触れた。
びっくりして目を開けると、少女の美しい顔が目の前にあった。

「わっ……!」

少年は慌てて顔を離し、咄嗟に唇を拭ってしまう。
その慌てぶりが微笑ましいのか、蘭は優しい表情のまま聞いた。

「キス……初めてだった?」
「え、あ……その……」

あの暖かく柔らかい感触は、蘭の清純な唇だったらしい。
ようやく事態を覚り、少年は顔を真っ赤に上気した。

「ね、初めて?」
「あ、うん……」
「そう。ごめんね、圭太くんのファーストキス、お姉さんがもらっちゃった」
「そっ、そんなこと……」

謝られる筋合いなどどこにもなかった。
憧れの蘭にキスしてもらえるなど、想像もしたことがなかったのだ。
望外の幸運に、少年はどうしていいかわからなかった。
一方の蘭の方は、また別にことに気づいた。
そう言えば、新一ともまだしたことはなかったのだった。

(ごめんね、新一……。あたし、あなたが好きだけど……先に圭太くんにあげちゃ
った)

「圭太くんがあたしを好きなようにね……」
「……」
「お姉さんも圭太くんが好きだな」
「……!」
「でもね」

そこで蘭はまた顔を伏せ、囲炉裏の火を見つめた。

「さっきも言ったけど、お姉さん、好きな人がいるの」
「……」
「でも、圭太くんも大好き」

その言葉の後に何が続くのか、少年はゆっくりと蘭の方を見やった。

「だから……」
「……」
「だから、今夜だけ……」

(新一、本当にごめん……。今夜だけ……今夜だけ、許して……)

「今夜だけ、お姉さん、圭太くんの恋人になってあげる」
「……!!」

蘭はそのままくるりと背を向けた。
そして、小さな声で囁くように言った。

「服……脱いでくれるかな」
「……」
「あたしも……お姉さんも脱ぐ……から」
「はい……」

少年は立ち上がり、蘭に背を向けて着ている服を脱いでいく。
着慣れているはずのシャツなのに、どうしてもうまく腕が抜けない。
顎が引っかかって首が抜けない。
ようやく脱げたと思ったら、ズボンを脱いだ時、脚を引っかけて転んでしまう有様だ。
普通ではない精神状態がありありと散見される。
同じように靴下も苦労して両方脱ぎ、やっとのことで全裸になると、おずおずと振り
返った。
そこには、もうすっかり全裸になっていた蘭が立っていた。

「お、お姉ちゃん……、蘭お姉ちゃん……」

圭太にとっては、神々しいばかりの裸体だった。
真っ白い肌に囲炉裏の火が反射して光り輝いている。
さらさらした黒髪も艶々と光っていた。
ぱっちりとした大きな目、鼻梁の通った鼻、小振りの唇。
愛らしいとしか表現のしようがないその美貌。

視線を下ろすと、これもまた神の造形かと錯覚するかのような素晴らしい肢体が
目に入る。
少年の目は、見ただけでその柔らかさがわかるほどの胸と、そろそろ筋肉の上に
むっちりと脂が乗り始めた脚にいってしまう。
全体的には細身なのに、どうしてこんなにメリハリのついた女性らしい肢体なの
だろう。
少年の男根が、見る見るうちにそそり立っていく。

「あ、あんまり見ないで……」
「綺麗……綺麗なんだもん、蘭お姉ちゃん、女神さまみたいだ……」
「ありがとう……。でも、恥ずかしいわ、そんなにじっと見られたら」
「あの……お姉ちゃんの恋人に見られる時も恥ずかしかったの?」
「……」

まだ新一には、その素肌を晒したことはなかった。
彼に対する後ろめたさを感じ、少し胸の痛む蘭だった。

「……恥ずかしい……と思うよ。でもね、嬉しい気持ちもあるかな」
「……」
「肌や裸を見られるのって恥ずかしいわ。知らない人に見られるのより、しん……
好きな人や圭太くんに見られる方が恥ずかしい感じがする。でも……」
「でも?」
「……やっぱり嬉しい、かな」

蘭はそう言って圭太を抱きしめた。
そのまましばらく少年の体温を感じていたが、彼の肩に手を置いて屈んでいく。
また一度、軽くキスを交わしてから、そのまま両膝を着いた。
さらに少し屈んでもまだ届かないので、四つん這いになった。
すると、ようやくお目当てのものが蘭の目の前にやってきた。

「あっ……!」

圭太が驚いて声を上げた。
蘭の手が、少年のペニスに触れてきたのである。

「お、お姉ちゃん……」
「じっとしてて。痛くはしないから、お姉さんに任せて」

何をされるのかわからず不安だったが、健気にも少年は頷いた。
その様子を見て微笑んだ蘭は、右手で圭太のペニスを握った。
柔らかくすべすべした蘭の「甘手」の感触に、少年の陰茎はますます隆起していく。

「……圭太くん、すごいね。もうこんなにおっきくなってる……」
「……」
「うふ、やっぱり恥ずかしい?」

少年が素直に認めて頷くと、蘭はゆっくりとしごき始めた。

「熱いわ……。それにすっごく硬い。かちかちになってるね……。こんなに硬くなっ
て、痛くないの?」

そういう男性生理はわからないから圭太に聞いてみると、少年はやはり恥ずかしそう
に言った。

「う、うん……。僕、おちんちん立っちゃうといつもこうなんだ……。特に、その、
蘭お姉ちゃんのことを考えると、もう痛いくらいになっちゃって」
「あたしの……ことを?」
「うん……。お姉ちゃんの笑顔とか、手を繋いだ時に柔らかい手のひらだとかを思い
だすと、もう……。それに、僕、エッチだから、蘭お姉ちゃんの、その、む、胸とか、
首のところとか、脚とかを思い出すと、すぐにおちんちんが……」
「そう……なんだ……。あ、すごい、また大きくなったね」

握った蘭の右手の中で、また一回り大きくなったような感じがある。
蘭は少年のペニスをうっとりと見つめながら言った。

「大きくて男らしいわ……」
「で、でも、僕、それでいじめられるんだ」
「え? どうして?」
「ちんちんがでかいって言われて……デカチン、デカチンってからかわれるんだ……」

蘭は少し呆れた。
からかうネタ、いじめの種は何でもありなのだろう。
だが、そう言われてみると、蘭が小学生だった頃にも同じようなことがあった。
男の子の性器のことではなく、女の子の胸のことだった。
小5、小6といえば、そろそろ初潮を迎える子もいるだろう。
二次性徴期なのだ。
早熟な子たちは、そろそろ胸が膨らみ始め、蘭の友達でもそのことで悩んでいるら
しい子もいた。
男の子たちはそれを面白がって(女の子に対する興味もあっただろう)、胸の大きな
女子をよくからかっていたものだ。
中には、同じ女子なのにそれをからかう種にする子までいた。
それと同じようなものなのだろう。

早熟で胸が大きくなり始めた子たちから、徐々にブラを着けていったが、大きな胸が
恥ずかしいと言って、きつめのブラでサラシのように押さえつけていた子もいた。
今、考えれば、そんなことをすれば、将来のプロポーションを崩すことにもなりかね
ないわけだが、当時はそんな知識もなく、恥ずかしい一心でやったことなのだ。

「そんなことないわ。たくましくって立派よ。気にすることはないわ」
「蘭お姉ちゃん……」

少年を勇気づけるように蘭がそう言うと、またそのペニスがぐぐっと硬く、大きく
なっていく。
サオを握ってぐっと押し込み、半分皮をかむっていた亀頭をずるりと剥き出しに
させた。

「じゃあ……、するね」
「あ」

蘭は顔にかかった髪を指で払い、小さな唇が開けて圭太のものを口にふくんでいく。

「あ、うわ……!」

同じように蘭にくわえさせた健もそう思ったように、圭太もその咥内の熱さに驚いた。
圭太の肉棒自身、硬くなっただけでなく、自分でわかるほどに熱くなっていたのだが、
蘭の口の中はそれ以上だった。
だが、熱い感じはさらさらなく、とても優しく、そして暖かかった。
ぬめぬめした暖かい蘭の口腔内で、もう滾るだけ滾っていた圭太のペニスはさらに
充血し始め、膨張していった。
小学生にしては巨根の部類に入る圭太の持ち物は、小さい蘭の咥内いっぱいに大きく
なっていく。

「ん、んふ……んん……んっ……ん、ちゅぶっ……ぷあ」

蘭は大きくなったそれをいったん口から吐き出した。
そして陰毛が生えかけている根元の部分に細く繊細な指を絡めつつ、しごいていく。
強すぎず弱すぎず、絶妙の強弱でしごかれる圭太の肉棒がびくびくと震えだした。

「すごい……、どんどん大きくなるね……。あ、こんなにぴくぴくしてる……、
気持ちいいの?」
「う、うんっ、気持ちいい……蘭お姉ちゃんの口も手もすごく気持ちいいっ!」
「またお口でしてあげるね」
「あ、あ……」

ぱくりと圭太のものを口に入れると、鼻に掛かった甘い吐息を漏らしつつ、頬を赤ら
めながら蘭は少年へ奉仕を続けた。
時折すすり上げるのは、蘭自身の唾液ばかりでなく、圭太の出したカウパーもかなり
含まれるのだろう。
それを舐め取るようにして、蘭は亀頭の先に舌を這わせ、カリの首付近もねっとりと
舐め上げていく。

「んっ……気持ちいいのね……ピクッてなるわ……可愛い」

それまでの、蘭の受けた男のペニスの印象は、ほとんどすべてが醜悪であり、穢らわ
しく、また暴力的なほどに巨大で暴虐なものだった。
おかしくなりそうなくらいに犯され、精神的にダメージを受けて、性の深淵に沈み込
んだ時を除けば肯定的なイメージはほとんどなく、まして「可愛い」などと思った
ことは初めてであった。
圭太が自分に好意を持つ少年だったということが大きく影響していると思われた。

「らっ、蘭お姉ちゃんっ……!」

圭太はほぼ無意識に蘭の髪を両手で掴み、その頭を押さえ込んでいた。
あまりの心地よさに、それを継続させ、かつ、もっと良くなりたいと思ったらしい。

「んん……!」

突然に奥まで突かれ、思わず顔をしかめた蘭だったが、抗議することもなく我慢し、
圭太の快感を中断させることはなかった。
右手で肉棒を持ち、上手にその動きをコントロールしながら、根元を軽くしごきた
て、紅を差していない健康的な唇で大きなものをくわえている。

「んっ、んっ、んんっ……んふっ……んちゅ……ん、んん……む……むむう……
んんっ……」

次第に蘭のフェラに熱が入ってくる。
圭太の肉棒を頬張ったまま頭を前後に振りつつ、下を絡ませる。
亀頭を舐めながら顔を上下させ、それと同じリズムで指によってサオもしごいて
いる。

「あっ、あっ、蘭お姉ちゃんっ……!」

性に長けたおとなであれば、どうということはない、当たり前の性技であろうが、
フェラチオ初体験の圭太にとっては、天にも昇るような至上の快感だ。
圭太の快感に比例して、そのペニスもますます膨張していく。

「んっ……はんっ、はむう……ちゅっ、うんっ……んんっ……んくっ……」

蘭は圭太の表情を窺いながら、そのペニスに愛撫を加えていく。
今まで男たちから強制的に仕込まれた技巧を、惜しげもなく愛しい年下の男の子に
使っていった。
尖らせた舌先がカリを擦っていくと、その甘美な刺激に肉棒全体が震えだし、思わ
ず圭太は抱え込んだ蘭の頭をぐっと押さえつける。
掴んだ指に力が入るごとに、蘭の黒髪がくしゃりと鳴った。

「……気持ちいいのね、圭太くん。あっ……、エッチなおつゆがいっぱい出てきて
る……」

びくびくと震えるペニスから、我慢しきれないかのようにカウパーがこぷこぷと
零れてくる。

「あっ、ああっ……だめだよ、蘭お姉ちゃんっ……ぼっ、僕、もうっ……!」
「だめ。まだ我慢して」

蘭は少し意地悪そうな表情で少年を睨んだ。
だがその表情は優しく微笑んでいる。
そう言われれば、圭太も我慢せざるを得ない。
出したい、けど、堪えなきゃ、という思いが、少年の表情を必死なものにしている。

「ふふ、我慢してるのね、可愛い……。でも、さすが男の子。じゃあご褒美ね」
「あ、ふあっ……!」

カウパーと唾液を吸い上げるじゅるじゅるという淫靡な音までが、少年の性感を
刺激していく。
その間にも、蘭は頭を大きく前後に動かし、長いストロークで圭太の肉棒を愛撫し
続けていた。
舌でねぶり、頬を窄めてへこませ、唇を使って、総動員で少年のペニスをしごく。
もうびくびくと痙攣しっぱなしのペニスに舌を絡ませ、亀頭の先をこそぐように
して少年に悲鳴を上げさせた。

「だ、だめだよっ、お姉ちゃん、もう我慢できないっ……!」
「んんっ、ぷあ……出るの?」
「うっ、うんっ……!」
「そう。じゃあ……」
「ああっ」

そう言って蘭は再びくわえた。
見下ろせば、蘭が美しい美貌を盛んに揺すって、自分の性器を口にし、愛撫してくれ
ている。
その光景を見ているだけでも、圭太は限界に達した。
下っ腹に熱く籠もり溜まってくる射精欲を堪えるだけ堪えてきたものの、もうどう
しようもなくなったらしい。
圭太は、それまでの遠慮がちな動きがウソのように、蘭の顔を抱えて腰を突いて
いった。
いきなり喉の方を突かれたが、蘭はくぐもった悲鳴を押さえて、なおも圭太の分身
を優しく熱く愛していった。

「お姉ちゃんっ、蘭お姉ちゃんっ……!!」
「んっ!? んんんっ、んん〜〜〜っ!」

圭太の腰がぶるっと大きく震え、蘭の咥内にどどっと熱い精液を噴き出した。
亀頭を押さえていた舌を押し返すように、勢いよく放たれた精液は蘭の口中に広が
っていく。

「んっ……んくっ……んんっ……ごくっ……んくっ……」

少年の精液が舌の上を滑って喉の奥へと流し込まれていく。
その熱さとあまりの濃さに、蘭は思わずむせ返ったが、咳き込むのを我慢してその
まま飲み下していった。
凌辱された時と異なり、ちっとも汚いとは思わなかった。

「んっ、んっ……んくっ……んく……くっ……、ぷあ……」

間歇泉のように噴き出していた精液がようやくひと心地つくと、蘭は唇から圭太の
ペニスを吐き出した。

「んんっ……すごいいっぱい出たね……」
「あ……う、うん……。何か、腰とか脚とか痺れてる……」
「気持ち良かったんだね。んっ、でも本当に濃いわ……飲み込むのが大変なくらい」

蘭はそう言って唇を拭った。
その手の甲には、べっとりと圭太の精液がなすりつけられている。
喉の奥には、まだ圭太の出した白濁液がこびりついていた。
喉を何度も動かし、蘭はそれを苦労して飲み込んだ。
圭太は「はあはあ」と持久走を終えたように喘いでいたが、精液を飲み下す蘭の
妖艶極まりない姿を見て、また発情してくる。
萎えかかっていたペニスは、また少し硬度を取り戻してきた。

「蘭お姉ちゃん……」
「なに?」
「お、お姉ちゃんの……おっぱい……」
「?」
「おっぱいに……触りたい……」

男はおとなでも女性の乳房は好きだろうが、まだ圭太くらいの年齢では「おっぱい
星人」というよりは、母性的なものを感じる方が強いかも知れない。
無論、性的なものもあっただろうが、少年の目に思いの外淫らなものがなかった
せいか、蘭はそれを許した。

「……いいわ。でも、優しくね」
「うん」
「あっ」

こわごわと伸ばしてきた圭太の手が、ちょんと蘭の乳房に触れ、その柔らかさに
驚いたようにまた引っ込んだ。
そう言えば、圭太が蘭を犯すよう仕向けられた時も、彼は欲情してはいたが困惑の
度合いも高く、ただひたすら蘭の媚肉を貪ったのみで、乳房には触れていなかった。
そんな時、美しい形状の蘭のバストをナマで見せられれば、誰でも触りたくはなる
だろう。
圭太は、蘭に拒絶されるのが怖いのか、恐る恐る手を出しては、そっと触って引っ
込めることを繰り返していた。
蘭はその手を握ると、ぐっと自分の胸に押し当ててやった。

「……いいのよ、遠慮しなくて」
「あ、でも……」
「言ったでしょ? 今夜は……今夜だけは、お姉さん、圭太くんの恋人なんだから。
好きにしていいの」

圭太は安心したように頷いて、喉をごくっと鳴らしてからまた触れてきた。
伸びた右手は蘭の左乳房に触り、擦ってくる。美しい形を確かめるかのように、外周
をそっと撫でていく。
まだおっかなびっくりなのだが、その触り方加減が実に微妙で、蘭にも快感を与えて
いた。
少年が、蘭を感じさせようと意識しているわけではなかったのが、また背徳的な性的
な興奮をもたらしている。

「ああ……」

蘭が少し胸を反らせて小さく喘ぎ出すと、その声に煽られたのか、少年は両腕を突き
出し、彼女の乳房をぎゅっと握った。
そして大胆な動きで、その柔らかい肉球を揉み始めた。

「あ……ああ……そう……そんな感じよ……うんっ……」
「ら、蘭お姉ちゃんも気持ちいい? 気持ちいいの?」
「うん……。いいわ、気持ちいい。圭太くんに触ってもらってるから、お姉さんも
気持ちいいの。あっ……、そう、もっと強くしても……いいわ……んんっ……」

少し恥ずかしかったが、蘭は正直に申告した。
それを聞くと、少年は少し嬉しそうに蘭の胸を愛撫していく。
撫でるように擦った後は、次第に力を入れて揉みしだいていく。
単調であり、蘭の性感を誘おうとするものではない。
乳首にもあまり触れてこないし、舌で舐め上げることもなかった。
愛撫といってもぎこちないものだ。
しかし、彼の気持ちだけは充分に伝わり、蘭は次第に昂ぶっていく。
知識がないだけに、時々、思いも寄らぬ性感帯に指が触れ、蘭が思わずくっと顎を
仰け反らせることもあった。
蘭の吐息が熱く、そして甘くなり、「んんっ」と呻いて身悶えたりしてくると、蘭が
感じていることを実感し、圭太の方もだんだんと興奮の度合いが高まっていく。
蘭がそれを見抜き、喘ぐ声で指摘した。

「ああ……。け、圭太くんの、またおっきくなってるわ……」
「うん……。何だかまたおちんちんが硬くなってきた……」
「ああ、すごい……、今、出したばっかりなのに、もうこんな……」



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