「そっか。美和子もとうとう、か」
「とうとう来ちゃった、って感じね」
「そうじゃないわよ、やっとかってとこでしょ」

そう言って熊耳武緒は笑った。
ひさびさの再会である。
ふたりは同い年の同期生であり、警察学校でも机を並べた仲だ。
性格的にも似通っていて馬が合い、配属が決まるまでの間はプライベートでもよく一緒に出かけたものだった。

美和子は桜田門の警視庁本庁舎、武緒の方は埋立地勤務である。
その上、美和子は捜査課で武緒は警備部特車二課であり、仕事上でも接点はない。
九条検事誘拐事件に絡む、少年少女による連続誘拐殺人事件で顔を合わせて以来なのだ。
互いに忙しいこともあって、こうして示し合わせねば滅多に会うこともなかった。
今日は美和子の壮行会ということにして、小さなビストロで食事を共にしている。
美和子がワイングラスを掲げ、半分ほど残っていた赤いワインを一息で飲み干した。

「武緒も香港だっけ」
「ええ……、そうね。もう5年……もっとかな、昔の話だけど」

武緒は美和子のグラスにワインを注ぎながらそう言った。
心なしか表情が曇り、少し顔を背けている。
香港時代、武緒に色々あったらしいことは美和子も聞いていたし、警察内でその件に関する噂もたくさんあった。
その話は聞かないようにしていたので武緒には電話で連絡するだけにしようかとも思ったのだが、武緒の方から会って話をしたいと言ってきたのである。
そうであれば聞きたいことはたくさんあった。
武緒も自分のワインを少しだけ口に含んだ。

「美和子も将来の幹部候補ってことね」
「そんなの関係ないでしょ」
「あるわよ。海外研修なんて誰でも選ばれるわけじゃないんだから」

そう言って武緒は微笑んだ。
幹部とはいえキャリアではないのだから高が知れているが、それでも女性初の捜査班班長くらいは有望だろう。

「青年警察官海外研修は普通、アメリカとかカナダなんかが多いんだけどね」
「ふうん」
「香港とかは中堅幹部職員海外研修先に多いのよね。あとはシンガポールとかオーストラリアとか」
「そっちはアジアとか太平洋諸国なのね」
「そうみたいね、理由は知らないけど」
「具体的には何をするの?」
「色々よ。文字通りの研修で座学もあるけど、けっこうあちこちに見学とかにも行くわよ。その一環で地元警察の捜査に参加することもあるわ」
「え、逮捕権とか……」
「ないけどね。だからまあ見学半分。見習い扱いだと思えばいいわ」

上司の目暮警部は「休暇気分で」と言ってくれたが、どうもそうもいかないらしい。
目の前の友人の話によると、スケジュールはけっこうタイトで短期間にあれこれ経験させられるらしい。
当然、それらのレポート提出もある。
とはいえ日本人と違って時間的にはルーズな面も多いから、息抜きしようと思えば出来ないこともないようだ。
美和子は少し不安そうに言った。

「でもなあ……、私、あんまり英語喋れないわよ」
「だからじゃないの。これって語学研修の意味合いもあるんだから。みっちりしごかれてらっしゃい」

武緒は悪戯っぽく笑った。
もしかすると香港が行き先になったのは、英語だけでなく中国語をマスターするようにという意味もあるかも知れない。
日本国内でも中国人が増え、彼らに絡む犯罪も増加してきた今、現場の捜査員にも語学力が必要だと判断した可能性もある。
確かに、外国人の容疑者や被害者から事情聴取するにも通訳を挟んでのことだから、美和子たち刑事たちもまどろっこしさを感じることは多々あったのだ。
有能な捜査員でリーダーシップもある美和子に将来のリーダーを期待し、部長や課長と相談した上で彼女を派遣することにしたに違いなかった。

「なんか憂鬱になってきた」
「そんなに重く考えることないって、美和子。短い研修期間で向こうの警察を研修して、その上に英語と中国語……ったって北京語に広東語もあるんだから、それを完全にマスターしろ、なんて上も期待してないわよ」
「そうよね」
「当たり前でしょ、いくら頭が良くたって無理無理そんなの」
「でもさ、あっちは英語か北京語でしょう? 現地の人とコミュニケーション取れるかしら?」
「ああ、その点は大丈夫だと思うわよ。もちろん現地警察の人でしょうけど日本語できる人が通訳してくれるから。それに、多分向こうにも日本の警察官が他にもいるはずよ」
「え、そうなの?」
「そりゃそうよ。出向してる人が警視庁でもいるんじゃないかなあ、知らないけど。少なくとも察庁の現地派遣官はいるはずだから」
「でも警察庁の人じゃね……。官僚じゃないの? どうせ偉い人でしょうから、気軽にってわけにはいかないわ」
「まあね。まあキャリアの若手が行ってる可能性もないではないけど、普通はそれなりのお方が在任してるんでしょう。でも普通に日本語が話せる相手がいるだけでも違うわよ」
「そうね……」
「美和子みたいな若い美人が来たら大喜びなんじゃない? きっと「食事でも」なんてしょっちゅう誘われるわよ。ステキなナイスミドルに誘惑されないようにね」
「もう」

美和子は苦笑して軽く顔を振った。
こうした仕草からは、とても男顔負けの敏腕刑事とは思えない。
武緒は、テーブルに肘を突いた両手で顎を支えながら、そんな女らしい友人の仕草を見つめている。

「さっきも言ったけど仕事は仕事で真面目にやって……って、生真面目なあなたには言うまでもないでしょうけど、あとはプライベートも楽しめばいいのよ。その辺は私も適当にやってたし」

そこでのアバンチュールで武緒が問題を起こしたわけだが、あまり深くは突っ込めない話である。
だが、武緒もそれなりに吹っ切れたのか、美和子が聞く前にそういう話をするようになってきていた。
それでもやはり聞きにくく、美和子は話題を変えた。

「そう言えば武緒は昇進したんでしょ? もう小隊長?」
「え? ああ、まだよ。それに私、そうなったら転勤らしいから……」
「そうなの?」

香港での不祥事が響いて、警察学校時代の成績及び勤務成績も優秀ながら昇進が見送られていた武緒だったが、ようやく警部補になったのはついこのあいだのことだ。
現第一小隊の南雲しのぶ警部補も、武緒と同じく過去のスキャンダルで苦しめられて昇進が遅れていたが、このたび警部に昇進したそうで、二課長に就任するのは既定路線らしい。
前職の第一小隊長が空席になるため、美和子はそこに武緒が滑り込むと思っていたのだが、第一小隊でも昇格者が出るようで、彼が小隊長のポストに収まるのだそうだ。

「じゃあ武緒は……」
「まだはっきりしないんだけど、多分、神奈川県警か愛知県警の特車隊になるみたい……」
「そこで隊長やるんだ……。でも東京から離れるの? 警視庁なのに……」
「これも後藤隊長の推測だけど、恐らく出向の形になるそうよ。二年か、三年か……。で、呼び戻されて……」
「へえ。そういうケースっていったん警視庁を辞職してそっちで採用されるって形になることが多いわよね。一応、武緒の経歴に傷がつかないように気は遣ってるのね」
「うん、後藤隊長だけでなく福島課長も色々とね。隊長、その頃には俺もいなくなってるかも知れないから第一小隊へ戻ってこいやって言ってたけど」
「そうか……、そうなったら本当にしばらく会えなくなるのね……」

美和子が感慨深げにそう言うと、武緒は呆れたように返した。

「何言ってるのよ、同じ日本国内なのよ。会おうと思えばすぐに会えるじゃない。大体、同じ東京にいたって、お互い忙しくて滅多に会えなかったんだから同じことよ」
「それもそうか」
「そうよ、あなただって香港に行ってホームシックに罹ったら一時帰国すればいいのよ。その気になれば一泊二日でも大丈夫でしょ」
「そうだけどね。でも長期と言っても二ヶ月の研修なんだから、あんまり時間ないでしょ。そうちょくちょく帰れるようなスケジュールとも思えない」
「そうね……。私は……、どうだったかな。一回は帰国したけどとんぼ返りだったような気もする……」
「そんなもんでしょ。それくらいなら無理に帰国しなくてもいいわよ。別に永住するわけでもなし」
「でも、しばらく向こうにいると友達や恋人の顔や声が恋しくなってくるわよ。あ、そう言えば……」

武緒が思いついたように言った。

「友達って言えば交通課のあの子……、美和子と仲良かった……」
「あ、由美?」

美和子の悪友である宮本由美婦警のことだろう。

「そうそう。彼女、もう復帰したんですって?」
「うん。もう一ヶ月になるかなあ」

パレット崩壊のきっかけを作った日本でのパレット事件の際、美和子や蘭とともに組織に囚われ、救出後は長期間入院していたのだ。
美和子は何とか立ち直ったものの、蘭と同様に由美は精神的に激しいダメージを受け、半ば廃人のようになってしまっていたのだが、医師らの懸命な治療とカウンセリング、美和子ら友人たちの励ましもあって徐々に回復し、職場復帰を果たしたのは先日のことだった。
蘭は、幸か不幸かショックによる一時的な記憶喪失状態となったので日常への復帰も早かったが、由美はなまじまともだっただけに心身ともに癒しがたい状態になっていたのだった。
それだけに、回復してもそのまま辞職という話もあったのだが、本人の強い希望で交通課へ戻ってきている。

「で、どうなの? 大丈夫そう?」

武緒は由美とは交流はなく、あまりよく知らないのだが、美和子の友人として、同じ女性としてずっと気の毒に思っていた。
美和子は優しく微笑んだ。

「何とかね。確かに大変な経験だったけど、いつまでも引き摺っていたら仕事どころか生活も出来ないから」
「そうね……」
「捜査課ならともかく、由美は交通課だから仕事中に思い出してイヤな思いをすることはあまりないと思うけど」

それでも何かをきっかけにフラッシュバックする可能性はある。
交通課の課長も、あまり無理はさせず、様子がおかしければすぐに休ませようと考えてはいるようだ。

「表向きはもうほとんど以前通りね。普通に軽口叩いてくるし、私なんかいっつもおちょくられてるもん」
「あの子がおちょくってくるなら恋愛関係よね、きっと」
「そ。もう会えばその話ばっかで困るわよ。他人のことで喜んでないで、あなたもさっさと自分の相手を……、あ、もうこんな時間」

美和子は腕時計を見やってそうつぶやいた。
それを見て武緒は残ったワインを干す。

「ああ、そうか。これからデートなんだ」
「え……、そ、そんなんじゃないわよ」
「ふぅぅ〜〜ん、図星かあ」
「だから……」
「あなた、昔っからウソつくのヘタよねえ。もう顔が真っ赤よ」
「これは、その、ワインのせいで……」
「はいはい、そうしておいてあげる」

武緒はそう言ってクスクス笑っている。

「ふふ、ホームシックよりも彼氏が寂しがるでしょうから、けっこう頻繁に帰って来なくちゃならないかもね」
「……しつこいわよ、武緒!」

美和子はバッグを手にすると、頬を染めたまま立ち上がった。
伝票を掴んだが、その手を武緒が押さえた。

「今日はいいわよ、あなたの壮行会なんだから。その代わり、今度その彼氏、私にも紹介しなさいよ」
「わかったってば……。じゃあ、ごちそうさま」
「うん、向こう行っても電話くらいしなさいよ」
「わかった。じゃね」

美和子は軽く手を振り、恥ずかしそうに微笑みながら歩み去った。

─────────────────────

美和子が成田から飛び立った頃、彼女が警戒していた精神科医へ電話が入った。
シャワーを浴びたばかりのレスリーは、まだ濡れている髪をいじりながら応対した。

「あなたですか、ひさしぶりですね。
 ……ええ、大丈夫です。
 そちらはいかがです?
 ほう、今日ですか、それはそれは……。
 大丈夫、きっとうまくいきます。
 ええ、その点はご心配なく。
 彼女がいくら気丈でも本能には逆らえませんからね。
 そうなるように仕込んでおきましたし、もう投薬もしてませんから我慢できなくなるのは時間の問題です。
 え?
 いや、平気ですよ、そんな危なっかしい薬なんか使っちゃいません。
 違法な薬ではありませんよ。
 もっとも、まだ日本では認可されてませんけどね、ふふ……。
 ええ、そうです。
 あとはあなた次第ですよ、うまくやってください。
 は?
 ええ、大丈夫なはずですよ。
 あなただってあの薬を使ってるんでしょう?
 効果は……、そうでしょう、そうでしょう。
 もう人体実験も済んでるんですから効かないはずはありません。
 目に見える変化も出てますでしょう?
 副作用ですか?
 うーん、まったくないとは言い切れませんが、それはどんな薬だって同じですよ。
 あなただってそれを承知で同意したんですから。
 まあ、そんなに心配することはありませんよ。
 大体、それは僕だって使ってるんですしね。
 ええ、そうです、自信を持ってください。
 きっと彼女は堕ちますよ。
 少なくとも肉体的にはね。
 そうしたら、もうあの女はあなたのものです。
 いやいや、礼には及びませんよ。
 それにお礼を言うなら僕ではなく「あの方」に……。
 それと「例の件」お忘れなく。
 こうなった以上、僕たちは一蓮托生です。
 危険な橋を渡るのは覚悟の上でしょう?
 ……そうですとも。
 ええ、わかってます。
 その時は微力ながら僕も協力しますよ、ええ。それじゃ」

レスリーは通話を切ると、しばらく空を見上げてから、今度はおもむろに蘭の携帯へ電話を入れた。

─────────────────────

武緒と食事をしてからのデートだったから、美和子と高木はショット・バーで軽く飲んだだけでホテルへ行った。
そうしたくなった場合、普段は高木の方からそれとなく誘い、美和子がOKすればホテルへ行くことが多かった。
同僚ではあるが、年上であり先輩であり、しかも階級が上の美和子に対して、高木はまだ少し遠慮がある。
しかも惚れていたのは自分の方で、美和子は高木に対して同情──と言って悪ければ「放っておけない」という母性的な面でつき合ったのではないかと気兼ねしているのだ。

美和子の方はそんなことはまったく気にしておらず、恋人同士なのだから対等であると考えていた。
確かに、時に優柔不断でだらしなくすら思えることもあったが、それも含めて高木に対して愛情を感じ始めていたからだ。
だから必要以上に気を遣われても息苦しいだけなのだが、そこが高木の優しさでもあり長所でもあるのだ。
美和子はそう理解し、彼のそうした面も含めて受け入れることにした。

高木は高木で、美和子がそういうところを不満に思っていることはわかっているから、なるべく主導権を執るように努力はしていた。
デートの誘いや、女性からは言い出しにくいであろうセックスについても、出来るだけ自分から切り出すようにしている。
もちろん直接的なことはいかに男性でも言いにくいから「休んでいきましょうか」とか「まだ時間ありますか?」「今日は泊まれますか?」などと言い方を考えて口にした。

希に美和子の方から誘うこともあったが、その場合はふたりで歩いている時に高木の肩に頭を預けたり、腕を抱いたりする。
要するに少し甘えた仕草をするのだ。
普段はそんなことをする女ではないので、いかに鈍い高木刑事とはいえ、さすがに美和子の言いたいことはわかった。

まるで初恋同士のような、微笑ましいと言えば微笑ましい、まどろっこしいと言えばまどろっこしい関係ではあったが、美和子はそんな間柄を居心地良く思っている。
いずれこの青年も、美和子が頼りたくなるような男性になってくれるだろうという期待もあった。
そしてこの日は、美和子の方からホテルに誘った。

広めのベッドの上で、美和子は全裸を晒している。
薄暗いが、オレンジ色の照明が女体から一層に妖艶さを引き出していた。
最初の頃は高木にあまりに見られるのが恥ずかしく、灯りを消すよう頼んだものだが、高木は受け入れてくれなかった。
せっかくの綺麗な身体なのだから、隠さずに見せて欲しいというのだった。
それを聞いて美和子は顔を真っ赤にしたが、好きな男に褒められているのだから嬉しくもあった。
それに、気遣いの出来る高木がそこまで言うのだから、ということもあって、最近は明度を落とせば灯りをつけることを認めていた。

加えて、男にじっくりと身体や肌を観察されていると、まだ見られているだけだというのに子宮がキュンと痺れだし、ややもすると濡れてくることもあった。
恥ずかしかったが、前戯の一環としてこういうのもいいだろうと思うようになっていたのだった。

「……」

高木は、仰向けに寝そべっている美しい恋人の裸身を見つめて息を飲んでいる。
何度見ても飽きない素晴らしい肉体だった。
些か気が強そうではあるが、大きな目とすっきりと通った鼻梁、それでいて口元は小さめで清楚だ。
はっきりとした顔立ちの美人である。
オレンジの光に染まっているが、肌は白くしなやかだった。
さすがに28歳ともなると艶やかな若い肌とはいかないが、その分しっとりとして指に吸い付くような柔らかさを持っている。
形良く膨らんだ乳房へ手を伸ばし、ぎゅっと握りしめる。

「んっ……!」

細い顎を反らせて美和子が仰け反った。
高木は慌てて手を引く。

「す、すいません、痛かったですか?」
「……そんなことないから。もっと自信を持っていいの。そんなおっかなびっくりじゃ、私の方が気を遣っちゃうわ」
「はい……」
「もし痛いくらい強かったから、ちゃんと言うから」

美和子はそう言いながら彼の手を掴み、再び自分の乳房へと導く。
やわやわと高木の手が丸い肉塊を愛撫し始めた。
両手を使い、左右の乳房をマッサージするように揉み込んでいく。

「んん……あ、いいわ……そ、そう、そんな感じ……ああ……」

もっと強くしていい、と言いかけて美和子は言葉を飲み込む。
乱暴にされたいような、優しく愛して欲しいような、複雑な感情が渦巻いている。
過去に美和子を凌辱し調教してきた男たちによって、その身体は激しいセックスに馴染んでしまっている。
多少強引に、犯されるようなセックスの方が感じるようになっていた。
それを見て男たちは「おまえはマゾっ気があるんだ」と言って嘲笑したものだった。

そんなことはないと思いたかった。
だからこそ高木との行為では、甘く優しいセックスを望んでいた。
高木は乱暴に犯すようなことは出来ないだろうし、そんな行為に慣れてしまう自分が怖かったのだ。
こうして高木に抱かれている時だけは、そんな自分の醜い過去を忘れることが出来た。
思い出さないためにも、高木とのプレイに馴染むためにも、慈しみ合うようなセックスがしたかった。

「んっ……ああ……いい……」

高木は憑かれたように美和子の胸を愛撫していく。
彼女の反応がまた、男の欲望に火を付けているのだ。
手のひらで優しく揉み込んでいくと、感じやすい乳首はたちまち堅くしこってくる。
美和子の口から、ためらいや羞恥の混じった喘ぎ声が漏れ出る。

「もう乳首がこんなに……。綺麗ですよ、佐藤さん」
「そ、そんなこと言わないで、は、恥ずかしい……あっ……」

高木の口が胸に近づき、乳首を吸い上げると、美和子は軽く悲鳴を上げた。
鋭い快感に耐えきれず、大きく身体をうねらせる。

「や……、む、胸ばっかり……んあっ……」

その言葉を聞くと、男の片手が乳房から離れ、女の白い肌を撫で擦っていく。
左手は相変わらず胸を揉みつつ、右手は滑るように美和子の裸身をなぞっていた。
お腹やヘソを撫でられて、そのくすぐったさとむず痒さに悩ましく呻いていると、高木の手が股間に潜り込んでくる。

「やっ……!」

咄嗟に美和子はその腕を抑えたものの、すぐに解放した。
彼にそうされるのがイヤなのではなく、突然で驚いたのだ。
高木もそれを察したらしく、美和子の手から力が抜けると、そのまま秘園に手をやった。

「んんっ!」

高木の指が媚肉の割れ目に触れてきた。
もうそこだけでなく陰毛まで濡れていることを知り、高木の息が荒くなっていく。
美和子の方は、もう濡れてきていることが恥ずかしく、頬を染めて顔を背けていた。
指先がそっと潜り込んでくると、美和子の肉感的な脚がピクッと引き攣る。
恋人の指先が淫らに動いて狭い穴をほじり、小さな肉の突起をまさぐり、そこを集中的に責めてきた。

「くっ! ……ああっ……」
「さ、佐藤さん……、もっと声を出して」
「だ、だって恥ずかし……ああっ!」
「佐藤さんのその声が聞きたいんです。ほら」
「んあっ……や、いい……そこ……いいっ!」

高木の指が蠢くたびに子宮が疼き、官能が燃え立っていく。

(いやっ……、どんどん濡れていく……。恥ずかしいのに……)

なおも指は美和子を求め、肉穴の潜り込んで襞をかき分けるように奥へ入っていった。
思わず脚をすくめたが、腿は彼の手を優しく挟んだだけで止めるにはいたらない。
内部で指を曲げられて中を擦られると、堪えきれない声が口から溢れ出す。

「あ、あっ……くっ、そこ……やっ、そんなの……いっ……」
「気持ち良いんですね?」
「くうっ」

美和子はカクカクと小さく頷き、なおも喘いでいる。
乱れ始めた美和子の美しさに魅了され、高木の肉茎も痛いほどの勃起してきた。
美和子の股間に顔を埋めて、口と舌で責めてみたくなる。
指でこれなら舌で舐めたらどんな反応をしてくれるだろうか。
そう思うと矢も盾もたまらなかったが、もう自分が我慢できそうになかった。

「あ!」

高木は美和子の両脚を抱え込むようにして、股間に身体を入れた。
もうカウパーでぬるぬるしていたペニスにコンドームを被せる。

「……」

美和子はそれをぼんやりした目で見つめている。
もっと愛して欲しい、前戯を続けて欲しいと思っている。
今まで美和子を穢してきた連中はしつこく愛撫をしてくる男ばかりだった。
美和子はそれだけで何度もいかされ「もう充分」と哀願しても、面白がるように気をやらせ、くたくたになってから貫かれたものだった。
そうしたねちっこいセックスに肉体が順応してしまっていた。
「もっと欲しい」と思う欲望を美和子は何とか飲み込んだ。

コンドームについても複雑な感情を持っている。
犯してきた男どもは、嫌がる美和子を見て喜びながら平気で膣内射精を繰り返した。
胎内まで穢される屈辱と妊娠の恐怖に脅えながら、美和子は何度も絶頂を極めた。
そして子宮に精液を吐き出される感覚を覚えてしまい、それに強い快感すら感じるようになってしまっている。

とはいえ、高木にそれをねだるわけにもいかなかった。
生真面目な彼は美和子の身体を気遣って、結婚するまでは避妊してくれるだろう。
その優しい気持ちは嬉しかったし有り難かったが、どことなく不完全燃焼な思いをすることも多かった。
彼の思いと自分の気持ちからすればそれで正解なのだ。
しかし美和子の肉体だけが、それに異を唱えている。
高木の思いやりと美和子の欲望がすれ違い、ふたりのセックスに微妙な影響を与えていた。

「よ……し」

高木はコンドームを装着すると、二三度ペニスをしごいた。
サイズは並だがビクビクと痙攣しており、硬そうにそそり立っているのがわかる。

「いきますよ」
「ん……」

高木がそこにあてがう前に、すでに美和子の花びらは開きかけていた。
ゴクリとツバを飲み込んでから、高木はおもむろに挿入していく。
亀頭がずずっと膣口へ潜り込む感覚に美和子がのけぞる。

「んくっ……ああっ!」

カリが膣口付近の粘膜を擦り、ずぶずぶと膣内へ入っていく。
硬くなったサオの部分が思い切り襞を擦りつけてくるのがたまらない。

「く……」

高木は少し顔をしかめつつ、美和子に肉棒をねじ込んでいく。
平均サイズのペニスとはいえ、美和子のそこは狭くてきつい。
まるで男を拒むかのようなきつさだが、それとは裏腹に内部から蜜が溢れてきている。
その潤滑油の助けを借りて、なおも高木が腰を押しやっていく。

「んっ……ああ……」

根元まで埋め込むと、高木はその快感で思わずぶるっと震えた。
美和子もお腹のあたりをぴくぴくさせて喘いでいる。
高木はそのまま動かずにいた。
膣襞の感触をじっくり味わうためだが、そうでなくともヘタに動けば思わず出してしまいそうな快感だったのだ。

美和子のそこを刺し貫いている自分のものを見て、高木は改めて美和子は自分のものになってくれたのだと思った。
もう何度も身体を重ねているのに、その感激だけは新鮮なままだ。
ゆっくりと腰を動かし出すと、美和子は唇を半開きにして熱い吐息を出し始める。

「ああ……、いい……高木くん、いいわ……」

その声を耳にし、悩ましい表情を見ているだけで高木の興奮は何倍にも膨れあがり、ペニスがさらに硬く大きくなっていくのを感じる。
胸の豊かな膨らみが、突き込むたびにゆさっ、ゆさっと官能的に揺れ動いていた。
その動きに誘われるように、腕を伸ばしてまた乳房に触れた。

「んうっ……!」

とろけるように柔らかく、それでいてしっこりとした重たい乳房だった。
指を食い込ませると、美和子は「たまらない」とでも言うように顔を左右に振りたくる。
のけぞった白い首が美しかった。
その様子を見ているだけでたまらなくなり、高木は美和子の首に唇を当てる。

「んっ……あ……あう……」

ちゅうっと吸い上げて美和子を喘がせるが、あまり強く吸うと跡が残ってしまうので加減している。
出勤して同僚のそれを発見されたら、どんな顔をすればいいのかわからない。
舌先で白い首筋をちろちろと舐め上げていき、今度は薄紅の唇を吸った。

「んんっ……んむ……ちゅっ……んちゅうっ……」

美和子の手が高木の背に回り、しがみついた。
高木も美和子の頭を抱えるようにしてキスを続けていく。
美和子の美貌に眉間が寄り、腕に鳥肌が立ってきた。
強く感じているらしい。
彼女がキスに弱いのは、レイプした男たちが異口同音に指摘してきたことだった。
しかもつながったまま腰を打ち込まれつつ口を吸われているので、その快感もひとしおのようだ。
腰の動きはリズミカルだが、ほとんど密着している状態なので深度はあるが移動距離は少ない。

(も、もっと強くして……もっと中を擦って……!)

美和子は心の内でそう叫び、自分からも腰を動かし始める。
潰すように押しつけてくる高木の腰を押し返すように腰を持ち上げ、突き上げていく。
そうすることで膣内の摩擦はさらに強まり、また深さも増した。

高木は美和子の反応の良さに目を見張る。
つき合う前、そして身体を重ねる前には想像もつかないほどに彼女は感じやすく、反応は素晴らしかった。
最初のうちこそ、羞恥のせいか声も遠慮がちで快楽を我慢しているような感じだったが、慣れるに従って少しずつナマの反応を示してくれていた。
大声でよがり喘ぐところまではいかないが、美和子の性格を考えればこんなものだろうと高木は思っている。
男性の本能としては、美しい美和子が乱れ、はしたないほどの声で喘ぎ、快感を表す言葉を聞いてみたい。
もし高木が美和子の心の叫びを聞ければ感無量だったろう。

「ああ、いい……いいっ……た、高木くんっ、気持ち良いっ……はああっ」

美和子の腕が高木を強く抱きしめている。
腰同士がぶつかる音が響き、両者の股間は美和子の出した愛液でねちゃねちゃになっていたが、今の美和子はそれを恥ずかしいと思う気持ちすら消え失せていた。
愛する男のペニスが身体の芯をズンズンと突き込んでくる。
突き抜けそうな快感が美和子の胎内いっぱいに広がり、子宮を震わせた。
肉の悦びだけでなく、愛し合っている男に抱かれているという安堵感が肉体と精神の双方を満足させている。
高木は美和子の奥に挿入した肉棒がびくびくと震えだし、亀頭が膨れあがって膣内で圧迫されてきたのを実感していた。

「佐藤さんっ……くっ……気持ち良いですか?」
「うんっ……ああっ、いいっ」

美和子はコクンと頷くと、噛みしめた唇を解き放った大きくよがった。
官能の神経が剥き出しになってしまったかのような膣内は、高木の男性器を敏感に感じ取って襞を痙攣させている。
まるで精を絞り取ろうとするかのような妖しい膣の蠢きに、高木は堪えきれなくなった。

「くっ、だ、だめだ! さ、佐藤さん、僕、もうっ」
「あ、ま、待って……くっ、いいっ……も、もう少し……もう少しぃっ……!」

美和子は知らず知らずのうちにいくのを我慢していた。
そうすることで快楽を溜め、一気に解放することで強烈なエクスタシーが得られることを身体が覚えているのだ。
しかし高木ならずとも、普通の男は美和子の締めつけに我慢できるものではない。

「さっ、とうっ、さんっ……くうっ!」

今にもいきそうになっている美貌を目の当たりにして、若い恋人はたまらず射精した。
ゴム壁に遮られた精液がコンドーム内を逆流し、高木のペニスを覆っていく。
それでもまだ硬度は落ちていなかったので、高木は必死になって腰を使っていた。
美和子がまだらしいということはわかるのだ。

「い、いく……高木くんっ……ああっ!」

烈しく身体を揺さぶられ、美和子も達した。
ふたりはひしを強く抱きしめ合い、美和子の官能的な脚は高木の脚にからみついて離さない。

「うっ……ううっ……」
「ああ……」

高木は限界まで腰を使うと、そのまま美和子の裸身に覆い被さった。
美和子は高木を受け止め、オーガズムの余韻に浸っていた。
汗の浮いた首筋に高木が唇を這わせている。美和子は高木の顔を両手で挟むと自分の顔に導く。

「ん……んむ……ちゅっ……」

舌を優しく絡め合い、口を吸い合う。
ようやく満足したのか、美和子の腕がぱたりとシーツの上に落ちた。
それを合図に、高木は美和子の横に寝そべった。
美和子に気づかれないよう、そっとコンドームを外してティッシュに包み、屑籠に捨てる。
そしてそっと身を起こすと、じっと美和子の顔を見つめる。

「佐藤さん……、実はその……ちょっとお話したいことが……」
「なあに、改まって……」

美和子はまだ官能で少しぼんやりした表情のまま、気怠げに返事をした。
高木に抱かれて絶頂した心地よさは、まるで雲の上に乗っているかのようにふわふわした感じだ。

「その……、さ、佐藤さん、僕と……」
「……」

高木は美和子を見つめたまま、手を後ろに伸ばして手探りで何かを探している。
ナイトテーブルの隅っこに置いておいた指輪のケースを掴むと、高木は思いきったように口を開けた。

「僕と、け、けっこ……」
「待って」

美和子は官能から醒めたかのような、きっぱりとした声でそれを止めた。
そして、なけなしの勇気を振り絞った恋人に優しい笑みを向ける。

「その先はまだ待って」
「佐藤さん……」

途端に高木の顔に不安が走る。
もしかして拒絶されるのだろうか。
少し俯いた高木の顔を愛おしそうに手で触りながら美和子が言った。

「……少しだけ……少しだけ時間くれない?」
「……」

考えさせてくれ、というのだろう。
当然だなと高木は思っていた。
女にとっても一生の問題だし、そもそも自分は美和子とは分不相応ではないかと常々思っていたくらいだ。
身体の関係になっているとはいえ、思い切って踏み切れないのも無理はなかった。
高木はいつまでも待つつもりだった。
不器用な彼には美和子以外の女性は考えにくかった。
すると美和子から意外な答えが返ってきた。

「……気持ちは決まってるんだけど。まだちょっと……」
「早い……ですよね」
「そういうことじゃないの、ただ……」
「ただ?」
「……何でもない。そうね、私が香港から帰ってきたら……」
「……」
「その時にはちゃんとお受け……あ、返事するから……」

はっきりとは言っていないものの、そこかしこに「了承」のサインを出していることは、いかに鈍い高木でも理解できた。
彼の心を暖かいものが去来する。
手を伸ばし、軽く乳房に触れたり、汗ばんだ肌をさすって後戯をしながら話しかけた。

「佐藤さん……、明日っからですよね……」
「うん……」
「二ヶ月……長いですね」
「そんなことないわ、すぐよ」

少し寂しそうな表情を見せる若い恋人を見て、クスッと笑いながら美和子が言った。

「その間、遊んでるわけじゃないんだもの、私も高木くんも。事件、事件で追われてて、あれもう帰ってたんだってくらいになってるわよ、きっと」
「ええ……。でも一課も目暮警部も佐藤さんがいないと困るでしょう」
「こら。そんなことじゃ困るわよ。いない間は僕がしっかりやります、安心して行ってきてください、くらいじゃないとね」
「わかりますけど……」
「あ、そうそう」

美和子は突然に思い出したように言った。

「……高木くん、ちょっと」
「はい?」

美和子は高木に顔を寄せ、小声になる。
つられるように高木も顔を近づけていくが、考えてみればこの部屋にはふたりしかいないのだから意味がないようにも思う。
でも、内密の話をする時にはどうしてもこうなってしまうものなのだろう。

「何です?」
「ん……、蘭ちゃんのことなんだけど……」
「蘭ちゃん? 蘭ちゃんがどうかしましたか?」
「ええ……」

美和子はどこまで言っていいものか悩んでいる。
ありのままに全部話すべきかも知れないが、蘭のことを考えればなるべく話は広めたくない。
捜査に支障が出るようでは困るが、将来のある少女のことを思うと、いかに高木とはいえはっきりとは言えない。

「『ある事件』に関係がある、としかまだ言えないの」
「事件ですか? 警部たちは……」
「ああ、ごめん……。まだ事件にはなってない……かな」
「よくわかりませんね、どういうことです?」
「ごめんなさい、やっぱりまだはっきり言えないのよ……」
「はあ……」
「でも、これだけはお願い。蘭ちゃんの動向に注意して。高木くんも仕事があるし、蘭ちゃんは別に被疑者でも容疑者でもないんだから監視や尾行ってわけにも行かないんだけどね。でも……、気をつけて気に掛けていて欲しいの。そしてもし彼女に何かあったら……、いいえ、おかしな動向が垣間見えたら……」
「警部に……」

美和子は少し考えてからそっと言った。

「……まだそれは早いかも知れないわ。そうね、もし高木くんが「おかしい」と思うようなことがあったら、私に連絡して。その上で……まずいと思ったら私が目暮警部に連絡するから。そしたら高木くんが事情を説明してくれる?」

高木は首を捻っていたが、すぐに頷いた。

「……わかりました。事情はわかりませんが、そうします……。蘭ちゃんのためにも、あまり表沙汰には出来ないってことですね?」
「うん、そう……、はっきり言えなくてごめんなさい。でも、私がいない間は高木くんに頼るしかないから……」

高木は大きく頷いた。
美和子から頼りにされていると思うと、やはり嬉しいし昂揚もしてくる。
男としての自信も湧くというものだ。
そんな恋人を少しだけ頼もしそうに見上げながら、美和子はもうひとつ頼み事をした。

「それと辻本さんのこと、よろしく頼むわよ。あの子、実力はあるし一所懸命だけど空回りしちゃうところがあるから」

それまで美和子と組んでいた辻本夏実は、美和子不在の間は臨時で高木と組むよう指示が出ている。
他の独身刑事からは、美和子の件も含めて「何で高木ばっかり……」とぼやく声もあったが、目暮警部なりに考えてのことだった。
その美和子とつき合っているのが半ば公認となっている高木であれば「間違い」は起こさないだろうという配慮らしい。

「はい。でもあの子、佐藤さんを尊敬してたみたいだし、僕はまだあんまりよく知らないんですよ」
「平気よ、屈託のない子だからすぐに仲良くなれるから。それと……」

美和子は揉まれている乳房を気にしつつ、高木の額を指でツンと突いた。

「前から言ってるけど、その「佐藤さん」はそろそろやめて。名前で呼んでって言ってるでしょ、美和子って……」
「あ、でも年上ですし、周りの目もありますから……」
「職場じゃダメに決まってるわよ、曲がりなりにも私の方が階級上なんだから。そうじゃなくてプライベートで会ってる時とか……、その、こ、こういう時とか……」

それまで諭すように話していた美和子の頬が少し赤らむ。
年上だけど、こういうところは可愛いなと高木は思う。

「わかってますけど……、でも、まだ呼び捨てには……」
「なら名前で呼ぶ方から始めてよ」
「わかりました……。じゃあ、み、美和子、さん……で、いいですか?」
「ん。よろしい」

美和子は笑顔でそう言った直後、小さく呻いてピクリと顔を反らせた。
高木の指が、また硬くなりつつあった乳首に触れたのだ。
高木のものも射精後の半勃起状態から、また肉棒に芯が入り始めてくる。
素早く二枚目のコンドームを嵌めて美和子に迫る。

「美和子さん、もう一度……」
「え、ええ……」

燃え上がってきているのは高木だけではなかった。
美和子の声が少し上擦っている。
息も熱く、声が甘ったるい。
股間だけでなく美和子の全身から甘い女の香りが漂ってきていた。
高木が肩に手を掛けると、それを止めるように美和子が囁く。

「こ、今度は……私が……」

そう言うと、美和子はそっと高木の上に乗った。



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