ネオンを目指して歩いていたのは確かだが、ホテルの部屋まで辿り着くまでの記憶が定かでなかった。
フロントで料金を支払ったはずなのだが、よく憶えていなかった。
そして今、夏実をベッドの寝かせた状態で高木はぼんやりと立ちすくんでいた。

自分は何をしているのだという疑問と、ここまで来た以上、もう仕方がないという思いがせめぎ合っている。
どんな理由をつけたにせよ、男が女をホテルへ連れ込んだのだから言い訳は出来ない。
休ませようとしただけだ、などという言い分はその場凌ぎにもなるまい。
かつての高木であれば、本当に夏実を休ませ、寝かせるだけで終わったかも知れない。
そのことを彼の友人が知れば、呆れて笑うだろうが、いかにも高木らしいと評するだろう。

しかし今の彼は別だった。
美和子との一件もそうだが、どうにも性欲が抑えきれなくなってきている。
医師の薬は効果がないどころか、逆効果になっている気がした。

加えて、目の前で眠りこけているのは若い美女である。
しかも彼に好意を持っている。
もちろん恋愛感情ではないが、少なくとも同情はしており、好感は持っているらしい。
おかしな気分にならない方がどうかしている。

高木は息苦しそうに首のボタンを外し、、ネクタイを緩めた。
酔いのせいもあるだろうが、身体が熱い。
ジャケットを脱ぎ捨てるとネクタイも外してしまった。
見下ろせば、夏実が無防備に寝そべっている。

今日のファッションはカーキ色のジャケットとパンツの組み合わせだった。
美和子がスーツを愛用しているせいかも知れないが、夏実もそれに合わせて同じような服装をすることが多かった。
どちらかというと美和子はスカート、それもタイトが多かったので、夏実の方はパンツを履くようにしていた。
スカートの時もあるが、激しい動きをするにはやはりパンツの方がいい。

スーツの袖は七分で、綿のサテンストレッチを用いており、伸び縮みする服だった。
そのスーツを押し上げるように膨らんだ大きなバストが眩しかった。
胸が苦しくなるから、こういう素材の方が楽なのだろう。
Vラインは深く、胸元が大きく開いている。
そこには薄いネイビーの立て襟ブラウスを着込んでいた。
ふわふわのリボンタイを締めているのは、美和子にはない洒落っ気だ。

下半身はスカートではなくパンツだったが、脚にぴったりと貼り付いていて綺麗なラインがはっきりとわかる。
ある意味、スカートで脚が見えるよりも扇情的である。
パンツはブーツカットではなくレギンスの七分丈で、艶めかしいふくらはぎが半分ほど露出していた。
きゅっと引き締まった足首も女らしい。
ソックスは履いておらず、ベージュのストッキングを着けていた。
部屋に入った途端、履いていたパンプスは脱ぎ捨てたらしく、意外と小作りな脚の裏や爪先が見える。

高木の息遣いが荒くなっていく。
寝ている夏実に近づくと、高木は上擦った声で言った。

「さあ辻本さん……、そのままじゃ寝苦しいでしょう。上着を脱いで」
「ふぁい……」

夏実が返事をしたので高木は驚いて身を引いた。
目も閉じているし意識があるとは思えないが、身体を少しもぞつかせている。
どうやら本当に脱ごうとしているらしいが、当然、寝たままではうまく脱げない。
高木はそっと近づき、夏実のジャケットに手を掛けた。

「手伝いますよ」
「……」

夏実は無言でカクンと頷いた。
完全に寝ているわけではないらしいが、正常な判断も出来ないようだ。
寝苦しいから服を脱ぎたい。
でもうまく脱げないから手伝ってもらう。
それしか考えていないらしい。

高木は夏実の上半身を起こし、背中を支えながら何とかジャケットを脱がせ、袖から腕を抜いていく。
背中を支える手のひらに、夏実の熱い体温が伝わってくる。

「……今度はズボンを……」
「……」

また夏実は素直に頷き、脱がせやすいように腰を浮かせ、脚を持ち上げた。
ほとんど幼児のような反応である。
上はブラウスだが、下はストッキングとそこから透けて見えるショーツだけとなった。
もう抑えようのない肉欲が疼き、高木はゴクリと息を飲み込んだ。

すると夏実は、高木の支えから零れ落ちるようにベッドへゴロンと倒れ込んだ。
高木もその横に膝を突き、そっとブラウスを捲り上げた。
そこには、美和子ほどではないが白く柔らかそうな肌が覗いている。
手のひらで腹に触れてみると、素晴らしい肌触りだった。
羽二重餅という菓子があるが、あれみたいな触り心地だ。
美和子のようなしっとりと手に吸い付くような感じではないが、その分、若さに溢れ、ピチピチと張りのある見事な肌だ。

震える手をストッキングの裾に突っ込み、何度も躊躇しながら夏実の脚から抜き取った。
爪先からストッキングを抜き去ると、実に美しい脚線美が露わとなる。
象牙のようにすべすべで、しなやかそうだ。
どちらかというと筋肉質な感じだが、そこに脂肪が乗り始め、形良くすらりと伸びていた。

そんな脚を見ているだけで高木の股間が張り詰めてくる。
ここで高木は大きく深呼吸して気を落ち着けた。
そしてワイシャツを脱ぎ、Tシャツ一枚となった。

「次はブラウス……」

高木は自分に言い聞かせるように呟いたのだが、夏実はそれにも反応して、コクンと頷いた。
また身体を起こして脱がせていくと、夏実も腕を上げて脱ぎやすいよう協力してくれる。

夏実から発する甘い汗の香りで、高木は頭がくらくらしてくる。
夏実の方は安心しきっているのか、完全に高木の為すがままにされていた。
ブラウスを脱がされ、腕から袖が抜かれても、微かに寝息を立てているだけだ。
いかに酔い潰れているとはいえ、ここまでされたら目が醒めそうなものだが、寝付きが良くて寝起きが悪いのが夏実だ。
墨東署時代から朝は弱く、同居していた美幸をいつも困らせていたものだった。
しかも寝付きはよく、眠りも深いものだから、美幸より早く寝て遅く起きるのが常だったのだ。

そのことを知らない高木は、夏実を起こさぬよう慎重に行動していた。
ブラジャーとショーツだけになった夏実を見て、高木の股間ははち切れそうになっている。
さすがに痛くなってきて、スラックスも脱いでしまった。
すると怒張した肉棒がピンとそそり立ち、トランクスの窓から顔を出す有様だ。

高木はまた息を飲み、恐る恐るブラジャーに手を掛ける。
ブラの下で大きな肉塊が苦しそうに喘いでいる。
夏実の呼吸と鼓動に合わせて小さく蠢いているのが何とも生々しかった。
うつぶせにすると、夏実は「ううん……」と唸ったが、抵抗はしなかった。
ホックは簡単に外れ、肩のストラップも緩んだ。
高木はまた仰向けにさせ、そっと小さな布きれを剥いでみた。

「……!」

想像以上のバストだった。
一課内でも評判の胸ではあったが、ここまで大きいとは思わなかった。
大きいだけでだらしなく開いてしまっていることもなく、硬そうというよりもぷりぷりに張り詰めている。
美和子のような柔らかさではなく、指で触れれば弾かれてしまうようなぴちぴちした若い乳房だったのだ。
大きな肉の膨らみがブラからぶるんと零れ出て、その頂点にはまだ薄いピンクの乳輪と小さな乳首が見える。

高木の興奮は頂点に達した。
それと同時に覚悟も決まった。
ここで目を覚まされて騒がれたら、もうどうしようもない。
どうにでもなれ、と思った。

勢いで、そのままショーツまで引き下ろしてしまった。
股間は、髪と同色の繊毛で覆われていた。
美和子は淡い感じだったが、夏実のそこは美和子よりは濃い。
しかし毛自体は細くしなやかそうでごわごわした感じはなかったし、必要以上に淫らな感じもしなかった。
手入れしているわけでもなさそうだが、毛並みは良かった。

高木のペニスはもう限界近くまで膨らみ、一度出してしまおうかと思ったほどだった。
ギンギンと痛いほどに勃起し、ビクビクと痙攣までしている。
いかに美和子がいなくなって以来セックスしていないとはいえ、異常なほどの興奮ぶりだった。

夏実の方は、まだ寝息を立てて眠っている。
僅かに唇を開き、喘ぐように呼吸しているのを見た高木はたまらなくなり、夏実の裸身に覆い被さった。
そしてそのまま、甘い息を吐いている唇を奪った。
乾き気味の唇を舌先で舐めて湿らせてから口を合わせ、ちゅっと音を立てて吸う。
試しに舌を潜り込ませてみると、前歯は簡単にこじ開けられた。
そのまま夏実の白い歯を舐め、健康そうな色の歯茎にも舌を這わせる。
思い切って舌を絡め取り、強く吸ってみた。

「ん……ううん……」

さすがに夏実もそれには反応し、うるさそうに身体を捩り、手で遮った。
一瞬、起きたかと青くなった高木だったが、夏実が目覚めることはなかった。
そのままごろりと寝返りを打って横向きになり、また寝息を立て始める。
高木は、起こさないよう慎重に夏実の身体を再び仰向けに転がした。
弾みで大きな乳房がぶるんと揺れる。
たまらず手を伸ばして、そっと揉み込んでみた。
大きいが弾力充分な若い乳房だった。
高木の指が弾かれそうなほどの張りがあり、ぎゅっと強く揉んでみると僅かに芯がある感じがする。

うっとうしそうにしていた夏実だったが、高木の指が乳首にかかると、僅かに口を開け、寝息とは違う熱い吐息を漏らしてくる。
じきに乳首がぷくんと硬く膨れてきた。
アルコールと汗に混じり、甘ったるい女の匂いが股間を中心に漂ってくる。
高木は夏実の脚の付け根に手を当てると、一気に開脚させた。

「……」

処女ではないだろうが、それに等しいほどに慎ましやかな秘所だった。
どちらかというとワイルドなイメージがあった夏実には似つかわしくないほどに、そこは清楚で控え目な印象だ。
もう一度深呼吸してから、夏実のそこに顔を持っていく。

「ん……」

男の熱い舌が媚肉に触れると、夏実は僅かに眉間を寄せて小さく呻いた。
むずかるように腰を捩り、脚を閉じようとする。
しかし、閉じた腿が高木の顔を挟み、逃がさないようにするだけだった。

「ん……あ……」

内腿や脚の付け根が高木の愛撫を受けるにつれ、夏実はのろのろと蠢き始める。
最初はうっとうしそうに身体を捩っていただけだが、乳首や股間を可愛がられるうちに悶えるような動きになってきた。
乳首を弾かれるとピクンと小さく仰け反ったり、媚肉を舐められると「ああ……」と熱い息を漏らしている。

高木はペニスが痛いほどに勃起しているのを気にしながら舌を使っていく。
柔らかくて温かいそこを舌で掻き分け、その隙間をなぞるように滑らせた。
よくよく思い出してみれば、高木は美和子に対してもクンニリングスはほとんどしたことがない。
あってもごく簡単に済ませてしまっていた。
おざなりというわけではない。
美和子が恥ずかしがるし、高木もそんなところをじっくり見るのは悪いと思っていたためだ。
本当は美和子もそうされたいと思っていたし、高木自身もしたいと思っていたのだが、この奥手のカップルはなかなか大胆な行為には及べなかったのだ。

美和子にすらしたことのない性戯を他の女にしているという背徳で、高木の肉棒はさらに熱く硬くそそり立っていた。
寝ている状態とはいえ、性感帯を刺激されれば女体は熱くなり、官能も高まっていくことになる。
夏実の意識もぼやけたり覚醒しかかったりと繰り返すようになっていた。

「あ……んん……」

肉溝の中を下から舐め上げ、頂点にあるクリトリスにねっとりと舌を這わせると、夏実は顎をクッと反らせ、背中をたわめて反応した。
強い刺激がモロに快感中枢に伝わり、夏実をまどろみから呼び起こす。
舌が陰毛を掻き分けて、割れ目に侵入しようとしたその時、高木が驚いたように声を上げた。

「あっ……」

ほぼ同時に、夏実も意識を取り戻した。

「んあ……あ? 高木……さん……?」

自分がいつの間にかベッドに横たわり、だらしなく脚を開いていることに気づく。
なぜかその間に服を脱いだ高木が這っていた。
夏実はハッとして身体を起こし、自分が素っ裸であることを知って顔を紅潮させた。
そして、高木が拡げられた股間を凝視しているのを見て大きな悲鳴を上げた。

「いっ……いやああっっ……!」
「うわ!」

夏実は目を瞑り、思わず高木を突き飛ばしていた。
今、自分が高木に何をされようとしていたのか、あるいはされてしまったのか、ようやく理解したのだ。
あの高木が眠っている女を辱めるなど思いもしなかった。
むらむらと怒りが湧いてくる。
彼を心配し、励まそうとしていた自分がバカに思えてきた。

「た、高木さんっ……あなた……」

高木はまだビックリしたように夏実を見つめている。
いや、顔を見ているのではなく、まだ両脚の間を見ているのだ。
それどころか、腕を持ち上げてそこを指差している。
夏実は慌てて脚を閉じ、上半身も隠すように身体を折った。

「み、見損ないました! 高木さん、こんなことする人だとは……」
「辻本さん……、それ……」

夏実の怒りに対する高木の反応がおかしかった。
恐縮するでも開き直るでもない。
呆然とした表情で夏実を指差したままだ。
指先が少し震えている。
あれほどの酔いが一瞬で醒めるほどに激怒していたせいでそれ以上言葉も出ず、ひたすら睨みつけていた夏実の顔色がさっと変わった。
ようやく高木が驚いている理由がわかったのだ。

「やっ……いやああっっ……!」

夏実は股間を両手で隠し、蹲るように身を屈めた。
尻餅を突いた高木の方は、指先と唇を震わせていた。

「辻本さん……、どうしたの、それ……」
「い、言わないで……!」

高木に見られてしまったのは、夏実の股間に彫られたタトゥだった。
そのおぞましい記憶を振り払うかのように激しく頭を振りたくると、夏実の顔から涙が飛び散った。
嗚咽が止まらなかった。
牛尾に嬲られ続け、肉体的に屈服してしまった恥辱にまみれた日々が思い起こされる。
恥毛を剃られ、青白い恥丘に彫り込まれた「展」の字は、夏実の身体が「牛尾のもの」になった証だった。

そこを他人に見られてしまった。
恥毛は生え揃ったから凝視しなければ見えないのだが、今の夏実のそこは高木の唾液と自身の蜜で濡れており、毛が微妙に捩れて素肌の一部が見えてしまっている。

「辻本さん……」

高木はそっと夏実の肩に手を掛ける。
夏実はイヤイヤするように肩を揺さぶるが、高木は逆にしっかりと抱きかかえた。

「可哀想に……」

優しく抱きしめられると、夏実は堰を切ったように泣き出し、高木の胸に顔を埋めた。
その間、高木は何も言わず、何もせず、夏実の背を優しく抱いていた。
しばらくすすり泣くと、夏実はようやく顔を上げ、泣き濡れた表情を高木に向ける。

「辻本さん……、何があったか知らないけど色々つらかったんだね……」

何も聞いてはいないが、高木にはおおよその察しはついた。
夏実には、美和子同様に忌まわしい噂があったからだ。
何でも、夏実は所轄時代に変質者によるストーカー被害を受けていたらしい。
その際、何か弱みを握られて男の言いなりとなり、手酷い性的被害を受けた、という噂がまことしやかに流れていたのである。

無論、何も根拠はない。
そういう事件があったらしいことはわかっているものの、夏実による被害届は出ていないのだそうだ。
聞ける類のことではないから、直接の捜査担当者以外は知りようがないのだ。
どうせ、夏実の美貌から連想し、くだらない妄想をしていた連中がいたのだろう。
だから美和子はもちろん、高木もそんな噂は信じていなかった。
しかし、さっき高木自身が見た光景は、そのことを連想させるに充分なものだった。

「……高木さん」
「……」
「聞いて……くれますか?」

少し落ち着いたのか、夏実がぽつりぽつりと話し始めた。
誰にも相談も出来ず、ひとりっきりで抱え込んでいた心の闇。
夏実は今初めて、他人に話す気になっていた。
恥辱を晒すことになるが、溜め込んでいた薄汚いものを吐き出したいという思いもあった。

本来なら美幸に話すのだろうが、彼女も事件の被害者である。
しかも夏実は、自分が美幸を巻きこんでしまった、という悔恨もあった。
これ以上、つらい思いはさせたくなかった。
今ここに美和子がいたのなら彼女に打ち明けたろうが、夏実は高木に聞いて欲しいと思っていた。
なぜなら、彼も美和子の一件で(まだ疑惑の段階を出てはいないが)かなりつらい思いをしているというシンパシーを抱いたからだ。
わかってもらえると思ったのである。
無論、まだ酔いが醒めていなかったということも遠因であろう。

「……」

聞くだにおぞましい体験であり、高木は少し表情を歪めたものの、すぐに打ち消した。
何も言わず相槌も打たず、ただ夏実の独白を聞き続けている。
無力な自分には何も出来ず、ただこうして話を聞くくらいしか出来ないとわかっていた。
夏実が語り終え、その口が閉ざされると、高木がぽつりと言った。

「じゃあ……その……、そこも?」
「……」

夏実が白い首を小さく折って頷いた。
さっき目の当たりにした膣付近の刺青は、その犯人にやられたものらしい。
普段は美和子に負けぬほどの強気と元気さがウリである夏実が、痛ましいくらいにしょんぼりとしている。
そして、思いも寄らぬことを口走った。

「……本当は告訴しなくちゃいけなかったんです。でも出来ませんでした」

それはそうだろう。
いかに警官とはいえ生身の女性である。
そして警官だからこそ、事情聴取の様子はよくわかっている。
加害者だけでなく被害者も根掘り葉掘り聞かれるのだ。
レイプ事件の被害者に、犯人の男にどんなことをされたか詳しく説明しろというのは過酷だ。
加害者の供述との食い違いが出れば、それを確認しなければならないのはわかるが、被害者にとっては恥辱の極みだ。
まさにセカンドレイプである。
夏実は何事か考えるように俯いていたが、またぼそりぼそりと話し始めた。

「……取り調べで恥ずかしいことを喋らされるのがイヤだったこともありますけど……あたしは……」
「……」
「あたし……は……犯人に……執拗に辱められてから……身体が……」

そこで夏実の喉がゴクリと動いた。
牛尾によって夏実の肉体は完全に開花させられ、開発されてしまった。
そのせいで、以前よりもずっと性的欲求が増すようになっていたのだった。
当然と言えば当然で、それまで年齢の割には性体験は多くなかった女体が、濃密度で徹底的に調教されたのだ。
眠っていた欲望が目覚めてしまうのも無理はない。
生物である以上、そうした欲求は男女を問わずあるものだし、女の側が「欲しく」なっても不思議ではないのだ。

夏実ははっきりとは言わなかったが、高木は何となく察していた。
なるほど、それで遠距離恋愛で滅多に恋人と会えないのであれば、独り寝が寂しい日もあるだろう。
高木は漠然と、夏実にレスリーを紹介してあげようかと思っていた。
彼のカウンセリングと治療を受ければ、少しは楽になるかも知れない。

夏実は、美しい顔をつらそうに苦しそうに、そして悲しそうに歪め、まだ小さくすすり泣いていた。
高木はそれ以上何も言わず、また夏実を抱きしめた。
夏実も抵抗せず、素直に高木の胸に縋る。
さっき泣いた涙が彼の胸を濡らし、それがまた夏実の頬を濡らしていた。

高木は、居酒屋では自分が慰めてもらったが、今は夏実の方を何とか慰めたい、力づけてあげたいと強く思った。
同時に、無性に夏実が愛らしく思えてくる。
高木はそっと夏実の両肩を掴むと、静かに胸から顔を離させた。
互いにじっと見つめ合っていた男女は、ごく自然に唇を交わし合った。
してしまってから、夏実はハッとして顔を離したものの、高木は抱きしめたまま離さなかった。

「ん……」

考えてみれば男性に抱擁されたのもひさしぶりだ。
間近から感じる男の匂いに、夏実の意識もぼうっとしてくる。
キスしたことも大きかった。
それでも必死に理性を叱咤し、高木の胸を押して身体を離した。

「だめです、こんなこと……」
「でも、僕はもう……」
「あ、だめ……んんっ……」

高木の方はもう抑えきれないらしく、また夏実を抱きしめる。
必死に顔を背ける夏実の白い首筋に唇を押しつけ、音をさせてキスをした。

夏実は酷く動揺した。
まさか、世話になっている先輩を力任せに張り倒すわけにもいかない。
いや、それ以前に酔いのせいで身体が言うことを聞かないし、高木の行為に快感を得ていたのである。
男性フェロモンによって、夏実の「女」が覚醒していく。
高木は夏実の首や肩口に優しくキスをしながら、いつの間にかそっと乳房を揉むような真似までしていた。

「ああ……」

夏実は、意志に関わらずどんどんと身体が燃え始めているのがわかった。
無理もない。
牛尾の事件以降、セックスはご無沙汰だ。
最後に東海林に抱かれたのは、もう何ヶ月も前のことである。

牛尾の調教で、より敏感に感じやすくなり、しかもはっきりとした肉欲を頻繁に感じるようになっていた夏実は、オナニーすることが習慣になっていた。
美幸と暮らしていた頃には考えられなかったことである。
独り部屋で気楽なこともあり、身体が火照り、もやもやしてくると自分で慰めることが多くなっていた。
ただ、一時的には解消されるものの、終わった後の気怠さと虚しさ、恥ずかしさに自己嫌悪していたのも確かだ。

そんな中、男に抱擁されたりキスしたり胸を愛撫されれば、感じてしまうのは当然だったろう。
況して相手は好意を持っている高木である。
同じような境遇を慰め合うような間柄で、決して恋愛感情ではなかったものの、酒、互いの事情の告白、同情、そして燃え上がってしまった肉欲。
そのすべてが混じり合い、夏実から抵抗心を失わせている。
胸を揉みながら、じっと身体を見つめる高木の視線を感じ、夏実は恥じるように真っ赤な顔を伏せた。

「そ、そんなに見ないでください……」

それでも高木は、その滑らかな腹部を撫でたり、瑞々しい乳房をくすぐるように愛撫していく。

「くっ……あ、いや……はっ……」

優しい愛撫に、見る見るうちに夏実の身体から力が抜けていく。
美しい形状をした大きな乳房は高木の手に余るほどだったが、指から肉をはみ出させるようにして揉み上げている。
乳房から夏実の鼓動が伝わってきた。

「辻本さん……」
「だめ……だめです、高木さん、こんな……もうやめて……あ……あ……」

包み込むように揉まれる乳房は、若く張りのある弾力で高木の指を押し返していく。
胸全体をマッサージでもするように揉みほぐし、アンダーバストからすくい上げるようにしてたぷたぷとこねくった。
高木が丹念に乳房を揉みほぐしていくうちに、夏実の息が次第に荒く熱くなっていく。
切なそうに眉をひそめ、身体を捩って悶えている。
声を出すまいと人差し指をくわえていたが、耐えきれないとでもいうように指が唇から離れ、微かな喘ぎ声まで漏れてきた。

「はあ……あ……た、かぎ、さん……あ……もうやめ……ゆ、許し……あっ……」

夏実の拒絶の声が甘くなり、身体もなよなよと高木にすり寄せてくる。
そんな夏実の反応を見ているうちに、もう高木にも我慢のしようがなくなっていった。
高木もレスリーの薬を飲んで以来、一種異常なほどに「欲しく」なっていたのは事実だ。

加えて美和子の浮気疑惑がある。
美和子が他の男に抱かれているかも知れないと思うと気が狂いそうな嫉妬に襲われた。
だが、それでいて美和子が男に犯されていることを考えると、信じられぬほどに自分のペニスが勃起してしまうのだった。
様々な様子が絡み合い、高木と夏実の性欲が極限に達した今、こうなってしまうのは必然だったかも知れない。
高木は少し上擦った声で言った。

「辻本さん……、申し訳ないけど、僕、もう我慢できない……」
「そんな……」
「今さらだけど……、いいよね?」
「だめです、そんなこと……」

夏実はそう言ったものの、身体の方は「続き」を求めて止まない。
今ここで止められたら、おかしくなってしまいそうな気がする。
戸惑う夏実をよそに、高木はナイトテーブルの引き出しを開け、そこからコンドームを取り出した。

「避妊はするから……」
「や……、だめです、高木さん……。……っ!」

夏実は思わず手を口に当てた。
コンドームを装着した高木が目の前に立ち塞がったのだ。
自然と目が行った股間は、隆々としたペニスが屹立していた。

(ウ、ウソ……、けっこう大きい……)

夏実は生唾を飲んだ。
牛尾ほどではないが、かなりのサイズだと思う。
東海林と比べてはいけないが、恐らく彼よりは一回りくらい大きい。
夏実はそこから目が離せなくなった。

高木のペニスはもともとそう大きなものではなかった。
至って平均といったサイズだろう。
高木自身驚いていたくらいで、大きくなったのは、ここ数日のことなのだ。
言うまでもなくレスリーの薬の効果である。
あれを飲んだ後は、やたらと女が欲しくなるのと同時にペニスサイズも大きくなってきていた。
まさか薬のせいで大きくなるなどとは思えなかったから、高木は突然の事態に戸惑っていたところだったのだ。

高木も、最初は本当に夏実を抱こうとまでは思っていなかった。
しかしホテルまで連れ込んでしまい、ここまで進展してしまったことで、もう肉体的にも心理的に引っ込みがつかなくなっていた。
美和子に対する背徳感はあるものの、その美和子に疑惑が生じていたことが、高木のブレーキを解除することになる。
目にした高木の肉棒に期待と恐怖を感じた夏実は思わず後じさったが、高木はそのままのしかかってきた。

「高木さん……ほ、本気で……?」
「……」

高木は小さく頷いた。
彼の、覚悟したような目を見て夏実も諦めた。
高木がこうなってしまったのも、自分が無理に飲みに誘い、しかも大量に飲ませたことも一因なのだろう。
それに、認めたくはないものの、夏実の身体も男を欲しがっている。
熱身は固く目を閉じて軽く頭を振ってから言った。

「わかりました……」
「……」
「その代わり……その代わり、これっきりにしてください」
「……」
「あたしも……高木さんも恋人がいるんです……。こんなことは今日だけに……」

そう口にすると、夏実の脳裏に東海林の顔が思い浮かぶ。
牛尾に犯されていた時と同じ背徳感と、背中がゾクゾクするような被虐の愉悦が滲んでくる。

「……わかった。今夜だけにしよう」
「ん……」

高木の言葉に、夏実はコクッと小さく頷き「了承」の意思表示をした。
しかし、まだ身体は震えている。
夏実らしくない風情だが、恋人以外の男に肌を許すのだ。
しかも相手は、尊敬する美和子の恋人であり、今は自分の面倒を見てくれている男だ。
緊張と動揺が隠せないのは当然だったろう。

「や……」

高木の手が両脚にかかり、膝を開かせると、夏実は咄嗟に力を込めたが、拒否するといった強い抗いではなかった。
反射的なものだろう。
大きく脚を割られるとさすがに恥ずかしく、両手で顔を覆ってしまう。
男勝りな夏実には似つかわしくないが、感性は普通の女性と変わらないのだ。

「っ……!」

媚肉が濡れているのは自分でもわかる。
そこに熱い男のものが押し当てられ、さすがに夏実の動揺が大きくなった。
思わず脚を閉じ、身体を堅くする。

「や、やっぱり、あたし……」
「今日だけだよ、辻本さん」
「あ……」

高木の言葉に力を緩めると、男根が膣口に押しつけられた。
硬い。
そして熱かった。
夏実は思わずシーツを握りしめる。
身体が小さく震え、目をぎゅっと瞑っていた。

「く……」

亀頭の先が膣口を割る。
高木も、まるで処女を抱くかのように慎重に進めていった。
徐々にペニスが夏実の肉を押し広げ、ねじ込まれていく。
夏実がビクンと震え、仰け反った。

「ああっ……!」

夏実は全身を硬直させ、わなわなと震えている。
これでは痛いだけである。
高木は穏やかな口調で囁いた。

「辻本さん、もっと力を抜いて……」
「は、はい……でも、あたし……んんっ……!」

高木は身体を倒して夏実を抱きしめる。
夏実の腕も男の背中に回り、そっと高木を引き寄せた。
高木が顔を近づけると、夏実も自然に顔を持ち上げ、唇を許した。
男の唇がくっつくと口を開け、その舌を迎え入れた。
そして自分から必死になって舌を絡めていく。
高木とキスしたかったわけでも、淫らな気持ちがあったわけでもない。
そうすることで心身の痛みが少しは癒される気がしたからだった。

「ん……」

舌が絡み合い、高木がそっと夏実の舌を吸うと、女体から緊張がほぐれていく。
高木はそのまま腰を進め、肉棒を沈めていった。
夏実の目が見開かれる。

「んんっ!? ……んう、んううっ……」

ぐぐもった悲鳴が高木の口の中で木霊する。
高木は夏実の背を抱いたまま、腰をさらに進ませる。

「んんっ!」

高木のものが全部埋め込まれると、夏実はグッと顔を反らせた。唇を離すと、小さく「ああ……」と喘いだ。
こうなってしまったことを後悔しているような、やっと男を迎え入れてホッとしているような複雑なため息だった。

「ああ……」

高木がゆっくりと腰を使い出すと、夏実は小さく口を開けて呻き始める。
もうすっかり濡れているせいか律動はスムーズで、男女の結合部からは粘った淫らな水音が響いてくる。
突くごとにゆさゆさと揺れ動く大きな乳房に魅せられ、高木は震える乳首に吸い付いた。

「んっ! や、それ……くっ……ああっ……」

手で揉み、唇で吸いながら、高木は少しずつピストンを打ち込んでいく。
少しずつ夏実の裸身から余分な力が抜け、高木の律動に合わせて揺さぶられている。
ここまで来ては、さすがに現状を受け入れたのか、夏実も愛撫に反応を示し始めた。
乳房全体を揉まれると心地よさそうに「ああ……」と喘ぎ、乳首を舐められたり転がされたりすると、強すぎる快感に止まっているのか「くっ」とか「んんっ」と、我慢するような悲鳴を漏らしている。

「あ、あ……ああ……」

高木が少しずつストロークを大きくしていった。
高木のペニスに馴染み始めた夏実は、彼がもっとよく動けるように、深くまで打ち込めるように身体を捩ったり、腰をうねらせるようになっていく。

「んん……ああ……いっ……あう……」

肉棒の動きがダイナミックになり、肉を打つ音がするようになる。
カリが掻い出した夏実の愛液が、シーツに大きな水染みを作っている。
そこから甘ったるい女の香りが漂い、高木の獣性を強く刺激した。

「や、こんな……高木……さんっ……あっ……」

抗うようなことを言いながらも、夏実の腰は高木の動きに合わせてくねくねとうねっている。
牛尾によって、その身体に刻まれた快楽の記憶は、薄れることなく彼女の中に残っていた。
腰の打ち込みを緩めることなく、高木は上半身の愛撫も続けている。
夏実が正面を向いていればキスを求め、顔を背けていればその白い首筋に唇を当てた。
両手で乳房をたぷたぷと揉みしだいたり、片手で絞るように揉みながら、もう片方の乳房と乳首を唇と舌で責め上げる。
乳首を咥えられ、歯で甘噛みされながら舌で潰されると、その鋭い快感に夏実は悲鳴を上げた。

「ひっ、ああっ! だめです、高木さんっ、それっ……そ、そんなことされたらあたしっ……き、気持ち良くなっちゃいますっ……」
「これ? これがいいんだね?」
「ああっ! だ、だめって言って……くっ、いいっ……気持ち良くなるっ……こ、こんなのだめなのに……あうっ」

男の責めの反応し、夏実の膣内もざわつき始める。
膣道を占領している肉棒を締めつけ、動きに呼応するかのように襞が絡みつく。
その感触に高木も顔を歪めて呻く。

「くっ……、辻本さんだって僕のに絡みついてくるよ」
「そんなこと言われても……あ、あっ……いあっ……」

夏実は、上気しつつあった顔をさらに赤らめる。
性交の興奮が高まったのに加え、高木に恥ずかしい指摘をされ恥辱感を煽られたせいだ。
困惑する持ち主とは裏腹に、夏実の媚肉は敏感に肉棒の刺激を受け止め、さらに強く大きな快感を送ってくる。
夏実は、身体の芯からこみ上げてくる疼きと悦楽をどう扱っていいかわからず、ただ呻き、喘いでいた。

硬さと柔らかさが絶妙に同居する若い乳房。むちっと大きく張り出してはいるが、ちっとも垂れていない臀部。
美和子とは違う女体の感触に、高木のペニスも大きく膨らんで夏実を圧迫していく。
根元まで打ち込み、夏実に甘い喘ぎを上げさせているうちに、高木の官能も高まる一方だ。
足の裏が痺れ、腰の後ろあたりが熱くなってジリジリと射精欲が膨れあがる。

「す、すごいよ、辻本さん……僕、もう……」
「あああ……高木さん、こんな……んんっ……あっ……あう!」

ぷるぷると震える乳首に高木が吸い付くと、夏実は細い顎を突き上げるように仰け反った。
口を大きく開けて乳輪全体を吸い上げ、れろれろと乳首を舐め上げる。
強く吸ったまま唇を離すと、ちゅぽんっとふざけた音を立てて乳首が解放され、乳房が大きく波打った。

もう夏実は遠慮無くよがってきている。
恥ずかしそうな素振りは見せるものの、それ以上に快感が強いらしく、喘がずにはいられないのだ。
東海林以外に抱かれているのに、どうしてこうなってしまうのか。
夏実はその理不尽さに泣きたくなる。
しかし牛尾によって暴力的に犯されていた時もそうだった。
そして今は、レイプではないものの先輩刑事に抱かれている。
しかも敬愛する同性刑事の恋人なのだ。

普通なら、とても感じるような状況ではないと思うのだが、夏実の肉体は肉欲に疼き、性の快楽に喜悦していた。
もしかしたら自分は淫らな女なのではないか。誰に犯されても感じてしまうような、だらしない女なのかも知れない。
そう思うと情けなくなる一方で、惨めな自分に対する被虐快楽の炎が燃え上がってくる。

(ああ……、もう何だかわかんないっ……何にも考えられないっ……!)

アルコールと性的快感によって、夏実の理性は溶解してしまった。
こんなことしてはいけないと思う心を、肉の疼きが飲み込んでいく。肉襞の締め付けは一層に強まり、高木のペニスを絞るように収縮する。
ペニス全体から甘美な感触が伝わってくる。特に強く締めつけられる根元付近が凄かった。
ペニスの付け根や陰嚢の奥からジンジンするような熱い射精感が先端に向かって駆け上がる。
夏実は、柔肉を蹂躙し、奥を突いてくる亀頭の感覚に鋭い喘ぎを放ち、責める高木の腕を強く握っていた。
自然と脚が持ち上がり、高木の腿に絡みついてくる。

「辻本さんっ……だめだ、僕っ……」
「あ、だめっ……な、中はだめです、高木さんっ」
「大丈夫……コンドームつけてる」
「あ……」

そうだった。そのことを思い出すと、射精されると意識して強張った身体が弛緩した。
受け入れる状態になったのだ。中には出されない。
中までは穢されない。
その安心感が夏実をリラックスさせ、セックスの快感を全身で受け止めていく。

「や……やっ……あ、あたしも……ああっ、高木さんっ……」

収縮してくる膣襞を押し戻すように、高木のペニスがぐぐっと硬くなる。
激しい律動が襞を削るように突き上げて夏実に悲鳴を上げさせた。
不意に高木の背中に痙攣が走る。
強いが甘美な収縮に、もう射精欲が堪えきれなくなったのだ。

「くっ……そ、そろそろだよ、辻本さんっ」
「あっ……」

夏実はぶるぶると顔を振りたくるものの、その手は高木の腕をしっかりと掴んでいる。
射精に向け、高木のストロークが大きくなると夏実の喘ぎ声も切羽詰まったものとなった。
媚肉をかき回すペニスの力感にくらくらしながらも、夏実はそのたくましさに酔っていた。
抜き差しの速度が急激に上昇したのを知り、夏実も射精を意識する。

「ああっ……」

膣内で亀頭部分がぐぐっと大きく膨れた気がして、夏実は目を剥いた。
ひくつく媚肉に高木の肉棒が何度も何度も突き刺さってくる。
高木は陰嚢から精液が溢れ出し、尿道を押し広げて一気に流れていくのを感じていた。

「つ、辻本さんっ……!」
「ああっ、高木さんっ……い、いく……いきますっ……!」

射精されたのと同時に、夏実は激しく絶頂した。
子宮口や胎内に射精されたわけではなかったが、薄いゴムを通して熱い子種が勢いよく放たれたのがわかった。
きゅううっとさらに強く膣襞がペニスを締めつけ、精液をすべて絞り取ろうと襞が蠢く。
高木は射精するたびに腰を打ち込んで呻き、夏実は射精の発作を感じるたびに顔を仰け反らせて喘いでいた。

しばらくの間、ひしっと抱き合っていたふたりだったが、どちらからともなく身体を離していく。
高木がペニスを引き抜くと、夏実はピクンと裸身を痙攣させた。
抜き去った膣口は閉じるのを忘れたかのように小さく広がったままで、そこからとろりとした透明な粘液を零している。
射精を終え、肉欲がウソのように消え去ると、高木は決まり悪そうに背を向け、ベッドから身を起こした。
夏実に見えないようにコンドームを外し、ティッシュにくるんで屑籠へ捨てる。
背中から細くすすり泣く女の声が聞こえた。

「辻本さん……」

夏実は高木に背を向け、肩を小さく震わせて忍び泣いていた。

「こんな……、何でこんなことに……」
「……」
「どうしよう……。佐藤さんに合わせる顔がない……」
「……それは僕も同じだよ。佐藤さんだけじゃなく、辻本さんの彼氏にもね……」

高木が力なく答えた。
性の激情が過ぎ去ると、とてつもない罪悪感と嫌悪感がスクラムを組んで襲ってくる。
とんでもないことをしてしまったという思いで高木は顔を上げられず、足下の絨毯を見つめたまま小声で謝った。

「ごめん……。こんなことになったのも、みんな僕のせいだ……」
「……」
「本当にすまなかった……。何て言っても言い訳になるけど、僕は決して……」
「いいんです」

夏実は高木に背と臀部を見せながら言った。
まだ肩が震えている。

「あたしが……あたしが悪かったんです……。高木さんをお酒に誘ったのもあたしです。高木さん、佐藤さんがいなくて寂しい思いをしてるってわかってたのに、あたしが……」
「そんなことないよ。誘ってくれて……励ましてくれて嬉しかった。なのに僕があんなことを……」
「違うんです」

夏実がようやく顔を見せた。
そのまま上半身だけ起き上がり、シーツで身体を包む。
立ち直ったかのようにも見えるが、まだ顔は俯いている。
高木と同様、まともに相手の顔が見られないのだ。

「……あたしが無理に飲ませちゃったんです。高木さん、そんなに強くないって知ってたのに……。あたしも強くないくせにがぶがぶ飲んじゃって……。あたしたちが酔っぱらっちゃったのは、みんなあたしのせいなんです」
「いや……」
「でも、あの時は飲んで欲しかったし、あたしも飲みたかった。高木さん、元気なかったから励ましてあげたいと……。お節介ですよね」

そんなことはないというように、高木は静かに首を振った。

「そこが辻本さんのいいところだと思うよ……。明るいだけじゃなく、ちゃんと周りの人にも気を配ってる。若いのに立派だよ」
「そんなことありません……。それに、あたしったら立ち入ったことまで聞いちゃって……。高木さん、きっと話したくなかったでしょうに」
「……」
「おまけに、高木さんが聞いてもいないことまで喋って聞いてもらって。嬉しかったのはあたしの方です。少し……ほんの少しだけど気が楽になりました」

そう言って夏実は弱々しく微笑んだ。
心の奥がチクチクと痛い。
余計なことを聞いて高木の心を動揺させ、酒もたっぷり飲ませてしまった。
挙げ句、自分まで酔っぱらって、一生胸に秘めていこうと思っていた忌まわしい思い出まで口にしてしまったのだ。
聞いているのは男性なのだから、そういう欲求が湧いてくることは簡単に想像がついたはずなのに。高木がぽつりと言った。

「……男の側が悪いんだよ、こういうことは。辻本さん……、後悔してる?」
「……」
「あ、ごめん、当たり前だよね」
「わかりません……。あの時はこうなってしまっても仕方ないと思ったんだけど……、今は罪悪感が強いです……」

それも当然で、お互いに恋人がいるのである。
しかも高木の相手は自分の先輩だ。
一時の気の迷い、激情で身を任せてしまう浅はかさは、どう言い繕っても浮気であろう。
高木も言った。

「僕も……後悔はしてる。佐藤さんのことを思うと、申し訳なくて……」

それは夏実も同じである。

「でも……、少し変なんだけど、想像してたよりも、その……罪悪感がないというか……あ、いや、ないわけじゃないんだけど、もっと大きなというか凄い嫌悪感とか……物凄く後悔するとか、そう思ってたんだけど……後悔はしてる。してるけど、何て言うか……」

高木の言いたいことは何となくわかる気がした。
実のところ、夏実もそうなのだ。
単純に「後悔」だの「背徳感」だのでは割り切れない不思議な感覚があった。
高木が、そんな思いを断ち切るかのようにすっと立ち上がった。

「……帰りましょう。辻本さんが言った通り、こんなことはこれっきりにする」
「……」
「タクシー呼びます。帰り支度を……」
「あ……、少し待ってもらっていいですか?」
「……?」

シーツを巻いたままベッドを降りた夏実が、なぜか少し恥ずかしげに言った。

「シャワー……、浴びていきたいんです。いいですか?」



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