夏実も高木も「関係」はあれでおしまいにしたはずだった。
これで美和子が帰国してくればそうなっただろうが、まだもう少し彼女は香港から戻って来ない。
しかも美和子と高木の関係もぎこちなくなっていった。
心ならずも夏実と関係してしまったということもあるが、それ以上に美和子の態度がおかしかったのだ。
口数が減り、会話も絶えがちになる。
美和子がそうなら高木もそうで、互いに「素っ気ない」と思っているのだろう。

高木は、美和子の愛情が冷めてしまったのではないかと思い、酷く落ち込んだ。
高木自身は当然美和子を愛している。
そうでなければ結婚など申し込まない。
夏実と関係してしまった今でもそれは同じだ。
あの時の高木と夏実は、互いの心の隙間を埋めるべく、身体を求め合っただけだと思っていた。
そのせいか、ふたりとも後味は極めて悪かった。
二度とするまいと神仏に誓ったものだ。
そんな空気も、美和子さえ帰ってくればすべて解決すると信じていた。

しかし、その自信も少しずつ薄らいできた。
予定では、香港研修中でも二三度は帰国するはずだったのに、結局一回帰ってきただけだった。
もしや本当に現地で別の男が出来たのではないか。
美和子の性格から考えて、そんなことはあり得ないと強く思うのだが、そう言い切る自信もなくなってくる。

高木は、吹っ切るために夏実とのコンビ解消を目暮に申請するつもりだった。
しかしそれは夏実本人によって止められている。
夏実が言うには、あの一件は高木が悪いのではなくすべて自分が悪かったのだ。
第一、仕事上では高木と組むことに何の問題もない。
それに、突然にバディ解消を願い出れば「何があったのか」と余計に勘ぐられることになるに決まっている。
そう言われてしまえばその通りで、結局、高木はそのまま夏実とペアを組んで捜査をしていた。

だが、あの強烈な体験はちょっとやそっとで忘れられるようなものではなく、どうしても意識してしまう。
それは夏実も同じらしく、高木に対して以前よりも遠慮がちになり、何事につけ躊躇するようになっていた。
彼女らしからぬ言動であり、それでは仕事にも差し支えてしまう。

そんなもやもやを打ち消そうと、今度は高木から夏実を誘った。
あまり飲まないし、独り飲みなどしたこともない高木は、数少ない行きつけの店へ訪れた。
酒が入ったせいもあり、ふたりは以前のように屈託無く話し、夏実も遠慮なく食べ、そして飲んだ。
高木もつられてかなり飲んでしまい、足下が覚束ぬほどに痛飲してしまう。
店を出たふたりは自然に身を寄せ合い、夏実は高木に寄りかかるようにして腕を組んだ。
そして結局、ふたりはホテルへ行ったのだった。

なぜこうなったのか、ふたりにもよくわからなかった。
気がつくとホテルの一室におり、身体をぶつけ合うように身を寄せ、自然と口づけを交わしていた。
酔いも手伝ったろうが、ふたりとも寂しかったのである。
部屋に入った時にはまだどぎまぎしていたが、アルコールの魔力もあって、今では裸で絡み合っていた。

「こ……、こんな格好恥ずかしい……」

夏実はそうつぶやきながら、羞恥に顔を染めていた。
ベッドの上で四つん這いとなり、よく発達した見事な臀部を高木に向けている。
高木は夏実の後ろから拝むような格好で膝を突き、真っ白い尻肉を見つめていた。
恥ずかしいのか、小さくぷりぷりと腰が動く。
それがまた男の欲望をかき立てていく。

そっと手で触れてみると、夏実はビクリと尻を震わせたものの、声も上げず、逃げもしなかった。
陶器のようなすべすべした肌触りで、乳房以上に弾力がある。
夏実は、股間を見られまいとしてぴったりと脚を合わせていたが、腿の間に高木の手が滑り込み、そこをこじ開けようとしてきた。
一瞬、腿に力を込めて拒絶しようとしたものの、結局はおずおずと膝をずらして彼の要望に応えた。

少し股間が開くと、そこからムッとするような女の匂いが漂ってくる。
まだ前戯も終わっていないのに、夏実はもう濡れており、受け入れ体勢は整っていたらしい。
高木はレスリーの薬物のせいで、夏実は牛尾の調教によって肉体に刻み込まれた快楽の記憶のせいで、以前とは見違えるほどに官能へのめり込むようになっている。
両者ともに「いけない」という気持ちは強いのだが、人為的に施されてしまった肉欲を抑えようもなく、また、他に相手もいないこともあって、この日、二度目の関係を結んでしまうことになった。
女の尻の妖しい魅力に捉えられ、高木はもう後戻り出来ない。

「……行くよ、辻本さん」
「あ……」

男の手が臀部に触れ、そこを開かれると夏実はびくりと反応した。
高木はもう躊躇わず、夏実の膣に亀頭をあてがうと、そのままペニスを挿入する。

「んっ……、ああっ!」

柔肉を掻き分けながらずぶずぶと入り込んでくる男根の感触に、夏実は背をたわめて堪え忍ぶ。
無理矢理にこじ開けられるきつさに、ぞくぞくするような喜悦を感じてしまう。
ベッドに突いた手が拳を作り、ぶるぶるとわなないていた。

「くっ……、は、入って……くるっ……高木さんの……あっ……」
「うっ……」

夏実の収縮がきつく、責めているはずの高木の砲の表情も歪んでいる。
それでも、絡みつく襞を引き剥がすようにして、出来るだけ深くまで肉棒を突き込んだ。
夏実の丸い臀部を潰すように高木の腰が密着する。
根元まで埋め込まれ、夏実はその充実感に恍惚となった。

「ああ……」

高木のものを痛いほどに食い締め、抜き差しされるたびに愛液を滴り落としている。
やはりアルコールの力は大きく、前回よりも早く夏実は感応していた。
いや、そのせいばかりとは言えなかった。
自分がこうなっているのも酒のせいなのだと思いたいのだ。
そう思うことで、少しでも罪悪感や後ろめたさから逃れようとしていたのだった。

「んっ……いい……ああ、いい……ああっ」

夏実が喘ぐたびに、彼女の膣は強く高木を締め上げている。
その感触に突き動かされ、高木は夏実のくびれた細い腰を掴むと、長いストロークで腰を打ち込んだ。
夏実は嬌声を上げつつ、高木の責めに合わせて腰をうねらせた。

「いっ! ああ……あっ、あんっ……いあっ……あ、あは……あうっ……いっ……」

もっと深くまで欲しいのか、夏実は尻をくねくねとうねらせ、高木の腰を迎えに行く。
それに応えるように、高木の腰もだんだんと激しく動いている。
もう夏実の媚肉は蕩けきっており、熱い愛液を零し続けて、自身と男の腿や腰をべたべたにしていた。
若さのせいか、夏実の媚肉は美和子以上の締めつけであり、このままでは高木の方が先に達してしまいそうだ。
そうはさせじと、高木はいったん腰の動きを止め、夏実の白い背中に覆い被さっていく。
男の堅い筋肉を背中や臀部に感じ、夏実の「女」が燃え上がっていく。
うっとりとそのたくましさに浸っていた夏実は、高木に乳房を掴まれると顎を持ち上げて喘いだ。

「ああっ!」

高木の両手が夏実のボリューム満点の乳房を揉みしだいた。
大きさは必要充分、形も抜群の乳房が高木の手で揉みくちゃにされ、淫らに形を変えさせられていく。
美和子ほどの柔らかさはないが、美和子にはない弾力を持ち合わせている。
乳房も臀部も、熟れる直前といった風情の肉体だった。

「やっ、お、おっぱい……んんっ……んあ!」

よくこんなサイズの乳房がブラウスやスーツの中に収まっているものだと感心してしまう。
その胸肉はしっとりと汗ばんで、揉み込んでくる高木の手に吸い付いてくる。
指に力を入れて揉むと、肉塊に沈んだ指が押し返されるほどの弾力感である。
乳房全体を愛撫されている間は何とか耐えられた夏実だったが、その頂点をくりくりとこねくられると、たまらず大声でよがった。

「ああっ、いいっ……! だ、だめ、感じ過ぎて……そこはあっ……いっ……し、痺れる……んんっ!」

高木は揉み込む手に力を入れながら、少しずつ腰を動かし始めた。
今まで以上に締め付けがきつく、抜き差しするのがひと苦労なほどだ。
ぬちゃっ、ぐちゅっ、と音をさせながら、媚肉が肉棒を根元までくわえ込んでいる。

「高木さんっ、いいっ……ああ、いい……」
「つ、辻本さん……」

高木は夏実を突き上げながら複雑な気持ちになる。
肉体的には素晴らしい快感だった。
あれ以来、やけに強くなってしまった性欲がすっきりと解消される気がする。
オナニーではとても得られない悦楽だ。

同時に、やはり美和子に対する申し訳なさはある。
しかし、それと裏腹に彼女への疑惑もあった。
今、こうしている時にも、もしかすると美和子は他の男に抱かれているのかも知れない。
高木がいながら、別の男とセックスし、今の夏実のようによがり悶えているかも知れないのだ。

そう思うと、高木は気が狂いそうな妬心に胸が灼けてくる。
それでいて、他の男に犯されて喘いでいる美和子を想像すると異様なほどに興奮してしまい、夏実の中に埋没しているペニスがさらに硬く、そして膨れていくのを感じていた。
また太くなった肉棒に、夏実が大きく喘ぐ。

「あ、ああっ……た、高木さんのすごっ……あはっ」

尊敬する美和子の恋人を寝取ったような錯覚に囚われ、夏実も倒錯した官能に酔い始めた。
屈辱の体位で犯され、膣内をこねくり回してくるペニスを感じ取っている。
もう夏実は自分から腰を動かしていた。
後背位で抱かれると、正常位では味わえない感じるポイントを次々と探られてしまう。
強い快感を得る箇所が突きやすいように、無意識に夏実自身が腰を動かして高木の責めをコントロールしている。
夏実は、高木が突き込んでくるたびに声を出さずにはいられなくなっている。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、うんっ、あっ、あっ、あっ、ああっ!」

夏実が積極的になってきたことで、高木もますます興奮していく。
バックで犯しているということも大きかった。
というのも、美和子とのセックスでは後背位はほとんどなかった。
セックスに流れで自然にそうなることはあったが、最初から腰を抱えて後ろから犯すようなことはなかった。
美和子が嫌がるから避けていたのである。
それだけに「そうしてみたい」という欲望はあったから、余計に夏実を貫く勢いも強くなる。
鋭い快感に仰け反りながらも、夏実は喘ぎつつせがんだ。

「くっ、いいっ……高木さん、ああっ……も、もっと強く……は、激しく責めて……ああっ」

夏実ほどの女にそう言われて冷静にいられる男はいない。
高木も、もう自分で制御できないほどに昂ぶっていった。
尻たぶに腰をぶちあて、ぴしゃぴしゃと肉を打つ音を響かせながら、出来るだけ深くまで抉り込んだ。
愛液で淫らに光ったペニスが、夏実の豊満な臀部から出入りしているのが見える。
抜くと襞がへばりついて顔を出し、挿入するとめくれ込んで膣内に押し込まれていった。

高木は夏実を肉棒で鋭く抉り、腰を強く突き込む。
まるで自分の身体ではない気がしていた。
美和子とのセックスでも、こんなに激しく動いたことはなかった。
その激しさに、夏実は大きく顔を仰け反らせ、掠れたような声で喘ぎ、よがった。

「んっ、んああっ、は、激しいっ……高木さん、激しっ……やあっ、いいっ……!」

男根をくわえ込んだ夏実の尻が大きく円を描き、ペニスとの摩擦感を愉しんでいる。
腰が強く打ち込まれると、大きな乳房がもげそうなほどにゆさゆさと揺れ動いた。

「あっ、ああっ……!」

ぐぐっと快楽の大きな波が寄せてくる。
夏実は背中をたわめてそれを堪えていた。
首を激しく左右に振りたくり「もう、たまらない」とばかりに髪を振り乱していた。
そんな夏実の痴態に高木の興奮も頂点に近づいた。
そうでなくとも媚肉の収縮が激しく、さっきから高木のペニスはびくびくと痙攣していたのだ。
ぐぐっとペニスがまた太くなり、夏実は目を剥いて喘ぐ。

「ああっ、た、高木さんの、またおっきくっ……あ、あ、だめ……ああ、ど、どうしよう……い、いきそうっ……」
「辻本さん、僕もそろそろっ……」

高木は目を堅く閉じ、歯を食いしばって射精感を懸命に堪えていた。
夏実をいかせるまで出せない、というオスの本能もあったが、それ以上に現実的な問題があった。
今日はまだ避妊していないのだ。
中に出すわけにはいかないという理性はもちろんあったが、それ以上に獣性が燃え上がっていた。
無理もないだろう。
夏実の痴態を見てそういう気持ちにならない男がいるとは思えなかった。
今にも絶頂しそうな夏実だったが、膣内で高木の肉棒がびくびくと震えてきて、そこで気づいた。

「あ……、高木さん、その……ひ、避妊は……」
「……コンドームはまだしてない」
「えっ……。じゃ、じゃあ一度抜いて、それから……あっ!?」

離れようとした夏実の腰が、男の手でがっしりと掴まれた。

「な、何を……」
「もう我慢できないよ」
「そんな……、だめです! あっ、ああっ……」
「こ、このまま……」
「だめ、絶対だめですっ。な、中なんて、そんな……」
「だ、出すから、いく時に抜くから……」
「……」

男のそんなセリフは信用できない、と、雑誌か何かで読んだ記憶がある。
確か頼子も似たようなことを言っていたように思う。
誠実な高木なら間違いはなさそうだが、今の夏実の身体が示す通り、理性は本能に勝てはしないのだ。

「やっ……ああっ、いいっ……高木さん、いったん抜い……いっ、あうっ……そんな、今は……いいっ……」
「はあっ、はあっ……辻本さんっ……い、いいかい?」
「だ、だめよ、ああ……あ、そんな激しくっ……いやあっ、い、いきそうになってるっ……ど、どうしよう、いっちゃいそうですっ……あ、いく……いいっ」

夏実がいきそうになっているその美貌を見るにつけ、高木の理性が消し飛んだ。
がすがすと音がしそうなほどに腰を打ち込み、夏実の深いところまで犯していく。
激しい責めに夏実の肉体は素直に反応し、しぶかせるように愛液を溢れ出させた。
夏実は背中を大きく弓なりにして顔をシーツに押しつけている。
自然に尻が持ち上がり、高木が突き込みやすい格好になっていた。
高木は真上から夏実にペニスを突き刺し、頂点へと導いた。

「あくっ、深いっ……やっ、激しい、だめっ……あ、いく、いきそうっ……あああ、だめだめっ、あ、いくっ……いく、いく、いく、いく、いくっ……高木さんっ……い、いきますっ!!」

膣が思い切り収縮し、夏実が昇り詰めたのがわかった。
尻肉をぶるぶると震わせ、全身を突っ張らせるようにしてガクガクと仰け反った。
これには高木も耐えきれず、背中に走る甘い電流を自覚した。

「くっ……、いくよっ!」
「だ、だめ、中っ……ああっ!」

びゅるるっ、びゅぷぷっ、どくどくっ。
びゅるんっ、びゅくくっ。

熱い精液を子宮口に浴びて、夏実の肢体に活が入る。

「あ、ああっ、出てるっ……やあっ、そんな……中に……中に出されてる……お腹の奥に当たってる……ああ……」

嫌がりながらも、夏実の表情は恍惚としていた。
牛尾によって教え込まれた膣内射精の快楽は、身体がしっかりと覚え込んでいる。
どくどくと胎内に精液を注がれ、夏実は身を震わせながらまた気をやった。

「やあ……高木さんのが……いい……あ、またいく……んむっ、いく!」

高木は射精するたびに腰を揺すり、夏実の尻を潰した。
夏実の腰が持ち上がるほどに押しつけて、奥深くで射精している。

ひさしぶりにナマで感じる女の膣に、高木の射精はなかなか止まらなかった。
夥しい量の精液が若い女刑事の胎内に送り込まれていく。
ようやく射精を終えて高木が肉棒を引き抜くと、夏実の膣から愛液と精液のミックスがどろりと溢れでた。
ペニスが抜かれると、まるで芯を抜かれたかのように、夏実の身体がベッドへドッと倒れ込んだ。

夏実は「はっ、はっ」と大きく息を吐き、脇腹や腹筋をびくびくと痙攣させている。
高木は、そんな夏実の尻肉を撫でながら「愛」とは何だろう、セックスって何だろうと考えていた。
ぴくぴくと絶頂の余韻に酔っている夏実の尻を見ていると、自分の股間がまた硬くそそり立ってくるのを感じた。

────────────────────────

早朝5時きっかりに高木からのスカイプを受けた美和子は、気のない返事を繰り返していた。
唯一、蘭の捜査の件に関しては、責任を感じるのか幾分生気のある反応をしている。

「特に進展はなし……ね」

─はい……。すみません。

「高木くんが悪いわけじゃないわ。何もないならそれでいいの」

とは言うものの、美和子は歯がゆかった。
高木は悪徳医師の善人ぶった表の顔にすっかり騙されているようで、ほとんど被疑者としては見ていないらしかった。
ことがことだけに蘭から直接供述を取ることは不可能だから、どうしてもレスリーを探るしかない。
だが、海千山千のレスリーに対し、お人好しの高木では、どのみちこうなるのはやむを得なかったのかも知れない。

高木の捜査状況を聞いても、蘭には特段変わった様子はなさそうだ。
ただ、定期的にレスリーのもとへ通っているらしいし、希に繁華街へひとりで出かけているようだ、という報告も気になった。
あとは美和子が帰国してから、自分で直接調べるしかないだろう。
美和子はふと思いついて、例のことを聞いて見た。

「……ところで辻本さんなんだけど」

─え、あ、は、はい。

なんだ、この返事は?
なぜ夏実のことを尋ねられて高木がどぎまぎしなくてはならないのだ。

「……どうかした?」

─あ、いえ、別に……。

「そう。で、どう? 辻本さんは」

─は、はい、それはもう。ちゃんと面倒見てますから。

「……そう。高木くん、辻本さんをどう思う?」

─どうって……。佐藤さんの言った通り、優秀な子だと思いますけど。熱心ですしね。

「あのさ……。高木くん、最近、辻本さんと……」

─え……?

「ううん、何でもない」

─はあ……。辻本さんがいて助かってます。男の僕じゃ行きづらいところでも辻本さんが行ってくれますしね。……ええ、良い子だと思います。

「……うん。わかった、ありがとう」

─……。

日本の高木は、まさに隔靴掻痒を感じていた。
こうしてネットを通じて相手の顔を見て、話もリアルタイムで出来ている。
なのに、どうしてこうもどかしいのだろう。
今、美和子がそこにいれば抱きしめていたに違いなかった。

だが美和子本人はどう思っているだろう。
毎朝のスカイプだけは辛うじて来るものの、話す内容も乏しく、時間も短くなる一方だ。
美和子への愛情が失せたわけではない。
それだけは断じてあり得ない。
美和子の方もきっと同じだと信じたかった。
だがその裏で、美和子の言葉をヒヤヒヤしながら聞いていたのも事実だ。
夏実との関係がバレたとは思わないが、探りを入れてくるような美和子の態度が気になった。

高木も何だか落ち込んでくる。
美和子の疑惑が気になっているくせに、自分だって夏実と関係してしまっている。
他人のことを言えるのか、本当に美和子を愛する資格があるのかと思うと悄然としてきた。
こんな時こそ、優しく微笑みかけてほしかったが、当の美和子は高木と視線を合わせようともせず、俯きがちだ。
そして今日も、美和子から通話を切ってしまった。
「じゃあ、また」の挨拶はあったものの、呆気ない。
高木は悄然として接続を切った。

「……」

素っ気ないと感じていたのは美和子も同じだった。
確かに今の自分は、白鳥との行為を強要され続け、元気があるとは言えない状態だ。
それもこれも、白鳥に犯された屈辱もあるが、それ以上に高木への後ろめたさのためである。
もちろん自分に対する情けなさもあった。

だからこそ、高木に色々聞いて欲しかったし、励まして欲しかった。
一言でいい「愛している」と言って欲しかったのだ。
甘えと承知してはいるが、今の美和子にはそれが不可欠だった。

恋人同士としてつき合っているとはいえ、まだ美和子は高木に対して完全に「甘えた」ことはない。
「年上」「先輩」という意識が強いからだ。
そんなものは恋人同士の間では大した壁にならないのに、このカップルはもう一歩は踏み込めなかったのだった。

もうそんな事態ではない。
互いが相手の浮気を疑っている状態なのだ。由美経由の情報しか知らない美和子は半信半疑だが、高木は直に疑惑の光景を見ている。
そんなはずはないと思いつつも疑心暗鬼は晴れなかった。
どちらかが踏み込むべきだったが、ふたりともその勇気がなかった。
高木も美和子も「いずれ日本ではっきりさせよう」と思っていたからかも知れない。

「……」

美和子は疲れた表情でベッドに腰を下ろした。
乱れきったシーツが生々しかった。
夕べはここで白鳥に身を任せたのだ。
抱かれた時間が早かったから、彼は夜中のうちに帰って行った。
美和子はさっき目が醒めたばかりだったのだ。
他の男に穢された身体や、何度も犯されて疲れ切った顔を恋人に見せたくなかった。
早々に切ったのもそのせいだが、高木はそうは思ってくれないだろう。

どうすればいいのか、さっぱりわからなかった。
今ではもう白鳥に対する嫌悪感はほとんどない。
仕事は普通にしているし、終われば食事に行くのも日課になっている。
それで済めば問題はないのだが、その後のセックスまでが日常化してしまっていたのだった。
何度も抱かれた上、繰り返し激しい絶頂を味わわされたからなのか、誘われても断らなくなってしまっていた。

「断れない」ではなく「断らない」のだ。
肉体が男を──白鳥を欲しているというのはわかる。
おぞましいが、過去に受けたレイプや激しい調教で女体が熟れ切り、身体中開発され尽くしてしまったせいだ。
もともと感じやすかった肉体はより敏感となり、鋭い快感と深い官能を得るようになっている。
生殖とは本能なのだから、これを我慢したり拒絶することは難しかった。

白鳥に誘われるたびに「期待」してしまっている自分を軽蔑したくなるのだが、いざ抱かれてしまうと彼の責めに取り込まれてしまい、セックスに没頭してしまう。
事後の後味の悪さや後ろめたさは募るばかりだが、最近はそんな背徳感まで快感にプラスされてしまっている。
美和子には、どうすればいいのかわからなくなっていた。

────────────────────────

その夜も、当然のように白鳥とセックスしていた。
白鳥の責めは多彩であり、優しく愛撫し、宝石でも扱うかのようなセックスをしたかと思えば、一転してレイプ紛いの強引な性交を仕掛けてくる。
どの行為にも美和子は鋭敏に反応し、白鳥の責めに応えてきた。
恋人同士のような交わりでも強姦じみた絡みでも、最終的には美和子が悲鳴を上げるような激しいセックスに持ち込まれてしまう。
白鳥との性交にすっかり馴染まされ、巻きこまれてしまった美和子は、どう犯されても感じてしまい、激しい絶頂を繰り返した。
そして女体の奥深いところに精液を受け、極彩色の官能に染まっていた。

今夜は、部屋に連れ込まれるや否や、いきなり服を剥ぎ取られた。
美和子が抗議する暇もなく、あっという間にロープで縛り上げられ、SMチックに犯されることとなった。
女を物のように扱い、いいように弄ぶ白鳥に怒りを感じたが、それ以上に「これからされること」に妖しい期待を抱いてしまうのだった。

「ど……どうしてこんなきつく縛るの……」

両手が後ろに回り、肩胛骨の辺りで縛られている。
その縄尻が前に回り、乳房の上下に二重三重と巻き付いて、豊満な乳房を括り出させていた。
脚だけは縛られていないが、もとより美和子は逃げるつもりなどなかった。

「縛らなくても……」
「言うことは聞く、ですか? それはわかってますよ。もう美和子さんは僕のものなんだから……」
「か、勝手なことばっかり……」

悔しそうに顔を背ける美和子を見ながら、白鳥はにやついていた。

「恋人みたいなセックスも良いですけど、たまにはこうやって乱暴されるような激しいものいいでしょう」
「……」
「そうなんじゃないですか? 美和子さん、無理矢理に犯されるようなセックスが好きじゃないですか」
「ち、違うわ!」

美和子は美貌を歪め、忌まわしそうに顔を振りたくった。
自分でも薄々そのことには気づいていたが、指摘されたくはなかった。
パレット事件で牧田やトッドに責め抜かれた時の体験があまりに強烈かつ鮮烈だったせいか、美和子の身体はそうした烈しい責めに順応し、強い快感を得るようになっていた。
だからこそ、優しいだけの高木のセックスが物足りなかったのである。

縛られたままベッドに座り込んだ美和子は、白鳥に肩を抱かれると身を固くして抗う。
白鳥が顔を寄せキスを求めてきても、顔を背けてそれを拒んだ。
エリート官僚の表情が歪み、女を嘲る。

「今さら意地を張ってどうなると言うんです? 始めは嫌がっても、抱かれてしまえばすぐその気になるくせに。ふふ、いつものようにね」
「やめて」

白鳥は皮肉そうな笑みを浮かべたまま、美和子の顎を掴んで強引に顔を向けさせた。

「やっ……」
「……その強気なところが実に良いですよ、美和子さん。ついこないだ僕に犯されて「高木くんより気持ち良い」と叫んだのがウソみたいだ」
「くっ……、い、いや! あっ……んむっ」

男の力で顎を掴まれた美和子はそれ以上顔を動かすことが出来ず、白鳥の唇を押しつけられた。
唇は重ねられたものの咥内は許さないとばかりに、ぎゅっと口を閉じたままだ。
それでも、白鳥に唇を吸われ、舌で舐められているうちに声が甘くなってくる。
股間も熱くなってきてしまった。

「ん……んん……んむう……ぷあっ」
「よし、いい顔になってきましたね、ふふ……。じゃあ、こっちも」
「やっ!」

白鳥の手が性器周辺に伸び、内腿や鼠蹊部をまさぐってくると、ピクリと身体を震わせる。
さらに乳房も愛撫されてくると、呻くような喘ぎ声を漏らし始めた。
さすがにまだ垂れるほどではなかったものの、美和子のそこはもう湿り気を帯びている。
無理矢理のキスと股間や胸への愛撫のためだろうが、恐らくは身体を縛られたことも影響している。
自由を奪われて辱められると思うだけで肉体は男を受け入れる準備を整え、心は荒々しいセックスを期待してしまっているのだ。

「ああ……」

美和子は微かに顔を上げ、控え目に喘いだ。



      戻る   作品トップへ  第十二話へ  第十四話へ