霞ヶ関の東京警視庁庁舎。
午後八時過ぎということもあって、刑事部捜査第一課の部屋も閑散としている。
第三係でも、残っているのは佐藤美和子警部補と目暮警部だけだ。
高木巡査は飲み物を買いに出ている。
特に事件もなく、他の刑事たちはひさしぶりに早帰りしていた。
美和子と高木は、いわゆる「事件待ち」だ。
稟議書をエクセルで作っていた美和子が疲れを感じ、椅子に座ったまま「うん」と
伸びをしたその時、電話が鳴った。
反射的に受話器を取る。
「はい、捜査一課。……あら毛利さん、おひさしぶりです」
知り合いからの電話に、美和子の表情も少し緩む。
事件の一報ではなかったようだ。
しかしその美しい顔がすぐに曇る。
「……え? ああ、はい、いらっしゃいますよ。代わりますか?」
美和子は、ポーズを押して保留にすると目暮に声を掛けた。
「……警部、電話です。毛利さんから」
「ほう、珍しいな。ん? 何かあったのかね?」
目暮は敏感に部下の表情の変化を見取っていた。
「ええ……、何か少し様子が変です。どこがどう、とは言えないんですが……」
「……そうか」
「外線2番です」
「ん」
目暮は少し間を置いてから、おもむろに受話器を取ってフックボタンを押した。
努めて声を明るくして電話に出る。
「やあ毛利さん。おひさりぶりですな、どうしました?」
─……どうも。
「……どうかしましたかな? 何か急用でも?」
─実は厄介なことに巻き込まれましてね。
「ほう」
目暮が目で合図すると、美和子は小さく頷いて手近にある電話の受話器を取った。
すぐに耳に当てると外線2番のフックを押し、送話口を手で押さえながら目暮と小五郎の
会話に聞き耳を立てる。
目暮の抑えた声が聞こえる。
「どういうことです?」
─娘の蘭が……
「蘭ちゃん? 蘭ちゃんがどうしたんです?」
─事件に巻き込まれた、としか今は言えません。
「……。危険はないんですか?」
─……恐らく、危害を加えるようなことはしないと思います。実は、犯人側から連絡が
来ました。
「……! 誘拐ですか!」
急き込んで聞く目暮の声に対し、小五郎の声がくぐもっている。
美和子には、その沈痛な表情が目に浮かぶようだ。
─誘拐……ではありません。蘭は、やつらのところに通ってはいるようですが、家には
帰ってきます。
「……? どういうことです?」
そう言ったところで、警部はハッとした。
脅されようとも、蘭が犯罪に荷担することはまずないだろう。
ということは「何か」をやらされている、あるいはされているのだ。
女性、しかも美人であることを考えれば、性犯罪の可能性と結びつけるのは容易だ。
幾分、青ざめた表情で目暮が尋ねた。
「ま、まさか蘭ちゃんに……」
─今は言えません。とにかく、呼び出しを受けました。やつらの話によれば、そこに蘭も
いるらしい。
「それで、毛利さんを呼び出して、連中は何をしようというんです?」
─わかりません。そこで何か要求を出してくるんじゃないかと踏んでるんですが……。
「い、いやしかし、そこへ乗り込むのは危険ですよ! 我々が……」
─いや、待って下さい、警部。やつらの犯罪の内容……蘭がされているかも知れない
仕打ちに関しては……わかりますでしょう?
「……」
─親としては……なるべく表沙汰にしたくはないんです。出来うることなら警察沙汰は
避けたいとすら思う。
「毛利さん!」
もと刑事とは思えぬ言葉に目暮の声も高ぶったが、小五郎は冷静なままだ。
─いや警部、誤解せんでください。もし私……俺が警察沙汰にしたくないと本気で思って
いたら、こうして警部に電話なんかしませんよ。
「では……」
─取り敢えず、俺は乗り込もうと思っています。呼び出すくらいですから、いきなり殺す
ようなマネはせんでしょう。
「……」
─その上で連中を確認してきます。どんなやつらなのか、目的は何なのか。
「そ、それはいいですが、じゃあ我々は指をくわえて見ていろ、と?」
─いや、ですから出動して下さい。
「それなら……」
─まず俺が乗り込みます。警部たちはその周辺を固めておいて欲しいんです。中で何が
あるのか……、交渉してくるのか、それとも脅迫されるのか、それはわかりませんが、
いずれその場では結論を出さず、後日返事をする、としておきます。その場で決断を
促されたとしても、そこから出さないということはないでしょう。だから……、そう
だな、俺が中に入って2時間、いや3時間して出て来ないようであれば、その時は……。
「……その時は突入してよろしいんですな?」
─やむを得んでしょう。とにかく、俺と蘭はそこから脱出するつもりです。脱出出来たら
その直後に、不可能だった場合でも、3時間後に警察は介入してください。
「わかりました。で、時間は? 今すぐですか?」
─これから連中がクルマで迎えに来るようです。場所がわかれば携帯で知らせますが、
連絡がない場合は俺の携帯の電波を拾って下さい。GPSで確認できるはずです。
「わかりました。じゃあ早速、手配します」
─警部。くれぐれもお願いしたいんですが、事件後の情報公開は……。
「わかってますよ。少なくともマスコミ対策は万全にします。被害者の名前や詳細な内容
に関しては伏せるつもりです。人権問題だからと言ってね。まあ、被疑者を起訴してから
の公判では、さすがに伏せるわけにもいきませんが……、ああ、その点は奥さんの
妃弁護士とでもご相談されればいい」
─そうですな……。とにかく、よろしく頼みます、警部。
「わかりました。連絡を待ってますよ」
目暮がそう言って電話を切る前に、美和子は他の電話に取り付き、課員たちを緊急招集して
いた。
─────────────────────
「おい何だ、そのガキは?」
遠藤が怪訝そうにコナンを見て言った。
そのコナンは灰田に抱え込まれ、脚をジタバタさせてもがいている。
コナンの抵抗振りにうんざりしたのか、灰田は顔を顰めて首に掛けた腕に力を入れた。
「おら、暴れんなよ、こいつ。苦しいだけだぞ」
「ぐ……ぐ……」
灰田の左腕で腰を抱えられ、右腕は喉を締め上げていた。
宙に浮いた足を暴れさせているのだが、如何せん小学1年生の身体では大した抵抗に
ならない。
加えて喉を絞められて呼吸困難だ。
頸動脈への圧迫が強まれば失神、ヘタをすれば死んでしまう。
それでもバタバタ暴れる小学生を呆れた目で見ながら遠藤が聞く。
「公、何だってんだよ、そいつは」
「知りませんて。何だか判りませんが、この野郎、麻酔か何か使って岩村さんを……」
「何だ、麻酔だと!?」
「コっ……コナンくん!?」
ふたりの会話に割り込んで、蘭の悲鳴にも似た絶叫が上がった。
なぜ、どうしてコナンがここにいるのだ。
コナンが苦しげに呻いた。
「く……、ら、蘭……」
「や、やめて、離してあげて! コナンくんは何の関係もないわ!」
「俺だってこいつに用があったわけじゃねえや。なのにこのガキが……」
「蘭っ……ぐぐ……」
「は、離して! 死んじゃう、コナンくんが死んじゃうわ!」
「おい、公」
「はい」
灰田の腕が少し緩む。
コナンは何度も大きく深呼吸して酸素を求めた。
それでもまだ腰は抱え込まれ、腕も顎にかかっているから、逃げるとか反撃するとかは
問題外だ。
遠藤は、コナンをパイプ椅子に座らせ、縛り上げるように灰田に言った。
それを見ながら眉を寄せて聞く。
「さっきの話だけど、麻酔って……」
「この腕時計らしいですけどね、こっから針みたいのが飛んで岩村さんに……」
「刺さったってのか。すげえな、まるでジェームス・ボンドじゃねえか」
遠藤がやけに感心したように呻いた。
「で、何だってこのちびっ子007がこんなところにいるんだ?」
「わかりませんよ」
灰田はブスッとした表情で答えた。
「俺の方が聞きたいくらいだ。禎一の話じゃ、来るのは蘭の男のはずだったじゃない
ですか。どこをどう間違えたらこんなガキになるんだか。まさかこいつが蘭の恋人だ
とか言うんじゃないだろうな」
「いや……、そんなはずは……」
禎一の方も驚いている。
あの時、蘭が電話していた相手は間違いなく恋人の工藤新一のはずである。
電話している最中はずっと蘭を見張っていたから、他にしていたとは思えない。
電話口での蘭の話も、とても芝居をしているとは思えなかったし、そんな余裕もなかっ
たろう。
だいいち、小学生に助けを求めてどうするというのだ。
いかに蘭が錯乱していたとはいえ、そんな馬鹿なマネはすまい。
そのコナンは伊達眼鏡の奥から、大きく目を開けて蘭を見ていた。
「ら、蘭……おまえ……」
「やっ……!!」
そこで蘭は顔を真っ赤にした。
「み、見ないでコナンくんっ! 見ちゃだめっ!」
「……」
蘭の血を吐くような叫びを耳にしても、コナンは目を逸らすことが出来なかった。
将来──それも近い将来実現するかも知れないが、今のところは夢想するしかなかった
蘭のヌードがそこにあったのだ。
蘭は全裸だった。
空手などという格闘技をやっているにも関わらず、その肢体は実に女らしく、しなやか
だった。
特に長い脚が印象的だ。
しなやかに伸びきった美脚は程よく脂肪が乗っている。
太腿などはたくましいくらいに立派なのに、太いという印象が全然ない。
すっと自然に膝で締まり、それがまたふくらはぎでふっくらとした官能的なラインを
描いていた。
しかし、蘭の脚くらいなら、泳ぎに行った時にも目にしている。
衝撃的だったのは乳房だった。
水着の上から見るのがせいぜいだった蘭の胸が、今目の前で露わにされている。
水着からでも充分にわかったその豊かさは本物だった。
抜けるように真っ白く見事な膨らみを見せている乳房は、ピンと上を向いている。
後ろ手に縛られているせいか、大きく胸を張っている格好になっているせいもあるだろう。
加えて、臀部の迫力には圧倒される。
いわゆる安産型で、むちっと大きく腰骨が張っていた。
それでも「どっしり」とした印象がないのは、若さと全体的にスリムで着痩せすることに
影響しているらしい。
コナンでなくとも見とれてしまう裸身だった。
そんなコナンを見て、遠藤らが爆笑した。
「おいおい、こいつガキのくせに食い入るように蘭のヌードを拝んでやがるぜ」
「まだ一年坊主だろ? とんだませガキだな」
「けどなあ……」
まだ禎一は首を捻っている。
「なあ、おまえ。何でここがわかったんだ?」
「……」
「後をつけられたってことはないのか?」
「と思いますがね。相手が刑事や探偵ならともかく、こんなガキですよ? 気がつき
ますよ、俺でも」
「するってぇと……、じゃあその工藤新一か? そいつから聞いたとか」
「そりゃあるかも知れませんけどね、でもそいつの代わりにこいつが来るって意味が
わからんですよ。いくら怖じ気づいたとしたって、代理に小学生を立てるバカはおらん
でしょう」
「そりゃそうか。その工藤とかってやつ、何か有名な高校生探偵らしいな。そんなやつ
なら、自分の恋人が攫われれば当然自分で来るだろうしな。応援呼ぶにしたって警察で
あって小学生じゃなかろうよ」
「そういえば、そのガキ……コナンてのか? そいつは何なんだ?」
「はあ、蘭の家に居候してるガキですよ」
「居候? まさか攫われたお姫様を助けに来たナイトが小学生だとは思わなかったな」
そう言って三人は笑った。
蘭は身を固くして耐えている一方、コナンはまだ蘭を凝視したままだ。
「蘭……」
コナンの声を聞いて、遠藤が思いついたようにつぶやいた。
「そいつ、年上のお姉さまを呼び捨てにしてるじゃねえか。血縁もないんだろ?」
「……!」
コナンはギクッとして口をつぐみ、蘭はハッとしたようにコナンを見た。
蘭自身、過去にコナンが新一なのでは?という疑問を抱いたことはあったのだ。
ただ、いくら何でも当時高二だった青年が、いきなり小学生並の体格になることなど
あり得ないとして、その疑問を打ち消していたのである。
蘭は大きく目を開いてコナンに言った。
「ま、まさかコナンくん……あなたホントに……」
「ちっ、違うよ、蘭姉ちゃん! ぼ、僕は江戸川コナンだよ! 忘れたの!?」
「そう……思うんだけど……でも……」
「そうだよ」
腕組みしたまま遠藤が続いた。
「じゃあ何で工藤新一に電話したのにおまえが来るんだ?」
「……」
「答えねえな。じゃ確かめるか、おう公!」
「はい」
「そいつの持ち物、漁ったか?」
「はあ。さっきの腕時計の他は携帯……ですね。あれ? こいつ二台も持ってやがる」
「それだ」
遠藤はにやっとした。
見れば、同じ機種のようである。
エナジーレッドが鮮烈な携帯電話だ。
「禎一、蘭の携帯は?」
「ありますが……」
「そいつのアドレス調べろ」
「あ……、なるほど」
「おい、よせ! やめろ!」
なぜかコナンは大慌てした。
蘭にはその理由がわからない。
二台持っている訳も、それを調べられて慌てふためく理由もだ。
「新一……のがありますね。それと……、ああ、あった。コナンてのもあります」
「かけてみろ」
禎一は、まずコナンの携帯にかけてみた。
一台の携帯が鳴る。それを確認してすぐ切ると、今度は新一の方の番号で送信した。
コナンは目を堅く閉じていた。
「お、鳴ったな」
さっきとは別の着メロが、もう一台の携帯で鳴っている。
蘭にも聞き覚えのある音色だ。
新一の携帯である。
蘭は呆然としていた。
「コナンくん……、どうして……どうして新一のを持ってるの……」
「……」
「そうか。理由はわからんし、ちょっと信じられねえが、コナンとやら、おまえが新一の
正体ってわけか」
「バ、バーロー! そんなわけあるはずないだろ!」
「……!」
蘭はそこで気がついた。
その口癖は新一も同じではないか。
コナンも使っていた。
別に気にも留めなかったのだが、よく考えてみればそう誰でも使う言葉ではなかった。
事実、蘭はコナンと新一以外、今時こんな言葉を使う人間を知らない。
「し、新一……ほ、本当に? コナンくん、本当に……」
「ち、違う、違うって! 俺は、いや僕は江戸川コナンだってば!」
「じゃあ、どうして新一の携帯を持ってんだよ、おまえが」
「……」
それを聞かれるとコナンには答えられない。
その様子を見て、蘭もだんだんとそう思えてきてしまった。
思い当たることはいくつもあるのだ。
いくら頼んでも新一がまったく会ってくれなくなったこと。
新一とコナンは互いに知らないはずなのに、時に通じているとしか思えないような事情を
知っていたこと。
そして今日は携帯という物的証拠まで出てきた。
どうあろうと、見知らぬはずの新一の携帯をコナンが持っている理由はないのだ。
そう考えれば、助けに来たのが新一ではなくコナンだったというのも納得がいく。
事情はわからないが、新一はコナンになっていたのだ。
それを知られないため、蘭にも会わなかったのである。
コナンとなって毛利家に居候したのもそのせいなのだろう。
「コナンくん……新一……、ね、新一、本当に新一よね?」
「……」
見る見るうちに目の端で涙が溜まってきた蘭を見ていられなくなり、コナンは視線を
逸らせた。
もう自白しているのと一緒だ。
「新一……新一っ……! ごめんなさいっ、あたし……」
「蘭……、蘭、俺は……」
見つめ合うふたりを、にやにやしながら遠藤がからかった。
「なあ工藤新一。どうだ、おまえの思い人のヌードは」
「……!」
「いい身体してんだろ、ああ? こんないい女を放ってどっか行ってたなんて、おまえ
アホか? まあ、その身体じゃ、この姉ちゃんをどうにも出来なかったろうけどな」
そう言われて、また蘭は現実に引き戻される。
コナンに見られているだけでなく、新一にも裸を見られていることになるのだ。
それもこんな恥ずかしい格好を。
「いや……新一に……コナンくんに見られてる……」
消え入りそうな声で蘭はそうつぶやいた。
目を閉じ、顔を振りたくっている。
その美少女をにやにやしながら見つつ、遠藤が命じた。
「公! おまえ、竹を起こしてあっちをやって来い」
「は、はあ……」
灰田がきょとんして顔を上げた。
「呼ぶまできっちりやって来いや」
「へへ……、わかりました」
公はいやらしいうすら笑いを浮かべつつ、部屋を出て行く。
遠藤はそれを見送ってからドスの利いた声で言った。
「さぁて、蘭。今度はおまえへの罰だ」
「い、いや……」
「いやじゃねえ。こんなガキ呼び寄せやがって。まあ、これも結果オーライになりそう
だからまだいいがな」
「ど、どういうことですか……」
「後でわかるさ。だが罰は罰だ。おい禎一、あれだ」
「くくっ、そう来ると思いましたよ。俺も蘭にやってみたかったんすよ」
禎一は喜々として小道具を持ち出し、にやけた笑みを浮かべながら蘭に近づいていく。
見る見るうちに蘭の顔が青ざめた。
「いっ……いや……そんなのいやあああっっっ……!」
「おとなしくしろよ、蘭。言うこと聞かねえってんなら、あのガキがどうなるかわか
らんぜ」
「そんなっ……!」
蘭は唖然とした。
新一状態ならともかく、コナンは小学一年生である。
成人男子が首を絞めたら、たやすく窒息するか、ヘタをすれば頸骨を折ってしまう
だろう。
立ち上がった遠藤の大きな手が、コナンの首に食い込んでいる。
「や、やめて、コナンくんには何もしないで!」
「コナンじゃなくて新一だろ?」
「おっ、同じことですっ! 新一を殺さないで! コナンくんに手を出さないで!」
「いいとも。じゃ、わかってるな?」
「……」
蘭は諦めたようにがっくりと肩の力を抜いた。
黙って遠藤らの手にかかっている。
見ていられなくなってコナンが騒いだ。
パイプ椅子をガタガタさせて、懸命にロープを解こうとしている。
小さなポケットナイフを持っていたが、それもさっき身体検査された時に奪われていた。
「蘭っ! おまえらやめろ! 蘭に何を、ああっ!?」
コナンの絶叫が迸った。
─────────────────────
からんからん、とドアの鈴が鳴った。
「はい」
パソコンで訴訟資料を閲覧していた妃法律事務所の栗山緑は、そう返事をして立ち
上がった。
昼食時で、事務員は外へ食事に出ていて、今は緑ひとりだけだ。
緑も普段は外食だが、今日は公判が迫っていることもあって忙しく、あらかじめ
コンビニで買っておいたサンドイッチでそそくさと済ませていた。
デスクから立ち上がって衝立の横から顔を出した緑の顔が「まあ」という表情に
変わった。
「……こんちわ」
「こんにちわ。お珍しいですね、毛利さんがお出でになるなんて……」
緑は目を丸くして驚いていた。
妃英理がこの男──夫の毛利小五郎と別居していることはよく知っている。
つまらないことがきっかけとなり、双方意地を張り合っての結果だと聞いていた。
つまり、互いに憎み合いいがみ合っての別居ではなく、どっちも引っ込みがつかなく
なっただけなのだろう。
だから、英理も小五郎から電話があったりすると、普段の沈着さはどこへやら、妙に
意識してそわそわしたり、逆にしどろもどろになったりする。
融通が利かぬ、お堅く冷徹な腕利き弁護士なのに、自分のこととなると途端に不器用
になる。
その人間くさいギャップが面白かった。
尊敬すべき人柄と実績を兼ね備え、緑にとっても憧れの弁護士が英理だ。
彼女はその秘書を務めているが、緑自身も司法試験をパスし、弁護士資格は持っている。
だから形式上は妃法律事務所の雇われ弁護士なわけだが、何分にも英理が売れっ子で
多忙なので、どうしてもサポートが必要になってくる。
そこで緑が買って出たわけだ。
秘書なら常に英理と一緒に居られるし、その弁護士活動もつぶさに目に出来る。
修行の一環だと思っていた。
そんな英理が感情を隠そうと懸命になっているのを見ると、不謹慎ながら微笑ましいと
思ってしまう。
年上の先輩弁護士、しかも所長に対して失礼な感情だろうが、彼女の慌て振りが楽し
かった。
しかし、そういう事情もあって、小五郎がここを訪ねてくることは滅多にない。
連絡があれば電話だし、会うことになったとして外である。
英理が小五郎の事務所に行くこともない代わりに、小五郎がここへ来ることもなかった
のだ。
小五郎は心なしか元気のない声で尋ねた。
「ちょっと話があるんだが……、英理は?」
「ああ……、それがですね」
「ん? いないのかね」
「はあ……」
緑も少し困った顔でそう答えた。
「時間が昼だからな、メシでも食いに行ったか。午後には戻るかな。じゃ、少し待たせて
もらおうか」
「それは構いませんが……」
「……何か不都合でも?」
「こちらへどうぞ……」
緑は、立ち話も何だと思ったので、英理のデスクの前の応接セットまで小五郎を導いた。
コーヒーの支度をしながら、話すべきかどうか迷っていた。
「どうぞ」
「お構いなく。で、何かあったのか?」
「あ……、それより毛利さんは今日どうして?」
「ああ……」
小五郎はカップを手にしたまま少し俯いた。
揺れるコーヒーの斑紋を見つめながら言う。
「さっきも言ったが、少しやつに話がある。それより、君の方こそ何か言いたそう
だったが、何だ?」
「はあ……」
緑はぽつりぽつりと話し始めた。
ここ最近、英理がよく外出するようになったのである。
拘束時間は一応決まっているとは言え、サラリーマンとは違う。
仕事によってはかなり時間が不規則になる。
夜通し資料を読み、作成することもあれば、現場や相談者宅まで訪れて調査すること
もある。
逆に、時間が出来ればいつでも休む。
そうしないと身が保たないからだ。
だから、気軽に外出することがあってもいいが、秘書が心配するほどだというのは普通
ではない。
「外出……ね。どこへ行ってるか、なんてのは……」
「わかりません。一度お尋ねしたことがあったんですが、はっきりとは教えてくださら
なくて。それに、プライベートだったら、私が余計なことを言ったり聞いたりするのも
失礼ですし」
「弁護士の行く先を秘書が把握するのは当たり前だろう」
「でも、プライベートまでは……」
「……だが、そんなに頻繁なのか?」
「そうですね……、少なくとも週に一度は。二、三回あることもあります」
「時間は? まちまちか?」
「ええ……。どういうあれかわかりませんけど、先生が一息ついた辺りを見計らって
連絡が入るんです」
「連絡? 事務所へかね?」
「最初のうちは。でも最近は先生の携帯に直接……」
「……」
どうも様子がおかしい。
蘭だけでなく英理までだ。
まさかとは思うが、同じ問題ということはないだろうか。
好意的に見れば、蘭が何か悩み事を英理に相談している、と解釈することもできる。
しかし、それがこんなに長引くとは思えないし、相談されている英理の側まで様子が
おかしくなるというのは変だ。
それほど深刻な問題であれば、蘭からはともかく英理から小五郎に何か一言あっても
おかしくない。
いがみ合っているわけではないのだ。可愛い娘が何かトラブルに巻き込まれていて、
しかもそれが英理だけでは解決できない(そういう状況は想定にしくいのだが)ので
あれば、当然、蘭の父であり、英理の夫である小五郎に話が行くだろう。
そこまで考えて気がついた。
男には話しにくい類の問題なのだろうか。
だから蘭は英理に……。
小五郎は顔を上げて、心配そうな緑に聞いた。
「……それが何なのか、どんな用件で誰に会っているのかは、まったく言ってないん
だね?」
「はい……」
「そうか。話は変わるが、蘭は最近ここへ顔を出すかな」
「え? 蘭ちゃんですか? そう言えば……」
緑は、人差し指を顎に当て、知的な美貌を上向かせて考えている。
「……そう言えば、ここんとこ、来てませんね」
「それは、いつくらいから?」
「そうですね……、もうかれこれふた月くらいは来てないかなあ。今までは週に一度
くらいは顔見せてたんですよ。忙しそうな時でも、そうだなあ月に2回は」
「それが、ぱったり?」
「ええ、ぱったり。先生も心配してたみたいで「どうしたんだろう」って、よくおっ
しゃってましたわ。蘭ちゃんに電話もよくしてたみたいだけど……」
蘭がここへ来なくなってふた月。
小五郎が蘭の様子に気づいたのはここ半月ほどのことだが、よくよく思い出してみれば、
確かにその頃から変だったかも知れない。
コナンによると、やはり二ヶ月くらい前から様子が変だったと言う。
そして英理が人知れず出かけ、これも様子がおかしくなってきたのは一ヶ月くらい前
からである。
これは何か関係があるのだろうか。
だとすれば、両者の一ヶ月にズレは何だろう。
小五郎は、すっかり冷めたコーヒーを一息で飲み干すと勢いよく立ち上がった。
「毛利さん……」
「よくわかったよ、ありがとう」
「あ、あの、毛利さんがいらしたことは先生がお戻りになったら必ず伝えますから」
「いや……、いい」
「は?」
「俺がここへ来たことは内緒にしておいてくれないかな」
「そ、それは構いませんけど、でも何で?」
「……面倒なことが絡んでるのかも知れん。済まんが頼むよ」
「……わかりました。でも毛利さん、何かわかったら……」
「わかってる。必ず君にも教えるから」
小五郎がそう答えると、緑は小さく頷いた。
何だろう、この閉塞感、そして居心地の悪さは。
この聡明な弁護士秘書は、何か嫌なことが起こりつつある、いや起こっているような
直感を掴んでいた。
─────────────────────
「や……ああ……も、ああ……あ……」
蘭が力なく呻いている。
両腕を背中に回され、肩胛骨の辺りで縛られている。
高手小手という縛り方だ。
同じ縄で乳房の上下を厳しく締め付けている。
上半身はヌードで、下半身はショーツなしで、白のガーターベルトと同色のストッキング
を履かされていた。
ベルトもストッキングもレース編みされていて、純白という色も合わさって蘭らしい清純さ
を表している。
そのくせパンティを履いていないその姿は、妖艶なほどのセクシーさと清楚さが妖しく
混じり合い、ハッとするほどの色気を放っていた。
その蘭の股間には、白い麻縄が通されている。
その両端を、部屋の両端にいる遠藤と禎一が握っていた。
「やあっ……あっ、あ……ああっ!」
「くくっ」
禎一が笑いながら紐を引っ張ると、蘭はよろけながらも一歩ずつ前へ歩いて行く。
そうせざるを得ないのだ。
禎一の紐の先は、蘭の乳首に直結していた。
蘭の乳首にはニップル・クリップが噛みついていた。
鰐口タイプで、こんなもので挟んだら飛び上がるほどに痛そうだが、実際にはそうでも
ない。
乳首を挟み込む部分にはクッションとゴムで覆われていて、敏感な乳首を傷つけない
ようになっている、
それでいて、がっちりとくわえ込んでしまい、引っ張って取るのは無理そうだ。
蘭が立ち止まれば、禎一は躊躇なく紐を引っ張るから、蘭の乳首は強く前に引っ張られ
てしまう。
ピンと紐が張り、乳首を根元から引っ張ってくるのだ。
その苦痛から逃れるには、蘭は前に進むしかない。
しかし、そうもいかない事情があった。
蘭の股間に通されている縄には、ごつごつといくつもの瘤が作ってあったのだ。
しかも遠藤と禎一は、そのロープをぐいと上へ引き上げていく。
いやでも股間を擦られてしまう。
30センチくらいの間隔で大きな結び目があるから、そこが蘭の股間にあるクリトリス、
媚肉、そしてアヌスをいやでも擦ってくるのである。
結び目がクリトリスを擦り、膣を擦り、肛門を擦っていく。
やっとそれが終わったかと思うと、すぐに次の瘤がまたクリトリスに迫ってくる。
歩かされる限り、蘭はこの責めから逃れる術はない。
なのに蘭には、これを十回も往復するよう遠藤に命令されていた。
悪辣なのは、この股縄に酒が染みこんでいたことだ。
麻縄が滴るほどに振りかけられたテキーラは、擦られるたびに蘭の媚肉やアヌスへ
染みこんでいく。
その強烈なアルコール分が、この聡明な美少女から理性を奪い、淫靡な悦楽をもたらして
いった。
「あ、あう……あっ……くっ……こ、擦られて……ああっ!」
酒で火照った媚肉や肛門、肉芽が、強く擦れていく。
結び目のもたらす強烈な刺激に、思わず蘭が座り込もうとすると、すかさず遠藤らが縄を
引き絞ってくる。
「ああっ……!」
強い圧迫による激しいほどの刺激に、その裸身はビクンと大きく反応して、蘭はぐぐっと
伸び上がる。
爪先立ちになっても、まだ股間に縄が食い込んでいた。
それが精一杯なのに、今度は禎一が紐を引いて乳首を強く引っ張ってくる。
どうしようもなくなって、爪先立ちのまま、よろよろと歩み始めるものの、もう脚が
萎えてしまいそうだ。
ようやく禎一の元へ辿り着くと、蘭はホッとしたように潤んだ瞳で男を見つめた。
「ん……んむ……」
胸に倒れ込んできた蘭を、禎一は抱きしめてキスをする。
口を開けさせ、咥内で舌を交歓しあう激しい口づけだった。
これで片道が終わりである。
口が離されると、禎一から遠藤へ乳首クリップに繋がっている紐が放り投げられ、今度は
遠藤のもとへ歩いて行かされるのである。
これでやっと二往復目だ。
これを十回もするなど出来っこない。
それでも蘭は、コナンを助けるために死ぬ思いでよろめき歩いて行った。
「……! っ……!!」
それを見物させられているコナン──新一は発狂しそうになる。
愛しい女が凄惨な性の拷問を受け続けているのだ。
それを間近で見せられ、しかも自分では何も出来ない。
コナンの手首は、縛ったロープで皮膚がすり切れていた。
猿ぐつわされたタオルに歯を立てて、ぎりぎりと食い締めている。
唇の端が切れて、薄く血が滲んでいる。
顔は青ざめ、目には涙すら浮かんでいた。
新一は、この時ほど子供の身体の無力感を呪ったことはなかった。
今の彼に出来るのは、椅子をガタつかせ、また自分は健在であることを知らせること
くらいだ。
蘭の屈服する声が聞こえる。
「もう……、もうだめ……。もう出来ません……」
「じゃコナン殺すか」
「だ、だめ……」
「なら歩くしかないだろ」
「ああ……、せ、せめて休ませて……少しでいいから……」
「だめだ」
「お願い……も、もうおかしくなる……」
禎一の元へ辿り着き、キスされ、今度は遠藤の方へ歩かされてようやく到着すると、
遠藤の口づけを受けた。
縄の結び目で股間を刺激されるだけでも気が狂いそうなのに、新一の前でキスまで
させられる。
蘭はもう本当にどうにかなりそうだった。
そもそも、膣やアヌスを縄で刺激され続けながら何度も往復すること自体、無理なのだ。
萎えそうになる足腰や気力を奮い立たせても、割れ目やクリトリスに加えられる淫靡
かつ強烈な刺激がそれを阻んでくる。
つい歩く速度を弱めれば前から紐で乳首を引っ張られる。
思わずしゃがみ込みそうになれば、ぐいっと縄が引き絞られた。
蘭に逃げ道はないのである。
「おら蘭! しゃんと歩かんかい!」
「あ、引っ張らないで! 痛っ……!」
「ほれ、乳首が千切れちまうぞ。しっかり進め!」
「あっ、あう……」
アヒルかアイガモの赤ちゃんのようによたよたとぎこちなく蘭が歩いて行くと、また
ごろっと割れ目に縄の瘤が通り抜けていく。
クリトリスが潰され、膣口を擦られ、アヌスがまさぐられると、蘭の背筋にぞわっとした
痺れが走り抜ける。
「あぐっ!」
くいっと遠藤が縄を引っ張り上げると、結び目がアヌスに食い込み、蘭を喘がせている。
そう、もう蘭ははっきりと喘ぐようになっていた。
ごろっとまたひとつ、結び目が通り過ぎる。
股間を擦られる感覚がたまらなかった。
鳥肌が立ち、腰が震えて止まらない。
また歩みが止まると、遠藤が紐を引く。つんと引っ張られると、痛みの中にもびりっと
した強い電気刺激のような痺れが乳首を襲う。
ぴっと引っ張られると、つられるように蘭も一歩進む。
また止まる。
また引かれる。
そうされることで蘭は歩かされる間隔まで支配されていた。
ということは、股間の快感をもコントロールされているということだ。
蘭がよろめきながら股間に何とかひとつの結び目を通り抜けさせると、両端の男たちが
示し合わせたようにぐっと縄尻を持ち上げて、食い込ませていく。
「あぐうっ……!」
突き抜けるような強烈な刺激が蘭の媚肉を痺れさせ、それが子宮にまで到達する。
アルコールの効果もあったろうが、官能の起爆剤とでも言うべき刺激が蘭の肉体を通り
抜けた。
がーんと殴られたようなエクスタシーが子宮に響き、苦痛や恥辱といった他の感情を
駆逐した。
続けて二度、三度と縄を持ち上げられると、蘭はもう絶叫にも似た喘ぎ声を放っていた。
「あーーーっ! あひぃっ!」
蘭は、とうとう脚が萎えてしまったのか、膝がカクンと折れてしまった。
すかさずふたりは縄を持ち上げ、絞り上げたのだが、蘭は一向に立ち上がろうとしな
かった。
怪訝そうに蘭を見ていた遠藤たちは、突然大笑いし始めた。
「なんだなんだ、蘭。おまえ、自分から腰を縄に押しつけてるのか?」
蘭は股間で縄を押さえ込むようにしていた。
同時に腰を前後に振っている。
しかも股を閉じるようにして縄を挟む込んでいた。
明らかに自分で縄を股間に擦りつけているのだ。
腰をぐうん、ぐうんと前後させることにより、ちょうど股間の真ん中にあった縄瘤が、
クリトリス、膣口、肛門の三箇所を刺激し続けている。
もう蘭が縄でオナニーしているようなものだった。
「あっ、あ……あう……あううっ……」
縄で股間が擦り上げられるたびに、蘭は喘ぎ、よがり続けた。
いつしか、股間に挟んだ縄からぽたりぽたりと汁が垂れてきている。
その粘り具合から見ても、染みこませたテキーラではなく、蘭自身が分泌した愛液で
あることは明白だった。
「あ、あ……い、いい……ああ……」
驚いたことに、蘭は上半身まで揺すっている。
単に股間の快感のせいでうねっているだけだと思っていたのだが、どうもそうではない。
上半身をうねらせることで、乳首を引っ張らせているのだ。
紐が緩んで弛むと、それが不満のように身体をくねらせている。
身体を横向きにして紐をピンと張り、乳首が根元から引っ張られる刺激を愉しんでいる
のである。
それと見抜いた男達は陰湿な責めに転じた。
蘭が自分から快楽を貪ろうとすると、一転してそれを妨害してきたのだ。
蘭が腰を下ろして縄に股間を擦りつけようとすると、すっと縄を下ろしてしまう。
慌てたように蘭がしゃがみ込んでも、縄は床に落とされてしまった。
蘭が腰を振りながら、切なげに遠藤を見つめると今度は一気に上へ絞り上げる。
ズキーンとつんざくような快感が股間に爆発した。
「あはあっっ!」
するとまた縄が股間から遠ざかる。
蘭が追いかけると逃げていく。
結び目まで蘭が進んでいこうとしているのに、縄自体を前に動かして縄瘤が股間に当たら
ないようにしていた。
いけそうでいけない切なさと情けなさで、蘭は今にも泣きそうだ。
それまでは、何とか感じないように、いかないようにじっと堪えてきていたのに、今は
いきたくてしようがなくなっている。
遠藤が言った。
「いきたいか、蘭」
「ああ……」
「言ってみろ。恋人が見てるぞ」
「ああっ……!」
蘭が今にも性に溺れそうになったその時に、遠藤は新一の存在を思い出させてやった。
このタイミングが絶妙であった。
これまでの責めでも、ことあるごとに新一のことを口にし、蘭の羞恥や屈辱感を煽り
続けていたのだ。
蘭の肉体は今のままでも性的に感受性が極めて強く、このまま成長すれば素晴らしい
身体になることは請け合いだ。
その反面、官能に溺れやすく、少し間違えるとビッチ化してしまう可能性もある。
そのぎりぎりの線、今にも堕ちそう、あるいは堕ちつつあるのだが、まだ恋人に対する
申し訳なさ、いたたまれなさは忘れていない。
そういう微妙な位置に置くことによって、普段は清純そのもの、セックスされても途中
までは必死に頑張って、しかし最後には性的に屈服し、責める男が驚くほどの反応を
見せてくる。
そういう女に育っていくのだ。
蘭は、新一の存在を指摘されたことで、急激に現実を取り戻した。
こともあろうに今自分は、愛する男の前で嬲られ、絶頂しそうになり、あまつさえ自ら
「いかせて欲しい」と口にするところだったのだ。
「い、いやあっ……新一っ、新一、見ないで! 助けてぇっ!」
「……ぐっ!」
蘭は涙混じりの声で絶叫したが、新一はそれに応えることが出来ない。
愛した女を救うどころか、身動きひとつ出来ないのだ。
せめて他の男に嬲られる恋人の痴態を見まいと目をつむっても、耳は閉じることは出来ぬ。
イヤでも蘭の悲鳴や呻き声、そして悩ましいまでの喘ぎが聞こえてくる。
そして、懸命に目をつむっていても、蘭の悲鳴が迸り、喘ぎが口を割るごとに瞼は開き、
視界にその女体が映ってくる。
哀しそうな悲鳴を聞けば、蘭への思いや男たちへの憎しみが湧き、喘ぐ声を聞くと、
どうしても新一自身もやもやした気持ちになっていく。
無理もなかった。
コナンの姿になって以来、蘭とのつながりが持てず、電話で声を聞くだけだったのだ。
コナンという仮の姿で接することは出来たが、それはあくまで江戸川コナンとしてである。
いくら新一が「新一」のつもりでも、蘭の方は「コナン」としてしか見てくれない。
そこに隔靴掻痒のようなもどかしさと不安があった。
そしてその不安が今、クローズアップさせ現実化されてしまっている。
蘭の前後を遠藤と禎一がいた。
いつの間にか距離を詰め、ほとんど蘭を挟むように立っている。
「し、新一……新一ぃ……ああ……」
「ほら蘭、ガキを見てやれよ。ガキの方はじっとおまえを見てるぜ」
「やあっ……見ないで!」
「冷たいこと言うな。好きな女なんだから見るのは当然だろ?」
そう言ってからかいながら、蘭の後ろに陣取っていた禎一は、ゆっくりと胸を揉みしだい
ていた。
縄目から括り出され、むにゅっと膨れあがった柔らかい乳房をたぷたぷと揉み込まれ、
にゅっと立った乳首をくりくり転がされると、蘭はクッと顎を反らせて喘いだ。
それでも新一の前で恥ずかしい声を出すのはイヤなのか、懸命に唇を噛んで堪えている。
前にいる遠藤までもが、蘭の首筋にキスマークが残るほどにきつく吸い付き、舌で舐め
ていた。
耳たぶに舌を這わせながら遠藤が囁く。
「……よく見てみな、蘭」
「あっ……な、何を……あ、いや……」
胸をこねくられ、首やうなじを舐められ、性感帯の核心に触れられるたび、蘭はギクンと
身体を仰け反らせる。
つい愛撫に身を委ねそうになりながらも、ここぞというポイントで新一のことを言われ、
また引き戻される。
「見ろって。あのコナンてガキをよ」
「……」
「わかるか? やつの半ズボンを見てみな」
「え……?」
座ったまま縛られているコナンを見てみる。
思わず蘭は顔を伏せる。
あれが小学生にすることだろうか。
文字通り雁字搦めに縛られていて、あれでは身動きできないどころか呼吸困難になりそうだ。
両手は椅子の背もたれの後ろで縛られ、胸にもぐるぐるとロープが巻かれて固定されていた。
足は椅子の脚にそれぞれ縛られ、股が開く格好になっている。
問題はその股間である。
コナンはいつものブレザーに蝶ネクタイ、そして半ズボンだったが、その半ズボンの股間が
窮屈そうに膨らんでいたのだ。
よくよく見てみれば、今にもファスナーを突き破りそうにテントを張っている。
「コ……コナン……くん……」
「くくっ、わかったか? あのコナンてガキ、おまえのヌードを見ておっ立ててやがるん
だよ」
「むぐっ!」
コナンは激しく首を振りたくった。
違う、そんなことはないと言いたいのか、それとも「うるさい!」と叫びたいのか。
遠藤は面白そうにそれを見ながら言った。
「おいコナン……、いや工藤新一と呼んだ方がいいのかな? おまえもよく見な。どうだ、
おまえの恋人の身体は? ああ?」
「くっ……!」
「いやあ……」
「信じられねえほど肌理の細かい肌だぜ。おっぱいもケツも、どこもかしこもウソみてえに
柔らかくて、そのくせ弾力がありやがる。極上だぜ」
「……」
「どうだ、おまえも触ってみたいだろ? 一発やってみたいだろうが。無理もねえ、この
身体だ」
「いや、いや、いやあ……」
蘭は首を振りたくって泣いた。
女の子が、もっとも見たくない、知りたくない男の子の陰の部分を目の当たりにした
ショックは大きい。
それも好きだった相手、しかもプラトニックな関係だったのだから、その衝撃は想像以上だ。
あのコナンが、自分の身体を見て勃起している。
つまり欲情していたのだ。
可愛がっていた年下の男の子のそんな劣情に動転し、また穢らわしさも感じている。
しかしそのきっかけを作っているのは紛れもなく蘭自身だ。
そして、コナンが性的に興奮しているということは、イコール新一が興奮しているという
ことになる。
蘭は、いつか男性に裸体を晒すことがあるとしたら、それは新一であろうと朧気ながらに
思っていた。
それが今、最悪の形となって実現している。
コナンが、そして新一が蘭の肢体や痴態を見て昂ぶってしまっている。
羞恥と恥辱で気が狂いそうになるが、それとは裏腹に暗く妖しい被虐の炎がちろちろと蘭の
子宮を炙っていた。
恐る恐る蘭が目を開けてみると、コナンは哀しげな表情でこちらを見ている。
だが、その瞳には形容しがたい炎が点っているように見えた。
燃え盛っているが、冷たそうだ。
蘭は、それが嫉妬だと気づいていたたまれなくなる。
そして悋気だけでない。
勃起しているということは、蘭の肉体およびいたぶられるシーンを逐一見て性的に興奮
していたということだ。
コナンや新一、自分に対する複雑な心情が入り交じり、蘭は訳がわからなくなっていく。
それを見計らうように、遠藤と禎一が前後から、また縄をぐいっと絞り上げた。
「あう……」
蘭は一声呻いてから目を閉じると、自分の劣情との戦いを放棄したかのように身を
うねらせ始めた。
ロープに染みた強烈なアルコールは、媚肉やアヌスの粘膜を通じて蘭の全身に回っている。
動揺と混乱、そして快楽と酔いが蘭から理性やモラル、知性を押し流し、淫らな官能の
喜悦がアルコールと共に染みこんできていた。
またグッとロープが引き上げられる。
「あはっ……!」
結び目が膣に食い込んでいる。
そのまま前後に縄が擦れていく。
肉芽と肛門も擦り上げられ、蘭の尻がまた震えてきた。
腰が少しずつ沈み、縄に股間が押しつけられる。
蘭の腰が静か前後運動を始め、また自ら快楽を貪ろうとしていた。
「もう良い具合に仕上がってるな。どうだ、いきたいか」
「……」
蘭は弱々しく首を振ったが、もう強い拒否ではなかった。
実際、この場にコナンがいなければ、恥も外聞もなく「いかせて」と頼んでいただろう。
ジリジリと官能の火で炙られ、蘭はもうどうにかなりそうだった。
一度すっきりすれば、どれだけ楽だろう。
だが、まさかコナン──新一の前で、そんな浅ましいことは口に出来なかった。
「この期に及んでまだ恥ずかしいか? ま、蘭らしいがな。それに、こいつの目の前じゃ
さすがに言えないか」
「……」
「でも、いきたいんだろ?」
「……」
もう蘭は首を振ることも出来ない。
思わずコクリと頷きたくなるのを堪えるだけで精一杯だったのだ。
「よしよし、一度すっきりさせてやる。そしたら……、わかるな?」
「わ……わかり、ません……でも……」
そう言って遠藤を見上げる蘭の目は、ぞっとするほどに色香が漂っていた。
この魔性の目で見られたら、男が平静を保つのは難しい。
「禎一」
「はい」
縄瘤がずらされ、また媚肉を抉るように押しつけられると、そのまま脚が浮くまで上に
持ち上げられた。
縄目が膣に食い込んだままの状態で、ふたりはロープを揺すり始めた。
今までとは比べものにならぬほどの刺激が加えられ、蘭は大きく身悶えた。
「ああっ! こ、これっ……あ、あ、もうっ……!」
「いけ」
「いっ、いやああああっっ……!!」
尻肉をぷるるっと可愛く震わせて、蘭は絶頂した。
そのままドッと後ろへ倒れ込み、禎一の胸に身体を預けている。
荒い呼吸で上下している乳房は、後ろから禎一に揉み立てられていた。
鮮烈なまでの絶頂に、蘭は恥ずかしい姿をコナンに見られてしまったという羞恥や、
新一の前で痴態を晒したという被虐が消し飛んでしまっている。
「……」
コナンは顔を伏せている。
目尻に皺が寄るほどに強く閉じてもいた。
だから「その瞬間」は見ないで済んだが、それでも蘭の歓喜の声は耳に入っている。
「いや」とは言っていたが、それが官能を表現する音色だったことはコナンにもわかる。
それだけに辛かった。
そして、そんな蘭を見、声を聞いただけで醜い欲望を抱いて勃起してしまう自分が情け
なかった。
遠藤らに対する怒りよりも、蘭の肢体や艶声に反応した自分の獣欲を恥じる気持ちの方が
強い。
その耳に、勝ち誇ったような遠藤の嘲笑が入ってくる。
「はははっ、どうだ小僧。見事におまえの恋人はおまえの前で気をやったぜ。しかも犯された
わけじゃねえ、こんな縄でいかされたんだ」
「……」
「くく、悔しいか、ああ? それとも俺たちに感謝してるか? こんな美人の恋人の絶頂
シーンを見せてもらえて」
「っ……!」
さすがに憤激したコナンがまた暴れ出す。
椅子をガタガタ言わせ、猿ぐつわのタオルをきつく噛んでいる。
「何か言いたそうだな。おい禎一」
「はい」
禎一が猿ぐつわを取り外すと、一度大きく深呼吸してからコナンが叫んだ。
「おまえら! こんなこと……許さない、絶対に許さないからな!」
「おうおう威勢が良いな。ガキの言葉遣いじゃねえしな。おっと、外見はガキだが中身は
高校生だったな、ややこしいこった」
「うるせーっ! そんなことはいいから解けよ! 俺と蘭を……」
「解放しろってか? おまえバカか? 誰がンなことするかよ。第一、こんないい女を
手放すわけがねえ」
「お、おまえ、まだ蘭を……」
「当たり前だろ? まだこの身体にゃあしてやりたいことがいくらでもあるんでな」
「ふっ、ふざけるな! 蘭はおまえたちのもんじゃない!」
「ほう。じゃおまえのものなのか?」
「……」
「そう悔しそうなツラするなよ。落ち着けって」
「これは落ち着いていられるか! 蘭を放せ!」
遠藤は軽く首を振りながら言った。
その目はコナンの股間を見ている。
「どうも血の気が多すぎるようだな。どうだ、一発抜いてもらうか?」
「な、何を言って……」
「わからんってか? おまえが小学一年ならともかく、実態は高校二年だろ? なら意味は
わかるだろうが」
「だから何を……」
「蘭!」
床に座り込み、ぐったりと禎一の胸に背中を預けていた蘭が、うっすらと目を開けた。
禎一はしつこく蘭の乳房を揉んだままだ。
「おい禎一、いい加減にしろ。すぐにやらせてやるから、蘭の縄を解いてやれ」
「はあ」
ロープを解かれると、蘭は少し痛そうに手首を擦った。
まだ足腰が立たないのか、よろよろとふらついている。
それでも何とか遠藤のところにやってくると、コナンに気づいた。
「コナンくん……あたし……」
「蘭! 蘭、しっかりしろ!」
「感動の対面てところか。こんなことでもなければ会えなかったんだから、俺たちに感謝
しろよ」
それはそうだが、会うには会ったものの最悪の再開だ。
「何言ってやがる!」
「そういきるなよ。いい思いさせてやるから。蘭」
「……はい」
「おまえもわかってるだろ? そのコナン……じゃねえ新一か、そいつのチンポが勃起
してるのは」
「……」
蘭は赤らめた顔を俯かせた。
そうさせたのは自分だし、そうなってしまう新一の生理にも複雑な心境を抱いている。
「そうだな、コナン」
「うっ、うるせっ! こ、これは……」
「これは何だよ。認めろよ、スケベな蘭を見て立っちまったって」
「く……くそっ……!」
「蘭。新一のチンポが苦しそうだぜ。どうにかしてやれ」
「ど、どうにかって……」
「なんだおまえまでカマトトぶるのか? チャック下ろしてその可愛い唇でくわえて
やれって言ってんだよ」
「……!!」
蘭もコナンも唖然として遠藤を見た。
蘭はコナンに対して性的な感情など持ったことはなかった。
一方の新一も、まさかコナンの姿で蘭とそんなことをしたいと思うはずもない。
だがそれでいて、新一に戻っていたらどうだったかと考えると、心ならずも男根に力が
入ってしまう。
新一も自慰の妄想で、蘭を相手することは当然ある。
その中には蘭にフェラしてもらう妄想もあった。
それが今、強制されようとしているのだ。
コナンが慌てたように喚いた。
「バッ、バーロー! ふざけんな!」
「そんなっ……!」
蘭も唖然として遠藤と禎一を見返した。
ふたりともにやついてはいるが、冗談を言っている感じではない。
これまでもこの連中には散々嫌なことを強要されてきた。
特に「客」として嵯峨島を連れれこられた時は本当に死にたいと思ったものだ。
嵯峨島だけは、もう二度とイヤだと泣いて頼んだ。
同時に、あの時以上に辛く、嫌悪するようなことはないと思っていた。
免疫のようなものだ。
だが甘かった。
コナン、そして新一は、嵯峨島とは対極にいるが、思い思われてする行為ではない。
いやらしい男どもがいる目の前で強要され、見物されるのだ。
どうしてこの男たちはここまで自分を虐めるのだろうか。
蘭には訳がわからない。
遠藤たちは、この毛利蘭という素材は、嫌がることを無理にさせたり、恥辱を覚えるような
プレイを加えることでさらに輝くことを知っている。
だからこそ、蘭が嫌悪し、尻込みするようなことばかりやらせるのである。
それはまた、ビッチに落とさぬための措置でもあった。
「やれ、蘭。二度は言わんぞ」
「……」
遠藤の目が冷たく光った。
この男なら、本気でコナンを始末するかも知れない。
コナンが死んでしまうなど嫌だし、もしコナンにもしものことがあれば、それは新一の
死にも直結するのだ。
蘭にとっては、もっとも大事な人をふたり同時に人質にとられているようなものだ。
蘭は諦めたように、パイプ椅子に腰掛けたコナンの前に跪いた。
そして哀しげにコナンの見上げてから、おもむろにファスナーに手を掛けた。
コナンが慌てた。
「ま、待て、蘭! おまえ何を……!」
「ごめんね、コナンくん……ううん、新一。新一……だよね?」
「……」
蘭は少し優しげな表情を取り戻し、じっとコナンを見つめた。
「お願い、コナンくん。もし……、もし本当にあなたが新一なら、そう言って。じゃない
と、あたし……」
「蘭……」
「あたし、コナンくんも大好きよ。大好きだけど……、でも、コナンくんにこんなこと
したいとは思わないの」
「……」
顔を伏せて告白する蘭を、新一はまともに見ていられない。
「でも……、でもね、あなたが本当は新一だったなら……。あたし……、あたしは我慢
できるかも知れない」
「蘭……、おまえ……」
「言って、お願い。新一……なのね?」
「……ああ」
どうしようもなくなって、とうとうコナンは認めた。
元の身体に戻るまでは誰にも、いや蘭にだけは言えない秘密だった。
しかし、ここまで自体が進行し、証拠も出てきてしまった以上、誤魔化すことも出来ない。
そして、新一であることを認めれば、いくらかでも蘭が楽になるのだ。
致し方なかった。
蘭はホッとしたように微笑んだ。
「よかった……。本当に新一なんだ……」
じわっと蘭の大きな瞳から涙が零れてくる。
「会いたかった……会いたかったよ。こんな形だけど……でも、このまま会えないよりは
よかったかも知れない」
「蘭……、すまん……」
「どうして謝るの? 新一が悪いんじゃないわ、むしろあたしが……」
そもそも、こんなことになってしまったのは蘭に原因があるのだ。
原因といってはあまりに酷だが、彼女が禎一の張った罠にかかってしまったことがすべての
きっかけになっているのは事実だった。
「でも、よかった。あたし、新一になら何でも出来る気がする」
「蘭……」
「だって、あたし……新一が大好きだったから」
蘭は、これ以上ないピュアな告白を、これ以上ない最悪の状況で行なった。
その言葉は新一の胸の直接届き、心臓を掴まれたような衝撃を受けた。
互いにそれとなく両思いというのは察していたし、周囲もそう見ていた。
だが、だからこそ、この純粋無垢で意地っ張りなふたりは、互いに切り出すことが出来な
かった。
だがいつか思いを告げることがあるとすれば、それは男である自分の方だろうと新一は
思っていたのだ。
それがこんな形で蘭に口にさせてしまった。
彼女の思いへの喜びとともに、無念とも屈辱ともつかぬ負の気持ちも込み上げてくる。
蘭はもう躊躇わなかった。
「だから……ね?」
そう言いながら、ファスナーを下ろしていく。
新一は尋常ではいられない。
ムード満点の状況下でふたりが納得ずくで身体を許しあっているのであればともかく、
こんな雁字搦めの状態で野卑な見物人つきで強要されてすることではないのだ。
蘭に、そんな商売女のようなことはさせたくなかったし、されている自分を見られたくも
なかった。
「やめろ……やめるんだ、蘭」
「あたしなら平気よ……。それに、しないと新一が殺されちゃうかも知れない」
「俺のことはいい! だからよすんだ、そんなことは!」
それまでにやつきながら見物していた遠藤と禎一は、げらげら笑いながら手を打っていた。
「いやいやいや、お見事なまでのクサいシーンだよな、おい」
「……」
「こっ恥ずかしい「お約束」をここまで念入りにしてくれるとはな。いや、面白い場面
だったぜ」
「こ、こいつら……」
新一が怒りで歯をぎりっと軋ませた。
そんな彼の様子を、蘭は申し訳なさそうに見ている。
女の方は、もう覚悟が出来ているらしい。
遠藤が命じた。
「じゃ、やれや」
「やめろ!」
「ごめんなさい、新一……。こうするしかないの。エッチな子だと思わないでね……」
やめさせようと腰をよじるコナンを悲しげに見ながら、蘭はチャックを下ろした。
やはり内部の男根は完全に屹立しているらしく、ファスナーが引っかかってしまい、
うまく下ろせなかった。
引っかかると痛いらしくコナンが顔を顰めるので、蘭はその様子を見て謝りながら、
とうとう全部下ろした。
「あっ……!」
蘭は思わず口を押さえた。
コナンのペニスは、半ズボンのファスナーが下げられた途端、まるで生き物のように
ぴょこんと元気に零れ出たのである。
白ブリーフの前開きを押しのけて、ウィンナーソーセージ状のものが顔を出していた。
さすがにまだ皮は剥けていないものの、その先端はねっとりと濡れている。
よく見ればブリーフも同じ液体で汚れているのだ。
それを見た禎一が爆笑した。
遠藤も腹を抱えて笑っていた。
「おいおいおい、こいつはとんだマセガキだな、おい。素っ裸の蘭を見てちんちん立たせた
だけじゃなく、先走り汁まで出してやがる!」
「くっ……ちくしょう!」
新一は悔しがったが、肉体の変化は止められない。
跪いた蘭は、その可愛らしいペニスにそっと手を伸ばした。
その柔らかくて暖かい感触に、つい委ねたくなったコナンだが、すぐに正気を取り戻す。
「やめろ、やめるんだ、蘭! バカなマネはよせ!」
「だめ……。もう、こうするしかないのよ、新一。抵抗はムダなの。時間が過ぎるのを待つ
しかないのよ」
「蘭、蘭っ! おまえ、どうしたんだよ! おまえはそんな弱気なやつじゃなかったろう!」
強気で男勝り。
気丈の典型だった美少女が、どうしてこうも変わってしまうのだろう。
いや恐らく、普段の蘭は今まではさほど変わらないのだろう。
だが、こうした時にはこの連中に従ってしまうのかも知れない。
ということは、それだけ蘭はこいつらに弄ばされ、心身ともに打ちのめされたのだ。
それを思うと、怒りと屈辱と嫉妬、そして蘭への思いで、新一の胸は張り裂けそうになる。
蘭は新一の心の動揺を知ってか知らずか、子供サイズのペニスを優しく摘み、それにそっと
舌を這わせていった。
「くっ……!」
コナンの身体がびくりと震える。
蘭は「大丈夫」とでも言うように優しい目で見つめ、まだ皮をかむった子供の性器を愛撫
していく。
遠藤や禎一らのものとは比較にもならぬジュニアサイズだったが、それでも興奮し切って
いるようで、充分に硬く、熱いほどの勃起していた。
蘭も少し驚いたものの、新一が自分を見てこうなったのだと思うと、反面嬉しくもあり、
また恥ずかしくもあった。
少なくとも、遠藤たちや嵯峨島、どこの誰ともわからぬ輩のものをくわえるよりは数段マシ
に思えてくる。
蘭は目を閉じ、唇を開けてコナン──新一のものを口に含んでいく。
「うあっ……!」
初めて味わうフェラの感覚に、新一は思わず叫んでいた。
何という心地よさだろうか。
蘭の口の中は暖かいというより熱いくらいだった。
とろけてしまいそうなくらい柔らかな舌と頬の粘膜が、優しく肉棒を包んでいく。
その快感にビクッと痙攣し、身体を捩ってしまうと、蘭は口を離した。
「大丈夫? 痛かった?」
「い、いや……そんなことはないけど……、でも、蘭……」
「いいのよ、じっとしてて」
「くうっ……!」
また蘭の口中に男根が飲み込まれると、コナンは腰を浮かせるようにして呻いた。
蘭は、遠藤らに叱咤されながら覚え込んだ技巧を駆使して、コナンの肉棒に舌を這わせ、
唇で愛撫している。
その動きは熱心かつ念入りで、今までの彼女の口唇愛撫では見られなかった丁寧さだった。
それに気づいたのか、からかうように禎一が口を出す。
「随分と熱心だな、蘭。俺たちの時もそれくらいしっかりやってくれよ」
「んんっ……」
蘭は軽く首を振って否定しながらも、新一のものを離さなかった。
新一のものは、蘭の舌が絡み、咥内粘膜で擦られるごとにビクビクと痙攣している。
新一は、男根から直接入ってくる、得も知れぬ、しかし鋭い快感を味わっていた。
「んっ……んむ……ちゅっ……ん、ん、んちゅっ……んふ……んんっ……!」
蘭は愛撫しながら上目遣いでコナンを見ている。
その表情や、顔を振ったり、びくっと痙攣する様子を見て、彼も感じていることが蘭にも
わかる。
蘭の行為にも熱が入っていく。
「んむっ……じゅっ……んんんっ……」
新一は蘭の唇と舌の動きに翻弄されている。
舌が優しくペニスを嬲っていくと、頬が紅潮し、興奮が抑えきれなくなった。
もうこれ以上無理というくらいに男根が硬く勃起している。
あまりの硬度さに、コナン自身痛くなるほどだ。
ますます硬くなってくるペニスを、蘭は愛おしそうに舐め上げていく。
根元までくわえ込んでも、邪魔な陰毛はない。
蘭は安心して、コナンのものを全部含んでいた。
頬や口元がもごもご蠢き、コナンは歯を食いしばってその背徳の快楽を堪えている。
「くっ……ら、蘭っ……やめ、ろ……ううっ……」
「ぷあっ……、あ、気持ちよく……ないの?」
「違う、そういうことを言ってるんじゃない。もうこんなことは……あ、蘭、よせ!」
「んむっ……」
コナンの反応を確かめるため、一度口を離したものの、またすぐにくわえ込んだ。
そしていったん口から出すと、今度はサオの根元から先っちょまでをすうっと舌先で舐め
込んでいった。
裏筋ではなかったが、充分に気持ち良かった。
「あっ……くうっ……」
蘭の熟練したテクニックに驚嘆しながらも、コナンはその快感に耐えきれず、縛られた
身体をもぞつかせている。
蘭の舌の動きに反応し、息は弾み、額に汗が浮いてきた。
コナンに明らかな快感の表情が出てくると、蘭は少しホッとしたように続行した。
「んふ……んぐっ……っんんっ……ん、じゅぶ……ちゅっ……」
肉棒のサイズのせいで、蘭の口中にも余裕があり、唾液が溢れている。
そのぬるぬるした感触が、新一に一層の快楽を与えていた。
蘭はペニスを全部口に含むと頬を窄めて吸い上げ、舌で転がし、根元から先まで唾液まみれ
にしていく。
そして、皮をかむったままの先を舌先で操り、器用に剥いてから亀頭の先をくりくりと
くすぐっていく。
「らっ……んっ……! くっ……よ、せ……あっ……」
コナンは苦悶した表情を見せて呻いている。
苦しそうに見えるが、快感に耐えているだけだろう。
腕が硬直し、脚が突っ張るほどに力み上がり、縛られた全身をわなつかせている。
もし彼の手が自由であれば、蘭の頭を抱え込んで腰を使っていただろう。
コナンの腿にざあっと鳥肌が立ち、少年は苦しげで切なそうな声を上げている。
蘭の気持ちもいつもと違っている。
もちろん相手がコナンであり新一であることも大きいが、自分からしているということが
刺激を与えていた。
これまで蘭は、キスにしろフェラにしろ、口ですることを嫌がっていたのである。
それを無理にさせるから、どうしてもイラマチオとなってしまう。
遠藤や禎一たち、あるいは客たちもほとんど女を責めて泣かせて悦ぶ連中だったから、
普通のフェラよりは強引なイラマチオの方を好んだということもある。
だから蘭にとってはほとんど初めての、まともなフェラだったのだ。
蘭は幾分うっとりしてコナンの性器を責めている。
(あ、すごい……コナンくんの、また少し口の中で大きくなった……。違う、これ新一
なんだ……。コナンくんの姿だけど新一なんだ。新一、あたしの口の中で興奮してる……)
「あっ……ら、蘭……蘭っ……!」
また新一が呻く。
ペニスが蘭の咥内でごろごろと転がされ、舌で愛撫されると、また少しムキムキと大きく
硬くなった気がする。
膨張するだけ膨張して、今にも破裂してしまいそうだ。
あまりの快感でビクビクと痙攣し、尿道からはねっとりとした透明な粘液が出続けている。
蘭はそれを舌で丁寧に舐め取っている。
「くっ、蘭っ! そ、それは、うっ……だ、だめだ、よせ……よすんだ……」
必死に止めようとするコナンの声もすっかり上擦っている。
何とか理性を保ち、蘭をやめさせようとするのだが、それも彼女が繰り出す舌と唇の愛撫
によって薄れていく。
最悪の形で恋人の愛撫を受け、鬱な気持ちになっていく新一だが、男根の方は元気が
良すぎるほどにそそり立っている。
小さいなりに反り返り、生意気にも亀頭がぐぐっと膨らんできた。
「んっ、むぐ……んんっ……んっ……ちゅぶっ……ちゅるんっ……んむむっ……」
コナンがそろそろ限界に近づいているのがわかるのか、蘭は愛撫の動きを速めていく。
少年は「もう我慢できない」とばかりに、縛り付けられた腰を持ち上げようと、ガタガタと
椅子を鳴らしている。
逃げようというのではなく、蘭の口の奥深くまで入れようとしているのかも知れなかった。
コナンがびくっと身体を波打たせるのに合わせ、ペニスの方もびくびくと震えだしていた。
「ら、蘭っ……くっ、もう……もうだめだ……俺……俺っ……!」
「んん〜〜っ……んっ、んっ、んっ……」
蘭は新一をくわえたまま、小さく頷いた。
出したいなら出していい、とでも言うように顔を動かしている。
「くっ……蘭っ……蘭っ……ううっ!」
コナンはギシギシと椅子を軋ませながら、腰を突き出すようにして蘭の咥内に精液を
放っていた。
ぴゅっ、ぴゅるっ。
ぴゅくっ、ぴゅるるっ。
「あ……あ……」
コナンは呻きながら腰を痙攣させ、射精を続けている。
蘭は迷うことなく、その精液を飲み下していた。
「んっ……んくっ……んっ……」
大人の生臭いそれと違い、コナンのは飲みやすかった。
そう思いつつも、蘭は内心驚いている。
まさかコナンが射精できるとは思ってもいなかったのだ。
最初は、相手がコナンか新一なのか混乱しながらだったが、行為の最中は、新一を愛撫
しているつもりになっていた。
だからこそ熱が籠もったわけだが、落ち着いて見れば見た目はやはりコナン──少年なのだ。
蘭はよくわからなかったが、小学一年生でも精通はあるものなのだろうか。
見物している男たちもそう思ったらしい。
蘭ののど元が何かを飲み込むようにゴクリと動いたり、口からペニスを抜いて唇から漏れた
白濁液を拭うのを見て、一様に驚いたような声を上げた。
「こいつは驚いたな。このガキ、射精しやがったのか?」
「ませた野郎だとは思ったが、いっちょまえにそんなことも出来るのか」
蘭は何だか自分のことを言われたように恥ずかしくなり、顔を俯かせた。
コナンはがっくりと頭を垂れている。
自分の浅ましさに情けなくなったのか、あるいは欲望を解き放って脱力したのかも知れない。
実のところ、コナンくらいの年齢──6歳、7歳くらいで精通を迎えることもないではない。
平均的にはかなり早い部類になるが、ないわけではないのだ。
だがコナンの場合は少し事情が違う。
APTX4869の影響で見た目は小学生になってしまったものの、やはり中身は高校二年生の
工藤新一だということなのだ。
肉体的にも完全に幼児化したように見えても、頭脳は新一のままだ。
ということは、上辺はともかく中身──脳とか内臓とか──は、新一の状態なのだろう。
従って精巣も思春期男子の状態であり、つまりは射精は普通に出来たということだと思われる。
コナンが暴れるのをやめ、がっくりと俯いてしまうと、蘭の方も罪悪感に襲われて力が抜け、
ぽてりと尻を床に落として座り込んだ。
やはり顔は俯いている。
まともにコナンを見られなかった。
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