あたしはそのまま二匹の猿に、引きずられるように別室へ連れ込まれた。
さっきの研究室よりずっと狭い。
医療用の、大きめの寝台みたいのが部屋の中央にある。
それ以外、家具らしいものはない。
部屋の周囲には、あたしなんかにはさっぱりわかんないような機械ばかり。
コードがあちこちから伸びていて、それが無造作に床を這っている。
地下だから当然だろうが、窓らしいのは一切ない。
無機質なアイボリーの壁と床には、装飾らしいものはまったくなかった。
モローのじじいも、三匹目を連れて一緒に移動してきた。
「よくも……よくもフリーを!」
不覚にもあたしの目から涙が零れた。
むざむざとフリーを殺された悲しみと、呆気なく人質を殺した敵への怒り。
ない交ぜになった感情が盛り上がり、あたしの中で爆発した。
「あんた、タダじゃおかないわよ! 生態系管理法違反だけじゃなく、第一級殺人の現行
犯よ!」
「……殺したのはわしじゃない」
「ざけんじゃないわよ! あんたの猿がやったことじゃないの、同罪よ!」
「あの若造を殺したことはこっちも想定外じゃわい。やれやれ、牝を作ったらつがいにして
やろうと思うていたのに。あのオークには罰を与えんとの」
「なに呑気なこと言ってんのよっ……くっ、この、放せ!」
あたしは締まらない格好で啖呵を切っていた。
二匹の猿はあたしの左右の腕を掴み、持ち上げている。
腋をさらされるように宙づりになった。
脚は自由だからバタバタと暴れさせて、時折サルを蹴っ飛ばしているんだけど、まるで
効果がない。
ユリと一緒にWWWAの訓練施設で、文字通り血の滲むような鍛錬を重ねてきたあたしの
技が通じない。
あたしの蹴りが腹や腰に入っても、やつらケロッとしてんのよ。
まともに決まってるはずなのに、蹴ってるあたしの脚が痛くなるくらい。
岩のようなというか、体操で使う分厚くて重たいマットを蹴っ飛ばしてるような感じだ。
疲れを無視して蹴り続けていても、こっちの脚が折れるだけだろう。
じじいが感心したような顔でこっちを見ていた。
「それにしても元気が良いのう」
「るさいわよ! 大人しく言ってるうちに放しなさいよ!」
「やれやれ、そのどこがおとなしいのかね。まあいい、こいつらの相手にするのだから、
それくらい活きの良い方がいいじゃろうて」
冗談じゃない。
こんな筋肉猿相手に格闘の相手なんか出来ないわよ。
武器を使ってスマートに始末してあげるわ。
ええい、そのためにもこの手を放さんかい!
これじゃブラッディ・カードやナイフが出せないわよ。
あたしは博士の注意を逸らそうと、強がってやった。
「へん! あんた、そんな余裕持ってられるのも今のうちよ。あたしはチームを組んでる
んだ。WWWAのラブリーエンゼルといえば……」
「ダーティペアじゃろ?」
「おやめ! その名前で呼ぶんじゃないわよ。とにかく、あたしの相棒が今頃……」
「相棒ちゅうのはこいつのことかね?」
「あっ……」
あちゃー。
モロー博士がリモコンを操作すると、壁に埋め込まれた大型モニタにユリの姿が映し出さ
れていた。
ユリは一匹の猿に両手首をひとまとめにして掴まれ、あたしと同じ格好で持ち上げられて
いた。
他にも何頭もいるようで、皆武装していた。
例の、棒っ切れみたいなパラライザーとでかい蛮刀である。
あたしらがここに来る前に出くわした、ジャングルを巡回偵察していたやつらだろう。
音声までは届かないようだが、ユリもあたしみたいに両脚をジタバタさせて暴れているが、
どうにもならない。
あの先天性ドジっ娘があっ。
武装猿に囲まれている分、あたしよりむしろユリの方がピンチである。
これじゃせっかくあたしとフリーが敵を引きつけても意味ないじゃないの。
とは言うものの、こりゃどう見てもモロー博士があたしらの来襲に備えて警戒態勢を布いて
いたんだろうな。
相手はひとりだってことで、こっちが油断していたこともあるけど不覚だわ。
もっと不覚なのはユリがとっつかまったことよ。
こんなことなら、あたしがあっちへ行けばよかった。
「わかったかね? もう君らに策はない」
「……」
あたしが悔しそうに歯ぎしりすると、博士は猿に合図した。
猿どもは、あたしをそのまま寝台に押しつける。
「なっ、何すんのよっ。ええい、お放し!」
このまま麻酔でも打たれて身体をいじられるなんて絶対イヤ。
次に目が覚めたらどうなってるのかわかったもんじゃないわ。
じじいはあたしを睨め付けるように言った。
「そう脅えんでもよい。殺しはせんよ」
「生体改造されたり、DNAいじくられんのもゴメンよ!」
「そんな不粋なことはせんわい。せっかくの実験動物じゃ」
どっ、動物ですって!?
今世紀最後の美女であるあたしに向かってドーブツとは何よ!
そのサルと一緒にしないで、ってのよ。
「おぬしらがここを嗅ぎつけたのは想定外じゃったが、それもまた良し、じゃ。これで
わざわざルーシファに牝を頼む必要もなくなったわい」
「メス……?」
「人間のな。いささかじゃじゃ馬じゃが、なに、わしのオークどもの相手をするのだから、
それくらいの方がいいじゃろうて」
このサルどもはオークと呼んでいるらしい。
ファンタジーものの映画や小説とかに出てくる猿人間みたいなやつのことか。
博士は、あたしが聞きもしないのに滔々と語り始めた。
「ここまで成長させるのは大変じゃったわい」
「こいつら……何なの?」
「見た通り、と言ってもわからんじゃろうな。わしゃあのう、遺伝子操作による生体改造
に限界を感じていたんじゃ」
後ろ手を組み、床を見つめるようにして歩きながら博士はそう言った。
「理論上、遺伝子を操作し、他の遺伝子を持ってくることにより、形態的にも能力的にも
様々な種の動物を組み替えることは可能だ。じゃがな、それらは皆一代限りなんじゃな」
「一代?」
「そう。つまり、せっかく作り出しても、そいつが死んでしまえばそれでおしまいっちゅう
こっちゃ。生殖機能が著しく弱いのだ。子供が出来ん」
そうなのか。
じゃあ、この猿ども……オークたちも、こいつら自体を始末してしまえば後腐れないわけだ。
いいこと聞いた。
仕事がひとつ楽になった。
「そこでわしは考えた。やはり自然の摂理に逆らうべきではないのではないか、とな」
「その通りよ。それがわかってるなら、こんなバカな実験はすぐにやめたら?」
「勘違いするでない」
モロー博士はそう言ってニヤリと笑った。
「新生物を作り出そうというわしの夢は変わらん。ただ、それには単に遺伝子操作だけ
ではダメだと覚っただけじゃ」
「……」
「やはり能力遺伝には、きちんとした生殖行為は必要なのだろう。そこでわしは、異種間
生殖を取り込むことにした」
博士は、愛おしそうにオークの腕を撫でた。
「こいつらは、そうさな七代目あたりになるか。無論、生殖だけではないぞ。遺伝子操作
もした。ただ、それは最小限に留め、なるべく生殖に影響の出ないようにしたのだ」
「……」
「昔から異種間受精の実験は続いていおる。それは何もわしだけじゃない。おぬしも知って
おろう、馬と驢馬の相の子を」
聞いたことがある。
確か、馬とロバを掛け合わせてラバとかいう動物を作ったとか。
あと有名なのはレオポンだ。
ヒョウとライオンの相の子だったか。
だけど確か……。
「知ってるけど、そういう無理な混血は繁殖力が弱くって子供ができないって聞いてるわ」
モロー博士は「ほう」という顔をした。
あたしの博識ぶりに驚いたらしい。
はん、バカにしないでよ。
あたしこれでも休学する前は現役大学生だったんだから。
「よく知っとるな。レオポンもライオンと交配させて子孫を残そうという試みもあった
のじゃが、これは失敗しとる」
「……」
「基本的に異種間受精ちゅうのは、馬とロバだの豹とライオンだの、ごく近い種同士で
行うものじゃ。でないと受精せんからの。と言って、近い種なら何でもいいかというと、
そういうわけでもない。ライオンと虎で交配しようという実験もあったが、これは見事
に失敗しとるしな」
「じゃあこいつらは……」
「元はチンパンジーじゃがね、ゴリラやオランウータンやらで交配を続けた。いったい
何頭潰したことか、わしにも数はわからんくらいじゃ」
このじじい、そんなことのためにたくさんの猿たちを殺してきたのか。
それだけでも許せないのに、モロー博士はこんなことまで言った。
「そこに人間の細胞や遺伝子も混ぜ込んだのじゃ。そのどれがよかったのか、わしにも
まだわからん。だからこいつらはまだ実験途上だが……」
モロー博士は思わせぶりにそう言った。
あたしとオークと盛んに見比べている。
あたしも改めてオークを見た。
全長2メートルくらいか。
脚は短く手は長い。
猿の体型である。
全身体毛に覆われているのも同じだが、その毛は茶色ではなく黒だ。
毛のない部分は、顔と胸、腹部。
頭部が猿よりやや大きめな感じだ。
脳の容量が多いのかも知れない。
顔は、猿とも人とも異なった。
目が大きい。
しかし、不気味なのは瞳がないことだ。
黒目もない。
全部白目だ。
いや白目ではない。
グリーンなのだ。
こんな目でよく見えるものだ。
鷲鼻で口も大きい。
そこから覗く歯は、やはりというか犬歯ばかりで、これも人間のものではない。
「これでわかったじゃろう。おぬしにオークの相手をしてもらうと言った意味が」
「ま、まさか、あんた……」
「そう。おぬし、ダーティペアのケイにオークの花嫁になってもらおうと思うての」
げげっ。
ざけんじゃないわ、この猿に抱かれろっての!?
「冗談じゃないわ! あ、あたしはまだ結婚なんかするつもりはないし、だいたいオーク
なんか相手になるわけないじゃない!」
「ま、そう毛嫌いせんでもよかろう。こいつはな、交配専用のオークなんじゃ」
「専用って……」
博士が自慢げに言ったことによると、やはり元が猿だけあって、いくら人間の脳細胞を
移植したとはいえ、頭脳的にはまだまだ問題があるらしい。
要はおつむが足りないのだ。
当たり前と言えば当たり前だが、それでもじいさんはめげなかった。
オークどもを、それぞれ専科として育成することにしたのだ。
つまり、今、ユリを捕獲しているのは戦闘用のオークというわけだ。
覚えさせるのは戦闘に関することだけ。
格闘術や武器の使用法とかである。
一方、こっちの生殖用オークは、ずばり交配しか出来ない。
そういうことらしい。
「なんせ、こいつらも覚えられる人語はまだ3000語くらいなものでな。あれもこれも、
というのはムリだったんじゃよ」
だ、だからってセックス専用の猿なんて作らなくていいでしょうが!
そんなこと言ってる間に、二匹のオークがあたしを寝台に押さえつける。
一匹が両腕、一匹が両腿。
これだけであたしはもうロクに動けない。
いかに交配専用だとはいえ、力だけは人外である。
とてもあたしの力ではね除けられるものではなかった。
オークは、いともあっさりとあたしのブラを引き裂いた。
強化繊維で作られたコスチュームは、プロレスラーが力一杯引っ張っても切れ目すら入ら
ない。
しかし、フリーの首を簡単にねじ切る力を持っているオークの前には無力だった。
簡単に引きちぎられ、ボロ布と化したブラが床にわだかまる。
あーん、あそこにブラッディ・カードがあるのに。
そしてブーツまで脱がされてしまった。
さっき一匹殺した仕込み刃があることを覚えていたのだろう。
そして、とうとうパンツまで剥ぎ取られた。
下着ごとである。
オークは、博士に渡された革の拘束具であたしを固定していく。
右手首が右腿の外に回され、そのまま右の足首に革手錠で繋がれた。
膝を「く」の字に曲げられ、腿とふくらはぎをひとまとめにして、これも革ベルトで縛ら
れた。
左手、左足も同じ状況だ。
あたしは恥ずかしいほどのM字開脚にされてしまった。
その上、肩と腰とをぐっと押さえ込まれ、もうどうにもならない。
あたしがもがいていると、博士は三匹目のオークを助手のように引きつれ、いつの間にか
なんか知らない器具を用意してた。
病院で使う点滴に見える。
「痛いわよ、放して! ちょっと! こいつらに言ってよ、もっと加減しなさいって」
「そりゃおまえさんが暴れるから仕方ないわい。もう少し力を抜け、そうすれば痛みは減る
じゃろう」
「いやよ! あたしの身体になんかするつもりなんでしょう!? 暴れるに決まってるじゃ
ないのよ!」
博士はあたしのわめき声を無視して、寝台のところで屈んだ。
あたしの股間を覗き込んでいる。
あたしは羞恥と屈辱で叫んだ。
「ちょ、この! どっ、どこ見てんのよ、この……」
「変態ジジイ! とでも言いたいのかね」
「わかってんじゃないのよ! 放せ、見るなあっ!」
「なるほど。それじゃ変態らしくしてやろうか」
「やっ、やめ、ああっ」
じじいは、あろうことかあたしのお尻、というか肛門をいじくりだした。
こいつってば本当に変態!
「やめて、やめてよ! ああっ、爪たてないで、痛いわっ」
じじいは「ふぅむ」と唸って、ようやく顔を上げた。
「肛門の絞まりの良いのはけっこうじゃが、これじゃ浣腸できんな」
「か、浣腸って……」
じゃあ、あれは点滴薬じゃなくて浣腸用の液体が詰まってるの!?
チューブをあたしのお尻の穴に入れようってわけ!?
「なんで浣腸なんかすんのよ!」
「ほう、好きなのかね?」
「バカっ、そんなわけないわ! あっ、やめなさいよっ」
あたしは、なおも肛門をいじってるモロー博士の指のおぞましさに耐え、必死になって括約
筋に力を込めた。
マッサージするように揉んでくる指に負けずアヌスを引き締めていると、ようやく博士は
ため息をついて離れた。
くっ、諦めたか?
「やれやれ仕方ない。……やれ」
じじいは後ろに控えていたオークに何事か命令した。
するとオークの顔が歪んだ。
歪んだというより、緩んだ。
まさか、こいつあたしに……。
「あっ、あひっ!?」
あたしらしくもない悲鳴が出た。
だけどムリはないよ、だってこの猿、あたしのお尻を舐めてきたのだ!
きっ、気色悪い!
あたしのお尻の穴に、オークの生暖かい息がかかってる。
「ひぃぃっ! おやめ! やめ、やめさせて! こんな、ああっ、いやあっ」
ぞろり、と、なま暖かくて柔らかいものがあたしの肛門を這い回る。
かなり肉厚な感じの舌で、すごいヴォリュームだ。
そんなものをいっぱいに使って、かっちり開かれたお尻の割れ目を何度も何度も舐め上げて
いく。
びっくりして動転していたあたしは、それでもすぐに立ち直り、異物の侵入を遮ろうとお尻
を締めつける。
それでも、たっぷりの唾液でぬめぬめしていた舌は、その分厚さにも関わらず、あたしの中
に入ってきた。
「いっ……は、入って……やああっ……」
「ほほう、あっさり入ったの。なんじゃ、尻の穴で愉しむ習慣でもあったのかね」
「おだまり! そんなわけない、うああ……ひっ……」
じじいのむかつく発言を否定する間もなく、なおもオークの薄汚いベロがあたしの肛門を
犯していく。
舌先が硬くなり、ずるっと腸内にまで舌が潜り込んでくると、お尻にぞわっと鳥肌が立った。
同時に冷や汗が滲み出る。
「くっ……やめて、ああっ……こ、このエテ公、いい加減に、ひぁぁっ……」
これがあたし好みの男にやられていたとしても、お尻の穴なんていう恥ずかしいところを
口でなんか愛撫されたら、やっぱり恥ずかしいに決まってる。
なのに今それをしているのは、見るのもおぞましい猿人間なのだ。
おまけに醜いクソジジイがギャラリーになっている。
あたしは身を焦がすような激しい羞恥と屈辱で、全身の震えが止まらなかった。
いくら暴れても、押しのけようとしても、あたしの身体は二匹のオークに押さえつけられ、
いくらも動くことが出来ない。
ああ、それにしても、お尻の中に何か変なものを入れられているという恥辱と、それを
どうすることも出来ない情けなさは、何と表現すればいいのだろう。
あたしは悔しくて涙が出そうになったが、それだけは我慢した。
ここで泣き喚けば、この変態どもに屈したことを認めたようなものだからだ。
あたしのそんな心境などおかまいなく、オークの愛撫はさらに続く。
「うくっ……ひっ、ひっ……な、なにして、ああっ……」
あたしは、堅く引き締めたはずの肛門括約筋がぶるぶると痙攣してきているのを自覚して
いた。
熱い軟体動物のような舌が執拗に舐めほぐしたせいで、窄まっていた肛門がほぐれてきて
いるのが自分でもわかる。
見たことはないけど、多分今あたしのお尻の穴はふっくらととろけてしまっているのだろう。
オークはいちど舌を引き抜くと、すっかり柔軟になっていた肛門を丹念に舐め始めた。
どろりとした粘液のような唾液にまみれてぬるぬるしている時も気持ち悪かったが、それ
をすっかりあたしに塗りつけてしまい、ざらざらした感触になった舌も気色悪かった。
人間の舌よりもずっと粒子の粗そうなざらついた舌が、敏感になっているあたしのアヌス
をざらっと刺激する。
途端に、びぃんとした刺激が股間に走り、あたしは思わず声を洩らしそうになる。
こっ、この感覚は……まずい。
知られてはまずい。
あたしがこんなになってるのを知ったら、やつらはかさにかかって責めてくるに違いない。
オークはなおも丁寧にあたしの肛門を責めている。
アヌスの皺を一本一本なぞるように、舌を這わせる感覚がたまらなかった。
「やだっ……やだって言ってんでしょっ、ひっ……ああ、いやっ……くっ……」
必死に抗う声を出し、甘い声が洩れそうになるときは口を引き締める。
あたしの精神は、屈辱と反発、そして相手に対する怒りと、何もできない自分に対するやる
せなさで占められている。
しかし身体の方は、猿の愛撫やモロー博士の言葉に対する拒絶の反応の他に、おぞましく
認めたくない甘い感覚が僅かに首をもたげてきていた。
し、仕方ないのよ。
あたしは不感症じゃないんだから。
これは単純な生理的反応よ。
思い出したくもないが、バティルスにやられた時(*1)のことが頭をよぎる。
あたしはあの時初めて、本格的にお尻を責められたのだ。
恥ずかしいことに感じさせられた。
その時のことを思い出してしまった。
オークの馬鹿力に逆らうことの無意味さに囚われ、あたしはとうとう力を抜いた。
いくら踏ん張っても肛門をやつの舌を受け入れてしまうし、手足は潰れるほどに押さえつけ
られている。
もっとも、抵抗したくても、もう手足が疲労で痺れきってしまった。
なのに、オークの責めに変わりはない。
あたしの身体で積極的に動いているのは、オークの舌に翻弄されているお尻の穴だけだ。
分厚い舌は思ったよりずっと繊細に蠢き、それに応えるようにあたしの肛門はひくひく
してしまう。
肛門が熱い。
直腸も熱い。
少しずつ腸液が滲んでしまってきている感触だ。
オークはそれを舐め取るように、さらに舌を使ってくる。
「い、いあ……ひっ……やめて、ああ……んんっ……んふっ……」
洩れる悲鳴と吐息に熱いものが混じり始めたのを、自分でも否定できない。
腰がよじれてくる。
お尻や腿に痙攣が走る。
その様子を見ながら、老科学者はうなずいた。
「ふん、だいぶほぐれてきたようじゃな」
「ひぃっ!」
そう言うなりモロー博士は、あたしの肛門を舐めるオークを押しのけ、自分の指を突き刺し
てくる。
いくらほぐれていたってこれは痛い。
あたしが思わず悲鳴を上げても、博士はお構いなしにグリグリとねじ込んできた。
「ま、よかろう」
博士はそう言って、それまであたしの尻を舐めてたオークに指示を出した。
人語である。
3000語くらい理解できると言っていたが、簡単な日常会話くらいは出来るらしい。
「ああ……み、見ないで! この……変態猿にスケベじじい! み、見るなと言ってるで
しょっ!」
モロー博士もオークも、無惨にまで開かれた股間を見つめていた。
体育座りして、両手で足首を掴んでいるようなポーズだ。
その手首と足首はベルトで縛られている。
いやでもM字に開脚してしまう。
背中からオークに抱え込まれるようにして膝を閉じないように開かされていた。
あたしの恥ずかしいところが全部見えてしまう。
濡れていない自信がない媚肉も、オークの唾液でぬらぬらにされたアヌスも丸見えになって
いるだろう。
あたしのお尻が嫌がってぷりぷり動くのを眺めつつ、博士は浣腸の支度をした。
点滴瓶は、なみなみと怪しげな液体を湛えていた。
それを注ぎ込むための透明なチューブの先には、何かの樹脂で出来た嘴管がついている。
その先端からちょろろっと液体が零れてくるのを見て、あたしは身体の震えが止まらなか
った。
「やめて……バカなことはやめるのよ、博士!」
腕利きトラコンのラブリーエンゼル。
そのエースであるあたしが、敵を目の前にして脅えるなんてことはない。
だけど、これは別だ。
相手はあたしを傷つけたり殺そうとしているのではなく、肉体的にも精神的にも辱めよう
としているのだ。
あたしの心が震えていた。
「やめて……やめてぇっ……ひぃっ……!!」
お尻の穴がヒクヒクし、少し緩んだところに、ノズルを突き立てられた。
指ほど太くはないが、それでも寒気がするほどの異物感があった。
硬くて冷たい。
刺された瞬間、あたしの肢体は勝手に跳ね上がった。
博士はイルリガートルの調整弁をいじり、注入する量と速度を確認すると、ストッパー
を解放した。
「だめぇっっ……あ、あ、いやあ……入って……ああ、入って……くる!」
どんなに踏ん張ってみても、あたしの中に薬液が入ってくる。
冷たくはなかったが、その分、異様なほどにどろりとしていた。
まるでスライムでも入れられているかのような感触だ。
ここでも、あの時のことを思い出してしまった。
バティルスに嬲られた時、あたしは初めて浣腸された。
それも徹底的に、何度も何度もされたのだ。
あの時の苦痛と屈辱は、忘れようと思っても忘れられない。
浣腸されるだけでも死ぬほどつらくて恥ずかしいのに、バティルスに排泄まで見られたのだ。
人に見られたわけではないのだから、そう恥ずかしくはないだろうと思うかも知れないが、
そんなことはない。
経験ないけど、多分、自分が排泄(大でも小でも!)しているところなんて、犬や猫に凝視
されても恥ずかしいと思う。
バティルスは人の意識があったし、ましてや今度は人語を解する猿と人間のじじいに見られ
ることになるのだ。
そんなあたしの思いを押しやるように、浣腸液がどんどんと流れ込んでくる。
「い、いやっ……ああ、いや、入れないで……ひうっ……あっ……」
どろどろした粘液が腸内を刺激し、あたしは無意識のうちに背中を反らせて悲鳴を上げた。
お尻と言わず腿と言わず背中と言わず、全身に汗をかいている。
チューブが細いせいなのか、それとも溶液の濃度が濃すぎるのか、流れ込む量にムラがある。
さらさらと流れ込んでくることもあるし、のろのろと濃いのが来ることもある。
それが不定期なので、急に大量に流れ込んできたりすると、あたしの腰がぶるるっと震えた。
あたしは目を固く閉じて、何とかこの恥辱に耐えようとした。
けど、目を閉じて視界を遮断してしまうと、かえって浣腸されているお尻の穴に意識が飛ん
でしまい、いやでも恥ずかしい責めをされていることを実感してしまう。
「ううっ……ああ、いや……んっ……い、入れないで……ああ……」
早くも腸の調子がおかしくなってきた。
汗に滲む目を開けて点滴を見てみると、もう中身が半分くらいになっている。
1リットルくらいは入りそうだったから、もう500ccくらい注ぎ込まれたらしい。
溶液は情け容赦なくあたしの腸壁に染み込み、侵していく。
身体が中から爆発しそうな感覚を、顔を真っ赤にして耐えていたが、今度は血の気が引いて
きた。
身体の芯から震えがこみ上げてくる。
腰やお尻が痙攣して止まらない。
鳥肌が立つ。
苦悶する声に、差し迫ったような色が混じってきたのがわかる。
「う……ああっ!? ……あ、ああ……も、もう、やめ……んくっ……」
「どうしたね、顔色を変えて」
じじいはすっとぼけてそう言った。
わかってるくせに。
あたしが生理的な苦痛に苛まれていることはわかっているのに。
「も、あっ……だめ……あ、あ……我慢が……できない……」
あたしは何とかそれだけ口にした。
そう、あたしははっきりとした、しかも激烈な便意を覚えていたのだ。
腸がねじ切れそうに痛む。
腰が勝手によじれ、ブーツを脱がされた爪先が反り返っている。
必死に我慢しているのだ。
なのに注入は今だ止まらず、最後まで入れるつもりらしい。
「もう少しだ。我慢したまえ」
「だめ……も、もう洩れちゃうわ……ムリよ、これ以上は……ああ……」
少しずつ、悪魔の溶液があたしの直腸を満たしていくのがわかる。
あたしのお腹は、グルグル、グキュウと、恥ずかしい音を洩らしていた。
だけど、そんなことを気にする余裕はもうあたしにはない。
オークに押さえ込まれる裸身を必死に揺すり、何とか苦痛を堪えようとするのだが、高まる
便意が収まるはずもない。
「よし、全部入ったな」
「うあ……!」
ちゅるん、と、最後の溶液が流れ込み、博士がチューブを引き抜くと、あたしは漏らすまい
と必死にアヌスを引き締めた。
「うっ……ぐぅ……く、苦しいわ……お腹、痛い……」
苦しくて身悶えするあたしを見て、満足げにモロー博士は笑った。
もう出したくて出したくて、あたしのお尻はぶるぶると震えが止まらない。
肛門が内側から膨れていくのがわかると、慌てて引き締めることを繰り返した。
その豊かなお尻を、博士は撫でながらあたしに言った。
「どうだな、苦しいかな?」
「き、決まってるでしょう、あっ……こ、こんなことして……ぜ、絶対に許さないから……
んんっ……」
あたしは強がって毒づいたが、もう限界が近かった。
すぐに弱音が出た。
「は、はあ、はあ……ん、く……苦しい……お腹が苦しい……は、早く……」
「排泄したいだろうが、少し我慢したまえ。言っておくが、おぬしがオークどもに慣れる
まで浣腸は続くぞ」
「どうして、こんな……ああっ……」
「今、おぬしの腹に入れてやったのは、抵抗したくなくなる薬じゃ」
「え……」
「なに、ありふれたものじゃよ。チオペンタール・ナトリウムじゃ。麻薬様物質ではあるが
害はない。医療でも使われとる」
全然安心できないわよ!
それって、いわゆる誘導尋問とかに使う薬じゃないの?
だんだんと意識がぼやけてきて、深く考えるのが面倒になるやつ。
「いわゆる媚薬も入っとるがな。オークどもとの交配が楽しくなるように」
「なんですって……」
博士は、大きな白い容器を用意しながらなおも言った。
「心配せずとも、怪しげな化学物質の媚薬ではない。無論、違法ドラッグの類でもないわい。
成分はガラナや龍眼、クコの実、ナルコユリとかじゃ。身体を少し昂奮状態にして、粘膜部
……性器だの肛門だのが少々熱を持ってくるくらいもんじゃて」
そ、そんなもの入れたのか。
「飲ませても良いのだが、素直に飲んでくれそうもなかったし、直腸は吸収が良いのでな。
だから、そう簡単に出してはならんぞ」
ならんと言われたってムリだって!
浣腸なんかされたら、排泄するしかないんだから。
それでもあたしは頑張った。
だって、このまま出したらそれをこいつらにまともに見られることになるんだから。
そんなことは絶対にイヤよ。
でも、そうして我慢することは、博士の言う通り、直腸からどんどん成分を身体に吸い取
ることになる。
あっちの思うツボなんだけど、人前で出すなんて出来るわけないわ。
でもだめ。
お尻が、肛門のあたりが熱い。
もう出口寸前まで出てきて渦巻いているに違いない。
くやしいけどだめ。
屈服の言葉がまろびでる。
「く……お、おトイレ……んっ……」
恥ずかしいなんて感じる暇がない。
脂汗が額を流れるのがわかる。
身体が勝手にぶるぶると痙攣している。
人前で排泄なんか出来ない、こんな卑劣なじじいに屈服できないと、それだけを思って耐え
てきたけど、あたしだって人間。
限界ってもんがある。
死ぬ思いで我慢したのは10分くらいだったみたいだけど、あたしには2時間にも3時間に
も感じられた。
あたしの顔からすっかり血の気が引いて、細かい痙攣が収まらなくなってきたのを見て、
ようやく博士が動き出した。
モロー博士が持ってきたのは大きめの白い洗面器。
ホントは別の呼び名があるのかも知れないけど、あたしは知んない。
とにかくじいさんは、それをあたしのお尻に突きだしてこう言った。
「それ、そろそろ出してよいぞ」
「なっ……、そ、そんなものに……し、しろっての!?」
「そうじゃよ、不満かね?」
「当たり前よ! バカ言ってないで早くおトイレにっ……」
「生憎この部屋にはそんなものはない。するならここじゃ」
「そんな……」
あたしは自分でも呆れるほど情けない声を出した。
この前のバティルスの比ではない。
じじいとはいえ、人の前で生き恥を晒すことになるのだ。
といって、博士の言う通り、いつまでも我慢できるものではない。
「お、お腹が裂けるわっ……苦しい……あ、ああ……もうっ」
じいさんの差し出す陶器の冷たさが合図だった。
洗面器がお尻に触れると、あたしはもうどうにもならず、一気に排泄した。
そこから先の記憶がところどころ欠けている。
博士が浣腸液に混ぜたおかしな薬品のせいかも知れない。
とにかく、気づいた時には、あたしは三度目だか四度目の浣腸の洗礼を受けていた。
「いや、もう……ああっ、い、入れるなあっ……」
「もう少しの辛抱じゃて。こいつを5分も我慢できれば、もう充分じゃろう」
「いやよ! もっ、もう浣腸は……いやあっ……」
モロー博士は、今度は一気にあたしの中に注ぎ込んだ。
それまではいびるようにねちねちとろとろと注入していたのだが、さすがにもう限界だと
思ったのだろう。
たちまちお腹がぐきゅるるっと鳴いた。
腑に魔液が染み渡る。
あっというまに激しい便意が押し寄せてくる。
オークどもは、それを紛らわそうとでもいうのか、あたしの素肌をその汚らしい手で触り
まくっている。
大きな手でおっぱいを鷲掴みにされ、首筋や腋に舌を這わされる。
けれどあたしはもうそれどころじゃなかった。
もう2度も3度も浣腸され、強制的な排泄を続けさせられているあたしの直腸とアヌスは、
もうひとときも我慢できなかった。
びりびりと痺れる刺激が肛門と腸内に響き渡り、肛門がわなないたかと思うと、途端に
薬液を吐き出した。
「いやあああ……」
腫れぼったく痛む肛門があたしを責め苛み、堪えきれない悲鳴が喉を破って口から出た。
モロー博士は「やれやれ」とつぶやいた。
「早すぎるわい。どれ、もう一回じゃ」
そんな、もう本当にだめよ。
こんなことされ続けたらお尻が壊れちゃう。
ああ、ユリ。
あんたもこんな目に遭ってんの?
あたしだけなんて許さないから。
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