「どうかした?」
「え……?」

裕作が怪訝そうに響子の顔を覗き込んだ。
訪れた二谷の部屋で襲われてから二日経っていた。
死にたいほどの衝撃を受けたが、いつまでも滅入っていることは出来ない。

よくよく考えてみれば、処女でもあるまいに、そこまで思い詰めるほどのことではないのかも
知れない。
巷の話やテレビドラマではないが、主婦の不倫など珍しいことではないのだろう。
しかも響子の場合、浮気や不倫ではない。
強姦されたのだ。
言ってみれば野良犬に咬まれたようなものであり、響子には何の責任もない。
夫の裕作を裏切ったわけではないし、家庭を顧みず情事に耽ったわけでもない。
彼女に油断がなかったわけではないが、それまでの二谷の行動や人柄を見ていれば、それもやむ
を得なかったろう。
豹変という言葉があるが、響子にはまさに二谷が豹変したとしか思えなかった。

この二日、響子は二谷と顔を合わせるのを恐れ、ろくに部屋から出なかった。
それまでは甲斐甲斐しくアパートの雑用をこなし、住人の世話を焼いていた彼女が急に引きこも
ってしまったので、夫も心配になったわけだ。

「べ、別に……。どうして?」

ことさら響子は明るく振る舞った。
こんな個人的なことで裕作に心配をかけたくなかった。
それに夫は二谷を可愛がっている。
自分がその二谷に犯されたと聞けば、どんなに悲しむだろうか。
二谷も若気の至りに違いない。
きっと後悔しているだろう。
ならば、あとは自分があのことを忘れてしまえばいいだけだ。
ここで夫に打ち明けても、誰にも良い結果は出ない気がした。

「茶々丸の宴会……どうする?」

今晩は明美の勤めるスナックで飲み会なのだ。
一刻館関係者で集まって定期的に飲んでいるのである。
親睦を深める意味合いもあるし、裕作も響子もほとんど外で飲むことはしないので、こうした
会合は大事にしていた。
茶々丸へ行く道すがら、響子の実家に寄って春香を預けていくことになっている。
春香は明日の朝に迎えに行くから、宴会が終わったあとはひさびさにふたりっきりの夜になる。
宴会を含めて、そのことも夫は楽しみにしていた。
断る理由はなかった。
本音を言えば、まだショックの抜けきれない響子としては遠慮したいところだったが、これ以上
彼に心配を掛けるわけにもいかないだろう。

「もちろん行くわ。お酒もひさしぶりだし」

響子は夫の不安を打ち消すように笑顔で答えた。

* - * - * - * - * - *- * - *

夕方7時から始まった宴会は、開始15分も経たないうちに佳境に入っていた。
もちろんその中心は、名うての大酒呑みである一の瀬のおばさんと明美である。

「きゃはははっ」

明美はこの店のウェイトレス−というかホステスであるのだが、そんなことはうっちゃって、
宴席の中心で飲んで騒いでいた。
店のマスターはもう諦めている。
というよりも、このメンバーで宴会をやる場合、この状態はいつものことなのである。

「あんた、結婚生活はどうなの?」

すっかり酒が入ってはいるが、まだまだ酔っぱらうところまでいっていない一の瀬夫人が明美
に聞いた。
もっとも、一の瀬のおばさんが酔いつぶれるのを見たことがある人はほとんどいない。
いつも明美とともに、最後の最後まで飲んでいるのが彼女だからだ。

「結婚て、あたし結婚してないよ」
「何言ってんの、あんたマスターと……」
「籍入れてないもの」
「はあ? そうなの、マスター?」

ちょび髭のマスターがカウンター越しに苦笑して頷いた。

六本木明美は、年齢は響子と似たり寄ったりだろう。
ある意味、響子とは対照的な女性であった。
ふわふわもこもことした柔らかい髪を赤く染めている。
いつもとろんとした目をしており、いかにも水商売風の女に見えた。
色白だし、スタイルもなかなかのものなのでモテないわけではないのだが、私生活に問題が
あった。
ひとことで言えばだらしないのである。

一刻館の住人なら誰でも知っているが、アパートにいる時はスリップでうろついている。
男性がパンツ姿でいても顰蹙を買うのに、女性が下着姿では何をか言わんやである。
裕作も最初は、そのしどけない姿に驚き、目のやり場に困ったものだが、いつのまにか慣れて
しまった。
いつもその姿なのだからそれも仕方あるまい。

その彼女も、ちょうど響子と裕作が結婚した頃、勤め先である茶々丸の店主にプロポーズされ
ていた。
あちこちで浮き名を流した明美ではあったが、その実、恋愛下手でもあった。
彼女自身、腹芸が通じるタイプではないので、つきあう男には簡単に素顔を晒すのである。
一度や二度、身体を許してもつきあったうちに入らないのだそうだが、明美がその気になって
つきあった男であれば、やはりだらしない姿を見せてしまうのだ。

彼女はそのことをまったく気にしていない。
真実を隠す方が不誠実だと真面目に思っているわけでもない。
そこまで考えていないのである。
当然、男は面食らう。
そして、よほど明美に惚れているのでなければ、「これはつき合いきれない」と思うだろう。
今までがそうだった。

ところが、そうした明美のことをすべてわかっていて、ここのマスターは求婚したのである。
明美もこの店に勤めて長いし、その間、ふたりの間に何があったのかは本人たちしか知らない。
変人の多い一刻館関係者の中では、マスターは常識人だったから、その話を聞いた時、響子や
一の瀬たちは大いに驚いたものだ。

「何で籍を入れないんです?」

と、四谷が聞いた。

彼は古くからの四号室の住人で、常に裕作たちをからかって遊んでいた男である。
男性であるということを除けば、年齢や職業など一切が不明だ。
年末には帰郷と称してアパートを出るのだが、田舎がどこかもわからない。
いつもスーツにネクタイを着用しており、見た目は固そうな人物だが、一刻館いちの変人で
ある。
裕作の部屋を覗いたり、響子との関係を茶化し続けていた。
もっとも、ふたりが結婚してからは、そういった悪ふざけはピタリと止んでいる。

「何でってこともないけど……。何となく、かな。面倒だし」

明美はグラスを片手に、タバコを深く吸い込んで言った。
実のところ、明美はマスターとの結婚を了承したわけではないらしい。
求婚に関してははっきりした返答をしていないが、取り敢えず同居というか同棲することに
関してOKしたということなのだそうだ。
一の瀬おおばさんが頭を掻きながら言った。

「籍入れないで同棲してる方がよほど面倒だと思うけどね。結婚したくない理由でもあんの
かい?」
「別にないよ。ホントに何となくだから。入れたくなったら入れるよ」

響子としては、そんな態度ではマスターが気の毒だと思う。
何でも彼は、そのために妻と別れたらしい。
もっとも、明美に言わせるとそれは口実で、もともと別居生活が長かったようだ。
明美と添い遂げる気になって、正式に離婚するきっかけになったのだそうだ。
式を挙げる気はマスターにもないらしいし、前妻とも別れたので何も障害はなく、気長に明美
がその気になるまで待つ気のようだ。

「ま、あの人はあたしを抱くのに不都合がなくなったし、現状でもいいのよ」

明美はそういうとカラカラと笑った。
露骨な言い方だが、彼女なりに照れていたのだろう。
花江も苦笑して言った。

「そういう理由じゃしようがないやね。いやさ、もし結婚する気ないなら一刻館に戻ってやれ
ば、と思ってさ」
「なんで? あたしがいないと宴会できないから?」
「そうじゃないよ。あんたが出て二階堂くんが出て、家賃収入が減ったろ? 管理人さんとこ、
けっこう大変みたいだしさ」
「あら、一の瀬さん、そんな……」
「そおお? でもあの子が出てった後、その子が入ったんじゃないの?」

明美は無遠慮に二谷を指差した。
「あの子」とは二階堂であり、「その子」とは二谷のことだろう。

二谷は今まで未成年であることを理由に、飲み会の誘いは断っていた。
実際19歳である。
実のところ、あまりつき合いの良いタイプではないのだ。
ただ裕作とは妙にウマが合っていたようだ。
その裕作に誘われたからというわけでもないだろうが、今回はふたつ返事で参加を了承していた。
それを聞いた時、響子はそこはかとない不安を覚えたが、まさか宴会の席でおかしなマネはしな
いだろう。
第一、彼も堪えているのか、あまり部屋から出て来なかったから、今日まで響子と顔を合わせる
ことがなかったのだ。

響子はちらと二谷を見た。
意識しているのか、彼も響子の方は見てこない。
今は裕作と差し合っている。
明美が少々据わった目で裕作を見た。

「あんたの稼ぎが悪いから管理人さんたいへんなんでしょ。しっかりしなさいよ」

裕作は、明美や四谷に絡まれるのを避けて、二谷とサシで飲んでいたわけだが、それは許され
ないようだ。
なにしろ独身時代の彼は、一刻館の「おもちゃ」だったのである。

「そんなこと言われてもなあ」

住人の移動にまで責任は持てない。
保育士の給料など、高が知れている。

「ま、あんたの甲斐性じゃしようがないわね。その分、ちゃんと管理人さんを楽しませてる?」
「なんですよ、楽しませるって」
「鈍いの、それとも惚けてんの? エッチに決まってんじゃん」
「バ……」

この手の話題も、明美、四谷のお得意である。

「そうですな。念願叶って管理人さんを誑かしたわけですし」
「誑かしたって何ですよ、四谷さん」

裕作が苦笑というよりは、やや顔をしかめて答えると、それまで黙っていた二谷が話に入って
きた。
明美が、いいおもちゃが来たと言わんばかりに引き入れる。

「そおよ。あんた、この男を先輩っつって慕ってるけど、そんな立派なもんじゃないわよ」
「何です、そりゃ」
「こいつが二十歳くらいの時は、もうどうやって管理人さんをものにしてやろうかって、それ
ばっか考えてたんだから」
「あっ、明美さんっ」

さすがに響子も顔を赤らめて割って入った。
いいカモが来たと、明美はますます調子に乗る。

「だって事実じゃん。二谷くんったっけか? 当時は管理人さんだって独身ちゅうか未亡人で、
フリーだったわけよ」
「……」
「で、管理人さんに言い寄っていたのが五代くんと三鷹さんて人だったわけ。なのに管理人さんは、
そのどっちも袖にしてたんだからさ」
「はあ……」

明美も男女関係には不器用な方だと自覚しているが、それでも響子ほどではない。
響子は裕作のことを優柔不断だと怒っていたことがよくあったが、明美に言わせればそれは響子
も同じである。
いつまでも五代と三鷹に思わせぶりの態度をとって引っ張り続けていたのだ。
響子にそんな気はなかったとしても、相手にとってはそうではない。
明美が見るところ、そうした響子の態度や考え方はかなり罪作りである。

「あの頃の管理人さんは、22,3歳かな? それから5年くらいその状態よ」
「へえ」
「死んだ旦那にそこまで貞操守る必要ないのに、絶対に身体を許さなかったみたいよ」
「明美さん、もうそのくらいで……」
「言ってみれば需要と供給は一致してたのよ。五代くんはやりたくって仕方なかったわけだし、
管理人さんも長い間男なしだっただから欲しかったでしょうし」
「明美さんっ」

響子が止めようとすると、四谷が入ってくる。

「ですな。五代くんもよく管理人さんをおなぺっとに……」
「いーかげんにしろっ!!」

* - * - * - * - * - *- * - *

響子が潰れたのは8時半くらいだった。
裕作よりはずっとアルコールに強いタイプなのだが、ひさしぶりの酒だったし、また明美たちが
面白がってどんどん飲ませたせいで、早々に酔ってしまったらしい。
今晩は春香を心配することもなく、のんびりできるという気持ちもあったのだろう。

「管理人さん……。管理人さんっ!」

一の瀬夫人が肩を揺すっても、響子は「ううん」と呻くだけで沈没している。
本格的に酔いつぶれたらしい。

「ほら、あんたがふざけてどんどん飲ませるから……」
「一の瀬さんだって同罪でしょ。だいたい、管理人さんもグラス断らなかったもん」

ふたりの女が責任のなすりつけあいをしているのを横目に、裕作が響子の肩を抱いた。
夫として当たり前のことだが、それが二谷には面白くなかった。
胃の腑あたりに冷たい炎が燃え上がる。
それが嫉妬心だと気づき、二谷は顔を背けた。

「響子、だいじょうぶか?」
「……」

返事はなかった。
これは潮時だと思った裕作は、響子の肩に手を回して起こそうとする。
それを見てマスターが声を掛けた。

「お、帰るかい?」
「はあ、もう響子がこの有り様なんで」
「よかったらクルマ使いなよ。タクシー使うのももったいないし」

響子の肩と腰に手を回して立ち上がらせた裕作の両手を、四谷と明美が引っ張った。

「待った待った。あんたはまだ帰っちゃダメよ」
「何言ってんですか!」
「あんたまだ全然入ってないでしょ。飲んでいきなさいよ」
「い、いや、でも……」

裕作が困った顔をし始めた時、二谷がすっと立ち上がった。

「五代先輩、よかったら僕がお送りしますよ」
「真人……」

それを聞いて、明美が手を叩いた。

「そうよ、あんた管理人さん送っていきなさいよ。あんたシラフでしょ?」
「はい」
「クルマ運転できるよね? じゃマスターのクルマで管理人さん送って。クルマは一刻館に置い
といれくれれば、あとであたしが取りに行くわ。それでいいでしょ?」

明美がそう言うと、マスターは頷いた。
二谷が、裕作から響子を剥がすようにして受け取る。

「じゃあ先輩、そういうことなんで……」
「なんだか悪いね」

裕作はそう言って微笑んだ。
彼も本音は、ここで明美たちのおもちゃになっているよりも、部屋に戻って響子と過ごしたい
ところだが、この状況ではそうもいくまい。
二谷も笑顔で答えた。

「大丈夫ですよ。安全運転でお送りします。部屋までは責任持ちますから」
「頼むよ」
「わかりました。それで先輩たちは何時頃帰ってきますか?」

二谷の問いに、「エンドレス!」と上機嫌の明美の声が被った。
この連中が宴会を始めたら、もうほとんど貸し切り状態になるのだ。
閉店時間は深夜1時だが、3時、4時まで飲んでいるのが当たり前だから、明美のことばは
大げさではない。
響子を支えている若者を見て、明美がからかった。

「部屋に連れ込んで管理人さんにエッチなことする気なんじゃないの?」
「おまえなっ」

二谷は、明美と裕作の声を背中で聞きながら茶々丸を出た。

* - * - * - * - * - *- * - *

「……」

クルマを走らせながら、二谷は助手席で眠りこけている響子を横目で見た。
裕作に手伝ってもらいながら彼女を車内に運び入れる時、二谷は響子の女の香りにくらくらし
ていた。
アルコールの甘ったるい匂いと、響子の身体から仄かに漂ってくる、これも薄甘い香りの虜に
なった。
ズボンの股間が張っていることを裕作に気づかれないかとヒヤヒヤしたくらいだ。

それでも運転席について、窓の外から裕作に「よろしく頼む」と言われた時は、よほどやめよう
かと思った。
彼は、自分を目にかけてくれている裕作に恩義を感じている。
その妻である響子もよくしてくれていた。

しかし、それとこれとは別問題だ。
響子を想う気持ちは、どうにも抑えられなかった。
茶々丸から一刻館までは、徒歩で15分ほどである。
まだ寒いし、響子が酔っているということでクルマを借りたのだ。
従って、クルマで行けば一刻館まで5分もかからないが、その5分の間に二谷は悪魔に魂を売る
ことに決めた。
10分後、ホテルの駐車場にクルマを滑り込ませた時には、もうその気になっていた。

「……」

部屋に入ると、二谷は自分を落ち着かせるように冷水でシャワーを浴びた。
酒を飲んだわけではないが、いよいよという段になって緊張してきたのである。
活を入れるつもりで水を浴び、冷蔵庫からポケットウィスキーを取り出して、それを飲んだ。
度胸をつけるためだ。

響子は服を着たまま、大きな円形のベッドに仰向けで倒れている。
まだ正体なく眠っていた。
本当に限度以上に飲み過ぎた場合、寝ていても胸が気持ち悪くなり、顔をしかめたりするもの
だが、今のところそういう兆候はなかった。
さすがに、やっている最中にゲロゲロされたのでは興ざめも甚だしい。
今の響子は、ほのかに顔や素肌に紅が入っている程度である。
してみると、響子はかなり飲める口なのだろう。

二谷はひとつ深呼吸してから、美しい生贄の服を脱がせ始めた。
コートを脱がせ、ハンガーに掛けた。
ブランドものではないが、センスの良いデザインだった。
薄いブルーのセーターを、腹の方から捲り上げるようにして抜き取る。
その際、髪が少し乱れて顔にかかった。
その様がひどく生々しく、美しかった。

その下には、タンクトップの下着をつけていた。
二谷には何というものかわからなかったが、それも遠慮なく剥ぎ取った。
ほんのり赤くなった素肌が露わになる。
匂うような色香が、その肢体から漂ってきた。
二谷はツバを飲み込んでブラジャーに手をかけた。

ストラップを外し、そのまま前に引き抜くと、それはそれは見事な胸乳が姿を現した。
先日、響子を強姦した時は、セーターを着せたまま慌てて犯したため、彼女のナマ乳を見るの
は今日が初めてである。
そのまろやかでふくよかな乳房がぶるんとまろびでると、二谷は感激した。
これほどとは思わなかったのだ。
普段、服の上から想像していた以上に綺麗なバストだった。

人妻であり、もう30歳に近い。
19歳の二谷から見れば、もう充分におばさんである。
しかも子持ちだ。
バストのサイズは大きかったから、その分、もっと垂れているかと思っていたのだ。
それなのに響子の乳房は、まだ20代前半と思わせるような瑞々しさを保っていた。
仰向けにされているので幾分平たくはなっているが、充分に盛り上がった乳房だった。

彼は、いわゆる巨乳の女も何人か抱いてわかったことがある。
服の上からはバストの形状はわからない、ということだ。
胸が大きく、形も良さそうだったのに、いざ裸に剥いてみると上げ底であったり、ブラで綺麗
に形作られているだけだったり、ということが多かった。
乳房が大きいだけで、だらしなく外に開いていたり、牛としか言いようがなかったり、品のない
バストばかりだったのだ。

響子はそのいずれでもなく、造形美の極まったものだった。
大きさも、平均よりは大きいだろうが、形を崩すほどの巨乳ではない。
何より二谷が気に入ったのは、その乳頭である。
子持ちで、もう半年以上赤子に吸われているのだから、大きくて黒ずんでいるのかと思っていた。
もしそうならガッカリだったが、響子の乳首は小さかった。
母乳で育てていてこれだから、結婚前はかなり小さかったのだろう。
そして色も濃くなかった。
ピンクとまでは言わないが、せいぜいが鴇色といったところだ。
こんな乳房を見せられて、実は人妻だ子持ちだと言われても、誰も信じないのではないだろうか。

震える手で下半身に移った。
響子の腰をぴっちりと締めていたタイトスカートのホックを外し、ゆっくりと引き下ろす。
ベージュのストッキングも丸めるようにして脱がせた。

そこまでして、改めて響子の全身を見下ろした。
均整の取れた見事なプロポーションであった。
年齢相応というのか、肌がしっとりしている。
今まで二谷が抱いてきた女子学生のように、水を弾くような若さはないが、その分、男の手に
吸い付きそうなもち肌だ。
今まで抱いてきた幾多の女を思い起こしても、ここまでの肢体を持った者はいなかった。

こういう比較が出来るくらい、実は二谷はモテるのである。
顔立ちはすっきりしているし、体格もスマートである。
適度に筋肉もある。
脚も長い。
ルックスは申し分ないので、寄ってくる女の子はいるのだ。
しかし二谷は、今まで「つき合った」と自覚している女性はいない。
何度かセックスの関係まで行った相手は何人となくいる。
この辺りが裕作とは決定的に異なる点である。
それでも、大抵は相手が言い寄ってきたケースだから、二谷が厭きると捨てていた。
女性に対して冷淡なわけではないのだが、あまり関心がなかったのである。

女の子とつき合うのはいろいろ面倒でカネもかかる。
それよりは、部屋でパソコンをいじっていたり、本でも読んでいる方が好きだった。
映画鑑賞も趣味ではあるが、デートで行くことはほとんどない。
ひとりでじっくり見たいタイプなのだ。
それでも、二谷とて健康な若い男子であるから、当然のように性欲はある。
自慰もするが、機会があれば女を抱いた。
相手は引く手数多である。

だから、セックスにしても数だけはこなしているし、それなりのテクニックも身につけていた。
ただ、二谷の好みの女性というのに出会えず、恋人がいない状態だったのだ。
不動産屋に案内されて一刻館へ行き、響子の姿を見て電撃が走った。
彼女しかいないと思った。
だから、彼としては珍しく積極的に、というか暴力的に彼女をものにしたのである。

二谷は、響子の肉体を守る最後の砦であるパンティも下ろした。
ブラとセットなのか、同色のブルーであった。
下半身も、息を飲むほどの裸体だ。
着痩せするタイプというより、出っ張りとくびれのメリハリがはっきりしている身体だった。

くびれた腰に対比するように、骨盤が大きく張り出している。
どちらかというと、胸の大きな女よりヒップの張った女性の方が好きだったから、二谷は喜んだ。

そして秘密のデルタ地帯。
黒髪の美しい響子らしく、漆黒の繁みが慎ましやかに覆っていた。
そっと撫でてみたが、ゴワゴワと強い毛ではなく、柔らかで触り心地がよかった。
このままずっと、この美しい女神の裸身を眺めていたくなったが、そうもいかない。
そんなことをしているうちに、二谷の性器もすっかり準備が整っていた。
腰に巻いたバスタオルの前の部分が大きく盛り上がっている。

ふと時計を見ると、あれから30分以上経過している。
裕作たちは午前様にはなるだろうが、それでも念のために0時前には戻らないとまずいだろう。
二谷と響子が帰宅していないことがバレたら、えらいことになる。
あと2時間強だ。

二谷は、この日のために用意したロープを取り出し、響子を縛り上げていった。
抵抗を奪うためではあるが、同時に彼の趣味でもある。
あまりヘヴィなのはともかく、ライトSMには関心があった。
二谷がオナニーする時も、ネタに緊縛した響子を使っていたくらいである。

目を覚ます前に終わらせる必要がある。
彼は急いで縛っていった。
響子の張り出した胸乳の上下に縄をかけ、括り出す。
そのまま縄尻で、二の腕を背中に回して固定した。
教本によると高小手縛りとある。
そして両脚も、膝を曲げた状態で腿と足首にロープを巻き付けた。
両脚の間を固定する棒を用意してなかったのを悔やんだが、まあこの状態なら多少の抵抗は押さ
えつけられるだろう。
二谷はもう一度深呼吸し、横たわる響子の香りを胸一杯に吸い込んだ。
そして腰に巻いたバスタオルを取り、眠れる美女に覆い被さっていった。

「う……あ……?」

響子は、身体にかかる圧迫感に呻いた。
何か重たいものが乗っている。
薄目を開けると、目の前に見慣れた顔があった。

「に……たにさん……? あっ……」

相手を確認した途端、男は響子を抱きすくめ、白い首筋に唇を当てた。
夢の中のような感覚だったが、ぶよぶよした感触に寒気がして、響子は意識がはっきりしてくる。

「に、二谷さん、何を……あっ!?」
「管理人さん、ごめんなさい、またこんなことになって……」
「え……ああっ」

身体が動かない。
腕が背中に回っていて、どうやら縛られているようだ。
しかも胸が括られるようにロープをかけられている。
そこで気が付いたが、いつのまにか全裸にされていた。
上半身だけでなく、下半身もスースーする。
響子は二谷に問い詰めた。

「二谷さんっ、これは……これはどういうことなんですか!?」
「ごめんなさい! 僕はどうしてもあなたが……響子さんが欲しいんだ」
「そんな……じゃあ……」
「茶々丸で響子さんが酔いつぶれてしまって、僕が送ることになって……」
「じゃあ、ここは……」

二谷は首を振った。

「一刻館じゃありません。申し訳ないけどホテルに連れ込みました」
「そんな……」
「だから、どんなに大声で悲鳴をあげても無駄です」

そこで二谷はいったん響子から離れた。
仰向けのM字開脚になっている響子の前で土下座をした。
呆気にとられた美女がつぶやく。

「二谷さん……」
「本当にすみません、こんなことをして」
「……」
「あの時……あの時のことだけで我慢しようと思ったんですが、どうにもなりませんでした。
あなたを見ているだけで、抱きたくて抱きたくてしようがない」
「そんな……いけません……」
「僕ももう限界なんです。諦めてください、響子さんっ」
「いっ、いやあっ」

二谷はそう言うと、這い蹲っていた姿勢から一気に女体へ襲いかかっていった。

* - * - * - * - * - *- * - *

「……」

裕作は、ちらと壁掛け時計を見た。
午後10時。
響子と二谷が帰ってから一時間ちょっと経過している。
もうとっくにアパートへ戻り、部屋で寝ている頃だろう。
宴会は果てることもなく、他の常連客まで巻き込んでさらに盛り上がっている。
なんだかんだで、0時前に終わることはないだろう。
少なくとも閉店時間である深夜1時まではやっているはずだ。
ぼんやりと時計を眺めていた裕作に気づいて、一の瀬のおばさんが水割りを作ってくれた。

「五代さん、どうしたい? ……先に帰した管理人さんが気になるかい?」
「いえ……」

明美が乱入する。

「だいじょぶよぉ、管理人さんなら二谷くんとよろしくやってるから、きっと」
「バカ」

裕作は苦笑して座り直した。
まさか二谷がそんなことはするまいから、そういう心配はない。
彼と響子とは10歳も離れている。
自分のことを思い出しても、19歳の時、29歳の女性などはもうおばさんだった。
響子は年上だが、わずかに2歳である。
それも裕作が19,20歳の時、21,22歳だったわけだから、これはもう年齢の差はほと
んどないだろう。

おまけに響子は人妻である。
裕作の時は未亡人だったわけだが、それでも彼はそれなりにショックは受けたのだ。
今の響子は人妻で、しかも夫と二谷は顔見知りだ。
条件が悪すぎる。
状況がまるで違うのだ。
響子の性格から鑑みても、浮気だの不倫だのとは無縁のはずである。
そういう意味では安心していた。

それより、彼が残念だったのは、せっかくふたりっきりの夜が出来るはずだったのに、それが
どうやらおじゃんになりそうだ、ということだった。

* - * - * - * - * - *- * - *

二谷は、その素晴らしい触感に感激していた。
形状が美しいだけでなく、触り心地も抜群だった。
響子の乳房は張りがあり、重そうな弾力感があり、手で揉むと弾かれそうなくらいだ。
二谷の部屋で強姦した時は、時間もなく焦っていたこともあって、胸を直接触ることはなく、
ブラの上から揉んだに過ぎない。
それでも、その柔らかさに酔ったものだが、ナマ乳の揉み心地と来たら天上の感触だ。
むっちりしていて、それでいてすべすべしている。
その乳房に唇を寄せ、舌を這わせ、揉み込む。ざあっと二の腕や脇腹付近に鳥肌が立っている
のが生々しかった。
肌が敏感なのだろう。

「ああ、いや……も、もうやめてください、二谷さん、ああっ……こ、こんなこと……あっ…
…こんなこと、いけませんっ……くっ……」

大声で叫んでも無駄だと言われたが、最初は絶叫するように助けを求め、二谷を止めようと
した響子だった。
しかし、よほど防音設備がいいのか、音が壁に吸い取られるようで、とても外に洩れそうもない。
セックスの時、大声を出す女性もいるのだろうから、響子の悲鳴が仮に聞こえても、ホテル側は
気にもしないのだろう。

二谷の方も、いよいよその気になってきた。
始めの頃は、まだ響子や裕作に対する罪悪感があって、恐々と触る程度だったのだが、徐々に
響子の反応が変化してきたのを覚り、余裕や自信が出てきたのである。

「響子さん、あの時はこっちも慌ててて、ろくに愛せなかったですけど、今日はたっぷり愛して
あげますからね」
「だめっ……こんなこと許しませんっ、ああっ……やめて、やめてください、二谷さんっ……
ああっ、そ、そんなとこ触っちゃ……くぅあっ……」

繊細なタッチと荒々しいほどの愛撫のコントラストに、響子は翻弄され始めてきた。
彼女ももう29歳である。
自分の身体が男の愛撫に応えてきているのがわかる。
どんなにいやだと思っても、肉体が感応してきている。
ともすれば押し流されそうな性的な感覚を堪えながら、響子は信じられぬ思いでいた。

彼女はもともとかなり環境に影響される方で、夫の裕作に抱かれていても、気になることがあっ
たりすると、途端に醒めてしまう。
性的には敏感だったから、夫の愛撫には身体が応えるし、快感も得てオルガスムスへも到達する。
しかし、例えばセックスの最中に春香が夜泣きしたりすると、すぐに股間が乾いてしまうくらい
なのだ。
そんな自分が意に添わぬ形で犯されたら快感など感じるわけがないと思っていた。
なのに、今こうして二谷に凌辱されつつあり、身体をいじくりまわされているのに、肉体は感じ
始めているのだ。

響子は唐突に、ミニ同窓会で友人が言っていたことを思い起こしていた。

−だからさ、みんな口に出しては言わないけど、女なら誰にだって強姦願望ってあると思うん
だよね。

「……」

そう言えば、先日、二谷の部屋で犯された時もそうだった。
喘いだりはしなかったし、濡れてもいなかったが、二谷が射精した頃には膣の奥が熱かったよう
な気がする。

涼子が強姦願望の話をした時は、そんなことがあるものか、少なくとも自分には関係ないと思
っていた。
前夫に死なれた後、5年以上もそんなことはなかった。
セックスが嫌いだというわけではなかったが、男がいなくてもどうということはなかったのだ。
なのに、これはどういうわけだろう。

裕作と結婚し、セックスを再開するようになって、響子の身体が男の愛撫を思い出し、女の本能
が目覚めてきたということはあるのかも知れない。
だが、レイプされてこんな気持ちになるというのは信じられなかった。
おぞましいが、自分にも強姦願望があったのかと思ってしまう。
また涼子の言葉が甦る。

−女にだって性欲はあるし、感じるもんは感じるんだもの。

そうなのかも知れない、と、響子は思った。
セックスとは精神的なものが大きいと思うし、それは間違いないのだろう。
しかしその反面、女の身体というのは響子が思っているよりもシステマティックなのかも知れ
ない。
パブロフの犬ではないが、念入りに愛撫されれば感応させられるのは当たり前なのだろうか。

響子が二谷の愛撫を受けながらそんなことを考えているうちに、彼の責めも本格的になっていく。
もうぷくんと膨れていた乳首を指で摘むと、くっ、くっと引っ張る。
そのたびピリッ、ピリッと電気が走り、響子は胸を反らせて呻いた。

「くっ……んんっ……くうっ……」

いくら泣き叫んでも無駄だとわかり、響子は戦術を変更した。
何をされても感じていないフリをして、男のやる気を削ぐ方法だ。
これは確かに効果はある。
特に、年下の男を相手にしている時は絶大だ。
言外に「坊やの愛撫くらいじゃ感じないわ」と言われているようなもので、いたく男のプライド
を傷つける。

しかし相手が悪かった。
二谷と響子には10年の年齢差があるが、セックス体験としては二谷の方が圧倒的に多いのだ。
特定の恋人はいなかったものの、性欲の捌け口として様々な女を抱いてきた二谷と、もともと
奥手の響子では勝負にならない。
だいいち響子は亡夫と裕作以外の性経験はなく、このふたりのトータルでも夫婦生活は2年にも
ならないのである。
実年齢とは逆に、セックスに関しては響子はまだ駆け出しのビギナーだが、二谷は経験豊富な
ベテランなのである。
響子が戦術の失敗を覚るのはすぐだった。

「あっ……んんっ……はっ……く、く……あ……」

性技に長ける若者は、響子の全身を舐め回していった。
それこそ、額の髪の生え際から足の爪先まで、彼の舌が這わぬところはなかった。
それも、たっぷりと唾液を乗せて入念に舌で愛撫していった。

のど周辺や首もとはそうでもなかった。
しかし、男の舌が耳元や肩口にかけてねっとりと這い始めると、響子の中にゾクリとするよう
な刺激が走った。
舐め上げるたびに、ギクン、ビクッと裸身が震える。
二谷はその様子を冷静に観察し、響子の反応が激しかった箇所を、さらにしつこく舐めていく。
そうすることで、この美女の性感帯を頭に叩き込むつもりだったのだが、やってみて驚いた。
酔っていると、いささか感覚が鈍るものと聞いていたのに、この女ときたら、二谷の舌が蠢く
たびに呻き、身体を仰け反らせている。
感覚の鈍い箇所もあるにはあるが、どこを舐めても感応しているらしい。
いきなりホテルに連れ込まれて、有無を言わさず乱暴されているという異常なシチュエーション
のせいもあるのだろうが、鋭敏な女体であることは間違いないらしい。

「ああっ!? あ、そこやめっ……ああっ……あっ、ああっ……」

響子の声が色づいてきた。
乳房を舐めたのだ。
縄目に括り出されている谷間を舐め上げたり、きつく締めつけられて張り詰めた皮膚をなぞって
やると、人妻は耐え切れぬように呻きだした。
乳輪に沿って舐め回し、ぷくりと膨れてきた乳首を押し戻すように舌で押し込むと、響子は唇が
白くなるほどに強く咬んで耐えた。
だが、それもすぐに押し流された。二谷が固くなった乳頭を思い切り吸い上げたのである。

「ひゃあうっっ……!」

大きめの乳房に充満している快楽の元が一気に吸い取られるような感覚に、美しい人妻は身を
捩らせて反応した。
少し口を休めて、若者が言った。

「どうですか、管理人さん。少しはいい気分になってきましたか?」
「……」
「あ、ああっ、だめっ!」

口ごもる美女に対し、二谷は響子がもっとも恐れていた箇所を責め出した。
股間に舌を伸ばしてきたのである。
舌をつけようと思った彼は、一瞬そこに見とれた。
最初のレイプでは観察する余裕のなかった秘園である。
恥毛の綺麗な生え具合や柔らかい触り心地も申し分なかったが、それよりも形状が見事だった。
響子の結婚生活は、トータルで2年にも満たないらしいし、もともと性体験は少ないようだが、
それにしても美しい形状だった。
子供を産んだというのがウソのように、形がまったく崩れていない。
処女と言ったら大げさだが、20歳そこそこと言っても通用するのではないだろうか。

全体として慎ましやかな媚肉であったが、ただひとつ先端にある肉芽だけは立派だった。
二谷が今まで抱いてきた女学生たちよりも大きく、ヒクヒクと膨れあがっていた。
大きさで感度が異なるのかどうか知らないが、これだけの大きさなら通常より余計に感じるの
ではないかと思った。

「痛っ……あ、いやっ……ああっ……ひっ……」

二谷が面白がって、そのクリトリスを指で弾くと、響子はそのたびに跳ねるように、すくめる
ように身体を弾ませていた。
痛いと言っているが、二谷はそれほど強く弾いてはいない。
余程感度がいいのだろう。
その苦痛を乗り越えてしまえば、とんでもなく強い快感を得ることになるに違いない。
虐められて涙を流しているように濡れたクリトリスを、二谷は唇で挟み込んだ。

「ふわっ……いや、やめて、あっ……ああっ……いっ……」

つるりと口に含み、唇で挟み込んでねぶってやると、響子は顔を左右に振って喘いだ。
もう段階を超えたようで、明らかに喘ぐ状態になっている。
二谷は舌でそこを丁寧に愛撫し、しゃぶり、舐めていった。

響子は、二谷の舌や唇が動くごとに、腰をよじり、通電したかのように身体がひきつれていく。
反応した声だけは出すまいと、必死に堪える唇から、少しずつ喘ぎが洩れだしてきた。
責め続けられ、二谷の舌が蠢くごとに、響子の胎内に官能の暴風が発生し始めている。
子宮が収縮するさまが何となくわかった。
見たこともないのに、響子にはその様子が浮かんでくる。
こんなことは初めてだった。

つるっと吸われ、舐められると、そのを中心に膣が燃え上がり、それが下半身全体へと広がっ
ていく。
堪えても次々とわき上がる肉の欲望に、人妻の性が崩れつつあった。
その白かった裸身がピンクに染まり、口では拒絶しているのに、腰は二谷の口に押しつける
ように反り上がっていた。
もうそこは、どうにも否定が出来ぬほどに濡れそぼっていた。
二谷が舐めて唾液で湿らす必要などなかった。
しかし彼は、その蜜を舐め取って、代わりに自分のツバを塗り込めるように舌を使い出した。

「あ……はあ、はあ、はあ……ああ……」

たっぷりと時間を掛けた愛撫に、響子は朦朧としてきた。
頭の芯がけぶっているのは酔いのせいではなかった。
これほどの前戯を受けたのは初めてだった。
それも、舐められただけである。
揉んできたり、触ってきたりというのはまだなのだ。
否応なく肉体が高ぶっている。

抱かれてもいい、抱かれたい、という醜い欲望を、響子は懸命に踏みつけようとしていた。
何しろ相手は夫以外の男なのだ。
しかし、夫以上の愛撫をその男はしてくれていた。
その献身的とも執拗とも受け取れる愛撫に、成熟した美女の肉がとろけていた。

二谷はねちっこく響子の裸身を舐め回していた。
かれこれ一時間近くなる。
こんなに念入りにやったのは、さすがの彼も初めてだった。
しかし彼は一向に厭きなかった。
時間があれば何時間でもそうしたいと思った。
まるで獣が自分のテリトリーにマーキングするかのように、響子の身体へ自分の匂いを染みつけ
ていたのである。

「あ、ああ……」

突然、全身をねぶり回す淫らな舌の感覚が遠のいた。
響子は潤んだ瞳で若者を見つめる。
バスタオルをはだけていた股間には、怒り狂ったような男性器がそそり立っていた。
もう、どうにもならない。
響子は、犯されることは覚悟した。
それでも、何とか最後の矜持で、大きく反応することだけは避けたかった。

二谷は、縛られて動けぬ響子の股間にかがみ込んだ。
犯すのかと思ったが、まだ媚肉を嬲るらしい。
響子が自ら欲しがるまで責めるつもりなのだろうか。
囚われの人妻は、膣に忍び寄る妖しい感覚に耐えるべく身体を強張らせたが、男の手は予想外
のところに来た。

「にっ、二谷さんっ……ど、どこを……」

二谷の手は、響子のむっちりした尻を割っていたのだ。
中を覗くようにしていた若者に、人妻は身を捩って逃げようとした。

「だめっ、そんなとこ見ちゃいけませんっ……ああ、いやあっ」

禁忌ゾーンが二谷の目の前に広がっている。
青白いほどに白い尻の谷間には、チャコールグレイのおちょぼ口が潜んでいた。
二谷の視線を感じるのか、そこはヒクヒクと恥ずかしげに収縮している。

「あ、ああ、いや……見ないで……」

響子は顔を背けてむせび泣いた。そんなところをまじまじと観察されるとは思わなかった。
媚肉を見られる以上の羞恥を感じていた。
女の、というより人間の尊厳を突き崩すような責めだった。
まるで男の視線に圧力があるかのように、響子の肛門はピリピリとした刺激があった。
さらに興奮した二谷の吐息がかかる。
熱い息が響子の処女地をくすぐるようになぞっていった。

「あああ!? ひっ、ひぃぃっ……」

今まで経験したことのない感触が肛門に来た。
ねっとりとしたものがアヌスを這っている。

「な、なにを……」
「なにって、されててわかりませんか? 管理人さん……いえ、響子さんの肛門を舐めている
んです」
「な……」

響子は目を剥いた。
信じられない。
響子が驚愕したように身体を硬直させたのを見て、二谷が顔を上げて聞いた。

「あれ? もしかして響子さん、お尻をこうされるの初めてですか?」

当たり前である。
無言だったが、わなわなと震えている響子を見て、二谷は嗤った。

「……へぇ。じゃあ先輩にもされたことないんだ」
「あ、当たり前ですっ……あ、あの人はそんな変態じゃありませんっ」

糾弾するような叫びに肩をすくめて二谷が言った。

「変態はひどいな。それに五代先輩だってやりたかったのかも知れませんよ」
「え……」
「響子さんてさ、別に可愛い子ぶってるわけじゃないと思うけど、そういうところが妙に潔癖
でしょ」
「……」
「だから五代先輩もだいぶ気を使ってるんじゃないかなあ。それに、先輩の方が惚れて響子
さんと結婚したわけでしょ? どうしたって主導権を取るのは響子さんの方になるもの」

もともと裕作は人が好く、我を押しつけるようなマネはしない。
あまり響子は意識したことはなかったが、確かに二谷が言う通り、裕作が必要以上に気を回して
いることを感じたことはある。
そうじゃなくても響子の方が年上なのだ。

だとすると、彼の性格からして、二谷の言うように、セックスに於いても裕作はだいぶ遠慮して
いたのだろうか。
そう言えば思い当たるフシもある。
あれだけ憧れた上での結婚だったのに、夜の生活は毎晩というわけではなかった。
響子はそれで不満はなかったし、裕作が求めてくれば体調が悪くない限り応じるつもりではいた。
するとあれは裕作が控えていただけなのだろうか。
内容についても、夫はあまり激しい行為はしなかった。
だが、本当はそうしたくても響子を気づかって遠慮していたということはあり得る。
それが彼の優しさなのかも知れなかった。

同窓会の時、涼子が言っていた言葉を思い出す。
誰でもそういう変態的な趣味を多少なりとも持っているものだ、と。
裕作もそうなのだろうか。
響子がそんなことを考えていると、二谷が再度身体をいじってきた。

「あっ、あっ……い、いや、そんなとこっ……は、恥ずかしいっ、ああっ……」

男の舌が響子のアヌスをほじくるように抉ってくる。
穴をこじ開けようとするかのようにねじ込んでくると、響子は括約筋を絞って侵入を阻んだ。
すると今度は、締めた肛門の皺をほぐすように、舌先で舐め上げてくるのだ。
熱いナメクジに這われているような気色悪さと同時に、腰の奥が熱くなってくるのも感じた。
必死に締めているのを、ムリヤリほぐされていく感覚がたまらなかった。

裕作も触れていない処女地帯と知り、二谷も念入りに責めた。
繰り返し繰り返し舌でほぐしていくと、響子の肛門は内側からふっくらと膨れるように盛り上
がってきていた。
二谷の唾液で濡れた菊座が、辛抱たまらないとばかりにひくついている。
我慢しきれなくなり、二谷は指を突っ込んだ。

「あっ、あ、痛いっ……」
「痛くはないでしょう? こんなに濡れてるし、柔らかい。指を入れてもほとんど抵抗はなか
ったですよ」
「……」

その通りだった。思ったほどの痛みはなかったのだ。
ただ、刺し貫かれたショックに驚いただけだった。
まったく痛くないわけではないが、思いがけないほどするりと飲み込んでしまった。

「ううっ……ああ……」

男の指が深くまで響子のアヌスを犯す。
長い中指とはいえ、10センチほどだったろう。
それでも響子には震えが来るほどの深さだった。
二谷は指を根元まで押しつけ、ぐりぐりと抉るようにほじくった。
アヌスの粘膜が巻き込まれ、響子にたまらない恥辱と苦痛、そして妖しい痺れを送り込んだ。

「いや、ああ……お尻、いやです……お願い、抜いて……ああ……」

響子の声は、嫌がってむずがっているのか、それとも指に反応して喘いでいるのか、二谷には
よくわからなかった。
表情は苦悶に呻いているようであり、また、快美に喘いでいるようでもある。

それは響子も同様であった。
こんな恥ずかしいことをされてイヤに決まっているのに、お尻をこねくられると、腰から下が抜
けてしまいそうな感覚もある。
これをずっと続けられたら、いや、もっと激しく出し入れされたら声が出てしまいそうだ。
響子は、自分に潜んでいた新たな性感帯に驚き、そのうねりに飲み込まれていった。

「うっ……ああ……んんっ……あっ……うっ、く……はああっ……」

二谷の指が上下するたび、響子は首を仰け反らせて喘いだ。
もう男の指はスムーズに肛門を律動するようになっている。
ずぶっと深く突き刺すと響子の口から「んんっ」と堪えるような声が出、ぬるっと引き抜くと
「ああ……」と気が抜けるような声が洩れた。

二谷は舌を巻いていた。
こんな女は初めてだ。
どんな淫乱な女でも、初めて肛門を責めた時は泣き喚いたし、指が通るだけでもかなり時間が
かかったのだ。
なのに響子ときたら、初めてとは思えぬ反応を示している。
いかに熟した女体とはいえ驚きに値した。
だが二谷は、それは響子が性的に淫らだからだとは思わなかった。
普段はもちろん、いざこういう場になっても、まったく男に媚びるようなところはない。
閨房が好きならこうは行かないはずだ。

従って彼としては、響子は年齢こそいっているものの、性的にはあまり開発されていない、それ
でいて鋭敏な肉体の持ち主なのだろうと判断した。
そしてそれは当たっていた。
セックスには淡泊だと自他共に認めていた響子だが、それは表出する機会がなかっただけなの
だろう。
いかに優れた楽器でも、奏者が未熟あるいは演奏が少なければ良い音は出ない。
それと同じで、響子という楽器から甘美なメロディを引き出せる男が今までいなかったこと、
そして響子自身が自分が名器だとは思ってもいなかったことが原因だった。
今、二谷という男を通して、ほとんど初めて響子の性が解放されようとしていたのだ。

「あう……あうう……いや……お尻、いや……やめ、ああっ……」

ここまで感じ入っていて、それでも羞恥を忘れない。
響子の清楚な美貌も合わさって、そうした性に控えめな反応すら香しかった。
二谷はそのままアヌスを犯したい気になったが、今日は我慢することにした。
どうせ処女を奪うなら、もっと「決定的」な時を選び、演出をするつもりだった。

「あうっ……」

指をずるっと引き抜くと、響子はぶるるっと小さく震えて呻いた。
吐く息が乱れ、熱くなっている。
二谷はもはや完全に脱力した響子の太腿を抱えると、そのまま媚肉を貫いていった。

「ああっ……!」

響子は、その熱くて硬いものを受け入れさせられ、脳天まで痺れが到達した。



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