「……」
「ま、まだ……もう少しゆっくりして……あっ」

力強い手が響子の手首を掴んだ。
じっと見つめている。
思わず響子は視線を逸らせた。

「響子さん……、いいんですか?」
「い、いいって……、何が……あ、何を!」

有無を言わさず、裕作は響子を抱き上げていた。
お姫様抱っこのまま、ずんずんと廊下を歩いていく。
その間、響子は特に抵抗せず、悲鳴も上げなかった。
裕作の汗に滲んだTシャツから、むっとするほどの男臭がする。
響子はくらくらしてきた。
部屋に到着するとドアを開け、裕作はそこに響子の身体を放り投げた。

「あっ……!」

響子の身体がボンと弾んだ。
ベッドルームだったのである。
今日は、この部屋の工事──手すり設置や段差の解消──を終えたばかりであり、
裕作も勝手を知っている。
響子は、転げた身体を肘で立て直しながら慌てたように言った。

「な、何をするんですか、五代さん!」
「何ってことはないでしょう」

ドアを閉めると、裕作はゆっくりと近づいてきた。
むしり取るように、着ていたTシャツを脱ぎ捨てる。
響子はハッとして裕作の上半身を見つめた。
胸板がたくましくなっている。
一刻館時代、住人たちと一緒に海へ行ったこともあるから、裕作のそうした姿を
見るのは初めてではない。
だが、その頃とは比較にならぬほどに男らしい肉体となっている。
ついうっとりと見つめてしまう視線を引きが剥がして、顔を伏せた。

「響子さん……、俺を誘ってるわけですか」
「さ、誘うって何ですか……。私はただ、もう少しお話を……」
「それだけですか? 俺だって男ですよ。誰もいない家で美しい人妻に誘われて、
それでお話だけ、なんてことがあると思いますか」
「……」
「俺だって男ですよ。それに、一刻館時代の俺とは違います」
「……五代さん……」

後悔したような響子の顔を見て、裕作は何だか腹が立ってきた。
この人は、どんなつもりで俺に声を掛けてきたのだろう。
そう思うと、自分が思った以上に大胆な行動がとれた。

「さっき俺の腕に触ってきたじゃないですか。それに、今までも俺の身体を見ていた
ことがあったでしょう」
「……」
「そう言えば、旦那さんの三鷹さんは大怪我してしまって下半身不随だそうですね。
響子さんも寂しい思いをしてるんじゃないですか?」
「……」
「人妻になって何年か経つんだ。身体が夜泣きするでしょう」

裕作は、自分でも意外なほどに露悪的な言葉を吐いていた。
「可愛さ剰って憎さ百倍」というところだろうか。
いや違う。
彼は響子に対して否定的な思いを持ったことは、過去に一度もない。
響子から発する人妻のフェロモン、ずっと禁欲状態だった自分。
もよおしてきたのだ。
欲情したのである。
これが独身時代、一刻館の頃だったら、こういう行動は執らないだろう。
せいぜいが自分の部屋での自慰止まりだ。
女に対しておっかなびっくりだったあの頃と今の裕作は違っていた。

「し、失礼なこと言わないで!」

図星だっただけに、響子の叱責の声が震えていた。
同時に、裕作の変わり様にも驚いていた。
かつての彼は、決してこんなことを言う男ではなかった。
それが良さでもあり、物足りなさでもあったのだ。
結婚と歳月は、彼に少なからず男性としての自信と傲慢さを与えていたようである。

ベッドに膝をつき、にじり寄ってきた裕作から逃げようと、響子は肘で後じさる。
それをつかまえるように、裕作は響子を後ろから抱きしめた。
そして右手で響子の乳房に手をやった。

「いやっ!」

胸を触られて叫んだ響子は、思わず裕作を平手でひっぱたこうとした。
だが、その腕もがっしりと裕作につかみ取られてしまった。
響子の記憶がフラッシュバックする。
以前にもこういうことがあった。

響子が屋根に上って雨漏りの修理をしている時、瓦で滑って落下しそうになったこと
がある。
その時、一緒にいた裕作が響子の身体を抱きかかえて助けたのだが、その際彼は、
偶然を装って響子の胸を触っている。
それと見抜いた響子は、思い切り裕作にスパンクを食わせたのであった。

あの時は、響子が落ちるのを助けた際に偶然のふりをして触った裕作を殴った。
今回は、最初から響子の胸を触ることを目的として手を伸ばしてきたのだ。
だからこそ響子も同じように殴ろうとしたのだが、裕作に止められてしまった。
響子の知っている裕作であれば、そのままビンタされてシュンとなってしまっただろう。
しかし男としてもそれなりに成長していた彼は、響子の手よりも早く反応し、その腕を
押さえ込んでしまった。
そんなところからも、響子は裕作の変化やたくましさを感じ取っていた。

響子はそのまま仰向けに抑え込まれてしまった。
裕作は暴れる響子の身体を押さえるべく、両手でそれぞれの手首を掴んで押さえつけ、
響子の股間に膝をついている。
響子はわななく声で言った。

「な、何を……何をするつもりなんですか」
「何って、わかるでしょう。響子さんが旦那さんと毎晩やっていたことですよ」
「し、知りませんっ」
「響子さん」
「……」

裕作は、響子のおとがいを摘んで顔を自分に向けさせた。

「俺がずっとあなたを好きだったことは知ってるでしょう」
「……」

黙ったままの響子の態度にいらついたのか、裕作は強めの口調で再度確認した。

「知っていたんでしょ!」
「……知って……いました」
「でも、あなたはつれない態度のままだった」
「それは……」
「わかってますよ。俺だけじゃない、三鷹さんにだって……今の旦那にだって同じ
ようなもんだった」
「……」
「そうやって俺たちの気持ちを弄んでいたんですか」
「違います! わ、私、なかなか決心がつかなくって……」
「この期に及んで言い訳ですか。俺には「優柔不断だ」なんて言ってたくせに」
「……」
「俺はね響子さん、いや管理人さん。あなたを純粋に愛する気持ちももちろんあった
けど……」

少し言い淀んだ裕作は、それでもきっぱりと言った。

「あなたを……いやらしい目でも見ていたことがある。否定はしません。端的に言えば
セックスしたいと思ってたんです」
「……」
「知ってるでしょう? 俺はあなたをオカズにしてオナニーを……」
「やめて!」

響子は震える声で叫んだ。
目には涙を浮かべている。
それらしいことは知っていた。
若い男なのだし、自分を好きだったのだから、そういうこともあるだろうと響子は
思っていたのだ。

その反面、自分の身体をいやらしいヌードグラビアのように夢想して、淫らな自慰行為
のタネにされていたと思うと、悪寒が走るのも事実だった。
何も裕作が嫌いだからではない。
女性とはそういうものだ。
いや、裕作に好意的だっただけに、それを知った時はそれなりにショックだったのだ。
本人の口から聞きたくはなかったのだ。

「そ、そんなこと聞きたくありませんっ」
「わかりましたよ」

裕作はそう言うと、すっと響子の顔から手を離した。
ホッとしたのも束の間、裕作はおもむろに響子にのしかかってきた。
男の匂い、汗の匂いが響子の鼻腔をくすぐる。
筋肉が汗で少し光っている。

「今の俺は、今までの俺とは違います」
「そ、それって……あっ!」

裕作の顔が迫ってくる。
思わず響子は顔を背けたが、裕作はそのまま彼女の首筋に舌を這わせ、吸い付いた。

「あ、だめっ……だめです、五代さんっ……んんっ……」

管理人時代の強い口調で窘めようとするものの、敏感な肌に這うねっとりとした舌の
熱さに声が震えてしまう。
もがいて脱出しようとするものの、たくましさを増した裕作の力に敵うはずもなく、
着ていたサマーセーターを捲り上げられる。
そしてスリップの上から豊満そのものの乳房を掴まれ、円を描くように揉みしだかれて
いく。

「あっ……やあっ……やめ、て……あっ……」

必死になって身を捩り、何とか逃げようとするのだが、裕作はがっしりと響子を抱き
しめて離さない。
響子が裕作の汗に匂いに陶然としたように、裕作は響子の首に吸い突いた時、その
薄甘い香りに恍惚となった。
裕作にとっては、千載一遇のチャンスである。
仮にここで手を引いても、響子との関係破綻は必定だ。
ならば「毒を喰らわば皿まで」である。

右手で揉み応えのある乳房の柔らかさを確かめつつ、左手は響子の肢体のラインに
沿うように下半身へと向かう。
響子は激しく顔を振りたくり、堅く閉じた目から涙を散らした。

「お、お願いっ……お願いです、五代さん……もう……もうやめて……い、今なら
まだ間に合いますっ……」

人妻の哀願を無視し、裕作はスリップのストラップを外す。
ブラジャーの上から乳房を揉むと、もう硬くなりつつあった乳首に指が当たった。
一方の手は、薄いフレアスカートの上から股間をまさぐっていく。

「ああ、許して……わ、私、もう……」

響子は熱気がこもり出した吐息と、つい零れそうになる喘ぎ声を堪えて唇を噛んだ。
懸命に息を殺して反応を隠そうとするものの、裕作の手がポイントに触れると、
思わず鼻にかかった甘い声が洩れて出る。

なおも裕作は責めの手を緩めず、下半身の手はスカートの上から豊かに張った臀部を
さすっている。
右手はスリップを腰まで下げてしまい、ブラと素肌を露わにさせていた。
響子のすべらかな素肌の感触を愉しみつつ、ブラの下から手を入れて生乳に到達する。
とろけてしまうかと思えるほどの柔らかさだった。
すでに乳房の谷間にはうっすらと汗が浮いている。
コリコリした乳首を指が捉え、こねくってやると、響子は「ひっ!」と悲鳴を上げ、
なお一層に硬さを増していった。

「ご、五代さん、もうやめて……あっ……いけませんっ……わ、私には主人が……」

ピクリとして裕作の動きが一瞬止まった。
が、すぐにまた淫靡な動きを再開していた。
響子の夫とは三鷹瞬である。
彼への感情は別に悪いものではなかったが、愛する女を取られた事実は変わらない。
その男のことを口にされ、裕作は怒りにも似た感情が噴出した。
決して怒ったわけではなかったが、響子に対する気持ちがやや変わった。
そうだ、この女はもう人妻なのだ。
セックスも人並み以上に経験しているはずだ。
ならば何を遠慮することがある。
ふと響子の手を掴んだ裕作の指に当たるものがあった。
左手の薬指に光るものがある。
結婚指輪だ。
プラチナのリングに、小さなダイヤが三つも埋め込んであった。
暗く黒い感情が滲み出てきた。
それが嫉妬だと気づく余裕は、今の裕作にはなかった。

「……夫ね」
「五代さん……」
「そのご主人は、今ここにはいませんよ」
「え……、あっ、だめっ……」

乳房を愛撫していて右腕も協力して、響子の両脚をぐっと拡げた。
すかさずその間に右の膝を割り込ませる。
驚いた響子は太腿に力を込めて閉じようとしたが、裕作の足を締め付けただけだ。
スカートの上から媚肉を愛撫する。
スカートとショーツの薄い生地は、裕作がそこをなぞっていくと、うっすらと肉溝の
形状を浮き立たせてきた。
媚肉を割れ目ごと摘むと、指がとろけてしまうかと思えるほどの柔らかさだった。
響子は、熱が籠もり始めた身体を必死に振るわせ、首を左右に振りたくった。

「くっ……んむっ……だ、だめ……ホントにこれ以上は……ああっ!」
「ここまで来たら、もう止まりませんよ」
「裕作さん、だめっ!」

また裕作の動きが止まった。
響子から「裕作さん」と呼ばれたのは、初めてだったのだ。
少し驚いたような顔をしていたが、動きはなおも大胆になった。
指がショーツの脇から中へと入り込む。
そして肉の割れ目を直接なぞるように擦り上げた。
響子はガクンと仰け反った。

(ああ……、もう……もうだめ……。あ、あなた……ごめんなさい……。きょ、
今日だけ……今日だけは……)

「……だけ、ですよ……」
「ん? 何か言いました?」
「これっきり……ですからね、五代さん……」
「……」
「約束……してください。今日だけって……」

裕作は耳を疑った。
これは、もう諦めて身体を許すという意味ではないだろうか。
「今日だけ」と言って限定はしているものの、逆に言えば今日に限れば好きにして
いい、ということになる。
もしかすると響子は、過去にもこんなことがあったのかも知れない。
そう思うと、響子の身体に気安さのようなものすら覚えた裕作だった。

実際はそうではない。
響子の揺れる心が打ち出した最後の手段だったのだ。
開発された肉体は、もう我慢しきれないところまで来ている。
しかも相手は憎からず思っていた五代裕作だ。
ならば。
ならば、今この時だけの逢瀬として、情を交わす。
そう決意したのである。
その上で、お互いに今日のことは忘れればいい。
だが、両者の理解は微妙かつ決定的に異なり、それが男の言葉に表れた。

「……そんな約束、出来ませんね」
「え……?」
「そんなこと言わないでくださいよ!」
「あ、でも……ああっ……」

戸惑う響子を置いてけぼりにして、裕作は愛撫を再開する。
乳房を存分に揉みしだきつつ、ショーツの隙間から入れた指を大胆に動かしていく。
熟れた女の匂いが漂い出し、指を濡らしていった。
眉間に皺を寄せて堪える響子を尻目に、裕作はそのまま一気にショーツを引き下ろ
した。

「そんなっ……」

直に尻や腿に指を這わせると、若い張った肌ではないものの、しっとりとどこまでも
柔らかく、脂の乗った肉感が素晴らしかった。
響子の感覚が下半身に集中しないように、乳房も責め続ける。
乳房を揉む手に力を入れると、柔らかい肉に指が沈んでしまう。
少し汗ばんだ肌が手に吸い付くかのようだ。
柔らかい一方で程良い弾力があり、揉まれている間は自在に形を変えていたが、揉んだ
指が離れるとすぐに美しい形状を取り戻す。

「ああ! あっ……む……っ……んんっ……ふあっ……」

愛撫から来る快感が徐々に強まってくる。
響子は身体の震えが止まらなくなり、力が抜けていく。
その隙を狙って、裕作は人妻の着衣をほぼ完全に剥がし取った。
脱がせたブラジャーとショーツが、絨毯の上で蟠っている。
自宅だし、暑かったこともあってか、ストッキングはつけていなかった。
唯一、身体に残ったスリップは、上から下げられ、下からはたくし上げられて、腰骨
の辺りでリング状になっていた。

「……」

裕作は、ベッドの上でくたりとなった人妻を見下ろしていた。
もう諦めてしまったのか、快感に痺れてしまったのか、胸を隆起させながら「はあ、
はあ」と息を吐くだけだ。
鼓動のリズムに合わせて乳房が軽く揺れるのが、何とも生々しかった。

独身──いや未亡人時代から、そのスタイルの良さには定評があった。
人妻となった今、その肉体はさらに磨きが掛かったように見える。
成熟した28歳の肉付きである。
細っこいウェストからは想像もつかないほどの豊かな乳房は、幾分上向きでツンと
乳首を尖らせている。
子供を産んでいないからだろうか、紅というより桜色の乳首と乳輪が初々しい色気
を漂わせていた。
いかにも肉の詰まった、重量感のある乳房だった。

細くくびれたウェストから左右に急角度でぐっとせり出した腰骨に、脂肪の良く乗った
臀部がある。
真っ白で艶やかな臀部は、本当に剥き身のゆで卵のようだ。
太腿も立派で艶々している。
腰の発達と同じで、響子がテニスで鳴らしたせいもあるのだろう。
腿、ふくらはぎの肉の乗りようは、きゅっと締まった膝と足首に対照的な印象ふくよか
さを与えている。

その素晴らしい肉体に、裕作は息を飲んだ。
実は、裕作も過去に一度だけ響子のヌードを見たことがある。
遅れた家賃を管理人室まで届けに行った時のことだ。
響子は無防備にも行水していたのである。
施錠していなかったのが致命的だった。
そこにうっかり裕作が入ってきたのだ。
無論、その時はそれっきりで何もなかった。
裕作が追い出されただけのことである。
それ以外では、一刻館のみんなで海へ行った時、やはり一度だけワンピースの水着姿
を見ただけだ。
裕作にとっては、ほとんど初めて拝む女神の裸身だったのである。
比喩ではなく、夢にまで見た響子のヌードだったのだ。
裕作は、ためらうことなく響子にしがみついていった。

「んんっ!? ……んうっ……んむっ……んっ……!」

突如のしかかられ、いきなり唇を奪われた人妻は、目を白黒させて呻いた。
両手で裕作を引き剥がそうとしたもののビクともしない。
ふたりの身体の隙間に手を入れ、裕作を押しのけようとしても、彼の厚くなった胸板
の筋肉を感じ取るだけで、一向に離れない。
今度は手を背中に回してドンドンと叩いたが、これも無駄だった。

「ぷあっ……ご、五代さんっ、何を……あうむっ……ん、んちゅっ……」

堅く口を閉じていたから、裕作を咥内に迎え入れることはなかったものの、舌は響子
の唇を舐めている。
怖気るような気色悪さに鳥肌を立てたが、男の口は構わず響子の唇を吸い上げていた。
響子とのファーストキスがこのような形となったのは、裕作にとっても不本意だった
が、夢にまで見た口づけの甘さに恍惚となっていた。

裕作の思いの丈が伝わるのか、抗っているはずの響子から力が抜ける。
さすがに口の中は許さなかったが、裕作を叩いていた腕はベッドに落ちている。
顔を固定され、貪るように吸う裕作の接吻に身を任せていた。
長いキスを終え、ようやく口を離すと、響子は「ああ……」と物憂いため息をついた。
それが何ともセクシーに思え、裕作はいよいよその時を迎えた。

「……いきますよ、響子さん」
「……」

これから犯すという裕作の宣言にも、響子は無言だった。
「今日だけ」という限定で、身体を許すことを認めてしまった以上、覚悟が決まって
いた。
あるいは「どうにでもなれ」という投げやりな気持ちもあったのかも知れなかった。
それでも、熱く燃えるような裕作のペニスが濡れた媚肉に触れると、なよなよと首を
振った。

「五代さん……や、やっぱり……」
「今さらやめるなんて言わないでくださいよ」

裕作は、慎重に慎重に肉棒を沈めていく。
愛液を絡めるようにしてペニスを動かし、太く張った亀頭部を膣口に埋めていった。
すでに充分に潤っていた響子の媚肉は、裕作のものを少しずつ受け入れていく。
気弱だった裕作のものとは思えないほどに長大な肉棒は、響子の身体に食い込む
ように膣を引き裂いていく。

「う……ああっ……やっ……くうう……」

怒張に貫かれた身体は、芯が火のように燃えあがっていく。
大きく首を仰け反らせていた響子の美貌は、苦悶と妖美さで彩られている。
胎内ではちきれそうなほどに膨れあがった肉棒は、響子に圧倒的な重量感を感じさせた。

「あ……あ……あ、お、大きい……んむっ……ああ、まだ入ってくる……ああ……」

(あ、あ……ご、五代さんの……こ、こんなに大きいなんて……)

奥の奥まで貫かれると、響子は身体を突っ張らせて呻いた。
裕作が顔を顰める。

「きょ、響子さん、もう少し力を抜いて……」
「あ、ああ……ぬ、抜いてるんですけど……き、きつい……」

人妻とは思えぬほどのきつさに裕作は呻いたが、これでも響子は入れやすいよう力を
抜いているらしい。
響子のそこの締め付けの素晴らしさは、夫の瞬やその友人たちの間でも評判だったが、
裕作が味わうのはもちろん初めてなのだ。
自分のペニスが人よりも大きいことは、セックスの体験を重ねることで裕作自身も
知ることとなったが、そんな彼でも、響子の膣は未経験なほどに狭くてきつく感じら
れた。

何とか肉棒を根元付近まで埋め込むと、子宮口に亀頭が接触したのを確認してから、
ゆっくりと引き出していく。
そしてまたゆっくりと挿入する。
それでわかったのだが、響子の膣道は確かに狭かった。
おまけに収縮する力も強いらしく、ペニスを心地よく締め付けてくる。
それでいて、内部に分泌されている蜜が豊潤で肉棒の侵攻をスムーズにさせ、律動
を助けてくれるようだ。
まさに絶品と言っていいだろう。

「まるで処女みたいですよ、響子さん」
「は、恥ずかしいこと言わないでくださいっ……あっ……」

窮屈な膣道は、襞を総動員させてペニスを包み込んで離そうとしない。
みっしりと埋まった肉棒と膣襞の隙間は、辛うじて愛液が通れるかどうかくらいしか
なかった。
きつくて苦しいのか、あるいは痛みを感じるのか、響子は美貌を歪めて裕作の背に手
を回した。
ぐっと背中を抱いた指に力が籠もる。
苦しさを我慢しているのだ。

「んんっ……あ、あうっ……ああ……うむっ……」

どすんと裕作が腰を打ってくると、響子は呻いた。
苦しさと、その中に混じってくる快感に翻弄され、ややもすると呻き声に艶が入っ
てくる。
裕作は、そんな響子が自分のペニスに慣れてくるのを待ちながら、ゆっくりと腰を
使っていった。
ゆっくりと肉棒を引き抜き、カリ首に膣がひっかかるところまで抜いてから、また
深くまで挿入していく。
そして、先が子宮口に触れると、それを合図にまた引き抜く。
抜く時はゆっくり、入れる時はやや速く、変化を付けて律動していった。

「あ、あううっ……ふ、ふっかいっ……あ、五代さん、深いです……ひっ……」
「深い方がいいでしょう?」
「ああ、でも……あ、あんまり深いのは怖いです……あっ……むむう……」

徐々に濃くなってくる蜜が、律動のたびにぬめった粘りの強い音を立てた。
その頃になると、苦悶していた響子の美貌に赤みが入ってきた。
口を閉じて堪えていた喘ぎが少しずつ洩れだし、その顔には隠しようもない悦楽が
兆してきた。

馴染ませるためにゆっくりと責めていった裕作だが、響子の肉体がだんだんと慣れて
きていることを覚っていた。
ぐっと奥まで突き入れると、襞はきゅうきゅうと収縮してくる。
少しではあるが、膣のきつさも緩んできたような気がする。
これは単に、裕作の方が響子の媚肉に慣れたからかも知れない。

これを機に、裕作は腰の動きを速め、力も入れていった。
ズンと響子の中を突き上げると、蜜まみれになった肉棒と愛液溢れる膣は互いに擦れ
合い、ぬめり合って、淫らな水音を立て続ける。
めいっぱい拡げられていた膣口からは、ペニスが出ていくと襞が外へと引きずり出さ
れた。
一緒になって愛液も零れ、シーツを汚していく。
そしてまた押し込まれると、今度はめくれ込まれて膣内に収まる。

欲望のままにめちゃめちゃに突き上げたい気持ちを我慢し、ペースを崩さずに、それ
でいて大きなグラインドで媚肉の中を抉っていく。
深く入れ、数回奥を突いてやると、性器の結合部からはじくじくと蜜を滾らせ、響子は
じりじりと燃え上がる肉体を持て余すかのように、うねうねと腰を捩ってきた。

「気持ちいいんですか、響子さん。そうなら僕もうれしいですよ」
「そっ、そんなこと……」
「だって響子さんのここ、きゅっと締まってきますよ。いいんでしょう?」
「やっ、そんな……あっ……いううっ……」

官能の炎に媚肉も子宮も灼け焦がされていく。
それを消し止めるかのように愛液が滲み、膣をとろかせた。
奥村の帰国以来、ひさしぶりに味わう肉棒の感触と、それからもたらされる肉の愉悦
に、人妻の熟れきった身体は次第に取り込まれていく。
裕作がペニスを引き抜くと膣が締まるだけでなく、響子の腰自体が追いかけてくる。

「さあ、言ってください。いいんでしょう?」
「ああ……」

響子のマゾ体質、そしてそこから来る言葉責めに彼女は弱かった。
瞬も奥村も、好んで恥ずかしい言葉で響子を責めた。
そうすることにより、この美女は一層に高ぶり、性の喜悦に狂っていった。
それを裕作が知るはずもないのだが、何となく虐めるように責めるとこの女体が反応
することはわかってきた。

「あ……、い、いい……」
「気持ちいいんですね」
「は、い……、ああ、いいです……あ……」

言ってしまった言葉の恥ずかしさに、響子は顔を背けて頬を染めた。
夫の前ならいざ知らず、裕作の前で吐いたことに後悔する。
だが同時に、裕作に言ったからこそ、より深い快楽を身体が感じ始めていることにも
気づいた。

「よく言えましたね」

裕作はそう言うと、ゆっくり動かしていた腰の動きを止めた。
切なそうな美貌を晒し、腰を押し付けてくる人妻に「焦るな」と言わんばかりに
にやっと笑う。
そして突如、速度を速めて響子の子宮口を激しく責め立てた。
裕作の太いものにやっと馴染んできた膣が、急に深く激しく突き上げられ、響子は
悲鳴と愉悦の喘ぎを上げた。

「ああっ、そんないきなりっ……。ゆ、ゆっくり……もっとゆっくりしてくださいっ
……あはあっ……!」
「誤魔化さないでいいですよ。こうやって奥まで激しく責められるのが気持ちいい
んでしょうに」
「あううっ、いいっ……ひっ、いいっ……んあああっっ……!」

喘ぎ、よがり出した響子の痴態に、裕作はうっとりとした顔となった。
これだ。
これを夢想して裕作は自慰を繰り返していたのである。
それが今、現実のものとなった。
響子をオカズにした自慰、それが終わった後の虚しさ。
それを一気に吹き飛ばすほどの恍惚と充実感を得ていた。

それにしても響子の色気は凄まじかった。
未亡人時代も、色気はもちろんあった。
だからこそ裕作がオカズにしていたのだ。
だが、今のそれは当時とは比較にならない気がする。
これが「人妻」ということだろうか。
夫によって仕込まれて、性的に開花した女。
夫とはライバルだった三鷹瞬であり、その妻は恋焦がれ続けたこの響子だ。
そう思うと、むらむらと嫉妬が込み上げ、裕作の獣欲を後押しする。

「ああっ、お、奥まで来てるっ……届いてますっ……ひっ、ひぃっ……あうっ……
いいいっ……」

裕作は、欲望に任せて響子の両足を広げ、なおも激しく責め上げる。
深くまで突き上げると、響子の内部にも快楽の大波が押し寄せてくる。
幾重にも重なった肉層と肉襞が、これでもかと突き込んでくる肉棒に絡み、さらに
奥へと引き込んでいく。
激しく突いていくと、そのリズムに合わせて、ゆっさゆっさと豊満な乳房が揺れ動く。
それを掴み、根元から絞りあげるように揉み上げると、響子は荒々しいほどの喘ぎ
を洩らした。

「やあっ、いいっ……あ、あむむっ……どうにかなっちゃうぅっ……」

乳輪を絞り、もうコリコリになっている乳首を浮き立たせ、それを折り曲げるよう
にこねくる。
乳首をいじられるたびに、響子の頭の中は白い火花が散った。

「ああっ……あああっ……」

響子の裸身がぐぐっと反っていく。
膣がきゅううっと収縮してきた。
達しようとしているのだ。

「い、いくんですね、響子さんっ」
「やあっ……あ、もうっ……もうっ……」
「お、俺も……」

その言葉を聞いて、響子は我に返った。

「だめっ……それだけはっ……」

胎内射精だけは許すわけにはいかなかった。
奥村の子を孕むことだって内心はいやなのに、まさか裕作の子を妊娠するわけには
いかないのだ。
瞬は「好きな相手ならいい」とは言っていたが、それが裕作だと知れば激怒するの
ではないだろうか。
激しい争奪戦の上やっと手にした妻を、そのライバルに寝取られたなどということに
なれば、負けず嫌いの瞬は絶対に許すまい。
ましてその子を身篭ったとなれば、どんな反応を示すかわかったものではなかった。
動きを止めた裕作に、響子は涙目で訴えた。

「お願いです、五代さん……。中は……中だけは許して……」
「……」
「私は……三鷹の妻です」
「……!」
「だから……ほかの人の子を身篭るわけにはいきません」

響子はそう言ったが、実際は「裕作の子だけは身篭るわけにはいかない」が正しい
だろう。

「後生です、五代さん……。中だけは……」
「くそっ!」

その言葉を聞いて、また裕作は突き込み始めた。
響子の言葉は「私は夫を選ぶ」と言っているように聞こえたのだ。

「ちくしょう、ちくしょう!」

乱暴に乳房を揉み、腰を大きく激しく使った。
また始まった最奥への攻撃に、響子はたちまち追い上げられていく。

「ああっ、いっ……いいっ……だ、だめっ……」
「いけ、響子さん! いくって言え!」

せめて響子の口からそう言わせることが慰めだと思い、裕作は強い口調で言った。
響子は、いかに犯されてもそれだけは口にすまいと誓っていた。
なし崩しに関係してしまったが、それだけは言いたくなかった。
言ってしまえば、心でも裕作を受け入れてしまったことになってしまう。
それでも肉体は、素直すぎるほどに裕作の責めに反応していく。

「あ、あはっ……だめっ……もうだめえぇっ……!」

瞬間、響子は腰を絞るようにして肉奥を思い切り収縮させた。
どんなに「いけない」と思っていても、女体は許してくれなかった。
男の責めを受け続け、その身体は官能に打ち震え、絶頂に追いやられてしまった。
激しく昇りつめた響子の裸身は、背筋をぐぐっと弓なりに反り返らせて、全身を痙攣
させた。
ペニスに食いつくように絡みついた襞が蠢き、裕作の射精を促した。
心では抗っても、響子の膣は男の精を欲していた。

「くっ……!」

その締め付けに耐え切れず、裕作は腰の痺れを自覚した。
このまま出してやろうか……とも思ったが、響子の哀願が頭から離れず、ぬぷっと
媚肉から怒張を抜き取った。
きつい収縮から解放された肉棒は我慢のしようもなく、その場で射精した。

びゅるるっ、びゅくくっ。
びゅるっ、びゅるっ。
どびゅびゅっ。
どぷっ。

「あっ……!」

熱い精液が響子の裸身に降りかかった。
喘ぐ胸を中心に、びしゃっとひっかけられた。
乳房と言わず、腹と言わず、大量の精液が人妻の身体を汚した。
一部は顔にもかかった。
右の頬と細い顎に、どろりとした粘液が垂れている。

「……」

裕作は虚しかった。
まるでオナニーした後の空虚感に似ていた。
アパートにいた頃、響子を夢想してグラビアを眺め、ヌードモデルの笑顔に精液を
ひっかけた時のことを思い出していた。
心底、響子と愛し合えなかった。
その胎内に男のエキスを出せなかった。
そのことが男の心を重くしていた。
顔についた粘る精液を指に取り、それをぼんやりと眺めていた響子が言った。

「……帰ってください」
「……」
「お願い、もう帰って……」

それが裕作の惨めさを後押ししたように感じられた。
裕作は下着と衣服を掴むと、何も言わずに部屋を出て行った。
その背中には、響子の視線が感じられなかった。



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