翌日も、その翌日も、響子はほぼ一日中、頼広に犯され続けていた。
拘束されている響子はもちろん、男もまったく外出せず部屋に引きこもったままだった。
何をしているのかと言えば、もちろん響子とのセックスだった。
響子を見初めてから7年間の思いを、ここで一気に爆発させたかのように頼広はその裸身を貪り、愛撫し、貫いていった。
目が覚めてから三度の食事を挟み、くたびれきった響子が半ば失神して意識を失うまで犯された。
響子は男の精力に寒気がする思いだった。
最初のレイプを皮切りに、昨日も今日もほぼ丸一日、激しくセックスしていたのだ。
なのに男のペニスと来たら、より一層に硬く大きく猛々しくなってきているように思える。
驚くべき精力と体力であった。
一方響子の方はと言えば、もう涙も声も涸れ果て、気力も尽きて、何をされても掠れた声で微かに喘ぎ、呻くだけで、されるがままだった。
ほとんどダッチワイフ状態であったが、男はそれでも飽きることなく、執拗なまでに響子の身体に拘り、弄んだ。
時折、
「もう許して下さい……。家に……一刻館に帰して……みんなのところに帰してください……」
と哀願することはあったが、
男が聞き入れることはなかった。
だが、さすがにこの部屋に閉じ籠もりっぱなしでは暮らしていけない。
頼広は勤めを辞めた時点で、2年や3年は遊んで暮らせるくらいの預金を持っていたが、カネを食べるわけにはいかない。
食料品や生活用品の買い出しは必要だった。
場合によっては電話で出前を取ったり、あるいは通販を利用すれば部屋から出ることなく過ごせるだろうが、他の人間がこの部屋を訪れる危険は出来るだけ
避けたかったから、そうするわけにもいかなかった。
そしてこの日、頼広は「買い出しに行って来る」と言って、三日ぶりに響子を置いて部屋から出て行った。
念のために上半身は緊縛してあったし、両脚も足首を縛ってあったから逃げられはしないと思ったようだ。
もっとも響子からすれば、仮に身体が自由であっても逃亡はしなかったかも知れない。
それくらい気力が根こそぎ奪われていたのだ。
手錠に足枷程度でも、もうそれを何とかして脱出しようとは思えなくなっていた。
どうせ男は30分くらいで戻ってくるし、その間に逃げ出せなければ、また仕置きと称して恐ろしい浣腸責めが待っている。
加えて肛門性交も仕掛けてくるだろう。
もうあんな恥辱的なことは二度とゴメンだった。
響子は畳に仰向けで転がされたまま、焦点を失った瞳で薄汚れた天井を見ているだけだ。
ぼんやりとした頭の中に、楽しかった一刻館での記憶が蘇ってくる。
住人のみんなはどうしているだろうか。
裕作はきっと心配して、いてもたってもいられないに違いない。
細かい行き違いやいざこざで、関係がギクシャクしたことは何度もあったが、今では自信を持って思えた。
あの頃がいちばん良い時だったのだ、と。
自分の意地で裕作に辛く当たったことを、今さらながらに後悔していた。
こっちが年上なのだから、もっと包容力を持って接することがなぜ出来なかったのだろう。
もしここから解放されるようなことがあれば、今度こそ彼の前で素直になれると思う。
自分から裕作に思いを告げることが出来そうな気もしていた。
そんなことを考えているうちに、男が帰ってきてしまった。
別段、何の感情もなかった。
逃げようともしなかったのだから、特に恐れることもない。
大荷物を抱えた頼広は、ガタガタと音をさせてドアを開き、両手に持った荷を玄関に置いて、大きく息をついた。
運ぶのが大変だったのか、それとも響子が逃げずにいたのでホッとしたのかはわからない。
男はジロリと響子を睨んだが、その目にはほんの少しだけ、気遣わしそうな表情もあった。
響子は頼広をちらっと目の端に捉えただけで、ぼんやりしたままだった。
男はいっぱいに商品の詰まったスーパーのレジ袋をふたつほどテーブルの上に置くと、手に持ったショッピングバッグを響子の側に置いて、そこに座った。
そして響子を抱え起こすと、両手を背中で縛っていたロープを解き、脚の拘束も解いた。
「……窮屈だったろう。済まなかったな」
「……」
「また、あんたが逃げるんじゃないかって不安でな」
そこまでの元気はもうないが、そう男に言うつもりもなかった。
男は、全裸のままの響子の肢体をちらちらと見ながら、無造作にショッピングバッグの中を漁って、それを彼女に向かって放った。
「……?」
何気なく手首と足首のロープ跡を擦っていた響子の足下に、硬いビニールでパッケージされたものが、どさどさと放り投げられた。
それを手に取った響子の表情が動く。
「……何ですか、これ……。あ……」
下着だった。
連れて来られて以来、ずっと丸裸だった響子は、もちろん何か着たかった。
しかし、男の目的が響子の身体である以上、裸の方が何かと好都合なはずだ。
それに、裸なら逃げにくいだろうという思いもあるだろう。
従って響子は、もしここから出るようなことはあるならともかく、少なくともここにいる限りはこのまま着衣は許されないだろうと思っていたのだ。
なのに男は、響子の方から頼んだわけでもないのに、わざわざ下着を買ってきたらしい。
意外に思って、響子は男を見つめた。
ぼさぼさの天然パーマである。
完全な縮れ毛というわけではなく、長く伸ばすと先が丸まってくるくせっ毛のようだった。
肩まで届くほどではないが、耳が完全に隠れるくらいまで伸ばしているため、かなりワイルドな印象があった。
それに、その身体のたくましさ。
シャツの上からでも、隆々に盛り上がった肩口や、発達した胸筋が見て取れるほどだ。
響子ですら、状況を忘れて見取れることがあったほどだ。
顔つきは、岩でも削ったような荒々しさがあったが、目だけはどこか茫洋としているところがあって、可愛げがあるというか、憎めない感じがする。
響子の視線に気づいたのか、男がぶっきらぼうに言った。
「……なんだ? 俺の顔に何かついてるか?」
「あ、いいえ……そうじゃないですけど……」
「そんなもの買ってきたから驚いた、意外だった。そんな感じか?」
「……」
図星である。
思ったより洞察力もあるようだ。
「あんたも、一日中ずっと裸じゃイヤだろうと思ってな。俺はそれでも構わないし、むしろそっちの方がいいくらいだが、あんたは女だからな」
頼広は響子から視線を逸らせてから言った。
照れているのかも知れない。
「それとも、余計なお世話だったか? 俺なんかに貰っても嬉しくないだろうが、着たければ着てくれ」
「あ……、ありがとうございます……」
響子はそう言ってから気がついた。
思わず言ってしまったが、礼など言う必要はなかったのだ。
そもそも男に攫われなければ、響子はこんな境遇には陥らなかったのである。
しかし、根が正直で人が良い彼女は、つい感謝してしまったのだった。
しかし響子は、頼広が単に自分を劣情の相手としてだけ見ているわけではないように思えてきた。
もしそうなら、別にこんなものを買って与える意味はないのだった。
さっき頼広が言った通り、セックスだけが目的なら、響子は常に裸にさせておく方が何かと便利に決まっている。
ただの性欲の塊などではなく、人間らしい感情も持ち合わせているらしいと実感していた。
まだ、とても親近感が湧くなどということはなかったが、それでも得体の知れない恐ろしいだけの男、という認識からは脱している。
響子の感謝の言葉に頼広は少し驚いたようだったが、表情には出さず、そのまま立ち上がってテーブルに向かった。
その様子を見ながら、響子はがさがさと下着の山を崩している。
それにしても随分と買ってきたものだ。
下のパンティと上のブラジャーしかなく、スリップやキャミソールといったものはなかった。
そこまで頭が回らなかったのかも知れないし、知識があったのかどうかも怪しいものだ。
しかしブラとショーツだけでも10枚ずつ以上あった。
呆れたように響子がそれらを眺めていると、男から声が掛かった。
「気に入らんか? 女の下着なんぞ全然知らんから、適当に買って来たんだ。あんたの使ってるメーカーのものはないのか?」
そんなことははなかった。
響子は別に下着贅沢する方ではなかったから、選ぶものもごくシンプルで機能的、着やすいものが多かった。
従って、メーカーと言っても国産のワコールとかトリンプばかりである。
頼広の買ってきたものも、多くはそれであった。
「いいえ……。私の持っているのと同じようなものだと思います……」
「そうか」
男は無表情のままレジ袋から商品を出して、仕分けしていた。
生鮮品を冷蔵庫に収め、他は戸棚に入れたり、ケースから出したりしている。
出来合いの総菜やパン、弁当もあったが、野菜や肉、魚などもかなりあった。
自分で調理するのだろうか。
響子は、この野卑な男が不器用そうに料理するところを思うと、少しだけ可笑しくなった。
すると、これも少しだけ心がほぐれ、荒んだ気持ちが和んだ気がする。
いかに笑いが大切か、ということだろう。
そして、手にした下着を見て、今度はクスッと噴き出しそうになる。
この大男が、どんな顔をして女性用下着売り場に行ったのだろうか。
本人も恥ずかしかったろうし、店員の方もかなりびっくりしたのではないだろうか。
何だか急に日常が戻ってきた気がした。
こんなことは、拉致されて以来初めてである。
清潔な下着を見ていたら、身体が汚れていることが気になってきた。
何かない限り、毎日入浴していていた響子だったから、三日も風呂に入らないと気持ち悪くなってくる。
男に舐められた時の唾液の跡や自分の汗がべたべたと肌に残っていたし、自慢の長い黒髪もしばらく洗っていないから、なんだか頭も痒かった。
響子はぽつりとつぶやいた。
「……お風呂に入りたい……」
その小さな声を耳聡く聞きつけた頼広はすぐに言った。
「なら、シャワーでも浴びたらどうだ? 小さなユニットバスだが、浴槽に入ろうと思えば入れるぞ」
「……いいんですか?」
「構わん。俺もシャワーを浴びたいと思っていたところだしな、あんたが風呂から上がったら、俺もそうしよう。湯に浸りたかったら、浴槽に湯を入れて使ってくれ」
「はい……」
「あ、それと、これ忘れてた」
「?」
立ち上がってバスルームに向かおうとした響子を見て、気がついたように頼広が言った。
そして、レジ袋とは別の小さな紙袋から小さな箱をふたつ出して、それを響子に放り投げた。
響子は、落としそうになったが、何とか両手でそれを受け止めた。
見て驚いた。
タンポンとナプキン──生理用品だった。
「これ……」
「……それも必需品だろう? それに俺……、何て言うか、そういうのって何となくわかっちまう方なんだ。あんた……、もう、そろそろなんだろ?」
その通りだった。
周期的に、もう来てもおかしくない。
下着を貰った時以上に驚いた顔で男を見ると、頼広の方は済まなそうに俯いた。
「あ、やっぱり男にそう言うこと言われるのは気に障るよな。済まん、悪気はなかったんだ」
「あ、いいえ、そうじゃなくて……」
そんなことまで気遣ってくれるのか、と思っただけだ。
裕作にしろ、三鷹にしろ、響子の生理のことまで気にしてくれたことはなかった。
頼広の言う通り、そんなことを男が言うのは失礼だからと思っていたのかも知れないが、響子が生理で気分が優れなかったり、体調が崩れている時でも、
彼らはほとんど気にもしなかった。
もちろん自分から「今、生理だから」などとは言えなかったが、それでも察して欲しいと思ったことはある。
頼広はさらに言った。
「言いにくいだろうが……、もし、その、来ちまったら、遠慮なく言ってくれ。その時は何もしないから」
「……」
「それと、使った汚れ物はこれにでも入れといてくれ」
男はそう言って、小さな汚物入れまで用意してくれていた。
女にとって、それが他人の目に触れること、特に男に見られることを嫌うのをよく知っているようだ。
響子は小さく頭を下げてそれを受け取り、バスルームに入った。
小さなスペースに洋式トイレとユニットバスを収め、防水カーテンで仕切っただけの窮屈なサニタリーだった。
響子は少し考えたが、湯に浸るのは諦めてシャワーだけで済ませることにした。
おろしたばかりらしいボディソープにシャンプー、リンス、コンディショナーが揃っている。
真新しいスポンジも用意してあった。
タオル掛けには、これも新しいタオルが下がっており、ポリ製の垢擦りまであった。
多分、響子を連れ込むことを想定して準備していたのだろう。
シャンプーや石けんはともかく、男が使ったらしいタオルを使うのは抵抗があったので、この気遣いには感謝したくなる。
女を攫うという目的はともかく、こうした細やかさは助かる。
頼広という男、思ったより粗暴でも粗野でもなく、細かい心遣いが出来るようだ。
響子はそんなことを考えながら、シャワーの栓を捻り、暖かい湯を全身に浴びた。
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30分ほど湯の感触を楽しみ、身体と髪を洗い、さっぱりして浴室から出てみると、足下にバスタオルが畳んであった。
響子は男の視線を感じ、それで隠すように身体を巻いた。
新品ではないようだが、綺麗に洗濯はしてあった。
一度でも男の身体を拭いたものだと思うと躊躇したが、以前ほどの嫌悪感はなかった。
「着替えして見せろ」とでも言うのではないかと思ったが、頼広は黙って頷くと、今度は自分の下着を持って響子とすれ違った。
今度は自分が入るらしい。
上がる時に、浴槽を綺麗に洗い、自分の髪や体毛が残っていないよう気を遣ったつもりだが、それでも自分の後で男に入られるのは何となくいやだった。
だが、まさか「シャワーを使うな」とも言えず、響子は黙って場所を譲った。
響子は頼広を見送ると、少しホッとしてバスタオルを外した。
姿見が欲しいところだが、この状況でそれは贅沢というものだろう。
響子はざっと髪を拭ってから、身体に残った湯の露を拭き落としていく。
ふとテーブルを見ると、ドライヤーと手鏡が置いてある。
響子が使うだろうと用意したのだろう。
手鏡の方は新品で、これも響子用に買ったものかも知れない。
「……」
響子は、もう一枚、頼広用のバスタオルが用意してあるのを知ると、遠慮なく髪を拭き、ヘアブロウした。
そして、まだ裸のままだったことに気づくと、途中でドライヤーを止め、頼広が買ってきた下着の山を崩す。
色は皆ホワイトで、どれもオーソドックスなものだった。
「?」
ひとつだけ黒いのがあったので手に取ってみると、フランス製の高級ランジェリーだった。
パッケージも高級感のあるもので、かなり高価そうである。
これを着て欲しいのかしら、とも思ったが、さすがにそんなサービスをする気は響子になかった。
見れば、かなりきわどいデザインのようだし、生地も薄く、また小さい。
いわゆるセクシー・ランジェリーというやつだ。
響子は少し顔が赤くなる。
響子も、まるで朴念仁というわけではないから、勝負下着というほどではないものの、普段のものとは違う高い下着や、お気に入りの下着というのは持っている。
しかし、ここまでセクシーなものはなかったし、それを自分が着けても似合うまいと思っていたのだ。
響子は軽く首を振ってそれをショッピングバッグの中に仕舞うと、白のショーツとブラをパッケージから取り出した。
ただ、それを本当に着られるかどうかはわからない。
男性の場合、下着サイズなどは胴回りを測るくらいで、あとはMだのLだのと言った大まかなもので充分だ。
しかし女性はそうもいかない。
胸やヒップのサイズでだいぶ異なってしまう。
あの男がそこまで理解して買ったのか不安だった。
買ってくれたはいいが、きつくて、あるいはゆるゆるでとても着られないということだってあるのだ。
「……!」
手にしてみて驚いた。
ほとんど自分が使っていた下着と同じように思えたのである。
試しにブラジャーを胸につけてみると、これが図ったようにぴったりだった。
ちなみに響子の場合、バストサイズは85である。
アンダーバストが65くらいだったから、カップのサイズはEということになる。
実際、メーカーによっても違うが、響子は概ねEカップかFカップのものを着用している。
Dでは少し胸が苦しい、という感じだ。
今度はショーツの方を取り出してみた。
これも同じような気がする。
そして、足を通し、腰まで持ち上げてみて改めて驚かされる。
これもぴったりだったのだ。
響子のウェストサイズだが、体調などによっても変動はあるが、大体62〜3くらいだ。60を切ることもあるが、65くらいになることもある。
ヒップは少し大きいのを気にしているが、サイズは86〜8くらいである。
ということは日本製のものでM、メーカーによってはLということだ。
このショーツは見事にMで、響子の臀部を綺麗に包んでいた。
着心地も良い。
きつくない。
「……」
響子は少し呆然としている。
なぜあの男は響子の身体のサイズまで知っているのだろうか。
当然だが、そんなものは誰にも公表していない。
裕作はもちろんのこと、亡夫の惣一郎だって知らなかったはずだ。
誰にも言っていないのだから。
では、なぜ頼広が知っていたのだろうか。
響子はふと思った。
「知っていた」のではなく、「わかった」のではないだろうか。
あの男は見かけによらず、響子の生理が近いことも見抜いていた。
ならば、もしかすると響子の姿を見続けていたことで、朧気ながらサイズを想像していたのかも知れなかった。
それにしても、今回の事件以前に響子の裸身や下着姿を見たとも思えなかったので、私服の上から推察したということになる。
男の、衣服を貫くような、舐めるような視線で身体を見られていたのかと思うとゾッとする。
ゾッとするのだが、それが必ずしも性的なものだけではなかったらしいのは、彼の言動からも何となくわかった。
そこまで自分を真剣に見つめ、また関心を持っていてくれた、ということになる。
響子は複雑な心境で下着を履くと、テーブルの椅子に腰を下ろし、再び髪をブロウし始めた。
「……?」
その時、何か気配を感じた響子は怪訝な顔で周囲を見回した。
何となく、見られている感じがあったのだ。
狭いワンルームで、響子と頼広以外はもちろん誰もいるはずがない。
その頼広もまだシャワー室だ。
中で頼広がシャワーを浴びている水音が聞こえている。
「っ……!!」
いた。
玄関ドアのすぐ脇に簡易キッチンがあるのだが、そこの窓が僅かに開いていたのだ。
恐らく頼広が、換気のつもりでそうしたのだろう。
ガラスは厚い磨りガラスで格子も嵌っているから防犯上は問題なさそうだが、その狭い隙間から室内を覗き込んでいる者がいたのだった。
響子は、自分が下着姿だったのを思い出し、咄嗟に身を縮めてから悲鳴を上げた。
「きゃああっ!」
「なんだ!」
すぐさま男が浴室から飛び出てきた。
響子は震える指で窓を指差す。
「あ、あそこから……だ、誰かが覗いてました……」
「なんだと!?」
響子の悲鳴に驚いたのか、覗いていた男はすぐさまそこから逃げ出していた。
頼広は腰にタオルを巻いたまま、怒りの形相でドアの内鍵を開けて表に飛び出した。
その時、隣室のドアが乱暴に閉まるのが見えた。
どうも、その部屋の住人らしかった。
頼広は憎々しげにそっちを睨みつけてから部屋に戻った。
響子はまだ脅えて、しゃがみ込んでいる。
驚いたというより怖かった。
彼女には、痴漢や覘きの気持ちは未来永劫にわからない。
裸に近い姿を見知らぬ男に見られていたと思うとゾッとする。
頼広は響子を労るようにその肩へ手を置き、腕を持って立ち上がらせる。
「もう大丈夫だ」
「でも……」
「平気だ。やつは逃げてったよ」
響子は、力が抜けたようにトンと椅子に腰を下ろした。
そして潤んだ目で頼広を見上げている。
「し、知っている人だったんですか」
「まあな。隣に住んでる相原って野郎だよ」
頼広は苦々しそうにそう吐き捨てた。
「お隣の……」
「ああ、そうだ。よくは知らん。ロクに顔を合わせたこともないし、挨拶したこともない。夕方出かけることが多いらしいから、夜の仕事なんだろうな」
「……」
「他の住人から聞いたが、どうもマエがあるらしいな」
前科者だからと差別的な目で見るのはよくないと響子もわかってはいるが、それでも過去に犯罪尾を犯したものがすぐ側にいる、という不安感は簡単に
拭えるものではない。
頼広は、、まだ濡れている髪をバスタオルで拭きながら言った。
「犯罪ったって傷害だの窃盗だのじゃなくて、痴漢だか覗きだか強制猥褻だか、まあそういうものらしい」
「……」
「あくまで噂だったが、あれを見ると、どうも本当だったのかも知れんな」
「そうですか……」
「この部屋のふたつ向こう……、つまりやつの部屋の左隣だな、以前そこに若いOLが住んでたことがあったんだよ。管理人の話だと、その女からも
相原について苦情が色々あったらしい」
「……」
「覗かれてるとか、聞き耳を立てられてる、とかな。電話盗聴されてるとまで言ったらしいが、さすがにそこまではないだろう。だが、今のを見てると
覗きだの盗み聞きだのは事実だったんだな、あの出歯亀野郎めが」
覘きはともかく、盗み聞きなどどうやるのだろうか。
あまり高級なアパートではないものの、隣の声が筒抜けになるほどの安普請でもない。
響子がそう言うと、頼広は洗い場からコップを持ち出して説明した。
「こうやってな、コップの底を耳に当てて、口の開いた方を壁にくっつけるんだそうだ。そうすると、壁越しの音がよく聞こえるらしい。まさに「壁に耳あり」だ」
「本当に……?」
「さあな、試したことなんかないからよくは知らん。多分、壁に伝わる音の振動がガラスのコップに伝わって、音声として拾うんじゃないか?」
そう言うと、響子は一層に不安そうな表情を見せた。
しかし、ここは本来不安に思うよりも、逃げるチャンスだと思うべきだ。
誰でもいいから、ここに自分がいることを知って欲しかったはずだったのだ。
しかも盗み聞きなどしていたなら、響子が拉致監禁されていることも朧気にわかるはずである。
そうでなかったとしても、響子は壁や窓でも叩いて助けを求めればいいのだ。
しかしこの時の彼女は、そんなことは思いもよらなかった。
助けを求める相手が性的変態かも知れないということもあったが、もしその男が何かしてきたら頼広に頼るしかないのである。
響子にとって、この男は憎むべき相手だ。
自分を攫い、拉致監禁した挙げ句、暴行しているのだ。
響子はもちろん同意などしていないから凌辱である。
だが、頼広以上に不気味で得体の知れない男の存在がわかると、多少なりとも為人がわかり、響子に対する思いも純粋なものだった頼広に対する気持ちにも
多少の変化が出てきてしまっている。
ただ、いわゆるストックホルム症候群とは違うだろう。
確かに、閉鎖空間で長時間に渡り、非日常的な体験をこの男と共有はしている。
頼広の話を聞くうちに、彼がただの悪漢ではないことも知った。
しかし、まだとても同情だの共感だの信頼だのといった気持ちは抱けない。
ましてや愛情など湧くはずもなかった。
それに、ストックホルム症候群の場合、犯人に敵対すると自分の身に危険が生じるために好意的に応じてしまうという原因らしいが、今回はまるで違う。
響子は、こんな境遇が続くなら、むしろ殺して欲しいと思うくらいなのだ。
逆らえば暴力や性的な拷問はあるだろうが、それから逃げるためにこの男へ好意的に対応することなどあり得ない。
それでも当初抱いていた頼広へのイメージが、若干変化してきていることは否めなかった。
少なくとも、あの得体の知れぬ覗き魔よりはマシだと思えるようにはなったのだ。
まだ不安そうな響子を見ながら、頼広は些かバツが悪そうに髪を拭き、身体を拭っている。
ちらちらと響子の身体に視線を走らせているところを見ると、どうもまた「欲しくなった」ようだ。
響子もそれに気づき、身を固くした。
あの覗き魔よりはマシそうだとは言え、それでもこの男に抱かれたくはなかった。
口では「あなたの女になる」と言ったものの、浣腸で責められて無理に言わされただけだ。
とても愛情を抱くには至らないし、「抱かれる」という感情はさらさらなく「犯される」印象の方が圧倒的に強いのだ。
身体は奪われても、心までは獲られたくなかった。
しかし、今の響子に頼広を拒絶することは不可能だった。
暴れても抵抗しても、結局は犯されることになるのだ。
なるべくダメージなく済ませるためには、無抵抗かつ無反応でいるしかない。
頼広の大きな手が白い肩に置かれ、響子は小さくビクンとした。
「こんな時に何だが……、いいな?」
「……」
答えられずはずもなく、響子は無言で顔を振った。
受け入れるわけにはいかない以上、形だけでも拒否するしかない。
最終的に組み伏せられても、抵抗はした、決して合意の上ではない、というところは見せなければならない。
「あ……」
頼広の手が響子の背中に回り、ブラジャーのホックを外した。
今、着たばかりの清潔な白い下着をまた脱がされることに、響子は僅かに胸が痛んだ。
するりとブラが床に落ちると、響子は腕を組んで胸を隠す。
男はそれを見ながら、今度はショーツの縁に手を掛けた。
「い、いや……」
さすがに響子はその腕を掴んで止めさせようとする。
もちろん、それでどうなるとは思えなかった。
少し藻掻いたものの、ショーツは豊かに張ったヒップから引き下ろされると、これもするっと足下に蟠った。
響子の右腕が伸びて股間を隠す。
とても女の手では隠しきれないほどの豊かな裸身が輝いて見えた。
「……」
女らしい華奢な撫で肩。
肌は上から下まで真っ白だ。
どこにも染みだのたるみだのがない。
ホクロもほとんど目立たないところを見ると、もともと肌の色素が薄いのかも知れなかった。
着衣の時でも生地を押し返していた豊かな乳房は今、響子の腕に隠され、柔らかそうに潰れている。
それでも、想像以上にむっちりとして重そうな弾力に富んでいるのがわかった。
豊満なのは胸だけではない。
臀部も十二分に発達していた。
腰骨が大きいのか、ぐっと腰が張り出している。
もう20代半ばを過ぎたようだが、それでもヒップは若い頃のままの形を保っているようだ。
これだけ見事な大きさなのに、ちっとも垂れていないのはバストと同じだ。
しかも形がよい。
むちっと盛り上がっているせいか、尻の谷間の切れ込みも深かった。
そして太腿もたっぷりと肉が乗っている。
それでも、太いイメージはほとんどない。
胸や腰、腿に比較して、グッと細く仕上がっているのがウェストと膝、そして足首だった。
肩から乳房、脇腹、腰、腿、膝、ふくらはぎ、そして足首までの美しい曲線は、男を魅了して止まない悩ましいものだった。
響子の全身は滑らかで柔らかい皮膚に覆われ、どこをとっても直線的なものがない魅惑的なボディラインだ。
この身体を目の前にして「その気」にならぬ男がいたとしたら、そいつは不能者に違いない。
響子は、頼広がまたロープを取り出したのを見て、小さい声で言った。
「もう……、縛らないで……」
「……」
「お願い……、おとなしく抱かれますから……」
「……わかった」
顔を伏せたままそう言う響子がたまらなく愛おしくなり、頼広は手にしたロープを捨てると、そのまま響子を抱きしめた。
悲鳴を上げたり逃げたりはしなかったものの、びくりと小さく震え、響子は身体を堅くしていた。
「あっ」
響子はそのまま、布きっぱなしの布団の上に押し倒された。
堅く目を閉じ、「また犯される」と覚悟した直後、大事なことを思い出してパッと目を開ける。
「なんだ?」
「あの……、ひ、避妊……」
「あ?」
「避妊してください……。中には出さないで」
「……」
このまま毎日、しかも日に何度も何度も犯されて、そのたびに膣内射精を受けていれば、そのうち妊娠してしまうだろう。
響子は子供好きだったから、惣一郎との間に是非子供を作りたいと思っていた。
しかし響子が身籠もるより前に惣一郎は逝ってしまい、その後、ずっと空閨で過ごしてきた響子にはその機会もなかった。
もしつき合うような男性がいたとしても、未婚で子供を作ってしまうようなことはなかっただろう。
それだけに、頼広との関係で妊娠するようなことがあってはおおごとだ。
子を作るなら、生涯を共に過ごすと決めた相手と結婚後にするしかない。
そうでなくとも、凌辱者であるこの男に犯され、孕んでしまうという最悪に事態は絶対に避けたかったのだ。
もう何度も膣内射精を受けてしまっているが、これ以上の危険は犯したくなかった。
頼広はそれを聞いて、黙って響子を見つめていた。
「……わかった」
「え……?」
男はすっと立ち上がると戸棚の引き出しをかき回し、小さな箱を取り出していた。
響子も何度か見たことがあるコンドームの箱だ。
頼広は中からひとつゴム製品を取り出すと、おもむろに下着を脱ぎ、自分の性器にそれを装着した。
響子は目を逸らした。
見てはいけないものなのだろうし、少し驚いてもいたのだ。
まさか自分の懇願を頼広が受け入れてくれるとは思わなかった。時に優しさらしいものや繊細さを見せるものの、所詮は凌辱者である。
響子を犯すのも目的のひとつだったのだから、自分の快楽を考えれば、避妊具を使うことなど拒否すると思っていたのだ。
コンドームを着けると、頼広はまた響子の隣に座り込んだ。
「……本音を言えば、スキンなんか使いたくはない」
「……」
「あんたの中まで俺のものにしたいから、子宮の中に俺の精液を流し込みたいと思ってる」
露骨な表現に、響子は頬を真っ赤にして顔を背けた。
男は続ける。
「それだけじゃない。俺は……」
「……」
「俺は、あんたとの間に子供が欲しかった」
「……え?」
意外な言葉に、響子は思わず振り返った。
男は響子をじっと見ていたが、少し俯いて口を開いた。
「だが、あんたがそんなにイヤなら無理強いはしない」
「あ……」
そこで響子は力ぎゅっと抱きしめられた。
体温がカッと急に上昇するのがわかる。
響子は、セックスそのものよりも、こうした抱擁とか口づけとか、あるいは手を繋ぐとか、そういう愛情交歓の方が好きだった。
異性に、こんなに力強く抱きしめられたのは何年ぶりだろうか。
響子の本能が、頼広を男として強く意識する。
響子の身体を抱きしめる太い腕や厚い胸板。シャンプーやソープの香りに混じって、微かに残る男の匂い。
その筋肉質の身体が、いやでも異性を強調している。
まだところどころ濡れたままの皮膚が響子の肌にくっつき、微妙な感触で浸透していく。
せっかく洗い流したはずの男の匂いが、また肌に染みこんでくる気がした。
「……」
頼広は、響子を仰向けに寝かせると、真上からその美貌と裸身を見下ろす。
柔らかそうで弾力もあり、それでいてしっとりとした響子の裸身は女神のように美しかった。
まだ半乾きの黒いロングヘアから薫ってくるコンディショナーの香りが、頼広の官能をそそり立たせていく。
「……っ」
胸を隠すために十字に組んでいた響子の腕を男が強引に引き離すと、大きな乳房がぽろんと零れ出る。
弾けるように上向いた乳首が可憐だった。
そこから続く乳房の稜線は丸みを帯び、いかにも柔らかそうだ。
男は、双方の乳房をそれぞれ両手ですっぽりと覆うと、マッサージするようにゆっくりと揉みしだき始めた。
「うっ……」
響子がビクンと反応する。
性感帯を刺激されたため、痺れるような快感が背筋から腰の奥に向かって突き抜けていく。
響子の肌も頼広の皮膚もまだ湯上がり状態であり、そっと指でなぞられるだけで感じてしまうくらい敏感になっていた。
響子はかなり動揺していた。
今までと違うのだ。
一刻館で犯された時も、ここに連れ込まれて犯された昨日までも、ほとんど快感らしい快感などなかったのだ。
それも当然で、レイプされて感じる女などいない。
実際には、無理に犯されて快楽を得てしまうケースもあるのだろうが、それなりに事情があり状況も違うのだ。
今回のように、拉致監禁されて凌辱を受け、それでいて官能を意識することなどあり得ない。
ではなぜこの時の響子が、少なからず快感を得てしまったかと言えば、頼広を意識し始めたからである。
もちろん情が移ったわけではない。
しかし、今までのように響子がダッチワイフ化することは、もう難しかった。
最初のうちは、響子としては身体をいじくられてるだけ、という意識だったし、心ここにあらずという感じで、たたの人形になっていた。
頼広も、響子の認識として、人間とは思わなかったのだ。
頼広から見れば無機質なものを犯し、響子から見れば無機質なものに身体を悪戯されている。
そういう感覚だったのだ。
だからこそ、感じることもなく、男の性欲だけを満たさせていたのである。
だが、頼広にも感情があり、人間的な彼を見てしまった今となっては、もうそれが出来そうになかった。
男は響子の身体をそっと抱きしめると、膝を器用に使って両脚を開かせていく。
そして、すでに勃起していた男根で、響子の媚肉をこじ開けるように擦りつけてきた。
「あ……!」
硬いくせに妙に弾力のある肉棒でそこをマッサージされていくと、媚肉はだんだんとザクロのように弾け、中を晒していく。
思わず呻く響子の口に、男の顔が迫ってきた。
キスを求めていると知ると、響子は顔を背けた。
「い、いや……!」
背けた顔を頼広が両手で挟んで正面に向け、そこに唇を重ねてくる。
身体を穢されるだけでなく、口までは許したくない。
キスは双方の合意がなければ不完全だからだ。
響子が硬く口を閉じても、男は無理に開かせようとはせず、そのまま響子の唇を舌で舐めてきた。
(き、気持ち悪いっ……!)
舌が唇をこじ開け、響子の白い綺麗な前歯を舐めている。
歯の生え際まで舐められ、響子は動転した。
そんなところまで舌を使われたのは初めてだ。
気味悪さが先走り、響子は必死に顔を反らそうとし、懸命に唇を閉じようとしている。
すると頼広は唇には執着せず、そのまま舌と唇を口の端から頬、そして耳にまで持っていく。
耳たぶや額の髪の生え際、瞼まで舌で舐められ、唇で吸われている。
そして尖らせた舌先が耳の穴に差し入れられ、そこに息が吹き込まれると、響子は思わず悲鳴を上げた。
「ひゃっ……!」
驚き、おののく響子を弄ぶかのように、男の舌は耳から首筋に降り、肩口に這っていく。
強くはないが、優しく甘い快感が響子の心をかき乱す。
「あ……、っ……んん……」
ついつい出てしまう声を何とか抑えようと、響子は必死になって口を閉じ、終いには手で塞ぎだした。
その間にも頼広は腰を巧みに使い、ペニスで響子の媚肉をゆっくりとほぐしている。
割れ目を上下に擦り上げていくと、いつしか肉芽が恥ずかしげに顔を出し、ひくひくと痙攣するまでになっていた。
男は、口で首から上を責めながら、手でやわやわと乳房を揉みしだき、そして腰で膣を刺激していく。
三箇所を同時に責められるという初めての体験に、響子の性も少しずつ蕩け始めていた。
響子は、頼広の手や口が感じるポイントに触れるたびに、抑えきれぬ小さな悲鳴を漏らし、白い裸身をギクンと小さく跳ねさせ、反り返らせていた。
響子は内心焦っていた。
明らかに以前よりも快感が強くなってきている。
感度が良く、感じやすくなってきていた。
頼広のことを知ったからということもあるし、彼の身体に響子の肉体が馴染んできたということもあるだろう。
「んんっ!」
口をしっかり閉じていたため籠もっていたが、大きめの声が鼻から抜けて出た。
頼広が乳首を吸い始めたのだ。
右の乳房を優しく揉みながら、ふっくらとした乳房の頂点にあるグミのような突起を唇で挟み、舌で転がしていく。
指で乳首を挟み、ころころと転がすように擦り合わせると、響子からついつい恥ずかしい声が出てしまう。
「あう……」
ジーンとした官能の響きが、乳首から子宮に直結しているように感じる。
徐々に強くなってくる快感から逃れようと身体を捩り、悶えていたが、男は慌てず響子の身体を解きほぐす。
どうしても声を抑えきれなくなり、響子は両手で口を押さえた。
すると男は、その響子の両手首をひとまとめにして左手で掴み、そのまま響子の頭上まで持っていってしまった。
「な、何を……」
「顔を隠して欲しくないんだよ。あんたの顔を見ながらしたいんだ」
「で、でも……、声が……」
「感じて感じて、声が出ちゃうのか?」
「……」
「だったら我慢すればいい」
意地悪なことを言ってた頼広を拗ねたように睨んだ響子だったが、そんな仕草や顔つきまで魅力的だった。
この手の女は、上手に虐めてやればそれだけ官能が昂ぶり、行為に没頭する。
頼広は、響子は壊れない程度に、ショックを受けすぎない程度に虐めて官能の虜とさせ、自分のものにしたいと思っていた。
「あ……!」
頼広の手が尻の下に潜り込んできて、響子は思わず身を引いた。
成熟しきった臀部は柔らかく、また滑らかで、いくら触っても飽きることがない。
響子が僅かに震えているのが手のひらに伝わってくるのがわかった。
撫で回すように手をまさぐると、時々ビクッと反応してくる。
「やっ……、く……ああっ!」
男の手が尻の谷間に滑り込み、その奥にある秘穴に触れると、響子はビックリしたように身体を跳ねさせた。
一度犯されているとはいえ、やはり肛門は恥ずかしいらしい。
頼広はそこから手を引き、前の穴に指を伸ばしていく。
すでに乳房など愛撫され、ペニスのサオで何度も擦られていたせいか、そこはもう濡れ始めていた。
それが恥ずかしいのか、響子はいくらか顔を染めて、脚をもじもじさせながら、頼広の手から逃げようとしている。
しかし、そんなことで男の指が止まるはずもなく、頼広は執拗に響子の媚肉をいじくっていく。
「や……は……、んんっ……やっ……く……」
両手を押さえ込まれてしまっているため、恥ずかしい声を抑えるためには唇を噛んで我慢するしかない。
肉づきの良い響子の尻が、手を止めるように挟み込んでくる。
男はその感触を愉しみながら、なおも指を動かしていく。
頼広は響子の耳元に口を寄せ、そっと囁く。
「濡れてるな」
「そ、それは……、せ、生理現象ですっ……あっ……だ、誰だって……誰だって、こんな刺激を受ければ勝手に……あ……」
「そうか、あんたにその気はないが、身体が勝手に反応するってことか」
「そ、そうです、うっ……い、いや……うんっ……」
男の指が、そっと響子の膣口に侵入する。
ほとんど抵抗なく指を受け入れた媚肉は、包み込むようにくわえ込んでいる。
もう響子の媚肉周辺はかなり濡れており、陰毛も相当に愛液を吸っていた。
この状況でこうなのだから、もともと響子はかなり濡れやすく、感じやすい体質だったのだろう。
「ああ……」
形の良い乳房に、男の節くれ立った指は食い込んでいく。
力を込めて揉み込むと、柔らかい肉塊は頼りなげに形を変え、その弾力性を誇示している。
「やっ……もう……ううっ……はっ……」
感じ方が強くなってくるに従って、響子の呼吸が確実に荒く激しくなっていく。
もう彼女の性器はかなり火照り、指の刺激を悦んで受け入れているようだった。
やがて頼広の右手が響子の尻を持ち上げ、媚肉に肉棒をあてがうと、響子は「ああ……」と哀しげな声を上げた。
「や……、だめ……」
「だめ?」
「あ……、だ、だめじゃないですけど……ああ、やっぱりだめですっ!」
じっとりと熱く濡れ、しかも柔らかくほぐれていた響子の膣は、頼広の男を飲み込んでいく。
その圧力に、響子はぐぐっと仰け反り、白い首筋を晒した。
「んんっ、あはああっっ……!」
もう何度も犯されているというのに、初めて犯されたような衝撃を受けていた。
その太さと、それを入れられる圧迫感に息が詰まりそうになる。
(い、いやあっ、入って……入ってきちゃうっ……!)
「うっ……うむ……ああっ!」
長大なペニスがぬぬっと貫いてくる。
亀頭とカリが狭い膣道を押し広げながら、ぐうっと奥まで進んで行った。
奥まで突き通される感覚に、響子は身体を突っ張らせて堪え忍んでいる。
呻き声を堪え、ともすれば込み上げてくる快感を堪えていた。
「んはっ!」
最奥にまで届かされ、響子はギクンと背を反らせた。
頼広は根元まで差し込みたかったが、どうやらここが行き止まりらしい。
響子の子宮口だ。
それを確かめると、頼広はゆっくりと引き抜き、そしてまたぐうっと押し込んでいく。
「ん、んっ……くっ……んあっ……」
きつめの膣道がこじ開けられ、襞のすべてがペニスに擦られていった。
その摩擦感を和らげようというのか、奥の方からじくじくと愛液が分泌されてくる。
あまりの深さに響子は戸惑っていた。
(こ、こんな……こんなところまで来てる……、ふ、深い……)
惣一郎も入ってきたことがなかったところまで貫かれ、響子はがっくりと脱力した。
この男は惣一郎の存在感を打ち消すほどの威力で、響子の女を刺激していく。
「う、動かさないで……ああ、もうじっとしていて……あっ……」
「動くためにやってるんでね」
「そんな……うっ……だめ……あっ……」
腰を動かして響子の中を突き上げると、男性器と女性器は粘膜を擦れ合わせて、粘った水音を立て始める。
無理に犯されているのがウソのように響子のそこは激しく反応し、太すぎるペニスを飲み込まされていっぱいに拡げられた媚肉からは、それが抜き差し
されるごとに粘膜が引き摺り出され、まためくれ込んでいった。
「ん、ああっ……だめ、そんな……うっ……」
「あんまり声を出すな。隣のやつがまた盗み聞きしてるかも知れないぜ」
「……!!」
響子の脳裏に、窓の隙間からじっと見つめてきたあの男の視線が蘇ってきた。
蜥蜴のような粘着質な目つきで、響子の顔や、下着姿の肢体を舐めるように覗いていた。
その目つきを思い出すだけで寒気がしてくる。
窓は閉めたからもう覗いてはいないだろうが、頼広の話では壁にコップを押しつけて盗み聞きまでしているらしい、という。
もしかしたら、今も隣の部屋で、壁にくっつけたコップに耳をあてて、響子の淫らな呻き声に聞き耳を立てているかも知れないのだ。
ゾッとした。
「俺は別に聞かれても構わんが、あんたはイヤだろう?」
「い、いやです、そんな……あっ……だ、だから動かないでくださいっ」
「なぜ」
「な、なぜって……、こ、声が出ちゃいますっ……あ……うんっ……」
「なんで声が出るんだ? 感じて気持ち良いからか?」
「くっ……」
まさか肯定するわけにもいかず、響子は声を立てまいと歯を食いしばった。
手で口を押さえたいが、意地悪な頼広が両手首を頭の上で万力のように押さえ込んでしまっている。
男が響子の腰を片手で楽々と抱え上げると、腰を突き込む速度を上げていった。
すると響子の膣内圧力がどんどんと高まっていき、締め付けがきつくなっていく。
そのまま何度も突いてやると、響子はたまりかねたように呻き、声を放っていた。
「やはっ! くっ……だめ……んんっ……ああ!」
「声が大きいぜ」
「そ、そんなこと言ったって……、こ、声、出ちゃう……」
響子は必死になって唇を噛むが、すぐにそれが緩み、熱い吐息と甘い声が漏れ出ていく。
「ああ、お願い……、せ、せめて口を塞いで……声が……あっ……」
男は響子の言葉を無視して、逆に腰の動きを強めている。
響子の濡れそぼった性器は、喜々として太いペニスを受け入れ、密着するたびに愛液を漏らし、淫らな音を立てていた。
「こ、声が出てしまう……あ、あっ……お願い、口を……口を塞いでっ……!」
「どうやって? 俺も両手が塞がってる」
「そんな……、あっ、くっ……だめっ……あ、もうっ……」
頼広の左手は、響子の頭上で彼女の両腕をがっしりと押さえ込んでいる。
そして右手は、突き上げられてゆさゆさと大きく揺れ動く乳房を鷲掴みにして、揉み揉みとこねくり回していた。
男の手は、口を塞いでくれるどころか、響子に淫らな声を立てさせようと、乳房を激しく愛撫してくる。
進退窮まった響子は、小さく、しかし絶叫するように言った。
「キ、キスしてっ……!」
「……ほう」
「口、塞いでくださいっ……く、口で……あなたの口で塞いで……キ、キスで口を……うむうっ!」
その言葉を聞き、男はすかさず響子の唇を奪った。
自分から要求したとは言うものの、響子はかなり衝撃を受けた。
男の唇と自分の唇が完全に密着している。
「ん、んむ……むうっ……」
美しい未亡人はきつく目を閉じていた。
恥辱の声を出さぬためとはいえ、自ら口づけを求めてしまったという事実は大きかった。
それだけに、溺れることがあってはならないと、口を開けて咥内を許すことだけはしなかった。
唇は男の舌と唇でこじ開けられてしまったが、前歯はしっかり閉じている。
それだけでも声はかなり殺せるはずだった。
「んんん……んうっ……むっ……むむう……」
(い、いや……やめて、そんな……く、唇を吸わないで……あ、歯茎まで舐めてる……くすぐったい……あああ……、惣一郎さん、ごめんなさい……)
舌を絡め合う濃厚なディープキスではなかったものの、男の舌が唇の裏まで入り込んでくると、背徳感が一層に強まっていく。
響子は、惣一郎だけでなく裕作にも贖罪の気持ちていっぱいだった。
こんなことなら、裕作と口づけを交わしておけばよかったと、今さらながら後悔していた。
頼広は、響子の上唇を強く吸ったり、下唇を優しく舐めたりして、変化を付けて響子をさらに官能へと引きずり込もうとしている。
もちろん頼広は擬似キスだけでなく、響子の媚肉に挿入した肉棒の動きも止めていない。
腰をしゃくり上げるようにして腹の裏側を擦ったり、奥まで押し込んで子宮口を押し上げるように抉っている。
響子は声を出してはならないと懸命に快感を我慢しているものの、男に突き上げられると、ついついそれに合わせて呻き声を漏らしてしまっている。
ただ、その声を頼広の口が吸い取るようにして響子の唇を貪っていた。
「むむっ……むううっ……んんっ……」
(い、いや、こんなの……か、感じてる!? 私、少し感じてきてる……う、うそよ、そんな……ああ……)
響子が、自分の肉体の快感を否定すればするほどに、その快感は高まってしまっている。
こんなはずはない、自分はそれほど淫らではない、まだ惣一郎を愛しているし、忘れられない。
裕作や三鷹ならともかく、こんな男に感じさせられるはずがない。
そう思えば思うほどに、自分に入り込んでいる男のペニスを意識してしまい、力強く突いてくるたくましいものに脅え、戸惑ってしまうのだった。
「いい感じだぜ、あんた。さっきからきゅーきゅー締めつけやがる」
「そっ、そんなこと……そんな恥ずかしいこと言わないでください……んんっ……」
堪えても堪えても込み上げてくる快楽を持て余すかのように、響子が美しい顔を苦悶させ、快感の声を我慢している。
そんな美貌を眺めているうちに、頼広の方が我慢できなくなってきていた。
そうでなくとも響子の膣が、さっきから激しく収縮してきているのだ。
遠からず響子も絶頂しそうなのだが、この異常な状況下では達しにくいのだろう。
頼広は構わず自分がいくことにした。
響子の腰が逃げられないようにがっしりと掴むと、ピストンする速度を上昇させていく。
膣内を激しくかき回され、頼広の快感が高まるにつれ、響子の官能も高みに昇っていった。
「あっ、あっ、あっ……くっ……だめ、そんな……く、口を、ああっ……むむっ!」
響子の要求に応え、頼広がまた響子の唇を激しく吸った。
相変わらず口腔は許可してくれないが、それでも唇は自由に吸わせるようになっていた。
響子も、頼広がいきそうなのがわかった。
響子の胎内で、頼広のものがググッと一回り太くなったような気がしたのだ。
「い、いくぜ、出すからな」
「んんんっ!!」
響子はキスされながらも、激しく首を振ろうとした。コンドームしているのを忘れているのかも知れない。
中出しされる恐怖に脅え、激しく身体をもがかせている。
男は、出来るだけ深くまでペニスを挿入し、響子の子宮口を持ち上げると、そこで一気に射精した。
「ぐううっ……!!」
響子は口を吸われたまま、激しく反り返った。
いったかどうかはわからない。だが、かなり強い快感を得たことだけは確かなようだ。
響子は、いちばん深いところで頼広の射精を感じ取っていた。
コンドームしていたのだと思い出したが、それでも激しい射精だった。
ゴム越しに激しく精液が噴き出され、響子の子宮口に刺激を与えていたのだ。
「ん……ん……んんん……、ぷあっ!」
ようやく口を離され、響子は大きく息を吐いた。
ほぼ同時に、射精し終えた頼広も、響子の中から肉棒を引き抜いた。
ペニスはどろりと粘液で汚れている。
言うまでもなく響子の愛液によるものだ。
響子は快感で霞む目で、ぼんやりとそれを見ていた。
胸が大きく上下しているが、いかされた感じはまだない。
(ああ……、い、いかないで済んだ……。惣一郎さん……何とか耐えられました……)
ホッとしていた響子だが、頼広が自分のペニスから外したコンドームを見てギョッとした。
そのサイズにも驚いたが、先端がぶっくりと大きく膨らんでいたのに驚愕した。
(あ、あれって……、あそこに溜まってるのって……もしかして、全部この人の、せ、精液……なの……?)
信じられないほどの量だった。
普通、射精の際に放出される精液は、せいぜい小さじ一杯くらいだと思っていた。
なのに今のセックスで頼広が出した量は、それを遥かに凌駕している。
大さじ一杯どころか、三杯か四杯くらいはありそうなのだ。
響子は心底ゾッとした。
改めて頼広の精力におののくとともに、もしあれが膣内射精されてしまったらと思うと背筋が凍る。
あんなすごい量を……しかもかなり濃厚そうな精液を射精されてしまったら、間違いなく妊娠してしまいそうだ。
響子と惣一郎の間に子供はなかったが、響子は子が欲しかったから、ほとんど避妊はしなかった。
それでも半年の間で懐妊することはなかった。
響子に問題があったのか惣一郎の方だったのかは、わからない。
単に運がなく「恵まれなかった」だけかも知れない。
しかし、響子に問題がなかったなら、頼広に犯され続け、膣内射精され続けたらと思うと目眩がしてくる。
おまけに頼広ははっきりと、響子との間に子供を設けたいと言っているのだ。
これからも、何としても中出しだけは拒否しなければならない。
そこまで考えて響子は青ざめた。
だが、このセックス以前の行為では、すべて胎内であの精液を受けてしまっているのだ。
もはや手遅れかもしれない。
響子の脅えに気づいていないのか、頼広は新たなコンドームをペニスに装着し終えると、また響子を押し倒していった。
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