瞬は、響子との二度目の行為を前に、ある決意をしていた。
それは響子を「感じさせる」ことであり、「いかせる」ことだった。
無論、最終的には子を孕んでもらわねばならない。
それは大前提だが、かと言って機械的に響子と結合し、彼女の卵子に己の精子を受精させるだけでは味気ない。
それでいいのであれば、別に響子が相手である必要はないのだ。
異様な執念を持って響子に拘ったのも、何としても彼女を自分の腕の中で果てさせたい、快楽に沈めたいと思っているからだ。

前回のセックスには懲りていた。
あんなつまらないセックスは初めてだった。
それが響子相手の行為だっただけに、瞬はかなりショックを受けたのだった。
響子としては裕作のこともあり、決して瞬相手に溺れまい、義務的に抱かれるだけだと思っているに違いない。
その障壁はかなり分厚く、そして高いだろう。
だが、それを乗り越えるか打ち砕くかしない限り、響子は(例え一瞬でも)瞬のものとはならないだろう。
ならば、瞬の技巧を駆使するしかない。

瞬は、響子の性体験は少ないはずだと踏んでいた。
夫である裕作も、そして前夫だったという高校教師も、話を聞く限りではかなり奥手である。
つまり響子は身体的には熟れているものの女体としては、まだ未発達だと踏んで良いだろう。
こういっては何だが、瞬には彼らには及びも付かぬほどの経験と知識があった。
それで響子を翻弄させ、最後には彼女からしがみついてくるようにしたい。
その上で妊娠させてみたい。それが瞬の最後の夢だったのである。
そして心の奥底には、貞淑な人妻を夫以外の自分が開発し、自分の色に染め直してみたい、という極めて男性的で淫らな欲望もあった。
それが響子であれば言うことはないのだ。

響子はこの日も瞬に対して堅く心を閉ざし、感情を消していた。
自分は「動くマネキン」になっていればいいと思っている。
瞬から事情を打ち明けられた時は同情もしたし、何とかしてあげたいとは思った。
だが、その後の夫との会話や今の状況を考え合わせれば、要は「カネで響子の身体を買った」ことに違いはないのだ。
子供を残したいという気持ちは理解できるが、その相手が響子である必要はない。
これまでの響子との経緯や瞬の感情を考えれば、響子に固執するわからないではないが、それは裕作と響子夫婦にはまったく無関係なことである。

それでもカネのためにこうして身を開かねばならぬ自分が情けなく、これでは娼婦と変わらない、とすら思った。
響子としては、本当に肉体──そして子宮を提供するだけであり、それ以上のものではなかった。
だから、さっさと終わらせて欲しい、早く家に帰りたい。
そのことしか考えていない。
事前の瞬との食事にはつき合ったが、彼の会話に興味が持てず、ほとんど生返事をするだけだった。
食事自体も、何を食べたのか思い出せないほどに印象がない。
半分以上は食べずに残す有様だった。

部屋に入ってからも、ちらと時計を一度見てから、何も言わずにシャワーを浴び、すぐに全裸になった。
どうせ「される」のだから、さっさと済ませたかった。

「……」

その様子を無言で見つめていた瞬は、響子がまるで乗り気でないことは痛いほどにわかっった。
このままでは、今晩もまたあの日のような屈辱的なセックス──いや、あれではほとんど自慰に近いだろう──になることは目に見えている。
瞬は気合いを入れ直し、これまでに習得し、経験した技巧を使って、何とかこの女を感応させることを誓うのだった。

響子は今、白く艶やかな肌を惜しげもなくさらした状態でベッドに横たわっている。
瞬がすぐ側にいることはわかっているはずだが、まったく興味がないと言わんばかりに仰向けとなって天井を見ているだけだ。
瞬はかまわず服を脱ぎ捨て、同じように裸となって響子の隣に潜り込んだ。
それでも響子は身じろぎもせず、反応もしなかった。
彼の指が肌に触れた瞬間だけ身体がピクリと動いたが、またすぐに「マグロ」状態になってしまった。
頑なな響子を見て、さすがの瞬も「手強そうだ」と苦笑したが、苦笑するだけの余裕を取り戻した、ということでもあった。

「……」

響子の反応がなく、口も閉ざしているため、瞬も敢えて何も喋らず黙って愛撫を開始した。
寝そべっていた響子を抱き起こし、その背中を抱くように覆い被さる。
手は豊かな乳房をゆっくりと揉みほぐしていた。

「……」

響子は少しだけ表情を歪めたが、させるに任せている。
抵抗は出来ないし、反応したくもなかった。

だが、そのまま身を委ねていると、この前抱かれた時とは微妙にタッチが異なっていることに気づいた。
瞬の手指は器用に動き、響子の白い乳房をまさぐり、揉み込んでいる。
そのことに変わりはなかったが、なぜか乳首には来ない。
下から揉み上がり、徐々に麓の乳首に近づいた指は、そこを無視するかのように再び裾野へと下がっていく。

唇がうなじを這い、手は胸だけでなく鎖骨や薄く浮き出た肋のあたりを優しく撫で、擦っていった。
性急ではなく、じっくりと責めてくる瞬の愛撫に戸惑い、響子は懸命に顔を逸らしたが、その白く伸びた首筋にも彼の唇が這ってくる。
その口は頬を軽くキスしたり、耳たぶを甘噛みしてきた。
耳まで責められて、響子もさすがに声を洩らした。
ゾクリとした悪寒とも快楽とも言えぬ、妙な感覚があった。

「んっ……」

瞬は人妻の様子を観察しつつ、手を少しずつ下へ下ろしていく。
柔らかな腹部を揉み、脇腹を指で撫で上げた時にも、響子は「あっ」と声を上げた。
びっくりしたのもあったろうし、くすぐったいということもあったろう。
が、徐々にではあるが、響子は眉間を寄せ、その美貌に動揺と困惑の色を漂わせていた。

手は下半身に達し、左右に開かせた太腿に触れている。
すらりと伸びた美脚は、人妻に相応しい適度に脂肪の乗った素晴らしいものだった。
その白く輝く表皮に息を飲んだ瞬は、感触を確かめるようにさすっていく。
腿の外側を撫でられている時は平静でいられたが、内腿を触られると、噛みしめた唇から「くっ」と小さく声を出した。
そこは、裕作とのセックスで発見された鋭い性感を持った箇所だった。

むずかるように身体を捩ったが、瞬はしっかりとその裸身を抑え込み、なおもそこを指で緩やかに揉み上げ、手のひらで撫でまわした。
その指が腿の付け根へと向かうと、思わず脚を閉じかけたが、瞬は左手で響子の左足の動きを封じてしまう。
が、彼の手は響子が恐れた箇所へは襲ってこなかった。
付け根に浮き出た筋の辺りをくすぐるように愛撫したり、手をシーツと肌の間に潜り込ませ、柔らかく潰れた臀部を愛撫している。

響子は、そのむず痒いような焦れったいような感覚に悩まされ、身を捩り、顔を振って耐えていたが、唐突に強い刺激があって思わず「あっ!」と声を上げてしまう。
瞬の手が、前触れもなく乳首に触れたのだ。
意図的なのかどうか、響子にはわからない。
乳をゆっくりと揉んでいた手のひらが偶然に接触しただけにも思える。

が、次の瞬間、今度は、股間の中心にある繊毛の上をすうっと手が撫でていった。
途端に響子の下半身は小さくぶるっと痙攣する。そんなことが何度も繰り返されていくうちに、ようやく響子も理解した。

(こ、これって……わざと? この人、わざと肝心なところには触らずに……私を焦らしてる?)

そのことに気づいた時は、もう遅かった。
彼女の肉体は瞬の手管に嵌っており、少しずつ熱を帯びてきている。
快感の煙を上げながらブスブスと燻されており、ハッと思った時には少しずつ快楽の炎が燃え始めていたのだ。

「んん……ああ……」

響子は鼻から吐息で熱を逃すだけでは我慢できず、薄く口を開いて熱の籠もった喘ぎを漏らすようになっていた。
その香しい匂いのする唇に瞬が吸い付こうとすると、響子は「いや!」と叫んで顔を背け、彼の顔を押し返した。
それでは、とばかりに、瞬はいよいよ本格的な攻勢に打って出た。
ぎゅっと握った乳房から括り出された乳首をそっと唇で吸い、舌先で舐め始める。

「く……、くうっ……!」

舌先が触れた瞬間、響子は驚いたようにビクンと大きく身体を跳ねさせた。
そして、その感覚を我慢しようと、身体をぶるぶると震わせて力んでいる。
が、そんな人妻の心を見透かすかのように、瞬は乳首を強く吸ってきた。

「あうっ……!」

大きく仰け反り、白い首筋を晒して大きな声を上げてしまう。
自分の声に驚いたかのように、響子はハッとしてその美貌を赤らめた。
今の声がどんな類のものなのか思い知らされ、全身が羞恥で染まっていく。
必死になって歯を食いしばり、唇を噛みしめるものの、男の蠢動は止まなかった。
股間をまさぐり、腿を愛撫する男の右腕を掴み、乳房を揉んでくる左手を押さえ込んでいるのだが、瞬は唇と歯を使って乳首を攻撃してくる。
唇が乳首を挟み、引っ張る。歯が乳首の根元を執拗にこそぐ。
舌先で嬲るように乳首を転がすと、そのたびに響子の全身にズキンズキンと鋭い感覚が突き抜けていった。
ジーンと身体中が痺れて下半身にまで到達する。
それどころか身体の内部にまで入り込み、腰の奥を刺激していく。

「やめて」とか「いや」と発するのも悔しく、響子はただひたすら口唇愛撫に耐えている。
いやいやするように頭を振りたくると、響子ご自慢の豊かな黒髪がばさばさと宙を舞った。
瞬は顔を上げ、ようやく口を開いた。

「……乳首が感じるようですね」
「……」

響子は瞬から顔を逸らしたが、内心、唇の愛撫が胸から離れてホッとした。
が、すぐにまた拷問のような焦らし愛撫が再開される。

瞬は一層に強く指で乳首を括り出させ、舌先で舐め回し、音を立てて吸った。
ちゅうちゅうと吸われる音が淫らに思え、響子は白い乳房を波打たせて呻いた。
響子が今にも喘ぎ出す、というその直前になって、瞬は一斉に手を引いた。
胸と脚からの快感が遠ざかり、響子は安堵すると同時に物足りなさと焦れったさを強く感じていた。
それが人妻として非常にはしたない欲望だと気づき、情けなく思うと同時に女体の脆さを実感してしまった。
これで解放してくれるわけがない。
またあんな責めをされたら我を失ってしまうのではないか。
響子がそう恐れた直後、思った通りに瞬がまた愛撫の手を再開した。

「あっ」

響子は仰向けに倒された。
「いよいよ貫かれる」と覚悟していると、瞬は響子の脚を左右に大きく拡げ、その股間の潜り込んでくる。
ハッとする間もなく、男の指が響子の割れ目をなぞるように愛撫してきた。
反射的に手を伸ばして瞬の腕を掴んだが、彼が黙って見つめてくると、力なくその手を離した。
響子に抵抗は出来ないのである。
それをいいことに瞬は響子の腿を抑え込んで、そこをじっくりと眺めた。

「……」

息を飲んだ。
響子のそこをじっくり見るのは初めてである。
前回は初めて彼女を抱くということもあり、瞬自身も平常心ではなかったようで、そういう余裕はなかったのだ。
それだけに舐め回すかのように観察したのは、瞬がそこを見たかったからだが、響子に対しても大きな効果があった。
夫以外の男にまるで視姦でもされるかのようにそこを観察されるというのは、人妻の響子にとって酷く屈辱的で非常な羞恥を感じさせたのだ。

綺麗な媚肉だった。
響子が年齢とその美しさの割りに「経験」が少ないのは何となくわかっていた。
が、子供を産んでいないにしろ、結婚した女のものとは思えぬほどに慎ましやかな膣であった。
まだ20歳だと言っても通用しそうなほどに、綺麗に合わさっている。
幾重にもなった肉層は淡いピンクで、少女のような新鮮さだ。
それと対象的なのがクリトリスの大きさだった。
性器が控え目なのに対し、クリトリスはそれなりに大きく、早くも包皮から少し顔を出していたのだ。
ここを責めれば、さすがの響子でも我を忘れて喘ぎ出すのではないか、と期待した。

「んあっ!」

今度こそはっきりと反応した声が上がった。
瞬の顔が股間に接触したのだ。
唇と舌で器用に割れ目を開かせ、その裏側をねっとりと舐め上げてくる。
舌が割れ目の裏にまで潜り込んで来るかと思えば、先を尖らせて膣穴を抉るような動きを見せた。
そのたびに響子は顔を振り、身体を痙攣させ、シーツを掴んで握りしめて堪えた。
しかし、その懸命な忍耐も瞬の責めがクリトリスに到達した瞬間に消滅する。

「はあっ……!」

指先でごく軽く指で弾いただけで身体が跳ね、響子は大きく身悶えた。
あまりにも反応が強かったので、もしかしたら痛みを感じたのかも知れないと思い、今度は指でなぞるようにそっと刺激してやった。
今度こそ感じたらしい響子は、瞬の指が嬲るたびに「くっ」「あっ」と小さく叫びながら、ギクッと裸身を震わせた。

その間も、腕を伸ばして乳房への愛撫も忘れない。
左手は響子の右脚を逃がさぬよう抱え持ち、左手で彼女の胸を弄んでいる。
ぐにぐにと揉みしだいたかと思えば、指をこまめに動かして乳首を嬲る。
もう隠しようもないほどに固く屹立してしまっている乳首を指で弾いたり、胸肉の中に押し込んだりして、響子を呻かせている。
そして、包皮から半分ほど顔を出しているクリトリスをちゅうっと吸い上げると、響子は「ああっ!」と叫んで身体を引き攣らせた。

「やめて……!」

ほとんど初めて響子は抗い、鋭敏な箇所を舐めてくる瞬の頭を両手で強く押した。
だが、そんな抵抗も乳首と肉芽の同時責めを受けると途端に力が抜けてしまう。
反対に、あまりに感じ過ぎると、今度は瞬の頭皮に爪を立てるようにしてその髪を掴んだ。

美貌の人妻の抵抗を快く感じながら、瞬はそこを舌先で優しく愛撫しつつ、しゃぶるように口へ含んだ。
響子はもう我慢出来ず、しなやかな身体を弓なりにして喘ぎ、何度も跳ねた。
信じられないような感覚──紛れもない快感だった。

(これって……、何なの!? こんなに感じるものなの!? そんな……、あの人にもこうされたことはあるけど……、こ、こんなに強烈じゃなかった……。ああっ、そこだめぇ……、か、感じてしまうっ……!)

人妻は、夫と瞬とのテクニックの差をイヤと言うほどわからされながら、その身を燃え上がらせていく。
感じているのは直接的愛撫を受けている胸や腿、股間だけではない。
それらを性的に刺激されるだけで体内……というより胎内にも官能の嵐が吹き荒れていく。
子宮が収縮するのがわかる。
ジンジンと膣全体が痺れてくる。

(だめっ……、か、感じてはだめっ……感じない、感じない、感じないっ……!)

いくら堅く決意はしても、身体はそうなってくれるものではない。
響子の心とは裏腹に、その肉体は裏切り、燃え溶けていってしまう。
いけないとわかっていても「その先」への期待と欲望がわき上がってくる。

『舐めて……そこをもっと……そうよ……ああ……そしたら今度はここへ……』

(ち、違う違うっ……!)

響子は激しく頭を振り、淫らな欲望を振り払った。
それでも、瞬の冷静な愛撫が急所・弱点を責め嬲るたびに鋭い電流が──その痺れるような感覚はまさに電流だ──響子の中心部を貫いていく。
白かった裸身はほんのりと赤く染まっていき、すべすべだった肌がじんわりと汗ばんできている。
この期に及んで「感じてない」と押し切ることが出来なくなっていた。
もうはっきりと響子本人にも、あそこが濡れてしまっていることが実感出来たのである。感じれば感じるほどに、考えれば考えるほどに、あそこの中が熱くなり勝手に液体が染み出してきた。
恐らくは媚肉を責めている瞬の指も唇も、響子の愛液を浴びているに違いなかった。

抑え込もうとすればするほどに快楽は胎内で膨れあがってくる。
これならば小出しに解放してしまった方が楽かも知れない。
が、夫でもない瞬の前で恥ずかしい姿を晒すわけにはいかなかった。
そんな恥辱は響子の矜恃が許さないし、裕作にも申し訳が立たない。
しかし、そんな響子の儚い願いも瞬の技巧の前には無力だった。

瞬はつぷりと人差し指を膣口に挿入した。
細いがはっきりとした異物感を感じ、響子は息むように悶えた。
さらにクリトリスを吸われ、膣内で曲げられた指が腹の裏側付近を擦ると、響子は大きく目を見開き、ガクンガクンと何度も仰け反った。

「あああああっっ……!!」

その瞬間、小さくぴゅぴゅっと媚肉から蜜を噴出させ、瞬の整った顔にその体液を浴びせてしまった。
ぐうっ、ぐうっと背を仰け反らせ、瞬の顔に股間を押しつけると、どさっと大きなお尻がベッドに落下する。
がくりと脱力した響子は「はあはあ」と熱い息を吐いて呼吸を整えていた。
豊満な乳房が激しい鼓動に慌ててゆさっ、ゆさっと蠢くのが何とも扇情的で、瞬の獣欲を煽り立ててくる。

「……」

瞬はそんな響子の妖艶なまでの美貌に見とれている。
一度セックスを終えても、そんな表情を見せられたら、大抵の男は「もう一度だ」と挑みたくなるに決まってる。
瞬はまだ挿入すらしていない。
彼の男根は、もうぎりぎりまでに大きく勃起し、そそり立っていた。

「……いきましたね、響子さん」
「……」
「いってくれたんでしょう? 気持ち良かったですか?」
「違う……。違います、私はそんな……、あっ」

恥辱にまみれた顔を見られたくないと瞬から視線を外した響子だったが、その顎を掴まれ、また正面を向かされた。

「ウソをつかなくてもいい」
「ウソなんて……」
「こんなに濡らしていて「感じてない」じゃ通りませんよ」
「……」
「でも、それでいいんです。僕だって、ほら……」
「あっ……」

瞬は膝立ちとなり、股間を響子に突きつけて見せた。
響子は目を見張り、ゴクリと息を飲む。

(お、大きい……。そう言えば、あの人のも惣一郎さんのも……、こんなにじっくり見せられたことはないけれど……、でも、三鷹さんの方がずっと……、こ、こんなのを今入れられたら、私……)

響子の視線に気づき、瞬が軽く笑った。

「そんなにじっと見られたら、いくら僕でも少し恥ずかしいですよ」
「み、見てませんっ」

慌てて響子は顔を背けたが、そのまま瞬に押し倒された。

「ああ……、三鷹さん、お願い……。もうやめましょう……。きょ、今日はもう許して……、また今度に……」
「いいや、今ですよ。今こそチャンスです。だって響子さんの身体がせっかくその気になっている」
「私はそんな気になってません!」
「響子さんの心じゃない、身体の方です。熱く濡れて感じやすくなってる。こんな時ならきっとうまくいきますよ。妊娠できそうだ」
「……」
「これだけ濡れていればもう前戯は必要ありませんね。じゃ……」
「や、待って……!」
「それとももう一度念入りに愛撫して差し上げましょうか? あと何度かいった方がスムーズに進むかも知れませんね」
「……」
「お返事なし、ですか。ではいきますよ」
「ああっ……!」

勃起した熱いものを膣口に押し当てられると、響子は悲鳴を上げた。
瞬は響子の両脚を抱え持ち、腰を突き出していく。

「い、いやあっ……、だめ、やめて三鷹さん、今はだめ、今日はだめぇっ……!」

人妻の懇願も虚しく、男のペニスはゆっくりと、しかし確実に膣の中へと挿入されていく。

「くぅっ……!」

充分に蜜で潤ってはいるものの、このサイズのものを入れられるのは初めてとあって、響子のそこはすんなりと受け入れてくれない。
前回もセックスしているはずなのだが、あの時は「きつい」とか「苦しい」という感覚ばかりで、男根の大きさまで頓着はしていなかった。

「やめて、抜いて! しないで!」

響子は必死になって抗い、腰を捩るが、かえってその動きが挿入を助けてしまっている。
瞬は響子の腰を捉え、ぐうっと奥まで貫いていく。
男の腰を挟み込むように大きく開かされた股間の中心に、瞬のペニスが深々と突き刺さっている。
響子はその深さに目を剥いた。

(ふ、深いっ……、こんな奥まで……こんな奥まで来てる……、こ、こんなところ、あの人だって入ってきたことないのに……。これじゃ……、ああ……、きっと子宮にまで届かされてしまう……)

瞬は、自分のものがすべて響子の中に収まったのを知ると、そのむっちりした太腿を抱えてゆっくりと突き上げ始めた。

「ああっ……!」

響子はガクンを首を仰け反らせた。
その圧迫感に息が詰まりそうになる。
が、それでいて媚肉は瞬に突き込まれるごとに強く反応していた。

瞬は、前回はじめて響子を犯した時以上の興奮を感じていた。
あの時は自分も平静ではなく、よくわからなかったのだが、今貫いてみると改めて響子の素晴らしさを実感する。
処女かと思うばかりのきつさなのに、膣は肉厚で胎内の肉襞は誘うように蠢いていた。

そんな中、響子は次々と送り込まれる快感に対し、懸命に抵抗していた。
歯を食いしばるだけではどうにもならず、人差し指を咥え、血が出るほどに強く噛んだ。
手はシーツを引き千切らんばかりに握りしめ、危うく快楽に引き摺られそうになると、ハッとしたように顔を振りたくった。
瞬は、感じることに脅え、いきたくないと必死になっている響子を見据えて言った。

「どうしました、響子さん。遠慮することはない、あなたも気持ち良くなって下さい」
「い、いやっ……」
「なぜです? せっかくこうしてセックスしているんだ、お互いに気持ち良くなった方が……」

響子は、ややもすると流されてしまいそうになる身体に叱咤して、ぴしゃりと言った。

「そ、そんなこと関係ありませんっ。私はただ、あなたに、か、身体を提供しているだけで……」
「今の響子さんにとっては確かにそうかも知れない」
「……」

瞬はそう言って、少しだけ表情を暗くした。
が、すぐに思い直したように口を開く。

「だが……、だが僕は、やはりあなたにも感じて欲しい。僕に抱かれて気持ち良くなって欲しい。その上で子供を……」
「いやっ……!」

響子は激しく顔を振って、瞬の申し出を拒絶した。
そして、唇をわなわなと震わせながら涙混じりに言った。

「どうして……、どうしてそんなこと言えるんですか!」
「それは、あなたを愛しているからだ」
「……!!」

瞬からはっきりとそう告げられ、響子は呆気にとられた。
驚いたようにしばらく彼の顔を見つめていたが、やがて視線を逸らせて力なく言った。

「何を今さら……。私はもうあの人の……、裕作の妻です。三鷹さんのものじゃありません」

少し語尾が震えていた。
今ごろそんなことを言われても遅いのだ。
響子だって、瞬を憎からず思っていたことはあったし、少々強引なところはあったものの、嫌いな存在ではなかったのだ。
一時は、裕作に出会っていなければ、もしかすると瞬と結ばれていたかも知れないと思った時期もあったくらいだ。

しかし、そこまで考えて響子も思い出した。
瞬には何度となく好意を告げられ「好きだ」と言われていたのである。
その時は「嬉しい」という感覚はなかった。
瞬がいわゆる「プレイボーイ」なのは聞いていたし、想像もついていた。
だから気軽な気持ちでそう言っているだけだと思っていた。
どうせ他の女性にも同じことを言っているに違いないのだ。
響子のその推測は正しかったのだが、唯一違っていたのは響子に対する告白は瞬の「本心」だったということだ。

このことがわかったのは、ある事件がきっかけである。
瞬が響子を連れて海へ行き、ホテルのラウンジで抱きしめて「今日は帰さない」と告げた。
響子は大きく動揺し、早く帰らないとと考えるものの、そこに瞬が「部屋は取ってある。あなたが来てくれるまで部屋を取り続ける」と言ったのである。

そこで瞬の本気を知ったものの、もうこの時の響子には「いかにして瞬を傷つけずに断るか」しか考えていなかった。
しかし、この申し出がもっと早ければ、さらに裕作と諍いを起こしていた頃であったなら、響子の心はどう動いていたのか、響子本人にもわからなかった。
呆然とする人妻を前に、また瞬は同じことを言った。

「愛しています、響子さん」
「三鷹さん……」
「あなたが五代くんの妻だということはわかっています。その事実は動かせないし、あなたの気持ちもそうそう変わるものではないでしょう。それはそれでいい。だが、僕の気持ちも変わらない。それだけはわかってください」
「……」

黙って瞬の告白を聞かされていた響子は、悲しそうな表情でぽつりと言った。

「……卑怯です、三鷹さん」
「……」
「今、そんなこと言うなんて……、酷いです。でも……、でも、私は裕作の妻です。あなたのお気持ちは嬉しいけど、お受けすることは……、あ、ああっ」

瞬は響子のセリフを打ち切るように、その内部を擦り、抉っていった。

「あっ! ああっ! いや、もうやめて、あっ……あはあっ……!」

理性とは裏腹に、響子の肉体はしっかりと瞬の動きに感応している。
太い男根が抜き差しされるのに合わせて胎内は反応し、襞は絡みつき、しっかりと締めつけていた。
奥までずぶりと差し込むと、響子は引き攣った声を上げつつも、キュッと咥え込んでくる。
好きだと告白されたからなのか、響子の身体が瞬を受け入れるようになっていた。
声も反応も、明らかに快感を得ているように見えるのだが、そのことに響子本人は嫌悪している。
そのせいか、喘ぎはするがよがりはせず、自分から求めるような仕草はまったく見せていない。
瞬が誘い込むように耳元で囁いた。

「どうしました、響子さん。我慢することはない、もっと積極的になればいい。声を出したくてしょうがないんでしょう?」
「ち、違いますっ、私、そんな……、こ、こんなことされて感じたりなんか、ああっ、し、しませんっ……いあっ」
「いいんですよ、もう意地を張らなくても。あなたは僕に納得ずくで抱かれている。そうでしょう?」
「……」
「それに……、何度も言うが、僕はあなたが好きだ」
「いや……」
「愛してるんだ、響子さん」
「いやっ、そんなこと言わないで!」

「好きだ」「愛している」と言われるたびに響子の膣は反応し、瞬のものを愛おしそうに食い締めていく。
愛を囁かれると子宮がキュンキュンと痺れ、疼いてくるのが止まらなかった。

瞬はここで気づいたようだった。
響子は言葉で責められると酷く感応するようだ。
瞬の言葉にいちいち反応し、肉体的な刺激に変換している。
瞬は一計を案じ、愛を囁くだけでなく虐めるような言葉を掛けていく。

「ふふ……、それにしてもいい感じですよ。五代くんに抱かれている時もこうなんですか?」
「やあっ、あの人のことは言わないで!」
「ほう、今は僕とのセックスを愉しみたいから夫のことは言うな、と……」
「違うっ……、そ、そうじゃなくて、こんな時にそんなこと……あうっ」

一層に響子の身体が熱くなっていくのを、瞬はペニスから感じ取っている。
激しく身を捩ったり、瞬の腕を押さえたり、胸を押し返したりするような抵抗がほとんど止んでいる。
瞬はここぞとばかりに、かさにかかって責め始める。
腰を大きく上下にグラインドさせるようにリズムを取って突き上げたり、そのたびにゆさゆさと揺れる柔らかそうな乳房を両手でぎゅっと握りしめるように揉み込んだ。

「んんっ……、あ、あんっ……やっ、は……あうっ……」

言葉責めされたり、乳房を強く揉みしだかれると、響子の膣は面白いように反応し、瞬のものを強く締めつける。
響子の本心がどうあれ、身体の方はどうにもならないらしい。
その身体と心の狭間をこじ開けるように、瞬は子宮目がけて激しく突き上げ、腰を打ち込む。

「あああ、そんな……あ、あ……はあっ……いっ……や……あ、あ……」

響子の吐息は火が着きそうなくらい熱くなり、呻き声は喘ぎ声へと変化する。
もしかしたら響子は、その清楚な風貌や性格とは裏腹に、かなり強い性欲があったのではないかと瞬は思った。
夫の惣一郎が死んだ後、その欲望を押し込めてずっと操を守り通していたのだろう。
だが、そうしたものは我慢して抑えられるものではない。
澱のように身体の奥底に沈殿し、ブスブスと不完全燃焼していたに違いない。
それで何年も過ごしたのだから大した意志の強さだ。
死んだ夫への愛情がそうさせたのかも知れない。
裕作と結婚し、その戒めが取れたのだから、もう解き放っててもいいはずだが、それもどうやらなさそうだった。
こう言っては何だが、裕作のセックスでは響子は完全には満足できていなかったに違いない。
多分、響子本人もそのことに気づいていなかっただろう。
夫との行為の後、「物足りない」とか「もっと欲しい」と思うことはあったろうが、それを口にするほど恥知らずな女ではなかった。
そもそも、セックスなんてこんなものだ、という認識だったのかも知れない。

ならば瞬がそこに介入して、響子を狂わせ、肉体的に屈服させる可能性は高いはずだ。
彼のやる気は一層に増した。
もちろん妊娠もさせるが、死ぬまでに響子を自分のものにしたい。
そう強く願った。
その思いが責めに表れ、快楽と背徳の間で戸惑う若妻を追い込んでいく。

「みっ、三鷹さんっ、だめっ……そ、そんなことしたらあっ……ああっ!」

瞬は容赦なく人妻の媚肉を抉り、奥まで突き上げた。深々と打ち込み、腰を引き、そしてまた突き込む。
その動作を強く何度も繰り返したり、腰で円を描くように回転させ、絡みつく膣襞をこそぐように責めた。
そんな責め方をされたこともない響子は、顔というより全身を仰け反らせ、声を掠れさせて喘いだ。

「あああ、だめ……、もうだめえ……あ、やっ……や、めて……はあっ……」
「やめませんよ。でも、そんないい顔されたら僕ももう我慢できそうにない」
「えっ……」

響子は一瞬動きを止めた。
つまり射精するということだろうか。

「それだけはイヤ! 中はやめて、外に出して!」と叫ぼうとして気づく。
そうではない、中に出させなければならないのだった。

響子は自分の運命を呪いつつ、押し寄せる快楽の波に身を任せていく。
瞬の動きが大きくダイナミックなものから、小刻みでリズミカルになり、且つ速くなっていく。
響子をいかせるというより、自分が射精する体勢に入ったのだ。
きゅうきゅうと締めつける響子の膣の具合の良さに呻きつつ、瞬は最後の力を振り絞って腰を使った。

「くっ……、そろそろだ、響子さんっ」
「っ……」

「だめ」とも「出して」とも言えず、響子は口をつぐんでその瞬間を待った。
白い裸身はピンクに染まり、瞬の突き上げに合わせて大きく弾んでいる。
瞬は響子の左足を抱えると、思い切り腰を密着させてきた。
その結果、さらにペニスがぐうっと奥底まで入り込んでくる。
ジンジンと腰が熱く痺れてくるのを感じた瞬は、響子の腰をしっかりと抱え持ち、叫んだ。

「いきますよっ……!」
「ああっ……!」

絡みつく襞を掻き分けて、太い男根が子宮口にくっついた。
その感触を亀頭に感じ取った瞬は、一声吠えて一気に欲望を解放する。

「ぐうっ……!」

激しい奔流が勢いよく子宮口にぶつかるのを感じ、響子は何度も仰け反った。

びゅくびゅくと放出される音が聞こえそうなくらいの激しい射精だった。
熱い粘液が子宮口に、膣壁に浴びせられ、ひっかけられると、そのたびに響子「ああっ」と反応し、身体を震わせた。
瞬の肉棒がどくどくと脈打って精液を放つと、それに合わせて膣が収縮し、絞り取るような動きを見せている。
その動きは瞬の肉棒を激しく刺激し、この上ない快楽をもたらしている。
その快感に応えるかのように、瞬の射精はさらに促され、響子の中に吐き出されていった。



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