「……」
会場の、むせ返るような熱気で瞬はじっとりと汗をかいていた。
いや、そのせいだけではないだろう。
あれは響子に違いない。
間近で確認したわけではないし、だいぶ酔いが回っているから確証はないが、瞬は確信して
いた。
呆然と席に座ったままの瞬に、五十嵐が近寄ってきた。
「どうでしたい、三鷹さん。なかなかいい女だったでしょう?」
「……」
「どうです、三鷹さんもやりたくなったじゃありませんか、響子と」
「あ……ああ……」
声を掛けられて、瞬はようやく我に返った。
周囲を見回すと、もうほとんど客は残っていない。
舞台の照明も落とされ、誰もいない。
終演していたらしい。
まるで気づかなかった。
瞬はふらふらと立ち上がった。
五十嵐が、長身の瞬を見上げるように言った。
「お帰りになりますかい? だいぶ酒がまわってるようだから、おクルマでいらしたんなら
代行車を呼び……」
「き、きみ」
「へい」
瞬は五十嵐の肩を抱くようにして言った。
「……さっきの話だけど」
「さっき?」
「だからその……。きょ、響子を……」
「ああ、抱きたいんですね?」
五十嵐はニヤリとした。
「可能なのか?」
「ええ、まあ。でも……」
「でも?」
勿体つけるようにしてチンピラが言う。
「誰にでもってわけにはいかないんでさあ。響子はご覧の通りの人気スターですし、値が張る
んですよ」
「……」
「にも関わらず、俺にも抱かせろって注文がひっきりなしだ。といって、いくらカネになるから
とはいえ、そうそうやらせるわけにもいかねえ。まだ響子は素人に近いですしね、あんまり無理
はさせられねえんですよ」
「……」
「だけど」
五十嵐は大きくうなずいて言った。
「相手が三鷹の御曹司さまなら話は別でさあ。一応、百瀬の兄貴に確認は取りますが、まず問題
ねえでしょう。たださっきも言いましたが、値は張りますぜ」
それはそうなのだろう。
さっきの、客の飛び入り生板本番ショーですら、セリだったとはいえ30万もの価格になって
いるのだ。
そもそも、このショー自体有料である。
10万円の参加費がかかるのだ。
瞬が無料招待されたのは、千木良一家と三鷹の会社の付き合いのためである。
「かまわん。いくらだね?」
「……40万、出せますかい?」
馬鹿げた値段だと思った。
たった一晩、女を抱くだけでそこまで支払うバカがいるのだろうか。
相手が人気女優だの売れっ子アイドルだのとかいうのならまだわかるが、いくら美人だとはいえ
響子は素人の人妻だ。
しかし、五十嵐の言い方だと、それでも客は引く手あまたらしい。
「ホテル代込みです。こんなチンケなビジネスホテルじゃなくて、ちゃんとした一流ホテルの
いい部屋を用意しますぜ。そこで一晩あの女を好き放題できるんだ、そう高くはないと思いま
すがね」
瞬はその条件を飲んだ。
百瀬から「OK」の連絡が入ったのは翌日だった。
日にちと場所を指定され、瞬は覚悟を決めた。
─────────────
「……」
瞬は、響子と会うその日までに調べることがあった。
響子の失踪が本当かどうか確認するのだ。
実は、瞬が響子を「買った」のは、抱きたいと思ったからではない。
純粋な正義感と義憤である。
一般の女性をあんな目に遭わせて良いわけがない。
ムラムラと怒りがこみ上げてくる。
もし本当に響子がムリヤリ拉致され、嬲られているとわかったら、瞬はその場で千木良と手を
切るよう父に進言するつもりだった。
そして警察へ通報するのだ。
仮初めにも、いちどは惚れた女である。
プロポーズしたこともある。
その女が、見るも無惨な性的仕打ちを受けて、あまつさえ見世物にされていたのだ。
瞬は、まるで自分がそうされているかのような屈辱と怒りを覚えていた。
もちろん彼とて正常な男性ではあるから、魅力的な女性のあられもない仕草を見て、性的に昂奮
しなかったわけではない。
だから、響子のショーを見ている時、情けなくも勃起してしまった。
だが、欲情よりも屈辱の方が勝っていた。
最終的に振られた格好にはなったが、それでも響子や裕作に遺恨はないし、思い出としては爽や
かなものになっている。
もともと瞬は、過去を振り返ってウジウジするタイプではない。
何とか響子をあの地獄から救い出してやりたかった。
瞬はひさしぶりに一刻館を訪れていた。
ここに来るのも2年ぶりである。
「こんにちわ」
玄関の引き戸を開ける。
相変わらず立て付けが悪い。
修繕する費用も捻出できないのだろうな、と瞬が思っていると、奥から「はぁい」と女性の声
が返ってきた。
聞きなれたはずの響子のものではない。
だが、この声にも聞き覚えはあった。
女性にしては少々太いその声は、見た目も小太りの中年女性から発せられていた。
主婦は目を丸くして驚いていた。
「あんた……三鷹さん?」
「おひさしぶりです、一の瀬さん」
一の瀬はびっくりしたように、ドタドタと玄関先まで走ってきた。
一の瀬のおばさんは感慨深そうに三鷹を見た。
「本当にひさしぶりだったじゃない。どうしてたの?」
「ええ、まあ。何とかやってますよ。ところで……」
「……管理人さんかい?」
おばさんは、やや目を伏せて聞いた。
「はあ」
「そうだと思ったよ。あんたがあたしを懐かしがるわけないもんねえ」
「そんなことありませんけど」
瞬と、一の瀬、響子はテニスを通じて知り合っている。
彼はテニスのインストラクターだったのである。
どこぞのクラブのコーチではなく、瞬自身が経営していたテニススクールだ。
そこに一の瀬が近所の主婦たちと通い始め、響子を誘ったというわけである。
一の瀬たちのお目当ては、近所で評判のハンサム(当時、「イケメン」などという言葉はない)
だったテニスコーチ──つまり三鷹瞬──だったのだが、響子は純粋にテニスを楽しんだ。
彼女は学生時代、硬式テニスをやっていたのである。
そこで瞬の方が響子に一目惚れし、盛んにアプローチをかけていたのだ。
だから、言ってみれば裕作の恋敵だったわけである。
「響子さん、いますか?」
「……」
「……どうかしたんですか?」
おばさんは怪訝そうな瞬の顔を見て、ため息をつきながら答えた。
「そうか……。あんたはまだ知らなかったんだねえ」
一の瀬夫人は意味深な表情を浮かべたまま言った。
「ここじゃ何だから、こっちへおいで」
おばさんと瞬は、小さな庭に面している縁側に腰掛けた。
途中、朱美がいたので、彼女も誘った。
三人は、おばさんの煎れたお茶を啜り、押し黙っている。
無言の気まずさに堪えかねた瞬が、まず口を開いた。
「それで、響子さんは……」
「……」
おばさんと朱美は顔を見合わせ、諦めたように顔を振って言った。
「……いないんだよ」
「いない、と言うと……。買い物か何かですか? それともどこか旅行へでも……」
「そうじゃない」
おばさんは軽く首を振った。
「……行方不明」
「は?」
「だからいなくなっちゃったんだよ。失踪したんだ」
「……」
やはり、そうか。
となると、あのショーに出されていたのは、響子である可能性が高くなる。
聞いてみようかとも思ったが、このふたりに言っても仕方がないだろうし、何より刺激が強す
ぎる。
瞬は別の聞き方をした。
「……失踪というと、いつから?」
「かれこれ半年くらいになるかねえ」
「突然いなくなったわけですか」
「そう……だね」
「その前後に、何か変わったことはありませんでしたか?」
「そう言われても……」
おばさんは困ったような表情で朱美を見た。
朱美は黙って首を振った。
それでも、一の瀬夫人は思い出すようにぽつりと言った。
「変わったことっていうか、確かにいなくなる前はすこぉし様子が変だったようには思うけど
ね」
「変?」
「ああ。何ていうかこう、元気がないっていうかねえ」
「……」
結局、それ以上の収穫はなかった。
心当たりを聞いてみたが、思いつくところはすべて確認したという。
「……警察には?」
「届けたよ、五代さんと管理人さんのご両親が。音無のじいさんも一緒にね」
「そうですか……」
警察は本腰にはなっていないだろう。
年間2万人も出る家出人や失踪者を、まともに捜すわけはないし、その機動力も与えられてい
まい。
事件性があればともかく、そうでなければ失踪者届けを受理して、おざなりな捜査をしただけ
のはずだ。
ここまでだな、と思った瞬は立ち上がった。
「それじゃあ……」
「三鷹さん」
去ろうとした瞬に、おばさんが声を掛けた。
「あんた、このことを聞いてどうするつもりなんだい?」
「……聞いてしまった以上、捜してみるつもりですが……」
「五代さんも手を尽くして捜しているようなんだけどねえ……。まだ春香ちゃんが小さいし、
そっちの面倒も見なくちゃならないから」
「……」
それはそうだろう。
響子がいなくなっても生活はなくならない。
子供を育て、生活の糧を稼ぎ、暮らしていかねばならない。
僅かな時間を作って、あてどもなく捜すしかないのだ。
マンパワーも資金もない。
コネがあるわけでもない。
見つかるわけがない。
朱美がほとんど初めて発言した。
「ちょっと」
「はい?」
「あんた、管理人さん捜してくれるって本当?」
「……ええ」
「当てはあるの?」
「そうはありませんけど、知人に私立探偵をやってるやつもいますし、父の方から警察へ頼ん
でみる手もあると思います」
「そう……」
それっきり朱美は黙った。
瞬はふたりに会釈して庭を出た。
─────────────
「……?」
一刻館のわき道に駐車してあった瞬のクルマの傍に、朱美が立っていた。
瞬が立ち止まると、朱美の方から寄ってきた。
「あなたはさっきの……」
「……朱美。6号室の六本木朱美」
「その六本木さんが、何か?」
「朱美でいいわ。……ちょっと話があるんだけど」
「話……ですか?」
「そ。管理人さんのこと」
「……」
「ここじゃ何だから、場所変えない?」
そういうと朱美は、瞬にクルマへ乗るよう促した。
朱美に案内されたのは小さなスナックだった。
看板に「茶々丸」とある。
瞬も何度か来たことがある、朱美の勤め先だ。
カランと鈴の音がしてドアを開けると、ヒゲのマスターがグラスを拭いていた。
「おはよう、朱美ちゃん。……ん? お客さんかい?」
「あたしのね。マスター、悪いんだけど外してくれる?」
朱美の内縁の夫であるマスターは「何か訳あり」と、すぐに飲み込んでくれたらしくうなずい
て応じた。
腹芸というやつだ。
「ああ、いいよ」
「悪いわね。お客が来たら呼ぶから」
マスターは軽くうなずくと、トントンと階段を上って住居部の方へ移っていった。
瞬は、朱美が酒の用意をしてくるのを黙って待っていた。
朱美はふたり分の水割りを作ると、グラスを瞬の方に差し出しながらつぶやいた。
「悪かったわね、こんなところに連れてきちゃって」
「いえ……。で、お話っていうのは?」
「……」
それには答えず、朱美はタバコを口にした。
すっと瞬がライターを差し出す。火をつけ、一息煙を吸い込むと、紫煙を吐き出しながら女が
言った。
「あんたさあ」
「……」
「確か、五代くんと管理人さんを取り合ってたわよね?」
「……」
恋のライバルだったのは確かである。
瞬は、まさか裕作に負けるとは思っていなかったろう。
朱美は瞬の顔をじっくり見ながら続けた。
「それにしても、あんた二枚目よねえ」
「……」
「よくまあ管理人さんも、あんたを袖にして、あんなだらしない男とくっついたもんだわ」
瞬は自分でも男前だと思っている。
それを知って武器にもしてきた。
女にモテたいと思っていたのである。
悪いことだとは思わなかった。
女性の方も、瞬を魅力を感じていたからである。
そもそもテニスを始めたのも、それがきっかけだ。
中学生になって、部活で何かスポーツをやるにあたり、テニスを選んだのもモテそうだったから
である。
野球だのサッカーだのラグビーだのといった、男まみれでむさ苦しいスポーツになど、見向きも
しなかった。
男女混合でできて、しかも女性にモテそうな競技を選んだのだ。
高校、大学と続けたのもそのせいだし、卒業後、親の薦めを断ってテニススクールを立ち上げた
のも、すべてそのためだ。
それだけではない。
今で言うエステも取り入れた。
男性化粧品は惜しげもなく使ったし、歯の矯正もした。
瞬に憧れる女性たちは、彼の歯が白く光っているとうっとりしていたが、これとても手入れを
怠らないからだ。
女性にモテるための努力を怠ったことはなかったし、それが実らなかったこともなかった。
狙いを定めた女は、確実に落としてきたのである。
唯一の失策が響子だったのだ。
「今でも管理人さんに未練あるの?」
「……どういう意味ですか」
「言葉通りの意味。難しいことは聞いてないわ」
瞬は一呼吸置いてから、朱美を見据えて答えた。
「僕はもう結婚してますよ。子供もいます。双子でしてね」
「答えになってないわ。あたしは、まだ音無……いえ、五代響子が好きなのかって聞いてるの」
「……僕は妻と子供を愛していますよ。それに……」
「それに?」
「響子さんはもう他人の妻だ。五代君の奥さんです。邪な感情はありません」
「そお……」
きっぱりとした物言いだったが、まだ朱美は釈然としなかった。
それでも表情には出さず、続けて訊ねる。
「じゃあ、管理人さんを捜してくれるってのは……」
「確かに僕は響子さんに惚れてもいましたけど、良き友人でもあったと思っています。友人に
何かあれば何とかしてあげたいと思うのはおかしなことではないでしょう」
「……そう。まあいいわ」
朱美はグラスを手に取った。
「……実はね、あたし見ちゃったのよ」
「見た、というと?」
「管理人さんがいなくなるきっかけ……かな」
「本当ですか?」
瞬は身を乗り出した。
朱美は飲みながら語り始める。
「いつだったかな、やっぱり半年くらい前の話だけど。あたし、お家賃払おうと思って、管理
人さんの部屋に行ったのよ。声を掛けてノックもしたんだけど、返事がなかったの。鍵はかか
ってた。でも、何か気配がするわけよ。諦めて出直せばよかったんだけど、なんか気になってね」
「……」
「耳を澄ませると何か聞こえるわけ。くぐもったような、ていうか、潜めたような声っていうか。
話し声がするってことはふたり以上いるってことよね」
朱美は早くも一杯干して、つぎの水割りを作り始める。
「で、やっぱいるんだと思ってまたノックして声掛けたんだけど、誰も出ないの。さすがにおか
しいなって思って……覗いちゃったのよ」
「覗いた?」
「ほら、うちのアパートがたがただから、ドアと壁の隙間もあるし、古い鍵だから鍵穴からも
中が見えるのね」
そう言ってから、朱美は少し言い訳がましく言った。
「もしさあ、中に泥棒でもいたらまずいじゃん。だから……」
「ええ、そのことはいいです。それで?」
「……」
朱美はなぜか少し言いよどんで、グラスを傾けた。
瞬は辛抱強く待ち、女はやっと口を開いた。
「……いたのよ、中に管理人さんが」
「響子さんが?」
「ええ。で、何してたと思う?」
「さあ……」
「セックス」
「は?」
「だからセックスしてたのよ、管理人さん」
「……」
それは信じられない。
真昼間から性交するような女性ではなかったはずだ。
それに、自慰ならともかくセックスであれば相手が必要になる。
夫の裕作もいたというのだろうか。
そう聞くと、朱美は軽く笑って否定した。
「五代くんと寝てたんなら別にどうでもいいわよ。「あら、明るいうちからお熱いことで」で
済んじゃうでしょ」
「……誰だったんですか?」
「知らない。知るわけないでしょ」
朱美は吐き捨てるように言うと、タバコを押し消した。
「……見たことない男だったわよ。その男と部屋ん中で、真昼間から裸で絡み合っていたわけ、
管理人さんが」
「……」
「でもさ、それだけなら別にいいじゃない。管理人さんだって女なんだし、たまには他の男と
寝たくなることだってあるかも知れない」
一般論としてはそうかも知れないが、瞬の想像する響子像とはかけ離れている。
響子に性欲がないとはいわないが、誰でもOKなタイプではないし、夫がいて他の男と寝る女
でもない。
結婚以前に他の男がいて、まだ切れていなかったとも思えなかった。
「だからさ、あたしも見なかったことにして立ち去ろうかとも思ったんだ。でも……」
「でも?」
「五代くんとか春香ちゃんのこと考えたら、何だか黙っていられなくって」
「……」
「五代くんて浮気なんかする度胸ないし、管理人さんと結婚した後は余計にそうでしょ?
なのに管理人さんの方が他の男をくわえ込んでるってのが、どうしても納得いかなくって」
「……」
「だから、その男が出て行った後、管理人さんとこに行って話したのよ」
瞬は唇の渇きを覚え、水割りで湿した。
「あんたも女なんだから、男が欲しくなるのもわかるけど、五代くんや春香ちゃんのことも考え
たらって。柄にもなく説教しちゃったわ」
「……」
「あたしなんか、それこそ人のこと言えないんだけどね。だから、なんか気まずくなっちゃって。
管理人さん黙って俯いてるしさ」
「それで……?」
「それでおしまい」
瞬は朱美をじっと見つめた。
まだ後があるだろう、と言いたげだった。
朱美は新しいタバコをくわえながら言った。
「……でもさ、後になって考えたのよ。あれって本当にそうだったのかなって」
「どういうことです?」
「だから、本当にセックスしてただけなのかなって」
「しかし、あなたは見たと……」
「見たわよ、管理人さんと男がやってるところを」
「それなら……」
「だからさ、合意の上じゃないんじゃないかってこと」
そこで瞬はハッとした。
それが強姦なら辻褄は合う。
犯人があのヤクザであるなら、千木良との線が出てくるわけだ。
朱美はグラス半分ほど残っていた水割りを一気に干した。
「ただ、レイプだったら悲鳴あげるなり助けを求めるなりするでしょ、普通」
「してなかったんですか」
「してなかったのよ。あたしがドアの前にいるってわかってるのに、助けてって言わなかった
の。だからあたしは合意だと思ってたわけ。見られちゃマズイとこを見られたと思って、恥ず
かしくて声も出せなかったのかって」
「……そうじゃなかった」
「そうじゃなかったんでしょうね。よくよく考えれば、脅かされてたのかも知れないしね。
春香ちゃんを人質にしてたとか、もしかしたら前にも襲われたことがあって、そのことをバラ
すと言われたとか、写真撮られていたとかさ」
それはありうる。
というより、それが正解ではなかろうか。
響子の性格からして、いきなり襲われたのであればとことん抵抗するだろうし、大声を出すだ
ろう。
それが出来なかったのは、朱美の言う通り子供を人質にとられたとか、バラすと脅されたかの
いずれかだろう。
そして、こんにちのこの事態から想像するに、恐らく後者に違いない。
一度犯され、そのことを恐喝のネタに使われたのだ。
そして最後には拉致監禁され、ヤクザの女にされている……。
瞬は朱美に聞いた。
「どんな男でした? いや、知らない男だというのはわかりましたけど、人相とか」
「そうね」
朱美は天井を見ながら、ちょっと考えるような表情をした。
「……顔はよく見えなかったんだけど。ただ、ハゲだったわよ」
「ハゲ?」
「そう。年寄りってことじゃなくって、頭剃ってるってこと。スキンヘッドってやつね」
となれば、ますますヤクザである可能性が高い。
まさか生臭の僧侶と寝ていたわけではあるまい。
そこで朱美は話を戻した。
「もちろん、管理人さんがそれで自分から失踪したって可能性も考えたわよ。でもあの人の
性格からして、春香ちゃんや五代くん捨てて姿を消すって考えづらくない?」
それはそうだ。
「いくら自分の方に原因があって、五代くんたちに合わせる顔がないと思っても、あの人なら
まず謝って説明するんじゃないかな。まあ、それで五代くんが許さなかったとしたら、そりゃあ
出て行くしかないんだろうけど」
「……」
「でも、それはない。それなら五代くんだって理由を知ってることになるしね。ということは、
あのヤクザっぽい男が管理人さんのことを……」
拉致監禁した、ということか。
瞬は暗い表情で訊いた。
「それで、そのことは警察には……」
「言ってないわ」
朱美は首を振った。
「五代くんたちが警察に届けを出してから、警官が聞き込みに来たのよ、アパートに。その時は、
あたし管理人さんの失踪とそのことを関連付けて考えてなかったから」
「そうですか……」
「最近だもん、そう思うようになったのは。それに、それってあくまであたしの想像であって、
何の根拠もないでしょ? そのこと警察に言っても取り上げてくるかどうかわからなかったし。
それに、もし無関係だったとしたら、管理人さんの恥を晒すようなものじゃない」
それはわかる。
誰だって、たとえムリヤリだとしても犯されたなんてことは知られたくあるまい。
朱美は瞬の顔をうかがうように言った。
「あたしの話はそれだけ。参考になった?」
「大いに。ありがとうございます」
「そう、ならいいけど。くれぐれも言っておくけど……」
「わかってますよ。このことは僕の胸だけに収めておきます」
「……」
カランカランとドアの音がした。
酔客がふたりほど、顔を突っ込んでいる。
「あれ? 今日、休み?」
「……いらっしゃい」
朱美がボックス席から、ひょいと顔を出して迎えた。
客は安心したように入ってきた。
「なんだ、いるじゃない。マスターは?」
「いるわよ、今呼ぶから」
朱美が立ち上がりながら、瞬に目をやった。
彼が軽くうなずくのを見て言う。
「じゃあ、よろしく頼んだわよ」
「出来る限りのことはしますよ」
瞬の返事を聞くと、朱美は何やら用紙に書き付けていた。
そのメモらしい紙を伏せてテーブルに置き、客たちの方へ歩み去っていった。
何か口で言えない情報でもあるのかと思い、そのメモを見て瞬は苦笑した。
レシートだった。
─────────────
朱美の証言から、あの時の舞台女優が響子である可能性が極めて高くなっていた。
それでも推測はあくまで推測であって事実ではない。
その事実を確認する日が今日であった。
瞬は定刻で仕事を終え、その場で自宅へ電話した。
電話口の妻には「社用で取引先と飲んでくる」とだけ言っておいた。
妻は疑う素振りも見せず、気をつけて帰宅するように言った。
瞬は後ろめたい気がしていた。
嘘をついたということもそうだが、昔の女──つき合っていたわけではないが──に会うという
ことが彼に引け目を感じさせていたのだ。
だが、何もするわけではない。
助け出すために会うのだ。
そう自分に言い聞かせた。
だが、それなら妻にそう告げてもいいはずだし、何なら父の助力を得ることだって可能だった
ろう。
なぜそうしなかったのかという自問を、瞬は敢えてしなかった。
瞬はクルマをホテルの前で停めた。
ウィンドウが降り切る前にドアボーイが駆け寄ってきていた。
クルマを降り、ボーイにキーとクルマを預け、チップを渡して中に入る。
「……フェアモントホテルとは豪勢だな」
響子を抱くために瞬が支払う「花代」は40万円である。
その中にはこの高級ホテルの部屋代も入っているのだろう。
どこで寝たってやることは一緒だろうに、無駄な話だと思った。
まだ少し時間があったので、地階のバーで少し飲んだ。
これで度胸がついたような気がした。
約束の時間5分前になってから、フロントを素通りして百瀬に教えられた部屋へ直行する。
15階だった。
エレベータを降りると、廊下の深い絨毯に踏み込んだ。
ホールを右に折れ、そのまままっすぐ進むと、薄暗い中にぼんやりと人影が見えた。
パイプ椅子に腰下ろしていた男がすっと起立した。
瞬が近寄ると、灯りに透かすように顔を見て言った。
「三鷹さんで?」
「ああ」
返事をすると、どこにいたのかもうひとり若い男が来た。
「時間通りですね。響子はその部屋ん中にいます」
「……」
「花代はキャッシュでいただきますが……」
「わかってる」
瞬はスーツの内ポケットに手をやり、中から厚い封筒を出して手渡した。
受け取った男は、中身をさっと見て確認するとうなずいた。
「確かに」
「数えないのか?」
「ご冗談を。三鷹さんを信用してますよ」
「……」
男たちは不思議そうな顔で瞬を見ていた。
いつもの客層とは違うのだろう。
あの時の藤岡のようにはしゃぐとか、とにかく早く会わせろ、やらせろと騒ぐような連中ばかり
に違いない。
「で、響子に対しては、殺さなけりゃ何をやったって構いません。口でもケツでも好きなよう
にお使いください」
男は説明しながら、卑下た品のない笑い声をあげた。
「オモチャで嬲ろうが、ロープで縛ろうが、鞭打ちしようが、ロウソク垂らそうが、浣腸しよう
が、ご自由にどうぞ。道具は部屋に一通り揃えてありまさあ。ただ、身体に傷だけはつけないで
おくんなさい。何しろ商売品ですんでね」
「商売品……か」
「は?」
「いや。響子という女は、もうこうして客に何度も抱かせているのかな?」
「いえいえ」
男は両手を胸の前で拡げて振った。
「まだこれで……ええ、三度目ですかね。なにぶん、まだ仕込んで日が浅いもんですし、以前は
貞淑な人妻だったそうで素人同然だ。まだあんまり慣れてねえんですよ」
「そうか……」
「ま、人気は上々ですんで、すぐにでもうちのトップスターになりましょうな。よかったら、
その頃またご注文くださいや。そん時ゃあ響子もすっかり練れてましょうぜ」
「……」
「まだ不慣れな点も多いと思いますが、ご勘弁ください。客の言うことは絶対服従するよう言い
つけてありますが、嫌がったりすることもあると思います。まあ、嫌がる女を責めるって愉しみ
をなくしたくないってのが、うちの兄貴の方針でして」
「兄貴?」
「ああ、百瀬の兄貴ですよ。三鷹さんもご存知でしょう?」
もう百瀬が響子の拉致監禁および凌辱、売春事件の発端であり、首謀者なのは間違いあるまい。
となるといささか面倒である。
百瀬は千木良一家の幹部であり、やり手として知られているらしい。
組長の千木良でさえ一目置くと言われている。
他の幹部ならともかく、百瀬は厄介だ。
男の説明が終わりに近づいた。
「時間ですがね、10時から午前1時までの三時間でお願いします。時間延長は基本的に認め
てません。俺たちはここにいますから、何かあったら……響子があんまり駄々をこねたりしたら
呼んでくださいや。一発、ヤキを入れますから」
「……」
「それじゃお愉しみを」
部屋のキーを渡して引き下がろうとした男たちを瞬は呼び止めた。
「ちょっと、いいかな?」
「へい」
「君らはずっとここにいるんだね?」
「へえ」
見張りなのだろう。
考えにくいが、響子が客を殴り倒すなりして逃げ出すのを防ぐために見張っているのだ。
もうひとつ、客の方が響子に対してあまりに酷い仕打ちをするのを防止する意味もあるだろう。
口頭で響子に傷はつけるなと注意はしているものの、昂奮して、ついやりすぎる客もいるかも
知れない。
それを止める意味もあるだろう。
つまり彼らは、響子に対する監視兼ボディガードでもあるということだ。
邪魔だ。
「……悪いが、外してくれないか」
「お客さん、それは……」
「頼むよ。部屋を覗かれてるわけじゃないのはわかってるけど、外に誰かいると思うとその気に
なれないんだ」
「ダメですよ、お客さん。それだけは勘弁してくださいや。いや、三鷹さんが響子を痛めつける
とは思ってませんけど、ここを離れたら百瀬の兄貴に叱られますんで」
ここは、何としても彼らを追い払わねばならない。
そうでなければ計画自体が成り立たないのだ。
ここが最初にして最大の難関だ。
「タダとは言わないよ。これ……」
瞬はそう言って、男の手に紙幣を握らせた。
一万円札が五枚ほどあった。
男たちは大いに困惑し、逆に瞬に頼んできた。
「いけません。それはいただけませんや。だいいち……」
「ホテルから出ろというんじゃないんだよ。地下に雰囲気のいいバーがある。そこで時間を
潰してくれてればいい」
「しかしですね……」
「ほら、これは僕のカードだ。さっきバーで作ったばかりだ」
「い、いや……」
「僕のボトルが入ってる。全部飲んでくれて構わないよ。追加で入れてくれてもけっこう。
飲んだ後の支払いはこのカードで出来るから」
「……」
男たちは困ったような表情で顔を見合わせている。
それでも手にしたカードと紙幣を見比べ、瞬の顔を見て決心したようだ。
「三鷹さんがそこまでおっしゃるなら……。兄貴にも、三鷹さんには失礼のないようにって言い
つけられてますし……」
「百瀬さんの方には、僕からきちんと説明しておくよ。君たちに迷惑はかからないようにする
から」
これが駄目押しとなった。
彼らとしても、毎回毎回ヒマなのである。
部屋の中では、むくつけき男が響子に好き放題している。
若い彼らが響子の痴態を夢想し、悶々として欲求不満になるのは致し方あるまい。
終わったあと、悄然とした響子と満足げな男を見るたびに、バカバカしくなっていたのも確か
なのだ。
必要かも知れないが、やりたくはない仕事である。
理由があれば出て行きたいと思ってはいたのだ。
「わかりました。三鷹さんを信用しますよ」
「恩に着るよ」
男たちがエレベータに乗り、地階のボタンを押したのを確認してから、瞬は部屋の前へ戻った。
渡されたカードキーでロックを外し、ドアを開けた。
「……」
最少の室内照明だけ点灯されていて、内部は薄暗かった。
スイートというほどでもないが、豪華な部屋だった。
ドアを開けて入った部屋の右に浴室や洗面所があるらしい。
左から灯りが洩れているので、そっちに行ってみた。
部屋の隅に大きなベッドがあった。
そこにひとりの女性が腰掛けている。
消えてしまいそうな、悲しそうな後姿だった。
瞬が入ってきたことがわかったのか、こちらを向いてお辞儀をした。
そして俯いたまま、哀しい挨拶を始めた。
「ようこそいらっしゃいました」
「……」
「ほ、本日は響子をお買い上げいただきまして、まことにありがとうございます。ふつつか
ものではございますが、今夜一晩限りのあなたさまの妻として、誠心誠意尽くさせていただき
ます。よろしくお願い致します」
「……」
客が無言なので不安になったのか、響子は続けて言った。
顔はまだ上げていない。
「お客さま、シャワーを浴びてはいかがですか? よ、よろしかったら……響子も一緒に……」
「響子さん」
「……」
「響子さん、僕です」
「え……?」
響子はようやく顔を上げて客を見た。
光源が瞬の方にあるので、彼の顔がよくわからないらしい。
客は響子の目の前にまでやってきた。
響子はその顔を見て、やっと理解した。
「み……たか、さん……?」
「……」
「三鷹さん!?」
「ええ、僕です」
「いっ、いやっ!」
響子は小さく叫ぶとベッドから跳ね飛んで部屋の隅っこへ逃げた。
瞬が追いかけて響子の腕を掴んだ。
「響子さん!」
「だめ、許して、堪忍してください、三鷹さん……」
それだけ言うと、響子はさめざめと泣き出した。
いつかはこういうことがあるかも知れないと思っていたが、本当に起こるとは。
知り合いがショーを見たり、客になったらどうしたらいいのだろう。
響子はそれがいちばん不安で怖かったのだ。
それがいきなり起こってしまった。
しかも相手は三鷹瞬である。
瞬は泣きじゃくる響子の両肩に手を置き、言い含めるように告げた。
「響子さん、落ち着いてください。僕は客として来たんじゃありません」
「……え?」
「あなたを助けに来たんです」
「……」
響子は涙で濡れた瞳をぼんやりと瞬に向けていた。
何を言われているのか、わからないようだった。
瞬は噛んで含めるように言った。
「響子さんを助けに来たんです。逃げましょう」
「で、でも……」
響子は混乱した。
まだ三度目の売春で緊張しているところに加え、客が瞬だったというショック。
そして、自分を犯しに来たと思っていた男から救出をほのめかされたのだ。
矢継ぎ早に発生する事態に頭がついていかない。
瞬としては、辛抱強く説明、説得しているヒマはなかった。
若いチンピラを地下のバーに追い払ったとはいえ、いつ舞い戻ってくるか保証の限りではない
のだ。
一刻も早くここから離れる必要があった。
「説明は後です。今はとにかくここから逃げるんだ」
「わ、わかりました」
響子は瞬に促され、やっとその気になった。
この性の監獄から逃れることなど、もう諦めてしまっていたのだ。
そこに急遽訪れた脱出のチャンスらしい。
成功するかどうかわからないが、この機会を逃せば、もう二度と戻れないと思った。
追い詰められていた響子はすぐに覚醒し、着ていた薄いネグリジェを脱ぎ捨て、服を着なおした。
その間、瞬は外に出て周囲を警戒していた。
幸い、連中はまだ戻ってきていない。
多分まだバーで飲んだくれているのだろう。
逃げるなら今しかあるまい。
響子がドアから顔を出すと、うなずいてその手を引き、昇ってくるエレベータがないことを確か
めてから、階段で地下二階の駐車場へ向かった。
─────────────
「着きました」
「……」
ホテルの駐車場からここまで、響子も瞬も車内で一言も喋らなかった。
瞬は響子に何と言葉を掛けていいのかわからなかったし、響子の方はまだ脅えているようだった。
クルマが信号待ちで停車するたび、不安そうに周囲を見回していた。
一度、事務所から逃げた時、百瀬に捕まったことが忘れられないのだ。
あの時ほど絶望感を味わったことはなかった。
クルマが都内を抜けて郊外に出たあたりでようやく少し落ち着いた。
それでもまだ表情は固く、腿の上に置かれた両手はしっかりと握られ、震えていた。
そしてクルマが停まり、瞬に声を掛けられるまで緊張しっぱなしだったのである。
「響子さん」
「あ」
やっと響子は瞬の方を向いた。
まだ顔が青ざめている。
よほど酷い目に遭ってきたのだろう。
瞬は優しく言った。
「着きましたよ。降りてください」
「あ、はい」
響子はガクガクした動きで車外に出た。
満天のすごい星空だった。
回りに灯りが少ないからだろう。
響子はひさしぶりに見る星空を見上げながら訊いた。
「ここは……」
「うちの別荘です。葉山ですよ」
「別荘……葉山……」
「とにかく中に入りましょう」
「はい」
瞬はごく自然な動きで響子の肩を抱いて中へと導いた。
女性の扱いに慣れているのだ。
裕作ではこうはいかぬ。
部屋に入り、パッと照明をつけると響子は眩しげに手を翳した。
「そこに座っていてください。今、何か熱いものでも」
「……」
響子の胸に熱いものはこみ上げてきた。
感情が高ぶり、気がつくと瞬の胸に顔を埋めていた。
「響子さん……」
「怖かった……怖かったです……」
瞬は優しく響子を抱きしめて言った。
「可哀相に……よほどつらい目に遭ったんでしょう。でも、もう大丈夫です」
「三鷹さん……ありがとうございます……本当にありがとうございます……」
そう言った後、もう言葉にならなかった。
響子は子供のように泣きじゃくり、瞬の胸で泣いていた。
瞬は感慨深げにその様子を見つめていたが、突然、目を固く閉じ、何かを振り払うように顔を
振って響子を胸から離した。
「お疲れなんでしょう。ちょっとそこに座って待っていてください」
そう言って、男は響子を振り払うようにしてその場から去った。
広い室内にはシャンデリアがぶら下がっている。
高価そうな応接セットが部屋の真ん中にあったが、隅にはダブルベッドがあるから、ここは寝室
なのかも知れない。
事務用デスクや書籍の詰まった本棚がいくつもあった。
書斎かなと思っていると、瞬が手にトレイを持って現れた。
「どうぞ、コーヒーです」
「あ、すみません……」
「随分ひさしぶりなんで、もしかしたら豆が古くなってるかも知れませんけど」
「あ、いいえ、いただきます」
瞬の言った通り豆が古かったのか幾分酸味が強かったが、おいしかった。
挽いたコーヒーなどひさしぶりだ。
一口啜ると、頭も身体もしゃっきりしてきた。
気分も穏やかになってくる。
コーヒーの苦みが口中に染み渡る。
半分ほど啜ってから、響子は独り言のようにつぶやいた。
「私……本当に助かったのね……」
「ええ、そうですよ」
「ウソみたい……。もうあそこからは逃げられないって思っていたのに……」
そう言うと、また響子の大きな瞳からポロッと涙が零れた。
瞬は慰めるように言った。
「もう大丈夫です、安心してください」
「本当に……」
「ええ」
にっこりと微笑んで三鷹家の御曹司は言った。
「まだやつらがあなたを捜し回ってる可能性はありますから、しばらくはここにいてください」
「……」
「その間に、僕の方で連中をどうにかしますから」
「どうにかって……」
響子は不安げに聞いた。
百瀬らはヤクザである。
金持ちだとはいえ、民間人である瞬にどうにか出来るものではあるまい。
「そっちは任せてください。親父の方から警察に働きかける手もあります。それに、妻の実家
の方からも……」
「そうですか……」
「それまではここを自分の家だと思って使ってください。管理人は二週間に一度様子を見に来る
だけですし、他は誰も来ません」
「本当に……何から何まで……ありがとうございます」
「いえいえ。落ち着いたら五代くんもここへ連れてきますよ。……会いたいでしょう、五代くん
や娘さんと」
「……」
もちろん会いたい。
裕作の顔を見たい。
春香をこの腕で抱きたい。
でも、もう合わせる顔がないのだ。
裕作の妻である資格も、春香の母である権利も失ってしまった。
裕作の前で犯されて、気をやったところを何度も見られた。
その身体で他の男の精液を受けてしまった。
挙げ句、ヤクザ者の子を孕まされてしまったのだ。
もう帰れないのだ。
だが、それを今ここで言って瞬を困惑させてはならない。
あの地獄から救い出してくれただけでも、感謝しても感謝しきれないのだ。
響子はすべての思いを飲み下して、瞬に微笑んだ。
「三鷹さん、本当にありがとうございました。私、どうお礼を言っていいか……」
「いいんですよ、そんな。それより、今日はもう休んだらいかがですか? 詳しい話は明日に
でもゆっくり落ち着いてからでもいいでしょう」
「はい、そうですね」
響子がそう言ってゆっくり立ち上がると、瞬は一緒に立った。
「お休みでしたら、別に部屋を用意しておきます。そうだ、それまでシャワーでも浴びたら
いかがです?」
「そうですね……」
「ユニットバスじゃない、ちゃんとした湯船もありますから、湯に浸かるのもいいでしょう。
湯を張るのに少し時間がかかりますけど」
「いいえ、それには及びません。シャワーをいただきます」
「そうですか、では……」
瞬は先に立って先導し、彼女を浴室へ案内した。
「……」
部屋に戻った瞬はふうっと大きく息をついてソファに沈み込んだ。
何とかここまではうまくいった。
あとは親父に千木良と話をつけさせればよい。
響子をどう家族に返すかが問題だが、それは瞬が考えてもしようがない。
響子自身が、そして裕作が答えを出さねばならないのだ。
ここまでの冒険行の疲労と、もやもやした気持ちを静めるため、瞬はテーブルの上の洋酒を手に
した。
グラスを持ち出すとスコッチを注ぎ、ストレートのまま一気に煽った。
バーで飲んだ分もあり、急に酔いが回った気がした。
さらに何度かグラスを傾け、太い息を吐いた。
「……」
まだ胸に響子の顔の感触が残っている。
抱きしめた腕は、彼女のなめらかな背中のラインを憶えていた。
そして響子の、人妻の残り香が彼の鼻腔をくすぐっている。
思い返せば、こんな風に響子を抱いたのは初めてだった。
お互いに独身だった頃、瞬の方から響子を抱きしめたことは何度かあった。
彼はそれなりに強引だったから、ここぞと思った時は強行した。
しかし、抱きしめられた響子は身を固くしていただけだった。
決してそこから先を許そうとはしなかった。
死んだ前夫への貞操か、それとも、その頃から既に裕作への思いがあったのだろうか。
いずれにせよ、瞬がそこまで迫ってうまくいかなかったのは、響子ただひとりである。
それが今日は、響子の方から瞬の胸に飛び込んできたのだ。
脱出行の緊張や、それまでの苦難から逃れた解放感も手伝って、彼女の感情も高ぶっていたから
だろう。
純粋に感謝の意味と、嬉しかった感情の発露以外の意味はあるまい。
だが、瞬にとっては大きな出来事だ。
過去、響子を無理に抱きしめた時の苦い思いが一気に噴き出してきたのを非難は出来まい。
(いかん……)
酔ってきた脳に邪心が浸透してくる。
瞬はそれを振り払おうと、軽く頭を振った。
それでも思いが残る。
響子に対する「ある思い」が振り切れない。
もちろん瞬は、いわゆる「ええ格好しい」だから、響子に対する想いなどおくびにも出さず、
笑顔で彼女を一刻館へ送り届けるつもりでいた。
なのに、さきほどの抱擁が彼の心を揺さぶり続ける。
もやもやが取れないままでいると、ドアがノックされた。
瞬の返事が遅れると、響子が先に入ってきた。
「三鷹さん」
「……」
「シャワー、ありがとうございました。おかげさまでサッパリしました」
洗い髪の響子がにっこりと笑った。
響子としては、こんなに屈託ない笑顔を浮かべたのはひさしぶりなのだが、その表情すら瞬には
扇情的に見えてしまった。
瞬は無意識のうちにふらふらと立ち上がっていた。
「あの、私、休ませていただきますので、お部屋に……」
「響子さん!」
「あっ!」
立った瞬の目の前に響子が来て、その髪や身体から石鹸やシャンプーの清潔な香りが漂って
くると、もう抑えが利かなかった。
思わず彼女を抱きしめていた。
「な、なにを……」
「響子さん、僕は……」
瞬の呼吸が荒くなっているのを知り、響子は覚った。
「だ、だめ、三鷹さん」
「響子さん!」
「だめ、あむっ……」
思い留まらせようと響子の唇が動くと、瞬はそれを口で覆った。
「んん……んむっ……んっ……んちゅ……」
瞬は無我夢中だった。思えば、過去にも響子の唇を奪おうとしたことはあった。
ホテルへ誘ったこともあった。
据え膳状態だったのだ。
それでも彼は響子の意志を尊重し、無理矢理行為には及ばなかった。
「暴力的」という言葉は彼にはなかった。
酔った彼の頭脳は「それが失敗だったのだ」と言っている。
男女間には、時には強引さが必要だ、と。
女の「いやよいやよ」は好きのうちだ、と。
響子は必死になって咥内は許さなかった。
入り込もうとする瞬の舌を、歯を閉じて頑強に抵抗した。
瞬はようやく口を離した。
「ぷあっ……み、三鷹さん、何を……」
「響子さん」
瞬は、ここまでやってしまい、逆に度胸が据わった。
もうここまでの行為だけで、それまでの瞬のイメージは地に落ちているはずだ。
毒を喰らわば皿まで、である。
「僕はあなたを助けた」
「……」
「ヤクザのいる中へ入り込み、身の危険もありました。こんなことは言いたくありませんが、
お金も使っています」
「……」
「そのお礼くらいいただいても罰は当たらないと思いますが」
「ま、まさか三鷹さん……本気で……」
響子はわなわなと震えていた。
瞬はこういう男ではなかったはずである。
瞬の方も、自分が今、どれだけひどいことを言っているのかわかっている。
ヤクザの魔手から救出したのはいいとして、その代償として人妻である響子の肉体を求めるな
ど、許されないことだ。
それではヤクザと大差ないではないか。
何て厭な男だろうと自分でも思う。
もちろん理性もないではない。
こんなことをすれば、それまでの響子との良好な関係は一気に崩壊する。
男女の関係に持ち込むことは出来なかったが、それ以外の面でも、響子は気持ちのいい友人で
はなかったのか。
それが過去の思い出とともに喪失することは確実なのだ。
しかし、目の前に美しい人妻がいて据え膳の状態であり、しかも彼女にはひとかたならぬ貸し
が出来た。
おまけに、過去、彼女に対して恋慕していたとなれば、瞬でなくともおかしな気分になるのは
止むを得ないだろう。
「本気です。もう僕は我慢が出来ない」
「だから……」
響子はがくりと肩を落として言った。
聞き取れないほどに小さな声だった。
「だから私に身体を許せ、というのですね……」
「……」
「わかり……ました……」
ここで抵抗して瞬の機嫌を損ねてはならない、などと思ったわけではない。
今までもそうだったように、ここで響子がきっぱりと拒絶すれば瞬も諦めたかも知れない。
だが、やはり助けてもらったという事実は重い。
一方ならぬ苦労もあったろう。
それを無碍にしていいのか、という思いがあった。
とはいえ、だからと言って人妻の身体を求めるというのは理屈に合わない。
瞬の方が間違っている。
しかし響子には他にどうしようもなかった。
それに、もうこの身体は何人もの男たちによって穢されている。
ここに瞬がひとり加わったところでどうということはないのだ、と思うようにした。
どうせ一刻館には帰れないのだ。
どうでもいい、とすら思ってきた。
着ていた服を脱ぎ、下着もとらされ、ベッドに横になった。
瞬の顔が見られず、横向きに寝た。
瞬は人妻の豊潤な肢体を見ながらガウンを脱ぎ捨てた。
もう男根は勃起している。
「ああっ」
響子はうつぶせにされた。
いやなのか、それとも見られているのがわかるのか、響子の臀部がいやいやするようにうねっ
た。
瞬の手が尻たぶに触れるとビクッとして、少し振り向いて説得しようとした。
言わずにはいられなかった。
「ああ、三鷹さん……こんなこと、やめましょう……」
「……」
「私は……私は五代の妻です……三鷹さんだって奥さまやお子さんが……」
「それは今、関係ありません」
瞬は出来るだけ冷たく言った。
妻のことを言われたのが、妙に腹が立った。
「言ったでしょう。僕はお礼をもらいたいだけだ。それがあなたの身体だというだけのこと
です」
「そんな……」
「あなただって「わかった」と言ったでしょう。それに、もう五代くん以外の男にも大勢抱か
れているんでしょう?」
「ひどい……」
瞬はひどい自己嫌悪に陥った。
響子にかけるには、あまりに酷い言葉だったからである。
そんなことを言えるとは自分でも思っていなかった。
しかし、ここまで来てはもう引っ込みはつかない。
やるしかないのだ。
尻を撫で回していた瞬は、尻たぶを掴むとグッと割り拡げた。
「あっ、いやあ!」
尻を割られて、底を見られる羞恥と屈辱に人妻が泣く。
とうとう三鷹に犯される。
憎からず思っていた相手だけに、響子の悲しみは深かった。
だが、その様子すら瞬には劣情の増進にしかならなかった。
想像でも幾度も抱いた響子の美しい肉体が、今、手の届くところにある。
どうやって愛撫してやろう、どう感じさせてやろうと思っていたものが消え去り、経験のない
若者のように、その裸身にむしゃぶりついた。
割った臀部の中心に、肉棒をあてがう。
その感触に、響子は震えた。
「ああっ、そこはぁっ!!」
「お尻ですよ。響子さん、経験済みでしょう? ショーの時だって、あんな太いのを……」
「やめて、言わないで! ああっ」
グッとアヌスを割ろうとしているペニスから逃れようと、響子は必死に身を揺さぶった。
「そこは……そこだけはやめてください、三鷹さん……ああ……ま、前なら……前ならいい
ですから……」
「ほう、オマンコならいいんですか」
「……」
響子には、淫らな言葉が瞬の口からまろびでることが信じられない。
どうかしてしまったのだろうか。
確かに瞬はおかしくなっていた。
その、おかしくなった原因が響子自身の見事な肢体にあることを彼女は知らなかった。
「でも、僕はここをやりますよ」
「だめっ……ああ、そこは本当にだめなんです……」
そんな、性器でもない排泄器官でのセックスなどおぞましすぎる。
だが、おぞましいのに、そこを犯されると、突き抜けそうな愉悦を得て快感に狂ってしまう自分
がいる。
だから響子はアナルセックスが嫌いだったのだ。
瞬は響子の肌触りを愉しみながら言った。
「だめですよ、僕はここを犯したいんです。五代くんも、ここはしてないんでしょう?」
「ああ、それは……」
貞淑な人妻が、夫にさえ許していなかった行為をさせる。
これ以上、男を昂奮させることはあるまい。
それに、響子の夫である裕作は、瞬のライバルだった男だ。
容貌でも能力でも、瞬の方が遥かに優れていた。
なのに瞬はこの恋敵に敗れたのだ。
その男でさえ触れたこともない場所を犯す。
瞬はその魅力に取り憑かれていた。
「入れますよ」
「あっ、あああああっっ……」
まだ何の愛撫も施していない肛門に、瞬の太いものがめり込んでいく。
さすがにきついのか、瞬は唾液を指にとって自分の肉棒と響子のアヌスに塗り込みながら押し
込んだ。
もともと柔軟性に富んでいるのか、響子の尻穴はきつそうに歪みながらも、ずぶずぶと肉棒を
受け入れていく。
痛いのか、それとも太くてつらいのか、響子が呻く。
「んんんん……や……ぬ、抜いて……きつい……」
「そのきついのがいいんでしょう。全部入れますよ」
「い、いや……んぐうう〜〜っ……お、おっきい……大きすぎます……か、かはっ……きつい
っ……」
まるで肛門愛撫をしなかったから、いきなりは無理かとも思っていたが、響子のそこは驚くほど
の柔らかさと収縮性を持って、瞬の男根を迎え入れていた。
押し込むとグッと押し返してくるような抵抗感はあるが、それもまた心地よい。
響子が、入れられまいと息んでいるのだろう。
そこを無理に挿入することで、彼は征服感を味わっていた。
何しろ瞬自体、アナルセックスの経験はないのだ。
初めてなのである。
こんなことは妻相手にできるわけもなく、風俗にも行かない彼が未経験なのは当然だ。
あの時、舞台で百瀬が響子の肛門を犯すところをつぶさに観察し、それを真似ただけなのだ。
しかし、思ったよりうまくいった。
響子が経験済みだということも大きかったろう。
「ぐうっ、んっ、はううっ、あ、は、入って……入ってきます……んうっ」
慣れているとはいえ、瞬の大きなものを飲み込むのはやはり苦しいらしい。
響子は苦悶の表情を浮かべて呻いた。
「お、お尻が……お尻が、ああ、さ、裂けてしまう……お、大きくて、もう……」
「大丈夫でしょう。あの時だって響子さんは、あの男のあんな大きなものをお尻に入れていた
じゃありませんか」
「い、いや、言わないで……くうう……こ、こんな……ああ……」
ぬぷん、と、瞬の肉棒がとうとう根元まで埋没した。
瞬の腰がぴったりと響子の尻に密着する。
根元をきゅうきゅうと締めつけてくる括約筋の収縮が気持ちいい。
たまらずに瞬は腰を揺すり始めた。
ぐっ、ぐっと直腸にペニスが入り込み、その先端が腸壁を擦り上げて響子は悲鳴をあげた。
「ああ、それっ……あっ、あああ……う、動かないで! ひぃっ……」
太いものを埋め込まれて苦しいのか、響子はあうあうと口を開けて大きく息をした。
それでも、何度となく腸の奥深くまで貫いていると、だんだんと変化が出てきた。
まず響子の口から苦鳴が出なくなった。
熱い吐息と、ともすればこぼれ出そうな喘ぎを噛み殺す息みだけだ。
そして男根の滑りもよくなった。
まだアヌス周辺はきつきつだが、腸の内部は火がつきそうなほどに熱く、ぬらついてきていた。
腸壁が亀頭部にまとわりつき始めている。
「ああ、あう……お尻……きつい……めくれちゃうぅぅ……」
狭い肛門を、熱くて硬い男根が出入りする感覚がたまらなかった。
ずりずりと抜き差しが繰り返され、サオの部分でアヌスの襞が思い切り擦られる。
男の性器によってもたらされるその摩擦感が響子を淫靡の渦に引き込んでいく。
「あ、あはっ……だめ、あうう……お、おおきい……あ、あむむ……太いっ……」
ピストンの速度が速まると、響子のアヌスと瞬のペニスが擦れ合う音がにちゅにちゅと淫らに
響いた。
響子の腸液とともに、瞬の方もカウパーを出しているのだろう。
ぬるぬるした男女の淫液で、結合部はねっとりと糸を引いていた。
粘っこい水音に痺れてきたのか、響子は尻を振って喘ぎだした。
「あああ……お尻が……ひううっ……ぐううっ、あ、あ、ああっ……」
響子の反応がよくなってきたのを確認し、瞬はいったん律動をやめて彼女の細腰を掴んだ。
そしてグイッと引き上げて自らの腰に押しつける。
響子は腕も立たず、顔とバストで上半身を支えていた。
腰だけ男に突き出す、恥ずかしいポーズである。
そうしてから瞬は、人妻の尻を掴むと、尻たぶがなくなるまで大きく開いた。
その上で、腰を左右に揺すって、ペニスを出来るだけ奥までねじ込んだのだ。
まだ誰も到達していない、響子のいちばん深いところまで入りたかった。
「だめえ、三鷹さん……ああ、そんな奥まで……ふ、深すぎますっ……」
口では否定しながら、響子の肛門は瞬の肉棒を最奥まで受け入れ、なおかつ感じている。
あれほどきつそうだった肛門はビクビクと痙攣し、太いものを無理なく飲み込んでいた。
響子の腰も腿も腹筋も、わなわなと細かく震えていた。
感じているのだ。
瞬がピストンするたびに、人妻の口からは燃えるような熱い吐息と、禁断のよがり声すら洩れ
始めた。
「ああ、いい……」
瞬は聞き逃さなかった。
「いいんですね、響子さん」
「あ……」
「言って下さい、ほらっ」
「ああっ」
瞬はそう言って、一層激しく腰を使った。
男の激しい突き込みに、響子ははっきりと答えた。
「ああ、いいですっ……くっ、き、気持ち、いいっ……ああ……」
「五代くんにもやられたことのないアヌスを僕に犯されて気持ちいいんですね?」
「いやっ……しゅ、主人のことは、ああ、言わないで……いいっ……」
「言うんですよ、ほら」
「いいっ……お、お尻、いいです……あ、そこ……あああっ……気持ちいいっ……」
「その調子ですよ。どんどんよがってください。いってもいいですよ」
「いやあっ……あ、すごっ……お、お尻の奥まで、ああ、来てるっ……」
腸液の分泌がますます多くなったのか、ペニスはさらにスムーズに動く。
それでいて、肉棒を締めつける肛門の収縮性は落ちていない。
直腸までがきゅうきゅうとサオを締めてくる。
ペニスに粘り着いてくる腸粘膜を引き剥がすように、瞬は激しく律動を繰り返した。
恐ろしいほどの摩擦のリピートに、響子はアヌスも心も灼き切れそうだった。
「はあっ、ああっ、あひっ、あ、もうっ……はああっ、お尻! お尻、熱いっ……んああっ、
いいっ……」
「そろそろいきそうなんじゃありませんか」
「い、いきそうっ」
瞬の淫らな問いかけに逆らうことなく響子はうなずいた。
「い、いってしまいますっ……」
「わかりますよ、ふふ。響子さんの腸の中が痙攣してきましたからね。それにしても響子さん
はお尻の中まで素晴らしい」
「い、いやらしいこと言わないでぇ……ああっ……く、来るっ、来ちゃうっ……」
お尻を犯されて痴態を見せつける人妻の美貌と、男根を刺激するアヌスの締めつけに、瞬も
辛抱できなくなっていた。
響子とともに自分をも追い詰めるような勢いで、激しく大きなストロークを開始した。
急に力強くなった律動に、響子も狂ったような反応する。
「あっ、ああっ、ああっ、あっ、激しっ……つ、強すぎますっ……ひっ……だ、だめ、いく…
…いっちゃううっ……」
「いってください、僕も出します」
「いっ、いくっ……いっくうっっ!」
「くっ」
響子の腸内を縦横無尽に引っかき回していた瞬の男根も、最後の収縮に耐えきれず、たっぷり
たまっていた精液を噴き出した。
どびゅびゅっ。
びゅるんっ。
びゅくびゅくっ。
「ひぃ! で、出てるっ……み、三鷹さんのが出てるっ……ああっ、ま、また、いく!!」
腸の奥に、たっぷりと濃い精液を注がれ、響子は全身をぶるるっと震わせて激しく絶頂に達した。
瞬の方も大きなオルガスムスを感じていた。
年甲斐もなく、出し終わったあとも響子の尻に取りつき、腰を振り続けている。
夢にまで見た響子とのセックス。
しかも、夫にさえ許さなかったアヌスを犯し、その奥深くに射精したのだ。
射精の瞬間、足の裏が痺れるほどの快感だった。
一連の痙攣が終わり、ガクリと響子から力が抜けると、そこで瞬もペニスを抜いた。
ぬぷりと粘ったいやらしい音がした。
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