安治はかえでを後部座席に乗せ、自家用の蒸気自動車で帰宅した。
この時代、個人で自家用車を持っているのは資産家くらいのものである。
そもそも運転免許ですら特殊技能だったのだ。

銀座の大帝国劇場から二時間かけて、ようやく多摩丘陵にある自宅に到着する。
五〇〇坪はありそうな広大な敷地の中に、ぽつんとバンガロー風の家が一軒だけ建っている。
その周囲に倉庫か蔵のような建物が三つほどあり、あとは空き地に等しかった。

安治の父は子爵の爵位を持つ華族である。
とはいっても新興であり、明治以来から続く貴族たちからは軽く見られていたようである。
その父が亡くなって五年になる。
母は安治が中等学校時代に病を得て亡くなっていた。
その父からの遺産がかなりの額になる。
生家も大きな屋敷であったが、いかにも広すぎてひとりではとても暮らせない。
カネはあるのだから、掃除や身の回りの世話に執事や家政婦を雇えばいいのだが、孤独癖の強い安治にとっては鬱陶しかった。
結局彼は、生家を土地ごと売り払ってしまった。

このカネに加え、別荘地以外の数々の動産不動産および株などもすべて売却した。
おかげで、安治がこのまま三度ほど人生をやり直させるほどの資産を得たのだった。
今、彼が住んでいるのは親が別荘で使っていた建物だ。
人混みの嫌いな安治は、目黒にあった実家には寄りつかず、多摩の別荘で暮らしていたのである。
周囲に人家はほとんどなく、夜になるとまったく人の気配はなくなった。
夕方から朝にかけては、狐や狸、鼬どもが我が物顔に動き回る環境である。
安治はその静けさが気に入っていたのだった。

安治はそのバンガローの前で無造作にクルマを駐めた。
中からかえでを引き摺り出し、部屋の中に連れ込むと、ようやくホッと一息ついた。
まだ珍しい電灯照らすと、乱雑な室内がくっきりと浮き上がった。
安治が居座っているのはもっとも大きな──畳で言えば二十畳くらいはありそうな洋室だった。
板張り──いわゆるフローリングだ──で、その上に、これもまだ珍しい八畳ほどの絨毯が敷いてあり、あとはところどころ厚めの座布団が置いてある。
部屋の真ん中からやや東よりの位置に大きめのベッドが据えてあった。
安治が洋風趣味というよりも、万年床で済むという理由からのようだ。

部屋の壁際は、いくつもの本棚や戸棚で埋め尽くされ、ほとんど壁面が見えない状態である。
そこには各種の工具や材料、模型や本などの資料類がみっしりと詰まっている。
大きな机が三つあって、その上はいずれも書類や図面、メモ用紙等紙切れ類、ペンなどの筆記用具、小刀、ハサミなどが乱雑に散らかっている。
うちひとつは、試験管やビーカー、フラスコなどの実験用の備品だらけだった。

かえでは広々としたベッドの上に寝かされた。
手を出す前に、安治は帝撃へ電話を入れた。
明日は欠勤したいという連絡だ。
今日明日くらいは、存分にかえでの身体を味わいたいと思ったのだ。
誰か残っているか不安だったが、風組の椿が出てくれた。
事務的に欠勤のことを伝えただけだが、特に訝しむ様子はなかった。
まだかえで失踪の件は明るみに出ていないらしい。

「……」

その意識のない美貌を見て、安治は今さらながら自分のしでかしたことにおののいた。
よくもまあ、こんな美人で気の強そうな女を拐かすなんて大それたことをやったものだ。
長く憧れていた女の意外な一面──淫らで男をたぶらかす──を見て、崇拝していた女神が実は穢れた女にだったことがショックだったのはある。
しかし、それまでの自分の性格を考えれば、とてもこんなことが出来るとは思っていなかった。
その時の勢いと、かわいさ余って憎さ百倍という感情、そして抱いた劣情が混じり合い、この冷静──というより陰気な男を駆り立てたらしかった。

眠りこける美女を見て、安治はごくりを喉を動かした。
震える手でそっとスカートを捲り上げる。
肌色に近い色だったので気づかなかったが、脚にはガーターストッキングを履いていた。
ストッキング部と素足の境目が異様なほどのエロティックだ。
スカートの下に息づいていた白くむっちりとした肉感の太腿が白日の下に晒されている。
そして、パンティの薄い生地の包まれた股間の膨らみが酷く扇情的で、安治の「男」を刺激して止まない。
いつも見とれていたふくらはぎは引き締まり、ふっくらと肉付いているのに太腿には余分な贅肉がついているようには見えない。
確か今年で25歳になるはずで、女体としても熟れてきているのだろう。
女性特有の柔らかい脂肪で覆われ、見る者を魅了する。

芸術品としか言いようのない脚線美に見とれていた安治だったが、ハッと思いついたように巻き尺を取り出した。
今のうちにかえでのサイズを測っておきたかったのだ。
かえでを起こさぬよう慎重に計測した結果、身長は161センチで安治よりも3センチほど低い。
抱くにはちょうどいい案配だろう。
そして、バストは84、ウェスト58、グッと張り出したように見えるヒップは83だった。
バランスの取れた素晴らしい肉体である。

ここで安治は、思い出したようにロープを取り出し、かえでの身体を縛り始めた。
この見事な女体の緊縛図を見たいという欲求ももちろんあったが、それ以上に、意識のないうちに自由を奪っておかないと安治の身の安全が図れないからだ。
起きないよう気を遣いながら、詰め襟を外し、ひとつずつ軍服のボタンを外していく。
硬く厚い生地の上着に対し、下のシャツ──ブラウスというのか?──は薄く、頼りない素材だった。
それでいてすべすべした手触りで、もしかすると絹なのかも知れない。

白いブラウスのボタンも全部外し、前を全開にすると、その下はブラジャーだけだ。
最近流行り始めた西洋の女性下着である。
帝撃ではすみれが着け始め、次第に花組へ広がっていったようだ。
噂を聞いた風組も着用しているようだし(もっとも、流行に敏感な由里はそれ以前から着けていたようである)、かえでも着け始めた矢先だった。
和装の着物の場合はともかく、洋装の時には便利で扱いやすい下着だ。
無論、安治あたりは直に見たのは初めてである。
安治は、思わずブラのカップの下に手を潜り込ませ、その柔らかい感触を愉しんだ。

(なんて良い触り心地なんだ……!)

実際、驚くほどの柔らかさと滑らかさを持った肌だった。
年齢相応に盛り上がった乳房の感触も素晴らしい。
指で触れると、乳首も少し硬くなっているようだ。
安治は軽く顔を振って続きを始める。
こんなもの、あとでいくらでも触れるのだ。
今は早くこの女の自由を奪うことが先決だった。

安治はハサミを取り出し、ブラのストラップをちょきんと切り離す。
そして左右のカップのつなぎ目にもハサミを入れ、ブラを剥ぎ取った。
すると、窮屈な生地の中に収まっていた白い肉塊が、ぶるんっと音をさせるようにまろび出た。
眩しいほどの光景だった。
想像以上のサイズだ。
あのいかにも堅そうで窮屈であろう軍服の下に、これだけ見事な乳房が隠れていたとは思わなかった。
そう言えば、脱がせてみると思ったより華奢に見える。
着痩せするタイプなのかも知れない。

丸く、形良く張っている膨らみは真っ白で、まだ男の手に馴染んでいないようにも見える。
大神と関係があったとしても、まだ浅いものと思われた。
しゃぶりつき、揉みしだきたい欲望に捉われつつも、安治は先を急ぐ。
スカートのホックを外すと、思い切り下へ引き下ろす。
するっとスカートが滑り落ちると、そこには見事なほどの脚線美が浮かび上がった。
安治は躊躇うことなくパンティの縁にハサミの刃先を突っ込み、呆気なく切断する。
そのままむしり取るように最後の布きれを剥ぎ取って、とうとう全裸になった哀れな女体をまじまじと見つめた。
視線はどうしても股間へ行ってしまう。
美女とはこんなところまで美しいのか。
安治は妙に感心した。
かえでのそこの毛は、実に綺麗で柔らかそうだったのだ。
あまり縮れてもおらず、しなやかに波打つように流れていた。
肌が白いだけに、そこだけ翳っているのが異様なほどの色気を醸し出している。

全体を見渡しても、頭が小さめで均等の取れた裸体だった。肩口も思ったよりなだらかで、ふくよかに膨らんだ胸に対比するように腰がきゅっと括れている。
そこから急角度で大きく広がり、見事な尻肉が発達した腰骨を覆っていた。
腿にもたっぷりと脂が乗っているものの、決して太すぎる印象がない。
脚が長いからだろう。
膝の部分と足首も細すぎるくらいに引き締まり、太腿とふくらはぎの女らしい肉づきを演出していた。
ひっくり返して臀部も観察したいと思ったが、まずは縛り上げることにした。

安治は計画を立てるに当たって、性関連の書籍を読み漁っている。
いかがわしい春画や低俗な読み本、高尚そうに謳っていながら実は下劣な指南書の類はもちろん、医学系の性知識や西洋からの輸入ものの性技本、官能小説まで読みふけった。
その中にはSM関係の本も多数あり、女の効果的な虐め方や責め口も興味深く参照した。
女を縛る緊縛術の教本もあり、安治も熱心に勉強したものの、知識だけで実践はゼロなのであまり自信はなかった。
海老縛りだの亀甲縛りだのといった複雑そうで女体にもダメージを与えそうなものはとても出来ない。
結局、覚えたのは、後ろ手にさせた腕の手首を縛って固定し、乳房を挟み込むように胸の上下に胸縄を巻く高手小手であるとか、女を立たせて片足の膝に縄を巻いて吊り上げる等、基本的なものだけだった。
しかし、それらだけはもう教本を見なくとも縛れるまでにはなっていた。
いざ本物の女体──しかも相手は藤枝かえでだ──を前にして些か緊張はしたものの、手の方が技を覚えていた。

安治はかえでの上半身をそっと起こすと、その裸身にてきぱきと縄を掛けていった。
まさに「案ずるより産むが易し」だ。
かえでの柔らかい肌に食い込む縄が、男の興奮を誘っていく。
上下を厳しく締め上げられた乳房も、挑発するようにグッと括り出ていた。
これだけで抱きたいと思ったものの、下半身はまだ拘束されていない。
かえでであれば、安治あたりなど脚蹴りだけでKOしてしまうだろう。
仕方なく安治は、後ろ手の縄の結び目に新たな縄を掛け、それを伸ばして天井から降りている滑車に引っかけた。
無論、仕事に使っているものだが、いつの日かこうしたことにも使いたいと思っていたのも事実だった。

縄を引いてググッと吊り上げると、さすがに肩や手首に負担がかかるらしく、かえでは表情を顰めながら呻き声を上げた。
そろそろ目を覚ましそうだ。
安治は急いでかえでの左足を持ち上げ、その膝に縄を巻いて吊り上げる。
右足一本のまま不安定な姿勢で立たされ、かえでは頭をぐらぐらさせていた。

「う……ううん……」

かえでは、急速に頭がはっきりしてきた。
視界が明るく、頭の中にもやっていた黒い霧まで晴れてきた。が、ちっとも快適でない。
肩が抜けそうに痛むし、手首も締めつけられている。
強く縄目が食い込んでいて、このままでは赤く跡が残りそうだ。
それに股間が痛い。
無理に拡げられている気がする。

「え……」

かえではハッと目覚めた。
きょろきょろ辺りを見回しても、見慣れた光景ではない。
帝撃内ではない。
陸軍省でもなかった。
広いだけの薄汚れた部屋。
見覚えはなかった。

「あっ……」

それより何より驚いたのは、自分が全裸だったことだ。
おまけに縛られて拘束されている。
肩や手首が痛いはずだ。
脚も吊り上げられていて、股間が無理な姿勢に拡げられていた。

思い出した。
あの時、陸軍省からの帰りが遅くなってしまった。
帝撃を出たのが遅かったのはあるが、さっさと用事を済ませて帰ろうと思っていたのだ。
しかし、間が良いのか悪いのか、米田の盟友である吉積少将とばったり廊下で出合ってしまい、ここぞとばかりに部屋へ引き込まれたのである。
吉積は位の高きを誇らず、誰にでも低姿勢な上、温厚なこともあって、立場上も人間的にもかえでには誘いを断りにくい相手だ。
いつもであれば、むしろ喜んでお茶のご相伴に与り、話し相手をしている。
だから、今日だけ断るというのも何となく気が引けて、請われるままに部屋へ赴くことになったのだった。
帝撃を邪険にするどころか、むしろ敵対視する者も多い陸軍省の中で、吉積の部署だけはかえでにとってオアシスだったということもある。
話題も豊富で話術も巧みな将官の会話に引き込まれ、かえでもついつい長居してしまったのだった。

遅くまで引き留めたということで、吉積の当番兵が蒸気自動車で送ってくれたものの、それでも帰宅は午後9時過ぎになっていた。
米田は、花組の若い娘たちはともかく、かえでやかすみに門限などという野暮なものは設けていなかったから叱られるようなことはあるまいが、かえであたりが夜遅くまで帰って来ないというのも示しが付かない。
少々後ろめたい気持ちでこっそり帰ったところ、裏口の前で首を絞められたのだ。
そこから先の記憶はない。
そして今、見知らぬ建物の中で素っ裸にされ、縄で縛られている。

誘拐された。
まさか自分がそんな目に遭うとは思いもしなかったから、かえでのショックは大きかった。
だが、一体何のために?
曲がりなりにも、かえでは現役の帝国陸軍中尉である。
しかもあの時、軍服を着ていた。
そのかえでを攫う目的は何だろうか。
少なくとも陸軍内部の反帝撃派ではあるまい。
降魔がこんなことをするとも思えない。
そう考えると残った可能性はいくつもなかった。

若い女を誘拐し、その女を裸に剥いている。
犯人が男であれば、不埒な目的は明らかだった。
かえでの気持ちが真っ暗になった時、その後ろから声が掛かった。

「……お目覚めですね、かえでさん」

やはり男の声だ。
凌辱目的としか思えなかった。
かえでは身体を堅くさせた。
縛られていては隠そうにも隠せないが、野卑な男の自由になる気はない。

「誰っ……! 誰なの!?」
「僕です」

男はそう言ってかえでの前に回り込んだ。

「あっ……」

その顔に見覚えがある。
知人も何も、毎日のように見ている顔だ。

「み、溝口……さん!?」
「はい」

小道具係の、あまり目立たない男だった。
帝撃の人間だから、廊下ですれ違ったり食堂で顔を合わせればかえでも挨拶くらいはしていた。
だが基本的にはその程度で、会話した記憶はほとんどなかった。
「人嫌い」で通っていたし、実際、この男と他の誰かが話をしているのは見たことがなかったのだ。

その溝口がいったいどうして?
なぜかえでを攫い、こんなことをしているのだ。
まさかこの男が自分に対し、そんな淫らな思いを抱いているというのだろうか。
自分を見つめる安治の目を見て、かえではゾッとする。
爬虫類を思わせるような、感情の籠もらぬ瞳だ。
何を考えているのかわからない。

「意外そうですね」
「あ、当たり前よ! 何であなたが、こんな……」
「なぜも何もない。こうするしかなかったから、としか言いようがないな」
「こうするしかない……?」
「そう。僕はあなたが好きだった。ご存じでしたか?」
「え……」

安治の思いなど、かえでが知るわけがない。
そもそも、あまり接触する機会がなかったのだ。
姉よりも社交的なかえでとしては珍しい。
挨拶はするし、何かあれば話はしたが、それくらいである。
帝撃内でかえでがその程度のつき合いしかないというのは、恐らくこの男だけだ。
何しろ新年会、忘年会や花見、暑気払いといったつき合いにはまったく出席しないのだ。
あまり人と接したくない人間というのがいるらしいことは知っていた。
きっと安治もそれなのだろうと思っていたから、あまり関わらずにいたのである。

だが、そう言われてみれば思い当たるフシもあった。
廊下ですれ違った時、挨拶を交わした時、あるいは何かの用事で彼に話しかけた時。
妙に粘り着くような目線で見られたり、歩いていておかしな気配を感じて振り返ると、陰からこの男がじっと見ているようなことはあったのだ。
かえでは、自分の美貌をある程度自覚している。軍人であるにも関わらず、男性に言い寄られたりちやほやされることは珍しくなかったから、美人かどうかはさておいて男性を惹きつける何かはあるらしいと理解していた。
だから少々変な目で見られても、あまり気にはしなかったのだ。
いつものことだと割り切っていたわけだ。
男性であれば、当然女性に対して性的な魅力を感じることもあるだろう。
かえではそう割り切っていたから、いやらしい目つきで見られることがあっても、あまり気とは留めなかった。
その辺は、まだ若いさくらやすみれとは一線を画している。
しかしまさか、あの溝口がここまで大それたことをやってのけるとは思いもしなかった。
安治は続ける。

「でも、僕はご覧の通りの人間だ。見てくれも性格も、とても女性に受け入れられるとは思わない」
「そんなことは……」
「そのくせ僕はプライドが高くてね。自分のことは棚に上げて面食いなんです。女なら誰でもいいってわけじゃない」
「……」
「だから結婚したいなんて全然思わなかった。でも、あやめ……いや、あなたを見て気が変わった。この人だ。この人こそ僕の嫁にふさわしいってね」
「何ですって?」

かえでは唖然とした。
この男は何を言い出すのだ。
その驚いた顔を見て、安治は納得したように笑った。

「わかってますよ。僕なんか、とてもあなたとつり合いが取れない。そう言いたいんでしょう?」
「そ、そうじゃないわ。でも……」
「「でも」なんです? どう言い訳したって、あなたは僕を好いてはくれない」
「まだ私はあなたのことなんか知らないわ。つき合ってもいないのに……」
「ほう。じゃあ、僕とつき合ってみますか?」
「……」
「ほら。それが図星でしょう。口だけだ」

そうではない。
やり方がおかしいのだ。
好意を抱いた相手がいるなら、まず打ち明けて告白するのが手順である。
その結果はわからない。
ウジウジしているだけなら確率はゼロだが、うまく行く可能性だってなくはないのだ。
なのに、こんな手段は間違っている。
これで好かれると考える方がおかしい。
かえではそう言って必死に説得したものの、安治の心には響くものがなかったようだ。

「それに……、かえでさん、あなた大神と「出来てる」んでしょう?」
「……!!」

かえでは虚を突かれたものの、何とか表情だけは平静を保っていた。

「何を言い出すの? 私と大神くんは……」
「ただの上司と部下だと言うんですか?」
「そうよ」
「ほう」

かえでの言葉を聞き、安治の目が細まった。

「上司と部下ならキスしてもいいわけで?」
「な……何を言って……私たちはそんなこと……」
「何を白々しい。してないとは言わせませんよ。こないだの夜、図書室でひしっと抱き合ってたじゃないですか。キスもしていましたね、ちゃんと見ましたから」
「覘いていたの!?」

自分の顔色がさっと青ざめていくのがわかる。
逢い引きする時は、いつも周囲を充分に警戒していた。
あとでもつけられていればわかったはずだ。
だが確かにあの時、待ち合わせの時間に遅れてしまい急いでいたから、あまり気を回さなかった。
そして、入るなり待ちかねていたらしい大神に抱き寄せられ、そのまま接吻していたのだった。
あの時、図書室に安治がいたということだろう。

かえでは唇を震わせ、キッと安治を睨みつけていた。
もう言い逃れることは出来ないが、覗き見されていたことに憤りを覚えている。

「あんな青二才のどこがいいのか僕にはわかりませんね」
「……あなたには関係のないことだわ」
「そうですか。ま、そういうことだから、あなたは僕の嫁になってくれそうにない」
「当たり前でしょう! こんなことする人だったなんて……」
「だから実力行使に出た。このまま指をくわえて待っていたって、あなたは僕に靡かない。なら、こうして少々強引な手で力尽くにものにするしかない」
「……暴力で女が屈すると思っているの? そんなことだからあなたは女性に見向きもされないのよ」
「大きなお世話だ!」

安治は激昂した。
自分でわかっていることでも、他人の口から言われるのは屈辱である。
まして惚れていた女から悪し様に言われれば、その痛みもひとしおだ。
途端に安治は冷たい目でじっとかえでの肢体を眺め回した。
前から後ろから美しい女体を鑑賞している。
まるで「目で犯す」と言わんばかりに、長く引き延ばされた脚や縄で括り出された乳房、熟れた臀部まで舐め回すように見ている。
かえでは寒気がした。

「み、見ないで、穢らわしいっ!」
「大神のやつには触らせてるだろうしキスまでしてるのに、僕は見るのもダメなんですか?」
「あなたと彼を一緒にしないで!」
「……彼か」

その言葉を聞くなり、何だか無性に腹が立ってきた。
もう遠慮などすることはない。
安治の気持ちを受け入れてくれない以上、力尽くでもこっちを向かせるしかないのだ。
安治はかえでの後ろに回り込み、机で何やらごそごそとやっていた。
不安になったかえでが「何をしてるの、さっさと縄を解いて」と叫ぼうとした時、右胸にサッと冷たいものが触れた。

「あっ」

何事かと思ったら、どうも脱脂綿で乳房──というか乳首周辺を拭いているのだ。
すーっとした冷涼感が乳首に染み渡る。
注射前の消毒用アルコールに似た感触……というより、そのものなのかも知れない。

「何を……あっ!」

かえでが戸惑っているうちに、安治は手にした注射器で乳首よりやや下あたりの乳輪に、その注射針を刺し込んでいった。

「痛っ……!」
「大げさだな、そんなに痛くはないはずですよ。おっと動かないで! 暴れたら針が折れますよ」
「!」
「こんな綺麗なおっぱいの中に針が折れ残ったら大変だ。おとなしくしてることです」

安治はそんなことを言いながらシリンダーを押していく。

「あ……」

薬液が注射されると、途端に火傷するかと思うような熱さが乳首を中心に広がってきた。
特に乳首周辺は、そこだけカッと燃えるように熱い。

「な、なに!? 何を注射したの!?」
「別に毒物じゃありません、ご心配なく」
「心配よ! あっ、やめ……痛っ!」

今度は左の乳房がアルコール消毒され、すぐさま注射された。
位置は左胸とほとんど同じく、乳首のすぐ下あたりである。
針を突き立てられてしまえば、ヘタに暴れたら安治の言った通り折れてしまうかも知れない。
そう思ってじっとしていたのに、今度はあろうことか股間が拭かれている。

「や、やめて!!」

そんなところに注射するなんて正気の沙汰とは思えなかった。
しかし安治の方は落ち着いており、もがくかえでの腰を抱えて押さえ込み、丁寧に媚肉を拭った。
さあっとアルコールが蒸発して気化熱が奪われ、そこがひやっとしたなと思う矢先、またしても注射針が襲ってくる。

「きゃああっ!」

かえでらしからぬ悲鳴を上げたが、選りに選って陰部に注射されているのだ。
女性であればやむを得まい。
まだ閉じきっている肉の割れ目の片側に針を打ち込み、ちゅうっと残りの薬液が注射され、針が抜かれる。
一瞬の出来事だった。

「……さあ、終わった。騒ぐほど痛くなかったでしょう?」
「ひどい……。何を考えてるの!?」
「元気が出てきましたね。もう効果が出たのかな?」
「効果? あなた、私に何を……」
「さあね。でも、どうです? 身体が……注射されたところを中心に燃え上がるように熱くなってきてるでしょう?」
「く……」

薬液は確かに毒ではなかった。
アルコールと、ある薬物の混合液だった。
さっきかえでに塗られた脱脂綿に含まれていた消毒用アルコール──つまり純度で言えば99%のアルコールだ。

加えて、混ぜられている薬物というのが問題だった。
安治は、薬局で入手した除倦覚醒剤──ヒロポンを混ぜたのである。
当時、ヒロポンは中毒性があると思われておらず、普通に購入できた。
実際には中毒性の強い覚醒剤であり、神経終末からドーパミンやノルアドレナリン、セロトニンなどを分泌させる興奮剤だった。

そんな強力な薬液を打たれたのだからたまらなかった。
実際に注射されたのは僅かな量である。
しかし、乳首や媚肉など敏感この上ない箇所に皮下注射されたのだから効果覿面で、たちまち火のように熱くなってきた。
安治は、かえでの様子を注意深く窺いながら言った。

「どうですか、だんだんと良い気持ちになってきたでしょう」

熱い血流が、直に脳に響いてくる感じがする。
熱がじんわりと広がり、乳首や媚肉の中にまで波及していく。
胸の奥や膣の中までカッと燃えるように熱くなった。
それでもかえでは、顔を背けながら気丈な言葉を吐く。

「誰がそんな……」
「そうですか。なら、僕が良い気持ちにさせてあげますよ」
「やっ、何を……ああっ、やめて!」

安治はかえでの背中から手を回し、厳しく緊縛された乳房を掬い上げるようにして揉み上げていく。
気の強いかえでがそんな暴虐を許すはずもなく、もう赤く染まりつつあった美貌を左右に振りたくり、拒絶の声と悲鳴を張り上げている。

しかし、いくら抗おうとしたところで、もうかえでに逃げる術はない。
安治は焦らず、顔を背けたかえでの露わになった首筋に唇を這わせた。
強く吸い、舌で舐め上げる。
その嫌悪感に悲鳴を上げ、かえでは顔を激しく振って安治を拒絶した。

それでも男はペースを崩さず、かえでの隙を窺っては乳房を揉み込み、喉元にキスの雨を降らせ、うなじをねっとりと舐める。
いくらもがいても男の手は乳房から一向に離れようとしない。
安治はその手を休ませることなく柔らかく揉み上げ、既に硬くなりつつあった乳首を指先で摘み、コリコリと愛撫を加えていく。

「い、いやっ、穢らわしいっ! やめて! ひっ……き、気持ち悪いっ……ああっ」

必死になって背ける顔の頬にキスしたり、耳たぶを軽く噛んだりしてくる。
安治の愛撫ひとつひとつがおぞましく、かえでは寒気がした。
それでも安治はかえでの肉体に執着し、一瞬たりとも手を緩めなかった。
胸を揉むだけでなく、滑らかな腹部を撫でまわしたり、太腿を撫で、その肉を軽く摘んでゆるやかに揉み上げている。
片足を吊られ、開脚されてしまっているから、やろうと思えば媚肉にも触り放題ではあるが、安治は意識的にそこには触れていない。
腿や鼠蹊部を指でなぞったり、陰毛の上を優しく撫でたりはするものの、肝心な場所には触れなかった。
しかし、たまに割れ目の上を擦ったりすると、かえでは拡げられた脚をビクッと反応させて反射的に身体を痙攣させている。

(こ、こんな……こんなことって……)

悔しいが、自分の肉体が徐々に燃え始めていることをかえでは自覚した。
処女ではない。
今の自分の身体が、意志を裏切ってどれだけあさましい反応をしているのかわかっている。

「ああ、もう……やめて……い、いやよ……」

かえでの唇が小さく開き、はあはあと熱い吐息が漏れ始めた。
男勝りな面のある彼女にしては意外なほどに早い崩れようだが、やはり女の急所に「媚薬」を注射されたことが効いているのだ。
安治は、喘ぎ始めたかえでの唇に欲情し、その口を吸おうと顔を近づける。
男の顔が迫るのを知り、かえでは咄嗟に横を向いた。

「いやっ!」

それほどまでに自分を嫌っているのかと思った安治は、怒りと共にむらむらと新たな劣情が湧き起こった。
それなら逆にやり甲斐がある。
どんなに嫌がっても屈服させ、安治のものになると言わせてやるのだ。

溶けかかっている身体を鞭打ち、かえでは最後の気力を振り絞る。
こんな男の手管に下るなど、自分で自分が許せない。
だが中年男の性技はかなりのもので、見る見るうちに身体が火照っていく。

「きゃっ……!」

かえでがつんざくような悲鳴を放った。
安治の責めが本格的に下半身へ伸びたのだ。
安治はかえでの両脚の付け根をグッと思い切り割り開き、その中心部に顔を埋めた。
もっとも恥ずかしいところへ男の顔が潜り込み、かえでは脅えきったように震えた。

「やああっ! だめ、見ないで! あっ、ひぃぃっ……!!」

男の唇はかえでの中心部に押しつけられ、そこから舌先が膣粘膜内部へと差し込まれていった。
かえでは絶叫した。
舌に犯された瞬間、かえでの全身がぶるるっと大きくわなないた。
暴れるかえでの下半身を押さえ込み、安治は舌で巧みに膣内を舐め回す。
鼻先でクリトリスを刺激し、指で尻たぶを揉み、内腿を撫でまわす。
様々な性関連の本を読み、習得した技法だった。
勉強熱心な安治らしく、憎いほどに女の官能を揺さぶってくる。
そして、とうとう唇が鋭敏な肉芽を捉えるとそこを強く吸った。

「んああっ!」

鋭い悲鳴が上がった。
男は口でクリトリスを吸うだけでなく、舌で膣内を抉り、外周を舐め回してくる。

「いっ、ああっ……いやっ……ひっ……うんっ……うああっ……やっ、やだ……ひぃっ!」

性感の中枢部を嬲られるたび、かえでは痺れるような快美感を受け続け、悲鳴とも喘ぎともつかぬ声を大きく何度も張り上げた。
次第にそこだけでなく、かえでの身体全体から甘ったるい女の匂いが漂ってくる。

「いっ……んんっ……はああっ……くうっ……ああっ……や、やめ、て、ああっ」

ようやく安治が顔を離すと、かえではやっと呼吸の機会を与えられたように激しく息継ぎを繰り返した。
かえでは美麗な眉根を寄せて、切なそうに喘ぎ続けている。
顔は上気し、息は今にも燃え上がりそうなほどに熱かった。
しかし、かえでには休む余裕すらなかった。
男はまたすぐに攻撃を再開したのだ。
今度は指が媚肉の中に差し込まれてきた。
いきなり二本も挿入されたが、かえでのそこはすっかり熱く柔らかく蕩けており、呆気ないほど簡単に安治の指を飲み込んでいた。

「あ、あう……あうんっ……んくっ……ああ……」

かえでは必死に声を噛み殺そうとするものの、僅かに開いた唇の端から艶っぽい声が遠慮なく洩れ出てしまう。
上気し真っ赤になった顔を左右に振り、引き攣ったような喘ぎを放つ。
安治は右手の指でかえでの膣を抉り、左手でたぷたぷと乳房を揉みしだいた。
かえでは上半身、下半身を交互に揺さぶり、悶えさせて、その快感を発散させようとしている。
安治は粘っこいまでに媚肉の粘膜を嬲り、ずぶっと指の根元まで何度も埋め込んだ。
そのたびに割り開かれた内腿がひくひくと痙攣し、膣からびゅっと透明な粘液が飛び出た。

安治は、かえでの中の心地よさに酔っている。
襞が多く、熱い粘膜が責める指に粘り着き、絡みついてくるのだ。
これは、いわゆる「名器」なのではないだろうか。
経験のない彼にはわからなかったが、本で読んだ名器の条件と合致している気がする。
かえでの声が「あっ、あっ」と切羽詰まったものになってくると、指を咥え込んだあそこがきゅーっと引き締まってくるのだ。
これがペニスだったらと思うと、安治の股間は限界まで硬くなっていく。

今にも達しそうになると、安治はすっと責め手を引いた。
それまで情感に任せ、ふわふわとした快楽に浸っていたかえでは、ハッとしたように正気へ戻り、悔しそうに顔を伏せた。

「あ……」

今度の責めはかえでの想像を超えていた。
乳房や股間ではなく、足の指を舐め始めたのだ。
かえではゾッとして叫んだ。

「や、やめて、そんなところっ! き、汚いわ!」
「かえでさんの身体に汚いところなんかありませんよ。それに、汚いなら僕の舌で舐め取ってあげます」
「そんな、いやっ……あうっ」

安治は、吊り上げられた見事な美脚にまとわりつき、愛撫を加える。
腿やふくらはぎを揉み込み、キスをする。
内腿やひざの裏など、敏感でくすぐったいところを責められると、かえでの裸身がびくりと大きく反応した。

「くっ……いや……んんっ……」

かえでは白い首筋を仰け反らせ、小さいながら切なそうな喘ぎ声を上げている。
感じている。
この女は全身が性感帯のようなものだ。
そう確信した安治は、矢継ぎ早に女肉を責める。
足の指の間に舌を突っ込み、くすぐるようにしてやると、かえでは「くっ」と呻いてわななく。
指を咥えて舐め回すと「ああ……」とやるせないような声で喘ぐ。
足首、くるぶしも舌と唇の洗礼を受け、かえでの太腿はひくひくと痙攣を続けていた。
特に感じるところに舌や指が来ると、かえでは背中を反らせて「ああっ」と喜悦の呻き声を洩らした。
高手小手にしているため、腋を責められないのが残念だったが、代わりに、綺麗に伸びて窪んだ背筋に舌を這わせる。

自分でも驚くほどの刺激を受け、かえではゾクリとした。
舌が背を這うたびに「ひっ」と悲鳴を上げ、身を捩る。

安治は口で上半身を責めている間は、両手で乳房を柔らかく揉んだ。
蕩けてしまうかのような柔らかさを示しながら、時に安治の指を弾き返しそうな弾力感もある。
サイズが大きく、見た目が美しいだけでなく、愛撫にもこの上なく適した素晴らしい乳房だった。
無論、感じやすいのは言うまでもなく、かえではさっきから舌足らず声を発して喘いでいる。

「……」

安治はかえでの身体を愛撫しながら、片手で自分のペニスを愛撫していた。
我慢できなかったのだ。
その、打てば響くようなかえでの肉体に、安治の男もすっかり興奮しきっていた。
軽く亀頭を擦るだけで、もう射精してしまいそうなほどに勃起し、先からは粘いカウパーがだらだらと出続けている。

「くっ……」

本当に射精したくなり、安治はいよいよ決行することにした。
快楽に溶け崩れつつあるかえでの美貌を見ながら、安治はゴクリと生唾を飲み込んでから言った。

「か、かえでさん……」
「ああ……」
「いきますよ、いいですね?」
「え……」

身体から一斉に刺激が遠のいた。
かえでは悦楽で霞む目を開き、目の前の安治を見ておののいた。

「やっ……、溝口さん、まさか本当に……」

安治はいつの間にか服を脱ぎ去っており、全裸だったのだ。
そして、その股間には彼の男性器が隆々とそそり立っていた。

「ひっ……」

(な……なにあれ……、お、大き……)

かえでは恐怖で喉が鳴った。
かなりの大きさだと思う。
男関係はケジメをつける方だったから、かえでは年齢の割に男性経験は少ない。
大神を含めた数少ない経験からすると、安治のペニスはけっこう大きかったのだ。
それが、かえでを目の前にして興奮し、びくびくと脈打っていた。

(なんて大きいのかしら……。それに……すごい硬そう……。あ、あんなものを入れられたら、私……)

その先を考えるのが怖かった。
大神の経験が少なかったせいもあって、彼との同衾では我を失うような快楽はなかった。
もちろん、それなりに快感はあったし気持ちも良かった。
大神の前の男も似たようなものだったから、セックスはそんなものだと思っていたのだ。

しかし今は、好きでもないこの男に嬲られ、自分でも信じられないほどに感じさせられ、乱れてしまっている。
あり得ないと思うのだが、このまま犯されたら性的な絶頂にまで押し上げられてしまうかも知れなかった。
それだけは避けたかった。
まだ大神との行為で本気で絶頂したことがないのに、こんな男に凌辱されていかされる。
そんな屈辱は耐えられなかったし、何より大神に対する申し訳なさ、後ろめたさで押し潰されそうになる。
かえでは青ざめた顔で哀願した。

「や……やめて……。溝口さん、それだけは……」
「やめるわけにはいかない。これが目的だったんですから」
「目的って……」
「あなたを僕の嫁にすること。嫁になればセックスするのも当然でしょう」
「そんな……いやよ!」
「もう遅い。やっと夢が叶う。あなたと繋がれる日が来るとは思わなかったですよ」
「やめて!!」

そう叫んだものの、もがく身体に力が入らなかった。

(助けて……! ああ、大神くんっ……!)

安治はかえでの腰を掴むと、開いた股間に割り込んでいく。
そして、熱く硬くなったペニスでそっと媚肉をなぞってやると、かえでのそこはあっという間に花開いてしまった。
かえではその恥ずかしさに、思わず顔を背け唇を噛む。
一方の安治も、そっとかえでの恥部に触れただけなのに、危うくペニスが暴発するところだった。
ここまでかえでの美しい身体を充分に味わい、快楽に呻く美貌を見つめ、艶っぽい声を聞かされていたのだから、それも無理はなかった。
思わず射精してしまいそうになり、安治は慌てて腰を引いた。
そして一度深呼吸してから、媚肉へ亀頭を押しつけ、ゆっくりと腰を進めていった。

「ああっ!」

すっかり淫らに口を開き、濡れた粘膜で滑らかになっていた膣へ、たくましいものがずずっと挿入されていった。

「い、いやっ……は、入って……くるっ……!」

そのまま実にあっさりと、かえでの奥までペニスが貫いてきた。

「ああ……」

かえでは絶望と諦めの声を洩らした。
身体を男根に刺し貫かれ、愛する大神以外の男に犯されてしまった感触を受けていた。

やはり硬い。
しかし硬いだけでなく、適度な弾力があって、かえでの内部を傷つけるようなものではない。
太さと重量感は充分で、かえでの繊細で敏感な膣粘膜いっぱいに広がって、そこを制圧してくる。
安治も、その心地よさに思わず呻く。

「ううっ……気持ち良いな。ああ、とうとうやったんだ。かえでさんとセックスを……」
「やあ……ぬ、抜いてください、お願い……あ……」

嫌悪感とともに、かえでの声には狼狽の色が含まれていた。
見てわかったことだが、大神のものよりもずっと立派でたくましかったのだ。
それを膣で実感させられ、複雑な心境になってしまっている。
しかし、穢されてしまった衝撃はやはり大きく、快楽の波にたゆっていた身体と心が急激に醒めてくる。
ついさっきまで「いってしまうかも」と思うまで感じさせられていたのがウソのようだ。
身を捩って何とか男から離れようとするものの、安治の方は両手でしっかりとかえでの尻を抱え、顔を乳房に押しつけて呻いている。

「ああ……、感激ですよ。とうとう僕も「男」になったんだ」
「な、何を言って……やっ、離れて!」
「僕はね、かえでさん。これが初めてなんですよ」
「え……?」
「だから、セックスしたのが初めてなんです。童貞だったんですから」
「……!」

さすがにかえでは驚愕した。
確かこの男は、もう40歳になるはずだ。
なのに今まで、本当にまったく女性と縁がなかったというのか。
僧や修道士など、信仰や信念で女犯を絶っている者もいるだろうが、そうでないのにこの年齢で未経験というのは考えられなかった。
いや、つき合っている女がいなくても「女遊び」は出来る。
色町へ行くことだって可能だろう。
それくらいの給金は得ているはずだ。
かえでの驚いた顔に気づいたのか、安治は自嘲するように言った。

「本当ですよ。それまではオナニーばかり……自分で慰めていたんです。もちろん、想像していた相手はあなた……かえでさんですよ」
「っ……」

心底、気持ち悪かった。
かえでは今さらながら背筋に悪寒が走る。

「だって、半端な女じゃ納得出来なかったんです。するならかえでさん。そう決めていたんだ。それまで大事に童貞を取って置いたってことですよ。そうしていおいて良かったですよ、本当にこうなれたんだから」

安治はそう言うと、ゆっくり腰を使い始めた。
太いものがググッと奥まで押し入ってくる。
かえではその深さに脅え、悲鳴を上げた。
大神を含め、過去の男でここまで入ってきた者はいなかった。
押しとどめようと股間を捻り、括約筋に力を入れるが、その結果収縮が強まってしまい、かえって男に快感を与えることとなった。
内部は事前にたっぷりと濡れさせられたため、大きなものでもスムーズに動いている。

(ああ、こんなのいや……。身体いっぱいにこの男のものが入ってきて……)

花弁を軋ませるようにして、安治のペニスが盛んに出入りするのがはっきりとわかった。
はちきれそうなほどに張り詰め、びくびくと脈打つそれはたくましく、かえでの「女」の部分を狂わせていく。
醒めかけていた快楽が再び蘇ってくる。
このまま、さっきの愛撫の時のように念入りに犯されてしまったら、もう身体が抑えきれなくなる。
恥辱的な言葉を吐き、淫らな声を上げ、屈服してしまいそうだ。
さっきから強く唇を噛んでいるのも、ややもすれば喘いでしまいそうだからだ。

己の肉体の変化に困惑していたかえでだったが、先に安治の方がかえでの身体に屈していた。
初めての性交、しかも憧れ続けてきた女を犯しているのだ。
挿入前ですでに暴発しそうだった彼の肉棒は、もう堪えようがなくなっていた。
安治は快楽に顔を歪めながら言った。

「く、くそっ、何て良い具合なんだ! もうだめだ、いきそうだ!」
「え……、い、いくって……」

男のものから送り込まれる快感に流されそうになっていたかえでは、その言葉を聞くなり我に返った。
その脳裏に最悪の事態が想定される。
沈着冷静な女性士官は慌てたように叫んだ。

「ま、待って! 溝口さん、だめっ……それだけはだめよ!」
「そんなこと言っても、もう我慢が……」
「は、離れて! 一度抜いてくださいっ! 中は……中に出すのだけは絶対にだめ!」
「こんな気持ち良いのに抜くなんて無理だ! ああ、出る出る、もうだめだ、出るぞっ」
「いやあっ!」

安治はもう自分でコントロール出来ないようで、激しくガシガシと腰を打ち込んだかと思うと、溜め込んでいた精子の塊を一気にかえでの中に放出した。

「うああっ……!」

安治の放った精液が勢いよく膣の奥で弾けている。
その感触から、かなりの濃さなのがわかった。
薄汚い精液が胎内いっぱいに撒き散らされているのを実感し、かえでの全身から力が抜けた。とうとう穢された。

(ごめんなさい、大神くん……こんなことになっちゃって……)

大神に合わせる顔がないと、暗澹たる気持ちになる。
どう謝れば許してくれるだろう。
それとも、事故に遭ったと思って黙っていた方がいいだろうか。
かえでが泣きたい気持ちでそんなことを考えている間も、安治は「うう」と唸りながら腰を振っていた。
まだ射精しているのか。

「こ、これで満足したでしょう。もう離れて。帰らせて」
「……」
「あなたのことは……今度のことは黙っていてあげる。だから早く解いて。私、帰らないと……」
「その必要はありませんよ」
「え……?」
「帰る必要なんかないと言ったんです。言ったでしょう? あなたは僕の嫁になるんだ。ここがあなたの家──帰るべき場所なんですよ」
「バカなこと言わないで! 早く……あっ」

そう言いかけてかえでは当惑した。
安治のペニスがかえでの中で、またむくむくと大きく変化しつつあったのだ。
安治はかえでの乳を優しく揉みながら言った。

「まだ一回じゃないですか。今まで禁欲していた分、たっぷり溜まってるんですよ。あと五回はしないと満足なんか出来ない」
「そんな……、や、やめて! いやあっ!」

かえでの震える唇から絶望的な悲鳴が上がった。



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