とうとうこの日が来てしまった。
すみれは思い悩み、どれだけ断ろうかと思ったくらいだ。
何も知らず、いつものように明るく、そして優しく接してくれる夫の一郎を見ていると、申し訳なさとやり切れなさを痛感する。
今からでも遅くない。
山城に連絡を取って「やっぱりこの話はなかったことにして欲しい」と言えばいいのだ。
それだけで、今まで通り、気の置けない夫婦関係に戻ることが出来る。
だがそうすれば、すみれに懐妊の可能性はほぼゼロとなり、結果として一郎は居づらくなってしまう。
いくら考えても悩んでも堂々巡りであった。
やはり決断した通りにするしかない。
ほんの一時だけ──自分が我慢すればいいのだ。
何も一郎と別れるわけではない。
むしろ、そうならないための行為なのである。
だが──「一回」で済むのだろうか。
山城医師も言っていた。
妊娠の徴候が見えるまで、何度でも根気よく行なう必要がある、と。
すなわち、何度も他の男と──場合によっては複数の男たちと──寝なければならないかも知れない。
だが、逃げることは出来ない。
他に策はないのだ。
躊躇し、迷い、何度も引き返そうと思いながらも、すみれは指定されたホテルへ赴いていた。
すみれも何度か宿泊したことがある老舗の大帝国ホテルだった。
ドアマンに案内されフロントで名乗ると、コンシェルジュは何も言わずに頷き、音もなく駆け寄ってきたベルボーイがすみれをエレベーターまで導いた。
連れて行かれたのは最上階のようだった。
シンとしていて廊下は無人だ。
床の絨毯が足音を吸い取り、歩く音も聞こえない。
部屋のドアを開けるとベルマンは一礼し、すみれを中に招いた。
「……」
入ったところで立ちすくんでいると、興味深そうにすみれを眺めていたベルマンが言った。
「……お連れ様は直にお見えになるはずです、しばらくお待ち下さい。何かお飲みになるのでしたら、ルームサービスをお使いください。他にご用がありましたら、そちらの電話で……」
「……」
すみれはベルマンの言葉を聞き流し、そのままふらふらと部屋の奥へ行った。
その後ろ姿にボーイが言った。
「よろしければ、テーブルの上にある仮面をお着けください。必要ないとお思いならけっこうです」
いわゆるアイマスクというやつで、目を中心に顔の上半分を覆うタイプだ。
すみれは参加したことがなかったが、貴族たちが仮面舞踏会の際によく使われるものらしい。
言うまでもなく身分や素性を隠すためであり、互いのことを知らないままで自由な交遊を愉しむのである。
一種独特な雰囲気を持ち、顔を隠して名乗りもしないことから、邪な愉しみをする者も多かった。
すみれはそれをぼんやりと手に取り、見つめた。
ベルマンはいつの間にかいなくなっており、いつ出て行ったのかも気づかなかった。
ハンドバッグをテーブルに投げだしたものの腰を下ろす気になれず、マスクを手にしたままただ呆然と立ち尽くしていた。
ボーイの言った通り、すぐに待ち人は訪れた。
ドアがノックされると「失礼」と言いながら、身なりの良い紳士が入ってくる。
「あ……」
すみれは思わず声を上げてしまった。
男も仮面をしていたのである。
男がそのマスクをしていたのは、やはり正体を知られないためだろう。
すみれもその方が気楽だった。
山城は「それなりの身分の者」と言っていたから、顔見知りである可能性もあったのだ。
ハッとして、すみれは慌ててマスクを着けた。
男はその様子を見つめていたから、もう手遅れかも知れない。
紳士は、その身だしなみと身分にふさわしい口調で言った。
「……初めまして、お嬢さん。いや、奥さんでしたかな」
「……」
すみれは、蝶をかたどったアイマスクで顔を隠してから、じっくりと男を観察した。
高そうなスーツで身を固めている。
袖口から覗くワイシャツにも、ルビーをはめ込んだカフスボタンをしていた。
靴もぴかぴかに磨かれており隙がない。
髪は白髪交じりで、頭髪の二割くらいは白くなっている。
年齢は、もしかしたら父の重樹以上かも知れなかった。
落ち着いた雰囲気で、気品もある。
なるほど、確かに高尚な身分らしい。
相手の男性は厳選しているという、山城医師の言葉はウソではないようだった。
男は優しい口調で言った。
「……緊張しているようですね少し飲みますかな? その方がリラックス出来ますよ」
「い、いいえ……。あの、出来ましたら、なるべく早く……」
本心だった。
しなければならないのであれば、さっさと済ませて帰りたかった。
とても飲食するような気分にはなれない。
すみれの言葉に気を悪くした様子もなく、男は何度も頷いた。
「なるほど、そうでしょうね。わかりました、では、まずシャワーを浴びましょう。私も汗を流しますので」
「えっ……」
すみれは少し引いた。
一緒に入浴するのかと思ったのだ。
男はすぐに察したようで、少し笑って答えた。
「ああ、いやいや大丈夫ですよ。ちゃんと男性用と女性用に別れていますから」
「あ……、はい、では……」
すみれは少し頬を赤らめて会釈した。
男の方を気にしながらシャワー室へ入っていく。
それを見送ってから、男はすぐに服を脱いでそそくさとクローゼットにしまった。
そしてザッとシャワーを浴びてからすぐに身体を拭き、ガウンを身に纏ってベッドに腰掛ける。
男は北山階光玄という。
貴族で子爵であった。
今年50歳になるから、すみれの見立て通り重樹よりも年上だった。
北山階の方は、相手があの神崎すみれであることは知っている。
すみれの素顔を見たからではなく、予め組織の方から教えられていたからだ。
組織とは──実は上流階級の女を娼婦に使った売春組織である。
仕切っているのは山城のような小物ではなく、政治や経済の中枢にいる権力者の一部だ。
山城医師は、女の選別と勧誘、そして単なる仲介者に過ぎない。
ただ、売春組織ではあるが犯罪ではなかった。
日本で公娼廃止令が出たのは1946年のことである。
女を拐かすわけではなく、ある意味で納得ずくだ。
つまり男女ともに被害者はいない、ということになる。
もちろん、女に「売春」であることが伝えていないから、騙していることにはなる。
しかし、不感症や不妊症という見立ては本当であり、その「治療」になっていることに違いはない。
経験豊かな男に抱かれることは性感治療に繋がるし、子が欲しい場合は精を受けることも出来るのだ。
女はそこに金銭のやりとりがあることを知らないだけなのである。
胴元にとっては無償の娼婦ということになるが、女の方は男と寝ることで問題を解決したいと思っているわけで、特に不都合があるわけでもなかった。
組織は男女双方からカネを受け取り、男は極上の女を抱くことが出来、女は性的な問題を解消できる。
「三方損なし」ということだ。
女はもちろん、男も厳選しているから、おかしな者が紛れ込むことはない。
後腐れなく関係できる者だけを選んでいるのだ。
北山階は、柄になく少し興奮していた。
まさか、あの神崎すみれを抱けるとは思いもしなかったからだ。
銀幕スタァである雛子の娘にして、本人も結婚のため惜しまれつつ引退した帝国歌劇団のトップスタァだった。
社交界でもその美貌や気高さで注目を集めた存在であり、交際や見合いの申し込みが殺到していた。
それら高貴な男どもを袖にしてきたのも、今の夫と交際していたからのようだ。
そのすみれが今、自分の相手をしてくれる。
しかも組織の話だと、夫に問題があって子ができないため、妊娠させて欲しいとの依頼だ。
避妊せずともいいのである。
娘ほどの若い女を抱き、しかも孕ませていい、いや孕ませて欲しいというのだ。
興奮しない方がどうかしている。
「……お待たせしました……」
すみれがシャワー室から出てきた。
身体には、大きなサイズのバスタオルを巻いているだけだ。中でアイマスクを着けたものの、もう手遅れかも知れない。
今日はいつもの胸の開いた着物姿でなく、ワンピースを着てきた。
これも、見慣れぬ洋装でいれば、すみれだと気づかれないかも知れないという配慮からである。
だが、マスクをする前に男は来てしまい、素顔は見られてしまっている。
相手もどこかの名士か貴族らしいから、もしかしたらすみれを知っている男かも知れない。
男が最初からマスクをしていたので、まだ救いがあった。
互いに相手を確認していたら、すみれは何もせず帰ってしまったかも知れなかったのだ。
すみれは、男が自分に気づいていませんように、と願いながらゆっくりと近づいていく。
男の手がすみれの肩に置かれる。すみれはビクリと震えた。
「……奥さん、そう緊張しないでください。痛くはしませんから」
「……」
男は「奥さん」と言ってくれた。
正体はバレているかも知れないが、気を遣って名を呼ばずにいてくれるらしい。
すみれは男の配慮に感謝した。
「さあ」
「あ……、い、いや!」
北山階がバスタオルを剥ごうとすると、すみれは反射的に拒否し、その手を払ってしまった。
男は怒りもせず、無理に剥ぎ取ろうともしなかった。
「……いかがしますか? 暴力的な行為や無理強いする、というのは禁止されていますし、私もそんなことをする気はありません。もし、あなたがお嫌であれば、今日はやめましょう」
「……」
思いも寄らぬ優しい言葉に、すみれは顔を上げて男を見つめた。
気遣いの出来る優しい紳士に思えた。
彼は、すみれを抱くために……すみれの妊娠に協力するために、わざわざ来てくれているのである。
なのに自分はそれを拒絶している。
そう思うと、すみれは何だか申し訳ない気になってきた。
すみれは、消え入りそうな小さな声で言った。
「い、いいえ……。申し訳ありませんでした……」
「謝ることはありません。あなた、初めてなのでしょう? ご主人以外の男とは……」
「はい……」
「ならば当然です。ご主人に操を立てているんですから、妻の鑑ですよ」
「でも……、わたくしは……」
「……そうですね。お子さんを欲しいが故、こうせざるを得なかった」
「……」
「ですが、あなたの夫を思うそのお気持ちは貴いものだ。私は無理には致しません。あなたの意志にお任せしますよ」
全権を委ねられた形になったすみれは、少し躊躇してから意外とはっきりした口調で告げた。
「お手数をおかけ致しますが……よ、よろしくお願い致します……」
そう言ってから、すみれは自分でバスタオルを外していった。
身体を隠していたものがふさりと絨毯の上に蟠ると、見事な女体が姿を現した。
「……」
北山階卿は思わず息を飲んだ。
いい身体だった。
若く、輝くような白い肌の肢体だった。
恥ずかしそうに胸を右腕で、股間を左手で隠しているのが初々しい。腕で潰された胸は、巨乳というほどではないものの、かなり豊かだと思われた。
すみれは舞台でもパーティに参加した時でも、胸を大きく開けた着物やドレスを着ていたが、想像通りの乳房らしい。
身体のラインも実に美しかった。
和服やゆったりとしたドレスの上からではわからなかったが、素晴らしい裸身だ。
太っている印象は全然ないのだが、全体として豊かな肉づきである。
コルセットでもしているのかと思えるほどにウェストは細いのに、直下の腰はグッと大きく張り出している。
すらりと素直に伸びた長い脚は、ぴっちりと閉じ合わされていた。
膝や足首の括れと対象的な太腿の肉づきも豊かで、大人の女性の色香を漂わせている。
「さあ、こちらへ」
「は、はい……」
少し躊躇ったが、すみれは素直に手を伸ばし、その手を男に引かれていく。
露わになった乳房がまた美しい。
抜けるように白い肌の乳房はほどよく膨らみ、官能的なカーブを描いている。
その頂に薄紅色の乳輪が頼りなく広がり、頂点には小さな乳首が恥ずかしそうに息づいていた。
これだけ見れば、まだ処女だと言っても充分に通じるだろう。
男の手が腰を抱き、すみれをベッドに導いた。
男に対して嫌悪感はないものの、背筋に寒気が走り、鳥肌が立った。
夫以外に肌を許す行為に、限りない背徳を感じたからだ。
だがすみれは、北山階のリードに従い、ベッドに横たわった。
「……」
目を堅く閉じ、顔を伏せた。
緊張で全身に力が入る。
落ち着け、と、すみれは自分に言い聞かせた。
すぐに終わる。
この人と情を交わし合うのではない。
ただ精子をもらうだけなのだ。
そう思って、すみれはハッとした。
ただ寝ているだけではだめなのだ。
男はいつでも自由に精液を出せるわけではない。
性的に興奮させで男根を勃起させ、射精させねばならない。
それには、あまり素っ気ない態度やイヤそうな仕草を見せるのは逆効果になる。
結果として長引いてしまい、すみれは羞恥心や恥辱を長く味わわねばならなくなってしまう。
どうすればいいのか。
ウソでもいい、演技でもいいから、それなりに反応──感じたふりをするべきだろうか。
そんなことを考えていると、男が覆い被さってきた。
思わず顔を男に向ける。
悪意はなさそうだし、悪い人でもなさそうだ。
嫌うべき要素はない。
何しろ、今回のことはすみれの要望なのである。
この人はその希望に応えようとしているのだ。
すみれはグッと手を握りしめ、覚悟を決めた。
(ごめんなさい、あなた……。わたしくは……わたくしは今から、この殿方に身体を任せてしまいます……。今だけ……今だけです……許して、あなた……)
心の中で一郎に謝罪した時、男の顔が近づいてきた。
「失礼」
男はそっとすみれの乳首に唇を寄せ、軽く含んだ。
それだけですみれの裸身はピクリと反応し、震える。
「んっ……!」
「可愛い声だ。気持ち良かったですか?」
「……」
答えられるはずもなく、すみれは黙って顔を伏せた。
もっと積極的に振る舞わねばならないのはわかっているが、なかなか出来るものではない。
男の方は、羞恥に染まるすみれを見て愉しみつつ、なおもその身体を優しく愛撫していく。
「んう!」
口に含んだ乳首を強く吸うと、すみれはギクンとして小さく仰け反った。
すみれは無意識のうちに腕を伸ばし、男を押さえようとする。
男はその腕を優しく掴み、唾液に濡れた乳首を指でコロコロと転がしている。
もう片方の乳首には口が吸い付いており、軽く甘噛みしてすみれに小さく悲鳴を上げさせていた。
「んっ……ああ……くっ……!」
若く張りのある肌に覆われた乳房の弾力を愉しむように揉みしだく。
唇を柔らかい胸肉に押しつけ、舌でじんわりと乳輪を中心に舐め上げてやると、萎んでいた乳首がたちまち硬く尖っていくのだった。
乳首や乳房に加えられる愛撫に甘い快感を感じ、すみれの官能が揺さぶられていく。
それでも、何とかその結果を声に出すまいと堪えているのだが、身体が言う事を聞かず、乳房が大きく波打っている。
「っ……あ……んっ……」
男の指や舌がポイントを刺激すると、堅く食いしばっているはずの唇が僅かに開き、甘い声が小さく洩れてしまう。
すみれは「感じてみせなくては」と思いつつも、羞恥心が邪魔して素直にそうできない。
だが男は、そのすみれの状態──感じているのに、それを我慢している──をむしろ愉しむように、じっくりと愛撫していく。
男の手が滑り、乳房から脇腹を這い、愛らしいヘソの辺りまで撫でてくる。
乳首ほどの強い快感ではないが、じわじわとこみ上げてくるような気持ち良さに、すみれは戸惑った。
こんな愛撫は、夫にもされたことがなかったのだ。
手はなおも這い進み、とうとう腿の付け根にまで到達した。
指が恥毛に触れると、すみれは思わずその手を払ってしまう。
「あ、いやっ……!」
「……」
「あ……、ご、ごめんなさい……いやじゃありません……」
北山階は微笑んで顔を振った。
「……いいんですよ、すみ……あ、いや、奥さん。ご主人以外の男に肌を触れられているんですから当然の反応ですよ。他のみなさんもそうした」
それを聞いて、すみれは思わず男を見つめた。
「……あなたは他の方も、その……お抱きになったことが……」
「ええ、ありますよ。もっとも、あなたで……そう、四人目かな」
「……」
「みなさん、最初は恥ずかしがりますし、拒否反応を示すものです。そうじゃなかったら、ただの売女じゃありませんか。そんなの興ざめですよ」
「はあ……」
「でも、だんだん慣れてくると堅さが取れてきますし、素直に反応するようになってきます。気持ち良い時はそう口にしますしね」
「……」
「でもね、奥さん。それは決して恥ずかしいことじゃない。当たり前のことなんです。今回のことで普通と違うのは、夫ではない男性と寝ているということだけです。でも、それには事情がある。止むにやまれぬ事情がね」
「……」
「あなたもきっと、慣れてきますよ。何も「夫を裏切っている」なんて重く考える必要はありません。身体はともかく、心ではご主人を愛していればいいじゃありませんか」
すみれは答えることが出来ず、顔を伏せた。
男の言っていることはその通りであり、反論する内容ではなかった。
「それに」
北山階は微笑んで言った。
「こう言っては何だが、あなたはお美しい。お世辞でなく、私が今まで抱いた女性の中でもいちばんだ」
「そんなこと……」
「事実ですよ。お陰で私もその気になってる」
男はそう言って、自分の男根を手で示した。
「あ……」
すみれは息を飲んだ。
かなり大きい気がする。
ペニスのサイズを比較できるほどに男性経験は多くない。
というより、夫の一郎しか知らないのだ。
夫のものが特に小さいとも思わなかったし、勃起したそれはかなり大きいと思ったものだ。
だがこの男のものは、それよりも一回りは大きいように見えた。
男根を見せられたことで、すみれも度胸が据わった気がした。
押さえていた男の腕を離し、両手をシーツに落とした。
「好きにしてくれ」という態度である。
「っ……!」
北山階の手が、胸と股間へ同時に伸びてくる。
すみれは危うく振り払おうとしたものの、必死になってそれを堪えた。
男の手が柔らかく乳房を揉み、指先で乳首を嬲る。
そしてもう片方の手は股間へ滑り込み、そこを撫で上げた。
ゾクゾクするような刺激とともに、たまらない恥ずかしさが胸を熱くする。
男の指は器用に動き、媚肉の隙間に潜り込んで、そこをそっと開かせた。
「ん……!」
すみれの背が仰け反って弓なりとなり、後頭部とお尻と踵で身体を支える形になる。
まだ堅いすみれを落ち着かせるように、男の左手が乳房をそっと撫でている。
右手は割れ目から離れず、頂点にあるクリトリスを探し当てると、引っ張り出すように摘んだ。
「くっ……!」
思わずくぐもった声を出したすみれの耳元で北山階が囁く。
「素晴らしい身体ですね。とても感じやすくていらっしゃる」
「わ、わたくしは……」
「我慢することはない。遠慮なく声を出していいんですよ」
「で、でも、恥ずかし……あっ!」
「恥ずかしくなんかありません。ここにはあなたと私しかいない」
「んっ……あっ……」
男の指は、すみれのそこが早くも濡れ始めているのを確認している。
片手で肉芽を弄びつつ、片手で白い乳房を掴み、柔らかく絞り上げていった。
男の巧みな愛撫によって、すみれの肉体はどうしようもなく快楽を感じ始めている。
甘い電流のような痺れが背筋を通り、脳髄の奥にまで浸透していった。
しっとりと濡れ、大きさも感度も数倍になったクリトリスに触れられると、すみれは小さく叫びながら裸身を跳ねさせていた。
「あっ、そんな……ああ……いっ……」
信じられなかった。前戯だけで、もうすみれはいきかけているのである。
ぐぐっと身体の奥からすごいものがこみ上げてきて、それを察したすみれは息んで我慢する。
抱かれるのは仕方ないとしても、快楽に溺れ、、恥ずかしい絶頂を晒してしまうわけにはいかない。
だが、夫からは教えられなかった未知の官能知らされ、肉体は今にも燃え上がりそうに燻ってしまっている。
ここへ新たな火種が加えられたら、ひとたまりもなく達してしまうに違いなかった。
おののくすみれの耳たぶを男の唇が優しく挟み、耳孔を軽く息を吹き込む。
それだけですみれの性感は急上昇し、「くっ」とくぐもった呻き声を上げて背を反らせてしまう。
乳首を転がし、クリトリスを揉み、膣口をくすぐるように指先でもぞつかせる。
いくつもの弱点を同時に刺激され、その快感の鋭さにすみれは我を忘れ、つい大きく喘いでしまった。
いつしか綺麗な額にうっすらと汗が浮き、頬は上気して薄く染まってきている。
指でまさぐられる媚肉も絶え間なく蜜を滴らせ、男の指を濡らしていた。
意識はしていないものの、すみれは身悶え、身を捩り、呻き声を上げる。
ここまで念入りに愛撫されたことはなかった。
夫の一郎は若いせいもあってか、愛撫もそこそこに挿入を急ぐ傾向があった。
それでもすみれは充分に気持ち良かったのだが、この男のテクニックは夫のものとは比較にならなかった。
自分は違うが、これなら不感症の女性でも快感を得てしまうのもわかる気がした。
そんな愛撫が30分以上も続き、すみれの身体はすっかり熱くほぐれていった。
ややもすると、愛撫だけで達してしまうのではないかとおののいたほどだ。
男のペースに巻き込まれてしまい、すみれが気づいた時には、北山階は脚を割ってその間に入り込んでいた。
「あ……」
「もういいようですね。よろしいかな?」
「……」
「心配しないでけっこう。私にすべてお任せあれ」
答えられずはずもなく、すみれは恥ずかしそうに顔を背けた。
北山階は、それを了承と受け取り、すみれの濡れた媚肉に勃起したものをあてがっていく。
つい逃げようとするすみれの身体を軽く押さえ、男はそのまま腰を沈めていく。
「んんっ……ああっ!」
すみれの手がシーツを強く掴む。
熱くて硬いものが突きつけられ、それが割れ目をなぞりあげるだけで、すみれの花弁は簡単にめくれ上がった。
愛液でぬめり、滑らかになっているそこに、たくましいものが侵入していく。
きつい。
処女を失った時のような痛みはないものの、かなりきつく、苦しかった。
一郎と毎日のようにセックスしていたからこれで済んでいるが、そうでなかったら相当苦痛を感じたかも知れない。
だが、大きなものを入れられるという不安と同時に、不思議な興奮や疼きも感じていた。夫を裏切り、見知らぬ男に穢されるという不貞感が霞み、熱く燃える肉体を宥め、愉悦を与えてくれるかも知れないという背徳的な期待感がじわじわと染み出してくる。
入れる北山階の方もきつそうで、少し顔を顰めながらゆっくりと挿入していった。
「……大丈夫ですか? 痛くないですね?」
「い……痛くはありません……で、でも、きつ……んうっ……」
身体いっぱいに男のものが入ってくる。
男の太い肉棒が、媚肉を押し広げて入ってくるのがはっきりとわかった。
この、はちきれそうな太さとたくましさはどうだろう。
鉄のように硬い心棒を熱い肉が覆っている感じだ。
これが「男」なのかと、すみれは初めて実感した気がした。
「夫とはまるで違う」という思いを、すみれは顔を振って振り払った。
すみれは美貌を歪め、眉間に皺を寄せて耐えている。
美しい女性が何かを我慢し、堪えている表情は何とも言えない色香を放っていた。
男はその顔を見ながら慎重にペニスを進め、何とか亀頭が膣口を通り抜けてさせた。
すみれは少し胸を張るようにして、そのきつさを堪えている。
先を通した男は、そのまま腰を送っていき、深く奥まで刺し貫いた。
顔や身体が美しいだけではない。持
ち物も素晴らしかった。中は窮屈なのに熱く濡れていて、滑りやすくなっている。
襞が細かく繊細で、それが肉棒に絡むように蠢いているのがたまらなかった。
(とうとう……とうとうあの人以外の男性と関係を……)
覚悟していたとはいえ、閉じたすみれの目からつぅっと涙が零れた。
他に手段がなかったとはいえ、一郎の知らぬところで他の男に抱かれているのは事実だ。
どうしようもない申し訳なさと背徳感で、すみれは胸が締めつけられるかのようだ。
「んん……ああ……」
男がゆっくりと動き出すと、すみれは小さく喘ぎ出した。
夫のものより太くて長いものが、膣内で動き回っている。
深くまで貫かれ、引き抜かれ、また突き通される。
抜き差しされるたびに襞がめくれ上がり、ペニスにべっとりと愛液をまぶしていた。
紳士的な北山階のものとは思えぬような、グロテスクで太い静脈を浮き立たせたペニスが、すみれの狭い膣内を軋ませるように突き立てられている。
ずぶりと深く突かれるたびに、すみれはわななき、身体を反らせた。
「あっ……んんっ……あ、そんな……あうっ……い、いあ……ああっ!」
男はすみれを突きながら、揺れ動く乳房を揉み込んでいる。
尖っている乳首を指で弾いて悲鳴を上げさせつつ、全体を柔らかく揉みほぐす。
上下同時に責められ、すみれは引き攣ったような声を上げ、身悶えた。
ペニスを打ち込まれ、腰がくねくねとうねっている。
腰骨までもがグズグズと崩れていくような、何とも不思議な感覚だった。
力が抜け、頼りなくぐにゃぐにゃしている細腰を掴み、北山階は抉るように突いてきた。
「は、はう……はああっ……いっ……ああ……あうんっ……」
「どうです、奥さん。気持ち良いでしょう?」
「や、そんな……わたしくは……ああっ……」
「いいんですよ、よがっても。ここにはご主人はいませんから」
「やだっ……こ、こんな時にあの人のことを言うなんて……あああ……」
もう自分でも制御できないくらいに、すみれの白い女体がうねっていく。
一郎に対する不貞を感じつつも、肉体だけは勝手に反応して、男のものを必死に咥え込み、搾り込んでいくのを実感していた。
意識していないのに、自分から腰を蠢かせ、男の腰を受け入れている。
襞が盛んに男根を締めつけ、まるでより深い結合と濃厚な責めを求めているかのようだった。
胸を少し強く掴まれ、ぎゅっと揉みしだかれながら、下から抉ってお腹の裏を亀頭で擦るように突き込まれる。
すみれは思わず「いいっ!」と口にしそうになり、ハッと気づいて必死に唇を噛みしばった。
察した北山階が、そっと囁く。
「なぜ快楽を拒絶するのです? どうせなら、お互い愉しみませんと……」
「た、愉しむなんて、そんな……わたくしはただ……ああっ」
「ええ、わかってますよ。お子さんが欲しいのですね。奥さんのご期待に沿うよう私も頑張りますが、あなたも気持ち良くなった方がいい」
「……」
男に膣を突かれながら、すみれはぼんやりと考えた。
そう言えば、山城医師が言っていた。
男の子が欲しいなら、自分でもセックスを愉しみ、強くオルガスムスを感じた方が良い。
そうすれば男子が産まれる可能性が高まるのだ、
と。しかしそうなることは、ただ子種を貰うだけだ、という大義名分が薄れてしまう。
感じるということは愛し合うということであり、夫への裏切りになってしまう。
自分は精子を貰うため、その引き替えとして男性へ肉体を提供するだけなのだ。
あくまで生殖行為であり「セックス」とは違うのだ。
そう思うようにしていたのに、この男と「セックス」しなければ意味がなくなってしまうかも知れない。
徐々にすみれは、北山階とのセックスを容認するようになっていく。
「くくっ……ああっ……だ、め……あっ……」
リズミカルに突き込み、揺れ動く乳房を揉みしだく。
綺麗な顎のラインを舐め、そのまま耳まで舐め上げて耳たぶを甘噛みする。
いやらしく腰を動かしながら、前後だけでなく左右に膣を拡げるように肉棒を操った。
突き上げられるたびにすみれは小さく呻き、そして喘いだ。
男女の腰の動きに合わせ、ギシギシとベッドのスプリングが軋んだ。
めくるめくような快楽に、すみれは顎を反らしっ放しになる。
(ああっ……ど、どうしよう……い、いきそうっ……)
もう一押し、あと数回抉られたらいってしまう。
そこまで追い上げられたところで、男は突如、責めを引いた。
あまつさえ、ペニスを引き抜いてしまう。
「あっ……」
すみれは驚き、慌てたように腰を男にすり寄せた。
恥辱も忘れ、自ら腰を振って男を促している。
愛液で濡れた熱い肉棒に腰を押しつけ、陰毛で擦るように腰を捩った。
「ど、どうして……」
「どうして? ……ふふ、奥さん、いきたかったのかな?」
「……」
いきそうだったのは事実である。
そのまま達してしまって罪悪感を忘れ、同時に射精してもらえばそこで終わりだ。
そう思っていたのだ。
なのに、なぜか男は動きを止めてしまっている。
恨めしそうに睨んでくるすみれの頭を、北山階は愛おしそうに撫でる。
「気持ち良かったのでしょう? だったら、いっていい。何度でもいかせてあげます」
「……」
「違うのですかな?」
「わたくしは……あっ!」
そこでまた北山階はずぶりと挿入してきた。
熱と蜜でふやけた媚肉はいともあっさりと大きなものを受け入れ、深々と飲み込んだ。
最奥にまで届かされると、すみれの裸身がクッと仰け反る。
男は嬉しそうに言った。
「おお……、もう私のものに慣れて下さったようですな、奥さん」
「そんな……ち、違いま……ああっ! くうっ……奥まで来てる……あっ」
すみれは快楽に押し流されそうになりながらも、懸命に理性を引き戻そうとしている。
夫への思いと、すっかり蕩けてしまった自身の肉体がせめぎ合っているのだ。
そんなすみれの心を踏ん切らせるかのように、男は激しく肉棒を突き込み、胎内を蹂躙、占領した。
「いっ、ああっ! くうっ、そこっ……あっ……やっ……ああっ!」
「乱れてきましたね、奥さん。その調子だ」
「わ、わたくし乱れてなんか……やあっ」
恥ずかしい指摘をされ、抗いつつも、すみれの肉は熱く蕩けており、もはや自分ではどうしようもなくなっている。
燻っていた性感に油を注ぎ、今や燃え盛っているのだ。
すみれは北山階に合わせて腰を突き出し、深くまでペニスを迎え入れようとしている。
あれだけきつかった膣道も柔らかくなっているが、決して緩いわけではない。
その分だけ収縮が強くなり、男にとってはたまらない感触である。
北山階は浅く挿入したり、腰を捻って胎内のあちこちを突っついている。
どこがもっとも感じるのか、確かめているのだ。
「いかがです、奥さん。いいでしょう?」
「あ、あっ……くっ……」
すみれは、悔しそうな表情になりつつも、正直に何度も頷いた。
男の責めに屈してしまったことが情けなかった。
すみれはいずれの責めにも鋭い反応を示したが、特にいちばん奥──子宮口を虐められると強く感じるようで、大きな声で喘いでいた。
すみれもそれは実感していて「はしたない」と思うのだが、そこを責められるとどうにも声が抑えきれなかった。
何度も子宮口に亀頭を叩きつけててやると、すみれはまた追い立てられ、達しそうになる。
「ああっ……ああっ、ま、また……くっ……いっ……」
「……」
「あ、ああっ……!?」
男は、またしても意地悪く腰を引いてしまう。
すみれが慌てて腰を持ち上げるものの、それを手で押さえ込んで、膣から肉棒を抜き去った。
ペニスはとろっとした粘液にまみれており、今にも湯気を立てそうである。
「な、なんでぇっ!? もう少しだったのに……」
「可愛いですよ、奥さん。初々しくて良い。まだ新婚一年目だそうですね」
「そ、そんなこと言わないでください……そ、それより、わたくし……こ、このままじゃ……」
どうにも我慢できない。
こんな、焦らされたまま何度も途中でやめられたら、気が狂ってしまいそうだ。
紳士は端正な顔を少し歪めて言った。
「私も愉しみたいのでね。あなたのようなお美しい方に、いきたくていきたくてしようがないという顔をさせているのがたまらない。征服欲が満たされるというか、満足ですよ」
「そんな、酷い……い、意地悪ですわ……」
「ふふ、あなたでもそんなことを言うんですね。私は若くない。そう何度も出せないんですよ。だから、あなたを何度もいかせてから出して差し上げたいと思っていた。だが、いいでしょう、お望み通りにしてあげます」
「あ……」
「その代わり、ちゃんと言って下さいね。いきたいですか?」
「……」
そんな恥ずかしいことが言えるはずもない。
一郎とのセックスでも、いく時につい「いく」と言ってしまうことはあったが、言った後の恥ずかしさは今でも憶えている。
なのに夫以外の男に抱かれ絶頂を極めさせられる。
しかも自分から「いかせて欲しい」と言わねばならない。
すみれは屈辱と羞恥で胸を白く灼いた。が、身体は滾っており、もう我慢できるとかいう段階ではない。
男がもう一度聞いてきた時には、すでに拒絶できる状態ではなかった。
「奥さん、言って。いきたいですか? なら「いかせてください」と言いなさい」
「い……かせて……ああ、いかせてください……」
「よろしい、では」
「ああっ!」
三度、北山階のペニスが入り込んできた。
その充実した大きさと熱さに、すみれは目眩すら感じた。男は膝立ちとなり、すみれの腰を持ち上げて、ずぶっ、ずぶっと抉るように突いた。
子宮に届くまで奥深く貫かれ、そこを亀頭で擦られ、小突かれて、すみれははっきりと喘いでいた。
何度も繰り返すうちに、すみれの声は次第に大きくなり、甘くなっていく。
自分から腰を振り、自ら快感を得ようとしていた。北山階は、そんなすみれの顎を持ち、そこに顔を近づけていく。
キスされる。ハッとしたすみれは慌てて顔を背けようとしたものの、男の手ががっちりと押さえ込んでいる。
「い、いや、キスは……んむっ……んん……んちゅ……」
男の舌がすみれの唇を割り、中へと潜り込んでくる。
歯茎をまさぐり、頬裏を舐め、すみれの甘い舌を求めて這いずり回っていた。
(そんな、キスまでっ……あ、あなた、ごめんないっ……!)
とうとう男の舌に捉えられ、すみれの舌が吸われる。
優しく、柔らかいキスだった。
頭が混乱していたすみれは、夫としているかのような錯覚を受け、自分も夢中になって吸っていた。
「ん、んむう……んっ……ちゅっ、じゅぶ……ん、ん、んむ……むううっ」
キスが終わると、もうすみれは箍が外れたかのようによがり出した。
もともとキスは好きだった。
それも、結婚してセックスを覚えたせいか、軽いキスよりも、こうした舌で交歓するような濃厚なものが好みになってきている。
年上の男の巧みなキスで、すみれの理性がどろどろになっていく。
はしたない、恥ずかしいという思いも、こうして快楽を得ることが男子誕生に通じるのだという言葉に打ち消されていく。
ピストンが速まり、強くなっていくと、すみれは目に見えて激しく反応した。
「ああっ! だめ、激しいっ……そんな、ああっ」
喘ぐすみれの美貌を見て、北山階もどんどんと昂ぶっていく。
杭でも打ち付けるように激しく媚肉を突き、膣奥にある内臓を抉ってやると、すみれは大きく喘いで悶えた。
「あっ、ああっ! だめっ……くっ……あああっ!!」
ガクンガクンとすみれの身体が大きく仰け反り、激しく痙攣した。
膣は思い切り男根を締めつけ、わなないている。
脚を突っ張らせ、しばらく震えていたすみれの裸身が、がっくりと力を失った。
「あ……はあ、はあ……はあ……」
「……いったようですな、奥さん」
「ああ……わたしく……あ、ああっ!?」
いかされたばかりなのに、また男が激しく動き始めた。
夫とのセックスでは、大抵同時に達していたと思う。
希に一郎の方が先にいってしまうことはあったが、すみれが先に絶頂してさらに責められるということはなかった。
達したばかりの身体をまた強く責められ、すみれは戸惑ったように叫ぶ。
「ああ、もうっ……わたくしは……いっ……ああっ」
「そんな色っぽい声で喘がれたら、私も我慢できませんよ。もう二、三回いかせて差し上げようと思いましたが無理ですな。いきますよ」
「あ、ま、待って……!」
本能的に、中に出されてはいけないと思ったのだが、よく考えると今日はそのために抱かれているのだ。
男が不審げに聞いてくる。
「どうしました……?」
「い、いいえ……何でもありませんわ、ああ……も、もう……ああっ、わたくし、またっ……!」
「私もですよ、出してあげます。出来るだけ奥の方がいいでしょうね?」
「くっ……」
すみれは恥ずかしげに、それでもはっきりと頷いた。
どうせ中まで穢されるのなら、確実に妊娠できるよう、子宮に近いところで出してもらった方がいいのだろう。
すみれが子宮へ求めてきたことに満足し、北山階は太腿を抱え込んで腰を密着させる。
出来るだけ深くまでペニスを差し込み、亀頭で子宮口を確認していた。
胎内は驚くほど熱く蕩けている。
それでいて強く収縮し、肉棒に絡みついて絞ってきた。
身体が射精されるのを望んでいるのだ。
すみれはわなわなと震えだし、手を伸ばして男の腕をぎゅっと掴んだ。
「もうだめっ……ああっ、お願いっ、もう……もう我慢できないぃっ……い、いきそうですっ……!」
その声を聞いて、もう男も我慢しきれなくなった。
すみれの腰が浮き上がるほどに強く打ち込み、その子宮口に亀頭の先を押しつけてぐいぐいとこねくり回る。抜き差しされる以上の快感に襲われ、すみれはまた達した。
「そ、そこぉっ……くっ……だめっ、ああっ、ま、また……またいっちゃいますっ!」
「くっ……出ますよ!」
「うああっ!!」
絶頂したすみれの膣が強烈に締めつけ、北山階はたまらず射精した。
どっとばかりに精液が流し込まれ、子宮口に直撃する。
「で、出てますわっ……ああ、熱いのが奥に当たって……あ、ああ……いい……あ、うむっ!」
すみれは膣奥で弾けた精液の熱さに身悶えし、再び気をやっていた。
そして射精されている間中、膣はペニスを絞り上げ、残らず出させようとしている。
柔らかい肉が蕩け、熱い粘膜が男のものを多い、締めつける。
内部は女の蜜と男の子種でどろどろであり、それがまた肉棒に快楽を与えていた。
「おっ……、おおっ!」
北山階は目を白黒させている。
今し方射精したばかりなのに、また新たな射精欲がこみ上げてきたのだ。
(なんだ、これは……)
驚きながらも腰の動きが止められず、手を伸ばしてすみれの乳房をぎゅっと握りしめ、そのまま腰を息ませて二度目の射精を加えた。
終わったと思っていたところに新たな精液を浴び、すみれは目を剥いて達した。
「ああっ! ま、またあっ……また出てる……そんな……ああ、すごい……ううんっ……」
男はすみれの身体を抱きしめ、精液を全部吐き出すまで強く抱いて腰を押しつけ続けた。
射精を終えてペニスを抜くと、すみれの肢体はがくりとベッドに沈んだ。
男も、疲れたように「ほうっ」と太い息をつく。
「……よかったですよ、奥さん。素晴らしい身体だ……」
「ああ……」
「お望み通り、たっぷり射精しましたよ」
すみれは天井を見上げながら、虚ろな声でつぶやいた。
「こ、これで……」
「うん?」
「これでわたくし……子供が……」
「それはわかりません。一度で懐妊する人もいますし、そうでない人もいる。ですが、これで可能性は出てきたと思います」
「……」
そこで北山階はすっと立ち上がり、壁の時計を見た。
「……いかがです、奥さん。またお会いできませんかな?」
「……」
「身体の相性も良さそうだ。あなたもそう思われたでしょう?」
すみれは何も言えず、顔を横に向けた。
山城が言うには、この関係は基本的には「一期一会」なのだそうだ。
つまり「関係」は一度だけであり、毎回違う男をあてがうらしい。
そうした方がお互いにバレないし、余計な感情や未練を抱かずに済むからだ。
あくまで女は子種を貰うだけ、男はそれに協力するだけ。
夫のこともあるし、一度だけの方が良いというわけだ。
但し、互いがそれを望んだ場合はその限りではない。
二度、三度と関係を続ける場合もあるそうだ。
主に女の方が「何人もの男に抱かれるのは抵抗がある」として、信頼できる相手にだけ、と指定してくるらしい。
すみれはちらりと男を見た。
信用は出来そうである。
紳士的だったし、無茶なこともしてこない。
だったら……と思わないでもなかったが、やはりすみれは自分の正体がばれてしまうことを恐れた。
「すみません……。申し訳ありませんが……」
「……そうですか」
男は少し残念そうに言った。
「でも、気が変わったら山城先生の方へそう言ってください。私はいつでもけっこうですので」
「……」
何も答えられず、すみれは身体にシーツを巻き付けた。
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