太正維新を標榜する陸軍の一部部隊が決起して三日目。
帝都各地を占拠している部隊にも、一様に安堵の色が見られている。

戒厳令が発布され、彼らは警備部隊に編入された。
このことは、自分たちは叛乱部隊ではなく義軍なのだという確証にさえ思えていた。
雪の中、立哨している兵たちも笑みすら浮かべている。

そもそも、この「警備部隊」とは何か。
事態対策のための参議官会議の中で参議官のひとりが、「左翼団体の警戒に全力を注ぐを要す
べきと考える。
よって維新部隊を戒厳軍に組み込み、警備隊に編入するを可とすべき」と発言したことがきっ
かけである。
これには一理あり、確かに現在の不安定な状況に乗じて、一部の左翼結社等に不穏な動きあり
との報告が警察や憲兵からもたらされていたからだ。

この意見に対し、陸軍大臣が真っ先に賛成し、大臣告示に加えられることになったのである。
無論、これも京極の手回しだ。
その知らせは横浜・神崎邸へも届き、兵たちがわきかえっていた。

* - * - * - * -* - *

「……」

すみれが不安げに庭の方を見やる。
門に立っている兵たちがバンザイを繰り返していた。
すみれの視線に気づいた紀平が説明する。

「ああ、あれですか。戒厳令が出たんですよ」
「戒厳令……」
「ええ。それで我々も決起軍ではなく、戒厳部隊に組み入れられることになったんです」

そういうことか。
紀平らも、決起はしたものの成功するかどうかは不安だったのだろう。
それが叛乱軍と規定されなかったことでみんな喜んでいるというわけだ。
紀平も微笑を浮かべてすみれに言った。

「いろいろお騒がせしましたが、もう我々もここから引き上げることになるでしょう」
「え……」
「恐らく、お父上の重樹社長にも手を掛けずに済むかも知れません。まあ命令次第ですが」

紀平としても、すみれの父とは面識があるし、彼女のことを思えば殺したくはなかった。
だが、他の部隊がここを襲撃した場合、すみれが重樹をかばいでもすれば、すみれごと殺害しかねない。
それを心配したからこそ、泣く泣く紀平が神崎邸襲撃を買って出たのである。

すみれはすがるように紀平に聞いた。

「帝撃は……無事なのでしょうか?」
「……」
「さくらさんはどうなったのですか?」
「……」

紀平はそれらの質問には答えず、シャツに腕を通した。
そしてこう言った。

「……申し訳ありませんが、すみれさん自身がご無事だっただけでも幸運だと思ってください。お父上の件も何とかしたいと思っていますが……」
「そ、それじゃ約束が違いますわ! あなた、帝撃を……さくらさんを助けると言ったじゃ
ありませんの!」
「……」
「だから……だから、わたくしは……あ、あなたの自由になったというのに……」

この日も紀平はすみれの肢体を抱いたのである。
朝食後すぐ部屋に現れ、有無を言わさずに押し倒した。
もちろんすみれは嫌がり、拒否もしたのだが、何度も何度も紀平に貫かれ、その味を覚え込ま
されてしまった肉体は、愛撫され、突き込まれると、脆くも崩れてしまうのだった。

あれだけ抗っていても、最後には泣いてよがり、喘ぎ、身悶えてしまう。
そして目一杯恥ずかしい姿を晒して絶頂まで押しやられるのだ。
そのたびに、激しい羞恥と屈辱がすみれの胸を白く灼く。
それが何度も繰り返され、その灼き付きがすみれの心にカサブタのように残っていた。

「確認はしてみます」

そう言って紀平は立ち上がった。

「ですが、期待はせんでください。では後ほど」
「ああ……」

すみれは、さくらや帝撃のことを思い、その瞳の端から細い涙をこぼした。

* - * - * - * -* - *

その頃、京極慶吾陸軍大将は、参謀本部と陸軍省の若手将校たちにつかまって言い寄られていた。

「大臣! 今朝の大臣告知は何ですか!」
「……戒厳令か?」
「そうではありません!」

軍務局の中佐が詰め寄る。

「戒厳令はけっこうです、いずれ出さねばならんものですから。ですが、叛乱軍を警備部隊に
編入するというのは何です!?」
「そうです!」

参謀本部の作戦課長も同意した。

「彼らをして、陛下が「叛乱部隊」と呼ばれたことはご存じでしょう! その彼らの行為を
認めるということでありますか!?」
「……」

京極は、戒厳令はともかく、決起軍の警備部隊組み込みの件に関しては参謀本部や軍務局の
連中には内密に行なったのである。
手回しした参議官会議のみで決定し、一気に押し切ってしまおうとしていたのだ。

ところが、決起軍と協力するよう言われた戒厳部隊の方から抗議が出たのである。
なぜ賊軍と手を組むのか、と。
それを伝え聞いた参謀本部が激怒した、ということだ。

大臣告示を詳細に見てみると、確かにそう記入してあった。
しかもこの告示は参謀本部を素通りしている。
彼らにとって了承できるものではなかった。

少佐参謀が言う。

「大臣、今朝方、海軍が東京湾に艦隊の展開を終えたそうですぞ」
「そうか……」
「連合艦隊の新鋭旗艦・長門を先頭に、第一艦隊の総勢四〇隻以上が、高橋司令長官の直率で
湾に布陣しております。船腹を港に向けて横一線に並び、主砲を三宅坂一帯に向けていると
報告がありました」

京極は軽く舌打ちをする。
山口のジジイめが、本気か。

「海軍次官から陸軍省に連絡がありました。艦隊の展開を終了したので、いつでも戦闘可能だ、と。
ついては陸軍側と叛乱軍鎮圧について共同作戦をとりたいとのことです」
「大臣閣下、海軍の本音は、もし陸軍が決起軍を助長したり加勢したりすればタダじゃおかん
ぞ、ということです。この告示のままなら、海軍はやってきますぞ」
「……」

軍務局の内政班長も言った。

「その通りです、閣下。我ら陸軍としても、このまま連中を見逃すようなことがあれば、陛下
や国民へ顔向け出来ません!」

京極は、激しく言い募る若手士官たちから這々の体で切り抜け、何とか陸相官邸まで引き上げた。
どさりと椅子に腰を下ろすと、ふーっと太いため息をついた。
そこへ秘書官が茶を持ってきた。

「お帰りなさい、閣下。その顔色ですと、首尾は上々とは言えないようですな」
「……」

それには答えず、熱い茶を口に含んで、冷え切った身体を暖めた。

「……どうもいかんな。陛下も参謀どもも頑なだ」

やはり……、と秘書官は思った。
軍務局や参謀本部の少壮将校たちは、理由はどうあれ天皇の軍を私兵して決起したことを許し
はすまい。
それは陸軍が政府に対してたびたび指摘、抗議していた統帥権の侵害に他ならないからだ。

それだけではない。
決起軍と思想が似ていたり、共鳴していた士官たちにしても、不意打ちに近い形の今時事件
には平静ではいられまい。
「自分たちは無視された」と思っているからだ。

「海軍からもな、告示文に対して、山口だけでなく軍令部総長から公式に抗議があった」

ハト派の山口海軍大臣はともかく、軍備縮小を押しつける現政権を苦々しく思っていたと言わ
れる三井軍令部総長まで強硬にねじ込んできたのである。

「三井大将までですか……。それでは……」
「うむ。これまでかも知れんな」

京極は重々しく頷いて言った。

そもそも京極自身はこのクーデターに命を懸けているほどではない。
彼はもう一度クーデターを起こすつもりなのである。
今回の決起は、こちらの言い分を聞かねば武力に訴えるぞ、という陸軍の、というか京極の
意思表示のつもりなのだ。
あまり陸軍を掣肘しようとすれば殺される、という強迫観念を政府や財閥に植え付けたかった
のである。

従って、京極にとっては、このクーデターは政権転覆のためでなく、将来のための障害除去で
あり、恐喝だったのだ。
故に、要人殺害こそが目的だったとも言える。
この辺は、決起軍の将校たちとは完全に目的が異なっていた。
無論、京極が裏にいることは、決起軍の天笠らを除けばほとんど誰も知らない。

「実施部隊が犠牲になりますな」

秘書官が言うと、京極が答えた。

「日本維新という目的は同じでも、戦術と戦略では観点の相違が生まれるものだ」

戦術とは決起軍であり、戦略とは京極のことだろう。
雀と鷹では視点が違うと言いたいわけだ。

「……今いちど陛下に拝謁申し上げるか」

そう言って、陸軍最高責任者は立ち上がった。

* - * - * - * -* - *

神崎屋敷。
すみれと紀平の居る部屋からもっとも遠く離れた角部屋にさくらは押し込められている。
今日でまる三日、凌辱の嵐にさらされていた。

今日も朝からほとんど休みなく犯されている。
ひとりずつ順番に抱くものだから、必然的に時間もかかる。
五分で終わるやつもいたが、一時間近くかかるのもおり、平均すればひとりあたま三十分ほど、
さくらの身体を貪っていた。

ひとり一回で終わればまだいい。
一通り終わってから、また先頭から犯し始めることすらあった。
神崎邸に押し入った部隊の大半は引き上げており、残った兵たちは監視くらいしか仕事がない
ため、こうして交代でさくらを辱めているのだった。

室内はムンムンした熱気がこもっていた。
さくらから漂う甘い女の香り、そして男の出す精の匂い。
その部屋の真ん中で、さくらは縛られていた。
いくら犯してやっても、この女の抵抗は弱まらず、こうして縛るしかなかったのである。
それでも、何度か気をやらせれば、今度はか細く泣きながら行為の続行を訴えるほどにまで
堕ちかけている。

変化をつけるためにも、その都度さまざまな体位で縛り付けられた。
今は膝立ちで、膝と足首を机に固定されている。
両手は肘をつかされて、そこを縄で縛られた。
四つん這いだが、下半身を思い切り突き出すような恥ずかしい格好である。
この状態で、今朝ももう四人に犯されていた。
今、さくらを貫いているのは五人目の男である。

「は……あっ、く……あ、あむ……お、おおきい……んっ…」
「あ、ううっ」

さくらとともに兵も呻いた。
締まりがきつい。
このさくらという女、犯れば犯るほど味がよくなってきている。

濡れ濡れになっている襞が蠢く。
膣の中は熱くて狭い。
何もしないでも射精してしまいそうになる。
その感覚から逃れるように、兵はいったんペニスを引き抜くと、改めてずぶりと奥まで刺し貫いた。

「んんんううっ……あ、はあっ……あ、あ……」

さくらには、今自分を犯している男が誰なのかわかっている。
もう何回も犯されているため、どの男がどのペニスなのかわかるようになってしまった。
この男がいちばん太い。
さくらは裂けそうな苦痛を膣に感じ、それでいて子宮がとろけそうな甘美さも味わっていた。

「んっ……ん、はあっ……ん……んくっ……」

さくらは男のペニスの熱さと、自分の膣内の熱さに酔っていた。
強姦されているとは思えない濃密な性交に、自分の身体が信じられなかった。
太いものでムリヤリ押し広げられる感覚に、さくらは身を突っ張らせて耐えている。
きつめだった膣も、何度も抜き差しを繰り返してやると、そのたびにさくらから滲み出る粘液
でペニスがまぶされ、ねとねとになって律動を補助していた。

「はあ……はああっ……あ、あっ……や……やです…あっ……」

いやいやと腰をくねらせるが、男はその尻をがっちり掴んで放さない。
腰を突いてやると、液まみれになった肉棒と媚肉が擦れ合い、ねちゃねちゃと卑猥な水音を
立てていた。
とても輪姦されているとは思えないほどに愛液を溢れさせ、目一杯広がった膣は、ペニスが
出入りするごとに襞が引き出されてきた。

「うんっ…んああっ……だ、だめ…あっ……そ、そんなにされたら……あうっ…」

さくらのくびれた腰を掴み、ピストンの速度を上げると、膣の締め付けが一層強くなった。
そのうち、ペニスを打ち込むとじゅぶじゅぶと愛液が噴き出すほどになってきた。
切れ目なく膣を突き上げてくるペニスに我を忘れ、さくらは指を握りしめた。
さくらの喘ぐリズムが早くなり、それに合わせるように柔肉の締めつけもきつくなる。

「くぅぅ……あ、あっ……はっ…あっ…あっ…うあっ…ふっ…うあっ…」

男はさくらの背に覆い被さり、そのすべらかな肌触りを愉しむ。
そして腕を伸ばし、たぷたぷ揺れている乳房を思い切り掴み、揉み上げた。

「くっ、痛っ……ああっ……」

乳輪ごと引きちぎるほどの力で乳首をこね回される。
ズキズキした痛みが子宮まで突き抜け、それが快楽の痺れになって乳房にまた戻ってくる。
そこを大きな手いっぱいで揉み抜かれ、揺さぶられた。
散々揉まれたバストはしっとりと汗をかき、男の手に吸い付くような吸着力を見せていた。

男は胸だけでなく、伸ばした手で下半身も責めた。
敏感な肉豆をクリクリといじくりだしたのだ。

「乳首もここもずいぶん腫れてるな、おい」
「ああっ……そ、それは……」

盛んにいびられているのだから当然である。
しかしさくらには、そのことすら恥ずかしくて仕方がなかった。
大神に愛されているならともかく、こうして野卑な兵隊に犯されているのにどうしてこんなに
なるのか。

「す、すご……すごい……ああ、こんな太い……あ、あむっ……」

もうさくらの身体は男に従うだけになっている。
兵が腰を動かすと、ざわめくように襞が絡みつく。
そしてそのたびに濃いめの粘液が膣の奥から漏れだしてくる。

さくらが頂点に近づいていると知り、兵は強めに腰を入れだした。
さくらはすぐさま反応し、肉の秘壷をきゅうっと締め上げてくる。
胸を揉んでいた男はさくらの変化に気づく。
強めに腰を打ち込むと、充血していた乳首がさらに硬く尖ってくるのだ。
乳房も熱を持ち、なよなよと頼りない柔らかさだった肉が充実し、しこってくるのがわかった。

「この淫乱が。オマンコを強く突いてやると、おっぱいがしこってくるんだな」
「いやああっ……あ、ああうっ……あう、胸…」
「おっぱいだろ?」
「ああ、おっぱい、いいっ……ああっ……」

さくらの喘ぎ声も、語尾が震えてきている。
腰を中心に身体全体もぷるぷるしているようだ。
男は仕上げるために胸から手を離し、改めてさくらの見事にくびれている腰を力強く掴んだ。
そして勢いをつけてペニスを打ち込む。
たまらず、さくらは掠れた悲鳴とよがり声を出した。

「んはうっっ……、あう、あううっ……お、奥っ……太いのがあっ……」

じゅく、じゅくっとさくらの媚肉が小刻みに痙攣し、男根をきつく絞る。
兵は腰の奥に灼熱を感じ、ムチャクチャに腰を打ち付け始めた。

「ああ、そんなっ……き、きつい、激しいっ……あ、ああ、い……うう、いいっ……」

豊かに張った尻たぶを押しつぶすような激しい律動が加わり、さくらも忘我に近くなる。
揉み込まれた乳房も、乳首を中心にジンジンしている。
しかしもっと痺れているのは膣であり、その奥の子宮だった。

切なくて、もっともっと突き込んでもらいたかった。
そんな中、さくらは自分に押し入っている男根がぶるぶる震えてきているを感じた。
ただでさえ太かったものが、さらに一回り太くなった気もする。

(こ、これは……)

さくらは桃色に染まる頭で考えた。
これは射精が近いのではないだろうか。
もしそうなら……。

「あ、あああっ……お、お願いですっ……出さないでっ……」
「出すな? バカ言うな、精を出すためにやってるんだろうが」

男はさくらの柔肉の快楽に責められ、必死に射精を堪えて腰を使っている。

「ああ、でも……、な、中はだめです……お腹の中には出さないで……せ、せめて外へ……」

そうか、この女、まだ膣内射精を怖がっているのか。
終いには殺されるのだから、妊娠しようがどうしようが構わないだろうに。
もっとも、妊娠がわかる前に殺されるのは確実か。
男はそう考えながら腰をひねり、さくらから悲鳴と甲高い喘ぎ声を絞り出した。

「だめだ、おまえの中に出してやる」
「いや……いや……」

どうせ犯すなら、最後の最後まで妊娠の恐怖を味わわせて中出しした方が面白い。
激しい責めで絶頂に達し、中に出されて絶望した女をまた犯す。
それこそが凌辱だと思った。
男は下からしゃくり上げるようにして、さくらの膣深くまでペニスを差し込み、子宮めがけて
一気に射精した。

「いっ、いやあああっ……出てる、出てるっ……ああ、妊娠しちゃう……」
「あんだけ大勢に犯られてんだ、どうせもう孕んでるよ」
「やあああああ……」

男はさくらをさらに貶め、うそぶくように言って射精を続けた。
さくらの膣は、ペニスをまるで絞るように締めてくる。
尿道に残った残滓まで絞り込むごとく絡んでくるのだ。
さくらの理性が妊娠を恐れていても、女としての身体は強い男の精子を望んでいるのだろう。

「あ、ああ………」

男が肉棒を引き抜くと、さくらは突きだした尻をぶるるっと震わせて、がっくりと顔を伏せた。
まだ身体のあちこちが痙攣し、全身からは匂い立つほどに汗が滲んでいた。
息づかいも荒く、さくらのいきっぷりが激しかったことがわかる。

さくらは声を忍ばせて泣いた。
男たちに責め立てられ、絶頂を極めさせられるたびに、大神との絆が薄れていくように感じた。
自分はこれからどうなるのだろうか。
このまま犯され続けたら、男たちの望むように、淫らな肉欲に浸りきってしまうのではないだろうか。
三ヶ月後に帰国する大神に会わせる顔がない。
それを思うと、さくらの瞳からとめどなく涙が溢れてきた。

五番目の男が去ると、すぐに六番目の兵が入ってくる。
男が軍衣を脱ぎ出してもさくらは気づかなかった。

「あっ……」

尻たぶをぐいと割られて、はじめてさくらは兵に気づいた。
六番目の男のようだ。
さくらは目を固く閉じて、これからの暴虐に耐える努力をする。

男の熱い指に尻を掴まれると、さくらはイヤでも男のペニスを想像してしまう。
確かこの男のものがいちばん長かったはずだ。
さっきの五番目の兵ほどに太くはなかったが、その長さときたら七尺か八尺くらいありそうだった。
あれを思い切り奥深く突き入れられると、膣の最奥にある子宮口に軽く到達し、さらに上へ
押し上げるくらいすごかった。

男は、ものも言わず、割り開いたさくらの尻にペニスをあてがい、股間の肉孔を探り当てた。
すでに腿にまで垂れている女汁でぬめっている淫裂は、あっさりと肉棒を飲み込んでいった。

「か、はっ……」

入れられた瞬間、さくらは仰け反って呻いた。
さっきの男のように、身体を引き裂かれるような膣の痛みこそないが、どこまでも押し入って
くる感覚がたまらない。
男が深々と根元まで突き刺すと、それまで踏ん張っていたさくらの全身から力が抜けた。

「うっ…は……はうっ……あっ……んはっ……あうっ……」

男は前屈みになって両手を伸ばし、さくらの滑らかな腹を撫でた。
すべすべしていたであろうその肌も、今は汗と淫液でベタベタしている。
それでも男は、腹から脇腹にかけて撫で回す愛撫を繰り返していた。
この男は他の兵たちとは少し趣味が異なるらしく、あまり胸だの尻だのには触ってこない。
媚肉もさほど愛撫しない。
もちろん、乳房を揉んだり、クリトリスをいじることもあるが、他の責め手に比べれば随分と
少なかった。
そういうありきたりの箇所ではなく、腹や腋、背や肩、指などを舐めしゃぶったり、さすったり
して、新たなスポットを探すのが好きらしかった。
さくらもこの兵のせいで、自分でも気づかなかった性感帯をいくつも知らされた。

「ひいぃっっ……あ、そこ、だめですっ……きゃあっ……あ、い……ううっ」

突然さくらが甲高い悲鳴を上げた。腋の下を舐められたのだ。
ここもこの男の手で確認させられた性感帯だった。
触られてもこそばゆいだけだった脇腹や鎖骨周辺、乳房の下あたりにある肋骨付近、そして腋。
それらは、この兵に執拗に舐められ、指で揉まれ、さすられているうちに、くすぐったさより
も性的な快感を覚えてしまうようになってしまっていた。

特にさくらは腋の下が弱かった。
ここを指でこそこそとくすぐられ、舌でねっとりと舐められると、鋭い快感が子宮にまで届く
ようになってきた。
また、男もここを責めるのに熱心で、舌全体でベロリとやることもあれば、舌先を硬く尖らせて
グリグリと擦るように這わせることもあった。
どの刺激もさくらの性感は反応し、念入りに腋を責められるだけで、割れ目がぐっしょりと濡れ
そぼってしまうほどだった。

「くっ……くぅっ……あむっ……むっ……」

兵が、深く鋭く、抉るように突き立てるたび、さくらの肢体が乱れ、噛みしばった口から苦しげ
な呻き声がこぼれている。
腰を突く間にも、男の手と舌はさくらの肌に執着している。
舌は二の腕の裏を這い、指は慎ましやかな臍を揉んでいた。
その異様な快感にさくらは呻き、身悶えた。
責めの結果を声に出すことだけは避けたかった。
いつもそう思うのだが、最後には身も世もないほどに喘ぎよがり、女の哀しさを晒してしまう
のが常だった。

「はうっ……うむっ……あっ……ひあっ…」

男の律動は規則的になっている。
いっぺんにではなく、徐々にさくらを追い込むつもりなのだ。
軽いピストンを続けて膣への快楽も持続させ、手と舌で全身を嬲ってさらに愉悦を加えてやっていた。

じわじわとした攻撃を一〇分も続けたところで、男は責めを切り替えた。
悩ましく身悶えているさくらの美貌に我慢できなくなってきたのである。

「ひゃあっ……ああっ……ひっ……あ、ああっ……」

さくらの声の調子が変わった。
それまで背筋を根気よく舐めていた舌が、うなじの髪の生え際を舐め出し、臍を嬲っていた指
が、硬く充血した乳首を転がし出したのだ。
しこった乳首を転がされ、指で優しくつぶされると、ビーンと背筋に官能の電流が走る。

それまでの焦れったいような愛撫が、いきなり直接的になったこともあって、胎内に快く響いてくる。
下からすくい上げるように乳房をさすったかと思うと、一転、根元から絞り込むように強烈な
揉み込みをやる。
揉み方にコントラストをつけられ、乳首が爆発し、乳房はとろけてしまうような甘美さにさくら
は酔った。

腰つかいも微妙に変えた。
軽い突き込みだけでなく、深浅に加え強弱も変化させた。
さくらの性感はどんどんと揉みほぐされ、膣の襞は男根にまとわりついて離れようとしない。

「んっ……んっく……あうっ……んむっ……ああっ……」

男の淫らな腰使いで肉を抉られ、さくらは腰をぶるぶる震わせていた。
いくら押さえ込んでも噴き上げてくる快感に、とうとうさくらが喘ぎ出す。
男も遠慮なくさくらの腰をがっしり押さえ、今度は深々と奥まで挿入した。

「うっ、あああっ……ふ、深いっ……くはっ…」

責める兵が思いきり奥まで貫くと、身体を突き破られそうなほどに深くまで入れられる。
しなやかな肢体をぐいぐいと突き上げ、男の長大なペニスがさくらの膣内で暴れ回っている。

(だめ、だめっ……おかしくなるっ……あ、ああ、もっと……もっと深く……)

さくらはもっと深くまで欲しくなっていた。
硬いこの男根で子宮口を擦られる快感を思い出し、自ら腰をうねらせてしまう。
男の長いもので串刺しにされながら、さくらは身体の芯からわき上がってくる切なさ、やるせ
なさに白い裸身を悶えさせた。
この疼きは、肉棒の先で子宮を抉られるまで解消されそうにない。
それを促すように、膣の筋肉が男のペニスを締めてきていた。
それに応え、男は最奥まで突いた。

「そ、そこっ……すごっ、ふ、深いぃ……あ、あはああっ……」

奥まで届いた肉棒が子宮口を叩くと、膣襞が引きつったかのように収縮した。
さくらはポニー・テールの髪をばさばさ振りたくり、口からは悲鳴と喘ぎが交互に吹きだした。
汗に濡れた額や首筋に美しい黒髪がへばりつき、快楽に苦悩する表情と相まって、凄絶なほどの
美しさである。
清楚な日本人形のような美貌だったさくらは、今では妖艶さすら漂わせる熟れた女のそれに
なっていた。
固定された机がギシギシと軋むほどの突き込みを加えていると、さくらの形の良い唇からは、
悲鳴や呻き声よりも、喘ぎ声やよがり声の比率が多くなってきていた。

「は……はあっ…はあっ……く、くあっ……んう、んううっ……あっ……う、うんんっ!」

熱い淫液が滲み出る膣の奥を、硬い肉棒でコツコツ小突くと、さくらはびくびくと裸身を痙攣
させた。
一段と熱くなった内壁は、ねっとりとペニスに絡み、さらに奥へと誘う動きを見せた。
男は、その内壁にカリ部分を擦りつけ、下からしゃくり上げるように膣をこね回す。
すると亀頭部が背側の襞を直接擦りつける形になり、さくらはグウンと背筋をブリッジさせて
仰け反った。

もう机に水たまりが出来るほどに愛液が溢れている。
男根との結合部からは、とめどなく蜜がダダ漏れしているからだ。
男が突き込む速度を上げると、さくらは甘い声が出るのを止められなくなってきた。

「あ、ああぅっ……んんっ……あ、あ、い……だめぇっ……い、いいっ……」

男根が押し上げるように子宮口を突くと、さくらはガクンと裸身を反らせる。
とても堪えきれず、いくらでも口から洩れ出る熱い吐息と嬌声。
瞳も熱病患者のように潤み、腰はうねるのが止まらない。
肌はピンクを通り越して紅潮していた。
もうさくらが、どうしようもなく発情し、快楽の虜になっていることは誰の目にも明らかだった。

「あう、あううっ……だめ、いいっ……ぐうっ……いいっ」

さくらの女体は、もう男を求めることを遠慮しなかった。
激しく腰をうねらせ、尻を振る。
ゆさゆさと乳房を揺すって、膣を引き締める。
硬い感触が膣全体に広がる。
改めてさくらは、自分を犯している肉棒のたくましさを思い知らされた。

男はピストンの速度を落とし、出来るだけ深く入れることに専念した。
挿入するときはグンッと一気に奥まで突き入れ、抜くときは出来るだけゆっくりと、しかし腰
をひねって捻るように抜いた。
それを繰り返し繰り返しされるのだから、さくらはたまらなかった。

「うああっ、深いっ……あ、ああ、深すぎるっ……奥まで、ああ……と、届いて、当たってる
ぅっ……あ、いいっ…」

官能の沼に沈み込んでいくさくらを見ているうち、男も射精感が高まってきた。
まだもう少し我慢しようと思っていたが、ここまで甘美な肉の感触でどうしようもなくなって
きていた。
何とか気を紛らわし、また、さくらをさらに高めるために別の責めをする。
めいっぱい根元まで男根を埋め込んだ。
その感触にさくらはぶるるっと震えて叫んだ。

「うあうっ、深いっ……ふ、深すぎて恐い……んんんっ、当たる……」

男はさくらに腰を密着させるまで肉棒を沈め込むと、そのままぐるっ、ぐるっと円を描きだした。
硬いもので媚肉の襞と膣の奥までも拡げられる感触に、さくらは気が狂いそうになる。

「だめえっ、そ、それ、すごっ……いっ、いいっ……どうにかなるっ……いいっ」

さくらの媚肉を拡げるほどに大きく円を描く。
すると、めいっぱいくわえこんでいたはずの膣口と男根の間に隙間が出来、そこからボトボトッ
と濃厚な蜜が零れてきた。
軋むほどに襞を抉られ、膣口周辺が赤く爛れるほどに擦られ、拡げられて、さくらは絶息する
ほどによがりまくっていた。

「いっ、いいっ……狂う、狂っちゃいますっ……かはあっ…あ、あうう、い、いいっ……」

さくらの、あまりの乱れっぷりに、男もいよいよ切羽詰まってきた。
堪えようとしても腰の後ろが熱い。
高ぶる射精感を抑えようがなくなってきた。

それはさくらにもわかった。
媚肉を荒らし回り、膣の中で暴れ騒ぎ、そして子宮が痛くなるほどにつっついてきた硬いペニス
がひとまわり太くなった気がしたからだ。
それでいて、ビクビクと痙攣もしている。
間違いなく射精の兆候である。

うんざりするほど膣内に射精されまくっていたさくらは、そういう男の生理もわかるようになっ
ていた。
今までなら、どんなに性の悦楽に飲み込まれていても、射精されるとわかったら一気に醒めて
しまい、必死になって抗ったものだ。
なのに今は、射精されるのを今か今かと待っている自分がいる。
膣内に、それもこの男のように長大なもので子宮口で射精されたらどうなるのかもわかっている。
だが、今のさくらには孕まされる恐怖よりも、熱い男の精液で膣内を汚され、子宮に流し込ま
れる快感の方が打ち勝っていた。

今までにないさくらの快感表現に、男もすっかり興奮していた。
我慢の限界が来る前に、猛然と腰を使って子宮口を責めまくった。
大事な内臓を小突かれて痛いはずなのに、さくらの口からは別の言葉が出た。

「んあうう、いいっ……し、して……中にぃっ……は、早く出して! 出してっ……ああ、
いいっ……」

男は奥まで届かせた先っぽで、さくらの子宮口をなぞるように擦るマネまでしてのけた。
この刺激にはたまらず、さくらは一気に頂点に駆け上ってしまった。

「ああ、そんなっ……それ、いっちゃいますっ…あ、いい、いくっ……あ、いくうっ…」

兵は、きゅううっと締まる甘美な締めつけを懸命に耐え、さらに奥まで差し入れた。
相変わらず締めつけてくる媚肉の襞と、気をやったさくらのうっとりとした美貌に、恐ろしい
ほどの射精感が精巣からこみ上げてきた。
もはや限界と、男はスパートをかけ、子宮を刺激した。

「あ、ああっ……も、もういきましたっ……だめです、もう、ああっ……ま、また来る! 
ああ、いいっ……来る、来ちゃいますっ……い、いっちゃう……いく、いきますっっ!」

突き込む襞の絡みつく感触と、子宮に当たるカリの心地よさで、尿道からカウパーが先走り
出てきていた。
気をやったばかりのさくらの子宮が、徐々に口を開いてきているのが亀頭でわかった。
男はそれを確認すると、鈴口の先を開いた子宮口に合わせ、腰の動きを止めた。
そこで一気に高ぶった欲望を解放した。

どびゅるうっ。
びゅるんっ。
びゅくっ。
びゅく、びゅくっ。
びゅびゅっ。

どろりとして、半ば固形化したような濃い精液が勢いよく射精された。
尿道口を子宮内に押し込んだ状態で射精したため、精液はほぼ全量がさくらの子宮めがけて飛び
込んでいった。

「うあああっ…あ、熱いっ……こ、濃いのがいっぱい……ああ……ま、また、いく!」

子宮の奥深くまで白濁した粘液を注ぎ込まれ、さくらは連続三回目の絶頂に達した。
男の精液は、よくもこれほどと思えるほどに次々に迸り、流し込まれた。
うねり、痙攣するさくらの腰をがっちり抱え込み、男は深く挿入したまま射精し終わるのを待った。

「ん、んん……ま、まだ出てる……どうしてこんなに……ああ……すごい……」
「……」

無口な男は、完全に精を出し切ってから肉棒をずるずると引き抜いた。
まだまだ硬直したままのそれが膣をこそぐように抜き取られると、さくらはぷるるっとまた痙攣した。
まだ激しい絶頂の余韻に浸りきっている尻も、間歇的に小さく震えている。
そして媚肉もまだ開き気味で、胎内がたぷたぷ言うほどに注ぎ込まれた汚液が、糸を引くように
垂れ滴っていた。

「……」

美女のそんな姿態を見せられて平然としていられる男などいない。
勃起していた男根の先から、見る見るうちに透明な汁が漏れてくる。
連続して突っ込みたいという欲望にかられたが、それはルール違反だし、まだ待っている兵も
いるので、この場は我慢することにした。
だが今日は、全員が終わったら、またこの女を思い切り犯そうと誓うのだった。

* - * - * - * -* - *

京極陸軍大臣は、姉小路侍従と峰崎内大臣秘書官長に呼び出された。
姉小路侍従は殺害された久谷侍従長の、峰崎秘書官長も殺された崎山内相の、それぞれの代理
として天皇に付いていた。
天皇はもう京極に会おうともせず、人を介して命を伝えた。

「京極大臣、陛下からの御言葉です。『火急的速やかに賊軍を平定せよ』」
「賊軍……」

京極は唖然とした。
叛乱軍どころではない。
「賊」という言葉を天皇は使っていた。
そこまでに怒りが激しいということか。

「京極さん」

呆然としている陸相に峰崎が声を掛けた。

「おわかりですな?」

京極は慌てたように回答した。

「わ、わかっております。皇軍相撃を避けるべく、目下、決起軍を説得しておるところであります」
「わかっておらんようですな」
「……」

姉小路が、下から睨め付けるように京極を見た。
侍従長が陸軍に殺されたことで、その長たる京極に好意的にはなれなかった。

「陛下はこうも申されました。『軍が手をこまねくならば、朕自ら近衛師団を率いてこれを鎮圧
せん』と。陛下は本気でしたぞ」
「……」

思った以上に状況が悪い。
陸相を辞任するどころか、予備役編入もあるかも知れない。
衝撃に肩を震わせる京極の肩を峰崎が軽く叩いた。

「まさか、陛下に陣頭指揮していただくわけにもまいりますまい。そんなことをしたら臣下の
名折れでしょう」

姉小路も言う。

「その通りですぞ。陛下は、陸軍の動きが悪ければ海軍で、とまでおっしゃっております。
そうなれば陸軍のメンツは丸つぶれではありませんか」
「これは内密の情報ですが」

峰崎がダメ押しする。

「陛下は陸軍の対応を不満に思われ、本日中に奉勅命令が下達されます。勅令が下る前に、陸軍
としても体裁を整えるべきでしょう」

* - * - * - * -* - *

さくらは虚ろな瞳で服を脱いでいる兵を見ていた。
心も体も疲れ切り、ぐったりしている。
無理な姿勢をとらされて縄で縛り上げられているため、関節の節々が固くなり痛んだ。

目の前の兵のことを思い出す。
七番目の男だった。
この男のペニスは、サイズは平均的だったが、竿が大きく左側に曲がっていた。
それを挿入されると、他の男とは違ったところを亀頭で擦られて、さくらは悶絶しそうになる。
それを知ってか、その兵は突っ込んだままグリグリとこねくり回すのを得意としていた。
曲がった先端が、膣内部の襞を引っ掻くように抉り回し、それだけでさくらは気をやってしまい
そうになるのだ。
またそうされると思うだけで、さくらの心から抵抗心が薄れ、淫らな行為への期待で媚肉から
新たな花蜜がトロトロと流れ出るのだった。

稲田一等兵は、さくらの部屋の前で歩哨に立っている。
さくらは凌辱し尽くされ、足腰が満足に立たぬほどに犯されているのだから、もはや縛っておく
必要もなかった。
逃げだそうという気力も体力も喪失しているだろう。

それでも歩哨を立てているのは、紀平中尉に見つからないためである。
人は良いが、規律に厳しい中尉がこの状況を発見したら、首謀者の永田軍曹らはタダでは済む
まい。
そもそも紀平は、さくらを殺せと命令していたのだ。
それを未だに殺さず、こうして性奴隷として飼っていたなどと知ったら、命令違反と軍規粛正の
両面で彼らは罰せられるだろう。

稲田は、輪姦の仲間に入らなかったため軍曹らに疎まれ、こうして立ち番させられていた。
もっとも、命令されなくとも稲田は立哨を買って出ただろう。
さくらが気になっていたからだ。

がちゃりとドアが開いた。
満足げ、というよりはやや疲労の陰をこびりつかせた表情で、最後の兵が出てきた。
これで今日も、稲田を除く永田の分隊全員七名がさくらを凌辱したことになる。
また時間を置いて、最初から犯していくのだろう。

「……」

俯いている稲田を目の端に捉えながら、兵は歩み去っていった。
稲田は、手に水を張ったバケツと手拭いを持って、部屋の中へ入っていった。
輪姦の後始末が彼の仕事であった。

「……」

相変わらず無惨な状況だった。
もう縄をほどいても逃げる意志もないのだから自由にしてやればいいのに、と思う。
だが彼らは、縛った女を犯すという倒錯的なセックスを愉しんでいるので、どうあっても拘束は
解かないだろう。
それどころか、だんだんとエスカレートして、無理な姿勢で縛るようにすらなっている。

稲田は黙ってさくらの縄を解き始めた。
足首と膝、肘の縄をほどき、机に横たえさせてやるが、関節が曲がったまま固まってしまっていた。
感覚が麻痺してこわばってしまっているのである。
稲田はそれを優しくマッサージしてほぐしてやった。

「……」

さくらは瞳を半開きにしてそのままになっていた。
意識は半覚醒といったところなのだろう。
稲田の行為にも反応を示さなかった。

若い兵隊は、手拭いを水に浸し、固く絞ってさくらの身体を清め始めた。
激しい行為と絶頂の余韻で、白かった肌はまだほんのり染まっていた。

稲田は、男の唾液や精液で汚れた裸身を丁寧に拭いていった。
特に、荒らされた股間は念入りに拭いた。
まだ締まりきらない割れ目からは、さくらの愛液と男どもの出した精の名残がとめどなく流れて
きている。
それを何度も何度も拭き取り、汚れた手拭いをバケツで濯いだ。
全身に浮いた汗や、こびりついている唾液や精液を根気よく落としていく。
汚辱にまみれた皮膚が、さくら本来の綺麗な素肌に戻っていった。

稲田はバケツの水を換え、手拭いも新しいものを卸した。
顔を拭いてやろうとしたのだ。
男の汚い汁や唾液を拭き取った手拭いで顔を拭くのは気の毒だ、と思う気持ちが彼にはあった。

「…あ……」

顔を擦られる感触で、さくらの意識が戻ってくる。
冷たい水でさらされた手拭いで顔を拭いて貰う感覚が心地よかった。

さくらが気を取り戻したのを知ると、稲田はおもむろに腰の水筒を取り出し、口に近づけてやった。

「うがいしろ」

どうせ口にも入れられ、射精されたことだろう。
精液が咥内に残って気持ち悪いに違いないと思ったのである。

「ん…んぐ……、ぷ、あ……」

さくらはされるがままに口に水を入れて貰い、軽くすすぐと力無くバケツに吐き出した。
口がすっきりすると、現状がはっきりわかってきた。
うっすらと目を開けると、あの若い兵隊が、また身体を拭いてくれていた。

脂汗にまみれた顔を丁寧に拭いている。
頬や髪の生え際もサッパリしていく。
今度は髪をしごいているようだ。
さくら自慢の長い黒髪も、汗を吸い取ってじめついていた。
それを濡れ手拭いでしごくように洗ってくれているのだとわかった。
さくらは、いつも言おうとして言えなかった言葉を今こそ言うべきだと思った。

「あ、あの……」
「?」
「ありがとう……ございます…」
「……」

男の欲望で穢れた身体を、いつも慈しむように清めてくれていた若い兵隊。
その顔つきも手つきも、他の兵隊たちから感じられたいやらしさはなく、さくらは疲労した身体
を安心して任せられた。
この兵も彼らの仲間なのだろうが、その礼だけは言っておきたかった。

「私……、真宮寺さくらと言います……。あの、よろしかったら、お名前を……」
「稲田」

稲田一等兵は、さくらの身体を拭き終わり、手拭いをバケツの中で洗った。
それを機に、さくらもむくりと起き上がった。
まだ節々が痛いが、稲田の按摩のお陰か、だいぶ楽になっている。

「稲田義雄」
「稲田……さん」

さくらはその名を噛みしめるように発音した。
そして彼から少し目を逸らせて言った。

「稲田さんは……、私を……辱めないんですね」
「……」

稲田もさくらから視線を外し、ポツンとつぶやくように言った。

「あんた……、仙台出身なんだってな」
「え?」

確かにさくらは宮城県仙台市の出である。
帝都に来たのは去年の話だ。

「自分も……、俺も宮城だ。伊具郡の丸森ってとこだ、知ってるか?」

知らなかった。
さくらは素直に首を振った。

「だろうな、仙台は町だからな……」
「でも、私は仙台でも山の方でしたから……」

稲田は再びさくらの方を見た。
ほんの少しだが、表情が緩んでいるような気がする。

「丸森ってとこはな、何にもないとこだ。痩せた土地で、僅かばかりの野菜や米を作ってる」

さくらが大きな瞳でこちらを見ている。
稲田は少しだけドキンとした。
そしてあることに気づき、少し慌てたように軍衣を脱いだ。

きょとんとするさくらの肩にそれをかけてやる。
今まではそうでもなかったが、こうして話していると、相手が若い女性であることを意識せざる
を得なかった。
それがオールヌードでは、若い男には刺激が強すぎるというものだ。
さくらは頭を下げて軍服を羽織った。

稲田はまた話し始めた。

「俺の実家も百姓でな、貧しかったよ」
「……」
「ロクに食うものもなかった。米なんか作ってても、みんな出荷しちまう。それでも大したカネ
にはならなかったけど」

稲田は厭なことを思い出すよう言葉を絞り出していった。

「何を食ってたと思う?」
「……」
「あんた、粟とか稗とか知ってるか? 関東じゃ牛も食わない雑穀さ。そういうのを食って生き
てきたんだ。ふすまも食ったが、当然知らないだろうな」

さくらは沈黙せざるを得ない。
地元では真宮寺家の名は知られていたし、父が陸軍の高級将校だったこともあり、富裕ではない
にせよ、取り敢えず食べるのに困ったことはなかった。

稲田は中空を見つめたまましゃべり続けた。

「なのに子沢山でな、男は俺を含めて三人、女は四人の七人兄妹だった」

稲田は何か思い出すような遠い目をしたあと、さくらに聞く。

「あんた、何歳だ?」
「え……、十九ですけど……」
「そうか、十九か……。妹と同じだな」
「……妹さんがいるんですか?」

稲田は軽くうなずいた。

「ああ。俺は二十歳だが、ひとつ下にいたんだ」

さくらは、稲田が「いた」と過去形を使うことに気が付いた。

「あの……、立ち入った話ですけど……今はいないんですか?」
「生きてはいると思うがな」

そこで稲田は雑のうからタバコを取り出し、口にくわえた。

「今から三年前かな……、売られたんだよ」
「売られた……?」

東北は貧しかった。
徳川時代の年貢制度こそなくなったが、税を納めることは同じだった。
むしろ、米という現物納付ではなく現金による税金に変わったため、かえって苦しくなったとこ
ろも多かった。
それでいて補助などほとんどない。
土地の開墾や改良も、小作農では出来っこない。

そんな中で、ひとたび冷害でも起これば、簡単に飢饉になった。
大飢饉が起こるたび、東北地方には人買いが横行した。
子どもや娘の売買である。
今日の食事のため、娘を売る家が後を絶たなかった。
数少ないまとまった現金収入であるところにもってきて口減らしにもなる。
言ってみれば一石二鳥だ。

「そんな……」

さくらは絶句した。
話には聞いていたが、同じ宮城に住んでいて、そういうことをちゃんと考えたこともなかった。

「だから生きてはいると思う。どこの遊郭に売られたか知らんがな。オヤジもおふくろも、カネ
のために妹を売ったのさ」

吐き捨てるような弾劾に、さくらは言葉もなかった。
身を売るどころではない。
身体まるごと売り飛ばされ、人格すら否定されるのである。

稲田は続ける。

「姉や妹のうち、二人が売られて一人は病気で死んだよ。あとひとり妹がいるが、こいつはまだ
五歳だ。だが……」
「……」
「このままなら、来年あたり売り飛ばされるだろうな。女工見習いってとこだ。遊女よりゃマシさ」

かける言葉は、その辺には見つからなかった。
だからさくらは黙っていた。

「もう、こんな思いはたくさんだ。東北の百姓を救うには、今の政治じゃダメなんだ!」
「だから……ですか……」
「そうさ! だから中隊長どのは……、俺たちは立ち上がったんだ。この日本を作り替えるんだ! 
維新を……」

さくらは悲しげな顔で稲田の言葉を遮った。

「そのために人殺しをするんですか……」
「……」

さくらは稲田の顔を真っ直ぐ見つめて言った。

「私、今、稲田さんに聞くまで、東北がそんなにひどい状態なんだって知りませんでした。
お話を聞いていると、確かにどこか間違ってると私も思います」

稲田は黙って聞いている。

「でも、私、思うんです。稲田さんたちが正しい目的のためにやっていることなのに、それが
こういう形になるのも悲しいって」
「……」
「どんな理由があるにせよ、人を殺すのはいけないと思うんです」

稲田はタバコに火を着けるのも忘れ、言った。

「……どんな大義にも犠牲はつきものだ」
「犠牲って……」
「中隊長どのがそうおっしゃってた。殺されて当然のやつらを殺すのは仕方がない。自分の娘
を売り飛ばす連中も同罪だ!」
「でも!」
「……」
「でも……、死んで当然の人なんていないと思います。それに犠牲って……、そういうもの
じゃないんじゃないでしょうか」

さくらは少しうつむき、考え考え言葉を紡いだ。

「犠牲って軽々しく口にする人がいますけど、そういう人やその身内が犠牲者の側に入ってた
ことってあるでしょうか?」
「……」
「それに、稲田さんのご両親も……。そうしないと稲田さんたちを育てられなかったんでしょう?」
「そんなことはわかってる! だけど、そのために子どもを売るなんて……」
「だからご両親はとても悲しかったんだと思います」
「……」
「稲田さん」

さくらは優しく稲田の手の上に手を重ねた。

「!」
「稲田さんたちの思いは正しいと私も思うんです。でも……、でも、こういうやり方は間違ってます」
「……」

稲田はさくらの手を振り払い、立ち上がった。
どこに向けたらいいかわからない怒りと、いらだたしさに、手にしたタバコを握りつぶした。
そして、さくらから少し乱暴に軍服を剥ぎ取ると、足音も荒々しく部屋を出ていった。



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