突如、部室のドアが乱暴に開かれて浅倉南が走り出てきた。
夕方遅く、帰り支度を済ませて下駄箱に向かおうとしていた部員たちも、驚いたようにそっちを見ている。
南は、体育館の片隅でバトンやボールを片付けていた紀子のもとへ一直線に走っていった。
紀子もびっくりしたような表情をしていたが、それでいて目元には歪んだ笑みが浮かんでいる。
「どうしたの、浅倉さん」
「キャプテン……!」
紀子は、まだ残って成り行きを見守っていた部員たちに「帰りなさい」と指示してから、南の肩を抱いて事情を聞いた。
南の目には涙の露が宿っている。
「由良コーチが……」
「由良さんが……、どうしたの?」
「それが……」
どうも浣腸すると言ったらしい。
まだ南に手を出してはいないだろうに、そっちを省いていきなりそこまで行くのかと、紀子は少し驚いたが顔には出さなかった。
そして南の両肩に手を置きながら説明する。
「そう、コロン・クレンジングするって言われたのね」
「はい……」
南としたらショックである。
そういうものがあることは知っていたが、無論、されたことなどないし、まさかされることになるとは思いもしなかったからだ。
だいたい、そんなことにどんな効用があるというのだろうか。
この疑問に対して、紀子は落ち着いた口調で答える。
「意味はわかるわよね、浅倉さん」
「はい……」
「平たく言えば腸内洗浄。つまり、お腹の中のお掃除するってわけ」
「でも、私……、別にべ、便秘とかじゃないし……」
「そう。でも、快便の人でもね、腸内って意外と汚れているものなのよ」
「……」
「宿便って聞いたことあるでしょ? これを除去するにはそれしかないの。普通の人は宿便を抱えていても大きな健康問題にはならないと思うけども、
私たちにはけっこう影響があるのよ」
紀子の説明によると、これによって腸内細菌の改善、痛んだ腸内粘膜の代謝促進という効果があるのだそうだ。
そして宿便を排泄することによるダイエット効果もあるようだ。
南自身、自分の体型が10代の頃と変化してきていることは自覚している。
これによって数キロ痩せる例もあったと聞かされると「どうしようか」と迷ってきてしまう。
由良も、南の体型がおとなのものへ変わりつつあるのを知って、最後の手段としてこれをやろうとしたのではないだろうか。
体型を戻すことは難しいだろうが、体重を減らすことは可能なはずだ。
戸惑っている南に、紀子が優しく言った。
「私もやったことがあるのよ」
「そ、そうなんですか?」
南も驚いたように紀子を見た。
自分だけかと思っていたのだ。
だからこそショックを受けたのである。
紀子はにっこりと笑って言った。
「ええ、そう。最初は私だってびっくりしたわよ、そんなことされるのかって」
「そうですよね……」
「恥ずかしかったしね。でも、効果は覿面だった。やって良かったと思ってるの」
「……」
「それにね」
心が揺れ動いている南に、紀子はダメを押すように言った。
「コーチが浅倉さんにそう言ってきたのは、あなたに期待しているからよ」
「え……」
「これは誰にも秘密なんだけど、他のコーチの人やトレーナーもそのことを知らないの。由良さんに言われた人だけしか知らない」
「……」
「だから誰も知らないのね。他人に言いたいことじゃないし」
紀子はそう言って苦笑した。
その顔を見ながら、南が不安そうに問うた。
「でもキャプテン……、そういうのってお医者さんじゃないとしちゃいけないんじゃないですか?」
「そんなことないわ。だって、イチジク浣腸ってあるでしょう? あれ、市販されてるじゃない」
「そうですね……」
「それに、注射器みたいな浣腸器だって大きなドラッグストアで買えるし、薬液だって売ってるわ。別に劇薬とかじゃないからサインしないで普通に買えるのよ」
「でも……」
「由良さんだって、それが女の子にとってどれだけ恥ずかしいことなのか、よく知ってるのよ。だからこそ誰にでもってわけじゃないの。あの人が見込んだ人だけなのね」
「……」
「浅倉さん」
「はい」
決心を促すように紀子が言った。
「別にコーチは強制してるわけじゃないのよ。浅倉さんがどうしてもイヤなら断っていいの。でも、由良さんは浅倉さんだからこそ、それをした方がいいと思ってるのよ」
南の性格からして、こうまで言われては断れないだろう。
相手はあくまで南のことを思って勧めている。
そして強要するわけではない。
そんな由良の親切心を拒絶するのはどうかと思ってしまう。
それに、恥ずかしいと思うこと自体おかしいのかも知れない。
紀子は医療行為ではないと言ったが、病院でもやっていることだ。
医者にかかってやってもらっていると思えばいいだけなのだ。
まだ羞恥は消えないが、南は紀子や由良の好意を無下にすることは出来なかった。
南は無理に笑顔を浮かべて
「わかりました、キャプテン。私……、してもらってみます」
と言って、部室へ戻っていった。
────────────────
南は、由良に指示された通り四つん這いとなった。
だが、まだ躊躇するように、ちらちらと何度も後ろの由良を振り返っていた。
紀子にその必要性を説明されたからといっても、完全に納得出来たわけではなかった。
羞恥心とて消えようもない。
いくら覚悟を決めたとはいえ、男性の前で、下着姿で恥ずかしい姿勢を取らねばならないことに変わりはない。
淫らな行為ではないと言われても、恥ずかしいものは恥ずかしかった。
南は処女だっただけに、余計にその思いは強かった。
下着と言っても新体操用のファンデーションなのだが、ブラとショーツだけである。
肌の露出が多いことも羞恥の元だったが、これからそれ以上に恥ずかしい姿になるのだ。
「浅倉」
「は、はい」
「下着を下ろしてくれ」
「……」
俯いて返事の出来ない南を見て、由良が言った。
「それとも俺がやろうか?」
「い、いいえ……。わかりました……」
他人に脱がされるよりは自分で脱いだ方がマシである。
南は顔を真っ赤にして、そっとショーツの裾に指を入れると、そのまま少しずつ下ろしていく。
手が小刻みに震えながらも、ショーツが尻を抜け、腿まで降りてくる。
手が震え、何度も動きが止まっているのは、「恥ずかしい、もうやめたい」という羞恥心と、「やらなければ」という意志が戦っているせいだ。
その様子を、由良はサングラスの下で眼を細めて眺めていた。
むっちりとした熟れた白い臀部が、由良の目の前に晒されている。
灯りを反射して、まばゆいばかりの艶やかさだった。
由良の喉がごくりと動き、そっと指が尻の谷間に伸びていく。
「ひっ!?」
秘められた場所に異様な感触を受け、南は仰天して振り返った。
由良は肛門を指でいじくっているのだ。
あまりのことに南は絶叫し、尻を振って這いずって逃れた。
「こ、コーチっ! 何をするんです!」
「……マッサージだが」
「マ、マッサージって……、だ、だって、そこ汚いです……」
「汚くはないだろう。トイレに行った時はちゃんと洗浄してるだろうに」
「そ、それはそうですけど……」
信じられなかった。
筋肉疲労のために腿や腰を揉まれるのはまだわかる。
しかし、よりによって排泄器官を揉みほぐす意味は皆無だと思う。
由良は、逃げる南を捕まえようとはせず、代わりにこう言った。
「浅倉、おまえ浣腸は初めてなんだろう?」
「初めてです」
「イチジク浣腸って知ってるか? 小さいやつだが……」
「はい……」
どこで見たのか忘れたが、確か使い捨てタイプの小さなディスポーザブル浣腸だ。
さっき紀子の説明にも出てきている。
しかし便秘癖のない南は、当然そんなものはしたこともない。
「それもしたことがないんだな?」
「ありません」
「すると、まったく初めてなわけだ。そういう場合、緊張して肛門が引き締まってしまうんだ。そうするとうまく挿入できないし、出来てもかなり痛いぞ」
「……」
「まあ、恥ずかしいだろうし、何しろ初めてなんだから堅くなるなという方が無理なんだがな。だからそこを揉みほぐすことで、少しでも苦痛を減らしてやりたいんだよ」
そう言われればそうなのだろう。
確かに今、自分のそこがきゅうっと引き窄まっているのがわかる。
緊張のせいもあろうし、そうでなくとも排泄の時でしか開く場所ではないからだ。
南は由良を見ていたが、彼は終始落ち着いていて、上擦ったところはなかった。
もし邪な思いや淫猥な気持ちを抱いていたならば、南の女性としての本能が察するだろう。
それがないのだから、本当に医療行為(ではないのだが)としてやろうとしているだけなのだろう。
しかも、初めての南に気を遣って、そこをほぐそうとしているのである。
拒絶するのは、あまりにも失礼な気がした。
紀子の話だと、由良の方は紀子を含めて、もう何人にも同じことをしているようだし、この場合、おとなしく従った方がいいと思えてくる。
意を決して元の位置に戻ると、また淫靡な指が肛門を嬲ってくる。
「くっ……、いや……」
「いやか?」
「あ……、その、いやじゃありません……」
本当は嫌で嫌でたまらないが、そうは言えないから否定しているだけだ。
由良の指がアヌスの皺をなぞるように擦ってくると、たまらず南は悲鳴を放った。
「んっ……! ひっ!」
健気に我慢している南に、責める由良も興奮してくる。
しかし濃いサングラスで表情を隠し、元来が無口なこともあって、ほとんどそれが見て取れない。
こうしたプレイも慣れっこだから、ということもあった。
肛門に刺激を与えて南にくぐもった悲鳴を上げさせつつ、由良はそこがかなり敏感らしいことを察した。
粘膜が指に吸い付くかのような粘着性を見せているし、まだ触れたばかりなのに早くもひくついているのだ。
嫌悪感でそうなっているのだろうが、ひどく敏感なことに変わりはなかった。
南の方は、目尻に涙すら浮かべて顔をなよなよと振っていた。
必要なことだとわかっていても、身体が勝手に拒否してしまう。
(ああ……、もういや……やめて欲しい……、うっ……)
指が蠢くたびにアヌスがきゅっと窄められ、南の背に力が入って腹筋まで震える。
よほど嫌なようだ。
どうしたって汚辱感と恥辱感はぬぐい去れなかった。
それでいて、愛撫されているアヌスの方はその刺激に対して鋭敏に反応し、揉みほぐされるとひくつき、緩んできている。
それが南にもわかるのか、時折「ううんっ」と踏ん張るように息んで、すぐに恥ずかしそうに俯く。
由良がそこを揉みながら問いかける。
「声を我慢することはないぞ。声が出るのが普通なんだ」
「……」
恥ずかしい声を堪えていることを知られ、南の羞恥はますます高ぶる。
「それとも……」
由良の目がサングラスの奥で光った。
「気持ち良くなってきたか?」
「そ、そんなことありませんっ……!」
「そうか。でもな、これだってマッサージなんだから、そうなっても不思議はないんだぞ。気持ち良いのを我慢することはない」
「気持ち良くなんか……ないです……、は、恥ずかしくて……」
「……とは思うが、我慢してくれ。診察されてるようなものだと思うんだ。医者に胸を見せて聴診器当てられるのも恥ずかしいといえば恥ずかしいだろうが、
仕方のないことなんだ」
「は、はい……」
南の手がぎゅっと拳を作り、震えている。
膝もがくがくとわななき、今にも逃げ出しそうだ。
そこを意志の力だけで押さえ込んでいるのだから、この娘の精神力はかなりのものだ。
しかし、もうそろそろだろう。
柔らかくボリュームたっぷりの髪で隠れているが、もう泣いているのかも知れない。
由良がそっと指を離すと、南はホッとしたように脱力し、「ああ……」と呻いた。
由良は寝台の横に、キャスターの付いた受け台に乗った洗面器を押していく。
そこへ白いボトルに入った液体をどぼどぼと無造作に注いでいった。
さらに、ペットボトルに入った水をそこに加えた。
泣き濡れた表情で、南はそれを見つめていた。
まだそれが何なのかわかっていないようだ。
しかし、そこに由良が大きなガラス製の浣腸器の先を入れ、吸い上げていくと、その美貌から血の気が引き、唇がわなわなと震えた。
「そ、それ……」
「ん? これが浣腸器だ。これを浅倉の中に……」
「そ、そんなに……!」
南は青ざめた。
白いホーローの洗面器にたっぷりと溜まった溶液を、太い浣腸器がキーッと吸い上げていく。
かなりの量に見えた。南としては、せいぜいイチジク浣腸くらいのものをされるのだろうと思っていたから、そのギャップはあまりにも大きかった。
「コ、コーチ、そんなに……、するんですか……?」
「そうだ。多く見えるだろうが、ま、そのうち慣れるさ」
「で、でも多いです、多すぎます……、も、もっと減らして……」
「これくらいなんだ、どうってことはないさ。浅倉くらい立派な尻をしてれば大丈夫だ」
「……」
恥ずかしいことを言われ、南の頬が燃えるように赤くなる。
手で尻たぶを撫でられ、身体がびくっと震えた。
そして冷たいものが肛門に触れてくると、南は喉で「ひっ!」と叫んで身体を堅くさせる。
由良は構わず、ノズルを南のアヌスに含ませるように突き立てていく。
「ひっ! うああっ……!」
思ったよりも太いものが肛門に突き刺さっていく。
ただでさえ敏感な箇所であり、事前に指で丹念に揉みほぐされたアヌスをガラスに貫かれ、南は裸身をびくっと痙攣させた。
「やっ、やあっ!」
「暴れるな、浅倉。中でノズルが折れたらどうする」
「……!」
肛門内、つまり内臓の中でガラスが割れでもしたら大変である。
そうなったら医者に行くしかないが、理由も聞かれるだろうし、治療の際の恥辱は今の比ではないだろう。
ノズルの感触に脅えて打ち振っていた臀部が、ぴたりと動きを止めた。
南は再び身体を硬くして羞恥に耐え始める。
「ようし、それでいい。もう少しほぐしてやるからな」
「やっ……、いっ、ううっ……」
異物に戸惑い、きゅううっと引き窄められている括約筋を緩めようと、由良は挿入させたノズルをゆっくりと動かしていく。
きゅっと引き締まった肛門の締め付けはかなりのものだ。
ノズルでこれなら、さぞかし……、と、由良はこの先の責めを考えて舌なめずりしたくなる。
ノズルをすべて埋没させると、アヌスを拡げるように回転させ、左右に揺さぶった。
南はその刺激と、お尻の穴を悪戯される恥ずかしさに顔を伏せて呻いている。
「んんっ……ああ、いや……くっ……ひっ……あ、もう……ああ……」
「なんだ、その声は。気持ち良くなってきたのか」
「ちっ、違いますっ……あっ……」
いつになく饒舌となっている由良を不審に思いつつも、南は恥ずかしそうに顔を染めている。
早くこの時間が過ぎ去って欲しいと思い、堅く目をつぶって必死に耐えた。
しかし、視界を遮断してしまうと、かえって意識がいびられる肛門にいってしまう。
羞恥の声で呻き、赤くなった顔を弱々しく振り、懸命に恥辱に耐えている美少女を見ているうちに、由良は自分の性器にぐぐっと力が籠もるのを感じていた。
「いいな、浅倉。いくぞ」
「やっ……! やっ、待って、待って下さい! あ、あっ……!?」
キィッとガラス同士が擦れる不快な音がしたかと思うと、冷たい溶液が南の腸内に流し込まされてきた。
指での肛虐によりふっくらと膨らみ、熱を持っていた腸管に冷たい薬液を注ぎ込まれ、南はぐうっと背中を反らせて悲鳴を上げた。
「うっ、ああっ……やっ、入って……きてる、あっ……お、お尻の中に……あっ」
お腹の中が染みているのか、南は一層に顔を真っ赤にして頭を振りたくった。
まだ浣腸される刺激よりも、されている羞恥や恥辱の方が大きいらしい。
苦鳴というよりは恥ずかしさに耐える声だった。
「あううっ、い、いやです、もう……い、入れないで、やめてください……あう……」
「まだだ。まだ半分も入ってないからな。全部入れるぞ」
「そんな……、無理です……ああ、もう……」
初めて受ける浣腸のおぞましさに、南は呻き、身悶えていた。
どんなに肛門を引き絞っても、どくどくと流し込まれてくる薬液。
それが腸管に染みこんでいく刺激。
液体と言うよりも、得体の知れない軟体動物でも注入されている気すらしてくる。
シリンダーが押され、ちゅるっと注入されるたびに、南の豊かに張った臀部がびくっと反応していた。
「コ、コーチ、もうやめて、あっ……」
半分ほども入ってしまうと、早くも南の腸内で薬液が暴れ始めて来た。
「うっ……」
一声呻くと、身体の動きが止まる。
それまで身体を悶えさせ、うねらせていたが、次第に硬直していった。
小さく痙攣はしているが、あまり動かなくなっている。
美しい顔も、羞恥にまみれているというよりは、何かを堪えるかのような苦悶の表情になっていた。
白かった肌がピンク色に染まった尻たぶがぶるぶると震え、そこから球になった汗が伝い落ちていく。
「うう……、ああっ!」
南の切迫したような悲鳴を聞き、由良はシリンダーを押すのを中断してその顔を覗き込んだ。
「どうした、身体が震えてるぞ」
「も、もう……、もうしないでください……だ、だめです、もう……あっ……」
「だめって、何がだめなんだ?」
「そ、そんなこと……言えませんっ……あ、入れないで……ううっ」
さらにシリンダーが押され、薬液の注入を感じ取ると、南はぶるっと大きく震え、寝台についた手を握りしめた。
「コーチっ……、あ、もう私……」
その時、ググゥッと南のお腹が鳴った。
腸管がうねるように蠢き、薬液の刺激に苦しんでいる。
由良がからかうように言った。
「ん? 今のは浅倉の腹が鳴ったのか?」
「やっ……! は、恥ずかしい……」
「なんだ、腹でも減ったのか」
「ち、違いますっ、そうじゃなくて……ああ……」
「じゃあ何だ」
「い、言えない……ああ、もうやめてください……」
「言えなきゃやめられないな。全部入れよう」
「そんな……無理です、ああっ!」
南の顔がおののき、絶望する。
見れば、まだシリンダーには半分くらい残っている。
今でもお腹がきつくて鳴いているというのに、その倍も入れられたらどうなるのか。
ノズルをくわえ込んだ南の肛門が苦しげにひくついている。
堪えるように窄められたかと思うと、また内側から膨らんでくる。
50%の水割りにしたのだが、それでもいきなり500ccは多かったようだ。
限界を迎える前に入れてしまおうと、由良は力を込めて一気に注入していく。
残液の目盛りは見る見る下がり、腸管へグリセリン溶液を注ぎ込んでいった。
「ううっ、あああっ……そんな、そんないっぺんに……あ、うむ……ううんっ!」
さすがに我慢できないのか、南は腰を揺すり、嫌悪感を示している。
それでも動きが遠慮がちなのは、お尻の中で折れたらという恐怖と、由良に対する遠慮もあるのだろう。
しかし、由良がシリンダーを押す勢いをさらに強めていくと、南の泣き声が一層に高まった。
「ひぃっ! あ、いやっ……ううんっ、うむ……」
「もう少しだ」
「いやっ、我慢出来ないっ……」
「何が我慢できないんだ?」
「そんな、言えませんっ……ああっ、い、入れないで……あうむ……」
「言えなきゃやめない。そう言ったはずだ」
「ああ……」
がっくりと俯いた顔が、注入でまた首を反り返らせる。
唇をわななかせ、南は屈辱の言葉を吐いた。
「おっ、おトイレっ! おトイレ行かせてくださいっ……も、もうだめなんです、ああっ!」
「そうか、トイレへ行きたかったのか。だがもう少し辛抱しろ。全部入れてからだ」
「そんな、ちゃんと言ったのに……やだあっ、だめ、もう入らない、入りませんっ!」
南は、匂うような色気を漂わせている半裸の身体をゆさぶり、汗を飛び散らせている。
さっきから臀部はひっきりなしに震えており、浣腸器をくわえたアヌスは膨れあがってしまっていた。
南は金魚のように口をぱくぱくと開閉している。
どくどくと腸内に薬液を注入され、身体が内側から破裂してしまいそうな圧迫感で苦しんでいた。
「く、苦しいっ……お腹が、もう……ああ……ああっ!」
さすがにまずいと思ったのか、由良は残り100ccあまりを一気に注入した。
「んひぃぃっ……!」
今まで口にしたこともないような悲鳴を上げ、南は大きく仰け反った。
ノズルを抜かれると、南は慌てて肛門を引き絞り、漏れてしまうのを何とか防いだ。
南は全身を硬直させ、必死になって便意を堪えていた。
それまで浣腸を受けて真っ赤になっていた南の美貌は、見る影もなく青ざめている。
冷や汗に変わって脂汗が滲み、美しい額をぬめらせていた。
まだ尻を突きだした恥ずかしい姿勢を崩さずにいたが、これは少しでも動くと出てしまいそうだからだ。
背中を丸め、突いた肘は震え、手には拳が握られている。
少し開かれていた股間も内股となり、突いていた膝がわなわなと痙攣していた。
「うっ……、く、苦しい……はあ……はあ……はあ……」
「……」
由良が無言で尻を撫でると、南はぶるっと一度だけ大きく震えたものの、そのままじっとしている。
小刻みに痙攣している南の尻たぶに手を掛け、ぐいっと大きく割り開いた。
「んあっ……」
尻の谷間には、激しい便意を懸命に堪え、必死になって窄まっている肛門が見えた。
我慢できずにふっくらと膨らんでくるかと思えば、慌てて引き窄まってわなないている。
さっきからお腹はグルグル、グキュウッと辛そうに鳴いており、今にも暴発しそうな便意に南は苦鳴するだけだった。
「だ、だめ……もうだめです、コーチ、ああ……おトイレに……ううっ……」
南の肛門の収縮が一層に激しくなり、もう我慢できないとばかりに腰が振られている。
「も、もうだめっ、我慢できないぃっ……お腹が……お腹が壊れちゃいますっ……」
「まだだ、もう少し我慢するんだ。すぐに出したら意味がない」
「そんなっ……もう無理……」
南の身悶えが一層に激しくなり、顔面が蒼白となっている。
お腹からはグルグルと悲鳴が上がりっぱなしだ。
「お、お願いです、コーチ……ほ、本当にもうだめなんです……お、おトイレに行かせて……くださいっ……ああ……」
「ふん、まあ最初だからな、こんなものか」
「は、早く……」
やっと許可が出たと南は安堵したが、息を抜くことも出来ない。
尻が強張り、背中が震えている。
ちょっとでも身体の力を抜いたら、そこでもう出てしまうかも知れない。
「コーチ、お願いです……う、動けません……おトイレ、つれてって……」
「いや、ここですればいい」
「え……」
由良を振り返って南は仰天した。
男はさっきまで溶液が溜まっていた白い洗面器を手にしているのだ。
「ま、まさか……」
「そうだ、ここにするんだ」
「そんな……」
あまりのことに南は絶望の悲鳴を上げた。
「で、出来ませんっ、そんな……は、早くおトイレに行かせて!」
「もう間に合わないだろう? なら、ここにすればいい。恥ずかしがらなくてもいいぞ、俺は慣れている」
「な、慣れてるって……」
「渡瀬の時もそうだったんだ。あいつも最初は泣いて恥ずかしがったが、そのうち慣れたからな」
「い、いや、そんなのっ……早くおトイレに、ああっ!」
興奮して姿勢を崩したせいか、途端に腸がググッ蠢動し大きく鳴った。
思わず爆ぜそうになったアヌスを慌てて引き締め、南は腰を振って泣いた。
「だ、だめなんです、本当にもうだめなんですっ……あ、あ……我慢出来ないっ……早くっ!」
「だからしていいと言ってるだろう。おまえの便の様子を見て健康状態を確認したいしな。我慢しないでさっさと出せ、少しマッサージしてやろうか」
「ひっ! だめっ、今さわっちゃだめですっ……あ、あっ……で、出ちゃう、出ちゃいますっ!」
今にも出そうな肛門をいじくられ、もう南自身にもコントロール出来なくなってしまっていた。
由良が指を離すと、そこはぐぐっと内側から盛り上がり、一度だけ窄まったものの、次の発作には耐えきれなかった。
「いやあああっっ……! み、見ないで、見ないでくださいぃぃっ……!」
南の絶叫が響き、それとほぼ同時にアヌスが大きく膨れあがった。
そして限界を突破した便意が、一気に肛門の堰を破って激しく噴出した。
「いや、いやあっ……だ、だめえ……」
南は四つん這いのまま腕に顔を埋め、号泣しながら排泄を続けた。
押しとどめようと何度か息んだようだが、浣腸されてしまった便意は止められるものではない。
一度発作が収まっても、すぐにまた排泄が始まった。
「だめ……だめ……見ないで、お願い……あ……」
堪えるように息んでも、すぐにまたドッと洗面器に噴きこぼれていく。
見る見るうちに洗面器がいっぱいになっていった。
洗面器がそろそろいっぱいになるという寸前で、ようやく噴き出てくるものの勢いが弱まった。
わななくアヌスがきゅっと絞り上げ、ようやく苦痛の塊を吐き終えたようだ。
南はもう大声で泣く気力もないらしく、うつぶせのまますすり泣くばかりだ。
「ううっ……」
生涯、絶対に誰にも見られてはならない行為をつぶさに見られ、南は半ば放心状態だった。
この現実が信じられず、悪夢に違いないとすら思っていた。
「ひどい……、ひどいです、コーチ……こんな……」
「ひどくはないさ。ふむ、健康的な便だな」
「いや……、見ないで……恥ずかしい……」
便意を我慢し続けて疲労しきったのか、四つん這いの姿勢も崩れ、完全にうつぶせとなっている。
盛り上がった尻はまだぶるぶるとわななき、汗が光っていた。
尻だけでなく背中も腿も、全身が痙攣している。
精神的にもかなりまいっているらしく、由良が肛門をウェットティッシュで清めても、何の反応も示さなかった。
由良は、南の肌から汗を拭い取るように手で撫でていく。
若く張りのある肌が、由良の手に吸い付くかのようだ。由良は洗面器の中身をトイレに流し、洗浄液で洗ってから、また溶液を作っている。
まだぐったりとしている南を横目で見ながら、洗面器から新たな浣腸液を吸い上げた。
泣き濡れた目で由良を見た南は、ハッとして顔を持ち上げた。
時すでに遅く、たっぷりと薬液を溜めた浣腸器は、そのノズルを南の緩んだアヌスに突き刺していた。
「な、なんで!? もう終わったのにっ……!」
「誰が一回だけだと言った? まだ終わってないさ。たっぷり排泄したが、まだ宿便は出てないと思うぞ」
「そんなっ……!」
「出てくるのが薬液だけになるまで、何度でも浣腸するぞ」
「い、いや……、もう浣腸はいやですっ、あっ、だめえ!」
由良がピストンをググーッと一気に押し込むと、南はぐうっと身体を伸ばして悲鳴を上げた。
またあのおぞましい溶液がちゅるちゅると腸内を侵してくる。
もう中にはほとんど便がないせいで、薬液が直接腸壁に染みこんでくるのがわかる。
それだけに刺激はさっき以上だった。
「んあああっ、だめ、入れないでっ……あ、あっ、入ってくるぅっ……お、お腹が……ああっ!」
「つらいだろうから、いっぺんに入れてやろうか」
「あ、そんな急にっ……も、もっとゆっくり……うああっ!」
「よし、500cc全部入ったぞ。ふふ、さすがに俺が見込んだだけあって、いい尻してるな」
「んっ、ああっ! く、苦しい……お腹が苦しいっ……あ、もうだめ、我慢できませんっ!」
「なんだ、もうか。洗面器を当ててやろうか?」
「は、早く……、出る、出ちゃいますっ!」
今にも粗相してしまいそうな恐怖にかられ、もうトイレに行かせて欲しいとも言えなかった。
由良が空になった浣腸器を引き抜き、洗面器をあてがうと、南のアヌスがぐぐっと膨らんだ。
じっと観察している由良を見て、南の顔が羞恥に染まり、人前での排泄の恥辱を避けようと息んで堪えている。
が、先ほどの浣腸と便意を我慢し続けたこと、そして激しい排泄もあって、もう浣腸液の刺激に耐えきれなかった。
少し開かされた股間に洗面器があてがわれたのを知ると、途端に肛門がわななき、内側から膨れたかと思うと、ドッと便意の元を吐き出した。
「ああ……、こんな……もういやあ……あ、見ないで……」
「ふん、だいぶ綺麗になってきたぞ。もう一回か二回で済みそうだな」
「いや……」
恥辱にまみれ、南は頭を振りたくって泣きじゃくったが、排泄を止めることはできなかった。
臀部をぶるっと震わせながら、どろどろと排泄を続けている。
ようやく絞りきると、「さあ、もう一回だ」と由良が三度目の浣腸を仕掛けていった。
────────────────
「こうしてふたりっきりでのんびり話すのも、なんだかひさしぶりだね」
と、南は言った。
そもそも南自身、この離れでゆっくりするのもひさしぶりなのだ。
隣接している上杉家、浅倉家の境界線上に建てられた「勉強部屋」である。
もともとは、いたずら盛りの三人に手を焼いた両家の親たちが、彼らの遊び場として建てたものだが、南たちの成長に従い、いつしか勉強部屋となっていた。
思春期となっても三人の交遊は変わらなかった。
自宅にはちゃんと彼らの部屋があるにも関わらず、勉強の際はもちろん、何かと言えばこの離れに集まっていたのだ。
思い返せば、達也と和也は南に会うためであろうし、南の方もそうだったろう。
ただ男ふたりの方は、純粋に南に対する恋愛感情を持っていたが、南のそれは多少異なる。
達也に対してはそれに近いものを持っていたものの、和也はまた別だった。
あくまで幼なじみであり、仲の良い友達以上のものではなかったのだ。
ただ南自身、そうした達也と和也の心情をほぼ正確に把握しており、それだけに関係が微妙になることも多々あった。
これは上杉兄弟も同じで、互いの心持ちや南の本心も理解していたのである。
その上で和也は、達也に向いている南の思いを何とか修正しようとしていたわけだ。
普通、こういうケースではどうしても兄弟の関係がギクシャクしてくるし、ややもすると激しい衝突があったりするものだが、彼らにはそうしたことはなかった。
南を思う以前に仲の良い兄弟であり、思い合う関係だったからだ。
だから、一見リードしているように見えた達也の方が、和也に南を譲ろうかと思っていたらしいフシもあり、またそのことを気に懸けていた和也の
思いもあって、一般の三角関係に比べかなり複雑に絡み合っていた。
いつかははっきりさせないといけないと思いつつも、この居心地の良い関係から抜け出すことが出来ず、とうとう和也が退場するまで続けてしまっていた。
そして和也の死という極めて大きな衝撃がふたりを襲い打ちのめすこととなる。
大きなライバルが手の届かぬところに行ってしまった以上、残ったふたりの関係はトントン拍子に進むものと思われたが、どっこいそうはならなかった。
ふたりはどうしてもそのことを意識してしまい、その先に進むことを躊躇したのである。
ようやく和也の幻影を断ち切ったのは、達也たちが甲子園で優勝してから後のことだ。
和也の約束した南の夢を達也が果たしたということで、一応の区切りが付いたのだろう。
しかしそれでも死者の影響は残ったのか、それとももともとそういう性格だったのか、達也が告白して以降も関係はあまり進んでいなかった。
少なくとも、一般的に見て「つき合っている」ような状態ではなかっただろう。
家から通える範囲ではあるが、別々の大学に進学したということもある。
加えて、野球をやめていた達也は暇だったが、南の方は新体操のホープとして期待を集め、練習や競技会で多忙な生活を送っていたことも影響していた。
おまけに南は、期待の選手ということで、合宿所で寝泊まりすることが多くなっていた。
まさにすれ違いであり、顔を合わせることはそれなりにあったものの、落ち着いて話す時間は確実に減っていた。
もちろん南とて休日がないわけではなく、双方のスケジュールを併せていけば会う時間はあった。
デートらしきをすることもあったが、せいぜい食事に行ったり映画を見たり程度であり、そこから先はとんと縁がなかったわけだ。
それぞれのキャンパスライフの中、互いに少し離れてしまっていることを自覚していた。
相思相愛なのだから、ふたりとも現状でいいとは思っておらず、何とかしたいとは思っていた。
しかし現実に押し流され、なんとなくこうした関係のままずるずると時間だけが過ぎていったのである。
そんな中、着替えを取りに来た南と、部屋でぼーっとしていた達也が出くわした。
互いに連絡を取って会ったわけではないので、何となく照れくさく、そして少しだけ気まずかった。
何を話せばいいのかわからない。
南などは、今度達也と会ったらあれを話そう、これを話そうと思っていたのに、それがすっかり流れ去ってしまっている。
確認したいこともあった。
水野香織の存在である。
達也が帰国子女である香織とつき合っているらしいと聞いていたが、最初はあまり気にしなかった。
優柔不断なところのある達也のことだから、きっと振り回されているだけだろう。
積極的な好意を示す女の子に対して、達也は気後れするところがあるようで、高校時代にも何度かそういうことがあった。
当然、南としては面白くないわけで妬心が湧くこともあったのだが、達也が南に告白し、恋人関係になって以降はほとんど気にならなくなっていた。
互いの気持ちを確認し合い、その絆が揺るぎないものだとわかったからである。
厳密に言えば、南の方だって新田とデートもどきのことをしたことはあったのだし、人のことは言えないのだ。
その時の気持ちを思い返し、きっと達也も同じなのだろうと理解するようになったわけだ。
だから香織との件を知っても、あまり気にならなかった。
南は、自分が男性に対して人気があることは理解している。
美人でスタイルも良いという評価も知っていた。
反面、達也は達也でモテるらしいことも知っていた。
野球部のエース、しかも甲子園まで進み、おまけに優勝投手ときては人気のない方がおかしいのだ。
もっとも達也の場合はそれだけが原因ではない。
野球をやる以前にも彼に興味を示す女生徒はいたわけだし、野球を引退した今でも香織のような存在がいるのだ。
南は、達也の本当の魅力を知っているのは自分だけだという自負があったから、そういう噂を聞くにつけ苦笑するしかなかった。
南の方にも男性からのアプローチはかなりあるが、適当にあしらっていた。
それでも断り切れなかったこともある。
達也も同じなのだろうと、そう思っていた。
だが、実際に香織と達也のデートを見てしまってからは、そう穏やかではいられなくなっていた。
どうしても気になる。
練習中でも思い出すことがあり、渡瀬や由良の叱責を受けるという南らしからぬ事態も発生していた。
だから、今回の偶然の遭遇は、ことの次第を問い質すチャンスだったのだ。
電話という手段もあったが、南は相手の顔を見ず、こんなことを聞くのがいやだった。
それでも、いざ顔を合わせてみるとなかなか切り出せるものではなかった。
結局、他愛もない世間話をするに留まっている。
ひさしぶりに対面なのに抱擁があるわけでもなく、口づけもなかった。
双方の勉強机の椅子に腰掛け、そこから動かなかった。
会話が途切れると、そこから二の句が継げなくなる。
昔はこんなことはなかったのに、と南は思う。
あの時の「友人以上恋人未満」という状況もやるせないものだったが、晴れて恋人関係になったはずの今は、何かその時以上に切なく、そしてもどかしい気がしていた。
互いが互いを思いやる性格なだけに、強引なことや自分本位なことをしてこない。
積極的な展開が出来ないのだ。
それは達也も同じだった。
告白し、正式に付き合い出してからも、南との関係が一気に進むようなことはなかった。
もしかしたら、それだけで満足していたのかも知れない。
そうも思うのだが、心のどこかにはもっと親密になりたい、いつも一緒に居たいという気持ちはあった。
まして南は、今や全国的なアイドルである。
芸能人でこそないものの、知名度や人気振りはタレントに優るとも劣らなかった。
当然、誘惑や危険も多いだろう。
普段あまり会えないだけに余計に気になる。
電話することは普通にあったし、たまに会えばキスを交わすくらいのことはしていたが、それ以上にはならなかった。
その隙間に割り込んできたのが、例の水野香織だった。
達也は彼女に関心はなかったが、香織は達也に対して並々ならぬ興味を示し、恋人さながらに扱っていた。
持ち前の優柔不断さもあって、新田由加を思わせる香織の積極性は、達也はいつも引きずり回されていた。
喫茶店へ行ったり、食事に出かけたり、映画を見たりと、端で見れば恋人同士と思われても仕方がない。
実際、南相手にも達也はその程度のことしかしてないのだ。
もちろん抱きしめたりキスしたりはしていないものの、それ以外は南と立場は変わらないのだ。
そう思い当たった達也は、さすがに自分の好い加減さに苦笑する。
そして、なおのこと南との関係をはっきりさせ、前へ進まなければと思っていた。
しばらく会話が途切れると、南は思い立ったように立ち上がった。
達也に背を向け、着替えや日常品を詰め込んだバッグに手を伸ばす。
「じゃあ……」
「え?」
「私、もう行くから」
大学の合宿所に戻るらしい。
南が訪れたのは午後二時頃だったが、いつの間にかもう薄暗くなっている。
夕方五時になろうとしていた。
達也が思い詰めたように言う。
「もう行くのか? 時間……ないの?」
「え……?」
南がきょとんとして振り返り、にこりとして首を振った。
「ううん、そんなことないよ。門限は8時だし。……ご飯でも食べに行く? あっ……」
その背中に、達也が抱きついてきた。
南はどきりとした。
達也がこうした直接的な行動をとってくることは珍しい。
南は何も言わず、また咎めることもせず、そのままじっとしていた。
背中に感じる達也の体温が好ましかった。
「……!」
お尻のあたりに違和感を感じ、その意味がわかった時、南の顔が赤く染まった。
達也は意識しているわけではないだろうが、南のお尻に押しつけられているのは、硬くなった男性器のようだ。
抱きしめられた時はそうでもなかったが、それを意識した途端、南も「性」を意識していく。
キスの関係はあったが、その先──肉体関係はいつまでもなかった。
南は焦るつもりはなかったし、達也もそうなのかなと漠然と思っていた。
しかし、彼の熱い視線を感じることは過去にも何度もあったのである。
意識し始めたのは中学時代だ。
この頃から男女差がはっきりしてくるし、思春期も始まる。
当然のことだっただろう。
高校時代もそうだった。
部屋にいる南の肢体を──もちろん着衣していたが──、じっと見ている達也や和也を見たのは一度や二度ではなかった。
何度か「身の危険」──好きな相手に対して適切な表現ではないが──を感じたこともあった。
その時は「まだ早い」という思いがあったから、それなりの怖さはあったが、今はそんなことはなかった。
達也から求められれば、驚きはするだろうが、恐らく受け入れるだろうと、そう思っていた。
どうも今回がその機会のようだった。
「あっ! ちょっと、タッちゃん……」
達也の手が南の胸をまさぐっている。
突然の事態に南は焦っていたが、負けず劣らず達也自身も焦っていた。
大げさでなく、夢にまで見た南の胸を、今、現実に揉んでいるのだ。
和也がいたならば、もしかしたら生涯出来なかったかもしれないことだ。
年齢を重ねるにつれ、女性らしく成長していく南を和也とともに眩しそうに見ていたものだ。
中学時代はどきどきする程度だったが、高校生となり、より女性らしい肢体を獲得していく南を見て、劣情を抱くこともあった。
理性と、相手に対する思いがそれを何とか押しとどめていたものの、誰もいない部屋で南を思い、自らを慰めることもしばしばだった。
そして大学生となり、ますます美しくなる南を見るにつけ、複雑な思いに囚われていく。
そこに水野香織の出現である。
達也は彼女の積極性に押されっぱなしで、ややもすると押し切られるのではないかとすら思っていた。
告白したとはいえ、南との関係は停滞している。
香織の登場は障害ではあったが、南に対する思いを再確認する意味合いとしても大きかったかも知れない。
ここにきて達也は一大決心して、南との関係を一歩進めることにしたのである。
そんなこととは知らず、南はかなり動揺している。
達也とならそうなってもいいと思っていたのは事実である。
事実なのだが、まさか今日、いきなり求めてくるとは思わなかった。
やはり女の子だけあって、こういうことは手順を踏んで、もっとロマンティックなムードのもと、それに適した場所で行なうべきだと信じていたのだ。
「た、タッちゃん、どうしたの!? あっ……!」
胸をまさぐり、驚いて振り返る白い首もとに達也の唇を感じるに至って、南はその手を掴んだ。
達也は強引な真似はせず、そこで動きを止める。
南は落ち着いて達也の腕を取り、そのまま正面に向き直った。
「タッちゃん、なんで……」
「南」
「あ、な、なに?」
「ダメか?」
「え……?」
「ダメか?」
達也はもう一度、念押しするように尋ねた。
「……」
南はその顔をじっと見つめていたが、達也は目を逸らしたりすることはなかった。
その顔からは、男の劣情によって南に身体を求めているようには見受けられなかった。
純粋に、南とのつながりを深めたい、愛情を交歓したい、確認したい。
そういう風に見えたのだ。
実際、その通りで、達也もこの時はあまり淫らな気持ちにはなっていなかった。
愛する者との関係を深め、先に行きたいという思いが強かった。
もちろん正常な男子であるから、南の「女」の部分を意識しないわけもなく、身体に対する興味は強かった。
しかし、ペニスが勃起しているのは、単純にオスがメスを欲しているというよりは、コミュニケーションとしてのセックスを求めているせいだった。
そうであれば南に拒絶する理由はどこにもなかった。
いつかこうなると思っていたのだ。
時と場所を選んで欲しいとは思ったものの、達也らしいといえば達也らしかった。
それによく考えれば、この思い出の場所で結ばれるというのも、何か運命的なものを感じる。
南の意志を無視して迫ってしまった自己嫌悪に陥っているらしい達也を励ますように、南は微笑んだ。
「……いいよ、タッちゃんがそうしたいなら」
「南……」
「私もね……、いつかタッちゃんと……こうなりたいって」
「南……」
「タッちゃん……んっ」
ふたりはそっと唇を重ねていく。
達也の手が自然に南の背中に回り、優しく抱きしめる。
南は達也の脇に腕を通し、下から背を抱く感じになっている。
互いに口を吸い合っているものの、唇を割って咥内に舌を入れるところまではいっていない。
達也が試みに、ちょんと舌先で唇を突いてみることはあったが、南はびくっとして口を開けるところまではいかなかった。
それ以上は求めず、達也は強く南の口を吸っていく。
「ん……ん……」
南が少し苦しそうになると、ようやく口を離した。
キスで力が抜けたのか、南の身体がくにゃりとして達也の腕にもたれかかっている。
達也はそのまま南を絨毯の上に座らせ、震える手でそっとトレーナーをたくし上げた。
南はされるがままになっている。
抵抗がないことを確認すると、達也はその下のポロシャツのボタンを外していく。
南の身体からふわっと甘い女の香りを嗅ぎ取ると、達也は次第に興奮してきてしまい、うまくボタンが外せなくなってくる。
しかし南はそれを意識させず、おとなしく達也の腕に抱かれていた。
ようやくボタンをすべて外し、シャツの前をはだけると、白いブラジャーだけの真っ白い肌が目に染みた。
震える指でそっとその肌に触れてみると、南の肢体がびくりと反応する。
達也は慌てて手を引いたが、その指先にはなめらかな南の素肌の感触がしっかりと残っていた。
ジーンズの股間が、硬い生地を押し破りそうなほどに大きくなってきていることを自覚する。
それを知られたくないと思ったのか、達也は南の背を少しずらし、自分の腿に腰を寄りかからせる姿勢に変えた。
一気にブラをむしり取りたいとの欲望に囚われたが、そこは何とか我慢して、ゆっくりとトレーナーとラルフローレンのシャツを脱がせていった。
トレーナーを首から抜き取る時も、シャツの袖を腕から抜く時も、南は脱がせやすいように動いてくれたように思えた。
これに力を得た達也は、思い切って南のジーパンの裾に手を掛けた。
「……!」
反射的にその腕を押さえた南だったが、すぐに力を抜いた。
達也の腕に手を掛けてはいるが、押さえているというよりも添えているだけになっている。
達也はそのままジーンズを引き下ろそうとすると、南は脱がせやすいように腰を浮かせてきた。
間違いない。
南は抱かれる覚悟を決めたのだ。
足首にジーンズが引っかかったままだが、それ以外はすっかり下着姿になっている。
達也は息を飲んでその肢体を眺めていた。
一緒に泳ぎに行ったことだって何度もあるのだから、間近で肌の露出の多い南を見るのは初めてではない。
だが、下着姿となると初めてである。
意図的ではないが、風呂場の窓から顔を出した南の上半身をモロに見たことがあったが、あの時は一瞬だったし、じっくり観察するような余裕もなかったのだ。
その南の、生まれたままの姿を拝むことが出来る。
ペニスに興奮するなと言っても無理な話だった。
白い肌がほんのりと染まってきている。
恥ずかしいらしい。
「あ、あんまり見ないで、恥ずかしいから……」
「わ、悪い……。でも……」
「でも?」
「綺麗なんだ」
「……」
「綺麗だよ、南、本当に」
南は礼を言う代わりに、黙って目を閉じ、身体をおとなしく横たえた。
達也は焦るように自分も服を脱いでいく。
トランクス一枚になってから、ふいに気づいたように部屋のカーテンを閉めた。
まさかとは思うが、親が来ないとも限らない。
ドアの施錠はしてあった。
達也は南の脇で身体を横たえ、上半身を起こしたままで南のブラを外してみた。
「お……」
思わず声が出るほどの美しい乳房だった。
窮屈なブラから解放され、若々しい乳房がぷるんとまろびでる。
柔らかそうでいて、たっぷりと肉の詰まっていそうなバストだ。
気のせいか、心なしか乳首が少し膨らんでいる気がする。
キスのせいもあるし、南自身がその気になっている証拠だ。
それにしても想像以上のサイズだった。
もともと細かったウェストが、新体操を始めてさらに引き締まったとは聞いていたが、それと反比例して胸は大きくなっている感じがした。
乳輪は、乳房との境界も曖昧なほどの薄いピンクで、いかにも清楚なイメージである。
乳首も小さめで、ぽちっと愛らしい形状だ。
達也はそのナマの乳房を手に収め、柔らかく揉んでいく。
「ああ……」
南は敏感に反応し、甘い声で喘いでいる。
揉むだけでは満足できず、達也はぷくんと膨らんだ乳首を口に含んだ。
「きゃっ……!」
びっくりしたのか、南は悲鳴を上げたが、止めはしなかった。
達也はそのまま唇で挟むと、ちゅうちゅうと吸い上げた。
吸い上げられる刺激が鋭く南の性感を揺さぶってくる。
加えて、口で吸っている音が何ともいやらしい感じがして、余計にもやもやしてきた。
「あ、あ……タッちゃん……あっ……」
南は、乳房を愛撫する達也の腕を押さえるように手を伸ばし、その腕に軽く爪を立てている。
達也の指や舌が敏感な乳首を刺激すると、南は腿をもじもじさせたり、ぐぐっと突っ張らせたりしている。
初めて味わう快感に戸惑い、どう表現して良いのか困っているかのようだ。
たまらず達也は下半身に取りかかった。
口で乳首を、左手で乳房を愛撫しつつ、右手がショーツの裾にかかる。
すっと下ろしにかかると、さすがに南は小さく悲鳴を上げた。
「やっ……!」
達也の手がぴたりと止まった。
「いやか……? なら、無理にはしないよ。南がいやなら俺は……」
「あ、ごめん、違うの……。少し驚いただけ……」
「なら、今日はもう……」
「……いいよ、タッちゃん。もうそんなこと言わないから……」
「いいんだな?」
「……」
達也の問いに南は黙って頷いた。そして目を閉じる。
達也の手が再びショーツにかかった瞬間だけびくりと身体が震えたが、抗いはしなかった。
ジーンズを脱がされた時と同じように腰を浮かせて協力し、そのままするりと下着が引き下ろされた。
生まれたままの姿を男の目に晒しているという羞恥はあったが、それが達也であることへの安堵と嬉しさもあった。
ほんの少しだけ脚を開いていく。
南の覚悟とは裏腹に、達也の方は緊張が頂点に達している。
心臓が破裂しそうなほどに激しい動悸を繰り返し、口の中はカラカラである。
額には汗が滲んでいた。
透き通るように白く、艶やかな太腿。その付け根には女の秘密を護るべく、淡く柔らかそうな恥毛が覆っている。
しかもそこは、乾いて盛り上がってはおらず、しっとりと濡れ始めているのだ。
脚くらいは見る機会は何度もあったが、乳房や陰部に関しては妄想の中にしかなかった。
それが今、まったく無防備な状態で目の前にあるのだ。
「み、南……」
「いいよ……、タッちゃん……」
南の声に押されるように、達也はその裸身に身体を重ねていく。
切なそうに身を捩らせる南の仕草や、それでも不安そうにしている美貌を見ているだけで、ますます達也の男性器は硬直していった。
そっと触れた乳房の何と柔らかく、暖かいことか。少女から女へ生まれ変わりつつある優美な女体を目の当たりにし、達也はたまらず南の股間に身体を割り込ませた。
そして悩ましい陰毛に隠された媚肉に腰を押しつけてみる。
ここに至って達也の怒張は限界に達していた。
「あ、あっ……!」
腰骨がジーンと痺れるような、陶酔的な快感が達也を襲う。
「まずい」と思う間もなく、達也の男性器からは勢いよく精液が発射されていた。
思わず南から離れたものの、もはや止めようもなく射精は続き、びゅるっ、びゅるっと間歇泉のように噴き出し、南の白い肌を汚していく。
張り出た腰骨、滑らかな腿、そして愛らしいヘソ付近にまでどろりとした白濁液が浴びせられていた。
「……」
あまりのことに、達也はそこから消えてなくなりたいような恥辱を感じていた。
夢にまで見た南とのセックスが、まさかこんな形になるとは思いもしなかった。
まともに顔を見られない様子の達也に、南は気さくに話しかけた。
「気にすることないよ、タッちゃん」
「……」
返事も出来ない達也に微笑みかけながら、南は自分の身体にかかった液体を指にとって見ていた。
本来、あまり綺麗なものではないのだが、それが達也の体液だと思うと、ちっとも汚いとは思えなかった。
ティッシュを抜き取り、指を丁寧に拭ってから、腹や太腿にかかっていた精液も拭っていく。
「こういうのって、かなり精神的なものが大きいんでしょう、男の人って。……女の子もそうなんだけどね」
「……」
「だから平気だよ。それに……」
そこで南も顔を伏せた。
「タッちゃん、初めてだったんでしょ?」
「南……」
「……もちろん私もそうよ。ふたりとも初体験だったんだからさ、一回でうまくいくとは限らないよ」
南はそこで顔を上げ、また微笑んだ。
そして明るく振る舞い、俯いている達也の額を軽く指で弾いた。
「だから、そんなに落ち込むことないって。なんだなんだ、タッちゃんらしくないぞ」
「で、でもさ……」
「私は全然気にしてないよ、ホントに。何もこれっきりってわけじゃないんだから、また挑戦すればいいんだよ。ね?」
南はそう言って、自分から達也の口に唇を重ねていった。
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