「……」

アヤセは黙ったまま、グラスの底に残ったブランデーを啜った。
完全にリラックスして姿勢は崩れ、足を思い切り伸ばしている。
目の前のアルファも酔ったのか、手を後ろに着いて、足を投げ出すようにしていた。

普段のアルファは、部屋着でスウェットを着ていることが多い。
楽だし、人目を気にする必要もないからだ。
アルファはこれでもそれなりに「おしゃれ」で、店で着る制服も何種類かタイプの異なるものを持っているし、制服ではなく普段着でエプロン、ということもある。
それら組み合わせのセンスが良く、客に違和感を与えない。
もっとも、アルファ自身はそこまで考えているとは思えず、単に自分がしたい格好、見られて恥ずかしくない格好をしている、という意識しかないだろう。

季節が季節だからトレーナータイプのスウェットでは暑いだろうから、半袖あるいはタンクトップのルームウェアを着ていることが多い。
ややもすると、部屋着のまま寝てしまうこともあるが、アルファはだらーっとしているようで、そういうところはシャンとしているらしく、寝る時は部屋着からパジャマに着替える。
今のアルファは部屋着というよりはパジャマとして使っていると思しき薄手のチュニックだ。

アンダーとしてTシャツを着ることも多いはずだが、どうも今のアルファは直にそれを着ているようで、あとは下着だけに見える。
短い裾口から伸びる脚が綺麗だ。どうしても視線が腿の付け根に行ってしまう。
そこから目を離しても、剥き出しになった腕がやけに艶めかしい。
そして首回りも大きく開いているから、首筋はもちろん鎖骨付近まで露わになってしまっている。

冷房なんてものはないし、網戸越しに入ってくる微風が頼りだ。
夜になってもまだまだ暑いからそのせいだろうとは思うが、男とふたりきりの部屋の中ではいかにも無防備に思えてしまう。
肌は見るからにすべすべしてそうで、つい触ってみたくなる。
アヤセは「いかん、いかん」と頭を振った。
ひさしぶりのアルコール、しかもかなり強い酒だったこともあり、けっこう酔っている気がする。

アルファもとろんとした表情になっていた。
酔いのせいか、頬を赤く染めてアヤセを見ている。
それから、なぜか「うふふ」と笑みを浮かべてグラスを掲げた。
もう中身は残ってない。

「もう一杯いっちゃおかなー」
「よせって。おめ、もうけっこう酔ってんだろ?」
「んーーー……、どうしよ。これ以上飲むと身体おかしくなるけど」
「おかしくなる? ……ああ、そういやさっき言ってたな、あんまり飲むと頭痛がするとか何とか……」
「うん。初めてこれを飲んだ時ね、あんまりおいしいんで、つい2杯飲んじゃったんですよーー。1杯空けたら、なんか気分良くってね、もう1杯って。その時はもうまともな判断力なかったんですね。で、身体と頭がじーーんと来て、あとはもう夢の中ですよ。次に気がついた時は朝になってました」

アルファはそう言って可笑しそうに笑った。
「あはは」といういつもの笑い方ではなく、けたけたとハメを外したような笑い声だった。
完全に酔っているようだ。

「もう寝たらどうだ? 時間も遅えしよ」
「……んーーー、どうしよっかなーー。でも飲んじゃうとまた身体痺れちゃうしなーー」
「だから止めとけ、寝ろって」
「アヤセさんっ」
「な、なんだよ」

突然に顔を近づけて迫ってきたアルファに、アヤセはちょっと引いた。
酔い潰れる寸前なのだろうか。
アヤセは旅暮らしだし、あまり「女っ気」はないから、こういう場合どうサポートしてやればいいのか、よくわからない。
アルファは、何を考えているのはまだニマニマと笑っている。
よく見れば目が据わっている。
まずい。

「アヤセさん、さっき、私、見てたでしょ」
「あ?」
「どこ見てました?」
「……そりゃ……」

太腿とか首筋だとかだが、そんなことは言えない。
「最低ですね!」とアルファが軽蔑したら宥める自信がない。

「……やらしー」
「し、仕方ねえだろ、オレだって男だしな」
「ですよねーー」

アルファはそう言ってから、アヤセの顔を覗き込んだ。

「……でも」
「な、なんだ」
「でも、そう思ってくれたってことは……、私に少しは興味を持ってくれたってことですよね」
「ま、まあな」
「だったら……」

アルファは少し躊躇したようだが、顔を上げて言った。

「だったら……、その……、は、恥ずかしいけど……その……」
「……」
「アヤセさんの、その……したいこと、しても……いい、よ……」
「待て」

アヤセはアルファの両肩に手を置いた。

「おめ、自分が何言ってるか、わかってんな?」
「うん……」
「それってな、男を「誘ってる」ってことだぞ、わかってんな?」
「……だから「恥ずかしい」って言ったじゃない」

アルファは少し拗ねたようにプイとそう言った。
アヤセは唖然として彼女の言葉を聞いた。本当に「誘ってきている」みたいだ。

「おめ……、どういうつもりで……」
「だーって、怖かったんだもん!」

アルファはそう言ってアヤセの首に抱きついた。

「ちょっ……」
「……感謝してるんです。あのままアヤセさんが帰っちゃってたら、私、朝まで店で震えてたと思うし……」

それはそうかも知れないが、もとは言えば(わざとではないが)アヤセがアルファを怖がらせたことが原因である。
感謝される謂われはないだろう。
アルファはアヤセから身体を離して、その目をじっと見つめる。

「……でも、こんな不躾なこと言われても困りますよね……」
「……」
「それに……まだちょっとさびしいから……かな……」

アヤセもようやく気づいた。掴んだアルファの腕が少し震えている。
本当に怖がっているのだ。
今までは話をしていたから表には出なかったのだろうが、冷静になってしまうとやはり思い出して怖くなるのだろう。

「今も言ったが……」
「はい」
「オレも男だ。そういう……その、欲望が、ないわけじゃない……」
「……」
「いいんか?」
「……」

アルファはまたアヤセの胸に顔を寄せて小さく頷いた。

「おめえ、まさか……」
「違います」

アルファは意外なほどきっぱりとそう言った。

「……」
「……私も、さっき言ったかも知れないけど、その……だ、誰でもってことはないんです……」
「すまね……」
「いえ……」
「あ、でもよ……」
「……「初めて」でもありません。だから……平気です。アヤセさんさえ、いやじゃなければ……」

アルファも、なぜそんな気持ちになったのか、よくわかっていない。
酔っているのは間違いないし、それによって気分も高揚していることもわかる。
そのせいなのか、身体が熱い。
火照っている。
酔っているせいだとは思うが、それだけでもない気がする。
ただ、抱きしめてもらえば身体の震えが止まる気がもした。
誰かにそばにいて欲しいと思っているだけかも知れない。
でも、それだけなら股間の──その奥の熱い疼きが説明できない。

アルコールが全身を回り、深く考える気が失せてくる。
難しいことを考えるのが面倒になってくる。
ここはもう「本能」に従うしかない。
もしアヤセが拒否してきたら仕方がないが、その場合でも抱きしめて寝てもらいたい。

アルファはそこまで思っていた。
おかしな感情だとは思う。
これがオーナーなら、そういう気持ちになることは理解出来る。
タカヒロだったら、こっちが抱きしめるだろう。

でも、誰でもいいわけじゃない。
アヤセに「特別な感情」を持っているわけでもなかった。
ただ悪いイメージはない。
良い人なんだろうな、ということがわかるだけだ。
そして、それだけで充分なのかも知れない。

「よし、わかった!」
「きゃっ!」

そう叫ぶなり、アヤセはアルファを「お姫さまだっこ」したかと思うと、ベッドへ軽く放り投げた。
アルファの身体がポンと弾むのを見ながら、アヤセは服を脱ぎ始める。
アルファは慌てて視線を逸らしつつも、自分の服をそっと脱いでいく。
下着に負けないくらいの白い肌がまばゆかった。

「アヤセさん……」
「……やっぱ、よすか?」
「じゃなくて……、電気、消して……。スイッチ、そこです……」
「おお」

照明が落ちると、ふっと静寂と暗闇が訪れた。
しばらくふたりともじっとしていた。
アルファはベッドの上でちょこんと正座しており、アヤセはその脇に軽く腰掛けている。

「……」

目が慣れてくると、次第に室内の様子がぼんやりと見えてきた。
レースのカーテンやその隙間から月明かりが入ってくるのだ。
暗い中で、アルファの肌が青白く映えている。
アルファは自分の肩を抱き、アヤセの方を見ている。
アヤセはアルファの肩に手を置いた。

「あ……」
「……「初めて」じゃねえと言ったよな?」
「……はい」
「相手は……、やっぱ初瀬……」
「しっ、知らない! 言えませんっ」
「……悪かった。聞くようなこっちゃねえやな。でも、ちょっとだけ気になったもんでな」
「……」
「先生だったんなら……、悪い思い出にはなっちゃいねえべ。……よかったな」
「……はい」
「うし」
「?」

なぜかアヤセはにんまりと笑った。
その顔にちょっと脅えたようにアルファが聞く。

「な、なんすか……?」
「「初めて」じゃねえんなら……、「初めて」のこと、してみっか?」
「? ……なんのこと……?」
「いいって。万事まかせときな。……へっ、なんかオレも少し酔ってんな。んなことしようとも思わなかったけんど……」
「こ、こわいことならしないで……」
「……んー、こわいこと、か。でもよ、アルファ。初めて先生に抱かれた時だって怖かったんじゃねえか?」
「でも……、じ、自分から、その……」
「おめえから?」
「……オーナーはかなり驚いてましたけど……、こ、こういうこともあるかも知れないと……思ってたって……考え直す気はないかと聞かれたけど、私、「ない」って……。いずれ、あの、だ、誰かと「こういうこと」になるんならオーナーとって……」

アヤセは意外そうにアルファを見た。
そういうタイプには思えなかったからだ。
アルファは、何だか少し観念したように小声で言った。

「……その、なんだかヘンな気分になってきてて……。あ、い、今の感じとちょっと似てるみたいな……。お酒は飲んでませんでしたけど……」
「……」

アヤセはロボットの生理的なことは何ひとつ知らないが、もしかすると人に近い本能──睡眠や食欲の他に「性欲」というものもあるのかも知れない。
なぜそんな機能や意識を植え込んだのかは不明だが、確かにその方が「人間的」にはなるだろう。

ただ、それが現出することは滅多にないのだろう。
何がきっかけで表出するのかわからないが、もし「それ」が「解消」できなくても、恐らくは問題ないような「造り」になっているに違いなかった。
だからアルファはひとりで暮らしていても何ら問題はなかったのだ。

「……アルファ」
「は、はい」
「おめえも酔ってるか?」
「少し……、あ、いえ……けっこう酔ってるかも……」
「オレもだ。だから、普段ならできねえことをするけど……いいか?」
「だ、だから怖いことは……」
「大丈夫だ。「初めて」ん時も怖かったっつったろ? あれと同じだ」
「わかり……ました……」

アヤセは、アルファをベッドに座らせたままこちらを向かせ、その目の前で下着を脱いで見せた。
アルファは慌てて顔を背け、固く目を閉じた。

何だが変な雰囲気を感じた。
顔を逸らせてはいるが、そのすぐ側に何か気配がある。
生臭い匂いがして、何か熱いものが頬の近くにあるのがわかった。
恐る恐る目を開けると、案の定、そこには仁王立ちしたアヤセが突き出した男根があった。

「っ……!!」

アルファは声もなく、びっくりしたように後じさった。

「おおっと」

アヤセは、逃げるアルファの腕を掴むと、ぐっと引き寄せて言った。

「逃げんなって。もう覚悟は出来たはずだべ? それとも、よすか?」
「……」

アルファは力を抜き、アヤセに引き摺られるままに近づいていく。

「見ろ」
「でも……」
「いいから見ろって」
「……」

アルファは怖々とそれを眺めた。

「わ……」

思わずまた顔を背けようかとも思ったのだが、なぜかそう出来なかった。
恐ろしさよりも興味の方が勝ったらしい。
それに今までのアヤセを見ている分には、アルファに対してそんなに酷いことはしてこないだろうという認識もある。
でなければ、アルファ自身が言ったように、最初からアヤセに泊まるよう勧めることなどなかったろう。

「……」

まじまじと見つめるそれは、未だかつて見たことのないものだった。
オーナーとの時は、恥ずかしさが先に立って、そんなものを観察する余裕は皆無だった。
あの時は、結局、何をどうしたのかすらよく憶えていない。
オーナーにそれを求めたときの恥ずかしさといたたまれなさ、そして「事後」にオーナーの胸に抱かれて眠ったことしか記憶になく、肝心な「行為」自体についてはほとんど記憶にないのだ。
無我夢中だったろうし、羞恥心があまりにも強かったからだとも言えよう。

だから比較対象はタカヒロの「それ」しかない。
少年時代のタカヒロのと、彼と「関係」した時に見たものは憶えている。
幼いタカヒロと一緒に入浴した時にちらっと見た「おちんちん」と、彼に抱かれた時に見た男根の違いにアルファも少し驚いたものだった。

しかしアヤセのそこは、あの時のタカヒロのものよりも凄かった。
タカヒロのものも大きくはなっていたし、「おちんちん」ではなく「男根」と呼べるものだったと思うが、アヤセのものはそれよりもさらに進化したものに思えた。

まず色合いが違う。
ほとんど肌色と変わらず、やや赤みが差す程度だったタカヒロのものに比べ、アヤセの色は赤黒くなっていた。
形も一層にグロテスクとなり、節くれ立っている。
タカヒロのそれを見た時も、その硬さや形状から「人の一部とは思えない」と感じたものだが、アヤセのものはそれ以上だ。
グロテスクさに恐怖まで覚えるほどだが、アルファは何だか目が離せず、息を飲んでそれを見つめている。
今度は、間近から凝視されているアヤセの方が恥ずかしくなってくる。

「……おいおい、いくら見ろっても、そこまでじろじろ見んなよ。オレだって恥ずかしくなるわ」
「あっ……」

アルファは頬を真っ赤にして顔を逸らした。
何だか少し興奮してきている。

「こっ、これから何を……」
「口でしてもらおうかな、ってな」
「口? く、口でって……」
「……知らねか?」
「……」

知らないらしい。

無理もない。
経験はほとんどないようだし、まさかそんなことまで初瀬野先生が教えるはずもなかった。
思った通りだ。

「わかるべ? オレの、ほれ、これを口で咥えてくれってこと」
「く、咥える……?」
「そ。んでな、その可愛らしい唇とかベロとか使って、こいつを……」
「い、いやっ! そんなの……ウソですよね?」
「ウソなんてついてねって」
「でもっ……おかしいです、そんなのっ……」
「おかしかないさ、そういうのもあるんだよ。オーナーには教わらなかったろうけどな」
「そんな……」
「いやか? どうしてもいやだってんなら無理強いはしねえけど」
「……」

アルファはかなり動揺している。
彼女が予想していた──あるいは期待していた、のかも知れない──行為とはかけ離れているような気がしたのだ。
でも。もし本当にそういうのも「行為」の一環として存在するとしたら。
経験し、知識、体験として蓄積しておくべきではないか。
そんな気もしていた。
あの時、タカヒロももしかしたらこれを期待していたのかな、なんて思ったりもした。
ただ、どうしても生理的嫌悪感が強ければ無理にすることはない。
アヤセも強制はしないと言っている。
迷いに迷ったが、アルファの心は決まった。

「……うん」
「よし」

アルファがほんの微かに頷き、承諾の意を示すと、アヤセは改めて自分のペニスを手に持ち、アルファの顔に近づける。
むっとする異臭が鼻腔をくすぐる。
不快感の方が強いが、そうも言っていられない。
まだおっかなびっくりのアルファを見かね、アヤセはその顎を軽く掴むと、クイと上向きにした。
そして僅かに開いていた唇に肉棒の先っちょを触れさせる。

「んっ……!」

その熱さに驚いたアルファが離れようとしたが、アヤセはその後頭部を押さえ込んで許さなかった。
アルファはそれが口の中に入るのを何とか防ごうとして唇を閉じていたが、アヤセは特に強要しなかった。
アルファの唇の柔らかさを味わうのも悪くなかったし「無理矢理」というのは好みでないからだ。
もしこの場で拒否されたとしても甘んじて受け入れるつもりだった。

しかしアルファの方は諦めたのか、それとも覚悟を決めたのか、そっと唇の力を抜き、閉じた前歯を開いた。
その瞬間、ぬるっとペニスが咥内にねじ込まれる。

「んんっ!? ぐううっ……!」
「歯は立てないようにな。ま、慣れてないから難しいだろうが」
「んんん……」

アルファは最初、口へペニスを突っ込まれてしまったことにびっくりしたような顔をしていたが、次第に苦悶の表情を浮かべてきた。
何しろ初めてで太いもので口を塞がれてしまったわけだから、どう呼吸すればいいのかわからなかったらしい。
鼻ですればいいのだが、そうするとムッとする男の匂いをモロに吸ってしまうことになるから、それもためらいがちになっている。

「ん、んむ……ぐっ……」
「苦しいかも知れねえが、少し我慢してくれ。そのうち慣れる。それと、ただそうやって咥えてるだけじゃいつまで経っても終わんねえぞ。その唇やベロ使ってオレのものを可愛がってくれにゃ」
「ん……」

観念したのか、それとも早く終わらせないと苦しくてたまらないからなのか、アルファは渋々アヤセに従った。

こんなこと、やったことがないからどうすればいいのか、さっぱりわからない。
恥ずかしいやら気持ち悪いやら、そんなネガティブな感情いっぱいのまま、そっと舌を絡ませていく。
よくわからないまま唇を窄めてサオの部分を締め上げたり、舌で小さく舐め上げてもみる。
最初は怖々やっていたが、そのうち慣れたのか、次第に舌を大きく使って肉棒を刺激していった。

「ん……」

アルファは、やりながらちらちらとアヤセの顔を盗み見ている。
うまく出来なければ叱られるかと思ったが、アヤセはアルファの頭に手を置いて、無表情でされるがままになっている。
「良く出来てる」わけではないが、まずいわけでもないらしい。
アルファは少しホッとして、その動きを続けていた。

「んん……んふ……む……んんむ……むう……」
「……そんな感じでいい。初めてにしちゃ悪くない。そのまま、もっと口を窄めてみろ、んで、そのまま顔を動かして唇でオレのをしごく感じにしてみ?」
「ん……」

アルファ咥えたままコクンと頷くと、言われるままに動いてみる。
恐る恐る顔を動かしていく。
ぎこちない動きだが、言われた通り唇を締め、同時に舌でペニスを舐めているから、アヤセの方にはそれなりに快感が伝わっていた。

「ふん……ん、んん……じゅっ……は、はむ……んんんん……」

息苦しい中、舌を絡ませ、唇でしごいていたアルファは、そのうちアヤセの状態を観察する余裕が出てきた。
男性器の性感帯などまるで知らないアルファだから無意識の行動なのだろうが、たまにポイント──カリとか亀頭の先とか──に、舌先が擦ってきたり頬裏が偶然触れたりするとアヤセに変化が現れているのを知った。
身体がぴくりと痙攣したり、小さく呻き声が洩れたりしてきているのだ。
それに伴い、口の中に入り込んでいる肉棒がさらにグウッと膨れあがり、さらに硬度を増してきている。
ただでさえ太いものがまた大きくなり、今ではほとんど口いっぱいになっていた。

(あ──、気持ち良いんだ、これ……。アヤセさん、きっと気持ち良いんだ……)

口が疲れてきたのか少しだけ唇が緩み、その隙間から透明な唾液が一筋、つぅっと滴り落ちる。
アルファはそれに気づくこともなく、初めてのフェラチオに没頭していた。
これが無機質のものを咥えていただけならすぐに飽きてしまっただろうが、これは自分の愛撫を受けて敏感に反応してくるのだ。
ペニスはアルファの口腔内でどんどん充血していき、ビクビクと痙攣し始めている。
おまけに先からは、早くも透明な液体が漏れ出ていた。
そのすべての反応は、自分の行為によってアヤセが快楽を感じている証明なのだ。
それがわかると、アルファはこの恥ずかしい行為が、それほどイヤではなくなっていた。
むしろ、自分の方が主導権を取れることが何だか嬉しくなってくる。

「ふ……んむっ……あむ……じゅぶ……んんっ……ちゅっ……は、はふ……んむう……」
「うっ……」

アヤセも我慢出来なくなってきたのか、アルファの頭を掴んでいる指に力が籠もり、柔らかい髪をくしゃりと握る。
そして自分の方から腰を振り出していた。
とはいえ、まだ暴走状態ではなく、初めての体験なはずであるアルファを気遣い、ガンガンと突きまくるようなことはしなかった。
本音で言えばそうしたかったのだが、それでは口唇愛撫に嫌悪感を持つことになるかも知れないし、だいいちアルファが可哀想だ。

それでも、腰の動きは抑えられず、どうしても大きく動こうとしてしまう。
アヤセは必死にその誘惑に耐え、掴んだアルファの頭を少し押すようにして、自分の腰から離そうとした。
しかし驚いたことに、アルファはアヤセの手を振り払うように軽く頭を振ってきた。
それどころか両手を伸ばしてアヤセの腰を抱くような真似すらしてみせたのだ。

(ア、アルファ……)

そんなことをすれば、亀頭の先が喉奥を突いてしまうかも知れない。
実際、アルファは時々咽せるように顔を顰め、苦しそうにしていることがあるのだ。
なのにアルファはやめようとしなかった。
さきほどからの快感に加え、そんなアルファの姿を見ているだけで早くも射精感が込み上げてくる。
アヤセだって、こんなことをするのは本当にひさしぶりだったのだから無理もない。

「アルファ……、ちっと待て……うっ……」
「んん、んう……んじゅっ……むっ……んぐ、んむう……じゅじゅっ……むぐっ……」
「だっ、だから、ちっと……ア、アルファ、おいっ……」

今にも射精してしまいそうになり、アヤセが必死になってアルファを止めようとするが、彼女はやめようとしない。
それどころか、さらに舌を活発に使ってサオを中心に舐めしゃぶっている。
アヤセの表情や反応を見ているうちに、どこが気持ち良いのか、だいたいわかるようになってきたらしい。

アルファの舌先がカリをなぞるように舐め上げると、アヤセは「ひっ」と情けない声を上げて踏ん張った。
もう我慢できないが、だからと言って熱心に愛撫してくれているアルファを突き放したり蹴り倒したりはできっこない。
アルファはアルファで、そういうアヤセの行動はすべて快楽の反応だと理解してしまい、なおのこと念入りに愛撫を加えてくる。
そして、アルファが舌先を尖らせ亀頭の先をこそぐように抉ると、もう、どうにもならなかった。

「あ、アルファ、離れ……くっ!」
「ぷあっ……、きゃあっ!?」

やむを得ずアヤセはアルファを軽く突き飛ばした。
その直後に、彼の男根から勢いよく精液が噴出する。
尻餅を突いたアルファの肩や胸に精液が降りかかる。
綺麗なラインを描いた首筋や顎にまでその飛沫は飛び散っていた。
アヤセは大慌てでアルファを抱き起こし、その身体や顔を自分のタオルで拭いた。

「す、すまね……、こんなことしちまって……」
「……いえ。自分でするって受け入れたんですから」
「そうじゃなくてよ……、その、引っかけちまったから……」

そう言いながら男は、なおも女の身体に浴びせてしまった己の精液を拭い取っている。
アルファはアヤセに拭かれるままになっていたが、頬にまだこびりついていた白濁液を指で掬い取ってみる。

「だいじょぶです。だって……、これ、毒じゃないんでしょ? 体液なんだから……」
「そ、そりゃそうだけどよ……。おめ、イヤじゃねえのか、こんなの浴びて……」
「……んー、別に。これって、その……男の人が、その、興奮して気持ち良くなるときに出ちゃうもの、なんでしょ?」
「ま、まあな」

アルファはそこでにこっと笑った。

「なら、いいです。私、いやじゃないですよ……。えへへ、私、まだ酔ってるんですかね?」
「……」

なんだかアルファがとても可愛く思えてきてしまった。
アヤセも男だし聖人君子でもないから、それなりに女性遍歴はある。
ただ、カマス使いになる前ならともかく、今では長く続いているような女はいない。
大抵は行きずりか、どうしても我慢できない時はやむを得ず風俗に行く程度だ。
旅師に女は邪魔だ。
「旅は道連れ」なんて言うが、彼にとっては一人旅の方がずっと気楽でいい。
それにカマスもいるのだ。

ついアルファにのめり込みそうになってしまったが、首を振ってその思いを振り切った。
何と言っても「初瀬野先生の子」なのだ。
そんなことが出来るわけがない。
それでも自分のアルファへの興味と、アルファ自身の「性行為」に対しての興味を考え併せ、「この夜限り」のつもりで抱く気になっていく。
と、同時に、この無垢な娘に「あれこれ」教え込む愉しさも堪えられなかった。
フェラを仕込むだけでなく、もうひとつ「教えてやろう」と思った。

「……落ち着いたか?」
「え……、あ、うん……」

アルファも何だかもじもじしている。
まだ「されて」いないと思っているんだろう。
人の女もそうだが、口で快感を得られるはずがないのだ。
見たところ、あるいは聞いたところによると、ロボットでも性的な快感はあるらしい。
なら、満足させてやるか、とも思う。

「……」

アルファは、再びむくむくと大きく膨張していくアヤセのものを興味深そうに見ている。
ごくりと喉が小さく動いたのは、それを見て彼女も少し興奮しているかも知れない。
一度射精したアヤセのペニスは、先端から白い液体が糸を引いて床を汚していた。
だらりと萎れかかっていたものの、これからの行為のことを考えているとまた活力を取り戻していく。
アルファにじーっと見られていたせいもあるかも知れない。

「なんか、すごい……。またおっきくなってる……」
「……」
「よく知らないんですけど、男の人のこれって、あの、何度も出るものなの?」
「ん、まあな。でもよ、そういつもいつもってわけじゃねえわさ。まー、そん時のコンディションとかよ、相手にもよるって」
「へー……。じゃあ私だから「こうなってる」って思ってもいいのかな?」
「いいんでねえの?」

そう答えると、アルファは何だかはにかんだような、恥ずかしそうな、それでいてどこか嬉しそうな顔をした。

「な」
「はい」
「……これから「する」けど……、一切、抵抗しねえって約束してくれるか?」
「え……?」

途端に不安になる。
何をする気なんだろう。

「こ、こわいことするの……?」
「さっきも言ったけど、初めてされるのは何でも怖かねえか?」
「そうだけど……」
「そういうこった。んじゃ……、そこ、寝てくれ」
「……はい」

と言ってアルファが仰向けに横たわって目を閉じた。
下着はどうすればいいんだろう、自分で脱ぐのかな……と思っていると、アヤセはおもむろにブラとパンティを剥ぎ取ってしまった。

「やっ……!」

アルファは慌てて身体を縮め、胸や股間を隠した。
しかし、アヤセが無言で見つめてくると、仕方なく腕も脚も伸ばして、その全身を晒してしまう。
アヤセはグラスにまたブランデーを注ぐと、それを持ったままアルファにのしかかってきた。

「……」

タカヒロに抱かれた時とはまるで違う。
あの時は、僅かとは言え経験のあったアルファがリードしたものだったが、今は完全にアヤセ主体だ。
彼がどの程度「経験」を積んでいるのかわからないが、少なくともアルファあたりは赤子のようなものなのだろう。

だが、アルファには不安だけでなく「安心感」もあった。
自分がリードする必要はなく、アヤセに任せておけばいいからだ。
アヤセについても、アルファは信用している。
少なくとも悪い人だとは思えなかった。

「いいな?」
「……」

アルファは小さく頷いて目を閉じた。
不安もあるが期待もあった。
アヤセはそんなアルファを見下ろしながら、そっとブランデーのグラスを傾けた。
胸に冷たい液体をかけられ、アルファは「きゃっ」と悲鳴を上げて目を開けた。

「あ、アヤセさん、何を……」
「じっとしてろって。痛いようなことはしねえって」

アヤセはそう言うと、ブランデーで濡れた胸をじんわりと愛撫し始めた。
ブランデーを擦り込むように乳房を握りしめ、ゆっくりと揉み込んだ。

「うっ……」

アルコールが敏感な乳首に染みこんでくる。
そこに擦り込もうと、アヤセの指がこねくってきた。
乳首だけでなく、乳輪にも指先で擦り込み、乳房全体にも塗り拡げてじっくりと揉み搾る。

「ああ……」

乳房が、乳首がジーンと痺れていく。
強いアルコールが鋭敏な箇所に染み渡り、揮発してさあっと涼しくなった。
そこをさらに揉まれると、今度は中からかあっと暑くなってくるのがわかった。

「んっ……ああ……はあっ……」

アルファの反応が露わになっていく。
両方の乳房はもうすっかりブランデーまみれにされたのだが、度数が高いだけあってすぐに揮発し、肌から引いていく。
揮発するときの涼しさと、そのすぐ後にやってくる燃えるような熱さがない交ぜになり、アルファを困惑させる。

アヤセはブランデーを垂らしながらアルファの乳房を揉み続け、特に乳首は念入りに責めた。
あっという間にそこは尖り、硬くなっていくのがわかる。
アルファにはそれがとても恥ずかしかった。
自分が感じてしまっていることを知られてしまう。
でも、もう乳首が硬くなるだけでなく、声まで艶っぽくなってしまっている。
快感に喘いできているのは一目瞭然だ。

「うんっ……ああっ……」

アヤセが責めてきたのは胸だけではない。
首筋や鎖骨の窪みにも酒を垂らし、そこを舐め取るかのように舌と唇を這わせてくる。
口で吸われる感覚、舌が這い回る感触に身体が震える。
舐め取られているから乳房ほどに冷熱差はないが、その分、ねっとりとした軟体動物のような唇や舌が責めてきて、アルファに悩ましい声を出させている。
口髭や顎髭が胸や首筋を擦ってくると、こそばゆさとともにゾクッとするような不可思議な快感もあった。

胸を揉まれ、首や耳といった性感帯を刺激され、アルファは美しい肢体をよじり、快楽に呻いている。
アヤセによって次々にほじくり出される性感に戸惑いつつも、その心地よさと、身体の芯がジーンと痺れるような快感に、アルファの表情がますます官能に染まっていく。

やはりタカヒロとは全然違う。
年齢だけでなく経験の度合いもまるで違うのだろう。
タカヒロの場合はアルファがリードするしかなかったが、今はもう完全に手玉に取られている感じだ。

アヤセは、アルファの左腕を掴むと、すっと頭の方へ持ち上げた。
アルファはとろけかけた顔をアヤセに向ける。

「アヤセさん、何を……、ひゃあっ!?」

アヤセの舌は腋の下に伸びて来た。
これにはさすがにアルファもはっきり拒絶した。

「い、いやっ……! そ、そんなとこ、やです! あっ、やめ……ああっ!」
「痛くはねえだろ? なんでそんな嫌がんだ?」
「だ、だってそんな……恥ずかしい、そんなとこ……ひゃっ!」
「んなことねえよ。ここも綺麗じゃねえか、アルファは」
「やあっ……」
「我慢しろって。ここもきっと気持ち良くなんぜ」
「ああ〜〜〜っ……」

暴れるアルファを少しだけ力を入れて抑え込む。
右腕を左手で押さえ、下半身は、股間を膝でこじ開けてその上に腰を落とした。
そして「く」の字になる左腕を伸ばしつつ、露わになった腋窩を執拗に責めた。
アルファが激しく動くので直接ブランデーを垂らすことは出来ず、口にいったん含んでから舌で擦り込んでいった。

「恥ずかし……やあっ……ひっ……く、くすぐったい……きゃっ……はああっ」

アヤセは舌を大きく使い、舌全体でアルファの清らかな腋を責めていく。
アルコールにまみれた舌が窪んだ腋窩を舐め上げ、唇で三角筋の筋を挟み、強く吸う。
アヤセの口が腋で動き回るたびにアルファはのたうち回り、呻き声を上げていた。
しかし、アヤセが同時に乳房への責めも再開すると、目に見えて抗いが弱まっていく。

「ああ……はっ……あう……んん……いっ……」

乳房を揉まれ、乳首を指で転がされる心地よさも手伝って、腋を舐められ、吸われるこそばゆさが次第に性感へと進化していった。
アヤセは乳首を摘みつつ、指で腋窩を軽く揉む。
アルファは踏ん張るように息み、ふっと力を抜いたかと思うと、また全身を息ませた。
感じてきているのは明らかだった。

「……どうだ? だんだんよくなってきたべ?」
「……知らない」
「それでいい。さ、もっと舐めてやるからな」
「や……、もういい、もういいですっ、ああっ!」

月明かりの中でも、アルファの肢体が目に見えて火照ってきているのが確認できる。
顔だけでなく、白かった肌もうっすらとピンクがかってきた。
もはや酔いだけのせいではあるまい。

アヤセは胸と腋を愛撫しつつ、巧みに膝で股間を割ってそこに自分の膝や腿を擦りつけている。
毛臑がじっとりと濡れ、脚にへばりついた。
アヤセは、喘ぎ顔を仰け反らせるアルファの耳元でそっと囁く。

「よくなってきたみてえだな」
「いやっ、そんな……」
「でもよ、ほれ、アルファのここ、もうすっかり濡れてるみたいだ」
「ちっ、違いますっ……これは……ああ……」

もう誤魔化しきれないほどに媚肉が濡れているのが実感でき、否定するアルファの言葉が途切れた。
アヤセは官能に染まるロボットの恍惚とした表情をうっとりと眺めながら責め続ける。
膝で膣やクリトリスを軽く擦り上げる。
乳房を鷲掴みにしてたぷたぷと揉み上げる。
乳首を唇で挟み、軽く引っ張ったり、甘噛みしてやる。
腋を指の腹で軽くさすり、舌で何度も舐め上げる。
どう責めてもアルファは過剰なほどに反応してしまい、声を上げ続けた。
自分が恥ずかしい声で喘いでいることに気づき、ハッとして手で口を塞ぐものの、アヤセの責めがポイントにくると、どうにも堪え切れず「ああっ」と大きく声を放ってしまう。
30分以上も責め抜かれ、あまり汗をかかないアルファの肌にも汗が滲み始める。

「……」

もうアルファの顔は官能に濡れている。
媚肉ももちろんそうなっていた。
頃合いだろう。
アヤセはアルファの腕を掴むと、ごろりと俯せに寝かせた。
アルファは軽く「あっ」と呻いただけで、ほとんど抵抗しなかった。

「……」

不安になってくる。
さっきまであれほどねちっこく責めてきたアヤセの手が止まっていた。
なぜ俯せにされるのかもわからない。
もう胸を愛撫する気はないのだろうか。
経験や知識がそれなりにある女性なら「ああ、後背位がしたいんだな」と察しがつくが、当然アルファにはそんな知識も経験もない。

俯せになると、顔がベッドに埋まってしまいそうになるので、アルファは枕を胸に下に敷き、その上で腕を組んで上半身を持ち上げた。
後ろ向きに寝ているから、当然、お尻を相手に見せつけることになる。
何だかとてつもなく恥ずかしい。
前を見られたり、胸を観察されるよりマシな気がしたのだが、そうでもなかった。
こうして後ろからお尻をじっくり見られるのは非常に羞恥心を煽った。
男の目がどこに行っているか確認できないから、というのもあるだろうが、アルファはなぜかアヤセの視線がお尻に来ていることがわかった。
目線に物理的な力があるわけでもないに、アヤセの視線が刺さっているかのように臀部が感じている。

「ア、アヤセさん、どこを……」
「……見てんのかって? アルファのお尻」
「〜〜〜〜っっ……!」

あまりの恥ずかしさにアルファは枕に顔を埋めた。
枕に顔を押しつけたまま、くぐもった声で抗議する。

「なっ、なんでそんなこと見てるんですかっ!?」
「何でって言われても困んな……。綺麗だからだよ」
「……」
「綺麗だと思うぜ、アルファの尻は。形も色もよ。肌なんかほんとに剥いたゆで卵の白身んとこみてえだ。つるつるの艶々じゃねえか」
「……」

褒められているというのはわかるが、それでも羞恥心は薄れるものではない。
というよりむしろ、余計に恥ずかしくなってきた。

「あ、あんまり見ないで……」
「そう言われると余計に見たくなんな」

そう言うとニヤッとしてアルファの尻を撫でまわし、そのすべすべ感と形の良さを味わっている。
そしておもむろに尻たぶに指をかけると、一気に割り開いた。


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