ノースアメリカン B-25 「ミッチェル」
   
            ノースアメリカン B-25「ミッチェル」

 ナチスドイツの脅威が増す1930年代後半、中立国アメリカでも有事に備えた戦闘機や爆撃機の開発には余念がありませんでした。この時代に実用化されていた大型爆撃機に最新鋭のB-17がありましたが、それは高価であり消耗戦となる戦争に大量投入は大国アメリカとはいえ得策ではありませんでした。

 1938年1月、アメリカ陸軍はノースアメリカン社に対して新型中型爆撃機の開発命令を指示しました。ノースアメリカン社は1930年代に創立した新興メーカーで、ライセンス生産が主体の会社でした。しかし製造においては納期・品質に信用があり、軍用練習機などで堅実な設計を行う事でも知られていました。その姿勢は後日名機P-51を生み出す結果となりました。この開発命令以前にノースアメリカンでは自社で独自開発を進めてきた中型爆撃機があり、軍からの依頼はこの開発中の新型機で進められることになりました。

 軍からの開発命令は1938年でしたが、自己資本での開発はそれよりも先に始まっていたため初飛行は1939年に迎えることができました。開発命令とほぼ同時期に試作機完成後は生産契約も結ばれていたため、試作機の手直し終了後、初期生産型として180機程が生産ラインに乗りました。
 この初期生産型機は飛行試験の結果、若干安定性に劣るという結果が出ましたが後にアメリカ海軍の主力艦上爆撃機SB2C 「ヘルダイバー」のような強いクセはなく設計の一部変更などの手直しで改修は終わりました。


 この初期生産型機に防弾装備やエンジン火災対策を施した次期生産型機が実戦参加しました。これらは初期のヨーロッパ戦線や太平洋沿岸の哨戒(パトロール)任務に使われました。

 また比較的短距離で離陸できるという特性も持っており、軽量化対策を施した改造機が1942年4月の日本初空襲に功を奏しました。ドゥーリトル陸軍中佐を指揮官に置いた16機のB-25部隊は航空母艦ホーネットから発進し、東京、横浜、名古屋、四日市、神戸と散発的に爆撃して中国大陸に逃れるというバクチに近い奇襲を行いました。
 ほとんどが墜落や不時着と後味の悪い作戦結果でしたが、アメリカの士気鼓舞や日本への心理的影響も大きく2ヵ月後のミッドウェー海戦への導火線役になったともいえるでしょう。


 ちなみに世界各国で大ひんしゅくを買ったマイケル・ベイ監督の「パール・ハーバー」の終盤ではドゥーリトル中佐の日本爆撃シーンが収録されています。精鋭を集めた極秘の作戦に「主人公である戦闘機のパイロットが爆撃機に乗る資格はない」などツッコミどころは多いです。他にも

 ・史実では爆撃だけでなく、機銃掃射まで行い非戦闘員が亡くなっているが劇中ではもちろんカット
 ・劇中では軍需工場で生産している兵器名を示す看板が立てられているが、普通に考えれば具体的な兵器名を表示することはあり得ない
 ・対空砲火で乗員が戦死・・・日本側は突然の空襲で空襲警報を鳴らす程度しかできなかった
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 また当時テスト段階にあったキ-61(後の3式戦 「飛燕」)に追い掛け回されたB-25もあるなど、アメリカ側も命がけの作戦でした。

 コストパフォーマンスと信頼性はアメリカ陸軍航空隊のパイロット達のお墨付きで同時期に開発された中型爆撃機マーチン B-26 「マローダ」は4000機程度しか生産されなかったのに対してB-25は派生型を含めると10000機近く生産されるベストセラー機となりました。
 また、B-25はアメリカだけでなく、イギリスやフランス、旧ソ連といった連合国軍だけでなく、オーストラリアや中国にも貸与され、日本やドイツとの戦いに投入されていきました。
 
ちなみにB-25の愛称「ミッチェル」はアメリカ独立空軍の必要性を訴え続け、アメリカ空軍(Air Force)創設の礎となったウィリアム・ミッチェル陸軍准将にちなんだものでした。彼は1936年にこの世を去っていますが、生前に戦略爆撃の有効性を説くなど先見の明は確かに持っており、1946年には議会名誉勲章が贈られています。アメリカで運用された全ての軍用機の中で人の名前が機体の愛称に使われた例はこれが最初で最後といわれています


性能諸元     

 全長; 16.13m
 全幅;  20.60m
 全高;  4.98m
 正規全備重量; 15900kg
 エンジン; ライト R-2600-92「サイクロン」空冷星形9気筒 1,700馬力×2基
 最大速度; 438km/h (高度4000m)
  武装;  
12.7mm機銃×12       
  爆装;  最大2700kg  または5インチロケット弾×8



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