Me210/410「ホルニッセ」
      
       
     Me210/410「ホルニッセ」
 
  
 1937年、ドイツ航空省は長距離戦闘機Bf110の制式採用を決めた頃、すでにメッサーシュミット社に後継機の開発計画を出していました。Bf110はカタログデータでは優秀な機体でしたが、戦線の拡大や今後の技術革新や戦略目的の変化に対応できる新型機が必要になることを見越してのことでした。

 事実、敵国であったイギリスではイギリス航空省に疎まれながらも、双発の高速戦闘機「モスキート」が開発中でしたし、中立国であったアメリカでもP-38「ライトニング」の開発真っ只中でした。メッサーシュミット社に求められたのはBf110の戦闘機としての能力以外に偵察、急降下爆撃がこなせて、後部機銃が遠隔操作で制御できるものとされました。

 この要求に対して、1938年、メッサーシュミット社はBf110の開発ノウハウをフルに生かした新型機の開発に乗り出しました。設計の最大の特徴は偵察や急降下爆撃など多用途の作戦に応じられるよう、機体下部に兵装ベイを標準装備したことでした。この兵装ベイは最大で1000kgまでの爆弾を内装することが可能で、偵察に用いる場合には、その中に偵察装備を設置することができました。さらにBf110以上の戦闘能力を持たせるために機首には大口径の20ミリ機関砲が2門と7.92機銃2丁が集中的に配置され、さらには機体後方の両側面には13ミリ機銃が1丁ずつ配置されました。
 メッサーシュミット社代表のメッサーシュミット博士がナチス党と深い親交関係にあったことから、まだ原型機も完成せず、初飛行も行っていないこの新型機はドイツ空軍から1000機の発注がなされました。1939年9月、第2次世界大戦勃発の直後、この新型機は無事初飛行を終えました。


 1940年7月、バトルオブブリテンで前機種であったBf110の性能不足が露呈すると、ドイツ空軍はいよいよ後継機であったこの新型機登場に大きな期待をかけることになりました。しかし、この新型機は原型機完成時に大きな欠陥を持っていたことが判明していました。主翼の設計に無理があった上に、軽量化のため、胴体を短く設計したため、失速しやすい操縦の難しい機体となっていたのです。

 航空機の主翼は上面と下面では必ず気圧差が発生するように設計されます。主翼の下面が上面よりも気圧が高くなると必然的に主翼を上に押し上げようとする力が発生します。これが「揚力」という力で航空機が空を飛ぶためのもっとも基礎的な要素ですが、自然条件や機体の状況で突然この揚力が失われるアクシデントが起きます。このアクシデントを「失速」といい、飛行中にこのアクシデントが起きると、飛行機は墜落します。この新型機は主翼の取り付け方に問題があり、失速後に錐もみ状態に陥る危険性のあるいわゆる欠陥機でした。

 しかし、バトルオブブリテンに敗北したドイツ空軍は欠陥機であっても新型機を手にしたいという気持ちから、生産を強行しました。生産された機体は東部戦線に送られましたが、失速の危険性を持った欠陥機であるがゆえに実戦部隊では事故が多発しました。メッサーシュミット社でも必死の改善措置を取りましたが、小手先の改善でどうにかなるレベルではなく、1942年にはMe210の生産は中止され、Bf110の生産ライン再開がされました。さらに欠陥機であることが分かっていながら、生産を続けた責任を問われ、メッサーシュミット博士は軍事裁判にかけられるという異例の事態になりましたが、メッサーシュミット社がこれまでに主力機を提供してドイツに貢献したことやナチス上層部の取り計らいや、空軍が強引に生産を進めさせたことの後ろめたさなど、様々な因子が働き、メッサーシュミット博士は有罪とならずに済みました。


 メッサーシュミット社は欠陥機となったMe210を徹底分析し、問題であった主翼の取り付けと胴体の再設計でアクシデントを克服し、エンジンもMe210よりも強力なものを採用した性能向上タイプであるMe410を完成させました。このMe410はこれまでの汚名を返上するかのごとく安定した性能を見せ、Me210で期待された偵察、急降下爆撃の任務以外に、
  ・高速爆撃機タイプとして主翼下部に爆弾懸架装置を追加して運用されたもの、
  ・50ミリ機関砲を装備した対爆撃機タイプ、
  ・レーダーを装備した夜間戦闘機タイプ、
  
などが随時開発され、他用途の重戦闘機として大戦後半のドイツ空軍を支えました。一時期はイギリスの重爆撃機やモスキートを駆逐するなど、「ホルニッセ」(ドイツ語で「スズメバチ」の意味)という愛称を持ち、ある程度の戦果を挙げていたのですがP-47P-51など連合国空軍の単発戦闘機の性能が向上すると、双発戦闘機のMe410も苦戦を強いられ、夜間戦やゲリラ的な奇襲攻撃に用いられることが多くなりました。



性能諸元    (Me410 A-1)

 全長;  12.75m
 全幅;  16.38m
 全高;  4.28m
 正規全備重量; 10650kg
 エンジン; ダイムラー・ベンツDB603A(離床出力1750馬力)×2基
 最大速度; 620km/h 
  武装;  13mm機銃×4 または20mm機関砲×6
  爆装; 最大2000kgまで
  
              
    
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