メッサーシュミット Bf110
メッサーシュミット Bf110
1934年、ドイツ航空省は「戦略重戦闘機開発仕様書」を発行し、それに沿った戦闘機の開発を国内の各メーカーに公募しました。この当時は重戦闘機といえば、航続距離が短い代わりに重武装した単発(エンジンが一基)戦闘機か機体サイズは大きくとも、双発(エンジンを二基以上搭載)戦闘機かの選択肢となっていました。
ドイツ航空省は長距離侵攻が可能な航続力とスピードを持った多目的戦闘機を要望しており、具体的には大口径砲と爆弾倉を装備、複座、全金属製単葉機という条件が付けられました。ドイツの航空機メーカーは設計プランを立てましたが、実際に審査対象となったのは7社中、ヘンシェル社(飛行機よりもタイガーT戦車開発の方があまりに有名)、フォッケウルフ社、そしてBFW社(後のメッサーシュミット)の3社に絞られました。
ヘンシェルとフォッケウルフの2社は要求どおりに対空銃座と爆弾倉を装備した試作機を開発し、軍のテスト飛行に臨んだのですが、軍が期待したとおりの性能を達成できず候補から外れてしまいました。
一方、BFWは爆弾倉という条件を無視したコンパクトな機体のプランを提出していました。要望を無視したプランならば、本来試作すらできないはずでしたが、BFWを推す軍の高官の圧力により試作される運びとなっていました。1936年5月、初飛行を迎えた試作機は時速500kmという最高速度を記録しました。この速度はドイツ空軍の主力機
Bf109の最高速度470km/hを上回る素晴らしいものでした。この結果に大いに満足した空軍は1937年に採用を決定し、Bf109では果たせなかった重戦闘機としての働きに期待しました。
1939年9月のポーランド侵攻でBf110は華々しいデビュー戦を飾りました。爆撃はできなかったものの、大型戦闘機ならではの豊富な武装で地上や艦船への機銃掃射は十分すぎる威力を発揮しました。それに続く西部戦線(フランス、オランダ、ベルギー相手の軍事衝突)でも対戦闘機戦でも圧勝するなど、Bf109に引けをとらない性能を連合国に見せ付けました。ただし、例外はありました。イギリス空軍の繰り出したハリケーンや
スピットファイアには苦戦することが多く、返り討ちにされるケースがあったのです。ただこの西部戦線ではBf109も同伴することができ、損害の大きさははっきり目にすることはありませんでした。
Bf110の弱点が露呈したのは、イギリス本土上空での制空権をかけた「バトル・オブ・ブリテン」に突入した直後でした。航続距離の短いBf109はイギリス南東部までしか味方の爆撃機を護衛できないため、それより遠くの護衛任務は必然的にBf110が引き継ぐことになります。いかにスピードがあったとはいえ、現代の双発ジェット戦闘機とは異なり、運動性はスピットファイアの方が優れ、Bf110は味方爆撃機の護衛どころが自分を守るので精一杯でした。その結果、味方爆撃機の損害が大きくなりいつしかBf110は「戦闘機の護衛が必要な戦闘機」という不名誉な評価をなされ、爆撃機の護衛任務から外されることとなりました。
日本の
屠龍、
月光同様、Bf110に用意されていた道は夜間戦闘機としてのデビューでした。単発戦闘機では重量や人手に問題が出る大口径砲やレーダーを積み込むには双発戦闘機はまさにもってこいの機体でした。日本と違い、この後ドイツはハインケル社が「ウーフー」(ワシミミズクの意味)という専用の夜間戦闘機を開発しますが、それまではBf110が夜間戦闘を一手に引き受けていました。また設計改変で500kg爆弾を搭載できるタイプも開発され、後半の戦いを支えることになります。
この機を使用して赫々たる戦果を挙げたエースパイロットの一人にハインツ=ヴォルフガング・シュナウファー少佐が挙げられます。彼は若いながら夜間戦闘のスペシャリストとしてその名を轟かせており、所属基地の所在地が「サン・トロン」にあったことから、イギリスの重爆撃機のパイロットたちからは「サン・トロンの幽霊」とあだ名され、彼の出現を恐れました。
Bf110は「戦闘機の護衛が必要な戦闘機」という不名誉な評価がなされましたが、どちらの陣営も双発戦闘機で単発戦闘機を越える傑作は開発できませんでした。しかし、レーダーを装備しての夜間戦闘やその後の柔軟な任務への対応、戦訓を作ったことを考慮すれば、決して駄作や失敗でないのは明らかだと思われるでしょう。
性能諸元
全長; 13.05m
全幅; 16.25m
全高; 4.18m
正規全備重量; 9400kg
エンジン; ダイムラーベンツ DB601B-1 液冷倒立V型12気筒 1,475馬力×2基
最大速度; 550km/h
武装; 37mm機関砲×2、20mm機関砲×2、7.92mm機銃(後方旋回)×21
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