アブロ ランカスター
アブロ ランカスター
1936年、イギリス航空省から双発中型爆撃機の仕様に基づいて1機の新型爆撃機が開発されました。当時のイギリスではアメリカの
B-17のような重爆撃機よりも、快速で反復出撃に向く中型爆撃機に注力されていました。
そんな中、イギリス空軍はロールスロイス社で開発中の新型高出力エンジン「ロールスロイス・ヴァルチャーエンジン」の搭載を前提にした新型爆撃機の開発指示をアブロ社に出しました。
このエンジンは二つの水冷エンジンをクランクシャフトで連結した珍しいエンジンで最大出力は1700から1800馬力を目標としていました。完成すれば日本の中島飛行機が開発した「誉」エンジンかアメリカの代表的な2000馬力級エンジン「プラットアンドホイットニーダブルワスプ」にも匹敵するパワーでしたが、開発を急いだせいか安定性に乏しく、目標の1800馬力はおろか1400馬力が出れば良い方でした。
このエンジンの完成後、1939年夏に試作機による試験飛行が始まりました。ヴァルチャーエンジンはシリンダー焼損やベアリング破損など様々なトラブルに悩まされ続け、試作機そのものも空中での安定性に難がありました。イギリス空軍は「マンチェスター」という名称を付け、翌年から生産が始まりましたが、運用部隊からはクレームの連続でした。
特にエンジンの信頼性は無きに等しく、パイロット達からは「作戦中、ドイツ空軍に撃墜されるよりも先に、エンジントラブルで墜落してしまう」と搭乗を嫌がられる程でした。この評判を受けて、イギリス空軍はマンチェスターの生産が200機に達した時点で運用を停止しました。
同じ頃、ロールスロイス社では第二次世界大戦を制したとも言われた伝説の航空機用エンジンが完成していました。
ムスタングや
スピットファイアの心臓部であった「マーリンエンジン」でした。アブロ社の設計主任であったロイ・チャドウィックはこの新型エンジン搭載を前提としたマンチェスターの改造計画に着手していました。
改良点は挙げると以下のようになります。
・マーリンエンジンを4基搭載できる大型の主翼を配置
・胴体中央部を延長して、爆弾搭載スペースの確保
・安定性不良の原因であった尾翼の再設計
これらの改良を受けた改造型マンチェスターは試験飛行の結果、驚くほどの性能向上を果たしており、ようやくイギリス空軍は本命ともいえる主力爆撃機を手にすることができました。この時点で中型爆撃機「マンチェスター」は姿を消し、重爆撃機「ランカスター」として生まれ変わりました。
1942年から戦線に投入されたランカスターはドイツの工業地帯爆撃に従事しました。長大な爆弾倉は様々な大型爆弾の搭載を可能にし、なんと10トンの爆装をしても離陸できるという
B-29も上回るパワーを持っていました。
ドイツは開戦前から、インフラ設備や軍事施設爆撃に対しての対抗策を持っており、コンクリートを使った土木技術はイギリスも認めざるを得ないレベルでした。特にUボート基地は天井に極厚のコンクリートを使用しており、1トンに満たない爆弾ではビクともしない耐久性を持っていました。ダムなども並大抵の爆撃では破壊されないように堅牢に作られており、破壊は不可能に思われていました。
イギリスはこういったコンクリートを貫通して破壊する専用の大型爆弾を独自開発していましたが、それを目的地まで運べる航空機はランカスターの配備まで存在しませんでした。最大の爆弾「グランドスラム」は全長は7.7メートル、重量はなんと11トンもありました。高度1万メートルから投下すれば、落下スピードは音速を超えており、その運動エネルギーの持つ破壊力はどんな堅牢な構造物でもひとたまりもありませんでした。
戦争の常ですが、爆撃機の爆弾は軍事施設のみならず、非戦闘員にも容赦なく降り注ぎました。ヨーロッパの都市爆撃で犠牲の多かったものとして「ドレスデン爆撃」もランカスターが参加した作戦の一つでした。犠牲者数は東京大空襲にも匹敵するものと伝えられています。
7000機以上生産されたランカスターですが、ドイツ空軍との激戦で喪失する機体も多く、実に半数が失われたという記録が残されています。ランカスターは多くの命を奪った機体のようですが、第二次大戦終結後は旅客機や郵便、さらにはドイツ分割統治時代に起きた「べルリン封鎖」後の日用品輸送などにも運用され、初飛行から1963年の退役までの生涯、決して命を奪うだけではありませんでした。
性能諸元 (B.Iタイプ)
全長; 21.18m
全幅; 31.09m
全高; 5.97m
正規全備重量; 28,576kg
エンジン;ロールスロイス・マーリンエンジンXX V型12気筒エンジン(離昇出力1280馬力)×4基
最大速度; 450km/h
武装; 7.62mm機銃×8
爆装; 10,000kgまで
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