■□ 協奏曲 □■
×ロクス他 ED後
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4(成人向け)
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(軽い描写あり)
彼女は帰ってくると約束した。だから、自分も自分の行いを振り返らねばなるまい。
「堕落しきった破戒僧」から「災厄を払いし救世主」となったロクスは愛しい彼女とのひと時の別れの直後、逃げられないやるせなさの中、コリエンテスの町から聖都アララスへ向けて手紙を出した。
別にこの町でなくてもよかったけれど、先延ばしにして手遅れにするわけにはいかない話だったから、伝説の魔城浮かぶ湖に一番近い町から、激闘の疲れも癒えぬまま、ひたすらに考えて手紙をしたためた。
手紙なんて書き慣れていない、旅先から誰かにあてて手紙を出すような殊勝な真似をしたことがなくて、書いては捨て書いては捨てを幾度か繰り返したけれど、結局あまりまとまりのない文面のまま手紙に封をした。
その封を見れば、わかる者には差出人がロクスだということはすぐにわかる。ただ、受取人が受け取ってくれるか、封を開けて読んでくれるかは、一か八かの賭けだった。
ロクスは自分の後見人である副教皇へ宛てて手紙をしたためた。しかし半年以上前に副教皇から見限られ放逐されている身分でもある。10に満たぬ歳で親元を引き離されて天使に見出されるまでさらに13年。
副教皇は本当の父親よりも心象としては父親に近い。しかし歪んだ生育環境ゆえにロクスは反発ばかりを繰り返して父親代わりの存在を裏切り続けた。
まずは己の罪を認めよう。そうしないことには何も始められない。
法衣を脱ぎ、いずれ戻るはずの愛する女性とともに一生倹しい暮らしを送るか、それともこんな自分でもまだ求められ、それに応えて教皇の座に昇るのか――――どう転ぶにしても、身の振り方をはっきりさせて隣に愛する彼女の居場所を作っておかねばなるまい。
手放さぬと自分から求めた以上、男としてやれることはやって彼女を迎えたい。
そして半月ほどの旅路を経て、ロクスはいまだ爪痕残る聖都へと戻ってきた。隣にあの愛らしい天使はいない。
結局彼女は戻らない。ひとり旅の間に恋しさは募るばかり、なのに彼女はどこで何をしているのか…ロクスの元に戻ると言いながら未だ戻らない。半月の間にロクスの顔つきはすっかり変わり、柔和で端正な顔立ちに傷を刻まれた麗しの教皇候補の青年は、微笑みではなく憂いをたたえながら、彼と同じに様変わりした建物の前に立っていた。
その建物に残る傷も、己の罪。幼稚な反抗の果ての罪。
しかしそれもすべて受け入れねば。もう逃げ道などどこにもない。
己が逃げ出したあとに愛しい彼女が戻って来たら、彼女まで行き場を失ってしまう。
捨てられる程度の想い、ひとりでまた逃げ出せるほどの思い、そんな半端な気持ちじゃなかったはず。手放せないから身の程知らずと知りながらも彼女を欲した。
身の程知らずな恋の相手は、幼くも美しい天使様。全能なる父と万能なる彼女の兄たちから、ロクスは幼い天使シルマリルを奪い取った。
シルマリルも矮小なる人間の男を選び、すべての栄光を捨てて翼を天に返すためにひと時の別れの後の再会をかたく誓った。彼女が約束を違えたことはないから、ロクスも信じるより他はない。
「久しぶりだな。」
門の前に、小さな人影があった。
しわがれて少し疲れた様子のその声に、見慣れた小さな姿と豪奢な法衣に、ロクスは表情をさらに厳しくして声の主を見つめた。そして何も言えぬなりに深く、深く頭を下げる。
「…副教皇」
いつまでたっても教皇の座に昇れないろくでなしの代わりに、長い間教皇庁をまとめ続けた人望ある老人。ロクスを突き放した、教皇庁の中での父親代わりの男性。
ロクスは教皇庁に、この人物を相手に長い反抗期を過ごしていた。彼の心配を偽善と決めつけ、その振る舞いすべてを体裁と断じ、他の僧侶よりも嫌悪していたのかもしれない。
今はさすがに抜けられたけれど、反抗期の終わりをもたらしたのも、彼の天使シルマリルだった。肉親もいないはずの幼い天使の方がロクスよりもずっと大人で、けれど素直で、彼女は副教皇の言葉に裏がないことを感じ、己の勇者であるが、明らかに外見では年長のロクスを何度もたしなめた。
「顔に傷がついているようだが、なにやらあったのか?」
そのたびにロクスは彼女の世間知らずさやあどけなさを理由に耳を貸さなかったけれど、そんな彼も少し大人びたということなのか、自分の方が偏見で塗り固めていたことにようやく気がついた。
いや、本当は気づいたいたのだろう。認めなかっただけ。
その証拠に、追い出した放蕩者を相手にしているというのに、副教皇の言葉には、声には懐かしさや安堵、そんな感情が隠しきれずににじんでいた。
「委細すべて話すつもりで戻ってきました。
僕は…僕に、この門をくぐる資格はあるのでしょうか?」
答えてほしい。その資格が自分にあるのか、ないのか。
聖都の陥落、教皇庁の崩壊、多くの人々が苦汁を飲まされて――――彼が自分で判断することではないほどに、ロクスの罪は大きかった。
罪は裁かれるべき。裁きを受けるための訴状は半月前に出している。
葛藤と迷走を隠し続けた微笑みの仮面を破壊したロクスの悲痛な問いかけに、副教皇は静かに返す。
「教会は誰も拒まぬ。
罪人だろうと、たとえ悪魔だろうと、神に救いを求めるものならば等しく平等だ。」
おそらくすでに決めていたのだろう、老人は、若者の、息子同然のロクスの罪をすんなりと受け入れそして許した。それが教義に基づく寛容さからなのかそれとも彼の中に静かにあり続けた情からなのかはわからないが、副教皇は少しやつれた頬をゆるめて、穏やかに微笑んだ。
「…己が罪を雪ぐためとは言え、お前はよくやった。悪魔の首領の化身の断末魔、ここからしかと見届けたぞ。」
魔城浮かびし湖は教国領の果ての果て、天竜と堕天使、それに立ち向かう天使と勇者――――それは千年の時を経て再び繰り返された。千年の昔と同じに若き僧侶が勇者として立ち向かい、厚く厚く重苦しく垂れ込めた暗雲は、再び払われ光が幾筋も幾筋も疲れた大地に降り注いで、ロクスは破戒僧から初代教皇の再来とその肩書きを変化させた。
「お前の手紙を受け取り、諸侯の説得は何とか済ませることができた。お前は無鉄砲だが、これと信じたものに対する信念から生まれる力は我々老人や壮年の者の比ではないほどに強い。
お前と同じように天使に請われその剣となったとしても、堕天使や魔王を相手取り戦うことができる者は、今の教皇庁にはいまい。
お前だからできたことだ、それだけは卑屈にならず誇りに思うのだぞ。」
あのかたくなですべてに、自分自身にさえ絶望していた若き教皇候補を変えたのはいったい何なのか?
副教皇でもそれだけはわからなかったが、彼の誇りは間違いなく彼のその手が導いたもの。かつてのように卑屈にならずに胸を張ってほしかった。
『いつまで子供みたいなことを言っているのですか。
副教皇はあなたのことが心配でかばったのではないのですか?』
ロクスの耳の奥に、シルマリルの厳しい、けれど優しい声が響く。あの時は彼女の言葉すらもひねくれた目線で否定した、しかし…しかし現実は……今の副教皇の言葉がすべてなのかもしれない。
改めて育ての親を正面から見ると…彼にも間違いなく老いが訪れていて、シルマリルほどではないけれど、こんなにも小さくそして頼りなく見えた。
いつの間にこんなに老いてしまったのだろう? それだけロクスが彼をまともに見ていなかったということ。
「…そのような大きななりをして泣くやつがあるか。」
天使様は正しい。いやシルマリルは素直に物事を捉える。責めるような口調でロクスをたしなめたシルマリルの言葉はやはり間違っていなくて、それを今頃思い知らされてロクスは思わず下げた頭のまま顔も上げられずに涙をこぼした。
人前で涙を見せるなどみっともない。そんな姿を見られるぐらいなら死んだ方がマシ。そう嘯いていたのに、やはりシルマリルに看破されていた。
副教皇の声色と言葉は、その立場のものではなく父親のそれだった。
ロクスはようやく聖都アララスの教皇庁に戻った。
身の振り方は、まだ定かではない。
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4(成人向け)
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(軽い描写あり)
2008/07/30開始
男勇者のそばで生きる選択肢の中でも、一番生きにくいのはロクスだと思います。
彼の境遇も立場もすべてが障害で、拠所は彼の気持ちだけ。
天使として何不自由なかったシルマリルがもたつきながら転びながら泣きながら人間の女性になる様を、
ロクスを絡めてゆっくりと書いてゆければ、そう思いながらどまったりと結末すら考えずに書いてみます。
なお、この話は通常メニューでも読めますが、話によってはかなり露骨だったり問題ありということで通常メニューからだと読めない話が存在する仕様としています。
完全版をお望みの方は隠しページよりどうぞ。
ただし「性の禁忌の切り崩し」を目論見つつ書いている話ですので、いわゆるノーマルなセックスではないことだけは断言できますので
覚悟の上でお願いします。
ちなみに連載開始より公開している最初の成人向けの話は初体験にもかかわらずアナル調教+そっちでの本番ですので…間違いなく読み手様を選びそうです。
ただ、それ抜きでも読めるような話になるよう気をつけます。
またノーマルな愛あるセックスの話なら注釈をつけて通常メニューの中でも成人向けということで読めるようにする予定です。