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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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[ヴァンスコ]インモラル・スモールワールド

  • 2020/12/08 22:00
  • カテゴリー:FF
現パロでR-15気味





ヴァンが全寮制の学園に入ったのは、昨年の冬のこと。
冬休みが終わり、そろそろ期末試験の話も出ようかと言う頃に、ヴァンは転入した。
随分と中途半端な時期に転入する事になったのは、その年の夏に兄が交通事故に遭い、半身不随の身になった事が理由として挙げられる。

両親のいないヴァンは、養護施設の職員と、生家のあった近所に住んでいる古物商を営む幼馴染の家族、そして兄に育てられた。
養護施設出身である事に苦を感じた事はなく、兄と幼馴染とその家族にもよく愛されて、人が憐れむような不幸を感じた事はない。
だが、唯一の肉親である兄が事故に遭ったと聞いた時には、流石にショックが隠せなかった。

全国ネットのテレビで報道される程、車両が連なる大事故であった中、兄が生きていたのは不幸中の幸いと言えただろう。
しかし、命が助かった事への代償のように、兄は半身不随となり、車椅子がなければ生活できない体になった。
神の存在を信じた事などなかったが、何処にぶつけて良いかも判らない感情の行先に、可惜にそれを恨みもした。
そんな事をした所で兄の体が治る訳でもなければ、日々の生活に余裕が出る筈もなく、寧ろ社会人として収入を得ていた兄がそれが適わなくなった事で、ヴァンの生活は困窮する事になる。
急いで自分のできる仕事を探し、入院費と生活費と学費を稼ぐ為、勉強も出来ない日々が始まる。
とにかく兄の事だけは守らなければ、今まで守ってくれたのだから、今度は自分が────とヴァンの気持ちはそれで一杯だ。
それが空回りしていた事は、後から考えれば否めない話であったが、若干15歳の少年が、突然の家族の不幸を目の当たりにした中で行動したものとなれば、彼は十分に頑張っていた。
頑張って頑張って、その姿が余りにも痛々しくて、一番辛い体になった筈の兄が、「もう良いんだよ」とヴァンを宥めていた程だ。
だが、若い身でも日々の流れに目が回り、肝心の学業など手も付けられず、入学したばかりの公立高校も辞めて、収入を得る事だけに集中しようかとも思った。
しかし、今時、15歳の子供を雇ってくれる場所など早々なく、しかしアルバイトだけでは兄の看護に回せる額もたかが知れている上、生活の為に使える額も微々たるもの。
増えるよりも減る数字の方が遥かに多い通帳を見て、空からお金が降ってくれば良いのに、と夢を馳せたのは一度や二度ではなかった。

そんなヴァンに、「この学校を頼ってみたら」と提案したのは幼馴染のパンネロだ。
役所の広報掲示板に置かれていたパンフレットを持ってきた彼女は、誰よりも何よりも、ヴァンとその兄の事を心配してくれていた。
彼女が見せたパンフレットには、エスカレーター式の全寮制学園の案内が綴られ、その学校が元々は養護施設からの創まりである事が書かれていた。
今でもその名残は残されており、ヴァンのように両親のない子供や、劣悪な家庭環境から保護された子供がシェルターとして利用しながら、併設された学校へと通うことが出来るように整えられていた。

ヴァンがその学園に連絡を試してみたのは、自分を援ける為ではない。
学園は少年少女の生活兼学習の場として用いられながら、其処を卒業した生徒の就労支援や、生活支援も行っていた。
福祉関係にもきちんと目が配られているようで、それなら車椅子生活を余儀なくされた兄でも、少しは楽に過ごせるのではないかと思ったのだ。

結果としてそれは願い叶うこととなり、兄は事務職員としてその学園に迎えられる事になった。
そして同時に、お兄さんのことが心配でしょう、貴方もいらっしゃい、と学園長である男性から促され、でも学費が───とヴァンは言ったが、学園長は笑みを浮かべて首を横に振った。
若い内の学びと言うものは、後々に様々な形で影響を及ぼし、貴方の大切な財産となります、それを已むを得ない事情とは言え、奪われる事はあってはいけない────学園長であるシド・クレイマーはそう言った。
また、そう言った子供達の為に、この学園は創られたのだと彼は言った。
どうしてもお金の事が気になるのなら、ヴァンも交えて事務雇用する事になる兄とも話し、給料から学費分を引くと言うことも可能であると。

転入に際し、普通ならある筈の入学金や転入試験の為の受験料は、丸ごと免除された。
テストも形だけみたいなものですけどねえ、と学園長は冗談めかしていたが、流石にそれを本気には出来ず、ヴァンなりに試験当日まで勉強を頑張った。
アルバイトに忙殺される中での勉強は大変ではあったが、此処を乗り越えれば兄を少しでも楽にさせる事が出来る、と思って踏ん張った。
その甲斐あって、編入の合格ラインのギリギリはクリアして、ヴァンは無事に、兄と共に転入を果たす事となる。

転入後、ヴァンは学園の生徒達が過ごす寮に入った。
兄は学園内にある職員用の寮へと入る事になり、兄弟は初めて離れ離れで生活する事になる。
心配もあってヴァンは兄と一緒に過ごす事を願っていたが、兄の方から「距離が近過ぎると、ヴァンに甘えてしまいそうだから」と言われてしまった。
確かに、兄の傍にいれば、ヴァンは他の何を置いても兄を優先するだろう。
それによって兄が日々助けられていた事も事実だが、同時に、彼は弟の自由を束縛し続ける事に罪悪感も抱いていた。
今まではそれを仕方がないと受け止めていたけれど、この学園は兄が一人で行動できるよう、可能な限りの福祉が整えられており、兄の同僚となった他の職員たちも、その意識が強い。
だから、ヴァンはヴァンの今しかない時間を過ごして欲しい、と、事故に遭ってから何よりも兄を優先してきた弟を、彼はそっと手を離して背を押した。

それでもヴァンの一番の優先が兄である事には代わりはない。
時間があれば兄の顔を見に行き、時々食事を作りに行きと相変わらず世話を焼きつつも、ヴァンはヴァンなりに自分の時間と言うものをようやく探せるようになり始めていた。




学生寮は三人一部屋が原則であったが、人数の関係で炙れる者はいるものだ。
昨年の冬、転入したヴァンが入った部屋の先住人が、正にそれだった。
それも一人で三人分の部屋を広々と使えていたものだったから、ヴァンの転入と入寮に際し、随分と不機嫌な顔をしていたのをヴァンは覚えている。
広かったのが狭くなるんだからそりゃあ嫌だよなあ、とヴァンは思っていたが、後々考えると、あれは不機嫌と言うよりも不安だったのだろうと思う。
人とのコミュニケーションを円滑に行うことに積極的ではなかった同居人となるその人物は、平時から眉間に深い皺を寄せている。
その顔がいつも不機嫌で怒っているように見えるだけで、本当はもっと複雑で判り難い奴なのだと、ヴァンは一年生から二年生への春休みの頃に覚った。

その同室人がいたお陰で、二年生になってからのヴァンの成績は随分と矯正された。
元々ヴァンの学力と言うのは決して低くはなく、兄が事故に遭ってから、アルバイト詰めと精神的な余裕もない日々の中で低下した事が大きかったが、それによる遅れは多大なものがあった。
同室人は、一年生の期末試験で見事に大量の団子を取ったヴァンに呆れ、来年も担当する事になるであろうクラス担任から、「面倒を見てやって欲しい」と言われたそうな。
真面目なのか、渋顔をしてみせる割にお人好しなのか、彼はその言葉通りに、ヴァンの勉強の面倒を見た。
転入からの春休み早々に補習を食らったヴァンが寮に戻ると、同室人から個人授業が行われ、高校一年生の勉強を丸ごと復習した。
詰め込みも詰め込みだったので、知恵熱もあったし、そうなると流石にヴァンも勉強に嫌気が差してくる。
職員寮の兄の所に逃げ込んだ事もあったが、兄に諭された事と、同室人がヴァンの逃亡に怒るより、逃亡させる位に嫌な教え方をしていたのか、と落ち込んでいた事に気付いて、ヴァンは逃げるのを止めた。
時々兄に雑談交じりにちょっとした愚痴を零す事はあるが、部屋に戻ればちゃんと教えを請ける。
同室人はコミュニケーションは決して得意ではないが、それでもヴァンが判るよう、理解できるようにと必死に言葉と順番を選び、根気強く教えてくれた。
そのお陰で、春が半分を過ぎる頃には、ヴァンの成績は全体平均の同等まで押し上げられていた。

そう言った経緯もあって、今ではヴァンと同室人の関係は良好だ。
それはもう、とても。

その同室人は、成績優秀で真面目である事が知られているので、よく教員から手伝いを強請られる。
嫌なら断れば良いものを、断る為のエネルギーと理由を考えるのが面倒で引き受けてしまう為、余計にあれこれと手伝わされていた。
今日は特別しつこい教員に声をかけられており、それに眉間の皺を三割増しにしてついて行く姿が目撃されている。
帰って来た時に荒れてそうだなあ、とヴァンは他人事のように思いながら、ベッドヘッドに寄り掛かって、図書室から借りてきた本を読んでいた。

静かだった部屋に、カチャ、カチャン、と鍵を回す音が響く。
帰って来たのだと判ったが、ヴァンは本の世界に没頭していた。
やや荒めにドアの開閉音がした後で、隣のベッドに鞄が投げられるのを視界の端に見る。


(荒れてるなぁ)


概ねの予想通りではあった、とヴァンは特に驚く事もなく思う。
そんなヴァンの傍らで、ぎしり、とベッドのスプリングが軋んだ。

ベッド上で投げ出していたヴァンの足の上に、どす、と重い人の頭部が落ちてきた。
本の世界の住人でいるには、聊か無視が難しいそれの襲来に、ヴァンは顔を上げる。
其処には、濃茶色の柔らかい髪をヴァンの太腿に落とし、此方へ後頭部を向けている同室人────スコールが突っ伏していた。


「お帰り」
「……ん」


帰宅を迎える挨拶に、スコールの反応は簡素だ。
それでも声で反応してくれるようになった分、彼の中では破格の扱いであるとヴァンは知っている。

はあ、と言う溜息がヴァンの膝を擽る。
もぞもぞと身動ぎしたスコールは、制服のままの背中を丸めて、ヴァンの太腿を枕にした状態で縮こまって行く。
嫌な事あったんだろうなあ、とヴァンは思ったが、その委細を聞く事はしなかった。
スコールが自ら口を開かないのなら、ヴァンは自分が気になる以上の事は聞かない。
そして、スコールが言いたくなったら、それは聞いていても良いと、ヴァンはそう考えていた。

同室人に帰宅を確認したので、ヴァンはまた本に視線を落とした。
しかし、いつの間にか随分と暗くなっていた部屋に、このまま読書を続けるのは難しいとようやく気付いた。
電気点けなきゃ、と一旦ベッドから降りることを考えたヴァンだったが、足に乗っていた重みが動く先を感じてまた顔をあげる。


「スコール」
「……」


其処にいる人物の名前を呼べば、深い海の底のような蒼灰色がヴァンを見上げる。

スコールは、ヴァンの下腹部にとりついていた。
同性なのだし、そうでなくともこの年齢で、其処に何があるのかを知らない者はいるまい。
スコールの手がその部分を摩るように撫でれば、ヴァンの腰がぴくりと震えた。


「するのか?」
「嫌か」
「どっちでも良いぞ」


ヴァンの淡泊と言えば淡泊な反応に、スコールは眉間の皺を深くした。
それが言いたい事が頭の中をぐるぐると巡っている時だとヴァンは知っているが、その中身も聞く事はない。
スコールがその顔をする時は、自分の中でも言葉がまとまっていなくて、しかし気持ちは後から後から溢れて止まらない時。
そんな時に突いてみても、結局スコールは貝になるだけだと、短いが期せずして深くなった付き合いで、ヴァンはよく知っていた。

スコールはヴァンの腰のベルトを緩めると、ジーンズのフロントジッパーを下ろした。
まだ幾らも反応していない中心部に顔を寄せて、高い鼻がスン、と鳴る。
そう言えば今日は体育があったなあ、とヴァンが今日の時間割を思い出している間に、スコールはヴァンの下着をずらし、中に納まっていたものを取り出した。

ちらり、と蒼の瞳がヴァンの顔を見た。
じっと見詰め返すヴァンが動かない事に、気乗りしていないと思ったか、


「あんたは本でも読んでれば良い」


そう言ってスコールは、ヴァンの象徴をぱっくりと咥え込んだ。
躊躇も遠慮もないそれに、やっぱり荒れてるなあ、とヴァンは思う。
きっと、今日の面倒事を片付けた後に、次の面倒事を頼まれたのだ。
断らないからそうなるんだと、スコールの幼馴染らしき先輩から言われていたのを見た事がある。
全くそうだとヴァンも思うが、スコールにとっては手伝うより断る労力の方が疲れるらしいので、きっとこの連鎖は続いて行くのだ。

────学園でも知られた優等生のスコールが、こんな事をしているなんて、一体誰が思うだろう。
お堅い委員長タイプと言う印象も相俟って、性的な事には一層厳しそうな顔をしているが、ヴァンが知るスコールはこう言うものだ。
元々は蓄積されたストレスを発散する為、頻繁に自慰に耽っていたそうだが、それは部屋を一人で占領していたから出来た事。
ヴァンが来てからはそう言う訳にもいかず、随分とストレスを溜めていたようだったが、二年生になって最初の中間試験を終えた頃に限界が来たらしい。
普段は理性的で慎重派な筈のスコールだが、プツンと来ると急にそれらをかなぐり捨てた行動に出る癖がある(幼馴染からの情報だ)ようで、追い出せるものでもないのだからいっそ巻き込んでしまえと思ったと言う。
お陰で始まりこそヴァンも目を丸くしたものだったが、初めて繋がった時に感じた時の熱と心地良さが忘れられなくて、嵌ってしまった。
それからこの関係は続いている。

艶めかしい感触がヴァンを包み込んで、ゆっくりと滑って行く。
ぞくぞくとしたものがヴァンの背中を奔って、刺激を受けた其処が膨らんで行くのが判る。
真正直なヴァンの反応を見て、スコールの喉がくつりと笑うのが判った。


「スコール」
「……ん」
「もうちょっと強く」
「……ん」


ヴァンの言葉に、スコールは直ぐに応じた。
じゅ、と吸う音が聞こえて、ひくっとヴァンの肩が跳ねる。

ヴァンはベッドヘッドに寄り掛かる背中を直して、投げ出していた脚を胡坐にする。
動くヴァンをスコールは邪魔臭そうにしていたが、体勢が整えられると、自身も姿勢を変えた。
横合いからしゃぶっていた体を正面に移動させて、四つ這いになり、ヴァンの下腹部に顔を埋める。

西日が随分と遠く低くに傾いて、空の色が橙色から濃紺に広がって行く。
電気も点けない部屋の中は暗かったが、それでも真っ暗闇ではないから、ヴァンからスコールの顔は見えていた。


(あー……気持ち良い……)


綺麗な顔が自分のものを咥えているのを見下ろしながら、ヴァンはそんな事を思う。
じわじわと体の芯が熱を持って、それが染み出してくるのが判る。
それに逆らう理由もないので、ヴァンはスコールのするがままに任せた。

股間に埋められたスコールの髪を、ヴァンの指が掬うように辿る。
その指が項に触れると、ひく、とスコールが体を震わせるのが判った。





ヴァンスコの日!と言うことで。
友達以上で恋人でなくてセフレのようなそれよりも近いような。

スコールの方から持ち掛けるのを拒否しないヴァンが書きたかった。
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[シャンスコ]振替授業について

  • 2020/11/08 22:00
  • カテゴリー:FF


シャントットが自身の研究室として使っている洞窟から出て来る事は少ない。
とは言え、必要な物資の調達は不可欠であるので、そう言った用事があれば外出は致し方のない事であった。
他にも、研究対象としているイミテーションの観察もあるので、存外と外出の機会だけはある。
が、それらはあくまで自分自身の要件を果たす為に向かうものであるから、そうした理由がなければ、やはり余り外へ足を向けないのも確かだ。

そんな彼女であるが、時には秩序の戦士達の拠点である聖域にやって来る事もある。
女性の戦士達のお茶会なんてものに招かれる事もあり、気が向けば参加する、顔を出す程度の社交は重ねていた。
男性との会話の機会は多くはないが、秩序の戦士の多くは人の良い者ばかりだ。
敵であろうと知己であれば少なからず会話をする事もある彼らは、元の世界で“連邦の白い悪魔”と呼びなわされたシャントットにも、気安い挨拶を投げて来る。
それへの返事は気まぐれにしつつ、シャントットは聖域で自分の用事を済ませるだけ済ませると、また研究室へと戻って行くのが常であった。

今日のシャントットも、自分の用事の為、秩序の聖域を訪れた。
戦士達の拠点であり、休息の場でもある屋敷には、常に何処かに人の気配があって賑々しい。
しかし今日は多くの戦士が出払っているようで、拠点を守る役を請け負ったルーネス、ティファ、ヴァン以外はいなかった。
賑やかしのメンバーがいないので、屋敷の中は静かだ。
それ位の方が今日は良いのだろうと、シャントットは短いコンパスを動かし、目的地へ向かって歩きながら思う。

階段を一つ上り、真っ直ぐと伸びた廊下に並ぶ扉の、真ん中の部屋をノックする。
中からは少しの間を置いてから「開いてる」と言う返事があった。
シャントットには聊か高い位置にあるドアノブを背伸びして回し開けると、小さな鼻に少々ツンと刺さる消毒の匂いが漂った。


「……あんたか」


聞こえた声は部屋の主から。
主───スコールはベッドの上で上半身を起こして座り、枕をクッションにベッドヘッドに寄り掛かって、腹の上に本を開いている。
目元にカーテンをかける濃茶色の髪の隙間から、白い包帯が覗いていた。
病衣にと着せられたのだろう、襟合わせの縁から、此方も厳重に包帯が巻かれているのが見える。
判り易い怪我人の装いであったが、蒼の瞳はしっかりとした光を宿している。

シャントットがベッドへと近付くと、スコールは腕を伸ばして、ベッド横に並べられていた椅子の向きを変えた。
どうぞ、と来訪者が座り易いように向きを変えた其処に、シャントットは遠慮なく座らせて貰う。


「壮健で何よりですわね」
「…あんたのお陰で」


シャントットの言葉に、スコールは抑揚のない声で返した。
社交辞令であれ、それを言えるのなら、やはり見た目ほど酷い状態ではないのだろう、とシャントットも察する。


「授業の振り替えの話をしに来ましたの。ご都合はいかが?」
「…当分は療養になる。包帯が全部取れるまでは大人しくしていろと言われた。あんたの授業が出来るのは、早くて来週以降だろう」
「あら。意外と酷かったのかしら?」
「俺は、別に。でもティファとバッツがそうしろと言った。文句を言えば後が面倒だから……今週は諦めている」
「まあ、頭部も打ったようだし。大事を取るに越した事はありませんわね」


ここ数ヵ月、スコールはシャントットを講師としての魔法の特訓を受けている。
疑似魔法として魔力を扱うスコールであるが、彼が扱える魔力の程度は───彼の世界のあらましによる制約も含め───どうしても低い。
それを少しでも底上げし、戦闘に効率的に応用する術を求めて、スコールはシャントットに講義を依頼した。
シャントットとしては、疑似魔法と言う自身の世界には存在しなかった魔法の理論も含め、一つの研究を拡げる目的もあって、これを受諾した。

既に両手も埋まる程度の講義を受けているスコールであるが、結果は中の上と言った所だろうか。
スコールにしてみれば、元々扱っていた魔力を更に効率的に回せるだけでも十分な収穫だったのだが、研究者であるシャントットは満足していなかった。
まだ可能性はあると見做すシャントットの方針と、スコールもまた更に強力な魔法を扱う事が出来るようになれば願ってもない事とあって、その後も講義は続けられている。

───のだが、先達ての授業の折、実践演習としてイミテーションを相手にしようとした際、二人は集団のイミテーションに襲われる羽目になった。
その戦闘中にスコールが大きなダメージを食らい、その場はシャントットの力で事なきを得たが、授業はすっかり中断。
スコールの傷はシャントットが応急処置を済ませ、数十分後にはスコールも目を覚まし、自分の足で聖域まで戻る事が出来たのだが、帰ってからがスコール曰く「煩かった」そうだ。
煩かった原因は、スコールが怪我をして帰って来たからと言うのは勿論であるが、平時から単独行動をしているスコールの培ってきたものもあろうが。

ともあれ、その日以来、スコールは当座の傷が完治するまでは、療養に専念せよとお達しを食らった。
傷自体は見た目ほど深くはないので、病床で過ごす必要もないのだが、どうせ大人しくしていなければならないのなら、誰にも文句を言われないように部屋で過ごそう、と思ったのだ。


「───それなら、授業は医者の許可を得てからですわね」
「ああ。わざわざこっちまで来て貰ったのに、悪い」
「構いませんわ。夕飯に誘われていますの、無駄足にはなりませんわよ」


今日の屋敷に残っているメンバーを見れば、誰が調理場を与るかは言わずもがな。
自身の世界で店を切り盛りしていると言うティファならば、秩序の健啖家達を、舌も量も満足させる事が出来るだろう。
研究室の洞窟にいるばかりのシャントットも、この誘いには乗らない理由がなかった。

ついでに、とシャントットは着込んでいたローブの前を開け、内ポケットに手を入れる。
小さな体に見合ったサイズのローブの中から、そこそこに厚みのある本を取り出すと、シャントットはそれをスコールへと差し出した。


「授業の日程はまたの機会ですけれど、座学は問題ないでしょう?貸してさしあげますわ。暇潰し位にはなるでしょう」
「……それは、どうも」


差し出された本を受け取り、スコールは表紙を睨んだ。
スコールには恐らく意味が判らない、装丁にしか見えないであろう、古びた本のタイトル。
宝石を抱いたその装丁を睨む蒼は、まだ開いてもいない中身を透視しようとしているかのようだ。

数秒そうして過ごした後、スコールはようやく表紙を捲る。
目次から小さな文字がずらりと犇めいているのを見て、スコールは眉間に皺を寄せた。


「……暇潰し?」
「私にとっては暇潰しですわね。私の世界では既に終わった研究のもの、それも前時代の書物。其処に記述された理論も、既に覆されたものも多い。これを宛てに研究する学者は、いないでしょうね」


そう言う意味では、学術書と言うよりは歴史書だと、シャントットは言った。
学者が魔法と言うものを紐解く中で、過去の賢人たちが辿った道を知る為に求められるものである、と。


「けれど、貴方の世界の魔法の理論は独特だから、多角的に調べてみようと思って。古い研究も、覆されたのは、その研究結果を更に調べた者がいたからこそ。それに、私の世界と貴方の世界は違うから、私の世界では覆されたその理論も、通ずる可能性は無きにしもあらず、と」
「……成程」


全ては可能性の話でしかなく、また否定も今は可能性の域を出ない。
シャントットが差し出した本の内容は、その程度のもので、眉唾と言えば眉唾であった。
だから“暇潰し”なのだと、スコールも理解する。

スコールはぱらりとページを捲り、犇めき合った文字を見詰め、


「……のんびり読ませて貰う」
「ええ」
「何かあったら、モーグリにでも頼んで、あんたに報告すれば良いか?」
「そうですわね───いえ。近い内にまた来ますわ。他にも暇潰しに心当たりがあるから」
「…これだけで暇潰しは足りる」
「あら、そう?でも、良いでしょう。私の書庫に置いていても、見る暇はないもの。暇潰しは、暇な人間に任せますわ」
「……」


シャントットの言葉に、スコールは胡乱に目を細めた後、諦めたと判り易く溜息を吐いた。
手元の分厚い古書を閉じ、じっと見つめる。
療養期間が終わる間に、これ一冊を読み終えられるだろうかと、そんな顔だったが、シャントットは気にしなかった。

コンコン、と部屋の扉がノックされ、スコールが「…開いてる」と返す。
カチャリを開いたドアの隙間から、ひょこりと顔を出したのはティファだった。


「お邪魔するね。シャントットはいる?」
「……此処に」
「何か御用かしら?」


来訪者を探すティファに、スコールはベッド横の該当人を示した。
シャントットの方からも声をかければ、ティファは扉前に立ったまま、


「夕飯の仕込みをしてるんだけど、ちょっと味見して欲しくて。ルーネスはヴァンがショップに連れて行っちゃったみたいだし。良いかな」
「吝かではありませんわ。此方も用事は終わった所だし、怪我人は寝かせなくてはね」
「……大袈裟だ」


椅子から降りるシャントットの台詞に、スコールはうんざりとした様子で呟いた。
きっともうじっとしているのも飽きているのだろうが、しかし医者役の眼は怖い。
早く寝る以外の事が出来るようになりたいと、ありありと貌で語りながら、スコールは布団を引き上げた。

横にあるスコールに「ご飯になったら持ってくるね」とティファが言う。
どうやら、スコールは徹底して部屋から出ないように、歩き回らないようにと厳重管理されているようだ。
バッツのような風来坊気質でなくとも、確かに聊か暇にはなるだろう。

ティファが開けたままのドアへと向かう傍ら、シャントットはベッドの枕元に置かれた二冊の本を見遣る。
分厚いものはシャントットが渡したもので、その隣に無造作に置かれているのは、シャントットが来た時にスコールが読んでいた本だ。
見覚えのある装丁に、タイトルを見なくとも、シャントットはその中身を思い出した。
以前の授業の際、今後の参考にとシャントットが貸し出した、魔導の中級指南書である。


(真面目だこと)


言うなれば、学生が退屈の余り、教科書を開いてしまうようなもの。
学ぶ気があるのかないのか、それに大した意味はなく、ただそうしてしまう位には、その本が手元近くにあると言うこと。
それが果たして真面目と呼ぶに値するかどうかはさて置くとしても、シャントットの口元は緩むのであった。





11月8日と言うことでシャントット×スコールと言い張る(毎年)。
怪我をした生徒の見舞いをお土産付きでする位には、気に入ってる。
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[ジェクレオ]貴方と過ごす衣衣の

  • 2020/10/09 21:00
  • カテゴリー:FF


目を覚まして、窓から差し込む光への清々しさよりも、がんがんと殴りつけるような痛みを訴える頭にうんざりする。
翌日が久しぶりのオフ日だからと、少々羽目を外すとこれだ。
判っているのに辞められないから、酒と言う魔力は恐ろしい。
昨晩は手酌酒ではなかった事もあって、益々杯が順調で、予定より多くビンを開けた覚えがある。
お陰でその後の盛り上がりは言わずもがなと言うものであったから、同居人も今朝は辛い状態になっているに違いない。

筈なのだが、その同居人は、ジェクトが目を覚ました時には、既にベッドの上にはいなかった。
リビングダイニングへと続くドア一枚の向こうから、パンの香ばしい匂いが流れ込んでくる。
相変わらず定時にしっかり起きる事を欠かさない真面目振りに、偶には怠けて良いだろうにと思いつつ、彼の作る朝食が一日の最初の楽しみである事も確かで、日々感謝しながらジェクトはベッドを降りた。

裸のままで寝室を出ると、ダイニングテーブルにサラダが二皿並んでいる。
テーブルの向こうにあるキッチンには、チョコレートブラウンの髪を項で結んだ青年が、シャツとGパンと言うラフな格好で立っていた。
手際よく手首を動かして弾ませるフライパンの上で、オムレツがくるんと宙を舞う。
男やもめの環境で、早い内から父の負担を軽くするべく家事に勤しみ始めた彼は、料理の腕も一級品だ。
嘗ては家族の健康を慮り、食育バランスを考えて作られていた彼の朝食は、今はジェクトの体の為に作られる。
今日も綺麗な形で焼き上がったオムレツを平皿に乗せると、特製のケチャップソースをかけて完成だ。
そこでタイミング良く焼き上がったテーブルロールを添えて、くるりと彼が振り返り、


「おはよう、ジェクト」
「おー」
「あんた、パンツくらい穿いて来たらどうだ?」


全裸のままで寝室から出てきたジェクトを見て、レオンは眉尻を下げながら呆れたように言った。
ティーダがいたら怒るぞ、と息子の名前を出して釘を刺しつつ、レオンは皿をダイニングテーブルへ運ぶ。
それから直ぐにキッチンに戻って、レオンは冷蔵庫を開け、ヨーグルトを取り出して皿に盛り、そこに先日実家から贈られてきたいちごジャムが注がれた。

この国の生活に慣れてきた頃、基本的に好き嫌いはないが、どうにもジャムが舌に合わない、とジェクトがぼやいて以来、レオンは実家に連絡して定期的にジャムや母国にしかない香辛料を送って貰っている。
別に食えねえ訳じゃねえから其処までしなくても良い、とジェクトは言ったのだが、食への満足度は環境において大事なことだとレオンは言った。
長年世話になった母国の味と言うのは、舌に染み付いているものだし、どうしても手に入らないのなら仕方がない事ではあるが、入手する手段があるなら講じてみても良いだろう、と。
レオン自身も懐かしい味が食べたいと思う事もあるし、実家からの仕送りには大抵家族からの手紙や写真が同封されるているので、そう言った繋がりも含めて、レオンは大事にしたいのだろう。

ヨーグルトをテーブルに置いて、ぼうとしているジェクトに、早く着替えてこい、と促す。
それからまたキッチンへ向かったレオンは、弱火にかけていた鍋の蓋を開けて、中身をレードルでくるりと掻き混ぜた。
もう良いかな、と呟いて味見用の小皿に手を伸ばしたレオンだったが、


「───おい、ジェクト」


とす、と背中に乗った重みに、レオンは気持ち前屈みになって、目線でおんぶお化けを見遣る。
自分よりも二回りは身長も体格も大きい男に覆い被さられると、流石にレオンも少々辛い。
が、ジェクトはそんなレオンの視線は気にせず、べったりと寄り掛かってやった。


「ジェクト、重い」
「細いもんなあ、お前」
「俺は標準だ。あんたが規格外なんだ」


と言ったレオンも、どちらかと言えば標準よりももう少し恵まれた体格をしているのだが、ジェクトと並ぶと霞む。
その事にちょっとした悔しさを覚えつつ、レオンはもう一つ言わねばなるまいと、胡乱な目でジェクトを見た。


「それと、当たってるんだが」
「当ててんだよ」
「セクハラで訴えるぞ」


腰に当たる露骨な形をレオンが指摘すれば、にやりと悪い笑みの紅と交わる。

太い腕がレオンの腰を抱き、武骨な手がシャツの上から腹を撫でる。
するすると滑り上って来る手がレオンの胸を撫でると、ぎゅう、と強い痛みがジェクトの手の甲を襲った。


「いってぇ」
「飯が冷める」
「冷えても美味ぇし、平気だろ」
「そう言ってくれるのは嬉しいが、作った人間としては、一番美味い内に食って欲しいな。ほら、離れろ」


朝食を促すべくレオンはジェクトの腕を解いて逃げようとする。
ちっ、と拗ねた舌打ちをしてくれるジェクトに、レオンはくすりと笑みを零しつつ、拘束の緩んだ腕から抜け出そうとして、───ぐいっ、と肩を掴んで体の向きを反転させられたかと思うと、


「んむっ!」


肉厚の唇で、レオンの唇が塞がれる。

目を瞠る青年の貌を、細めた双眸で見詰めながら、ジェクトはレオンの舌唇を舌でなぞる。
抵抗の気持ちに引き結ばれた唇の狭間を何度も舐め、舌先でぐりぐりと押し付けるようにノックすると、むずがる声が聞こえた。
構わず顎を捉えて隙間を作り、其処から舌を捻じ込んでやれば、ひくん、とレオンの肩が震える。
逃げる舌を捕まえて絡め取れば、初めこそ振り払うような仕草を見せるが、啜ってやると蒼の瞳がとろりと熱を帯びて来る。

キッチンの天板を握っていた手が、ジェクトの首へと絡むまで、時間はかからなかった。
レオンの方からも舌が積極的に動き、ジェクトの動きに合わせて絡み、耳の奥で水の交わる音も聞こえ始める。
昨夜、美味い酒を存分に楽しんだ後、そのままベッドに雪崩れ込んで遅くまでまぐわっていたのを、ジェクトもしっかりと覚えている。
その感覚がレオンの躰にもきっとまだ残っているのだろう、レオンの腰が揺れて、ズボンの中で彼が窮屈そうにしているのがジェクトにも伝わった。

たっぷりとレオンの咥内を堪能して、ジェクトはゆっくりと唇を開放した。
誘い出されたレオンの舌は唾液でてらてらと光って艶めかしい。
それを目にしたジェクトが、凶暴な笑みを浮かべて舌なめずりをする────が、


「いてててっ!」


ぎゅう、とジェクトの項の皮膚が目一杯捩じられた。
爪まで立てて遠慮を捨てたお仕置きに、流石にジェクトも悲鳴を上げる。
その隙にレオンはするりとジェクトの腕から逃げ出した。


「これ以上は駄目だ」
「ンだよ、お前だって乗り気だったじゃねえか」


痛む首を摩りながらジェクトは唇を尖らせるが、レオンは「だ・め・だ」と睨む。


「あんたは早く服を着ろ。それから飯だ」
「へーい」


眉尻を吊り上げるレオンに、これは逆らえば後が怖いとジェクトは白旗を上げる。
ジェクトは寝室へと戻ると、シェルフの一番上に丁寧に畳まれて置かれている服を掴んだ。

レオンがジェクトの専属マネージャーとなり、母国を離れてジェクトと共に所属チームの拠点となる地で暮らすようになってから、それなりに月日が経つ。
スポーツの事なら何に置いても実力と経験のあるジェクトだが、私生活は放っておくと直ぐに汚部屋と化してしまう位には生活力がない。
それを知っているレオンは、マネージャーとしてスケジュール管理もしつつ、生活管理も引き受けて熟していた。
そんな日々の中で、二人は二人の関係も変化して行き、今では密やかな熱を共有する仲である。
遠く離れた母国で暮らしている家族には、どちらもまだ打ち明けられてはいない事だが、出来ることならいつかは───と思っている。
中々その為の踏ん切りがつかないのも事実だが、今は二人で過ごせる時間を大事にしたいのも事実で、まだもう少しこのままで、とどちらともなく望んでいた。

着換えを終えたジェクトがリビングダイニングへ戻ると、レオンが既に食卓についていた。
向かい合う位置に座って、母国の習慣で癖が抜けない食前の挨拶をしてから、テーブルロールを口に運ぶ。


「美味ぇな」
「新しいパン屋を見付けたんだ。パンの種類が豊富だったから、しばらく通う」
「良いじゃねえか、楽しみだ」


噛むほどにバターの味わいが感じられるテーブルロール。
レオンの日々の手料理のお陰で舌が肥えたジェクトにも、満足のいく味であった。

半熟のオムレツをあっという間に食べ終え、サラダも綺麗に完食し、デザートのヨーグルトを口に運ぶ。
昔から舌に馴染んだジャムの甘い味に、やっぱこれだなと思いつつこれも瞬く間に平らげた。
最後にコーヒーを傾けていると、こちらはのんびりとヨーグルトを食べていたレオンが顔を上げ、


「今日は休みだし、どうする?偶には出掛けて羽根を伸ばすか?」
「あー……そうだな……」


ジェクトの日々は、練習と試合の他、メディア関連への露出の依頼で埋まっている。
特に此処しばらくは、メディアインタビューの機会が多く、レオンは練習時間の確保を崩さずインタビューに出られるスジケジュールの調整に苦労していた。
そのメディアラッシュも一段落したので、今日と言うオフ日が出来た訳で、それを思うと確かに羽根を伸ばすのも悪くはないのだが、ジェクトは外出よりも楽しみたい事があった。


「どっか行くのも悪かねえが、折角の休みだからなぁ」
「ゆっくりするか」
「そう言う事だ。ゆっくり、のんびり、家の中で過ごす。当然、お前も」
「俺?」
「買い物は必要ねえんだろ。昨日ごっそり買い込んでたし。そのつもりだったんだろ?」


にやりと口角を上げてジェクトが言ってやれば、レオンはしばしきょとんとした顔をした後で、はっとその言葉の意味を理解して赤くなる。
同時にその反応が、ジェクトの言葉が的外れではない事を吐露していた。

赤らんだ顔を誤魔化しようもなく、視線だけは逃げるように逸らすレオン。
高校生の弟に比べ、それなりに社会で揉まれただけあって、それなりに人を翻弄して見せる強かさも持つレオンだが、こういう所は未だに初心さが抜けないなとジェクトは思う。
それが妙に愛しく見えて、同時にしっかり下準備は済ませてくれる気配りの良い恋人に、つい数十分前に沸き上がった熱が再び自己主張を始める。


「明日の練習は朝だっけか」
「……昼だ」
「じゃあ、良いな。ゆっくり出来る」


赤い顔をしながら、其処で嘘でも朝からだと言わない正直さが、レオンの胸中を物語っている。

にやにやと口元が緩むジェクトの視線から逃げるように、レオンは食事の席を立った。
いそいそと二人分の食器をまとめてキッチンに運び、いつもなら必要な分だけ水を使う癖に今日は思い切り蛇口を捻る。
勢いよくシンクを濡らし流れていく水の音と、青年の赤らんだ耳を眺めながら、昼までに起きれると良いけどな、などとジェクトは他人事のように遠い目をするのであった。





10月8日から遅刻のジェクレオ!

出来る恋人はしっかり準備を済ませている。
だからジェクトも遠慮なくがっついて来たりする訳ですね。

タイトルは「あなたとすごすきぬぎぬの」です。
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[ティスコ]君と過ごす毎朝の

  • 2020/10/08 21:00
  • カテゴリー:FF


カーテンの隙間から差し込む眩しい光で、覚醒を促される。
その光から逃げようと、抱えたものに顔を埋めていると、ピピピピ、と言う電子音が鳴った。
益々掴んだものに顔を埋めて逃げようとするが、電子音はいつまでも続き、光も消えない。
判った、もう判った、と観念する気持ちでようやく起き上がるのが、毎朝のパターンだった。

体を起こして、眠い目を擦りながらきょろきょろと辺りを見回す。
幾らか頭が起きてから、未だ鳴り続ける携帯電話のアラームを止めた。
そのまま再び転がりたい欲求をどうにか押さえ付けながら、スコールはのろのろとベッドを抜け出す。

昨晩、スコールのベッドに潜り込んできた同衾者は、とっくの昔に此処を抜け出していたらしく、ベッドにはその温もりの欠片があるのみ。
相変わらず朝に強い彼に、ほんの少しの羨ましさを感じつつ、スコールは眠い目を擦りながら服を着替えた。

寝室を出るとキッチンに向かい、朝食の準備を始める。
今日は彼の朝練習があるから、少しボリュームを増やしておいた方が良いなと考えながら、冷蔵庫を開けた。
昨夜の残りの煮物を温めながら、厚切りベーコンを焼き、千切って置いたレタスに新鮮なトマトを添えてサラダを作る。
インスタントのスープに湯を入れて溶かし、デザートにジャムを添えたヨーグルトを並べれば、朝食の完成だ。
終わる頃にはスコールの眼も少し覚めて、また此方もタイミング良く、玄関のドアが開閉する音が鳴った。


「ただいまー!」
「おかえり」


溌剌とした元気な声に、スコールはいつものように静かに返した。
ダイニングから玄関を覗くと、肩にタオルを乗せた同居人────ティーダの姿がある。

ティーダは額に滲む爽やかな汗を拭きながら、駆け足気味にスコールの下へ近付くと、


「おはよ、スコール!ちゅーっ」
「!」


朝の挨拶の流れそのままに顔を近付けてきたティーダを、スコールは咄嗟に手で顔を抑えつけてガードする。
勢い余ってバシッと平手を喰らわせる事になったが、謝っている暇はなかった。


「いてぇ。何するんスかぁ」
「こっちの台詞だ。バカな事してないで、手洗ってこい。飯が冷める」
「はぁーい」


悲し気な顔をして見せるティーダを一蹴して、スコールはティーダを洗面所へ追い遣る。
ちぇっ、と判り易く残念そうな声がしたが、スコールにそれを気にしている余裕はなかった。
バカじゃないのか、と呟きながら自分の椅子を引くスコールの顔は、耳まで赤くなっている。

程なくティーダが洗面所から戻り、スコールと向かい合う位置に座る。
二人揃って両手を合わせ、頂きます、と食前の口上をしてから、箸を取った。
ティーダは早速厚切りベーコンを口に入れ、程好く火が通って塩気の効いた肉の味に、頬袋を膨らませながら上機嫌に笑う。


「うまーい!」
「そうか」


良かったな、と返すスコールの反応は淡泊なものだ。
それでも、彼の頬がほんのりと赤らんでいるのを見て、ティーダは照れてるなあと読み取って楽しくなる。

スコールとティーダは、物心が付く以前からの幼馴染で、現在は同居人だ。
中学から高校に進学する際、共に少々遠い場所の高校に合格し、揃って実家を離れる事になった。
同じ学校に入った訳ではないのに、二人が同居する事になったのは、少々過保護気味はスコールの家族と、口は悪いが決して悪くは思っていない息子を想ったティーダの父の提案に因る。
おまけに、運良く二人の高校にそれぞれ中間地点に出来る場所に、セキュリティの良い新築のアパートがあった。
スコールにしろ、ティーダにしろ、一人にするのは不安があると言う家族の意向が強く働いた形で、彼等は二人暮らしを始める事になる。
家賃や生活費を含めた金のことや、こっそり一人暮らしと言うものに憧れていたスコールは聊か思う所もないではないが、家族の援助のお陰で、勉学にのみ集中する事が出来るのもあり、今は有り難くその恩恵を受けている。
ティーダも同じで、父親の援けなんていらない、借りを作りたくない、と抵抗心も一入だったのだが、スコールの父と兄から、「よろしく頼む」と言われると弱かった。
スコールとの同居が嫌だった訳ではないし、寧ろそれは嬉しい事なのだと思うと、意地も混じった父への対抗心は引っ込めるも吝かではなかった。

こうして始まった二人の同居生活は、一年と半年も続いており、時折ケンカもありつつも、上手く回っている。
以前よりもずっと近い距離で共に過ごしている内に、二人の距離も以前よりも近くなり、今では恋人同士と呼ばれる関係だ。
家族にはまだ秘密にしている関係だけれど、スコールもティーダも、それなりに充実した日々を送っている。

綺麗に平らげられた二人分の食器がシンクへ運ばれ、スコールが蛇口を捻って水を出す。
冷たくなってきた流水の感触に手を晒しながら、スコールはテーブルを拭いているティーダに声をかけた。


「ティーダ。後は俺がやるから、そろそろ出る準備しろ」
「良いの───って、うわっ、もうこんな時間だったのか。ごめん、あと頼むな!」
「ああ」


この家で、家事の多くはスコールが担当している。
ティーダはスポーツの強豪として有名な高校に入り、希望通りのサッカー部に入ったのだが、朝も夕も毎日のように練習スケジュールがみっちりと詰まっていた。
対してスコールは帰宅部であるから、勉強時間の確保さえ出来れば、身の回りの事は引き受ける時間が取れる。
時折体よくサボる事も覚えつつ、またティーダも手が空いている時は積極的に手伝いを申し出て、快適な生活サイクルを作っていた。

ティーダはばたばたと慌ただしく家を出る準備を始めた。
早朝ランニングの為に来ていたジャージを脱ぎ、制服に着替えて、洗面所で身嗜みを手早く整える。
昨晩、寝る前に済ませたまま放置していた宿題のノートを、テレビ前のソファから発掘し、それを持って自分の寝室へ。
ノートを鞄に突っ込むように入れて、昨日の内に洗濯を終えてスコールが綺麗に畳んだユニフォームも収める。
忘れ物はないか、中身の確認はそこそこに、多分大丈夫と自分に言い聞かせて、肩に鞄を担ぐ。


「じゃあ行ってきます!」
「ああ」


キッチン前を駆け抜けながら出立の挨拶をして、玄関へ────向かったのだが、その足がはたと踵を返して、ばたばたと駆け戻る。
その音を聞いたスコールが、また忘れ物かと少々呆れつつ、シンクの天板の水気を拭いていると、


「スコール!」
「何だ────」


名を呼ぶ声に、振り返らずに返事だけをした時だった。
背中に賑やかな気配が密着したかと思うと、ちゅ、と頬に柔らかい感触。
一瞬だけ触れて離れたそれに、スコールがぱちりと目を瞠っている内に、


「行ってきまーす!」


もう一度出立の挨拶をして、今度こそティーダは玄関を潜った。

この家の賑やかさの原因である人物がいなくなると、途端に辺りは静まり返る。
しん、と静寂に満ちた空間には、窓向こうの外界で遠く走る車の音が、妙に大きく聞こえた。

それからしばし時間が経って、スコールはようやくフリーズ状態から復帰した。
おい、と振り返ると、其処にはとっくに誰の姿もなく、台拭き用の布を握ったままで玄関へ向かうと、当然ながら此方も無人となっている。
玄関前に並べられた靴は一人分が足りず、今頃その持ち主は鮨詰めの通勤バスに乗っている事だろう。

一人取り残されたスコールは、物言わぬ玄関扉を見詰めて、


「……やり逃げ」


ぽつりと呟いたそれをティーダが聞いたら、「言い方!」と怒った事だろう。
そうしたら、でもそう言う事しただろう、とスコールは返してやるが。

触れたのはほんの一瞬であった筈なのに、今も頬に感触が残っているような気がする。
心なしか勝手に熱くなってくれる顔を冷やしたくなって、スコールはキッチンへと戻った。
もう役割の終わった台拭きは、一度洗って定位置に干して、スコールは洗ったばかりだったグラスコップに浄水を注ぐ。
口に含んでみると、食器を洗い始めた時には冷たく感じた筈の水は、もう常温程度になっていた。
氷を入れれば良かった、と思いつつ水は飲み欲して、また軽く洗って干しておく。

一人になると途端に静けさばかりが際立つ中で、スコールはティーダの部屋へと入った。
思った通り、脱ぎ捨てられた夜着とジャージが転がされている。
夜着は手早く畳んで、昨夜は使われないままだったベッドの上へ置き、ジャージは汗を含んでしっとりとしているのが感じられたので、洗濯機に入れる事にした。
ティーダはきっと明日の朝も早朝ランニングに行く筈だが、ティーダの高校では運動部の練習が多い事もあって、多くの生徒が複数の運動着を備えている。
ティーダもそれに倣うように、家で使うものと、部活で使うもの、更に予備のものを揃えていた。
お陰で日々の二人の生活で出る洗濯物の半分以上がティーダの運動着であったりする。

朝の家事を一通り済ませてから、スコールは学校の準備を始める。
今日の授業の予定を確かめ、、忘れ物がないかをしっかりと確認して、さてそろそろ────と時計を見ると、まだ家を出るには少々の余裕があった。
とは言え、何か作業が出来るような時間とは言えず、スコールは足の向いたままにベッドへ向かい、


「……ふう」


ぼすっ、と倒れ込んだ重みを、ベッドマットが受け止める。
心地良い沈みを与えてくれるマットに顔を埋めていると、ふあ、と欠伸が漏れた。


(やっぱり眠いな……)


元々スコールは朝に弱い性質だ。
それが、ティーダと同居生活をしている内に、彼の生活リズムとの擦り合わせもあり、早朝に起きる事が増えた。
が、元々の体質が大きく改善される訳でもないので、気を抜くと二度寝してしまう事もある。

今から寝てしまったら、学校は遅刻決定だ。
それは出来ない、と思いつつ、スコールは重くなる瞼を閉じないように精一杯の努力をしていた。
眠い頭を誤魔化そうと、むずがる子供のように、抱えた布団にぐりぐりと顔を押し付ける。


(………ん、)


そんな事をしていたら、ふと嗅ぎ慣れた匂いが鼻孔を擽った。
すん、と鼻を鳴らしてみると、ティーダが愛用しているボディソープの匂いがする。

途端に、スコールの脳裏に、ほんの数十分前の出来事が蘇る。
触れるだけのキスをして、スコールが反応するのも待たず、家を出て行った幼馴染兼恋人。
完全に隙を突かれたのだと思うと、俄かにスコールは恥ずかしさと負けず嫌いが刺激された。


(……帰ったらしてやるか)


スコールとティーダは恋人同士だ。
しかし、スコールはどうにもそう言う関係の距離感という物に慣れない。
だから触れたがるのは専らティーダの方で、スコールは彼にされるがまま、自由にさせていた。
それがスコールにとって、ティーダに対する愛情表現である事は、恐らくティーダも判っている。

そんなスコールが、予告もせずにキスをしたら、ティーダはどんな顔をするだろう。
やる事がやる事なので、実行するスコールのハードルも高かったが、今は気分が向いたので、出来る気がする。



頬にはもう、彼がくれた温もりは残っていない。
けれど思い出せるそれを感じながら、スコールは今日の夕方、彼が帰って来るのを密かに心待ちにするのだった。





10月8日なのでティスコ!

二人きりで同棲させてみた。
人目を気にせずいちゃいちゃできるって良いよね。
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[ジタスコ]朝の一時

  • 2020/09/08 22:00
  • カテゴリー:FF


眩しさに少し痛みに似た感覚を覚えながら、ゆっくりと意識が浮上していく。
何処かゆったりと心地良さのある体の怠さがあって、なんとなく目を覚ます事に抵抗感があったが、そうは行っても目覚めはすんなりと受け入れられた。

窓から差し込む光は、この世界にしては珍しく、快い明るさをしている。
どうりで眩しく感じる筈だと、ジタンはゆっくりと体を起こしながら思った。
ふああ、と漏れる欠伸を堪えず放って、大きく開けた口から新鮮な酸素を取り込み、ふう、と一つ息を吐く。
糸の細い金の髪をくしゃくしゃと掻きながら、少しの肌寒さに刺激されて、体がもう少し覚醒のスイッチを入れるのを待っていると、


「……んん……」


ごろりと隣で寝返りを打つ気配があって、其方に目を遣る。
すると其処には、白い肩を晒した恋人───スコールが丸くなって寝息を立てていた。

秩序の屋敷にいる時、スコールは中々に寝汚い。
元々低血圧だからと言うのもあるし、聖域にいる限りは───絶対ではないが───安全だから気が緩んでいるのもあるだろう。
加えて昨夜は、二人揃って少々頑張ってしまったので、身体が疲労しているのも理由にある。
そんな訳だからスコールは中々目を覚まさないだろうし、起きたとしても、起き上がってベッドを降りるまでにそこそこの時間がかかるに違いない。

対してジタンはと言うと、疲れていれば少々頭は重くはなるが、比較的すっきりと覚醒できる方だ。
環境に限らずそれなりに熟睡できる事もあり、何処ででも目覚めは爽やかである。

ジタンは起き上がった拍子に引っ張り取ってしまったシーツを広げ直して、眠るスコールの肩を包んでやった。
やはり寒かったのだろう、スコールはもぞもぞと身動ぎをして、シーツの端を摘まんで握った。
相変わらず丸くなった姿勢のまま、すぅ、と安堵したように寝息が零れるのが聞こえる。


「ほんっと、よく寝る奴だなぁ」


起こさない程度の小さな声で呟きながら、ジタンはスコールの隣に転がった。
俯せで頬杖をついて、健やかに眠る恋人の顔をまじまじと眺める。


(うーん……やっぱ格好良いんだよな、こいつの顔)


細い眉、長い睫毛、瞼を閉じても目元の形はすっきりと整っている。
頬はまだ少し丸みはあるが全体的にシャープなシルエットをしており、鼻はすっきりと高い。
唇は薄く小さく、いつもは真一文字に噤まれているが、眠っている今は緩んで隙間が開いていて、無防備さが滲んでいる。
その口元にそろっと手を伸ばし、ふくりとした唇を突いてやると、スコールは「んぅ……」ときゅっと口を噤んだ。
それからまた直ぐに緩む様子がなんだか可愛らしくて、ジタンは微笑ましさで口角が上がる。

長い前髪を少し持ち上げてやると、特徴的な傷が露わになる。
つん、と指先で突いてみると、切り裂かれた皮膚が繋がり直した感触があった。
修復された分、其処は他の皮膚よりも少し薄いようで、敏感なのか、ジタンが触れるといつもスコールは落ち着かない様子で眉根を寄せていた。

目を開けている時よりも、細やかで豊かなスコールの表情の変化を楽しんで、くつくつとジタンの喉が笑う。
シーツからはみ出したジタンの尻尾は、判り易く楽しそうにゆらゆらと揺れていた。

────と、少ししつこく突つき過ぎたか、スコールの眉間の皺がくっきりと寄せられて、


「……う……」
「お、」


ふるりと睫毛が震えた後、薄くそれが持ち上がる。
ジタンは唇に触れていた指を離して、ゆっくりと瞼が開かれるのを見詰めていた。


「………?」
「おはよ」
「………」


ぼんやりとした蒼の瞳がゆるゆると彷徨った後、声をかけたジタンの方を向いて、ゆっくりと瞬きを一つ。
それが「おはよう」の返事だと読み取って、ジタンはにっと笑いかけた。


「……ジタン……」
「今日は良い天気だぜ」
「…ああ……」


話しかけるジタンに対して、スコールの反応は簡素なものであった。
そもそもまだきちんと覚醒してはいないので、声を掛けられている、返事をしなければ、と言う染みついた条件反応でしかない。

ジタンはそんなスコールの前髪を掻き上げて、傷のある額にキスをした。
む、とスコールがむずがる猫のように小さく声を漏らす。
触れるだけのキスで直ぐに離れると、まだまだ茫洋としている蒼の瞳がジタンを見上げる。
平時は何かと逸らされ勝ちだが、寝起きに限ってはよく見詰めてくれる蒼を見返しながら、ジタンは言った。


「スコール。スコールも、ほら」
「……?」
「朝の挨拶してくれよ」


と、自分の頬を指差しながらジタンが言うと、スコールは横たえていた体をゆっくりと起き上がらせた。
重い体の痛みを庇っての動きに、ジタンが肩を支えてやると、スコールは少し安心したように息を吐く。
それから、先よりも近い距離になったジタンの顔に近付いて、ふ、と柔らかなキスをする。

スコールとは、触れ合う事は愚か、距離を近付けるにも、中々苦労した。
ジタンは自分が社交性に優れた方であると思っているが、それでもスコールは手強かった。
それは単純に彼が人嫌いだからではなく、大切に想った人との別離を忌避しようとしていたからで、他者との距離が近付けば近付くほど、彼のその不安は大きくなる。
それを解きほぐしながら関係を作り上げていったから、こうした触れ合いを許容して貰うまでにそれなりの時間が必要だった。
────だが、そうした時間を重ねたお陰で、今はこうして目覚めのキスをしてくれる。


(寝惚けてる時だけだけど)


元々が理性が強く、羞恥心と言うものに抵抗を持っているスコールである。
人との触れ合いそのものに不慣れな事もあって、恋人同士の戯れには今でも積極的ではない。
ただ、ジタンが求めれば、恥ずかしそうにしながらも応じてくれる事は増えた。
が、キスをすると言うのは───それ以上の事をしている今でも───何処か恥ずかしさが勝つようで、ジタンが強請っても中々してくれない。

しかし、寝起きの僅かな時間だけは別だ。
何かとお堅いように見えて、実は案外甘えん坊な所があるスコールは、覚醒途中の状態だとそれが表層に出て来る。
恐らくは、これが元々のスコールの性質なのだろう。
頬へのキスをして、直ぐに離れず、ジタンの肩に頭を乗せてうとうととしているスコールを見て、ジタンはそんな事を考える。

だが、そうして過ごしていられるのも、一時のこと。
時間が経ってくると、睡魔に蕩けていたスコールの意識も、ゆっくりと明瞭になり、


「……」
「お」


肩に乗っていた頭が持ち上がって、口を真一文字に噤んだスコールの貌が現れる。
終わりか、と少しばかり残念に思いつつ、でも今日はよく甘えてくれた、とジタンは思い、


「おはよう」
「………ああ」


改めて朝の挨拶を投げかければ、スコールは淡泊な返事をして、ふいとジタンに背を向ける。
自分が何をしていたのか、やっと気付いて、恥ずかしくなっているのだろう。
濃茶の髪の隙間から覗く赤い耳と、項がほんのりと火照っているのを見て、ジタンはくすりと口元を緩めた。

寝癖のある髪を掻いて、スコールは四つ這いでベッドの端へ向かう。
足を下ろして一つ溜息を吐く彼は、腰の痛みに辟易しているのだろう。
ジタンはそんなスコールの背に寄り掛かって、しゅるりと尻尾を細い腰へと巻き付ける。


「まだ朝飯には早いから、ちょっとのんびりしようぜ」
「……そうだな」
「今日の当番は───」
「バッツだ」
「じゃあ少し位遅れても平気かな」
「まあ……そうだな」


フリオニールやルーネスだったら、食事が出来たと呼びに来てくれる事もあるが、バッツは余りそれをしない。
今日はジタンもスコールも、バッツもこれと言って出かける予定がないから、少々寝坊しても問題はなかった。

それならと、ジタンはスコールの腰に絡めた尻尾の先をゆらゆら揺らす。
しばらくすると、スコールの手がその尻尾の先を捕まえた。
ふわふわとした柔らかな毛先が肌を掠めるのが擽ったいのだろう、振り返った蒼の眼が聊か抗議するように睨んできたが、ジタンはにっかりと笑みを返すのみ。
じゃれているだけと判るその表情に、スコールは毒気が抜かれたように溜息を吐いた。


「……ジタン」
「んー?」
「……何でもない」


名前を呼んでもやはり悪びれる様子のない───そもそも別に悪い事や嫌がらせをしている訳でもない───ジタンに、スコールも諦めたように言って、掴んでいた尻尾を離した。
自由になった尻尾の先をぷらぷらと揺らして、またスコールの腰に巻きつける。

日々の手入れのお陰で、ジタンの尻尾の毛はふわふわと柔らかい。
時々ティナに「触らせて欲しい」と可愛いおねだりをされる位には、良い毛並みを保っている。
スコールもその感触が決して嫌いな訳ではないようで、こうした束の間のじゃれ合いに似た触れ合いを厭う事はなかった。

スコールの手が、感触を確かめるように、気まぐれにジタンの尻尾を触る。
敏感に出来ていると知っているから、強く掴むような事は滅多にしない。
時々マッサージをするように柔く握る感触を覚りつつ、ジタンもその感覚に合わせて尻尾の先をぴくぴくと震わせた。


「朝飯、何かな」
「さあ。バッツだからな」
「温かいスープ飲みたいな」
「……良いな。コンソメの奴が良い」
「オレはポタージュかなー。ま、なんでも良いか。旨いだろうし」
「ああ、そうだな」


何かと器用なバッツである。
時々、変わった創作風料理を提供して皆を混乱の渦に陥れてくれる事もあるが、それもまた一興。
とは言え、流石に朝からそれはないだろう、とは二人とも思っている。
朝は一日のエネルギーとして大事なものだから、旅人としてその大切さを知っているバッツは、遊ぶのならもっと別のタイミングにする筈だ。

食事の話をしていたら、ジタンの胃袋が空腹を訴えて鳴った。
昨日は頑張ったからなあと思いつつ、恐らくスコールも中身は空っぽだろうと、尻尾でスコールの腹を撫でると、


「……ジタン」
「ん?」
「……擽ったい」
「だろうなって思ってた」


服を着ているならともかく、今は二人とも裸である。
肌を直に擽る尻尾は、触れ合う事に敏感な所があるスコールにとって、少々辛いものだったか。
しかし、離せと握る事も、振り払う事もしないので、ジタンは尻尾を解く事はしなかった。

窓から差し込む光が、朝靄を纏った柔らかなものから、明瞭なものに変わって行く。
どうやら今日は、この世界において非常に珍しい快晴になりそうだ。
そんな日こそ宝探しと言うのも楽しいものだが、ジタンは気怠そうな表情で過ごしている恋人を見て、


(今日はこのままのんびりだな)


何処に出掛ける事もない、そんな日があっても良いだろう。
尻尾に触れて戯れる掌の感触を感じながら、ジタンはそう思ったのだった。





9月8日と言う事でジタスコ!

よく考えたら、ジタスコで明確に「恋人」って言う感じのことをしている所は余り書いてないなと思ったので、書いてみた。
この二人の朝はそんなにしっとりとはせず、からっとしてる(でも甘え甘やかされ)と好き。
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