[ヴァンスコ]インモラル・スモールワールド
- 2020/12/08 22:00
- カテゴリー:FF
現パロでR-15気味
ヴァンが全寮制の学園に入ったのは、昨年の冬のこと。
冬休みが終わり、そろそろ期末試験の話も出ようかと言う頃に、ヴァンは転入した。
随分と中途半端な時期に転入する事になったのは、その年の夏に兄が交通事故に遭い、半身不随の身になった事が理由として挙げられる。
両親のいないヴァンは、養護施設の職員と、生家のあった近所に住んでいる古物商を営む幼馴染の家族、そして兄に育てられた。
養護施設出身である事に苦を感じた事はなく、兄と幼馴染とその家族にもよく愛されて、人が憐れむような不幸を感じた事はない。
だが、唯一の肉親である兄が事故に遭ったと聞いた時には、流石にショックが隠せなかった。
全国ネットのテレビで報道される程、車両が連なる大事故であった中、兄が生きていたのは不幸中の幸いと言えただろう。
しかし、命が助かった事への代償のように、兄は半身不随となり、車椅子がなければ生活できない体になった。
神の存在を信じた事などなかったが、何処にぶつけて良いかも判らない感情の行先に、可惜にそれを恨みもした。
そんな事をした所で兄の体が治る訳でもなければ、日々の生活に余裕が出る筈もなく、寧ろ社会人として収入を得ていた兄がそれが適わなくなった事で、ヴァンの生活は困窮する事になる。
急いで自分のできる仕事を探し、入院費と生活費と学費を稼ぐ為、勉強も出来ない日々が始まる。
とにかく兄の事だけは守らなければ、今まで守ってくれたのだから、今度は自分が────とヴァンの気持ちはそれで一杯だ。
それが空回りしていた事は、後から考えれば否めない話であったが、若干15歳の少年が、突然の家族の不幸を目の当たりにした中で行動したものとなれば、彼は十分に頑張っていた。
頑張って頑張って、その姿が余りにも痛々しくて、一番辛い体になった筈の兄が、「もう良いんだよ」とヴァンを宥めていた程だ。
だが、若い身でも日々の流れに目が回り、肝心の学業など手も付けられず、入学したばかりの公立高校も辞めて、収入を得る事だけに集中しようかとも思った。
しかし、今時、15歳の子供を雇ってくれる場所など早々なく、しかしアルバイトだけでは兄の看護に回せる額もたかが知れている上、生活の為に使える額も微々たるもの。
増えるよりも減る数字の方が遥かに多い通帳を見て、空からお金が降ってくれば良いのに、と夢を馳せたのは一度や二度ではなかった。
そんなヴァンに、「この学校を頼ってみたら」と提案したのは幼馴染のパンネロだ。
役所の広報掲示板に置かれていたパンフレットを持ってきた彼女は、誰よりも何よりも、ヴァンとその兄の事を心配してくれていた。
彼女が見せたパンフレットには、エスカレーター式の全寮制学園の案内が綴られ、その学校が元々は養護施設からの創まりである事が書かれていた。
今でもその名残は残されており、ヴァンのように両親のない子供や、劣悪な家庭環境から保護された子供がシェルターとして利用しながら、併設された学校へと通うことが出来るように整えられていた。
ヴァンがその学園に連絡を試してみたのは、自分を援ける為ではない。
学園は少年少女の生活兼学習の場として用いられながら、其処を卒業した生徒の就労支援や、生活支援も行っていた。
福祉関係にもきちんと目が配られているようで、それなら車椅子生活を余儀なくされた兄でも、少しは楽に過ごせるのではないかと思ったのだ。
結果としてそれは願い叶うこととなり、兄は事務職員としてその学園に迎えられる事になった。
そして同時に、お兄さんのことが心配でしょう、貴方もいらっしゃい、と学園長である男性から促され、でも学費が───とヴァンは言ったが、学園長は笑みを浮かべて首を横に振った。
若い内の学びと言うものは、後々に様々な形で影響を及ぼし、貴方の大切な財産となります、それを已むを得ない事情とは言え、奪われる事はあってはいけない────学園長であるシド・クレイマーはそう言った。
また、そう言った子供達の為に、この学園は創られたのだと彼は言った。
どうしてもお金の事が気になるのなら、ヴァンも交えて事務雇用する事になる兄とも話し、給料から学費分を引くと言うことも可能であると。
転入に際し、普通ならある筈の入学金や転入試験の為の受験料は、丸ごと免除された。
テストも形だけみたいなものですけどねえ、と学園長は冗談めかしていたが、流石にそれを本気には出来ず、ヴァンなりに試験当日まで勉強を頑張った。
アルバイトに忙殺される中での勉強は大変ではあったが、此処を乗り越えれば兄を少しでも楽にさせる事が出来る、と思って踏ん張った。
その甲斐あって、編入の合格ラインのギリギリはクリアして、ヴァンは無事に、兄と共に転入を果たす事となる。
転入後、ヴァンは学園の生徒達が過ごす寮に入った。
兄は学園内にある職員用の寮へと入る事になり、兄弟は初めて離れ離れで生活する事になる。
心配もあってヴァンは兄と一緒に過ごす事を願っていたが、兄の方から「距離が近過ぎると、ヴァンに甘えてしまいそうだから」と言われてしまった。
確かに、兄の傍にいれば、ヴァンは他の何を置いても兄を優先するだろう。
それによって兄が日々助けられていた事も事実だが、同時に、彼は弟の自由を束縛し続ける事に罪悪感も抱いていた。
今まではそれを仕方がないと受け止めていたけれど、この学園は兄が一人で行動できるよう、可能な限りの福祉が整えられており、兄の同僚となった他の職員たちも、その意識が強い。
だから、ヴァンはヴァンの今しかない時間を過ごして欲しい、と、事故に遭ってから何よりも兄を優先してきた弟を、彼はそっと手を離して背を押した。
それでもヴァンの一番の優先が兄である事には代わりはない。
時間があれば兄の顔を見に行き、時々食事を作りに行きと相変わらず世話を焼きつつも、ヴァンはヴァンなりに自分の時間と言うものをようやく探せるようになり始めていた。
学生寮は三人一部屋が原則であったが、人数の関係で炙れる者はいるものだ。
昨年の冬、転入したヴァンが入った部屋の先住人が、正にそれだった。
それも一人で三人分の部屋を広々と使えていたものだったから、ヴァンの転入と入寮に際し、随分と不機嫌な顔をしていたのをヴァンは覚えている。
広かったのが狭くなるんだからそりゃあ嫌だよなあ、とヴァンは思っていたが、後々考えると、あれは不機嫌と言うよりも不安だったのだろうと思う。
人とのコミュニケーションを円滑に行うことに積極的ではなかった同居人となるその人物は、平時から眉間に深い皺を寄せている。
その顔がいつも不機嫌で怒っているように見えるだけで、本当はもっと複雑で判り難い奴なのだと、ヴァンは一年生から二年生への春休みの頃に覚った。
その同室人がいたお陰で、二年生になってからのヴァンの成績は随分と矯正された。
元々ヴァンの学力と言うのは決して低くはなく、兄が事故に遭ってから、アルバイト詰めと精神的な余裕もない日々の中で低下した事が大きかったが、それによる遅れは多大なものがあった。
同室人は、一年生の期末試験で見事に大量の団子を取ったヴァンに呆れ、来年も担当する事になるであろうクラス担任から、「面倒を見てやって欲しい」と言われたそうな。
真面目なのか、渋顔をしてみせる割にお人好しなのか、彼はその言葉通りに、ヴァンの勉強の面倒を見た。
転入からの春休み早々に補習を食らったヴァンが寮に戻ると、同室人から個人授業が行われ、高校一年生の勉強を丸ごと復習した。
詰め込みも詰め込みだったので、知恵熱もあったし、そうなると流石にヴァンも勉強に嫌気が差してくる。
職員寮の兄の所に逃げ込んだ事もあったが、兄に諭された事と、同室人がヴァンの逃亡に怒るより、逃亡させる位に嫌な教え方をしていたのか、と落ち込んでいた事に気付いて、ヴァンは逃げるのを止めた。
時々兄に雑談交じりにちょっとした愚痴を零す事はあるが、部屋に戻ればちゃんと教えを請ける。
同室人はコミュニケーションは決して得意ではないが、それでもヴァンが判るよう、理解できるようにと必死に言葉と順番を選び、根気強く教えてくれた。
そのお陰で、春が半分を過ぎる頃には、ヴァンの成績は全体平均の同等まで押し上げられていた。
そう言った経緯もあって、今ではヴァンと同室人の関係は良好だ。
それはもう、とても。
その同室人は、成績優秀で真面目である事が知られているので、よく教員から手伝いを強請られる。
嫌なら断れば良いものを、断る為のエネルギーと理由を考えるのが面倒で引き受けてしまう為、余計にあれこれと手伝わされていた。
今日は特別しつこい教員に声をかけられており、それに眉間の皺を三割増しにしてついて行く姿が目撃されている。
帰って来た時に荒れてそうだなあ、とヴァンは他人事のように思いながら、ベッドヘッドに寄り掛かって、図書室から借りてきた本を読んでいた。
静かだった部屋に、カチャ、カチャン、と鍵を回す音が響く。
帰って来たのだと判ったが、ヴァンは本の世界に没頭していた。
やや荒めにドアの開閉音がした後で、隣のベッドに鞄が投げられるのを視界の端に見る。
(荒れてるなぁ)
概ねの予想通りではあった、とヴァンは特に驚く事もなく思う。
そんなヴァンの傍らで、ぎしり、とベッドのスプリングが軋んだ。
ベッド上で投げ出していたヴァンの足の上に、どす、と重い人の頭部が落ちてきた。
本の世界の住人でいるには、聊か無視が難しいそれの襲来に、ヴァンは顔を上げる。
其処には、濃茶色の柔らかい髪をヴァンの太腿に落とし、此方へ後頭部を向けている同室人────スコールが突っ伏していた。
「お帰り」
「……ん」
帰宅を迎える挨拶に、スコールの反応は簡素だ。
それでも声で反応してくれるようになった分、彼の中では破格の扱いであるとヴァンは知っている。
はあ、と言う溜息がヴァンの膝を擽る。
もぞもぞと身動ぎしたスコールは、制服のままの背中を丸めて、ヴァンの太腿を枕にした状態で縮こまって行く。
嫌な事あったんだろうなあ、とヴァンは思ったが、その委細を聞く事はしなかった。
スコールが自ら口を開かないのなら、ヴァンは自分が気になる以上の事は聞かない。
そして、スコールが言いたくなったら、それは聞いていても良いと、ヴァンはそう考えていた。
同室人に帰宅を確認したので、ヴァンはまた本に視線を落とした。
しかし、いつの間にか随分と暗くなっていた部屋に、このまま読書を続けるのは難しいとようやく気付いた。
電気点けなきゃ、と一旦ベッドから降りることを考えたヴァンだったが、足に乗っていた重みが動く先を感じてまた顔をあげる。
「スコール」
「……」
其処にいる人物の名前を呼べば、深い海の底のような蒼灰色がヴァンを見上げる。
スコールは、ヴァンの下腹部にとりついていた。
同性なのだし、そうでなくともこの年齢で、其処に何があるのかを知らない者はいるまい。
スコールの手がその部分を摩るように撫でれば、ヴァンの腰がぴくりと震えた。
「するのか?」
「嫌か」
「どっちでも良いぞ」
ヴァンの淡泊と言えば淡泊な反応に、スコールは眉間の皺を深くした。
それが言いたい事が頭の中をぐるぐると巡っている時だとヴァンは知っているが、その中身も聞く事はない。
スコールがその顔をする時は、自分の中でも言葉がまとまっていなくて、しかし気持ちは後から後から溢れて止まらない時。
そんな時に突いてみても、結局スコールは貝になるだけだと、短いが期せずして深くなった付き合いで、ヴァンはよく知っていた。
スコールはヴァンの腰のベルトを緩めると、ジーンズのフロントジッパーを下ろした。
まだ幾らも反応していない中心部に顔を寄せて、高い鼻がスン、と鳴る。
そう言えば今日は体育があったなあ、とヴァンが今日の時間割を思い出している間に、スコールはヴァンの下着をずらし、中に納まっていたものを取り出した。
ちらり、と蒼の瞳がヴァンの顔を見た。
じっと見詰め返すヴァンが動かない事に、気乗りしていないと思ったか、
「あんたは本でも読んでれば良い」
そう言ってスコールは、ヴァンの象徴をぱっくりと咥え込んだ。
躊躇も遠慮もないそれに、やっぱり荒れてるなあ、とヴァンは思う。
きっと、今日の面倒事を片付けた後に、次の面倒事を頼まれたのだ。
断らないからそうなるんだと、スコールの幼馴染らしき先輩から言われていたのを見た事がある。
全くそうだとヴァンも思うが、スコールにとっては手伝うより断る労力の方が疲れるらしいので、きっとこの連鎖は続いて行くのだ。
────学園でも知られた優等生のスコールが、こんな事をしているなんて、一体誰が思うだろう。
お堅い委員長タイプと言う印象も相俟って、性的な事には一層厳しそうな顔をしているが、ヴァンが知るスコールはこう言うものだ。
元々は蓄積されたストレスを発散する為、頻繁に自慰に耽っていたそうだが、それは部屋を一人で占領していたから出来た事。
ヴァンが来てからはそう言う訳にもいかず、随分とストレスを溜めていたようだったが、二年生になって最初の中間試験を終えた頃に限界が来たらしい。
普段は理性的で慎重派な筈のスコールだが、プツンと来ると急にそれらをかなぐり捨てた行動に出る癖がある(幼馴染からの情報だ)ようで、追い出せるものでもないのだからいっそ巻き込んでしまえと思ったと言う。
お陰で始まりこそヴァンも目を丸くしたものだったが、初めて繋がった時に感じた時の熱と心地良さが忘れられなくて、嵌ってしまった。
それからこの関係は続いている。
艶めかしい感触がヴァンを包み込んで、ゆっくりと滑って行く。
ぞくぞくとしたものがヴァンの背中を奔って、刺激を受けた其処が膨らんで行くのが判る。
真正直なヴァンの反応を見て、スコールの喉がくつりと笑うのが判った。
「スコール」
「……ん」
「もうちょっと強く」
「……ん」
ヴァンの言葉に、スコールは直ぐに応じた。
じゅ、と吸う音が聞こえて、ひくっとヴァンの肩が跳ねる。
ヴァンはベッドヘッドに寄り掛かる背中を直して、投げ出していた脚を胡坐にする。
動くヴァンをスコールは邪魔臭そうにしていたが、体勢が整えられると、自身も姿勢を変えた。
横合いからしゃぶっていた体を正面に移動させて、四つ這いになり、ヴァンの下腹部に顔を埋める。
西日が随分と遠く低くに傾いて、空の色が橙色から濃紺に広がって行く。
電気も点けない部屋の中は暗かったが、それでも真っ暗闇ではないから、ヴァンからスコールの顔は見えていた。
(あー……気持ち良い……)
綺麗な顔が自分のものを咥えているのを見下ろしながら、ヴァンはそんな事を思う。
じわじわと体の芯が熱を持って、それが染み出してくるのが判る。
それに逆らう理由もないので、ヴァンはスコールのするがままに任せた。
股間に埋められたスコールの髪を、ヴァンの指が掬うように辿る。
その指が項に触れると、ひく、とスコールが体を震わせるのが判った。
ヴァンスコの日!と言うことで。
友達以上で恋人でなくてセフレのようなそれよりも近いような。
スコールの方から持ち掛けるのを拒否しないヴァンが書きたかった。
ヴァンが全寮制の学園に入ったのは、昨年の冬のこと。
冬休みが終わり、そろそろ期末試験の話も出ようかと言う頃に、ヴァンは転入した。
随分と中途半端な時期に転入する事になったのは、その年の夏に兄が交通事故に遭い、半身不随の身になった事が理由として挙げられる。
両親のいないヴァンは、養護施設の職員と、生家のあった近所に住んでいる古物商を営む幼馴染の家族、そして兄に育てられた。
養護施設出身である事に苦を感じた事はなく、兄と幼馴染とその家族にもよく愛されて、人が憐れむような不幸を感じた事はない。
だが、唯一の肉親である兄が事故に遭ったと聞いた時には、流石にショックが隠せなかった。
全国ネットのテレビで報道される程、車両が連なる大事故であった中、兄が生きていたのは不幸中の幸いと言えただろう。
しかし、命が助かった事への代償のように、兄は半身不随となり、車椅子がなければ生活できない体になった。
神の存在を信じた事などなかったが、何処にぶつけて良いかも判らない感情の行先に、可惜にそれを恨みもした。
そんな事をした所で兄の体が治る訳でもなければ、日々の生活に余裕が出る筈もなく、寧ろ社会人として収入を得ていた兄がそれが適わなくなった事で、ヴァンの生活は困窮する事になる。
急いで自分のできる仕事を探し、入院費と生活費と学費を稼ぐ為、勉強も出来ない日々が始まる。
とにかく兄の事だけは守らなければ、今まで守ってくれたのだから、今度は自分が────とヴァンの気持ちはそれで一杯だ。
それが空回りしていた事は、後から考えれば否めない話であったが、若干15歳の少年が、突然の家族の不幸を目の当たりにした中で行動したものとなれば、彼は十分に頑張っていた。
頑張って頑張って、その姿が余りにも痛々しくて、一番辛い体になった筈の兄が、「もう良いんだよ」とヴァンを宥めていた程だ。
だが、若い身でも日々の流れに目が回り、肝心の学業など手も付けられず、入学したばかりの公立高校も辞めて、収入を得る事だけに集中しようかとも思った。
しかし、今時、15歳の子供を雇ってくれる場所など早々なく、しかしアルバイトだけでは兄の看護に回せる額もたかが知れている上、生活の為に使える額も微々たるもの。
増えるよりも減る数字の方が遥かに多い通帳を見て、空からお金が降ってくれば良いのに、と夢を馳せたのは一度や二度ではなかった。
そんなヴァンに、「この学校を頼ってみたら」と提案したのは幼馴染のパンネロだ。
役所の広報掲示板に置かれていたパンフレットを持ってきた彼女は、誰よりも何よりも、ヴァンとその兄の事を心配してくれていた。
彼女が見せたパンフレットには、エスカレーター式の全寮制学園の案内が綴られ、その学校が元々は養護施設からの創まりである事が書かれていた。
今でもその名残は残されており、ヴァンのように両親のない子供や、劣悪な家庭環境から保護された子供がシェルターとして利用しながら、併設された学校へと通うことが出来るように整えられていた。
ヴァンがその学園に連絡を試してみたのは、自分を援ける為ではない。
学園は少年少女の生活兼学習の場として用いられながら、其処を卒業した生徒の就労支援や、生活支援も行っていた。
福祉関係にもきちんと目が配られているようで、それなら車椅子生活を余儀なくされた兄でも、少しは楽に過ごせるのではないかと思ったのだ。
結果としてそれは願い叶うこととなり、兄は事務職員としてその学園に迎えられる事になった。
そして同時に、お兄さんのことが心配でしょう、貴方もいらっしゃい、と学園長である男性から促され、でも学費が───とヴァンは言ったが、学園長は笑みを浮かべて首を横に振った。
若い内の学びと言うものは、後々に様々な形で影響を及ぼし、貴方の大切な財産となります、それを已むを得ない事情とは言え、奪われる事はあってはいけない────学園長であるシド・クレイマーはそう言った。
また、そう言った子供達の為に、この学園は創られたのだと彼は言った。
どうしてもお金の事が気になるのなら、ヴァンも交えて事務雇用する事になる兄とも話し、給料から学費分を引くと言うことも可能であると。
転入に際し、普通ならある筈の入学金や転入試験の為の受験料は、丸ごと免除された。
テストも形だけみたいなものですけどねえ、と学園長は冗談めかしていたが、流石にそれを本気には出来ず、ヴァンなりに試験当日まで勉強を頑張った。
アルバイトに忙殺される中での勉強は大変ではあったが、此処を乗り越えれば兄を少しでも楽にさせる事が出来る、と思って踏ん張った。
その甲斐あって、編入の合格ラインのギリギリはクリアして、ヴァンは無事に、兄と共に転入を果たす事となる。
転入後、ヴァンは学園の生徒達が過ごす寮に入った。
兄は学園内にある職員用の寮へと入る事になり、兄弟は初めて離れ離れで生活する事になる。
心配もあってヴァンは兄と一緒に過ごす事を願っていたが、兄の方から「距離が近過ぎると、ヴァンに甘えてしまいそうだから」と言われてしまった。
確かに、兄の傍にいれば、ヴァンは他の何を置いても兄を優先するだろう。
それによって兄が日々助けられていた事も事実だが、同時に、彼は弟の自由を束縛し続ける事に罪悪感も抱いていた。
今まではそれを仕方がないと受け止めていたけれど、この学園は兄が一人で行動できるよう、可能な限りの福祉が整えられており、兄の同僚となった他の職員たちも、その意識が強い。
だから、ヴァンはヴァンの今しかない時間を過ごして欲しい、と、事故に遭ってから何よりも兄を優先してきた弟を、彼はそっと手を離して背を押した。
それでもヴァンの一番の優先が兄である事には代わりはない。
時間があれば兄の顔を見に行き、時々食事を作りに行きと相変わらず世話を焼きつつも、ヴァンはヴァンなりに自分の時間と言うものをようやく探せるようになり始めていた。
学生寮は三人一部屋が原則であったが、人数の関係で炙れる者はいるものだ。
昨年の冬、転入したヴァンが入った部屋の先住人が、正にそれだった。
それも一人で三人分の部屋を広々と使えていたものだったから、ヴァンの転入と入寮に際し、随分と不機嫌な顔をしていたのをヴァンは覚えている。
広かったのが狭くなるんだからそりゃあ嫌だよなあ、とヴァンは思っていたが、後々考えると、あれは不機嫌と言うよりも不安だったのだろうと思う。
人とのコミュニケーションを円滑に行うことに積極的ではなかった同居人となるその人物は、平時から眉間に深い皺を寄せている。
その顔がいつも不機嫌で怒っているように見えるだけで、本当はもっと複雑で判り難い奴なのだと、ヴァンは一年生から二年生への春休みの頃に覚った。
その同室人がいたお陰で、二年生になってからのヴァンの成績は随分と矯正された。
元々ヴァンの学力と言うのは決して低くはなく、兄が事故に遭ってから、アルバイト詰めと精神的な余裕もない日々の中で低下した事が大きかったが、それによる遅れは多大なものがあった。
同室人は、一年生の期末試験で見事に大量の団子を取ったヴァンに呆れ、来年も担当する事になるであろうクラス担任から、「面倒を見てやって欲しい」と言われたそうな。
真面目なのか、渋顔をしてみせる割にお人好しなのか、彼はその言葉通りに、ヴァンの勉強の面倒を見た。
転入からの春休み早々に補習を食らったヴァンが寮に戻ると、同室人から個人授業が行われ、高校一年生の勉強を丸ごと復習した。
詰め込みも詰め込みだったので、知恵熱もあったし、そうなると流石にヴァンも勉強に嫌気が差してくる。
職員寮の兄の所に逃げ込んだ事もあったが、兄に諭された事と、同室人がヴァンの逃亡に怒るより、逃亡させる位に嫌な教え方をしていたのか、と落ち込んでいた事に気付いて、ヴァンは逃げるのを止めた。
時々兄に雑談交じりにちょっとした愚痴を零す事はあるが、部屋に戻ればちゃんと教えを請ける。
同室人はコミュニケーションは決して得意ではないが、それでもヴァンが判るよう、理解できるようにと必死に言葉と順番を選び、根気強く教えてくれた。
そのお陰で、春が半分を過ぎる頃には、ヴァンの成績は全体平均の同等まで押し上げられていた。
そう言った経緯もあって、今ではヴァンと同室人の関係は良好だ。
それはもう、とても。
その同室人は、成績優秀で真面目である事が知られているので、よく教員から手伝いを強請られる。
嫌なら断れば良いものを、断る為のエネルギーと理由を考えるのが面倒で引き受けてしまう為、余計にあれこれと手伝わされていた。
今日は特別しつこい教員に声をかけられており、それに眉間の皺を三割増しにしてついて行く姿が目撃されている。
帰って来た時に荒れてそうだなあ、とヴァンは他人事のように思いながら、ベッドヘッドに寄り掛かって、図書室から借りてきた本を読んでいた。
静かだった部屋に、カチャ、カチャン、と鍵を回す音が響く。
帰って来たのだと判ったが、ヴァンは本の世界に没頭していた。
やや荒めにドアの開閉音がした後で、隣のベッドに鞄が投げられるのを視界の端に見る。
(荒れてるなぁ)
概ねの予想通りではあった、とヴァンは特に驚く事もなく思う。
そんなヴァンの傍らで、ぎしり、とベッドのスプリングが軋んだ。
ベッド上で投げ出していたヴァンの足の上に、どす、と重い人の頭部が落ちてきた。
本の世界の住人でいるには、聊か無視が難しいそれの襲来に、ヴァンは顔を上げる。
其処には、濃茶色の柔らかい髪をヴァンの太腿に落とし、此方へ後頭部を向けている同室人────スコールが突っ伏していた。
「お帰り」
「……ん」
帰宅を迎える挨拶に、スコールの反応は簡素だ。
それでも声で反応してくれるようになった分、彼の中では破格の扱いであるとヴァンは知っている。
はあ、と言う溜息がヴァンの膝を擽る。
もぞもぞと身動ぎしたスコールは、制服のままの背中を丸めて、ヴァンの太腿を枕にした状態で縮こまって行く。
嫌な事あったんだろうなあ、とヴァンは思ったが、その委細を聞く事はしなかった。
スコールが自ら口を開かないのなら、ヴァンは自分が気になる以上の事は聞かない。
そして、スコールが言いたくなったら、それは聞いていても良いと、ヴァンはそう考えていた。
同室人に帰宅を確認したので、ヴァンはまた本に視線を落とした。
しかし、いつの間にか随分と暗くなっていた部屋に、このまま読書を続けるのは難しいとようやく気付いた。
電気点けなきゃ、と一旦ベッドから降りることを考えたヴァンだったが、足に乗っていた重みが動く先を感じてまた顔をあげる。
「スコール」
「……」
其処にいる人物の名前を呼べば、深い海の底のような蒼灰色がヴァンを見上げる。
スコールは、ヴァンの下腹部にとりついていた。
同性なのだし、そうでなくともこの年齢で、其処に何があるのかを知らない者はいるまい。
スコールの手がその部分を摩るように撫でれば、ヴァンの腰がぴくりと震えた。
「するのか?」
「嫌か」
「どっちでも良いぞ」
ヴァンの淡泊と言えば淡泊な反応に、スコールは眉間の皺を深くした。
それが言いたい事が頭の中をぐるぐると巡っている時だとヴァンは知っているが、その中身も聞く事はない。
スコールがその顔をする時は、自分の中でも言葉がまとまっていなくて、しかし気持ちは後から後から溢れて止まらない時。
そんな時に突いてみても、結局スコールは貝になるだけだと、短いが期せずして深くなった付き合いで、ヴァンはよく知っていた。
スコールはヴァンの腰のベルトを緩めると、ジーンズのフロントジッパーを下ろした。
まだ幾らも反応していない中心部に顔を寄せて、高い鼻がスン、と鳴る。
そう言えば今日は体育があったなあ、とヴァンが今日の時間割を思い出している間に、スコールはヴァンの下着をずらし、中に納まっていたものを取り出した。
ちらり、と蒼の瞳がヴァンの顔を見た。
じっと見詰め返すヴァンが動かない事に、気乗りしていないと思ったか、
「あんたは本でも読んでれば良い」
そう言ってスコールは、ヴァンの象徴をぱっくりと咥え込んだ。
躊躇も遠慮もないそれに、やっぱり荒れてるなあ、とヴァンは思う。
きっと、今日の面倒事を片付けた後に、次の面倒事を頼まれたのだ。
断らないからそうなるんだと、スコールの幼馴染らしき先輩から言われていたのを見た事がある。
全くそうだとヴァンも思うが、スコールにとっては手伝うより断る労力の方が疲れるらしいので、きっとこの連鎖は続いて行くのだ。
────学園でも知られた優等生のスコールが、こんな事をしているなんて、一体誰が思うだろう。
お堅い委員長タイプと言う印象も相俟って、性的な事には一層厳しそうな顔をしているが、ヴァンが知るスコールはこう言うものだ。
元々は蓄積されたストレスを発散する為、頻繁に自慰に耽っていたそうだが、それは部屋を一人で占領していたから出来た事。
ヴァンが来てからはそう言う訳にもいかず、随分とストレスを溜めていたようだったが、二年生になって最初の中間試験を終えた頃に限界が来たらしい。
普段は理性的で慎重派な筈のスコールだが、プツンと来ると急にそれらをかなぐり捨てた行動に出る癖がある(幼馴染からの情報だ)ようで、追い出せるものでもないのだからいっそ巻き込んでしまえと思ったと言う。
お陰で始まりこそヴァンも目を丸くしたものだったが、初めて繋がった時に感じた時の熱と心地良さが忘れられなくて、嵌ってしまった。
それからこの関係は続いている。
艶めかしい感触がヴァンを包み込んで、ゆっくりと滑って行く。
ぞくぞくとしたものがヴァンの背中を奔って、刺激を受けた其処が膨らんで行くのが判る。
真正直なヴァンの反応を見て、スコールの喉がくつりと笑うのが判った。
「スコール」
「……ん」
「もうちょっと強く」
「……ん」
ヴァンの言葉に、スコールは直ぐに応じた。
じゅ、と吸う音が聞こえて、ひくっとヴァンの肩が跳ねる。
ヴァンはベッドヘッドに寄り掛かる背中を直して、投げ出していた脚を胡坐にする。
動くヴァンをスコールは邪魔臭そうにしていたが、体勢が整えられると、自身も姿勢を変えた。
横合いからしゃぶっていた体を正面に移動させて、四つ這いになり、ヴァンの下腹部に顔を埋める。
西日が随分と遠く低くに傾いて、空の色が橙色から濃紺に広がって行く。
電気も点けない部屋の中は暗かったが、それでも真っ暗闇ではないから、ヴァンからスコールの顔は見えていた。
(あー……気持ち良い……)
綺麗な顔が自分のものを咥えているのを見下ろしながら、ヴァンはそんな事を思う。
じわじわと体の芯が熱を持って、それが染み出してくるのが判る。
それに逆らう理由もないので、ヴァンはスコールのするがままに任せた。
股間に埋められたスコールの髪を、ヴァンの指が掬うように辿る。
その指が項に触れると、ひく、とスコールが体を震わせるのが判った。
ヴァンスコの日!と言うことで。
友達以上で恋人でなくてセフレのようなそれよりも近いような。
スコールの方から持ち掛けるのを拒否しないヴァンが書きたかった。