日々ネタ粒

日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

  • Home
  • Login

日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

エントリー

[8親子]今、此処にある幸せを抱いて

  • 2014/08/08 21:15
  • カテゴリー:FF


ごちん、と言う音の後、わあああん、と大きな声が響いて、レインは振り返った。
声の発信源を探せば、ローテーブルの足下で座り込み、わんわんと泣いている小さな息子がいる。


「うわっちゃ~。スコール、大丈夫か?」


テーブル傍のソファに座っていた夫が、泣きじゃくる息子スコールを抱き上げた。
スコールは額に大きな赤を作っており、ラグナが其処に触れると益々声を上げて泣く。
どうやら、原因はそれで間違いないらしい。

レインは持っていた包丁をまな板に置いて、息子と夫を振り返る。


「大丈夫?ぶつけたの?」
「うん、そう。テーブルの下に落ちた玩具を取ろうとして、ごーんって」


よしよし、痛かったなあ、とラグナがスコールの頭を撫でる。
ぐすん、ぐすん、と愚図りながら、スコールは父を見上げた。

ばたばたばた、と階段を下りてくる足音が響く。
転ばないと良いけど、と言うレインの胸中は杞憂で済み、ガチャバタン、と慌ただしくリビングのドアが開く。
現れたのは、今年で五歳になったエルオーネと、九歳になったレオンだ。


「スコールが泣いてる声が聞こえたけど。何かあった?」
「スコール、だいじょうぶ?」


二階でぬいぐるみ遊びに夢中になっていたのに、末弟の事となると、本当にこの兄妹は敏感だ。
二人は父の腕の中で泣きじゃくる弟を見付けると、一目散に駆け寄った。


「スコール、どうしたんだ?」
「おでこごちーんってしちゃったんだよ」
「スコール、いたいの?いたいのね。かわいそう」


父の説明に、エルオーネがスコールの頭を撫でて慰める。
スコールはまだ愚図りながら、潤んだ瞳で姉を見た。
引っ込みかけていた涙が、またじわぁ、と滲み出して、ぼろぼろと溢れ出す。


「……ふわぁあああん!」
「いたいの?よしよし。いたくない、いたくない」
「父さん、スコール、ぶつけただけ?他には?」
「ないよ。それより、其処の玩具、取ってやって」


ラグナが指差したのは、テーブルの下に転がった、ラッパの玩具だ。
レオンが身を屈めてテーブルの下に潜り込み、玩具を拾う。
そんな間にも、スコールは大きな声で泣きじゃくり、弟を慰めようと奮闘するエルオーネも、泣き止まない弟に釣られたように、泣き出す一歩手前の顔になる。

空気ポンプで音が鳴るラッパの玩具は、スコールの今一番のお気に入りだった。
レオンは、そのラッパの空気ポンプを押して、ぱふ、と音を出した。
泣いていたスコールの声がぴたっと止み、くるりと首が巡ってレオンを見る。

ぱふ、ともう一度音を鳴らせば、小さな手が伸びて来る。


「うー、あう」
「あ、泣き止んだ」
「スコール、いたい、ない?」
「あーう、あー。ふぁう」
「うん、コレな。落とさないように」


レオンはスコールの小さな手を取って、ラッパの玩具を握らせた。
自分や妹よりも、ずっと小さな手が玩具を握るのを確かめて、レオンは手を放す。
玩具は床に落ちる事なく、スコールの両手に収まり、空気ポンプが押されてぱふっと音を鳴らした。

ぱふっ、ぱふっ、とラッパが鳴る度、スコールが楽しそうに笑う。
それを見て、エルオーネも嬉しそうに笑い、レオンもほっと安堵した。
ラグナは、そんな三人の子供達の様子を、すっかり蕩けた貌で眺めている。


「うー、う。はぐ」
「あっ。スコール、それ食べちゃダメ!」
「食べ物じゃないんだぞ、スコール」
「んぐぅ」
「美味しくないだろ?ほら、離して」
「うーうー、うぅうううう…!」


ラッパの端を口に含んだスコールに、レオンとエルオーネが叱る。
ラグナが強引に口に含んだそれを取り出そうとすると、スコールはまた泣き出してしまった。
おろおろと戸惑う幼い兄と姉の姿に、レインはくすりと笑って、キッチンを離れた。

リビングにやって来た母に、レオンとエルオーネの目が輝く。


「母さん、スコールが」
「はいはい。こら、スコール、お口開ける」
「うぇあああああああ……」
「よいしょ。ラグナ、これ拭いておいて」
「はいよー」


スコールの唾液でべとべとになってしまったラッパを、ラグナがティッシュで綺麗に拭く。
レインは泣きじゃくるスコールを抱き上げて、ぽんぽんと背中を叩いてあやし始めた。

リビングの食卓テーブルの回りをぐるりと歩きながら、レインは腕に抱いた息子をあやす。
その後ろを、エルオーネが弟を見上げながらついて歩く。
妹が弟を見上げてばかりで歩くから、転んでしまうんじゃないかと心配した兄が、その後ろをついて歩く。
今はまだ家族四人分の椅子が並んだテーブルの回りを、妻と子供達がぐるぐると歩くのを、ラグナはソファに座って眺めていた。


「ふぁ、あー、あー…あーっ」
「よーしよし。あれは食べ物じゃないのよー」
「スコール、スコール。食べちゃダメなのよ」
「エル、足元見て。転ぶぞ」


エルは母の真似をして、スコールに玩具は食べ物じゃないんだと言い聞かせる。
そんな小さな姉も、ほんの三年前までは、スコールと同じように色んな物を口に入れて、小さな兄を大慌てさせていた。
そしてそんな小さな兄も、生まれたての頃は、なんでも口に入れて父親を大いに慌てさせていた。

腕に抱いた小さな息子が少しずつ泣き止んで、ぐすん、ひっく、としゃくり上げる声だけが聞こえて来る。
このまま眠ってしまうかな、と背中を撫でていると、ぱふっ、と言う音がリビングに響いた。
ぴくっ、と小さな体が反応して、音の発信源を探してきょろきょろと首を巡らせる。


「スコール~」


夫の声がして、スコールの視線が其方へ向かう。
ぱふっ、ぱふっ、とラッパの音が鳴った。


「あーう、あーう」
「はいはい、あっちね」


音のする方へ行きたがる息子に応じてやる。

振り返ったレインに夫の姿は見えず、彼は身体を縮めてソファの背凭れに身を隠していた。
レオンとエルオーネがぱたぱたと駆け足でソファに向かい、背凭れの裏側から乗り出して、其処に隠れている父を見付ける。


「父さん、何してるんだ?」
「なにしてるの?」
「わっ、しーっ、しーっ」


末息子を驚かせてやろうとしたのに、上の二人のお陰で台無しだ。
レインはくすくすと笑いながら、ソファの前へと回り込んだ。
妻と末息子とばっちり目があったラグナが、へらりと笑って、ラッパの玩具をぱふっと鳴らす。


「だぁう」
「うん、これ、スコールのな」
「もう食べちゃ駄目よ」


母から父へ、末息子を抱く腕が交代する。

キッチンへと戻るレインに代わって、ラグナはスコールを膝上に乗せた。
その両隣にレオンとエルオーネが座る。


「ほーら、ぱふぱふー」
「だう、あぅ、あうー」
「スコールは音の出るオモチャが好きだな」
「ああ、そうだな。レオンやエルと一緒だな~」
「わたし、オモチャ食べたりしないもん」
「あははは」
「どうして笑うの?」
「はは、なんでもない、なんでもない。そうだ、レオン、宿題は?」
「さっき終わった」
「エルは、明日の幼稚園の準備は?」
「終わった!」
「そっかそっか。よしよし」


ラグナはスコールを抱き締め、エルオーネの頭を抱き寄せて、レオンの額と自分の額を合わせる。
レインは鍋の具をおたまでくるくると掻き回しながら、夫と子供達の様子を見て、小さく笑う。

すっかり蕩けた夫と、恥ずかしそうな長男と。
嬉しそうな娘と、玩具に夢中になっている末息子。
子供の成長は大人が思っているよりずっと早くて、手を放す日が訪れるのもも、きっと自分が思っているよりずっとずっと早いのだ。
けれども、それは明日今直ぐにと言う事ではないから、その日まで、こんな日々を大切にしたい。



お母さん、お腹空いた。
催促する子供の声に、はいはいもう直ぐよと応えて、レインはコンロの火を止めた。





スコールくん1さい。エルオーネちゃん5さい。レオンくん9才。パパとママもいっしょ。
幸せ目指して書いてたのに、なんで私泣きそうなんだろうか。レインさーん!!!

音の出るオモチャに夢中だったのは、うちの姪っ子甥っ子です。死ぬほど可愛かった。
ちなみに甥っ子は1歳未満の時、オモチャよりもサッ○ロポ○トの袋の方が気に入っていた(手が当たるだけで音がするので)。
  • この記事のURL

[クラ&子スコ]親子タンデム

  • 2014/08/02 22:58
  • カテゴリー:FF
先日、大型バイクで親子タンデムしてるのを見かけました。
ほとんど直進の大きな道を往復していたようです。
小学生の女の子が制服で乗っていて、パパ(多分)の背中にぴったりくっついて掴まってるのが可愛かった……

と言う訳で、現パロで子スコをクラウドのバイクに乗せてみた。
23歳のクラウドお兄ちゃんと、小学生のスコールです。


[ある夏の日の風景 1]
[ある夏の日の風景 2]
[ある夏の日の風景 3]


気になるものしか見えてない子供って可愛い。
  • この記事のURL

通販の注文を受理しました

  • 2014/07/08 00:14
  • カテゴリー:お知らせ


2014年7月1日~7日間にご注文を頂きましたご注文を受理しました。
並びに、通販お問い合わせに関するメールの返信を行いました。
受理完了のメールを送信しましたが、届いていらっしゃらない方がおられましたら、拍手かkryuto*hotmail.co.jp(*を@に変換して下さい)にてご連絡をお願いします。

携帯電話からメールを送られる方は、迷惑メール防止を設定されていると、此方からの返信メールが拒否されてしまう可能性があります。
kryuto*hotmail.co.jpを受信可能に設定するよう、お願いします。

 

  • この記事のURL

[絆]明日への祈り

  • 2014/07/07 22:56
  • カテゴリー:FF


ただいまー、と幼馴染の声がした。

スコールが顔を上げて窓の外を見ると、橙色に染まったバラムの海が見える。
一日の陽が長くなるこの時期、空も海も全くの夕暮れ色になる時間となると、そこそこ遅い時間と言える。
しまった、夕飯、とスコールは今し方まで読んでいた本を閉じて溜息を吐いた。

鍵をかけていた玄関の扉が、しばしガチャガチャと格闘する音を続けた後、ガチャリと開かれる。
蜂蜜色の髪に夕暮れをひらひらと反射させて、ひょこっと顔を現したのは、部活帰りのティーダだった。


「ただいま、スコール!」
「ああ」
「晩飯は?」
「まだ。これから作る」


スコールの解答に、えー、とティーダが眉尻を下げる。
判り易く残念がる顔をしながら、空腹の腹を撫でて慰めるティーダを横目に、スコールは本をソファに投げて腰を上げる。

スコールがキッチンに入った後、数秒を置いてティーダもやって来る。
彼が持っていた鞄が手元にないので、適当に投げて来たようだ。


「なあ、晩飯、何?」
「スズキが安かった」
「マヨ焼き食いたいっス~」
「芥子は?」
「入れて!」


スコールはフライパンを用意し、少し熱してから油を入れる。
冷蔵庫から買ったばかりのスズキの切り身を取り出し、大きめの切り身が二つだけ入っているそれをフライパンに並べた。
火が通るのを待つ間に、スコールはもう一度冷蔵庫を開けて、マヨネーズとチューブの練り芥子、すり胡麻、キャベツを取り出す。

魚に絡める芥子マヨネーズを作っているスコールの横で、ティーダがそわそわとしている。
そんなに腹が減っているのか、とスコールは思ったが、ブリッツボールは水中格闘技とも呼び名わされるスポーツである。
普通に水泳をするだけでも相当カロリーを消費するのに、十分以上も潜水状態のまま、タックルしたりされたり、あちこちに飛び交うボールを追ったりすれば、昼に大量に詰め込んだ食事もカラッポになろうと言うものだろう。

待ち切れなくなって来たのか、ティーダは魚を引っ繰り返しているスコールに言った。


「なぁ、なんか手伝おうか?」
「……いい。それより、シャワー浴びて来たらどうだ」


汗臭い、とスコールが眉根を寄せて言うと、はーい、とティーダは素直にキッチンを出て行った。

夏休み中にスピラ大陸のルカで行われる、ブリッツボール学生大会に向けて、ティーダの部は強化トレーニングの真っ最中だ。
ブリッツボールの練習は、水の中で行われるものは勿論あるが、陸上でもランニングやパス練習が行われる。
ティーダはスピードはあるが、スタミナの燃費に不安要素があるので、徹底的に体力強化のメニューが執られているらしい。
メニューには泳ぎ込みもあるが、陸上での走り込みも取り入れられているようで、走り込みが主なメニューの時は、ティーダはよく汗だくになって帰って来る。
一応、バラムガーデンには生徒が自由に使えるシャワールームも設けられているのだが、女子程ではないにしろ、男子も毎日のように混雑している。
少なくともスコールは、余程汗だくになっている時か、訓練施設でグラッドの粘液を被った時でなければ、あそこは利用したくない。
ティーダも部活の後にはなるべく利用しようとするのだが、芋洗い宜しく大混雑している時は、大人しくUターンしていた。
ガーデンから家まではバスで二十分弱、タオルと制汗スプレーをフル活用して、自宅で悠々とバスタイムを満喫した方が、何倍も楽なのだから。

今日はスコールが湯船の用意をしていなかったから、ティーダはシャワーを浴びるだけだ。
それでも、決して広くはない───いや、設置されている施設自体は決して狭くはないのだが、如何せん利用人数が多い───ガーデンのシャワールームに比べれば、遥かに快適な一時だろう。
ティーダがそれを満喫している間に、スコールは魚を仕上げ、キャベツを切って更に盛り、昨日の残り物のコンソメスープを温めた。

炊けた米を盛り、夕飯を全て食卓に並べた所で、タイミング良くティーダがリビングに戻って来た。


「あー、さっぱりしたっス!」
「水」
「ありがと」


スコールが差し出したグラスを受け取って、ティーダは一気に煽る。
飲み干したティーダが「ぷはーっ!」と景気の良い声を上げるのを見て、ジェクトと同じだ、とスコールはこっそり双眸を細めて思った。


「さてと、飯飯っ……あ、そうだ」
「?」


テーブルに着こうとしたティーダは、はたっと思い出したようにもう一度席を立つ。
スコールがその動向を見守ると、彼はソファの足下に投げていた、自分の鞄に駆け寄った。

ティーダはごそごそとしばらく何かを探がした後、手に細長いものを持ってスコールに掲げて見せた。


「じゃーん!笹の葉!」


効果音付で見せるティーダは、わくわくと楽しそうな顔をしている。
が、スコールの方は、呆れたように目を細め、


「ゴミを持って帰るな」
「酷っ!ゴミじゃないっスよ!」


溜息込みで言ったスコールに、ティーダは直ぐに抗議した。

ほら、これ、これ、とティーダはスコールに笹の葉を突き出す。
存外と硬い葉先が、ちくちくと頬を刺すのが鬱陶しくて、スコールは手で払おうとした。
が、その前に、新緑色の葉の中で、目に映える黄色を見付けて手を止める。


「……それは……」
「そう、短冊っス。今日は七夕だからって、ママ先生から貰ったんだ」


ママ先生こと、イデア・クレイマー。
バラムガーデン学園長であるシド・クレイマーの妻であり、スコールにとっては母親代わり、またティーダにとっても同様の存在。
彼女から貰ったものだと聞けば、スコールももう“ゴミ”等とは言えない。

それを先に言え、と口の中で呟くスコールに、ティーダは笹とは逆の手に持っていたものを差し出す。


「ほい、こっちスコールの分な」


そう言ってスコールが受け取ったのは、長細い長方形に、小さな金粉を散りばめ、頭にサテンリボンを結んだ青い厚紙。
笹には黄色の同様の厚紙が吊るされており、癖のあるティーダの字が書かれていた。

ティーダは笹を窓辺に寝かせて、「いただきまーす!」と元気の良い声を上げ、夕飯に在り付いた。
ぱくぱくと景気よく皿の上を平らげて行くティーダの傍ら、スコールはしばしの間、短冊をじっと睨む。


「もうこんなの、信じるような歳でもないだろ……」


空の彼方で、一年に一度だけの逢瀬を許された恋人達。
その幸せに肖って、お星様にお願いすると、そのお願いが叶うのよ、と言った姉の言葉を、未だに無邪気に信じられる程、スコール達は既に幼くない。

今日何度目か、呆れたように呟いて、スコールは短冊を窓辺に置いた。
ティーダは口の中の魚をむぐむぐと噛んで飲み込んでから、


「そりゃそうだけど。良いじゃないっスか、願い事する位。叶う叶わないは別としてさ」
「………」
「それに、折角ママ先生がくれたんだし」


ティーダの言葉に、スコールの眉間に皺が寄せられる。
示しているのは不満ではなく、だからこそ余計に困るのだ、と言うもの。

自分の母の事を殆ど知らないスコールにとっては、育ての親たるイデアこそが母と言っても過言ではない。
スコールがレオンの独り立ちに伴い、エルオーネと共に彼女の直接的な手を離れてから十余年───未だに彼女は、スコールの事も、成人した兄姉の事も気にかけてくれていた。
そんな彼女から贈られたものは、例え笹一本とて無碍する気にはなれない(笹を見ての最初の一言はなかった事にして)。

しかしスコールは、育ての母が渡してくれた短冊を、少々持て余していた。


「……………」


食事をしながら、ちら、とスコールの目が窓辺を見遣る。
ティーダの短冊をつけた笹と、スコールの為にと用意された、何も書かれていない青の短冊。

……何を、書けば良いのだろう。
それがとんと判らないから、スコールは渋い表情を浮かべてしまう。

そんな幼馴染の様子を、顔は見ずとも、付き合いの長い幼馴染は察していた。


「なんでも良いんスよ」


コンソメスープをスプーンで掬いながら、ティーダは言った。
軽い一言に、スコールの眉間の皺が更に深くなる。


「……そう言うのが一番困る」
「難しく考えるからだろ」
「………」
「別に何願っちゃいけないって言う訳じゃないし。誰かに見られる事もないし。あ、俺は見るけど」
「おい」
「いーじゃないっスか、スコールが何お願いするのか気になるし!」


じろりと睨んでやっても、ティーダは全く堪えない。
幼い頃からずっと一緒に、スコールが泣き虫を卒業する過程も、した後も、彼はスコールと共に過ごしていたのだ。
スコールと言う人間をよく知っているからこそ、ティーダにスコールの睨みは通用しない。

ぱくぱくと夕飯を平らげて行くティーダに、スコールは睨むのを止めて、笹に目を向けた。
黄色の短冊は、其処に書かれたマジックペンの文字を浮き上がらせる。
其処には『親父が急性アルコールで倒れませんように』と、書きなぐったような走り書きがあった。
半ばヤケを思わせる字だが、其処にティーダがいつも口にしている父への文句や対抗心がない理由を、スコールはなんとなく察していた。
負けたくないとか勝ちたいとかは、実力で頑張るから、願い事にはしたくない───そんな所だろう。
字の汚さは、きっとそんな願い事を書いている自分が恥ずかしくて堪らなくなったのだ。
突っ込んでやれば、願い事にした理由について、「勝つまでに倒れられたり引退なんかされると困るから」と言うのだろうが、裏を返せば、それまでずっと元気でいて欲しい、と言う素直になれない気持ちの表れにも見える。
全く以て、素直になれない親子だ。

ティーダが最後の魚を口の中に入れた。
スコールはドレッシングをかけたキャベツを齧りながら、まだ眉間に皺を刻んでいる。
もごもごと顎を動かしたティーダが、ごくん、と喉を鳴らしてから、言った。


「じゃあ、ほら。レオンが怪我しませんようにとか、エル姉が元気でいますようにとか。それで良いんじゃないっスか?」


その願いの半分は、どうしたって叶えられない事を、スコールは否応なく知っていた。
常に危険に身を置く事を仕事にしているような兄に、怪我をしないでくれと言うのは、無理な話だ。
トラビアガーデンに留学中の姉は、余程の事でなければ大怪我をする事はないだろうが、時に体調を崩す事もあるだろう。
それはティーダも判っている────だが、判っているからこそ、“願い事”なのだ。
大切だから、大好きだから、怪我はして欲しくないし、無茶も無謀もして欲しくないと、“願う”のだ。

スコールは溜息を一つ吐いて、空になった皿を重ねた。
それをキッチンの流し台に運ぶ前に、窓辺の短冊を取って、テーブルの隅に置いてあるメモ用紙のペンを取る。



短冊に書かれた文字を見て、年寄り臭い、と言う幼馴染の頬を、スコールは無言で抓った。

─────其処に書かれたものが、嘗て兄が書いていたものと同じだと、彼等は知らない。





知らず知らず、引き継がれて行く願い。
だって大切な人達だもの。

「嘗て」については此方→[未来への祈り]
  • この記事のURL

[ティナスコ]リーディング・ライフ

  • 2014/06/30 21:54
  • カテゴリー:FF
6月8日にティナスコ書けなかったので、滑り込みリベンジ!





図書館でレポートに必要な資料を探していたら、高い本棚の一番上に置かれていた。
ティナはきょろきょろと辺りを見回し、踏台になるものを探したが、見当たらない。
少し歩き回れば踏台は見付かるだろうが、この図書館に置いてある踏台は、婦女子が持って移動させるには易しくない、重い木製のものになっている。
古い図書館だから無理もないのかも知れないが、小さな子供が使う事もあるのだから、最近よく見るプラスチックの軽いものも備えて置いてくれても良いのに、と思う事もしばしばだ。

ティナは結局、踏台を探す事を諦めて、背伸びをする事にした。
目線の高さの棚に指を引っ掛け、精一杯足元の爪先を伸ばし、上に伸ばした右手も爪先までピンと張る。
そうすると、辛うじて一番上の棚に指先が届いたのだが、目当ての本を取るには足りない。

ティナはしばしの間、うんしょ、よいしょ、と小さな声で自分を奮い立たせながら、目当ての本に向かって手を伸ばしていた。
しかし、そうまで頑張っても、本は相変わらず棚の一番上に鎮座したまま、動かない。
やっぱり踏台を探して来よう、と諦めて手を引っ込めた────その時だった。

すっ、とティナの隣に影が落ちて、長い手が本棚の上に伸びた。
その手は、ティナが頑張っても頑張っても届かなかった本に届き、ひょい、と取り上げる。
ティナはその様子をぽかんとして見上げていたのだが、


「……これで良いのか」


低く耳に心地の良い声と共に、欲しかった本が差し出される。
ぱちり、と瞬き一つをして顔を上げると、同じ学校に通っている後輩が立っていた。

ダークチョコレートのような濃茶色の髪、深く澄んだ蒼灰色の瞳。
ティナが書記として所属している生徒会で、次の生徒会長にと推されている、スコール・レオンハートだった。


「…あ…ありが、とう」
「………」


ややどぎまぎとしながら謝意を述べて本を受け取ると、スコールは何も言わず、くるりと踵を返した。
長い脚の広い歩幅でティナから離れた彼は、二列向こうの本棚で足を止め、分厚い本を取り出している。

ティナは確保していた席に戻ると、本を開いた。
必要な記述をノートに書き出していると、ティナから二席空けた所の椅子が引かれる。
何となく其方を伺ったティナは、思わず「あ」と言いそうになって、慌てて手で口を塞いだ。

席に座ったのはスコールで、彼は分厚い本を三冊と辞書をテーブルに置いた。
其処にシンプルな鞄から取り出したノートを広げ、本と辞書を交互に見ながら、黙々と筆記作業に没頭する。
その横顔は、硬い表情と優等生然とした冷たい雰囲気が漂い、近付き難さを感じさせる。
ティナが学校で彼を見かける時も似たようなもので、年下なのに遥かに大人びた佇まいをしている彼に、ティナはひっそりと苦手意識を持っていた。

しかし、今のティナには、その苦手意識は働いていない。
彼女の脳裏には、つい先程、手元の本を取ってくれた彼の顔が浮かんでいた。


(……お話したの、初めて、よね)


会話と言う程の遣り取りはなかった。
だが、今までは生徒会室で顔を合わせても、事務的な挨拶位しか交わしていない。
会議の他、「お先に失礼します」「また来週」等と言った言葉以外で、彼の言葉を聞いたのは、きっとこれが初めてだ。

なんだか妙に胸の奥がとくとくと逸っている気がして、ティナはいけない、と小さく頭を振った。
今はレポートの為に必要な資料を揃えて、明々後日の提出に備えなければいけないのだ。
慌てて本とノートに視線を戻すティナの隣では、相変わらずスコールが黙々とノートを取り続けている。
あの集中力を見習って、自分もやるべき事を済ませなければ、先輩として示しがつかない。
……そんな事を思う程、彼と接点がある訳ではないのだが、自分を奮い立たせる為にも、ティナは自分自身に言い聞かせ続けた。

本の内容を書き出した後、次の本を探して、またノートに書き抜いて行く。
そんな作業を一時間、二時間と続けながら、時折、勉強とは関係のない本を探して息抜きをする。
そうして新しい本を探す合間に、ティナの視線はつい、と近い席に座る彼を探した。
彼は分厚い本をとっかえひっかえ開き、辞書と見比べる作業を繰り返し、数時間に渡って一度も───ティナが偶々見ていなかっただけかも知れないが───席を立たずに作業に集中していた。

昼食後に図書館に入ってから、六時間と言う短くはない時間、ティナは資料集めに精を出した。
其処まで粘ればもう良いだろう、とティナはノートを閉じて、椅子に座ったまま背筋を伸ばす。
うーん、と小さく唸るティナの傍らで、彼女と同じく勉強時間を終えたのだろうスコールが、テーブルに広げていた本を棚に戻すべく席を立つ。
ティナも背筋の塊が多少解れたのを確かめて、持ち出していた本を持って立ち上がった。

資料に使った本を元の棚に戻した後、ティナは一般書のコーナーに向かい、休憩中に読んでいた本を探した。
続きが気になる所で読むのを止めたので、借りて帰ろうと思ったのだ。
ハードカバーに文字のみと言うシンプルな背表紙を見付け、あった、と手を伸ばし、


「あっ」
「……」


ティナの指が触れるよりも早く、自分のものではない指が、背表紙を捉える。
それを見て思わず声を上げたティナを、蒼灰色の瞳が振り返った────スコールだ。

スコールは自分を見詰めるティナを見て、動かなくなった。
数秒の間を置いてから、スコールはティナの視線が自分の手元に向かっている事に気付く。


「………」
「あ、あの…えっと……」


本とティナを交互に見るスコール。
ティナは、そんなスコールを見て、自分が声を上げた所為で彼を困らせている、と思った。
どうしよう、困らせた、とティナがおろおろと視線を彷徨わせていると、スコールは手にしていた本を取り出して、ティナの前に差し出した。


「あ……え…?」
「……違ったのか?」
「えっ」


見ていたのはこれじゃないのか、と問うスコールに、ティナは慌てて首を横に振る。
するとスコールは、無言で本を差し出したまま動かなくなった。
スコールの言わんとする所が判らず、ティナがまたおろおろと視線を彷徨わせていると、


「…読みたいんだろ。あんたが持って行けば良い」
「え……で、でも、」
「俺は、もう何回も読んだから。借りるのは、また今度で良い」


そう言って、スコールは本を差し出し続けている。

ティナは、おずおずと両手で本を受け取った。
スコールは空になった手を下ろし、くるりと踵を返して、広い歩幅で本棚の向こうへ消えてしまう。
良かったのかな、と思いつつ、好意を無碍にする訳にも行かないだろうと、ティナは受付に向かって貸出手続きを済ませた。

玄関口まで来ると、じっとりとした湿気が肌にまとわりつくのが判った。
ガラス扉の外を見ると、しとしとと雨が降っている。
ティナは玄関を出ると、鞄の中に入れっぱなしにしていた折り畳み傘を取り出して、広げようとした────其処で、玄関横の柱横に立ち尽くしている少年を見付ける。


「……スコール?」


ティナが恐る恐る声をかけると、思った通り、蒼が振り返る。

スコールは自分を見上げるティナを見て、一瞬驚いたように目を瞠った後、溜息を吐いて雨が降りしきる軒外を見た。
土砂降りと言う程でもないが、雨粒はそこそこ大きいようで、無視して走って行くのは厳しそうだ。


「……失敗だ」


どうやら、傘を持っていないらしい。
無理もあるまい、天気予報では今日は雨が降るなんて言わなかったし、昼も快晴だった。
図書館は大きな窓を設けているが、二人が座っていたのは図書館の中央に集められた読書スペースだったから、外の天候の変化に気付けなかったのだ。

空は一面の曇天で、雨はしばらく止みそうにない。
時刻が六時を過ぎている事もあり、季節柄、日が長い方であるとは言え、陽光が遮られれば暗くなるのも早い。
雨が止むのを待っていたら───そもそも止む見込みがあるのか───、夜になってしまうかも知れない。


「……遅くなると煩いんだよな……」


スコールの小さな呟きに、ティナはことんと首を傾げた後、そう言えば、と思い出す。
生徒会の会議の前後だったか、誰かが「スコールの父親は心配性」だと言っていた。
何やら、色々な事情があって、幼い頃に碌に一緒に過ごす事が出来なかった反動で、十七歳になった息子を今も溺愛しているらしい。
スコールはそんな父親に辟易しているようだが、幼少の頃の事は仕方がないと半ば諦めている事、父なりに責任を感じての今の過保護振りも仕方がないと思っているのか、出来るだけ父に心配をかけないように気を配っているようだった。
今日も恐らく、帰宅時間を約束して、家を出て来たのだろう。
それがこの雨に見舞われて、濡れて帰るか、遅くなるのを覚悟で雨が止むのを待つか、迷っているようだ。

はた、とティナは自分の手に握られているものを思い出した。
ついでに、以前、クラスメイトのバッツから「此処がスコールの家なんだぜ」と教えて貰った住所を思い出す。
確か、此処からティナの住むアパートへの途中に、それはあった筈。


「あの……スコール。良かったら、一緒に帰らない?」
「……は?」


思いも寄らない申し出だったのだろう、ティナの言葉にスコールは目を丸くした。
ぽかんとした表情で見下ろす長身の後輩を見て、結構可愛い顔してる、とティナはこっそり思う。


「遅くなったら大変なんでしょう。私、小さいけど傘もあるし」
「……いや……」
「本、譲ってくれたお礼」
「あんなの、別に、」
「よい…しょっ」


ぽんっ、と爛漫の花が咲いて、ティナは腕を伸ばした。
長身のスコールを庇わなければならないので、いつものように傘を差すだけでは、スコールの頭に傘の骨が当たってしまう。

ティナは、可愛らしい傘を背にして此方を見下ろす少年を見上げた。
まだ呆気に取られているのか、スコールは蒼い瞳を丸くして、きょとんとした貌をしている。
図書館や、学校で見ていた、眉間の皺がないだけで、スコールが随分と幼い顔になる事を、ティナは初めて知った。


「遅くなったら、もっと雨が酷くなるかも知れないわ。行きましょう」


そう言って促すティナが歩き出すと、やや迷った素振りを見せた後、スコールも歩き出す。

図書館の玄関を離れ、石畳が敷かれた道を、数歩。
すい、と伸びて来た手が、傘を持つティナの手に重なり、


「……俺が持つ」


その申し出は、身長差だったり、自分が男でティナが女で、と言う理由もあるのだろう。
それでもティナは、ほんの一時、彼が自分と一緒に歩く事を許してくれたような気がして、嬉しかった。





多分、苦手意識はお互い様だった。
この日を切っ掛けに、お薦めの本とか話し合うようになったらいい。
  • この記事のURL

ページ移動

  • 前のページ
  • 次のページ

ユーティリティ

2025年12月

日 月 火 水 木 金 土
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
  • 前の月
  • 次の月

カテゴリー

検索

エントリー検索フォーム
キーワード

新着エントリー

[ヴァンスコ]インモラル・スモールワールド
2020/12/08 22:00
[シャンスコ]振替授業について
2020/11/08 22:00
[ジェクレオ]貴方と過ごす衣衣の
2020/10/09 21:00
[ティスコ]君と過ごす毎朝の
2020/10/08 21:00
[ジタスコ]朝の一時
2020/09/08 22:00

過去ログ

  • 2020年12月(1)
  • 2020年11月(1)
  • 2020年10月(2)
  • 2020年09月(1)
  • 2020年08月(18)
  • 2020年07月(2)
  • 2020年06月(3)
  • 2020年05月(1)
  • 2020年04月(1)
  • 2020年03月(1)
  • 2020年02月(2)
  • 2020年01月(1)
  • 2019年12月(1)
  • 2019年11月(1)
  • 2019年10月(3)
  • 2019年09月(1)
  • 2019年08月(23)
  • 2019年07月(1)
  • 2019年06月(2)
  • 2019年05月(1)
  • 2019年04月(1)
  • 2019年03月(1)
  • 2019年02月(2)
  • 2019年01月(1)
  • 2018年12月(1)
  • 2018年11月(2)
  • 2018年10月(3)
  • 2018年09月(1)
  • 2018年08月(24)
  • 2018年07月(1)
  • 2018年06月(3)
  • 2018年05月(1)
  • 2018年04月(1)
  • 2018年03月(1)
  • 2018年02月(6)
  • 2018年01月(3)
  • 2017年12月(5)
  • 2017年11月(1)
  • 2017年10月(4)
  • 2017年09月(2)
  • 2017年08月(18)
  • 2017年07月(5)
  • 2017年06月(1)
  • 2017年05月(1)
  • 2017年04月(1)
  • 2017年03月(5)
  • 2017年02月(2)
  • 2017年01月(2)
  • 2016年12月(2)
  • 2016年11月(1)
  • 2016年10月(4)
  • 2016年09月(1)
  • 2016年08月(12)
  • 2016年07月(12)
  • 2016年06月(1)
  • 2016年05月(2)
  • 2016年04月(1)
  • 2016年03月(3)
  • 2016年02月(14)
  • 2016年01月(2)
  • 2015年12月(4)
  • 2015年11月(1)
  • 2015年10月(3)
  • 2015年09月(1)
  • 2015年08月(7)
  • 2015年07月(3)
  • 2015年06月(1)
  • 2015年05月(3)
  • 2015年04月(2)
  • 2015年03月(2)
  • 2015年02月(2)
  • 2015年01月(2)
  • 2014年12月(6)
  • 2014年11月(1)
  • 2014年10月(3)
  • 2014年09月(3)
  • 2014年08月(16)
  • 2014年07月(2)
  • 2014年06月(3)
  • 2014年05月(1)
  • 2014年04月(3)
  • 2014年03月(9)
  • 2014年02月(9)
  • 2014年01月(4)
  • 2013年12月(7)
  • 2013年11月(3)
  • 2013年10月(9)
  • 2013年09月(1)
  • 2013年08月(11)
  • 2013年07月(6)
  • 2013年06月(8)
  • 2013年05月(1)
  • 2013年04月(1)
  • 2013年03月(7)
  • 2013年02月(12)
  • 2013年01月(10)
  • 2012年12月(10)
  • 2012年11月(3)
  • 2012年10月(13)
  • 2012年09月(10)
  • 2012年08月(8)
  • 2012年07月(7)
  • 2012年06月(9)
  • 2012年05月(28)
  • 2012年04月(27)
  • 2012年03月(13)
  • 2012年02月(21)
  • 2012年01月(23)
  • 2011年12月(20)

Feed

  • RSS1.0
  • RSS2.0
  • pagetop
  • 日々ネタ粒
  • login
  • Created by freo.
  • Template designed by wmks.