ピクシー2−1


 何度か川を渡り、妖精たちを倒し、レベルを上げ続ける。登場するのは、ピクシー、エルフ、そしてエルフィンだ。ピクシーははっきり言ってザコだが、エルフとエルフィンは要注意だ。エルフは素で強烈な攻撃力を誇っているし、エルフィンはそのうえ近づくだけで男を酔わせる花の香りがある。これまで、ピクシーを骨休めにしながら、どうにかこうにか高次の妖精さまを相手に勝ち抜いてきたのだった。

 レベルが上がったとは言っても、さすがに余裕でエルフやエルフィンの天にも登るオンナに耐性がついたわけではないが、いまやギリギリの戦いに陥る状況ではなくなった。ある程度ではあるが、勝つためのコツみたいなものの片鱗が見えてきた感じだ。

 森を抜けると目の前に広がったのは広い草原。左手に森が見える。さっき通ってきた森の一部だ。右奥に向かって草原が広がっている。やっぱり自然の風景は美しい。遠くに大きな川が見える。橋もかかっているようだ。はじめにこのステージにきたときにもうっすらと見えていた川だ。その奥、森を抜けたところには、小さな塔らしきものもある。自然の中だから近くに見えるが、塔の大きさははじめに見たときとさほど変わらない。つまりあそこまではまだまだ歩かなければならないということだ。

 開けた場所に出て、開放感に包まれるとともに目的地がまだ遠いことに気づかされ、ため息をつく。たしかにまだ一人バージョンだもんなぁ。どっちみちここでじっとしていても始まらないんだ。僕は先を急ぐべく草原を歩き始めた。

 草原に踏み込んでしばらく歩くと、上からかわいらしい歌声が聞こえてきた。「♪大きなソリを舐めてたら〜黄色い汁が飛んできたっ!…カンっ♪」微妙に歌詞が違うぞ。歌は分かるが。歌好きで空にいてコロコロかわいい声のヘンテコリン妖精といったら…僕は空を見上げる。すると僕の真上に三人のピクシーが飛び回っていた。

 ほっとした。ピクシーはこの妖精ステージには不釣合いなほど弱く、サクサク倒せるザコ中のザコ。いたずらな性格だけなんとかすれば簡単だ。もう何回もエンカウントして、あっさり倒せるようになっている。ピクシーなら安心だ。楽に倒せる。ただし、ピクシーを相手にするにあたって、ひとつだけ鉄則がある。妖精は怒らせないこと。何をしでかすか分からない。怒らせるととんでもない目に遭うからな。わざわざ機嫌を取る必要もないが、ヘタに挑発しない方がいい。油断して捨て身の攻撃を受け、負けてしまっては情けない。

 僕は相手が攻撃を仕掛けてくるまで無視して、警戒しながら先を急ぐことにした。「あっ、無視すんな〜!」「もーちょっと大きなリアクションとってよ!」「三人いるんだよ三人!」…そういえばそうだな。僕は再び足を止め、見上げた。さっきまでは一対一の戦いだった。ステージも中盤まで歩き、今ピクシーは三人いる。つまりいわゆる”三人バージョン”が始まったのだ。でもなあ…「ぶっちゃけ、おまえら三人よりエルフさん一人のほうが格段に強い気が…」「あっ、侮辱したなっ!」「よく見ろ!私たちはただのピクシーじゃないぞ!」「何を隠そう!わたしたちは…って、待たんかい!話の途中じゃー!」僕はため息をついて歩き出した。いまさらピクシーなんて相手になんねーよ。

 …でも待てよ?『ただのピクシーじゃない』って言ってたな。僕はまた見上げた。ピクシーたちは僕が手を伸ばしても届かない、それでいてその顔まではっきり見える高さでついてきていた。「…ただのピクシーじゃないって?」「そう!私たちは修行を積んだピクシー、ハイピクシーよ!」「格が違うのよ!格が!」「格ねえ…」どうみても普通にピクシーだ。違いといったらせいぜいその服が透明な点くらいか。僕はまた歩き出した。「だからー!リアクション薄いってばぁ!」「逃げる気かー!!」ハイピクシーたちは頭上でぶんぶん飛び回っている。うるさいなぁ。

 仕方がないので僕はまた足を止めた。「…戦う気ならここまで降りてこいよ。とどかねーよ。」「何を言う。このハイピクシー様に指図すんな。」「お前のほうがこっちまで飛んでこい。」「れっつ空中戦!」「飛べるかっ!」「大丈夫!なせばなるっ!昔々はキャベツだって空を飛べたんだから!」「…またずいぶん古いネタを持ち出してきたなぁ。今の若い人は絶対分かんねーだろ。」

 …でも、彼女たちのいうことにも一理ある。ここは異世界。思念が現実化する。魔法も使えるし、欲しい物を無から取り出すこともできる。もしかしたら舞空術も使えるかもしれないな。ガンガン飛べれば、こんなだだっ広いステージも高速で移動できるし。案外便利かもしれない。

 とにかく、いまの状況をなんとかしなければ。このまま頭上でぶんぶんうるさく飛び回られ続けるのも厄介だ。僕は戦闘態勢に入る。頭上の敵をどう料理するかが問題だな。ピクシーがハイになったからといってなにが変わるか、見てくれだけじゃ分からない。もしかしたらものすごい奥の手を持っている可能性だってある。戦闘時にはいつでも警戒を怠らない、というのがSBRPGの基本だ。そもそもだいぶ進んでからのピクシーご登場というわけで、やはりある程度強いのかもしれない。いずれにしても気を抜くべきではないな。

−選択肢−
ピクシー2−2 れっつ空中戦♪
ピクシー2−3 百烈愛撫で応戦
ピクシー2−4 綿棒片手に待ち構える
ピクシー2−5 相手が降りてくるまで先を急ぐ


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